« 2度叩かれて皮膚が柔らかくなったステルヴィオ:5つ☆ | Main | エプソムCを当てるために知っておくべき3つのこと »

離見の見


安田記念2019―観戦記―
アエロリットが内から先頭に立ち、前半マイルが45秒8、後半が45秒1という、このメンバーにしてはスローな流れで引っ張った。先週に続く超高速馬場で、とにかく前に行き、そして内ラチ沿いのポジションを走った馬にとって極めて有利なレースであった。

勝ったインディチャンプは内の2番手という絶好のポジションを確保し、この時点で福永祐一騎手はかなりの手応えを感じたはず。外を回されたくない後続の馬たちがスローだと分かっていても動くことができない中、東京新聞杯を再現したような、ラスト2ハロンの瞬発力勝負を見事に制してみせた。パドックから気持ちが入りすぎて心配したが、レースでは掛かる仕草も見せずに走るのだから、スピードの出るマイル戦が合っているのだろう。追い出されてから耳をグッと絞って怒るようにして前を追う気持ちの強さは、父ステイゴールド譲り。母父キンカメからスタミナを受け継いでいることも見逃せない。

何と言っても今回の勝利は、福永祐一騎手の冷静な手綱さばきに依るところが大きい。スタート後に内のポジションを取ることだけに意識を集中し、ゴーサインもギリギリのタイミングまで待つことができた。あれ以上遅ければ前を捕まえられなかったし、あれ以上早ければ後ろにやられていたかもしれない。2007年の安田記念にて、安藤勝己騎手がダイワメジャーに乗って、最後の直線に向いて、手応え十分の中、待って待って追い出して、ゴール前でコンゴウリキシオーを捕らえたあのレースを思い出した。前を見ながら後ろにも目が付いているような、離見の見のような神騎乗であった。

昨年に続き、2着に粘り込んだアエロリットは、安定の先行力とパワーを生かしてあわやという競馬であった。このレベルのマイル戦で切れ味勝負になってしまうと、勝ち切れないのは仕方がない。かといってハイペースで引っ張っても自身がバテてしまう。精いっぱいの力を出し切っての誇るべき惜敗である。

アーモンドアイはスタートで不利を受け、やや後手を踏んだことで、思っていたよりも後ろを走らざるを得なかった。できるだけ外を回らないように、ルメール騎手は前後ろよりも、内外のポジションを意識して最後の直線に賭けた。上手く馬群を捌いて最後まで良く伸びたが、僅かに届かず。負けて強し。古馬になって筋肉量が増えており、決してマイル戦が短いつくりではない。むしろ、現時点ではマイル~2000mが適距離ではないか。今回は特殊な馬場とスタート直後の不利で敗れてしまったが、悲観すべき内容ではなく、負けてガス抜きができて良かったと考えるべき。秋は天皇賞・秋が目標となるだろう。

ダノンプレミアムはパドックから入れ込みがきつく、スタート後に横からぶつけられて余計に馬がエキサイトしてしまった。外々を回らざるを得なかったことで、直線に向く頃にはすでに脚がなかった。そもそも返し馬の時点で脚元を気にするように走っていたので、川田騎手も無理をさせなかったのだろう。ダノンプレミアムが下馬したのは、スタート直後にロジクライにぶつかられたからではない。今回の件に関しては、ロジクライが暴走してしまったものであり、武豊騎手に非は全くない。だからこそ、前に行かなければならない馬場でスタート後にぶつけられて前をカットされた有力馬3頭の運の悪さが際立つ。

しかしこれはオープンコースで行われる競馬である以上、どうしようもないことである。ジョッキーたちは細心の注意を払い、馬をできるだけ真っ直ぐに走らせるように努力するしかない。勝負どころにおいてのぶつかり合いは、勝負事であるからある程度は許容すべきだが、スタート後のそれは誰も得しない。

そして最後に言っておくと、JRAはいつまでこの特殊でアンフェアな馬場で競走を続けるのか。枠順でポジションが決まり、ポジションで勝ち負けが決まってしまう競馬を、どの関係者が望んでいるのか。それも含めて競馬というならば、競馬はスポーツではなく、ただのギャンブルに成り下がるだろう。


|

Comments

治郎丸さん、こんにちは。
祐一騎手の良さが凝縮されたようなレースでしたね。
彼の「(良い意味で)勝ち慣れてる」冷静さも出たと思ってます。

あまり語られることがないのですが、スタート後の位置取りの駆け引きとか、有力馬をブロックする進路取りとか、追い出しをワンテンポ待つ、などの祐一騎手の戦略性は年々上がってると思います。
反面、馬を御すということに関しては高いレベルでの話ですがまだまだ改善の余地があるのかな?とも思います。素人目ですが(笑)
ただ、岡部元騎手のように「あえて前進気勢を止めずに先行する」ようにしてる面もあるのかも?

馬場問題は本当に深刻ですよね・・・
よく言われる馬の故障とはそんなに相関性がないと思います。高速馬場=整地された走りやすい馬場でもありますので、昭和後期のように芝が剥げて土煙が上がる中でのG1より脚に悪いとは思えないし。
枠取りでの有利不利は大きすぎて、これじゃスポーツになりませんよね。

Posted by: シンプル | June 10, 2019 06:52 PM

シンプルさん

お久しぶりです。

そうですね、アーモンドアイの敗戦に興味がいきがちですが、福永祐一騎手の好騎乗は目を見張るものがありました。

とにかく徹底してロスを抑えて、最後の仕掛けのタイミングもばっちりでした。

騎手にとってベストな騎乗は年間でそう多くはありませんが、彼にとってもベストな騎乗だったのではないでしょうか。

とても冷静に良く乗れていると思います。

馬場の問題は、おっしゃるように故障の問題ではなく、トラックバイアスの問題ですよね。

走りやすい馬場にしたい気持ちは分かりますが、そこまで走りやすくする必要はあるのかという根本を問い直す時期にきているのではないでしょうか。

日本の技術はすごいのですが、方向性を誤ってしまうと、どんどんおかしな方向に進んでしまうのは歴史が証明していると思います。

僕はあえて馬場の低速化、走りにくい馬場、アップダウンの激しいコースを工夫してみても良いと考えています。

Posted by: 治郎丸敬之 | June 13, 2019 11:48 AM

Post a comment