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ホープフルS観戦記の観戦記

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「Gallop重賞年鑑2018」の観戦記を書いてくれとの依頼を受けた。1995年に創刊されて以来、年末年始に帰省するときに連れていき、穴が開くほど読みふけってしまう私の友。かつては私の尊敬するノンフィクションライターである木村幸治さんや馬事文化賞を受賞した吉澤譲治さん、浅田次郎さん、今も吉川良さんや高橋源一郎さんという錚々たる面々が名を連ねている歴史の書。そんな「Gallop重賞年鑑」に私の名前が刻まれる日が来るとは夢にも思わなかったが、拙ブログを立ち上げて18年間、観戦記を書き続けてきてようやく夢がひとつ叶ったのだ。

今回のミッションは、JRA最後のG1レースであるホープフルステークスを観て、当日の18時までに1800文字の原稿を書き上げること。私にとって観戦記を書くことはライフワークだけに、ふたつ返事で引き受けた。日本広しといえども、G1レースの観戦記を18年間書き続けている奇特な人間など、私以外にいるはずもない。年間に21レースとして18をかけると、378レースの観戦記を書いてきたことになる(凱旋門賞や他のレースも含めるとさらに多いはず)。競馬の観戦記を書くために生まれて、書きながら死んでゆくのかもしれない。大げさに書いたが、つまり楽しみで仕方がなかったのである。

当日、中山競馬場に着くと、クリストフ・ルメール騎手が213勝目を挙げ、武豊騎手の記録を更新した直後であった。白毛馬のマイヨブランに跨るルメール騎手は、まるで白馬の王子様のようであった。ウイナーズサークルの傍では、マイヨブランの出資会員さんたちが、ルメール騎手のサイン入りのゼッケンを持ちながら、集合写真を撮っていた。これだけの大記録を達成されたのが、自らの出資馬の勝利によることは実に誇らしいだろう。

その微笑ましい光景を私はうらやましく眺めつつ、そういえばミスター競馬と呼ばれた野平祐二先生が「競馬はみんなで楽しむもの」と言っていたことを、ふと思い出したりした。そう、今回の観戦記は野平祐二先生こと祐ちゃん先生のことを絡めて書こうと考えていたのだ。一口馬主という形で、競馬ファンが競馬を皆で楽しむ未来が来るとは、祐ちゃん先生は知っていただろうか。知っていたにせよそうでないにせよ、決して悪くない未来ではないか。

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馬主席に連れて行ってもらったり、パドックを内側から見させてもらったり、調教師スタンドやジョッキールームを見学しているうちに、アッという間にメインレースの時間がやってきた。調教師スタンドの最前列には、ルメール騎手のファミリーが座って、父がG1レースを勝つシーンを心待ちにしている姿が伝わってくる。こうして家族が揃って現場で応援するのは日本では珍しいことだが、これは文化の違いなのだろうか。ルメール騎手も勝つごとに子どもたちが喜んでいて、レースの合間にひと言ふた言、言葉を交わし合える瞬間にどれだけ励まされ、勇気づけられてこの215勝があったのだろう。

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家族の想いはホープフルステークスでは届かなかったが、勝ったサートゥルナーリアは驚くほどの強さであり、ルメール騎手は良く乗っていたと思う。「ごめんね、引っかかった」と言って引き揚げてきたが、勝つためにポジションを取りに行った分、持って行かれたのであり仕方ない。最後に戻ってきたミルコ・デムーロ騎手は、終始嬉しそうにしており、彼もまた競馬で勝つことが楽しくて仕方ないのだろう。勝利ジョッキーインタビューで、「良いお年を」とコメントしていたように、彼はもう日本の騎手なのである。

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そして、サートゥルナーリアがレース後に、暴れることも取り乱すこともなく、冷静さを保ちながらゆったりと歩けている姿をみて、もしかするととんでもない名馬の序章に立ち会うことができたのかもしれないと直感した。同じロードカナロア産駒のアーモンドアイもそうであったように、実に目が澄んでいて美しい。周回しているサートゥルナーリアを目に焼き付けながら、このままいつまでも見ていたいような気持ちに駆られてしまった。

誰もいなくなった記者室で、私はパソコンの画面と向き合った。残り時間90分。いつもは1時間ぐらいで観戦記を書き上げるのだが、今回は文字数(20文字×90行)と18時までという二重の制限があるため、気持ちばかり焦ってしまい、遅々として筆が進まず、しかも着地点も見えてこない。序盤から中盤までは下書きしてきたにもかかわらず、後半になってパタリと足が止まってしまったのだ。それでも何とか踏ん張りつつ、編集長にも見守られつつ、ようやく10分前に原稿を完成させ、送ることができたのだ!こんなにドキドキしながら観戦記を書くのは初めての体験であった。また機会がもらえるならば、ぜひ来年も挑戦してみたい。

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最後にお尻の話をしよう

Jiromaru

今年最後ぐらいは皆さんの大好きなお尻について語りましょう。そんなに全力で否定することはありませんが(笑)、僕がこれからお話するのは、残念ながら人間ではなく馬のお尻についてです。尻における臀筋(でんきん)が発達していると、それだけ馬体を前に押し出すために地面を蹴る力が強くなり、速く走ることができるようになります。これだけでもサラブレッドの馬体において尻が非常に大切な部分であることが分かりますし、走る能力が目に見える形で集約されているのが尻ということです。

サラブレッドの尻ということで、真っ先に僕の頭に浮かぶのは、故戸山為夫調教師によって鍛え上げられ、皐月賞と日本ダービーの2冠を制したミホノブルボンのそれです。通常では1日3本で限界の坂路コースを、ミホノブルボンは1日5本も追われて鍛え上げられていました。後ろからミホノブルボンのお尻を見ると、他馬の2倍くらいの大きさがあったそうです。僕もパドックで実際に見たことがあるのですが、ミホノブルボンのお尻の筋肉は異常なほどに発達し、幾層の山のように盛り上がっていました。

実はここでいう尻は、馬体用語として厳密に言うと、尻と股(もも/こ)を合わせたトモの部分を指しています。尻と股(もも/こ)は一体となっているため、外見ではどこまでが尻(臀部)でどこからが股なのか、見分けはとても難しいです。あえて言うならば、背中からつながっているところがお尻で、後脚の付け根上部にある筋肉が盛り上がっているところが股にあたります。もちろん、後脚からのパワーを生み出す起点となる部分である以上、尻と股の筋肉は発達していることが望ましいです。

トモが発達しているかどうかは、馬体を後ろから見ると分かりやすいとされています。後ろから見たとき、股の部分の幅が腰角(こしかど/ようかく)のそれと同じか、それ以上に大きく張っているべきだとされます。こういう外から(横から)は見えない部分にも注目することも大切ということです。立ち写真では分かりにくいため、想像するしかありませんが、トモの部分がパンと張って、筋肉が盛り上がっているといかにも走りそうですね。

今週のホープフルステークスに出走する馬の中でも、アドマイヤジャスタのお尻は群を抜いています。もちろんトモに実が入っているだけではなく、前駆の筋肉も盛り上がり、前後の筋肉の付き方のバランスが素晴らしいですね。2歳のこの時期は、前駆はきっちりと筋肉がついているけれど、後躯には実が入りきっていない馬の方が多い中、馬体としての完成度は高いものがあります。さらに利発そうな顔つきにも好感が持てて、いかにもジャスタウェイ産駒らしいです。他にも素質馬が多く出走し、レベルの高い争いになりそうですが、お尻の大きさと馬体の完成度という点では一枚抜けている、アドマイヤジャスタに本命を打ちたいと思います。

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ハービンジャーの馬場


有馬記念2018―観戦記―
オジュウチョウサンの参戦もあり、異常な盛り上がりと緊張感の中、スタートは切られた。小回りの6つコーナーを意識して、内枠を引いた馬たちはこぞって前目のポジションを目指し、やや行き脚がつかなかったキセキが二の足を使ってようやく先頭に立った。前半1000mが60秒7、後半1000mが60秒3だから、速すぎもせず遅すぎもしない平均的なペースであった。それよりも雨が降ったことで、クリストフ・ルメール騎手が「ハービンジャーの馬場になった」と形容するように、力を要する馬場になっていたことの影響の方が大きかった。最後はパワーと底力勝負となり、力強い馬が上位を占める結果となった。

G1初勝利が有馬記念となった3歳馬ブラストワンピースは、55kgという斤量面でのメリットはあったにしても、中団から早めに動いて直線では力強く抜け出して、追いすがるレイデオロを軽くしのいでみせた。着差以上に強いレースであり、日本ダービーや菊花賞の口惜しさをようやく晴らすことができた。スパッと切れる脚がないことで、勝ち味に遅い(乗り難しい)ところがあることは確かだが、今回は横綱相撲で頂点に立つことができた。もともと前駆のつくりの素晴らしい馬体であったが、この中間ははちきれそうな張りを誇っており、ハービンジャー産駒は3歳の秋以降にもうひと回り成長を遂げることを証明してみせた。

これで有馬記念4勝目となった池添謙一騎手は、大一番での強さをいかんなく発揮してみせた。道中は淀みないペースになったことで、中団の馬群の外をロスなく追走することができ、慌てず騒がず、いつでも動ける安心感を持って騎乗していた。日本ダービーも菊花賞も乗り方次第では勝ちもあったという敗戦が続いただけに、ようやく結果を出すことができたという気持ちが強いだろう。それぐらい力のある馬であり、自信を持って仕掛けられたところが素晴らしい。ゴール前200mではほとんど手綱だけでファイトさせており、大舞台でこれだけ美しいフォームで馬体を追える冷静さは、さすがシーズトウショウやオルフェーヴルの主戦ジョッキーである。

レイデオロは持てる力を最大限に発揮しての敗北であった。道中のポジションも展開も申し分なかったにもかかわらず、ブラストワンピースに及ばず完敗を喫してしまったのだから、陣営はルメール騎手共々あきらめるしかないだろう。天皇賞秋から間隔が開いて、馬自身の体長も走るモチベーションも最高潮であったはず。それでも勝てなかったのは、前述したように、力の要る馬場においては勝ち馬の方が一枚上だったということだ。この2頭の良馬場での再戦を見てみたい。

シュヴァルグランは後方から外を回して、最後は上位2頭を追い詰めた。レースを使われつつ、走れる体つきになってきたし、パワーと底力を問われる馬場も6歳になったこの馬にとっては、軽い馬場でのスピード競馬と比べると合っていたかもしれない。それにしてもヒュー・ボウマン騎手は昨年に続き、シュヴァルグランの力を出し切って結果につなげているように、ジョッキーとしての力量は世界トップクラスのものがある。

キセキはなかなかのペースで進んだが、ラスト200m前の地点で脚が上がってしまった。川田将雅騎手は、勝つためには、スローに落として切れ負けするよりも、上りの掛かる底力を問われる展開に持ち込もうと考えたのかもしれない。それでも極端に速いペースで引っ張った訳ではなかったにもかかわらず、秋4戦目の疲れがあったのか、最後まで踏ん張ることができなかった。作戦は良かったが、馬が応えてくれなかったというのが正直なところだろう。

モズカッチャンにとっては、仕上がりも体調自体も良かった中、馬場が重くなってしまったことが苦しかった。軽い馬場でスローに流れてくれれば、この馬の立ち回りの巧さが生きる可能性もあったが、全くの逆目に出てしまった。障害チャンピオンのオジュウチョウサンは、このメンバーに混じって9着と好走した。最後の直線でも一瞬伸びるシーンもあり、決してこの挑戦が無謀であったわけではないことを証明してみせた。サラブレッドの可能性を狭めない長山オーナーの柔軟な発想こそが、今年の有馬記念を盛り上げてくれた。

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あらゆる条件が揃ったモズカッチャンを狙う

Jiromaru

ハービンジャー自身もそうでしたが、産駒には馬体の立派さや雄大さが強く遺伝しています。グッドルッキングホースではあるのですが、それゆえに脚元を支えるサスペンション部分に負荷が掛かりやすい。若駒の頃は、馬体の緩さも手伝って、1度好走すると、その肉体的反動が出てしまい、次走では人気になっても敗れてしまうという産駒のパターンが目立つ時期がありました。

筋肉は強くて馬格があるにもかかわらず、サスペンションが緩いため、一瞬の切れ味や反応が問われるレースに弱いという特徴もあります。だからこそ、ハービンジャー産駒が得意とするのは、中山芝2000m、京都芝2000m、札幌芝1800m、阪神芝2000mという、内回りの中距離戦になるのです。好走の条件が著しく限定されてしまうことに加え、前述のように、レースを走ったあとの反動が大きいため、1着→4着→1着→8着などと好走と凡走を繰り返すのもハービンジャー産駒の特徴です。

もうひとつ、ハービンジャー産駒は気持ちで走る面もあります。産駒には癇性(かんしょう)が良くも悪くも伝わっているのでしょう。きつい馬やきかない馬が多いということでもあります。強い勝ち方をするのも気持ちの強さゆえであり、凡走をしてしまうのも気性の激しさゆえ。生まれもった性質は簡単には変わりません。そういう意味でも、ハービンジャー産駒は凡走の次のレースで狙うべきあり、好走の次は凡走を疑うべきですね。

モズカッチャンは走るハービンジャー産駒の典型です。まず脚元が軽く、ごついタイプではないため、サスペンション部分にそれほど大きな負荷が掛かりません。前走はやや重め残りでしたが、480kg台の馬体重で走ることができると、肉体的な反動は少なくて済むはずです。

ただ、札幌記念で激走をしたあと、府中牝馬Sの直前に熱発をして回避したように、そのレースで全力を出し切って、持てる力以上のものを出し切ってしまうことがあります。きっちりと仕上がっている状態での激走であれば、それほど反動も大きくないのですが、肉体的には中途半端な状態にもかかわらず思いの外頑張ってしまうと、その後が大変なのです。札幌記念は現地で観戦していましたが、休み明けの中をあわや勝ったかと思わせる見事な末脚でした。その後、反動が出た状態から立て直してのエリザベス女王杯でしたから、前走の3着は仕方ない結果だと思います。

つまり、今回の有馬記念はハービンジャー産駒の好走パターンに当てはまります。前走を不完全な状態で敗れたあとの次走は激走が見込まれます。さらに、有馬記念が行われる中山芝2500mはハービンジャー産駒が得意な舞台としている、内回り(小回り)の中距離戦です。しかも、3番という絶好の枠順を引き当て、内の2、3番手という絶好のポジションを走ることができそうです。これだけ条件が揃うことは珍しく、そんな幸運を反映するかのように、モズカッチャンの毛艶はピカピカと輝いて、馬体には斑点が浮いて絶好調です。あとは他馬との力関係だけ。最高に上手く立ち回り、モズカッチャンの力を発揮し、頂点に立ってくれることを期待して、この馬に本命を打ちたいと思います。

Arima2018wt


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中山芝2500m

Nakayama2500t

外回りコースの3コーナー直前からのスタート。第1コーナーである3コーナーまでの距離は192mと短く、スタートしてすぐにコーナーに突っ込む感じ。スタンド前を通る前に馬を落ち着かせておきたいので、スタートしてから最初の直線まではポジション争いよりも各馬折り合いに専念する。

スタンドからの歓声によって馬が行きたがることがあるが、馬を前に置けるとそれを防げる。そのため、前の馬を壁にできる内枠の馬は有利になる。1週目はゆっくりと坂を登り1コーナーに差し掛かる。ペースが上がるのは2コーナーを回って丘の下りにかかった地点から。向こう正面から3コーナーまでの間に、ほぼトップスピードに加速する。ここでのペースが極端に速いと最後の坂での逆転劇が待っている。

中山の2500mというコースにおける特徴はコーナーを6つも回るということだ。そのため道中のペースはあまり速くなることはない。ステイヤータイプの馬が活躍しているのは、スローペースでも折り合いに苦労することがないからであろう。スピードだけで押し切れるコースではないが、マイラーでも折り合いがつくタイプであれば克服はできる。


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有馬記念を当てるために知っておくべき3つのこと

Arima

■1■必ずしも強い馬が勝つとはいえない2つの理由
暮れの大一番、有馬記念。3歳馬と古馬との対決でその年のナンバーワンを決定するのだが、必ずしも強い馬が勝つとは言えないのがこのレース。

その理由として、
1、シーズン最後のレースであるために、強くてもピークを過ぎている馬がいる。
2、コーナーを6つも回るため、展開によって大きくペースが左右される。
という2点が挙げられる。

1については、各馬それぞれ目標としていたレースが違うということである。たとえば3歳馬なら菊花賞、古馬ならジャパンカップ、そして海外の大レースに目標を定めていた馬もいるだろう。しかし、現状としては、暮れの大一番である有馬記念に目標を置いていたという馬はまずいない。よって、秋のどこかの時点でピークに仕上がってしまった馬や、仕上げて勝った馬は、この有馬記念には下降線の決して万全とはいえない体調で臨まざるを得ないということになる。中にはここに来て調子を上げてくる馬もいるので、そういった体調の交錯があって、あっと驚く好走や凡走が繰り広げられるのがこの有馬記念である。

2については、有馬記念が行われる中山の2500mというコースにおける特徴は、コーナーを6つも回るということだ。競馬はコーナーを回ることによって息が入ったり、ペースがアップダウンしたりするので、コーナーの数と展開の不安定性は比例する。2008年はダイワスカーレットが尋常ではないペースでレースを引っ張ったが、いつ超スローペースになってもおかしくない。つまり、展開の紛れによって結果が大きく左右される、荒れやすいレースである。

■2■世代交代が行われるレース
過去10年の年齢別の成績を見ると、3歳馬が4勝、4歳馬が2勝となる。成長著しい3歳馬か、充実から完成に向かう4歳馬のどちらかから勝ち馬が出る可能性は非常に高い。このデータを考えると、5歳と7歳時に連対したタップダンスシチーの凄さが分かる。いずれにせよ、有馬記念は世代交代が行われるレースであり、これからの馬を狙い打つのが本筋である。

■3■牝馬が勝ちきることは難しい
2008年、ダイワスカーレットが驚異的な強さで勝利したものの、牝馬としてはヒシアマゾンの2着、エアグルーヴの3着、ダイワスカーレットの2着が近年では最高であった。理由は2つ考えられて、1つはジャパンカップと同じく、トップレベルのスタミナが要求されること。もうひとつは、牝馬は牡馬に比べて冬毛が生えてくるのが早いように、季節的に休眠に入ってしまい臨戦態勢にないことが挙げられる。これからも牝馬がこのレースを勝ち切ることは相当難しいだろう。なんて書いていると、2014年にはジェンティルドンナが勝利したが、ジャパンカップを2連覇したような牡馬顔負けの名牝であり、これぐらいの牝馬でなければ勝つことは難しい。

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G1は宝物


朝日杯フューチュリティS2018―観戦記―
イッツクールが先頭に立ち、前半マイルが47秒7、後半マイルが46秒2という超スローペースでレースを引導した。圧倒的な人気に推された牝馬のグランアレグリアは好スタートを決めて、そのまま2番手。それを見る形で3番手にアドマイヤマーズという隊列のまま最終コーナーを迎え、最後の直線は先行した馬たちによる争いとなった。スローペース症候群と言われ始めて久しいが、今年のG1戦線を振り返ってみると、まさにスローペース症候群ここに極まれり。とにかく前に行っていない馬たちにとっては、厳しいレースであった。

勝ったアドマイヤマーズは、序盤こそ行きたがってハミを噛んでいたものの、離れた3番手に落ち着いてからはリラックスして走れていた。早めに人気のグランアレグリアを捕まえに行き、早めに先頭に立ってそのまま押し切った。大きなフットワークの綺麗な馬であり、ゴール前では耳を立てているように、まだまだ余力のありそうな勝ち方であった。ミルコ・デムーロ騎手は「お父さんとは全然似ていない」と語ったが、馬体を併せると(後ろから馬が来ると)ファイトして伸びるという面においてはよく似ている。距離は2000mぐらいまでは全く問題ないため、あとは2歳時に4戦走らせた影響が来年の馬体の成長にどのように影響するかが心配である。

デムーロ騎手は今年これでG1レース3勝目となった。躊躇することなくグランアレグリアを捕まえに行った判断が素晴らしかった。アドマイヤマーズが長く良い脚を使い、馬体を併せると伸びる馬であることを知っているからこそ、自信を持って動けたのだと思う。勝てるときはこんなものだし、逆に言うと、それぐらいのことが勝ち負けを左右してしまうということ。「G1レースを勝つことは宝物」という言葉に込められた、デムーロ騎手の勝つことに対するこだわりや競馬に対するリスペクトは、どれだけ多く勝っても忘れてもらいたくない。それこそがトップジョッキーがトップジョッキーたるゆえんだから。

クリノガウディーは好枠を生かしてみせた。好スタートを切り、そのまま1番人気のグランアレグリアの後ろにつけ、最後の直線まで息をひそめていた。アドマイヤマーズが早めに動いたことで苦しくなったグランアレグリアが苦しくなったところを差して連対を確保した。最終コーナーで斜行のあおりを受けたのは残念だったが、勝ち馬とは手応えに大きな差があった。それでも切れ味勝負に負けた前走から巻き返して、今回は34秒ジャストで上がって、大健闘と言ってよいだろう。

グランアレグリアはグッと来るところなく敗れてしまった。アドマイヤマーズに並ばれてから抵抗することもなく、あっさり先頭を譲っただけではなく、クリノガウディーにも2番手を受け渡してしまった。スタートしてから、第1コーナーまでの間にハミを噛んでかなりの距離を走ったことで、気持ちと脚を失ってしまったのだろう。また初めての長距離輸送もこたえたのかもしれない。いずれにしても、はっきりとした敗因が見つかるわけではないため、この馬の潜在能力を測りかねてしまう。馬体的には成長の余地を多く残しているので、まずは馬をゆったりと放牧に出して、来年度を待ちたい。


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ダイワメジャー産駒は筋肉が柔らかいうちを狙う

Jiromaru

ダイワメジャーは現役時から欠点が見当たらず、誰もが素晴らしいと思える馬体を誇っていました。皐月賞で1番人気に推されたコスモバルクを育てた岡田繁幸氏は、パドックで10番人気のダイワメジャーを見て、負けるならこの馬だと直感したそうです。実際にそうなってしまったのですが、まだ実力が認められていなかった時点でも、ダイワメジャーの馬体には目を見張るところがあったという逸話ですね。

種牡馬になってからは、自身の馬体の素晴らしさをそのまま産駒に伝えています。ダイワメジャー産駒は、走る馬もそうでない馬も、同じような馬体の特徴を示すため、細かな差異がほとんどありません。金太郎飴のようでもあり、とても安定的に確実に、自身の特徴を伝える。産駒の馬体を見ると、父ダイワメジャーのそれをコピーペーストしたように感じるぐらいの分かりやすさです。

具体的には、骨格が雄大で、がっしりとした設計になっていること。筋肉量が豊富であること。額から鼻梁にかけて曲線を描くように膨れた兎頭。牡馬牝馬を問わず、腹袋がしっかりとしていて、いかにも健康そうであること。脚元が丈夫な馬が多く、調教でも必要な負荷を掛けることができ、しかも仕上がりが早い。

「健康で、誰でも競走馬として育てることができる。サンデーサイレンスの産駒は繊細で難しかったのですが、この扱いやすさはノーザンテーストに通じるものがある。こうしてスタートまでこぎつける能力の高さで、2歳戦においてディープを上回ることができたのでしょう」(「優駿」2016年8月号より」と社台スタリオンステーションでダイワメジャーを管理している徳武英介氏は語りました。

ダイワメジャー産駒にはひとつの課題があり、それは筋肉の硬さです。産駒は総じて筋力が強いのですが、その代償として筋肉の硬さが伴います。最初から筋肉が硬い馬もいますし、レースを使ってゆくにつれて硬くなっていく馬もいます。古馬になってから伸び悩む馬が多いのは、これが大きな理由のひとつです。こればかりは体質ですし、筋肉の強さの代償でもあるので仕方ない面があります。

馬券を買う側としてはどうすればよいのかというと、筋肉が硬くならないうちを狙うということです。牡馬にせよ牝馬にせよ、レースを使えば使うほどダイワメジャー産駒は筋肉が硬くなっていきますから、そうなる前に狙うということです。

今週の朝日杯フューチュリティSに出走するダイワメジャー産駒のアドマイヤマーズも、非の打ち所がない素晴らしい馬体を誇っています。骨格が雄大で、筋肉量が豊富。パワーに溢れていて、馬体の完成度という点では、圧倒的な人気のグランアレグリアよりも上ですね。前走は力差以上に強い競馬でしたし、馬体を併せるとファイトする性格も父ダイワメジャーそっくりですね。まだ3戦しかしていませんので、筋肉も硬くなっていないでしょうし、まさに狙うなら今!ということで本命を打ちたいと思います。

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朝日杯フューチュリティSを当てるために知っておくべき3つのこと

Asahihaifs

■1■絶対的能力と完成度が問われる
傾向としては1番人気、2番人気が強く、過去10年間で1番人気【4・2・1・3】、2番人気【2・1・2・5】という成績である。どちらも連対率6~3割と高い。かつては人気馬が好走することで有名であったマイルチャンピオンシップよりも高い数字である。理由としては、かなり速い時計での決着となるため、実力の有無がはっきりと出てしまうことが考えられる。さらに2014年からは、トリッキーな中山競馬場のマイル戦から阪神競馬場に舞台を移し、この傾向には拍車がかかっている。

また、過去10年の勝ち馬を見ると、すべての馬が前走1着していることが分かる。これは現時点での絶対的な能力や完成度が問われるレースになることを示している。重賞ならば最低でも3着以内に好走していること、もちろん条件戦で負けているようでは×。

■2■生粋の逃げ馬は通用しない
ここまで逃げて勝ってきた馬がまったく通用していないことにも注目したい。中山1600mのコース形態上、2コーナーまでの位置取り争いが激化するため、ほぼ毎年、前に行った馬には厳しいペースとなる。さらに、最後の直線に急坂があることによって、スピードだけで押し切るのは難しい。この傾向も舞台が阪神1600mに変わっても同じ。中山競馬場で行われていたときよりも、長く良い脚を使えるかどうか、末脚の確実さが問われる。

このレースを逃げ切ったのはゴスホークケンだけ。そもそも、この年はペースがそれほど速くはなかったし、ゴスホークケンはその前走で抑える競馬をしていた。つまり、スピードを武器にした一本調子の馬ではなく、抑えが利いて、終いの脚を生かすような競馬ができる馬でないとこのレースは勝てないということだ。

■3■クラシックへつながるレースへ
このレースはペースが速くなることが多く、スピードこそ絶対だが、スタミナもないと勝ち切ることはできない。そのため、1600m以上の距離のレースを経験していることはほぼ必須条件になってくる。特に、阪神に舞台が変わる以上、中距離をこなせるぐらいのスタミナは必要であり、このレースを勝ち馬が来年のクラシックにおいて有力になってくるはず。そういう意味では、中山競馬場で行われていたときとは一線を画するレースであり、クラシックへつながる未来を見据えて馬券も買うべきだろう。


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この時期の牝馬にとっては


阪神ジュベナイルフィリーズ2018―観戦記―
2番人気のクロノジェネシスが出遅れ、1番人気のダノンファンタジーも抑えて後方から進み、スタンドがやや騒然とする中、前半800mは47秒0、後半は47秒1というフラットなペースで流れた。最後の直線の長さを考えると、どのポジションで走った馬にとっても有利不利のない展開となり、その分、馬群から離れてストレスなく走った2頭での決着となった。2歳牝馬にとっては、多少の距離ロスがあったとしても、馬群の中で気を遣って走るよりも、伸び伸びと外を回った方が良い結果が出ることが多いのだ。

勝ったダノンファンタジーは、2着馬とは半馬身差ではあったが、どこまで行っても抜かされないだけの手応えが残っており、完勝と言ってよいだろう。新馬戦こそグランアレグリアに敗れたが、その後、馬体も成長してパワーアップしている。肉体の完成度が高く、気性が前向きであり、レースに行ってきっちりと力を出し切れる真面目な牝馬でもある。ウオッカやブエナビスタなど、阪神ジュベナイルフィリーズを制した名牝ほどの素質は認められないが、来年の桜花賞に向けては最有力候補に躍り出た。

クリスチャン・デムーロ騎手はテン乗りにもかかわらず、腹を決めて後方からダノンファンタジーを走らせたことが吉と出た。正攻法で攻めていたら、もっと力んで走っていたかもしれず、これほどの切れ味を発揮できたか分からない。一回性の騎乗で最良の選択をして、結果を出してしまうのはさすがである。昨年のG1ホープフルステークスでもタイムフライヤーを後方から導いて勝利したように、これだけ動じずに後ろから行けるのは、馬を瞬時に動かせて、追える自信があるからだろう。勝利ジョッキーインタビューにて、日本語を少し話そうとしたところに、彼の意志を垣間見た気がした。

クロノジェネシスは、出遅れたことが結果として良かったのかもしれない。後方の外から行った馬たちのワンツーとなったように、この時期の若い牝馬にとっては、ペースや馬場や距離よりも、精神的なスタミナをロスすることなく走れる影響の方が大きい場合がある。馬群から離れたポジションを気持ち良く走られることが、ラストの切れ味につながるのだ。最後の直線では馬が苦しがって左にもたれ、真っ直ぐ追えなかったのは残念だが、最後まで良く食い下がっている。あと少しのところまでG1に手が届きかけていたのだから、北村友一騎手にとっても悔しい騎乗だったはず。

上位2頭の切れ味に屈してしまったビーチサンバも、最後まで良く伸びている。結果として出し抜けを食らってしまった形となったが、先々へとつながる内容であった。福永祐一騎手も道中は完璧に折り合って進めていたし、満点とは言えないものの、80点の騎乗で力を出し切った。100点の騎乗ができないと勝てないのがG1レースであり、あえて言うならばビーチサンバを勝たせるためにはもうひと呼吸、いやふた呼吸早めに追い出しても良かったかもしれない。もちろん、外から出し抜けを食らったという結果を受けての結果論である。

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馬の性格や心理状態も観る

Jiromaru

先日、東京の両国で行われた「日本ウマ科学会」に参加するために北海道からやってきた獣医師さんと、ちゃんこ鍋を突きながら競馬の話をしました。僕がオーストラリアにメルボルンカップを観に行っているとき、彼はちょうどブリーダーズカップを観にアメリカに行っていたそうです。お互いに海外の競馬を見て得た情報を交換しつつ、新しい種牡馬やその産駒の出来から、出産時の大きさの話、日高の現状まで語りました。僕にとって、生産の最前線で働く彼の意見や見識は貴重です。

その中で、馬の気性の話になりました。アメリカの馬たちは、ダート競馬で土を全身に受けながらひたすら前へ前へと突き進むことが求められますので、気性的には激しいものを持っている馬が多い。それは生産の配合の段階から、育成・調教、そしてレースに至るまでの中で、そのようなメンタリティへとつくられていきます。逆にヨーロッパの競馬は長距離を走る馬が多いので、ゆったりとした気性でリラックスして走れる気持ちの穏やかな馬が求められます。それに応じて、生産から育成調教までが1本の線となり、つながっていきます。

それにしても、と話をさえぎるようにして私は言いました。

「メルボルンカップのパドックを見て驚いたのは、どの馬もまったく入れ込んだり、チャカついたりしていなかったことです。日本から参戦したチェスナットコート以外は」

これは決して大げさではなく、私が日本のパドックで見て、消していくタイプの馬はただの1頭もいなかったのです。どの馬もゆったりと歩けていて、厩務員さんに変に甘えることもなく、汗ひとつかいていません。これから激しいレースを走る馬とは思えない平常心を保っているのでした。

パドックで馬の心理状態を見て、それをよりどころにする僕にとっては、明らかに悪くて消せる馬が1頭もいなくて困り果てました。ヨーロッパやオーストラリアの超一流のステイヤーたちには、私のパドック理論は通用しなかったのでした。結局、長距離戦での実績を評価して、ベストソルーションという人気馬に賭けましたが、ハイペースに巻き込まれてしまい8着に敗れてしまいました。勝ったクロスカウンターはもちろん、敗れた馬たち全てがしっかりと歩けていて、どの馬を本命にしてもおかしくないほどだったのです。

なぜそのようなことが起こったのでしょうか。メルボルンカップの出走馬がステイヤーだからという理由だけではないと思います。オーストラリアは短距離戦が中心の競馬であり、ほとんどの馬たちはスプリンターです。他のレースの出走馬を見てみても、たとえスプリンターであっても、同じように落ち着いてパドックを歩いていたのです。

馬が感じているストレスが全く違うのだと僕は思いました。日本やアメリカの馬たちは、おそらく日常的にストレスフルな環境の中で過ごしているのです。さらにレースに臨むにあたって、そのストレスはピークに達します。どこかが痛かったり、苦しかったり、調子が悪かったりする馬は、得にパドックで走りたくないという気持ちを全身で表現します。それに対して、ヨーロッパやオーストラリアの馬たちは、普段からリラックスして過ごしており、人間との信頼関係も厚いのではないでしょうか。それがパドックでの姿に如実に表れていたのです。

前置きが長くなりましたが、その馬の気性や性格など、立ち写真からでは分からない情報が確かにあります。特に2歳戦などは、各馬に関する情報が少ないため、立ち写真以外も見る必要が出てくるのです。その馬の気性や性格などを知るために、私はまずパドックを見ることにしています。新馬戦から時系列的にパドックを見てみることもあれば、前走のパドックを見て分かることもあります。レーシングビュワーではいつでもパドック映像を観られるサービスがあり、とても便利ですね。

今週行われる2歳G1阪神ジュベナイルフィリーズに出走するメンバーの馬体を見渡してみると、どの牝馬たちも目移りするほどに素晴らしい馬体を誇っています。グレイシアは牝馬らしからぬ重量感に溢れ、いかにもパワーがありそう。シェーングランツは姉ソウルスターリングよりもコンパクトに出ていますが、それゆえにより切れ味は鋭そう。ダノンファンタジーもコロンとした中にまとまりがあって、安定して力を出し切れそう。ビーチサンバはフサイチエアデールの仔にしては全体に長さがあって、将来性が高そうです。

これだけ素質や将来性の高い馬たちが揃うと、立ち写真だけでは本命を決めかねるのが正直なところです。そこで次に見たいのはパドックでの姿です。パドックにおける立ち振る舞いには、その馬の気性や性格が出ますので、それらを含めて予想してみましょう。各馬のパドックの動きを見て、とても落ち着いていて、苦しいところもなく、レースに行ってもジョッキーの指示を素直に聞いて反応することができそうだと最も感じさせてくれたのはビーチサンバです。調教の動きも素晴らしく、本命に推したいと思います。立ち写真とパドックでの立ち振る舞い、そして調教の動きを見ると、この馬が好走しそうなイメージしか湧きません。

Hanshinjf2018wt


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阪神ジュベナイルFを当てるために知っておくべき3つのこと

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■1■2つの経験
平成3年より従来の阪神3歳Sは牝馬限定に変更され、さらに平成13年より名称を「阪神ジュベナイルフィリーズ」と改められた。わずか数戦のキャリアで臨んでくる馬がほとんどで、各馬の力の比較が難しい。実はこれといった傾向はないのだが、以下2つの経験をしている馬にとっては、かなり有利なレースになる。このレースを勝つためには、いずれかを経験していることが望ましい。

1、1600m以上の距離
2、坂のあるコース

「早熟の短距離馬」が多く出走してくるため、このレースに臨むまでのステップとして、1600mよりも短い距離を使ってくる馬が多い。これまでにマイルの距離や直線に坂のあるコースを走ったことがない馬たちが、いきなりG1レースの厳しい流れの中に放り込まれ、直線に坂のある1600mのコースを走ると、確実にスタミナ切れを起こすことになる。1600m以上の距離、もしくは直線に坂のあるようなタフなレースを走った経験がないと、このレースで勝ち切ることは難しい。

■2■抽選をクリアした馬の台頭
これは来週の朝日杯フューチュリティSにも当てはまることだが、抽選をクリアした馬、滑り込み出走が叶った馬たちには着目すべきである。それは運が良いからということではなく、彼ら彼女たちの「ローテーション」と「成長曲線」に秘密が隠されているからだ。

まず「ローテーション」については、抽選をクリアしてきた馬は、これまでの出走過程において無理を強いられていない馬が多いということである。多いと書いたのは、全ての馬がそうではないからである。本番に出走する権利を取るために、何度もレースに出走してそれでも抽選待ちになってしまった馬もたくさんいるはずだ(こういう馬は能力的に疑問符がつく)。そのあたりは1頭1頭を検証する必要があるが、例えば2007年のトールポピーはキャリア3戦、ゴスホークケンは2戦、レーヴダムールに至ってはわずか1戦であった。そして、2011年はキャリア1戦のジョワドヴィーヴルがこのレースを制した。

これが何を意味するかというと、これらの馬たちは、本番であるG1レースに合わせたローテーションを組んで走らされてきたのではなく、自分たちの仕上がりに合わせて大事に使われてきたということである。人間の都合ではなく、馬優先の余裕を持たせたローテーションであったということだ。あくまでもその延長線上に、たまたまG1レースがあったということに他ならない。だからこそ、そこまでの過程において無理をさせてきていないからこそ、馬に余力が十分に残っているということになる。

次に「成長曲線」についても、余裕を持たせたローテーションということとリンクしてくる。馬の仕上がりに合わせるとは、馬の成長に合わせたローテーションということである。特に若駒の間は、レースを使うことによって、成長を大きく阻害してしまうことがある。2歳戦~クラシックにかけて、数多くのレースを使うことは、マイナス材料にこそなれ、決してプラス材料にはならない。レース経験の少なさは、馬の能力と騎手の手綱で補うことが出来る。つまり、本番のレースに出走するために、馬をキッチリ仕上げて勝ってきた馬たちに比べ、成長を阻害しない程度のゆったりとした仕上がりで走ってきた馬たちは、上積みが見込めるばかりではなく、本番のレースへ向けて上向きの成長カーブで出走してくることが可能になるのだ。

これらのことからも、余力が十分に残っていて、上向きの成長カーブを辿っている馬が、もし抽選をクリアして出走することが出来たとしたら、本番でも好走する確率が高いことは自明の理であろう。これが2歳戦からクラシック戦線においては、抽選をクリアして出走してきた馬、滑り込みで出走してきた馬には大いに注目すべき理由である。

■3■関東馬とっては厳しいレース
この時期の牝馬にとって、長距離輸送をしてレースに臨むことは条件的に厳しい。よって、関東馬がこのレースを勝つには、関西に一度遠征した経験があるか、もしくは実力が一枚も二枚も上でなくてはならない。現に過去10年で、初長距離輸送でこのレースを制した関東馬は3冠馬となったアパパネと後にNHKマイルCを制したメジャーエンブレム、オークスを勝つことになるソウルスターリング、その他ショウナンアデラである。彼女たちぐらいの実力を持っていないと、初めて長距離輸送をして、並みいる関西馬たちを倒すことはできない。逆に言うと、このレースを勝った関東馬は相当な実力の持ち主であるということになる。


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砂のアーモンドアイ


チャンピオンズカップ2018―観戦記―
最内枠から唯一の牝馬アンジュデジールがハナを主張し、そのすぐ後ろに1番人気の3歳馬ルヴァンスレーヴが続いた。積極的に前に行くかと思われたサンライズソアがそのさらに後ろに控えたことで、前半800mが49秒6、後半800が48秒2という超スローペースで、前に行った馬たちにとって有利な流れになった。有力馬が勝負どころから外を回して追い上げる中、ぽっかりと開いた最内を突いたウェスタールンドが漁夫の利を得た形となり2着。レコード決着ではあるが、先週のジャパンカップと同様に、内容としては前残りのやや単調なレースであった。

ルヴァンスレーヴは56kgを背負って歴戦のダート馬たちを完封したのだから、この先、国内には敵はいないだろう。調教ではそれほど走るタイプではないため、案外使い減りすることなく、長く走れる可能性が高い。また、馬の気持ち(ハート)が強く、燃え尽きてしまうこともない気がする(こればかりは馬にしか分からないが)。カネヒキリやクロフネのように3歳時から頭角を現した名ダート馬と同じもしくはそれ以上に、ルヴァンスレーヴのダート馬としての未来は明るい。来年は海外へと飛び出して、ドバイワールドカップやブリーダーズカップクラシックなどにおいて、世界の強豪を相手に世界を変えるような走りを見せてもらいたい。

ミルコ・デムーロ騎手は、秋のG1シリーズでは勝ち星から遠ざかっていたが、ようやくデムーロ騎手らしい横綱相撲で勝利してみせた。前日のチャレンジカップをエアウインザーで圧勝し、その勢いをそのままルヴァンスレーヴに当てはめたような積極的な騎乗。デムーロ騎手が騎乗して負けていないように、まさにルヴァンスレーヴとは手が合っている。ルヴァンスレーヴの前向きさとデムーロ騎手の攻める気持ちの波長が合うというべきか。デムーロ騎手も乗っていて気持ち良いはずだし、ルヴァンスレーヴも安心して走っているはず。「ダート界のアーモンドアイだね」とデムーロ騎手はコメントしていたが、そういえばディープインパクトと同世代のカネヒキリは「砂のディープインパクト」と呼ばれたこともあった。

ウェスタールンドは最初からこのような競馬を狙っていたのだろう。外枠から一旦最後方まで下げ、内ラチ沿いを走り、外に膨れやすい最終コーナーで開いた内を突く。狙っていたとおり、まさかこんなに上手くはまるとは思ってもいなかっただろうが、捨て身の作戦勝ちであった。他馬と比べて最短距離を走ったにしても、2着まで追い上げたのは力をつけている証明である。

サンライズソアはもう少し積極的に乗っても良かったと感じる。先々を見据えて抑える競馬を試みたのだろうが、今回のペースを考えると、もう1段前に行っていれば、もう1つ着順を上げることができたかもしれない。前走、前々走と積極的に行ったことでハイペースに巻き込まれ、惜敗を喫してしまった影響もあったのか。今回もまたポジションとペースが裏目に出てしまった。

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首の太い馬の方が乗りやすい

Jiromaru

11月頭に行われたメルボルンカップを観戦にオーストラリアに行ったとき、現地で頑張っている日本人ジョッキーに話を聞く機会がありました。僕たちにはあまり知られていませんが、オーストラリアで活躍している日本人騎手は多くいるのです。彼ら彼との話の中で、サラブレッドの馬体について話が及びました。馬の背中に乗って、一緒に走っている立場からの馬体の見かたは新鮮でした。僕の著書「馬体は語る」をプレゼントすると、目を皿のようにして読んでくれて、「競馬学校ではここまで詳しく馬体について教えてもらわないので新鮮です」と言ってくれました。それぞれが違う方向から馬体を見ているので、お互いに新鮮なのでしょうね。

彼らの話の中で印象に残っているのは、「首の太い馬の方が、細い馬よりも乗りやすい」ということです。「首の細い馬は乗っていて頼りないんです。首の太い馬の方が、乗っていて安定感がありますよ」というのが理由だそうです。なるほど、首が太い馬は胴部もがっしりとしているため、パワフルで安定感があって、ジョッキーとしては乗りやすいのですね。

僕は首が長くて細い馬の方が乗りやすいのではないかと想像していたのは、ベガ(父トニービン、母アンティックヴァリュー)という馬のことがあったからです。あのアドマイヤベガやアドマイヤドンの母であり、ハープスターの祖母にあたる名牝です。「一本の線の上を走るような、美しい走りをする馬でした」と武豊騎手はベガのことを振り返ります。なぜジョッキーが一本の線の上を走っているような感覚になるかというと、ベガの馬体の幅がそれだけ薄く、両脚(前脚も後ろ脚も)がほぼ同じラインの上に着地して走っていたからでしょう。

スプリンターによくある、首が太くて、馬体の幅が厚い馬であれば、どうしても左右の脚の着地点は異なり、乗っている者としては、太いレールの上を走っているような感じになります。一本の線の上を走るような軽快さではなく、両脚で広く地面を捉えているような力強い走りになります。たしかにベガは美しい走りをする馬でしたが、どちらがジョッキーにとって乗りやすいかというと、首が太くて安定感のある馬ということなのですね。

今週のチャンピオンズカップに出走するルヴァンスレーヴは、パッと見ただけで、首が他馬よりも圧倒的に太く、いかにも乗りやすそうです。昔、マイクタイソンというボクサーがいて、どこからが顔で、どこからが首なのか分からないぐらい、首が太かったのを覚えていますが、まさにマイクタイソンのような首をしています。典型的なパワータイプのダート馬であり、ダート馬になるべくして生まれてきたダート馬なのでしょう。ミルコ・デムーロ騎手が「これまで乗ったダート馬の中で一番強い」とコメントする気持ちも分かる気がします。そこには最高に乗りやすいという、ジョッキーとしての感覚も含められているはずです。ダートのチャンピオンを決める争いで、この馬体の馬に本命を打たないわけにはいきません。

Championsc2018wt


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