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「血統のトリセツ」

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「競馬オタク」の坂上明大さんが、生駒永観さんとの共著という形で、「血統のトリセツ」(サラブレBOOK)という本を出版されました。坂上さんとは何度か競馬場でも一緒に馬券を買ったり、競馬について熱く語り合ったりした仲であり、まるでふた回り年の離れた弟が本を出したような嬉しい気持ちです。勢い余って発売日前日に書店に行ったところ、ありましたよ、「血統のトリセツ」が。好スタートを決めて、もう書棚にしっかりと並んでいました(ちなみに僕の「馬体は語る」は並んでいなかった…笑)。その場で購入し、自粛中のゆったりとした時間の中、さっそく読んでみました。

まず僕自身は、血統についてはある程度の知識しかないことを白状しておきます。たぶん熱心な競馬ファンならば誰もが知っているという程度にしか、血統については詳しくありません。学生時代から、世に出ている競馬に関する書籍はほとんど読み漁ってきたつもりですが、マニアックな血統本だけは無意識のうちに避けていました。それは競馬における血統というファクターは、知れば知るほど奥が深く、どこまでも枝葉が分かれて、迷宮入りしてしまいそうな気がしていたからだと思います。もしかすると、ハマってしまいそうな感覚があったのかもしれません。やればハマってしまうのを恐れて学生時代に麻雀に手を出さなかったように、僕は血統の世界に深い入りする勇気がなかったのです。しかし、「血統のトリセツ」の著者の2人はハマってしまったのですね。素晴らしい。

冒頭において、血統を料理にたとえている箇所は実に分かりやすいと思いました。父や母その祖先の馬たちは具材であり、スピードやスタミナなどは味覚。いろいろな食材が混ざり合って、ひとつの料理ができ上がるわけですが、そこには辛みやうま味、スパイスが利いて、料理全体の味をつくりあげるというイメージです。

ただ、サラブレッドというレシピには1点だけ難点がある。それが「分量」の記載がないこと。そのため、同じ食材で調理しても全く同じ味には一度としてならない。サンデーサイレンスとウインドインハーヘアの間に産まれたブラックタイドとディープインパクトという2頭のサラブレッド。彼らは同じ父母のもとに産まれた全兄弟だが、パワー型の兄ブラックタイドに比べて、弟は日本競馬史に残る瞬発力を幾度となく見せた。さらには、名馬の全兄弟でも全く走らなかったというケースも数えきれないほどある。基本的に血統の再現性は非常に低いのだ。ただ、分量は分からなくても、食材以外の味がすることはない。

血統予想の最大のアキレス健は、全く同じ血統(父と母)であっても違う馬が出るということだと僕は思っています。それは血統というファクターだけで予想をすることが、常に自己矛盾をはらんでいることの証明でもあります(生まれた年が違うというロジックもあるが、それは無理筋に僕には思える)。ディープインパクトが勝つならば、ブラックタイドも勝たなければならないのです。しかし、血統を料理にたとえるという彼らのスタンスは非常に納得できるものがあって、まさに同じ具材を使っているつもりでも、それぞれの要素が複雑に絡み合うことで結果としては全く(もしくは少々)違うものができるが、それでも食材以外の味には決してならないということ。血統は全てを教えてくれないという前提に立つからこそ、坂上さんたちはそこに馬体や走法、性格を組み合わせていくのです。

そういう観点で、各種牡馬別のトリセツを読んでいくと、血統と馬体、走法、性格等の見事な融合というか、ひとつの料理ができあがっていく過程やそこにある隠し味、スパイス、うま味のようなものが手に取るように感じられるから不思議です。個人的には、キングカメハメハの産駒であり、後継種牡馬の1頭であるベルシャザールが父に最も似ているという箇所に何度も頷きました。血統という記号を追うのではなく、アナログな部分も垣間見えるところが良いですね。そして何よりも上手いなと思ったのは、この取扱説明書は実際の馬やレースに当てはめてみることで実用性に気づくものであって、つまりこの「血統のトリセツ」を片手に、YouTubeチャンネル「競馬オタク」を観るべきということなのです。


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