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最高にキラキラしていたい

Jiromaru

サイコーキララという名前を聞くと、そのキラキラネームな響きとは裏腹に、人生の難しさを思わざるを得ません。誰だって最高にキラキラして生きていきたいと思ってはいても、運命はときに残酷では儚いものです。

サイコーキララが最も輝いていたのが報知杯4歳牝馬特別、つまり現在のフィリーズレビューの前身のレースでした。デビューから3連勝を飾り、そのうちの2戦はのちの桜花賞馬チアズグレイスを退けてのものであり、極めて高い素質を示していました。まるでダイヤの原石のようなサイコーキララは、報知杯4歳牝馬特別(現フィリーズレビュー)でも圧倒的な1番人気に推され、のちのオークス馬となるシルクプリマドンナに影も踏ませずに楽勝したのでした。この時、サイコーキララは浜田光正調教師の管理馬であり、鞍上には当時23歳になったばかりの石山繁騎手がいました。

桜花賞に向かうにあたって、2年前の牝馬クラシック戦線を走ったファレノプシスと石山繁騎手、浜田調教師のことを重ねない競馬ファンはいなかったと思います。同厩(浜田光正厩舎)の先輩であったファレノプシスは、石山繁騎手を背にデビューから3連勝、チューリップ賞に臨んだものの人気を裏切って4着に敗れてしまいました。その結果を受け、石山繁騎手から武豊騎手への乗り替わりが行われ、本番の桜花賞では武豊騎手を背に見事に勝利を遂げたのでした。

石山繁騎手にとっても、所属騎手を手塩にかけて育てたい守りたい気持ちのある浜田調教師にとっても、サイコーキララで臨む桜花賞は負けられない戦いであったと言っても過言ではありません。たとえ他の幾千のレースを敗れたとしても、今回の桜花賞だけは絶対に勝利を果たさなければならなかったはずです。

幸いなことに、サイコーキララはその想いに応えられるだけの馬でした。テン良し、中良し、終い良しと3拍子揃った隙のない競馬ができる馬で、マイル戦の桜花賞までは負ける姿が想像できませんでした。黒光りする馬体も完成度が高く、前駆にも後躯にもしっかりと実が入り、全身に牝馬らしい柔らかみをもった筋肉が豊富について、いかにもスピードがありそうな好馬体。額を真っすぐに流れる流星は凛とした表情をつくり、サイコーキララの賢さを物語っていました。

☆サイコーキララの馬体はこちら

ところが、競馬の神様は試練を与えたがります。サイコーキララが引いたのは13番という外枠でした。当時、阪神競馬場のおむすび型のコースで行われていた桜花賞は、魔の桜花賞とも言われ、道中のちょっとした挙動がレースの結果を大きく左右してしまう難しいレースでした。石山繁騎手も浜田調教師も、枠順が決まった時点で、少しだけ嫌な予感がしたかもしれません。

サイコーキララと石山繁騎手のスタートは決して悪くありませんでした。しかし、他の馬たちも同様に好スタートを切ったことで、内枠の馬からコーナリングを利して順に先行していく形となり、外枠のサイコーキララは自然といつもよりも後方のポジションを取らざるを得ない流れになってしまいます。もちろん、これぐらいはレースの綾であり、石山繁騎手は焦ることなく、最終コーナーに向けて徐々にポジションを上げて行きました。

雲行きが怪しくなったのは、最終コーナーを回るあたり。いつものような手応えがなく、石山繁騎手がサイコーキララを励ますようにして最後の直線に向きました。先に抜け出したチアズグレイスに追いつくどころか、少しずつ離されていき、しかも後ろからシルクプリマドンナにも抜かされそうになり、それでも先頭でゴールしようともがく人馬の姿は残酷すぎて、目を背けたくなるほどでした。結果は4着。

その後、浜田厩舎は成績が伸び悩み、石山繁騎手は落馬事故によって高次脳機能障害を負い(その後のリハビリ等については、妻である石山衣織さんによる「脳挫傷」(エンターブレイン)に詳しく綴ってあります)、ふたりは揃って2009年に競馬界から引退をしました。あのとき桜花賞をサイコーキララが勝っていたら、もしかして運命は変わっていたかもしれない。そう思ってはいけないのでしょうが、そう考えてしまうのは私だけではないはずです。その後の成績を思うと、報知杯4歳牝馬特別で輝きを放っていたサイコーキララの馬体は、美しい花に特有の一瞬のものだったのかもしれません。その輝きがあともう少しだけ続いていれば。

今週のフィリーズレビューには、サイコーキララを彷彿とさせる輝きを放つ牝馬が登場します。アマルフィコーストは前駆にも後躯にもしっかりと実が入り、全体のシルエットが美しく、額には真っ直ぐな一本の流星が流れています。サイコーキララよりも手脚に長さがあり、2000mぐらいまでの距離は持つはずです。休み明けということもあり毛艶はまだ冴えませんが、その凛とした表情は精神性の高さを物語っています。

3戦目のファンタジーSでは苦しいところがあったのか、気持ちが高ぶって強くハミを噛んでいましたが、本来は気性の問題は少ない馬です。阪神ジュベナイルフィリーズを回避したことが正解であったことは、今回の立ち写真を見れば伝わってきますね。休養を挟んだことで、肉体的にも精神的にもリラックスして臨めるはず。もちろん勝ち負けを期待しますが、桜花賞からその先へつながるような好レースを期待したいところです。

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