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「覚悟の競馬論」

Kakugonokeibaron競馬本に限らず、良い本は2回読むことにしている。なぜなら、2回目の方がより深く味わうことができるからだ。もちろん、国枝栄調教師の「覚悟の競馬論」は2回読んだ。藤沢和雄調教師はその著書を通じて馬優先主義を伝え、角居勝彦調教師は馬に対する愛情を語り、矢作芳人調教師は競馬ハックの仕方や競馬会への提案を示したのに対し、国枝著教師は全てをバランス良く説明してくれたという印象を受ける。前半はホースファーストの精神に則りつつ競馬の素晴らしさを語り、後半は日本競馬において是正されるべき不公平を論じている。後半になればなるほど深まっていく議論に、読む私たちも覚悟が求められる。

 

国枝調教師は1990年に厩舎を開業した。ちょうど私が競馬を始めた年である。さらに初重賞制覇(ダービー卿チャレンジT)が私の大好きなブラックホークによるものであったことを知り、親近感が一気に湧いた。ちなみにブラックホークは、キーランドセールで宿泊していたトイレで吉田勝己氏と偶然居合わせたことによって、預けてもらうことが決まったそうである。ブラックホークをきっかけとして金子真人オーナーとも知り合ったのだから、ブラックホークは偉大なホースマンたちをも引き合わせたのだ。その後、ピンクカメオやマツリダゴッホ、マイネルキッツなどの活躍馬が出たことで、国枝厩舎は少しずつ存在感を増し、今のアーモンドアイに至るというわけである。

 

本書の中には、馬券に役に立ちそうなヒントもなくはない。たとえば、競馬新聞をどう読むかというテーマに対しては、こう書いている。

 

「私が競馬新聞で重視しているのは、出走馬の血統(父、母、母父)と生産者、馬主だ。どの馬がどこの馬主さんで、誰が生産した、どの血統で兄弟がどうだろう、と探って行く。当然、旧知の調教師がたくさんおり、それぞれの調教師の得意不得意、癖といったものも、そんなに細かくではないがインプットされているので、所属厩舎も注意して見ている。やはり成績が上位の調教師が、どういうところでどういう使い方をしているのかというのも、気にしている。調教師の特徴から「ここではきちんと仕上げて勝負するな」「休み明けはあまり使わない」とか。(中略)エージェントと騎手の動向で、馬の好調を推察できる場合もある。上位の騎手が私の厩舎の馬ではなく、他厩舎の馬を選んでいれば、「要注意」となる。

 

競馬関係者として、生産者と馬主と調教師、そしてジョッキーの思惑が手に取るように分かるからこその競馬新聞の読み方である。休み明けでもきっちりと仕上げて走らせてくる生産者や馬主、調教師もいれば、レースを使いながら仕上げていく彼らもいる。ダートが得意な馬をつくる調教師、前走で惨敗した馬だからこそ次走では思い切った調教で極限に仕上げて激走させる特徴を持つ調教師もいる。生産者も馬主さんも騎手もそれぞれに思想があり、得手不得手があって、競馬界はひとつのエコシステムのように成り立っているのである。国枝調教師ほど内通することはできなくとも、そのような思惑に思いを馳せて推理してみるものまた競馬の楽しさのひとつではないか。

 

馬の体調管理としては、「レース前にとりわけ留意しているのは、私の場合、馬の発汗状態や精神状態、蹄鉄のチェックとなる。レース後に於いては、心房細動の状態やノド鳴り(息づかい)、鼻出血の有無ほか、ふだんの挙動・歩行と違いはないか等、細心の注意を払う」と書いている。レース前(たとえばパドックなど)に見ているポイントは私も同様であり、いかにレースに臨むにあたっての馬の発汗状態や精神状態が重要か分かる。レース後のケアに関しては、レースで完全燃焼してフラフラになってしまうアーモンドアイの様子が想像できるようで、こちらまで胸の鼓動が速くなりそうだ。

 

そして、強い馬を見極める上で国枝調教師が留意しているのは、馬のバランスだそう。「馬全体をパッと見た時の、頭、胴、脚、そのバランスが大事になる。頭がでかすぎるとか、前が勝ちすぎている、つまりトモ(腰から尻、後ろ肢にかけての部分)が小さすぎると、相対的に見た全体のバランス、いわゆるプロポーションがよくない、ということになる。前脚にしても、たとえば歪んでいる箇所があれば、そこに負担がかかって故障の原因になりうる。繋ぎ(蹄から最初の関節<球節>までの部分)の長さや角度、蹄の大きさも良く見ている」と全てのパーツにおいて、極端な形や大きさ、角度ではなく、バランスの良いことを是としているという。このバランスを見るときに大事なのは、パッと見ることだ。じっくり細部を見てしまうと、バランスを見ることはできなくなるからである。

 

その他、外厩の進化やゲートボーイの導入についてなど、付箋をつけた箇所は多くある。そして、この本書の核心である東西格差をどのように解消するのか、という問題については、ぜひ手に取ってじっくりと読んでもらいたい。論旨は明快であり、解決案も具体的である。これだけの提案をされても二の足を踏んでいるようでは、JRAは覚悟が足りないと言われても返す言葉はないだろう。

 

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