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「サラブレッドと暮しています」

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競馬の漫画といえば「パッパカパー」が真っ先に思い浮かび、それから「優駿の門」、「みどりのマキバオー」、「風のシルフィード」あたりで止まっているように、ここ最近はこれといった競馬マンガに出会えていない。そんな私が久しぶりに心を動かされたのが、園田競馬場の厩務員が描いた「サラブレッドと暮しています」である。1巻完結ということもあり、ストーリー性においては前述の漫画たちと比べようもないが、競走馬に対する愛情や理解という点においては、さすがに群を抜いている。厩務員から見た競馬の世界が実に見事に表現されていて、(マンガをそうすることはほとんどない)私が2度も読んでしまった。そして2度泣かされた。

著者である田村正一氏がこれまでに担当した、個性的な馬たちが続々と登場する。ひきこもりの馬、牡馬にモテモテの栗毛牝馬、走る気をまったく失くしてしまった馬など、サラブレッドといえどもこれほどまでに性格や気性が違うものかと驚かされる。その中でも最も多くの回に登場するのは、著者が園田競馬場にやってきて、初めて担当することになった9歳馬サイレントウイナーである。2歳から100戦以上を走り続け、複勝率が40%を超える、衰え知らずの堅実派。しかし実は気性が荒く、油断するとすぐに悪さをする、扱いの難しい馬でもある。噛まれたり、振り落されたり、怪我をさせられながらも献身的に尽くす厩務員は、人間の母親のそれに似ている。

衝撃のラストシーンには胸が詰まる。サイレントウイナーが競走中に故障を発生し、安楽死処分になってしまったのだ。突然の別れに戸惑いながらも、こんなことがあっても涙を見せないと決めていた著者だが、サイレントウイナーのいない馬房に戻ってきた瞬間に崩れ落ちる。そこには共に過ごした家族との日々があった。ネタバレになるから書かないでおこうかと思ったが、このマンガの大事なところはそこではない。担当馬の死に遭遇した著者は、それ以降、果たしてサイレントウイナーは「幸せだったのか?」と自問自答することになる。人間の都合で管理され、休むことなく走り続け、たった1度のアクシデントで命を落とした彼が幸せであったはずがないと。

競走馬と人間との別れは、あらゆる形で突然にやってくる。たとえばジェンティルドンナのように有終の美を飾り、名牝として華々しく私たちのもとを去ってゆく馬もいれば、プチコのようにゲート試験でこれ以上苦しめるのは可哀想と、繁殖牝馬としての期待を背に牧場に帰る馬もいる。そうではなく、シングウィズジョイのようにレース中に不慮の死を遂げる馬もいる。どのような別れであっても、私たちは「幸せだったのか?」と問うだろう。そこに答えはないかもしれない。しかし私は、このマンガのラストで調教師が著者に対してかけた言葉こそが答えになるのではないかと考える。その答えをひとりでも多くの競馬ファンに知ってもらいたい。

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Comments

治郎丸さん

しばらくコメントを書き込んでない間にダイコウサクという馬がデビューして喜んでます。
さて、この本を早速購入しました。
まだ前半の一部しか読んでませんが、とても面白いですね。続きを読むのが楽しみです。
例えば(先週号のGallopとも重なりますが)精神的に燃え尽きた馬の話、僕は一口馬主で経験しました。その愛馬はデビューから4戦目の2歳オープンで後のダービー馬に先着して勝ちましたが、その後は降級しても馬券の対象になることすらなく引退してしまいました。その時は厩務員さんの苦労などは全く想像してなかったです。確かに担当馬の成績は生活に直結もしますね!この本で再認識しました。
ついでに少し一口愛馬の話をすると、そのお馬さんが一口愛馬の2頭目で、前年に初めて持った一口愛馬は新馬勝ちしていたので、一時は一口馬主は何と簡単なんだと勘違いしました。しかし、その翌年から4頭連続で未勝利引退したことで、簡単ではないことを痛感したのですが、自分が選んだ1頭のサラブレッドの成長を見守る楽しさに現在も一口馬主ライフを継続中です。治郎丸さんにも同じく一口馬主を長く続けて欲しいです。
最後になりましたが、そろそろROUNDERSのvol.5も読みたいです。お忙しいとは思いますが、期待して待っています。

Posted by: ダイコウサク | January 23, 2017 at 04:23 PM

ダイコウサクさん

おはようございます。

ダイコウサクという馬がいるのですえ。

デビュー戦は残念な結果でしたが、なかなかの血統なので頑張ってもらいたいですね。

ほとんどの馬は肉体的に衰えてではなく、精神的に燃え尽きて走らなくなってしまうと言います。

極限で争うアスリートにとって、それだけ気持ちの面は大きいのだと思います。

一口ライフは最初に持った馬で印象が決まりますね。私はビギナーズラックはある方なのですが、今のところ期待どおりではありません(笑)

「ROUNDERS」vol.5は鋭意制作中と言いたいところですが、まったりと構想を練っていますので、しばらくお待ちください。でもハッパかけてくださって嬉しいです。

Posted by: 治郎丸敬之 | January 24, 2017 at 10:03 AM

仕事の合間の移動中に少しずつ読み、最後の数章を一気に読み終えたところです。駅のベンチに座って泣きました。
今週はシングウィズジョイの事故でけっこう気落ちしていました。こんな時は、これまで一口出資した5頭で1勝もできていないことなど改めて考えてしまったりします。すでに2頭は引退済み。乗馬になったというのは会員を思いやる嘘なのだろう。こういうことに関わっているのはどうなのだろうなどなど。
そういう逡巡をしている中で、今回の良書を紹介していただきました。ありがとうございます。これからもすべての疑問が解決することはないかもしれませんが、何かの縁で関わった馬や関係者の方々を引き続き応援していければと思います。ちょうど、出資馬の一頭クレッシェンドラヴが今週土曜日の東京芝2400に出走確定となりました。また今週末から応援出直しします。

Posted by: Masaki Yoshio | January 25, 2017 at 03:39 PM

次郎丸さん
こんばんは。
なかなか読みごたえがありそうな本なので 見つけたら買ってみようと思います。

人がいて 馬がいて そしてまた人がいる。

メイショウの松本オーナーの言葉が浮かびました。

ジェンティルドンナが有終の美を飾った日、私は1頭のサラブレッドを思い出しました。
天才少女とよばれたジョワドヴィーヴルです。
ジェンティルドンナのライバルといえばヴィルシーナでしたが、私の中ではジョワドヴィーヴルでした。
華やかなジェンティルドンナの影に 走ることも、母になることも 絶たれてしまったジョワドヴィーヴルを感じました。
彼女は生きる喜びを私たちに その走りで教えてくれました。
忘れられない馬の1頭です。

Posted by: 通りすがりの皇帝ペンギン | January 25, 2017 at 10:23 PM

Masaki Yoshioさん

読んでくださって、ありがとうございます。

競馬というスポーツ自体を否定しても仕方ありませんので、この調教師の言葉は私にとってもしっくりと来るものでした。

そういう風に考えると楽になるということではなく、本当にそうなのだと思います。

それは実は馬だけではなく、私たち人間の関わりもそうなのですよね。

クレッシェンドラヴの好走を願っています。二ノ宮調教師に預かってもらえているなんて、幸せな馬ですね。

Posted by: 治郎丸敬之 | January 25, 2017 at 11:52 PM

通りすがりの皇帝ペンギンさん

このマンガは読んだ方がいいですよ。

競馬という題材を通して、割り切れなさに私たちはどう向き合うべきか、生と死に対してどう考えるべきかを考えさせてくれます。

ジョワドヴィーヴルは本当に残念なことをしましたよね。鹿のような走りをする可愛らしい馬でした。

Posted by: 治郎丸敬之 | January 25, 2017 at 11:54 PM

次郎丸さん
さっそくAmazonで注文しましたが届くのが2月8日から28日の間らしいです。
本屋行ったほうが早かったかもしれません(>_<)
最近ですが 人生は矛盾だらけど思うようになりました。
自分の理想とするものがありながら、それとは全く反対のことを強く願ってしまうことがあります。
生きることが難しいように、競馬も難しいです。
思い通りにならないから面白いのかもしれませんね。

Posted by: 通りすがりの皇帝ペンギン | January 26, 2017 at 01:20 PM

あっという間にAmazon品切れですね。次郎丸さん推薦の効果なのでしょう。
馬仲間のうちKindleを使える方には、Kindleでの購入を勧めました。
鉄は熱いうちに打てという気がしたので。

Posted by: Masaki Yoshio | January 26, 2017 at 01:40 PM

通りすがりの皇帝ペンギンさん

おはようございます。

このマンガは本屋さんに並んでいるのですかねえ。

僕もアマゾンで購入しました。

たしかに人生は矛盾だらけですよね。

全てが一致していればこれほど簡単なことはありませんが、ときとして私たちは流されたり、複雑な選択を間違えたりします。

競馬ほど難しくはないかもしれませんが(笑)、人生もアンコントローラブルな要素をたくさん含んでいますね。

Posted by: 治郎丸敬之 | January 27, 2017 at 09:46 AM

Masaki Yoshioさん

そんなことはないでしょう(笑)

とても良いマンガだから売れて当然だと思いますし、競馬ファンには読んでもらいたいです。

私もマンガであればキンドルで読むのも良いと思っています。まだ文章をキンドルで読むのは慣れませんが。古い人間なのでしょうか。

ぜひ鉄は熱いうちに打ってください。

Posted by: 治郎丸敬之 | January 27, 2017 at 09:48 AM

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