底を見せていない


阪神ジュベナイルF2017―観戦記―
好スタートを切ったラテュロスを交わしてラスエモーショネスが先頭に立ち、前半マイルが47秒7、後半が46秒6というスローペースに流れた。道中は折り合いを欠くことなく脚をためて、最後の直線での瞬発力勝負となった。上位に来た馬はラスト3ハロン33秒台の脚を使っているように、一瞬の切れ味に欠ける馬にとっては力を出し切ることが難しいレースであった。

勝ったラッキーライラックは、スタートから前進気勢が強く、石橋脩騎手にうながされることもなく自然と先行しつつ、レースの流れに乗れていた。外から被されることなく、馬群の外々を終始進めたことも大きい。最後の直線に向くまで、騎手は何もしていないと言ってよいほど、この馬の走るリズムとレースの流れが一致していた。追い出されると、あっと言う間に先頭に立ち、ゴール前では耳を立てて遊ぶ余裕もあったほど。前走のアルテミスSでも耳が立っていたが、G1レースでも最後は流す余裕があることにこの馬の底を見せていない強さを感じる。気性的に難しいところがあるはずで、悪い部分が表に出てこなければ、来年のクラシック戦線も楽しみな存在である。

石橋騎手によるG1制覇は2012年のビートブラック以来となった。あのときは人気薄での逃げ切りだっただけに、人気を背負った今回の勝利は格別の喜びがあるはず。普段は物静かなジョッキーであるが、いざ馬を追い出すと、全身を使って最後まで馬を叱咤激励する。このあたりのギャップも石橋騎手の魅力である。現時点でのラッキーライラックは非常に乗りやすく、これといった難しさはないが、この先、気難しさが出てきたときこそが石橋騎手にとっての試練であり、大きな飛躍が訪れるのではないだろうか。乗り替わりすることなく、このコンビで来年のクラシックに向かってもらいたい。

リリーノーブルは道中もきっちりと折り合い、瞬発力勝負にも難なく対応してみせた。ルーラーシップ産駒だけに、上がりの掛かる競馬の方が得意とするかと思っていたが、そうではなかったようだ。3着に入ったマウレアはディープインパクト産駒であり、今回のようなレースは得意とするところだろう。まだ体が小さいため、今回はもうひと押しが利かなかったが、この先もう少し馬体が成長してくれば夢は広がる。

1番人気に推されたロックディスタウンは、最後の直線で失速してしまった。スローペースを見越して、クリストフ・ルメール騎手が前目のポジションを取りに馬を促したこともあり、道中のかなりの距離をハミを噛んでしまった。ルメール騎手だけにそれほど喧嘩していないように映るが、ロックディスタウン自身はかなり力んで走っていた。これだけ大きく負けた以上、敗因はそれだけではなく、休み明けによる仕上がり不足や前走とのレースの性質のギャップの大きさなどが重なったことで、力を出し切れなかった。能力は高い馬なので、来年になって精神的に成長を遂げたとすれば、巻き返しは必至である。

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明るい未来しか見えない


チャンピオンズC2017―観戦記―
前走でスプリント戦を使っていたことで前向きになっていたコパノリッキーが、内枠を利して先頭に立った。行きたがる1番人気のテイエムジンソクを古川吉洋騎手が抑えるようにして、第1コーナーを2番手で回ってゆく。このあたりの動きで全体の流れは決まり、前半が48秒9、後半が48秒5という平均ペース、このメンバーとしてはややスローペースとなった。結果としても、前に行った3頭がそのまま上位を占めた中、道中は馬群の中でじっと脚をため、最後の直線だけで先頭に立ったゴールドドリームの強さだけが際立った。

勝ったゴールドドリームは、春のフェブラリーSに続き、JRAのダートG1を同年で両制覇したことになる。左回りも同じで距離も200mしか変わらないのだから、何ら不思議はないのだが、ドバイ遠征の疲れもあったのか近走は成績が冴えなかったことで人気の盲点になっていた。それでも馬体は完璧に仕上がっており、むしろ古馬になってますます筋肉量が増えて強靭な馬体を誇示するようになっていた。本来は末脚がしっかりしている馬だけに、馬を御せる騎手が道中で脚を温存することができれば、確実に差して来るのである。ライアン・ムーア騎手の言うように、この馬には明るい未来しか見えない。

前日のステイヤーSに続いて、ムーア騎手が大舞台でその力をいかんなく発揮して見せた。おそらくスタートからゴールまで、ムーア騎手の思い描いていた通りのレースであったに違いない。スタートしてからすぐに内に切れ込んで、馬群の内に進路を確保し、最終コーナーでは先行馬が抜けて、後続の馬が外を回しているその一瞬の間を縫って外に出した。全てが計算通りであるが、計算通りにレースを運ぶことができる高い技術と冷静さが、ムーア騎手を世界一のジョッキーたらしめる理由のひとつである。馬群の外を回して敗れた他の騎手は、縦から横から、繰り返しレースリプレイを見直してみてほしい。

先週のヒュー・ボウマン騎手に続き、短期免許で騎乗する外国人ジョッキーがG1レースを制したことになり、春はクリストフ・ルメール騎手、秋はミルコ・デムーロ騎手が大活躍して、国内G1レースのほとんどを日本人騎手以外のジョッキーが勝っている。この事実をどう捉えるかは人それぞれであるが、外国人ジョッキーばかりが良い馬に乗っているわけではない中で、なぜ外国人ジョッキーばかりが勝つのかを真剣に考えてみるべきだと私は思う。

その要因はひとつではないが、今回のチャンピオンズCにも特徴的な要因のひとつがある。それは前述したように、コーナーを回るときの内外のロスに対する感覚があまりに違うということだ。たとえば、今回のレースにおけるミツバに騎乗した松山弘平騎手とムーア騎手の進路の取り方の違いを比べてみてもらいたい。松山弘平騎手は内枠からスタートしているにもかかわらず外に進路を取り、ムーア騎手はその逆である。少しでも距離ロスを抑え、コーナーにおいて外を回さずに脚をためることを全馬(すべての騎手たち)が徹底すると、馬群はもっとタイトになる。外を回すことについて言及すると、日本人騎手は「馬の気性によっては外を回した方が良い」とか「綺麗なフットワークで馬のリズムを崩さないように外を回した」と返ってくることがあるが、それでは勝てないと言いたい。気難しさを出さずに内を回して勝つ、馬のフットワークを大切にしながら内を回して勝つのが答えである。普段からそのような競馬をしていないと大舞台ではできないし、普段はそのような競馬をしても勝ててしまうことも問題なのである。

惜しくも2着に敗れたテイエムジンソクは、2番手に控えてしまったことが裏目に出た。気持ちの勝った馬であり、大一番でその気性の前向きさが表に出てしまい、また控える競馬もできるタイプだけにそうしたのだが、結果論としては、行き切ってこの馬のスピードの持続力をフルに発揮した方が良い結果が出たかもしれない。すでにG1を勝てるだけの力は持っていることは確かである。古川吉洋騎手は悔しいだろうが、なぜ勝てなかったのか、何が足りなかったのかをしっかりと考えてみてほしい。

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それだけ魅力的であった


ジャパンカップ2017―観戦記―
好スタートを切ったキタサンブラックが、内枠から素直に先頭に立ち、前半1200mが72秒3、後半が71秒4というスロペースでレースを進めた。昨年ほどではないが、G1レースにしてはペースが遅く、前に行った馬たちにとって有利なレースとなった。さらに4つのコーナーを回る東京2400mのコース設定によって、内ラチ沿いの経済コースを走られた馬たちの脚がたまり、外を回らされてしまった馬たちは脚を失ってしまうという、内枠有利の実に分かりやすい結果となった。率直に言うと、これだけ豪華なメンバーが揃ったにもかかわらず、枠順が決まった時点でおおよその勝敗が分かれてしまうジャパンカップはどうしたものか、という思いは拭い去れない。

勝ったシュヴァルグランは、好スタートと内枠を生かし、絶好のポジションを走れたのが最大の勝因である。道中は内の3番手でひたすら脚をため、最後の直線に向いてから外に出されると、ゴールまでしぶとく伸び切ってみせた。もともと実力のある馬であり、今年に入ってから馬体に実が入って、スタートしてから前のポジションを走れるように成長してきたのは確か。前走は休み明けで仕上がっていなかったが、ひと叩きされた今回は、仕上がりと枠順、脚質が見事に噛み合って、待ちに待ったG1制覇を成し遂げてみせた。今回はミルコ・デムーロ騎手がサトノクラウンとシュヴァルグランのどちらに乗るか最後の最後まで迷って前者を採ったが、それはシュヴァルグランが力をつけていて、それだけ魅力的であったという意味でもある。テン乗りのヒュー・ボウマン騎手は、無心で乗って、最高の結果を出した。

レイデオロはスタート直後に他馬によられてしまい、ほしかったポジション(シュヴァルグランが走ったそれ)が取れなかったことが最後まで響いた。ルメール騎手もなんとか前にポジションを上げようと、外に出してみたりとあがいてみたが、これだけ密集していては外に出すのも難しい。レイデオロ自身も伸びそうで勝ち馬と同じ脚色になってしまったあたり、どれだけゆったりとしたローテーションを組んでいたとしても、日本ダービーを勝った反動がわずかに残っていたかもしれない。大きく崩れなかったあたりは、さすが走ることが好きな馬であり、どのような状況でも力を出し切ることができるのが強み。有馬記念をパスして来年に向けて充電する選択は、全くもって正しい。

1番人気に推されたキタサンブラックは、非の打ち所のないレースをして、それでも3着に敗れてしまった。どこが悪いという明確な原因はなくとも、最後は伸び切れなかった以上は、天皇賞秋をピークにして体調がやや下降線を辿っていたということである。G1レースを3つ続けて勝つ(好走する)ことがいかに難しいか。理想としては3戦すべて100%の仕上げを施して出走させたいだろうが、そんな陣営の思いとは裏腹に、下がれば上がり、上がれば下がるという体調のバイオリズムがある。それはキタサンブラックとて例外ではない。次走はさらに体調が下向きになるので、今回と同様に、好走はするも何らかの馬に足元をすくわれるのではないだろうか。

サトノクラウンは6枠からの発走となり、終始、馬群の外を回らされて、脚がたまるところがなかった。直線に向いてからも、逆に先行馬に突き放されることになり、全くと言ってよいほど見せ場がなかった。これはキタサンブラックやソウルスターリングなどにも当てはまることだが、やはり不良馬場で行われた天皇賞・秋を激走した反動が少なからずあったのかもしれない。陣営は中間の様子から疲れはないと判断していたようだが、今回の結果を見る限り、多かれ少なかれ前走からの反動はあったのではないだろうか。

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馬が好きなんだ


マイルCS2017―観戦記―
マルターズアポジーが果敢に先頭に立ち、前半マイルが46秒7、後半マイルが47秒1という平均ペースでレースを引っ張った。馬場も適度に柔らかさを保っており、ペースもイーブンであっただけに、コースの内外もしくはポジションの前後ろにかかわらず、全馬が力を出し切りやすい、実力が素直に反映されたレースとなった。それほど大きな実力差のないメンバーであっただけに、騎手の技量や道中のコース取りの違いによって最後の勝ち負けが分かれた。久しぶりにG1レースらしい拮抗したマイラー同士の争いが見られた。

勝った3歳馬ペルシアンナイトは、前走を休み明けの不良馬場で惨敗したことで、古馬との力差や夏を越しての成長が見えにくい、盲点の馬となっていた。外枠からスタートして行き脚がつかず、ミルコ・デムーロ騎手は道中で早々にコースロスをせずに脚をためることに専念していた。鋭角にコーナーリングをして、先に手応え良く抜け出したエアスピネルの後ろの進路を通り、ゴール前ではハナの差だけ他馬に先んじて見せた。馬体的には成長途上にあり、この先、2000m以上でも走りそうなスタミナを持っている。皐月賞2着、日本ダービーは早めに動いての7着の実力は伊達ではなかった。

言うまでもなく、ミルコ・デムーロ騎手の手綱さばきは申し分なかった。これで今年のG1レースは6勝目となり、しかも全て違う馬に乗ってのものだけに、より価値は高い。もちろん、それぞれのレース(特にG1などの上級レース)において勝てる可能性の高い馬を選び抜いているからこそでもあるが、たとえば今回のレースも馬が良かったから勝てたという単純な話ではない。ひとつでも乗り間違えていれば、掲示板がやっという走りであったかもしれず、それは負けてしまった他馬にも当てはまり、もっと上手く乗れていれば勝つチャンスはあった馬も多かった。最後は世界の名手ライアン・ムーア騎手を競り落としたのだから、今のミルコ・デムーロ騎手の右に出る者は世界を探しても見当たらないと言っても過言ではない。

デムーロ騎手と他のジョッキーは何が違うのだろうか。馬乗りとしての技術が卓越しているのは当然のことであり、日本の競馬に精通していて、ライオンのような勇敢さも秘めているのも分かる。それならば日本の騎手の中にも高い技術を持っている騎手はたくさんいるし、日本の競馬場で何十年も乗ってきて全てを知っている騎手もいる。デムーロ騎手と同じぐらい勇敢な騎手もいなくはない。しかし、他の騎手になくてデムーロ騎手にあるもの、誤解を招くかもしれないが、それは馬に対する愛情ではないだろうか。彼は馬と共に走り、共に生きている。心の底から馬が好きなのだ。馬に対する愛情こそが、彼の馬乗りとしての技術の高さや知識や勇敢さへとつながり、それらを高い次元に昇華させている。そんなことまでを考えさせられてしまう、デムーロ騎手の素晴らしい騎乗であった。

もちろんライアン・ムーア騎手も、馬への愛情という点においては負けていない。スタートからゴールまで、エアスピネルが勝てるように完璧に導いていた。最後の直線もムーア騎手らしい芯のブレない追い方で、エアスピネルの力を100%出し切らせていた。末脚の切れ味という点で少しだけ勝ち馬に及ばなかった。今回は勝てなかったにしても、ムーア騎手にとっては悔いのない騎乗であったに違いない。それでも勝てないのが競馬であり、トップジョッキーとしては何かが自分たちには足りなかったと考えるのだろうか。

3歳馬のサングレーザーも実に惜しい3着であった。勝ち馬とは僅かな差だけに、道中のポジションや最後の直線のコース取りによっては、勝てるチャンスは十分にあった。ここに来て馬(体)はグングンと良くなってきているので、来年が楽しみである。4連勝してきて、G1レースで惜敗するまで激走した疲れは必ず出るはずなので、今後は十分な休養を入れて、体力と気力の充電をし直してからターフに戻ってきてもらいたい。

1番人気のイスラボニータは、道中のポジションも理想的であったが、最後は伸びあぐねてしまった。この馬なりに力は出し切っており、自身の能力的な衰えはほとんどないが、今回は上位馬たちの力が上であったということだ。クリストフ・ルメール騎手も、イスラボニータにG1を勝たせたいという想いが強いのは分かるが、この馬の騎乗にこだわりすぎてしまっている感は否めない。スプリンターズS馬であるレッドファルクスは、距離が少し長いということもあるだろうが、それよりも最後の直線に坂がないことで他馬が止まらず、自身のパワーを生かすことができなかった。この馬にとっては、最後の直線に急坂がある中山競馬場がベストである。

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ここぞでこれしかない


エリザベス女王杯2017―観戦記―
逃げると思われていたクロスコミアのハナを叩き、クインズミラーグロが果敢に先頭に立った。やや行きたがったクロスコミアを和田竜二騎手が抑えると、ペースもあっと言う間に落ち着いて、前半1000mが62秒ジャスト、後半1000mが59秒5という究極のスローペースとなった。素晴らしいメンバーが揃ったものの、これだけペースが緩くなってしまうと、先行できなかった馬や外を回らされてしまった馬にとっては実に厳しく、枠順や脚質による有利不利が大きく出てしまうレースとなった。

3歳馬モズカッチャンは、前目のポジションを確保し、かつ内枠で上手く立ち回ることができたという両方の条件が揃ったことで、待望のG1制覇となった。スタートしてからダッシュが良く、スッと折り合いがつき、動きたいときに反応できる器用さがあるからこそ、展開やポジションの利を味方につけることができたとも言える。前走は道中で落鉄をしてしまい、しかも仕掛けがやや早かったにもかかわらず見せ場をつくった。今回はあらゆることが見事に噛み合って、他の有力馬が力を出し切れない中、モズカッチャンだけは力を十全に発揮したからこその勝利であった。力が抜けているわけではないが、コンスタントに力を出せることがモズカッチャンの強みである。

ミルコ・デムーロ騎手は、これしかないという騎乗でモズカッチャンをG1制覇に導いた。今秋になって和田騎手から手綱を受け継ぎ、ここ2戦は結果を出せていなかったが、ここぞという大舞台で完璧なエスコートをしてみせた。昨年のクイーンズリングもそうであったように、距離的に持つかどうかギリギリの馬をレースの勝ちポジにはめることでなんとか勝たせてしまう技術は驚異的である。できるだけ前目を攻める、内ラチ沿いの経済コースを回ってスタミナのロスを最小限に抑えるという、シンプルな原則を忠実に守っているからこそでもある。日本の競馬の勝ち方を最も良く知っているジョッキーである。

4歳馬のクロスコミアは粘りに粘ったが、あわやの2着に甘んじてしまった。最後はデムーロ騎手の手腕に屈したが、和田騎手としては2番手で進め、レースの流れも味方につけ、この馬の力をしっかりと出し切った。古馬になって馬体がしっかりとして、安定して力を出せるように成長した。クイーンSでアエロリットにハナを奪われ、逃げない形での我慢の競馬を強いられたことも、この馬にとってはプラスに働いたのだろう。

5歳馬ミッキークイーンは仕上がり途上であったにもかかわらず、中団から鋭く伸びて、最も強い競馬をした。順調に使えなかったりしてG1勝ちからは遠ざかっているが、地力という点では牝馬限定レースでは圧倒的に上位である。1番人気に推された4歳馬ヴィブロスは、前半にかなりハミを噛んでしまった分、最後の直線で伸びあぐねてしまった。前に行かなければ勝ち目がないと馬を出して行ったルメール騎手の判断は正しいが、馬が敏感すぎてコントロールできなかった。ヴィブロスのリズムを重視して後から行っていても届かず負けていただろうから、同じ負けるにしても勝ちに行って負けたのだから価値がある。

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名手の見事な手綱さばきではあるが神騎乗ではない


天皇賞秋2017―観戦記―
先週の菊花賞と同様、土砂降りの不良馬場でレースは行われ、レース前から雲行きは極めて怪しかった。大方の予想どおり、ロードヴァンドールが先頭に立ってレースを引っ張ったが、予想に反していたのは、1番人気のキタサンブラックが立ち遅れてしまったこと。場内にはどよめきが響き渡った。これぐらいの不良馬場になると、ペースや展開はほとんど関係がなくなり、最後は馬場への巧拙だけが問われることになる。勝ち馬は別として、2、3着に入った馬は明らかな重巧者であり、4着以下の着差を見ても各馬が能力を出し切ったとは到底言えない異常事態となった。

勝ったキタサンブラックは、決して重馬場が得意なわけではなく、どれだけ状況が悪くても負けない名馬であることを自ら証明してみせた。重箱の隅をつついて、キタサンブラックの負ける要素を探した私自身が恥ずかしくなるような、実に堂々として完璧な勝利であり、サラブレッドとしての強さのレベルの違いを見せつけられた。陣営も昨年は出走しなかった天皇賞・秋を是が非でも勝ちたかったのだろう。残り2戦への余力などを考えることなく、きっちりと仕上げてきていた。今から考えると、凱旋門賞に挑戦しなかったことは吉と出たし、宝塚記念で無理をせずに惨敗したことが秋初戦の仕上がりの良さとして生きた。

とはいえ、キタサンブラックがジャパンカップでも勝利することができるかというと、やや疑問が残る。今回の走りを見ると、天皇賞・秋を目標に仕上げてきたことは明白であり、次走は体調のバイオリズムがなだらかに下がってしまうこともありうるし、今回のような不良馬場を最後まで必死に走り切った反動も十分に考えられる。もしかすると、馬自身が精神的に厳しくなってきて、今回と同様に立ち遅れてしまうシーンを再び見させられるかもしれない。もちろん、これだけの力を持った名馬だけに大きく負けることは考えられないが、今回勝っただけに次回は危険な人気馬となりそうだ。

武豊騎手はこれで天皇賞春・秋を合わせて天皇賞14勝目。立ち遅れたキタサンブラックを落ち着いて勝利に導いた手綱さばきは、さすが名手と呼べるそれ。最後の直線でのコース取りやモタれるキタサンブラックを適切に叱咤激励するステッキ捌きは見事であった。神騎乗と称えられているようだが、今回に限ってはそういうことではなく、不良馬場であったことで馬群がバラけたことが吉と出た感は強い。もし良馬場でレースが行われ、スローに流れていたとしたら、内側を通ってこれだけスルスルと前に取りつくことはできなかっただろうし、ヨーイドンになって後ろからでは前の馬たちを捕らえることができなかったはず。立ち遅れたのが馬群のばらける不良馬場で命拾いした、というのが正直な感想であろう。

サトノクラウンは最後までキタサンブラックに食い下がったものの、どうしても交わすことはできなかった。決して万全の仕上がりにあったわけではなく、今回は重巧者であることが生きた。惜しいのは、(ゴール前での耳の動きを見る限り)この馬は気を抜いてしまうところがあり、最後の直線でもややフワッとしてしまったことだ。ミルコ・デムーロ騎手もそれを分かっていて、馬体を併せたかったはずだが、キタサンブラックと進路が交錯する形になってしまい、馬体を併せるところまで行かなかった。力を要する馬場では滅法強いことがはっきりしたので、暮れの香港競馬はまさに適鞍であろう。

レインボーラインは父がステイゴールド、母の母父がレインボーアンバーという、重馬場を走るために生まれてきたような血統を誇る。菊花賞で2着したようにスタミナも十分にあるが、それ以上に重馬場を苦にしないパワーと精神力がある。良馬場ではG1クラスには届かないが、今後とも馬場が重くなったときには思い出したい血統の1頭である。

リアルスティールは前走の毎日王冠を勝って、充実しているにもかかわらず、今回は馬場に泣かされた。マカヒキは道中のポジションが悪かったが、最後まであきらめることなくグイグイと伸び、実は重巧者であることが分かる走りであった。3歳牝馬のソウルスターリングも道悪下手であり、にもかかわらず最後まであきらめずに走り切ったことは高く評価されるべきであろう。この馬にとっては、マイルから2000mぐらいまでが、今後、活躍できる舞台になるのではないか。

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上がりが掛かれば掛かるほど


菊花賞2017―観戦記―
内枠からウインガナドルが飛び出して先頭に立ち、流れが落ち着くかと思いきや、外から抑え切れずに上がってきたマイスタイルがハナを奪い返した。これだけの不良馬場になってしまうと、時計だけではペースの速い遅いを定めるのも難しいが、道中で折り合いを欠いてしまった馬やハミを噛んでしまった馬は、必要以上にスタミナを消耗してしまい、最後まで走り切ることができなかった。そして、ほとんどの馬が先行しようと前のめりになった分、折り合いをつけて序盤をゆっくり走らせた人馬に軍配が上がった。

勝ったキセキは上がりの掛かるレースに強い、典型的なルーラーシップ産駒である。これまで速い上がりタイムで走ってきたのは能力の高さゆえであって、本質的にはピュッと切れるのではなく、ジワジワと伸びるタイプ。前走の神戸新聞杯であれだけの上がりタイム(33秒9)で上がっておきながら、ミルコ・デムーロ騎手が「ジワジワとしか伸びなかった」とコメントしたのも頷ける。雄大な馬体と新馬戦の勝ちっぷりを見て、「Gallop」誌上でクラシック番付の小結に推した馬だけに、日本ダービーに出走できなかったのは残念だが、まさか菊花賞を勝つことになるとは驚きと共に喜びでもある。

デムーロ騎手は前半馬とのリズムを大事にして乗り、勝負どころからはキセキの深く大きなフットワークを崩さないように、しかし豪快に追って馬を推進していた。騎座がしっかりとしているので、特に今回のような不安定な馬場でこそ、他のジョッキーとの安定感の差が如実に現れるし、だからこそデムーロ騎手が乗る馬は重馬場の中をグイグイ伸びてくる。ゴール前でキセキがバランスを崩した瞬間はヒヤッとしたが、大舞台でのジョッキーとしての度胸と腹の括り方が図抜けていて、静と動の使い分けが実に素晴らしい。

クリンチャーは血統的にも道悪馬場を苦にしないタイプであろう。パワーで乗り切るというよりは、馬体全体のバランスが良いことによって、無駄に体力を消耗しない。前半はゆったりと構え、向こう正面の直線を利用してポジションを上げてゆく藤岡祐介騎手の見事な騎乗と、騎手の指示に応えて動けるクリンチャーの素直さと操縦性の高さがあったことも事実である。ポポカテペトルはパワーを生かして、3着に粘り込んだ。この馬は道悪馬場を苦にしないタイプであろう。

勝ち馬と同じルーラーシップ産駒のダンビュライトは、上がりの掛かるレースが功を奏して好走したが、母父サンデーサイレンスという血統ゆえに、最後はスタミナが尽きてしまったのではないだろうか。人気馬の一角を占めたミッキースワローは、道中でエキサイトして、頭を上げて引っ掛かっていた。前走ではごまかせたが、大一番で気性の難しさが出てしまった。2番人気のアルアインは、道中もきっちり乗られて、力は出し切っている。今年の皐月賞のようなスピードレースを制した馬にとって、今回の菊花賞の不良馬場は応えたはず。それでも大きく崩れないのは、この馬の競走能力の高さの証明である。

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意識の違い


秋華賞2017―観戦記―
雨が降りしきる中、かなりの力を要する重馬場でレースは行われた。大方の予想どおり、カワキタエンカが先頭に立ち、内枠からアエロリットが続く。そこにファンディーナが外から被せるように併走したことで、序盤のペースが落ちず、前半1000mが59秒1、後半が61秒1というハイペースとなった。差し馬にとっては差しやすい、逃げ先行馬にとっては最も残りにくい展開であった。もし逃げ先行馬にとって勝機があったとすれば、さらにペースを上げて、後続の馬たちの脚をなし崩し的に使わせ、極端に上がりが掛かる展開をつくり出したときだろうか。そのようなレースをつくるには、1番人気に推されたアエロリットは前半から力んで走り、最後の手応えが余りにも悪すぎた。

勝ったディアドラは、スタートダッシュこそ決まらず後方からレースを進めたものの、勝負所で内をスルスルと上がっていき、直線に向いたときには先に抜けた馬たちを射程圏に捕らえていた。序盤が思い通りに行かなかったことで、かえって腹を括れたのだろうが、クリストフ・ルメール騎手のあのコース取りがあってこその勝利であったことは間違いない。ディアドラ自身はオークスを好走したのち、夏を越してからめきめきと強さを増し、実に力強く堅実な末脚を発揮できる馬になった。重馬場を苦にしなかったこともあるが、極端な瞬発力勝負にならない限りはたとえ良馬場で行われていたとしても、勝っていたはず。ハービンジャー産駒にしては、馬体全体に軽さがあり、その点ではペルシアンナイトと似ており、これからは軽さのあるハービンジャー産駒が出世してくることを覚えておきたい。

リスグラシューはレースの流れに乗り、自身の末脚を最大限に発揮したが、勝ち馬の爆発力には一歩及ばなかった。前走をひと叩きされたことで、この馬も筋肉にメリハリが出てピリッとしてきたが、それでも成長力という点ではG1レースを勝つには物足りなかった。それでも着差だけを見ると、もし勝ち馬と通ったコースが逆であれば着順も逆であったかもしれないとも思える。それは最終コーナーにおけるコース取りだけの問題ではなく、騎手間の技量の差でもない。スタートしてから武豊騎手がずっと外に進路を探しているのに対し、ルメール騎手は内に入れる機会をうかがっている、その意識の違いである。なぜこれほどまでに2人の外国人騎手が勝ち星を挙げているのか、その違いはどこにあるのか、日本人騎手たちはもう1度見つめ直してみた方が良い。

積極的な騎乗で一旦は先頭に躍り出たモズカッチャンは、ゴール前で止まって惜しくも3着に敗れた。道中は内で脚をためていたが、結果論としては、少し仕掛けのタイミングが早かった。動いて負けたなら仕方ないと割り切れるのがミルコ・デムーロ騎手の良さであり、今回はたまたま負けてしまっただけで、攻めの騎乗でこれまで星の数ほどの馬を勝たせてきた。モズカッチャンは勝ち馬と同じハービンジャー産駒であるが、どちらかというとパワータイプなので今回のような馬場はプラスに働いたと言える。休み明けの前走をひと叩きされ、きっちりと変わり身を見せてくれた。

今年の秋華賞は重馬場で行われ、しかもハイペースに流れたので、もしエリザベス女王杯が良馬場で行われ、例年のようなスローの瞬発力勝負になった場合、秋華賞の結果がそのままエリザベス女王杯に結びつかない可能性も十分にありえる。その時に秋華賞から巻き返すとすれば、ディープインパクト産駒のファンディーナかカワキタエンカとなるだろうか。それとも、距離が延びて今度こそ勝ちたいリスグラシューだろうか。ヴィブロスやアドマイヤリード、スマートレイヤーなどの古馬と争う、エリザベス女王杯が実に楽しみである。

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まさに人馬一体


スプリンターズS2017―観戦記―
ワンスインナムーンが先頭を奪い、ダイアナへイロ―とフィドゥーシアが続き、ダッシュ力のある牝馬たちがレースを引っ張った。前半600mが33秒9、後半600mが33秒7という数字上は平均ペースではあるが、G1レースとしてはスローにあたる。後から行きすぎた馬にとっては差しづらく、しかも今年は内側が伸びるトラックバイアスのある馬場であったことも含め、外を回した差し馬にとっては厳しいレースとなった。そんな中でも、勝ち馬の末脚は際立っていて、このメンバーでは明らかに力が抜けていた。

勝ったレッドファルクスは、安田記念以来、休み明けのぶっつけ本番となったが、きっちりと仕上がっていた。昨年のスプリンターズSを勝った以降は調子を落としてしまい、香港で惨敗したのちそのまま休養に入ったことで今春は仕上がりが今一歩であった。そこから調子を上げつつ春は3戦し、調子が上向いた状態で夏の休養に入ったことで、秋シーズンに向けて仕上げやすかったに違いない。どのような形で休養に入ったかで、次のシーズンに向けての仕上げやすさや状態が違ってくるということである。レッドファルクスはダート戦でも勝ち星があるように、パワーに優れていて、中山競馬場の最後の急坂は合うし、香港の力の要る芝も得意とする。次走の香港スプリントでも大いにチャンスがあるはず。

ミルコ・デムーロ騎手は、馬の背に吸いつくようなフォームで乗り、まさに人馬一体となってゴールへと向かっている。レッドファルクスの力を信じ、あわてず騒がず直線では外に出し、ゴール板のところが最速になるような末脚を見事に引き出した。最後は手綱を緩める余裕さえあり、2着馬とはクビ差であるが着差以上の完勝であった。短期免許で乗っていたときは、勝ちにはやって危なっかしい騎乗が目立ったこともあったが、今は日本の競馬にも慣れ、アグレッシブさは残しながら周りの状況が見えるようになっている。クリストフ・ルメール騎手と並んで、もはや注文をつけるところのないジョッキーと言っては言い過ぎだろうか。

2着に入ったレッツゴードンキは、スローペースに乗じて内枠を生かしつつ、1200mを最短距離で回ってきた。ペースが速くなっていれば前の馬が下がってきて進路を失っていたかもしれないが、これだけ楽なペースで行ければワンスインナムーンもフィドゥーシアも最後まで下がってこなかった。マイル戦を走り切れるスタミナはあるが、最近はややハミを噛んで力んで走ってしまうため、今はスプリント戦がベストだろう。

メラグラ―ナは脚質的に後ろからのレースになってしまうため、展開に大きな影響を受けることは仕方ない。馬体全体のシルエットは美しいが、このメンバーに入ると線の細さが目立つように、もう少しパワーアップできるとG1レースに手が届くはず。セイウンコウセイはいつもの前進気勢に欠け、後手に回っているうちにレースが終わってしまった。このような結果が出てしまうと、高松宮記念を勝った後に函館SSを使ったことがより不思議に思えてくる。ローテーションはサラブレッドを生かしたりも殺したりもするのだ。ビッグアーサーは長期休養明けのため、高ぶる気持ちがコントロールできず、地下馬道から本馬場に出るときにはすでにまともに歩けていなかった。あれではさすがに力を出し切ること難しい。

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言葉が見つからない


凱旋門賞2017―観戦記―
今年の凱旋門賞は、ラフランコ・デットーリ騎手の騎乗するエネイブルが圧勝した。戦前は包囲網だのチーム戦だのと騒がれたが、そんなことお構いなしの強さで他馬をねじ伏せた。凱旋門賞を連覇した名牝トレヴと比べても、エネイブルはフットワークがより力強く、スタミナと勝負根性に優っていて、最強牝馬の称号に相応しい。それ以外の馬たちについては語ることはないレースであり、特に日本馬の2頭に関しては絶望的なまでに言葉が見つからない。

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負けるべきときには負けるべき


宝塚記念2017―観戦記―
積極的に前に行こうとしたシュヴァルグランが押し出されるようにしてハナに立ち、それに並ぶようにしてシャケトラとキタサンブラックらの人気馬が続いた。前半1000mが60秒6、後半1000mが59秒1だから、タイム的にはスローペースにもかかわらず、直線入り口では先行勢が軒並み力尽き、後方に控えていた馬たちが突き抜けるという展開となった。これが少頭数のレースの難しさであり、他馬を必要以上に意識してマークを強めたことにより、自分も消耗してしまい、後ろから自分のペースで走った馬たちに足元をすくわれてしまうという現象が起こった。

勝ったサトノクラウンは、唯一、キタサンブラックの動きを見ながらレースを進められ、最適なコースとポジション取りができたことが勝利につながった。産経大阪杯は絶好の馬場で行わるスピードレースに良さを出せずに終わってしまったが、宝塚記念は馬場も重くなり、この馬のパワーとスタミナを生かすことができた。ラスト3ハロン33秒台のレースを制したこともあるように、つかみどころのない馬ではあるが、香港で初のG1レースを勝利したように、本質的には力を要する馬場で行われる時計の掛かるレースを最も得意とするのだ。そして、最大の勝因は体調の良さにある。前走時は暮れの香港遠征から今年の早い時期に京都記念を勝利したことによる疲労が出てしまっていた。阪神の出張馬房で入れ込んで消耗してしまったのも、そもそもは調子の悪さがベースにあったはず。産経大阪杯からひと息入れて、立て直し、出張馬房にも最善の手を打った堀調教師の判断と手腕には脱帽する。

ミルコ・デムーロ騎手は相変わらず絶好調であり、その勢いを宝塚記念でも生かしてみせた。特に、先行した有力馬3頭に息が入りそうになったところで、自ら一気に上がって行き、息を入れさせなかったことで、シュヴァルグランとシャケトラ、キタサンブラックは苦しくなった。道中のレースの組み立てから、勝負所での馬の動かし方まで、もはや今の中央競馬では騎手としての力が一枚抜けている。もちろん、馬の力があってこその勝ちもあるが、デムーロ騎手が乗ったからこそ勝っているケースも少なくない。今回は馬と騎手の両方の力が合わさっての会心の勝利であった。

ゴールドアクターは、横山典弘騎手に導かれて2着に突っ込んだ。馬自身の精神状態が良くなってきたことに加え、先行争いに巻き込まれることなく、ゴールドアクターのリズムで走ったことが最後の伸びにつながった。絶好調時に比べて力は落ちているのは間違いないが、有力馬が自滅してくれる展開になれば、連対できるだけの力はまだ残っている。牝馬ミッキークイーンは先行勢について行けなかったことが功を奏して、3着に入ることができた。前走のヴィクトリアマイルは、久しぶりに勝利した阪神牝馬Sの反動で走らなかったが、今回はこの馬の力を発揮できたと言える。

シャケトラはシュヴァルグランに馬体を併せすぎたし、さらに外からキタサンブラックに来られて引くに引けなくなってしまった。キタサンブラックも中途半端な形で先行することになり、相手の力だけではなく、自らの力も奪われてしまい、直線半ばで力尽きてしまった。少頭数であればあるほど、ジョッキーたちは様々な作戦やレースの組み立てを考えるのだが、今回のレースは考えすぎた騎手ほど自分の馬の型で走らせることに失敗している。その中でもシャケトラは良く最後まで踏ん張っている。これぐらいの距離がベストであり、秋の芝中距離路線では楽しみが膨らむ馬の1頭である。

圧倒的な1番人気に推されたキタサンブラックの敗因は、単純に前走の天皇賞・春をレコードタイムで勝ったことによる反動である。武豊騎手も陣営も良く分かっているはず。それほどに前走は厳しいレースであったし、さすがのキタサンブラックも春のG1レースを3連勝することはできなかった。この春は産経大阪杯と天皇賞・春と苛酷な調教にも耐え、最高の状態を維持してき。今回も肉体的に崩れたというよりは、最後まで踏ん張るだけの気力が残っていなかったということである。

サラブレッドは負けるべきときには負けるべきであり、関係者も競馬ファンもそれを理解してもらいたい。今回の敗北を受け、北島オーナーは凱旋門賞行きを断念したようだが、それは間違った判断である。凱旋門賞を勝てるぐらいのピークの出来に持っていくとすれば、宝塚記念は本来スキップすべきだし、仮に出走したとしても負けるべきレースである。ここを勝てるだけの仕上げを施して、勝ってしまうと、そこから下降線を辿った体調は10月までには戻らないからである。それを負けたから凱旋門賞に出ないとは本末転倒であり、宝塚記念を勝ったら凱旋門賞に出るという発想自体が根本的におかしい。むしろ凱旋門賞を本気で考えるのであれば、宝塚記念で負けたことを喜ぶべきなのである。

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地を這うように

Yasuda2017
安田記念2017―観戦記―
前年の覇者ロゴタイプが昨年同様に先頭に立ち、前半マイルが45秒5、後半が46秒0という、G1のマイル戦としてはごく平均的なペースでレースを引っ張った。47秒0-46秒0に流れた昨年と比べると確かに速いが、先行した馬たちが潰れるほどのハイペースでもない。ロゴタイプが粘ったのは当然のことで、言ってみれば、逃げた馬も差した馬もどこから行った馬にとっても勝つチャンスのあるレースになった。脚を余すことなく、スタートからゴールまで前が詰まることなく力を出し切ったかどうかが勝敗を分けた。

勝ったサトノアラジンは、スローにならなかったことに加えて良馬場で走れたことで、持ち前の末脚を十全に発揮することができた。追えば追うほど頭が低くなり、地を這うように伸びる様は父ディープインパクトを彷彿させる。今回の勝利を見ても、昨年のマイルCSにおける最後の直線の不利がどれだけ大きかったかが分かる。蒸し返すつもりはないが、あの不利がなければ勝っていたのはサトノアラジンであり、現行ルールに照らしてみても、ミッキーアイルと浜中俊騎手が降着にならなかったのはおかしい。サトノアラジンは展開や馬場に左右される面は否めないが、その末脚の確かさは2000mぐらいの距離までは変わらないはずである。

川田将雅騎手は、スタートから小細工することなく、直線に向いて大外に出して追い込んでみせた。長く良い脚を使うタイプの馬だけに、前をカットされてしまうと致命的になることを念頭に置いたコース取り。これしかないという騎乗ではあるが、余計なことをせず、やるべきことに徹した騎乗はさすが仕事人である。調教技術には卓越したものがある池江寿泰調教師と川田騎手のコンビの相性は極めて良く、忘れた頃にやってくるので注意すべき。

昨年は展開に恵まれたが、今年は力を出し切ってあわやの2着となったロゴタイプ。連覇はならなかったものの、7歳になっても衰えを見せないどころか、馬体も充実している。皐月賞を勝った当時は、「サンデーサイレンスに似ている」とさえ吉田照哉氏に評価されたほどの馬だけに、紆余曲折ありつつ、長きにわたって結果を出している。田辺裕信騎手の迷いのない騎乗も功を奏した。

レッドファルクスは最後まで伸びたが、仕掛けのタイミングが遅れてしまったことが響いた。馬群を上手く捌けていれば、サトノアラジンに肉薄していたはず。1200mのG1レースを勝ってはいるが、マイルの距離も全く不安を感じさせない、マイラーとしての走りであった。負けはしたものの、陣営にとっては収穫の大きなレースであったに違いない。

エアスピネルも同様に、最後の最後まで前が開かず、最後の200mぐらいしかまともに追えていない。ピリッと伸びる一瞬の脚で勝負するのではなく、どちらかというとパワーで押し切るタイプだけに、この馬の良さが発揮できなかった。ゴール板をすぎてからは先頭に立っているだけに、この馬も脚を余していなければ勝ち負けに加われていたはず。パトロール映像で見る限り、前が開いていれば勝っていたかもしれず、抜け出すスペースが全く開かなかったのは不運としか言いようがない。

Photo by 三浦晃一

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動けば負け、動かなくても負ける。

Derby2017
ダービー観戦記―2017―
内枠から横山典弘騎手が乗ったマイスタイルが先頭に立つと、トラストや皐月賞馬アルアインが続く。他の馬たちはゴチゃつくのを嫌い、手綱を引いた状態で第1コーナーに突入したため、3ハロン目から急激にペースが落ち着いた。前半1000mが63秒2、後半1000mが59秒1という究極のスローペース。馬群の内でじっと我慢して脚を溜めるか、前のポジションを取っていなければ勝負にならない、先週のオークスとほとんど同じレースとなった。ところが、ただ1頭と1人だけ、向こう正面において外から動いて2番手まで押し上げた馬とジョッキーがいた。

レイデオロはこういう競馬をして勝ったのだから、他馬よりも1枚以上力が上であったということになる。休み明けとなった皐月賞は行きっぷりが悪く、ゴール前は伸びてきたものの届かず5着に敗れてしまったが、ひと叩きされた日本ダービーは本来の仕上がり。内枠であればもう少し突き抜けていたはずだし、ペースが速くなっていたら他馬が止まって見えるような豪脚がさく裂していたはず。サンデーサイレンスの血が全く入っていないにもかかわらず、他のサンデーサイレンスの血を内包した16頭の馬たちとの瞬発力勝負を制してみせた。たった50頭しか生まれていない世代の産駒の1頭が日本ダービーを制したことも、キングカメハメハの種牡馬としての凄さを物語っている。普通ならば、最後の直線で(気持ち的に)止まっていてもおかしくないレースであったが、レイデオロが走ることの好きなサラブレッドであるからこそ、最後まで走り抜けることができたのである。

藤沢和雄調教師も初の日本ダービー制覇となった。レディブロンドやシンボリクリスエスという、自身が手掛けた名馬たちによる血の結晶のようなレイデオロで悲願を達成し、喜びもひとしおだろう。そういえば、レイデオロの非凡なスピードと瞬発力はレディブロンド譲りだし、聡明な顔つきと賢さはシンボリクリスエスに似ている。藤沢和雄厩舎は一時期スランプに陥ったこともあったが、どのようなときにも笑顔を絶やさず、リップサービスを忘れず、「目くらやみの仕事はするな」という父の教えを忘れず淡々とやってきたことが、今日の1日につながった。

クリストフ・ルメール騎手も、遂にダービージョッキーとなった。向こう正面でペースが落ち着いて、他の騎手たちは行きたがる馬をなだめるのに四苦八苦する中、彼だけは何の躊躇もなくポジションを2番手まで押し上げた。正直に言うと、あの動きを見た時点でレイデオロの勝ちはなくなったと思ったが、そのまま最後まで押し切ってしまったのだから二重に驚かされた。とはいえ、あそこで動いたから勝てたのではない。ペースが遅いと分かっていても、動けば普通は負けるからこそ他の騎手は動けない。動けば負ける、動かなくても負ける。その状況では動けないのが人の常であり、それが日本ダービーという舞台であればなおさら動くという選択をできる騎手は少ない。先週のオークスを勝っているという余裕と自分のジョッキーとしての判断や技術に対する自信、そしてレイデオロに向けた信頼と期待がルメール騎手に動くという定石破りの判断をさせたのだろう。

2着に敗れたスワ―ヴリチャードは、枠順にも恵まれて、道中は最高のポジションを走ることができた。最後の直線に向いての反応も抜群で、四位騎手も一瞬は勝ったと思ったのではないだろうか。ここに向けての仕上がりも良かった。あらゆる全てが上手く行って、それでも勝てなかったのだから、相手が強かったとあきらめるしかない。距離が延びてさらに良さが出る馬だけに、このあとはゆっくりと休養させて、菊花賞を目指してもらいたい。四位騎手に敢えて苦言を呈するならば、最後の直線ではもう少し真っ直ぐに馬を追ってもらいたかった。

青葉賞馬で初のダービー制覇を目指した1番人気のアドミラブルは、大外枠からの発走が仇となり、3着まで突っ込んでくるのがやっと。道中のあのポジションでは厳しいし、最後のコーナーでは外に張られており、実に悔しい競馬であった。ミルコ・デムーロ騎手はオークスに続けて外枠にたたられ、強い馬を勝たせることができなかった。いつもは思い切りの良いデムーロ騎手もさすがにダービーでは動けない。アドミラブル自身は素晴らしい能力を秘めた馬だけに、秋以降、そして古馬になってからの活躍が楽しみである。

Photo by 三浦晃一

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つまらない競馬は見たくない

Oaks2017
オークス2017―観戦記―
先週とは打って変わって、絶好の良馬場でオークスは行われた。内枠を利してフローレスマジックがハナを切り、同じく内枠を引いたミスパンテールとソウルスターリングがその直後のポジションを確保し、あっさりと隊列は決まった。前半1200mが74秒0、後半が68秒9という、恐ろしいまでの超スローペース。馬群の外々を回されてしまった馬では勝負にならず、前に行った馬たちにとって極めて有利なレースとなった。

勝ったソウルスターリングは、力が一枚上であった上に、枠順にも恵まれ、見た目以上の余裕の勝利となった。ゲートから飛び出したあとは、直線に向くまでひたすら我慢を重ね、最後の直線でゴーサインが出されるや、一瞬にして先頭に躍り出て駆け抜けた。桜花賞ではぬかるんだ馬場に脚を取られてしまったが、広々とした東京競馬場の良馬場に舞台が変わったことで、この馬のフットワークの大きさが生きた。前走で初めての敗北を喫し、精神的に切れてしまうことも心配されたが、全てを杞憂に終わらせる、魂が解放されたような走りであった。

クリストフ・ルメール騎手は余計なことを考えず、とにかくソウルスターリングの走るリズムを崩さないことに専念していた。超スローペースにおける、内の2番手という絶好のポジションを走ったのは、あくまでも結果的にすぎない。もちろん、何もしなくても、そのポジションに収まることが分かっていたからこそ、ソウルスターリングを御すことだけに集中できたという面もある。いずれにしても、ルメール騎手は騎乗馬のリズムで走らせること(無理に抑えたり出したりしない)とレース全体における勝つためのポジションを取ることの両方の折り合いをつけることが巧い。

和田竜二騎手に導かれ、モズカッチャンも狙っていた通りのレースをし、最高の結果を出すことができた。前走も内枠を生かした競馬で勝利し、今回も距離が400m延びただけで、ほぼ同じようなレースを再現したといえる。馬に力があり、器用なレースができるからこそではあるが、理想的な枠番を引くことで、これほどまでに成績が(良い意味で)変わってしまうのかと思わせる走りであった。

最も惜しいレースをしたのはアドマイヤミヤビだろう。惜しいというよりも悔しいと言うべきか。外枠からの発走となり、馬群の外を回らされ、しかも後方から進めざるを得なかったのだから、今回のレースでは勝つチャンスはゼロに近かった。それにしては最後まできっちりと伸び、3着を確保したのだからやはり能力は高い。桜花賞は重馬場に、オークスは枠順に泣かされた。さすがのデムーロ騎手でもなす術がなかった。

最も上手く乗って着順を上げたのは4着のディアドラである。岩田康誠騎手はとにかく馬場の良い内を走ることだけを考えて、道中は馬群の中で脚を溜めた。最後の直線でも内を突いて得た、値千金の4着ではないか。対して、リスグラシューはスタート後に前をカットされたことで、逆に内に切れ込むスペースを見つけたように見えたが、なぜか武豊騎手は外に出そうとしてしまった分、ポジションを悪くした。おそらくリスグラシューが掛かり気味になったので外に切り替えたのだろうが、あれぐらいで内に入れるのを怖がっていてはいけない。乗り方次第では3着争いには加われたはずである。目に見えない部分ではあるが、微妙な着順の上下に(私たち以上に)陣営は敏感である。

今年のオークスほどつまらない競馬を見たことがない、と言えば言い過ぎだろうか。これまでも数多くのつまらない競馬を見せられてきたが、さすがに今回は沸点を超えたので書きたいと思う。つまらなさの原因は、トラックバイアスとポジションバイアスが組み合わさって、スタートが切られる前からすでに大きなハンデが生まれていることである。内枠を引いた馬と外枠を引いた馬とでは、少なくとも1秒(6馬身)ぐらいの差があるはず。同時にスタートしているように見えて実は、(もしレースが直線で行われているとすれば)ソウルスターリングよりもアドマイヤミヤビは1秒遅れ、または6馬身後ろから走り出しているぐらいの大きな不利なのである。ソウルスターリングの方が一枚上の能力を有しているにもかかわらず、6馬身先からスタートを切れば、つまらない競馬にならないわけがない。スローペースがつまらないのではなく、スローペースになることで馬群が固まり、内のポジションを走らないと勝てないレースになったその内を他馬よりも強い馬が走ると、つまらない競馬になるのだ。せっかく関係者たちが大舞台に向けて一生懸命に馬を仕上げてきているのに、これだけバイアスが掛かってしまうと興ざめだろう。そろそろこのあたりは深く考えなければならない日本の競馬の課題のひとつだろう。競馬がつまらないのではなく、つまらない競馬は見たくないということだ。

Photo by 三浦晃一


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ルメール騎手は目が良い


ヴィクトリアマイル2017―観戦記―
内枠を利してソルヴェイグが先頭に踊り出て、その後ろにスッと武豊騎手のスマートレイヤーが付けた。前日から降り続いた雨で悪くなった内ラチから4、5頭分の馬場を避けるように、各馬揃って第1コーナーから第2コーナーへと回ってゆく。前半マイルが47秒9、後半が46秒0という超スローペースに加え、いつもよりさらに外を回されてしまった馬たちは直線に向いて脚を失った。隊列(馬群)の内を走れた馬たちにとって極めて有利な、道中のポジション取りが勝敗を分けたレースとなった。

勝ったアドマイヤリードは、道中は内々で脚を溜め、最後の直線で馬の間を割って突き抜けた。420kg台の小柄な牝馬とは思えない、闘志あふれるレース。もともと全身でバネの利いた走りをする、高い素質を秘めた馬であったが、ここに来てようやく精神面が追いついてきた。ステイゴールド産駒の牝馬特有の飼葉食いの細さはあるのだろうが、ステイゴールド産駒だけにこうした力を要する馬場が合っていた。須貝尚介調教師はゴールドシップの天皇賞春以来、2年ぶりのG1レース勝利となり、これでステイゴールド産駒との相性の良さが浮き彫りになった。

クリストフ・ルメール騎手の騎乗に関しては、お見事としか言いようがない。レース全体を俯瞰しつつ、各馬の細かな動きを見逃さない。ひと言で表すと、目が良いということになる。アドマイヤリードは決して乗りやすい馬ではなく、むしろ繊細な手綱さばきを求められるにもかかわらず、何ごともなかったかのようにきっちりと折り合いをつけ、道中は最高のポジションを走らせ、完璧な形で最後の直線に向いた。道中できっちりと抑えられるからこそ、ラストはしっかりと伸びる。一瞬の脚しか使えないアドマイヤリードを追い出すタイミングも文句なし。馬を動かす技術と瞬時の冷静なヘッドワークが融合した結果の勝利である。

あっと言わせたのは、11番人気ながらも2着に突っ込んだデンコウアンジュ。道中は中団を進み、決してベストポジションを走れたわけではないが、メンバー中最速の33秒2の脚を使って追い込んできた。最終コーナーを回るところで外の馬が壁になり、仕掛けのタイミングが遅れた分、脚が溜まったのだろう。ラスト100m地点で他馬を飲み込んで、蛯名正義騎手もやったと思った瞬間、馬群からアドマイヤリードがグッと抜け出した。ひとつだけ、この馬が激走した理由を挙げるとすれば、父メイショウサムソン譲りのパワーが生きる馬場であったということだ。

ジュールポレールは持ち前の瞬発力を生かせたが、良馬場であればなおさら切れたはず。もはやG1級の能力を秘めていることを証明したことになり、牝馬同士の重賞レースであれば、この先、常に勝ち負けに加わることができるだろう。スマートレイヤーは持ち前の渋太さを生かせる流れにはならなかったが、レースの流れに乗り、7歳牝馬としては良く走っている。逃げたソルヴェイグは、すんなり先行した川田将雅騎手の好判断のおかげで掲示板に載ることができた。

1番人気のミッキークイーンはどうしたのだろう。隊列の外を回らされた(人気を背負っているだけに安全に外を回った)ことだけが敗因ではない。脚の怪我をして復帰した馬だけに、前走で重馬場を目いっぱい走らされた激走の反動が出てしまったのかもしれない。レッツゴードンキについては、馬場が重くなり、スピードレースにならなかったことに加え、終始馬群の外々を回らされて引っ掛かってしまったことが痛かった。

今年のヴィクトリアマイルを観て思ったことは(以前から指摘してきたことではあるが)、日本の騎手たちは馬場の良し悪しを気にしすぎる。どこが伸びて、どこが走りにくいのか、気にするのは良いことだが、気にしすぎる余り、レース全体におけるポジションを悪くしてしまっては元も子もない。今回も内ラチ沿いを思い切って攻めたのはデムーロ騎手であり、ルメール騎手であったように、多少馬場の悪いところを走ったとしても、(特にスローに流れるレースにおいては)内を走って距離ロスを避けるメリットの方が大きいのだ。日本人騎手には自分の頭と感覚で判断して馬を走らせてもらいたい。

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職人たちよ


NHKマイルC2017―観戦記―
アエロリットがフライング気味にゲートを飛び出したが、内からボンセルヴィーソがハナを奪い、モンドキャンノがそれに続いた。前半マイルが46秒1、後半が46秒2というイーブンペースであり、このレベルのレースにおいては遅い流れと言っても過言ではない。しかもこれだけ馬場が良いと、前に行った馬は止まらない。後から行った馬にとっては追い込みづらく、内を進んだ馬がなぜか伸びない、3週目にしては珍しくトラックバイアスの掛かった不思議なレースとなった。

勝ったアエロリットはずいぶんと乱暴な競馬をしたが、最後まで止まらず伸び切ったのだから強い。G1レースにおいて、これだけ力んで道中を走りながら、そのまま押し切ってしまう馬を久しぶりに見た。トラックバイアスが大きかったということでもあるが、それを生かせたのは、アエロリットの仕上がりが良かったから。このレースに照準を合わせ、菊沢隆徳調教師によって渾身の仕上げが施されたことによる勝利であった。一流ジョッキーたちも一目置く、馬を知る職人が調教師となってから初めてのG1勝利。この先、菊沢厩舎からは続々と活躍馬が出るだろうし、その背には横山典弘騎手がいるはずである。

横山騎手はスタートから積極的な騎乗をしようと考えていたはず。馬場を読みつつ、極限まで仕上げられている馬を感じて、無理に抑えるよりも、思い切って行かせてしまうぐらいの気持ちを持って乗っていたからこそ、今回のレースにおけるベストポジションを走ることができた。馬をリラックスさせるために、内の2頭から少し離し、少しでも馬場の良いところを選んで最終コーナーを回ったのもファインプレー。また、引っ掛かっているように映って、実はそれほど馬と喧嘩していない、アクセルをふかしつつもブレーキを踏む騎乗は、まるで往年の岡部幸雄騎手を見ているようであった。

デビューからダートで4連勝したリエノテソーロが2着に突っ込んだように、極端に速いタイムが出る馬場で行われたことで、スピードだけではなく、パワーを要求されるレースでもあった。言葉で説明するのは難しいが、瞬発力や切れ味に変換される一瞬のスピードではなく、持続してスピードを維持するためにはパワーが必要になる。同じ牝馬でも、1番人気に推されたカラクレナイやミスエルテといった切れ味勝負のスピードタイプの牝馬が揃って凡走し、クロフネ産駒のアエロリットやダート実績のあるリエノテソーロが好走したのはそういう理由である。

牡馬で最先着となったボンセルヴィーソも、持ち前のスピードとパワーを活かして粘り込んだ。どんなレースでも安定して先行できるタイプだけに、今回のようなレースは型にはまった。モンドキャンノはスタートが良く、絶好のポジションを進んだかのように映ったが、直線に向いて全く伸びず。距離が1ハロン長かったということだろう。レッドアンシェルは極限の仕上がりにあり、その分、入れ込んでいたが、福永祐一騎手が上手くなだめながら乗って外から伸びた。この馬の気性面を考えると、これが最善の乗り方であり結果であろう。アウトライアーズはやや積極性に欠ける騎乗で、位置取りが悪くなり、今回の前残りの競馬を差し切るほどの力はなかった。

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チー坊と菊:「ガラスの競馬場」

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神の領域


天皇賞春2017―観戦記―
ヤマカツライデンが大逃げを打ち、前半1000mが58秒3、後半が60秒2というハイペースをつくり出した。8ハロン目に1度だけ13秒台が刻まれたものの、中盤もほとんど緩みのない流れとなった。レコード決着となったのは馬場が硬かったからであるが、昨年と大きく違うのはレースの厳しさであり、スピードとスタミナを問われる天皇賞・春となった。このような極めてレベルの高い競走が観られると、(天皇賞・春こそが最強馬決定戦であると私は今でも考えているが)菊花賞や天皇賞・春といった長距離レース不要論を一蹴できるようで嬉しい。ほとんど全てのレースがスピード・瞬発力勝負に特化している日本の競馬においてこそ、3000m以上の距離をあえて設けてでも、本物のスタミナを問うべきなのである。

天皇賞・春を連覇したキタサンブラックは最強馬の称号に相応しい。昨年とはまるで違う流れを2番手で受けてそのまま押し切ったのだから、今年の勝利は価値が高い。しかも昨年よりも強くなっていることに素直に驚かされる。4歳時に天皇賞・春を勝って以降、さらに成長する馬などほとんど見たことがない。メジロマックイーンぐらいだろうか。他馬よりも明らかに大きなフットワークで、どこまでも駆けてゆく姿は真のステイヤーである。そのキタサンブラックでさえも、ラスト1ハロンは止まりかけていたと言うほどだから、いかに激しいレースだったか分かるだろう。そして、最後のひと踏ん張りが利いたのは、厩舎が王者の地位に甘んじることなく、キタサンブラックを鍛え上げてきたからである。どう考えても反動の出る内容のレースであるから、このあとは宝塚記念に参戦させることなく休養を取って、早目にフランスへ渡ってもらいたい。

武豊騎手はまたしても隙のない騎乗であった。スタートしてからゴールまで、ひとつとして無理をさせることなく、キタサンブラックの強さを引き出しつつ、他馬の良さを封じ込めた。今年で48歳となり、さすがに往年の武豊騎手ではないことは確かだが、そのことでかえって今はキタサンブラックのような先行して押し切る(逃げ切る)タイプの馬が合っているとも言える。若いときの筋力や柔らかさを生かして追い込んでくる競馬ではなく、行きたがる馬をなだめつつ絶妙なペース判断と仕掛けのタイミングで勝負するということだ。年齢や経験に応じた、それぞれのステージでの名馬との出会い。最高のコンビで凱旋門賞を逃げ切る姿を見てみたい。

シュヴァルグランは好スタートから好位につけ、道中はリラックスして走り、最後までキタサンブラックに食らいついた。昨年とはレースの流れが違ったこともあり、今年は自然とシュヴァルグランのスタミナが引き出された。今回は相手が悪かったが、この馬の力は出し切っている。福永祐一騎手は一点の曇りもない攻めの気持ちを持ち、勝つつもりで乗っているのが伝わってきた。昨年は酷評したが、今年は負けたものの完璧な騎乗であった。

サトノダイヤモンドはキタサンブラックらを見ながら進み、折り合いもついて、最高の形で最後の直線を迎えたが、この馬としては伸びを欠いてしまった。今回のペースを考えると外を回ったことは誤差の範囲であり、単純に先着を許した1、2着馬の方がスタミナの面で上手であったということだ。ディープインパクト産駒は天皇賞・春を勝ったことがないように、3200mという距離はサトノダイヤモンドにとって決してプラスにはならなかった。3000mと3200mは違うということ、今回はスタミナを問われるレースになったことで、スタミナ不足が明確化してしまったのである。その文脈において、宝塚記念に出てくればこの馬を負かすことは難しいが、凱旋門賞にはキタサンブラックの方が向いている。

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先んずれば馬をも制す


皐月賞2017―観戦記―
外枠からアダムバローズやトラスト、クリンチャーらが飛び出し、先行争いを演じたように見えたが、前半1000mが59秒0、後半が58秒8という平均ペース。芝の状態が絶好で速いタイムが出たが、決してレベルが高いわけではなく、前が止まらない馬場であったということ。先行したスピード馬たちが簡単に止まらず、後ろから行った馬たちにとっては勝つチャンスが少ないレースとなった。全体時計は昨年とほとんど同じだが、レースレベルは昨年の方が圧倒的に高い。それは日本ダービーの結果が出れば分かるはずである。

勝ったアルアインは、レースセンスの良さと持って生まれたスピードの絶対値を生かして皐月賞馬となった。一度だけ敗れたシンザン記念は前が詰まってのものだけに、これまでに力負けしたレースはなく、人気の盲点になっていた。良血のディープインパクト産駒であり、勝たれてみると強かったということになるが、今回は他のどの馬よりもアルアインのスピードが十全に発揮されたことが大きな勝因であった。日本ダービーは脚をためて、爆発力が問われるレースになりやすいため、チャンスがなくはないが、あくまでも挑戦者の1頭として考えるべきである。

松山弘平騎手はこれまで惜しいところでG1勝利を逃してきたが、持ち前の積極的な騎乗で晴れてG1ジョッキーとなった。先んずれば人を制すと言うが、今回のレースはスタートからゴールまでとにかく無心に先行したことが功を奏した。小回りの中山競馬場の芝2000mコース、前が止まらない絶好の馬場、アルアインの先行力とスピード、そして松山騎手の積極的な騎乗の全てが噛み合って、最後のコンマ数秒差の勝負を制してみせた。チャンスを自ら逃した騎手も多くいた中、勝つときは全てが上手く行くものである。

ペルシアンナイトは内から鋭く伸び、あと一歩のところまで勝ち馬を追い詰めた。この2着は騎手の腕で持ってきた2着である。序盤はゴチャつく形になり後方から進んだが、ペースが遅いことを見極めて、内の進路が開いたところを見逃さずにポジションを上げたミルコ・デムーロ騎手の好プレーが光った。目で見るほど簡単ではなく、あのタイミングで馬を動かし、馬場の悪いとされる内側を走って上がってゆく勇気は称賛に値する。さすが連対率4割を誇る、リーディングジョッキーに相応しい見事な騎乗であった。

タンビュライトも武豊騎手の好判断に導かれての3着。速い脚のないこの馬を上位に持ってくるには、思い切って先行するしかないと最初から決め打っていたはず。レースの流れに乗り、一旦は先頭に立つかの勢いであったが、最後は上位2頭の底力に屈してしまった。欲をいえば、もう少し力の要る、時計の掛かる馬場状態であれば、勝ち負けに持ち込めたかもしれない。切れ味勝負になる日本ダービーはこの馬にとっては厳しい。

レイデオロは昨年暮れ以降の休み明けという経緯があったからか、道中はほぼ最後方からレースを進め、最後の直線だけの競馬に徹した。これでは到底勝てないが、最後の直線で見せた鋭い脚は、ひと叩きされて体調が上向けば、日本ダービーでは大きな武器となる。次はもう少し前目のポジションを走れるだろうし、今回の皐月賞から日本ダービー馬が出るとすると、この馬が最も勝利に近いのではないだろうか。

スワーヴリチャードについては、馬券を買っていた私のバイアスが掛かっていると思ってこの先は読んでもらいたい。四位騎手は好スタートを決めて前進気勢のある馬の手綱をなぜか引いて少しずつ下げ、自らポジションを悪くしてしまい、こともあろうか最終コーナーでは大外をぶん回した。一体何のために共同通信杯で前に行く競馬を試してみたのか、道中でペースの遅さに気づなかったのかなど、数々の疑問が湧いてくる。内枠をそのまま生かし、スワ―ヴリチャードの行きっぷりに任せて乗っていれば、アルアインの後ろにつけて、最終コーナーをピッタリと回り、勝ち負けに持ち込めたのではないだろうか。馬に乗るのが上手い(綺麗)、馬のことを良く知っていることとレースで勝てることは違うのだ。結果論ではなく、あまりにも稚拙すぎる騎乗であった。

1番人気に推された牝馬ファンディーナは、最後まで牡馬に抵抗したが力尽きた。大きなフットワークの馬だけに、小回りコースで馬群の内を窮屈そうに走っていたが、最終コーナーでは馬群の外に持ち出せて、決してチャンスのないレースではなかった。それでも競馬ファンの期待に応えられなかったのは、この馬自身の体調が完全ではなく、1週間でも出走を遅らせて皐月賞を選んだほど未完成な状態であったからこそ。今年に入ってからデビューした馬であり、将来性の極めて高い馬であるからこそ、陣営としては桜花賞や皐月賞はスキップして、オークスを目指して調整したかったというのが本音のはず。皐月賞を使ったことが、ファンディーナにとって良い経験となるか、それとも大きな傷となってしまうのか、前者となることを心から願う。

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無敗とは弱点が分かっていないということ


桜花賞2017―観戦記―
大外枠からカワキタエンカが他馬と馬体を離しながら先頭に立ち、その後ろにヴィゼットジョリーがスッと付け、2番手以降のペースは落ち着いた。前半マイルが46秒5で後半が48秒0というタイムだけを見ると、ハイペースのように思えるがそうではなく、雨が降ったことで馬場が緩んで、それだけ上がりの時計が掛かったということである。それを差し引くと、遅すぎもせず速すぎもしない、ごく平均ペースでレースは流れた。ある程度前の位置でレースを進められた馬たちが上位に来たように、切れ味で勝負する馬たちには厳しい馬場と展開であった。

勝ったレーヌミノルは、距離が延びてから勝ち切れないレースが続いていたが、ここ一番の大事なレースにて展開や馬場などの条件がようやく全て揃った。この馬の持ち味は天性のスピードとパワーであり、瞬発力勝負になると苦しく、またあまり速いペースになってしまうとスタミナ不足ゆえの詰めの甘さを見せてしまう。ところが、今回は折り合いも見事につき、平均ペースの展開とパワーが問われる馬場になったことで、持てる能力を十全に発揮してみせた。乗り替わった池添謙一騎手の、サスペンションの利いた、当たりの柔らかい騎乗も素晴らしく、直線に向いてからゆっくりと待ってから追い出した冷静さは、これまで数々の名馬に乗って大舞台で結果を出してきた経験から得たものである。

リスグラシューは前走のチューリップ賞をひと叩きされ、体調が一変していた。このようなステイヤータイプの馬は叩かれて良くなることが多く、型通りに良化したということだろう。欲をいえば馬体がもう少し大きくなってもらいたいが、オークスに向けて距離が延び、レースを使いつつさらに調子を上げる可能性が高いことを考慮に入れると、この馬が戴冠に最も近い馬である。武豊騎手も先週の大阪杯の勢いをそのままに、リスグラシューの良さを素直に引き出してみせた。

ソウルスターリングは最後の直線に向くまでは、理想的なレースができていた。ところが、いざ馬を追い出してみると、さっぱりと伸びない。伸びないどころか、馬がノメってしまい、真っ直ぐに走ることができないほど。クリストフ・ルメール騎手も鞭を左右に持ち替えてみて必死に対応したが、前の馬を捕らえられず、さらに後ろから来た馬にも差されてしまった。ソウルスターリングのように綺麗なフットワークで走る馬ほど、こうした緩んだ馬場を苦にするのは確かだが、私たちの思っていた以上に馬場が合わなかったようだ。無敗とは弱点が分かっていないということでもあり、無敗馬の馬券を買う恐ろしさを思い知った。

カラクレナイは道中で脚をしっかりと溜め、最後の直線に向いてからゆっくりと追い出し、最後まできっちり伸びた。展開と馬場がこの馬には向かなかったが、この馬の良さや能力は完璧に出し切っての敗北。田辺裕信騎手もさすがの騎乗である。切れ味で勝負する馬だけに、オークスに向けて距離が延びるのはプラス材料にはならない。どちらかというと、NHKマイルCの方がチャンスは大きいのではないだろうか。2番人気に推されたアドマイヤミヤビは、道中から全く進んで行かず、最後は大外を回す形になり、見せ場すら作ることができなかった。前進気勢に欠けるタイプの馬であり、気性的にも今回のような馬場が明らかに合わなかったということだ。

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明暗


大阪杯2017―観戦記―
今年からG1レースに昇格した大阪杯。大方の予想通りにマルターズアポジーが先頭に立ち、前半が59秒6、後半が59秒3という平均ラップが刻まれたが、実際のレースをコントロールしていたのは武豊キタサンブラックであり、後続集団はスローに流れていたというのが実状であった。もう少し厳しいレースになるのかと思いきや、今までの産経大阪杯とあまり変わらないレースレベルであり、せっかくの好メンバーが揃ったにもかかわらず、個人的には物足りなさを感じた。

勝ったキタサンブラックは、終わってみればこのメンバーでは力が一枚抜けていた。キタサンブラックが強いのか、それとも他馬がだらしないのか、おそらくは前者だと思うのだが、大阪杯前にひと叩きされた他の有力馬たちがキタサンブラックの影すら踏めなかった。ハードに攻められて仕上がりも良かったのだろう。スタートしてから楽に3番手の内を確保し、道中は馬を外に置いてやや窮屈になりかけたが、いつの間にか単独で伸び伸びと走る形を取り戻し、実質上は逃げているのと同じポジションを走ることになった。豊富なスタミナに裏打ちされた大きなフットワークで、前へ前へと推進して止まらない、強いキタサンブラックが今年も健在である。

武豊騎手は昨年の産経大阪杯でアンビシャスに差された反省を生かし、今年は意識的に早めに動いて行った。昨年のジャパンカップは馬につかまっていたら勝っていた競馬であったが、今年の大阪杯は武豊騎手の的確なゴーサインがキタサンブラックを勝利に導いた。これ以上早くは動けないが、これよりも後続を待ってしまっていたら、瞬発力に長けた馬に差し切られてしまった可能性もあったはず。そう考えると、さすが精密な体内時計を内蔵している武豊騎手だからこその、見えないファインプレーであったと言える。

2着に入ったステファノスは、キタサンブラックを徹底的にマークし、捨て身の戦法を試みたことが功を奏した。差し脚を活かそうとして脚を溜めることに注力していたにもかかわらず、いざ追い出すと案外伸びないレースが続いていたが、今回はひたすら積極的に前を攻めることに徹していた。ディープインパクト産駒とはいえ、母父クロフネの血が濃く出ているタイプだけに、今回のようにパワーを生かす乗り方の方が合っているのではないだろうか。

ヤマカツエースは充実期に入っており、最後まで良く伸びたが、外枠を引いたこともあり、道中のポジションが少し悪かった。もう少し前のポジションを流れの中で確保することができれば、少なくとも2着はあったはずである。キングカメハメハ産駒は充実してくるとトモの筋肉が四角くなると言われるように、この馬も良く実の入ったトモになってきた。使われ続けている疲れさえ出なければ、安田記念でもチャンスは十分にある。

マカヒキは最後伸びているがあと一歩届かず。前走同様に、大きく負けているわけではないが、日本ダービー馬としては物足りなさを感じた競馬ファンも多かったはず。3歳時は伸びやかさや柔らか味があった馬体も、古馬になってからパドックを歩く姿を見ても、硬くて少しゴツゴツしてきた印象を受ける。もちろん、それが直接の敗因ではなく、昨年の凱旋門賞から京都記念、そして大阪杯に至るまでの一連の凡走は、日本ダービーを勝ったことによる精神的な燃え尽きがあると思う。それは目に見えない疲れであるがゆえに、いつ回復するのか、そもそも回復するのかさえも誰にも分からない。

サトノクラウンは馬体重がマイナス12kgと減らしての出走となった。絞れたものであれば当日の大幅なマイナス体重は気にする必要はないが、この馬の場合は精神的なものによるそれだったのであろう。香港遠征からここまでの疲れが出たのか、それとも予定していたよりも早めに仕上がってしまったことで、馬が耐えきれずに気負ってしまったのか。レースでもスタートしてからの行きっぷりが悪く、道中はデムーロ騎手が取りたかったポジションが取れず、キタサンブラックを早めに動いて封じ込めるつもりが、逆に突き放されてしまった。5歳になって精神的にもタフになって完成されたと思っていたが、思っていたほどではなかったということである。

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馬場が変われば勝ち馬も変わるのが競馬


高松宮記念2017―観戦記―
さすがスプリンターという好スタートを各馬が切り、その中でもラインスピリットが先頭に立ち、シュウジがそれに続く形でレースを引っ張った。前半600mが33秒8、後半が34秒9という、やや重馬場で終いの時計が掛かったと考えると、スプリントG1としては平均から少し遅いペース。直線に向いたときにある程度のポジションにいなければ、勝ち負けには加われない、差し追い込み馬には厳しい展開となった。

勝ったセイウンコウセイは、終始抜群の手応えで先団を追走し、直線に向いてからも追い出しをひと呼吸待てるほどの余裕があった。この馬自身がぬかるんだ馬場を苦にしない馬力タイプであることに加え、馬場の良いところを選んで走ることができたおかげで、着差以上の完勝。初勝利を挙げるまでに時間が掛かったが、芝の短距離路線に照準を絞ってからは、一気に頂点まで駆け上がった。前走のシルクロードSでは切れ負けし、人気の盲点にもなっていたが、今回は雨が降ってパワー勝負で台頭したように、馬場が変われば勝ち馬も変わるところが競馬は面白い。

牝馬のレッツゴードンキにとっては、力の要る馬場のさらに悪いところを走らされたことが誤算であった。この馬自身、決して非力なタイプではないが、並み居る筋骨隆々の牡馬を相手に回しているだけに、純粋なスピードで勝負したかったというのが本音だろう。それでも、レースの流れに乗り、直線では内を突いて33秒台の脚で連対を確保したのだから、ここに来て再び力をつけていることは間違いない。馬場状態を考慮に入れ、直線では内が開くことに賭けていた岩田康誠騎手の作戦も功を奏した。

レッドファルクスは好スタートから好位を追走し、伸びを欠いて3着に敗れたが、新たな境地を切り開いてみせた。末脚のしっかりとしている馬だけに、こういう競馬がコンスタントにできるようになると成績は安定するだろう。今回は休み明けでぶっつけ本番だっただけに、ひと叩きされた次走は最後まで伸び切れるはずである。スウェプトオーバーボード産駒にしては体が大きい方だが、上位2頭に比べると馬体重が軽いことからも分かるように、パワー勝負においてはやや分が悪かった。

メラグラ―ナは初めてのG1挑戦であり、得意の末脚は不発に終わった。前走で減った馬体が回復してはいたが、決して体調が上向きとは言えなかったところに、今回の渋った馬場がマイナスの影響を与えた。一流のスプリンターに混じってどこまで戦えるか、という試金石の一戦であっただけに、残念な結果に終わってしまった。


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デムーロ騎手は勝ち方を知っている

Febs2017

ニシケンモノノフが逃げるかと思いきや、外からインカンテーションが強引にハナを奪ったことで、前半マイルが46秒2、後半が48秒9というハイペースを作り出した。これぐらいの速いペースに流れても、前々を攻めた先行勢もなかなか止まらず、後ろから末脚を伸ばした馬たちにとっては厳しいレースとなった。砂の状態やレースレベルなど、あらゆる要素が絡み合って、フェブラリーSを勝つために走るポジションは外の3、4番手となる。勝ち馬と2着馬との差は道中で外に出したか内に入れたかにあり、連対馬と3着馬との差は最終コーナーにおける番手にあった。

勝ったゴールドドリームは、スタートが決まり、道中は馬群の中を進み、最終コーナーは外を回して早めに抜け出した。前走のチャンピオンCはスタートで立ち遅れ、それを挽回しようと強引に馬を出していったことで引っ掛かり、しかもハイペースに巻き込まれて失速という、絵にかいたようなチグハグなレースであった。普通であれば、悔しくて暮れの東京大賞典に使ってしまいたくなるところを、陣営は我慢してフェブラリーSまで待ったことが吉と出た。ダート戦においては、この世代の最強馬であることを証明してみせた。

ミルコ・デムーロ騎手は、内枠からの発走であったにもかかわらず、隙を見てゴールドドリームを少しずつ外に導いていた。第4コーナーでは外を回るために、意識的に外を狙っていたところがさすがである。昨年のモーニンで勝ったときもそうであったが、フェブラリーSの勝ち方(勝つために走らせるべきポジション)を熟知している。ゴール前で2着馬を凌いだあと、得意のヒコーキポーズを披露して、くすぶっていた気持ちを爆発させた。

ベストウォーリアは一瞬、突き抜けるかという伸びを見せたが、最後は止まってしまった。年齢的な問題か、それともスタミナの問題か、これで5連続での2着。勝つためにはロスなく乗らなければという意識がそうさせたのだろうが、道中で勝ち馬と交錯するように内へ入れた進路取りは、(結果論ではなく)正しくはなかったと思う。ラスト1000m手前の時点でそのまま外に出していれば、ゴールドドリームが走ったポジションを走ることができていたはずで、クビ差ぐらいは逆転できていたのではないだろうか。

1番人気のカフジテイクは自分の型で競馬をして3着に健闘した。この脚質を貫くとすれば、フェブラリーSの勝ちポジを走ることはできず、どうしても今回のような結末を迎えてしまう。それでもここまで追い込んできたのは力を付けた証明である。展開が向くか、それとも自ら動けるようになれば、ダート界の頂点に立つことも決して夢ではない。

ノンコノユメは中団を追走したが、全盛期の末脚を繰り出すことはできず。このメンバーに入ると馬格のない馬ではあり、それでも3歳時は気持ちの強さで常に追い込んできたが、ある時点からその気力が失われてしまった。せん馬にしてもそれは変わらなかったようだ。昨年の覇者モーニンにとっては、本質的にマイル戦は距離が長い。昨年は雨が降ったことで勝利したが、1400mがこの馬にとってはベストである。コパノリッキーは昨年秋シーズンからの負けっぷりを見ていると、精神的に燃え尽きてしまったのだろうと想像できる。肉体的にはまだまだやれるが、気持ちが戻ってこない限り、かつての走りは期待できない。

Photo by 三浦晃一

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競馬は時々難しく、そして素晴らしい

Arima2016

宣言どおりマルターズアポジーがハナを切り、番手を武豊キタサンブラックが取り、その後ろにゴールドアクターがつける形で隊列は決まった。最初の1ハロンを除く前半1200mが73秒5、後半が72秒3だから、先頭が離して逃げているようにみえても遅いペースで、後続集団はさらにスローに流れた。昨年同様に前に行った馬と馬群の内で脚を溜めることのできた馬たちに有利なレースとなり、そこを中団から外を回りつつも差し切ったサトノダイヤモンドの強さだけが光った。

サトノダイヤモンドは枠順に恵まれず、道中は外を回らされてしまう形になったにもかかわらず、最後の直線ではしっかりと伸び、道中は楽に進めていたジャパンカップ馬のキタサンブラックと昨年の覇者ゴールドアクターをねじ伏せたのだから文句はない。今から思えば日本ダービーで負けてしまったのが不思議だが、夏を越し、手脚を含めた馬体全体に伸びが出て、馬体が完成されたことが大きい。ヨーロッパの馬に近い体型をしているだけに、パワーとスタミナが豊富にあって、来年の凱旋門賞が楽しみである。

クリストフ・ルメール騎手は道中でずっと外を回されるのを嫌い、途中から動いてキタサンブラックの外につけた。サトノダイヤモンドの賢さを信頼していたのと、動いてもそこからもう一度止めて脚を溜められるという自信があったからこそ。あそこで動けるジョッキーと動けないジョッキーの違いは、馬を御す技術の有無である。ルメール騎手にとって、日本の騎手免許を取得してフルに騎乗した年の最後を、このような形で締めくくれたことには感慨深いものがあるのだろう。異国の競馬場でリーディング争いをすることがどれだけ苦しいか、ルメール騎手がここまで来るのにどれだけの涙を飲んできたのか、私には想像もつかない。しかし「競馬は時々難しいけど、素晴らしい」という言葉には、彼の熱い想いが凝縮されているようで、私まで胸が詰まってしまった。

キタサンブラックは道中、自分のリズムで走ることができ、大きなストライドで2500mを最後まで走り切った。勝負所でサトノノブレスに突っつかれたこともあるが(武豊騎手も言い訳のつもりで言ったのではないはずだが、同馬主の馬に突かれるぐらいのことは世界の競馬では当たり前である。日本を一歩出れば、人気馬に乗って誰にも突かれずに逃げられるなんてことはない)、最後のクビ差はジャパンカップの反動だろう。前走は極限の仕上げであり、そこから体調はやや下降線を辿っている中での粘りであったのだから、たとえ勝てなかったとしても最大級の賛辞を送るべきである。サトノダイヤモンドとは互角か現時点ではそれ以上の実力であることは間違いない。

ゴールドアクターは昨年同様に理想的な競馬ができ、この馬の力は出し切っているが、今年は前記2頭の力が上であった。パドック等では入れ込んでいて心配したが、馬体がマイナス6kgとギリギリまで仕上がっていたからこそ。この馬は2400mや3200mではなく、2500mといった非根幹距離のレースが合う。

惜しかったのは4着に突っ込んだヤマカツエースである。スタートしてから前半のポジションが悪かったことで、最後は脚を余してしまった。1頭前のサムソンズプライドが走ったポジションを取ることができていれば、上位3頭に肉薄していたはずである。今年に入ってから徐々に力をつけ、ここに来て2500mをこなせるほどに馬体にも伸びが出てきた。キングカメハメハ産駒は馬体が完成されると続けて好走する傾向があり、4歳秋を迎えたこの馬にもそれは当てはまる。

Photo by 三浦晃一

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パズルのピースのようにはまり合った


朝日杯フューチュリティS2016―観戦記―
ボンセルヴィーソが内枠から飛び出し、外からトラストが2番手につけ、前半のマイルは48秒3、後半が47秒1という超スローペースで流れた。馬場状態こそ多少違え、先週の阪神ジュベナイルフィリーズが46秒7―47秒3だから、今年の朝日杯フューチュリティSは明らかにレースレベル自体が低かった。道中はほとんどの馬たちがレースの流れに乗るのに苦しみ、体力を消耗した一方、後ろから行って折り合いをつけることに専念した馬たちが突き抜けた。スローの展開を考えると、前に行った馬たちに有利になりそうなものだが、自分のペースで走れないという精神的消耗が肉体的なダメージにつながるという良い例である。キャリアの浅い2歳馬同士の争いにおいて、極端なスローペースになってしまったことで、実に不思議な形での決着となった。

勝ったサトノアレスは、メンバー中で最も折り合いがつき、道中の体力のロスが少なかった分、最後の直線で弾けた。デビューからの2戦は札幌の小回りコースが合わずに惜敗していたが、のんびりと走らせて終いの脚を生かす競馬に徹してから3連勝。確実に折り合いがつく賢さと伸びのある馬体を見ても、距離が延びてさらに良さが出そうなタイプである。この馬が本領発揮するのは本来もう少し先であったはずだが、今回のレースは展開が向いたことで偶然にも勝利できたという捉え方で良いだろう。まだ成長の余地を残している馬体であり、来年はどのような馬になるのか楽しみである。

四位洋文騎手は6年ぶりのG1勝利となった。ポジションを無理に取りに行くことをせず、基本的には馬任せのリズムで走らせ、勝負所から綺麗に外を回して追ってくる騎乗をスタイルとしており、現代の日本競馬においてはそれが仇となってしまうレースも少なくないが、今回は馬のリズムと展開、そして四位騎手のスタイルが、パズルのピースのように上手くはまり合った。藤沢和雄厩舎は先週に続きG1レース連勝となり、牝馬と牡馬の2歳チャンピオンを有することになる。今年は関東リーディングの首位に走っているように、厩舎全体としてのリズムも良く、藤沢調教師のファンのひとりとしては嬉しい限りである。

モンドキャンノは距離延長を気にした分、スタートから出して行かず、末脚に賭けたことが功を奏した。体型的にも血統的にもマイルがギリギリのタイプだが、折り合いがつきやすい気性だからこそ、前走同様に今回の好走につながっている。ここまで走ったら勝ちたかったのが正直なところだろうが、勝ち馬のあまりの鋭さに屈してしまった。キンシャサノキセキ産駒は早熟な面があり、将来性という点では疑問符がつく。

ボンセルヴィーソは行き切ったことが正解である。これだけ遅いペースでは、中途半端に2、3番手で折り合おうと苦労するよりは、先頭に立ってしまった方が馬にとっては楽である。こちらも2歳戦に強いダイワメジャー産駒であり、あまりにも人気がなさすぎた。

牝馬ミスエルテは、最後の直線で追い詰めてきてはいるが、伸び切れず4着に敗れてしまった。G1レースで圧倒的な1番人気に推されたこともあり、ある程度の位置を取りに行ったことが裏目に出て、最後の詰めを欠いてしまった。前走のように、馬群から少し離して、折り合いに専念して脚をためていたら、突き抜けていたかもしれない。1週間出走を遅らせて、朝日杯フューチュリティSに臨んできたように、疲れが完全に癒えていなかったのも確かである。現時点では線が細く、バネだけで走っているが、時間をかけて馬をつくっていければ、ソウルスターリングの良きライバルとして凌ぎを削る存在になるはず。

タンビュライトはレースの流れに乗っているように見えたが、追い出してからさっぱり伸びず、馬群に沈んでいってしまった。調教で動かないように、まだ体に芯が入っていない状況であり、これから先の馬である。キャリア1戦で臨んだクリアザトラックは、レースの流れに戸惑い、時計を詰めることができなかった。この馬のスピードを生かすためには、今回だけのことを考えれば、思い切って逃げてしまった方が良かったかもしれない。レッドアンシェルも同じことが当てはまり、この馬の気性の激しさが超スローペースでは仇となった。

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フランケル時代の始まりの始まり


阪神ジュベナイルF2016―観戦記―
社台レースホースの勝負服と藤沢和雄厩舎という一致もあってか、この手脚の長い、美しいシルエットを誇示する青鹿毛の牝馬が、私にはダンスインザムードと重なって仕方がない。ダンスインザムードはあのサンデーサイレンスを父に持ち、そしてソウルスターリングはあのフランケルの初年度産駒となる。そう考えると、フランケルまでもが種牡馬としてのサンデーサイレンスを継いでいるようにも思え、もしかすると私たちが目の前に見ているソウルスターリングやミスエルテは、フランケルが世界の血統地図を塗り替えようとする予兆にすぎないのかもしれない。フランケル時代の始まりの始まりである。

アリンナが先頭に立ってレースを引っ張り、後続の馬群は密集してスローペースかと思いきや、前半マイルが46秒7、後半が47秒3という平均ペース。展開や枠順による大きな有利不利はなく、実力が素直に反映されやすい、力のある馬が上位を占めた、2歳牝馬戦としてはレベルの高いレースであった。勝った馬はもちろんのこと、2着に脚を伸ばしたリスグラシューも最後まで止まらなかったレーヌミノルも強い競馬をした。

ソウルスターリングは思っていた以上にスムーズな競馬ができ、ジョッキーも陣営も嬉しい誤算なのではないだろうか。馬体はきっちりと仕上げられ、その影響もあってかパドックから返し馬ではやや入れ込む姿が見られたが、ゲートが開いてからは実にスムーズにゴールまで駆け抜けてみせた。内で揉まれてとどうかという唯一の心配は杞憂に終わり、逆に内のポケットに入ったことで馬が落ち着いた。テンのスピードがあるからこそ、内の2、3番手のポジションをすんなり取ることができるし、レースに行って余計なことをせずに騎手の指示に素直に反応するレースセンスの良さは、これから先にも生きてくる。ただひとつ、真面目すぎるところがある気性なので、ダンスインザムードのように精神的に燃え尽きてしまうことだけには気をつけなければならないだろう。

リスグラシューは未完成の馬体にもかかわらずここまで走るのだから、将来がほんとうに楽しみな馬である。最後まであきらめないかん性の強さとバネの良さがあり、馬体が成長してトモに実が入ってくれば、もっと前で競馬できるようになり、末脚の破壊力は増すであろう。今回は馬群の外々を回されてしまい、戸崎圭太騎手が左ムチを入れると内にササる仕草を見せたりしたことで、ビッシリと追うことができなかった。それでいて勝ち馬と1馬身1/4まで迫ったのだから、ソウルスターリングに等しい能力を秘めている。来年が非常に楽しみな1頭である。

3着を確保したレーヌミノルも能力を十全に発揮した。距離を考えて、少し抑える競馬を試みたように、この馬にとっては少し距離が長かった。こなせない距離ではないが、適性ということで考えるならば、1200m~1400mぐらいが最も力を出し切れる舞台になる。桜花賞まではクラシック路線、その後はNHKマイルCもしくはスプリント路線に切り替えるべきであろう。もちろんそれはレーヌミノルの非凡なスピードを生かすためである。

ディーパワンサは内枠を生かして、経済コースを進み、ロスのない競馬をしての4着。上位3頭とは力差があるが、それ以下の馬たちとの差はほとんどない。ヴィゼットジョリーは休み明けの分、直線に向いてからの反応が悪かったし、ゴール前は壁になったところを無理矢理ねじ込んでようやく掲示板を確保した。ジューヌエコールはスタートから第1コーナーまでに思ったように先行できず、馬が怒ってしまい、最後の直線でも隣の馬にぶつかったりして、さすがに2歳牝馬としては苦しいレースになってしまった。福永祐一騎手が手綱を取っていれば、また違った結果になっていたはずである。

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信じる者は


チャンピオンズC2016―観戦記―
内枠を利したモンドクラッセとアスカノロマンが先頭争いをし、そのすぐあとにコパノリッキーやブライトラインという先行馬たちが続き、前半800mが48秒8、後半が49秒5という平均的なペースで流れた。数字上はミドルペースでも、結果的には後方から差した馬たちにとって有利な流れになったのは、5ハロン目から11秒8、6ハロン目も11秒8と続いて急激にペースアップしたことによる。このあたりから先行した馬たちは息が入らなくなり、我慢してついて行った差し馬たちの最後の最後における逆転につながった。

勝ったサウンドトゥルーは、とにかく末脚が確実である。どのような展開でも確実に差し込んでこられるのは、あきらめずに最後まで走ることができるからだろう。それは案外難しいことで、途中でレースをやめてしまったり、苦しくなってから踏ん張れなかったりする馬が(たとえオープン馬でも)多い中、コンスタントに走り続けているからこそ、展開が向いたときにチャンスが訪れるのだ。叩き3戦目で体調はピークであったろうし、小回りを意識してジョッキーたちが早めに仕掛けることで差しが決まりやすいチャンピオンCの舞台もこの馬に向いた。

大野拓弥騎手は腹を括って、ほぼ最後方からの差しに徹していた。もう少し前のポジションへと馬を促したくなるのが普通の騎手の心情だが、今回はサウンドトゥルーのリズムで走らせて、届かなければそれで仕方ないという乗り方であった。3着が2度続いている流れの中で、このような決め打ちはなかなかできないものである。してやったりというか、信じる者は救われたという内容と結果であった。

1番人気ながらも敗れたアウォーディーは、道中で手応えがあやしくなり、最後の直線では先頭に立ってから気を抜いてしまった。道中でズブさを見せたのは、砂を被ったからか、それとも急激にペースアップしたからか、いずれにせよこれまで楽な競馬をして6連勝してきたことが今回に限っては裏目に出た。道中で気の難しさを見せるのも、最後の直線でソラを使うのも根本は同じで、初めての厳しいダートレースに巻き込まれて、アウォーディー自身が苦しかったからである。それでもここまで走ったのだから、この馬のダート馬としてのポテンシャルは相当に高い。

アウォーディーに関してひとつ気になったのは、道中で手応えが悪くなり、一旦下がりかけた場面でにおいて、すぐ外にいたブライトアイディアの幸英明騎手が進路を譲ったことだ。たとえ相手が1番人気馬であり、自分の馬が15番人気であったとしても、あそこで外から蓋を(ブロック)しておけば、もしかするとアウォーディーは上がってゆけず、馬群に沈んでいた可能性もある(もしくはギリギリで抜け出して勝っていたかもしれない)。譲り合いの精神は大切だが、そこは勝負ごとであり、シビアに乗ってもらいたかった。そんなドメスティックな競馬は見たくない。

厳しいペースを3着に粘り込んだアスカノロマンは力を全て出し切っている。中京ダート1800mコースは小回りであり、内枠を引いて、内ラチ沿いを走ることができる馬にとって明らかに有利になる。昨年の勝ち馬サンビスタがそうであったように、ハイペースで前を攻めたとしても、内をピッタリと回ることでカバーできるのである。そう考えると、外を回って先行したモーニンやゴールドドリーム、コパノリッキーらにとっては非常に厳しいレースであった。

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武豊ここにあり

Japancup2016
ジャパンカップ2016―観戦記―
1枠1番を引いたキタサンブラックが好スタートからハナを切り、第1コーナーの時点で先行争いは落ち着き、道中は大きな動きもなく緩やかに流れた。時計的にも前半1000mが61秒7、後半が58秒9というスローペース。かといって、渋った馬場の影響もあってか、極端に速い上がりにはならず、最終的にはスタミナが問われたレースであった。2、3着にはスタミナ型の馬が突っ込み、久しぶりに総合力が要求されるレベルの高いジャパンカップとなった。

勝ったキタサンブラックは道中を気持ち良く走り、最後の直線に向いても余力十分、そのまま押し切った。3歳時はヒョロっとして頼りなさもあったが、古馬になってからは付くべきところに筋肉が付いて、完全に本格化した。530kgある充実した馬体を大きく使って走る今のキタサンブラックを見る限り、バテて止まってしまう姿を想像することが難しい。私の好きな映画『ファイトクラブ』の中で、「長身の痩せ型の奴はスタミナがあってバテないから見た目よりも強い」というようなセリフがあり、キタサンブラックの走りを見るたびに、いつもそのことを思い出す。今回は極限の仕上がりが施されていたので、次走の有馬記念に向けて体調は下降線を辿るだろうが、それでも止まることはないだろう。

武豊騎手は本当に絵になる格好の良いジョッキーである。16頭の一流馬たちを従え、ひとりだけ手綱を持ったまま、最終コーナーを回ってくるシーンは見どころ十分。左手の大きなアクションで見せムチをしてゴーサインを送り、右手だけで少しずつ完歩を伸ばし、最後の1ハロンは失速しかけたキタサンブラックを叱咤激励する。教科書どおりではあるのだが、一つひとつの所作が実に美しい。ゴール後の激しいガッツポーズも、競馬ファンと共に喜びを共有したいという気持ちの現れだろう。久しぶりにジャパンカップを勝利し、武豊ここにありと世界に向けてアピールすることができるはず。

サウンズオブアースはマイナス8kgと絞れ、今回のジャパンカップに臨むにあたって、馬体のつくりが大きく変わっていた。スッキリしたというべきか、研ぎ澄まされて、この馬本来のスタミナを存分に生かすことができた結果であろう。さすがにキタサンブラックとは力差があったが、このメンバーで最後の直線の追い比べを制したことで、今後の展望が広がった。有馬記念で内枠を引くことができれば、昨年以上の結果が出ても驚かない。

シュヴァルグランは調教駆けしないタイプであり、その分、この時期は馬体が絞れにくい。にもかかわらず3着に入ったように、もうすでにG1レースを勝てるレベルにまで達している。あとは暖かくなって馬体が絞れ、スタミナを問われる流れの中で自分から動くことができたとき、この馬のステイヤーとしての本質が浮き彫りになるだろう。そう考えると、やはり来年春の天皇賞が狙い目か。

ゴールドアクターは、キタサンブラックの後ろを進み、考えていたとおりのポジションを走れたはずだが、最後の直線では逆に突き放されてしまった。これまで勝ってきたのは、スローの瞬発力勝負でちょい差しのレースが多く、今回のようにスタミナを問われる流れになると、このメンバーではやや分が悪いということだ。ただし、器用に立ち回れるタイプだけに、小回りの6つコーナーの有馬記念ではチャンスがある。

ライアン・ムーア騎手が乗ったリアルスティールは、外枠から先行したが、最後は脚が上がってしまった。この馬にとっては、外枠がマイナスであっただけではなく、スタミナを要求されるレースになったことが苦しかった。逆に驚かされたのは、3歳馬レインボーラインの健闘である。最後の直線ではあきらめることなく脚を伸ばし、上位争いに加わった。シルクジャスティスを思い出させる走りであり、有馬記念に出走してくれば、穴候補の筆頭として考えるべきだろう。

Photo by 三浦晃一

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何も変わらない


マイルCS2016―観戦記―
外枠をものともせず、ミッキーアイルが敢然と先頭に立った。スタートを決めたネオリアリズムがそれに続き、前半マイルが46秒1、後半が47秒ジャストという平均ペースで流れた。これぐらいのペースだと、前に行った馬たちに比較的有利になるが、力があれば差せない展開ではない。しかし、逃げたミッキーアイルが最後の直線で外によれたことで、後ろから差して来た馬たちの進路が閉ざされてしまったことが、勝敗を分けた感は否めない。あの不利がなければ、後続の馬たち(特にサトノアラジンとディサイファ)と先行集団が入れ替わっていた可能性は十分にある。馬券を買っていたファンからすると、さすがにこれはないという結末であり、これが降着にならない判断は首をかしげざるを得ない。

今回の問題を目の当たりにして、2012年のマイルCSを思い出した方もいるかもしれない。あのレースも今回と同じく、内の馬が外へ張り出す形で玉突きが起きた。私はあのアクシデントは武豊騎手がもうひと呼吸待っていれば避けられたと今でも考えているし、不利がなければグランプリボスが勝っていた可能性は十分にあった。JRAは主因を特定しない形でお咎めなしと判断を避けたが、被害の程度は今回よりも甚大であった。旧制度でも新制度でも、2012年も今年も降着が妥当であろう。声の大きさに影響されてか、2012年のようなケースをお咎めなしにしてきた積み重ねがあるからこそ、今年のようなケースもアウトにできない。結局のところ、JRAもマスコミも私たち競馬ファンも、誰が言ったかや誰が行ったかではなく、何がどうしてどのように起こったかを見なければ、降着制度が変わっても何も変わらないのだ。

ミッキーアイルは2年半ぶりのG1勝利となった。もともとNHKマイルCを勝っているようにマイル戦における実績があり、血統的にも距離延長は望むところでもあり、距離が決して長いわけではなかった。若駒の頃は、腰が高くて幼さの残る馬体で走っていたが、ここにきてバランスが良くなり、大きく成長を遂げている。休み明けのスプリンターズSを叩いて、浜中俊騎手にスイッチして、実は今年の秋はこちらが大目標だったのだろう。

8日間の騎乗停止と引き換えにG1勝利を手に入れた浜中騎手は、どういう思いで年を越すのだろうか。何とかしてミッキーアイルを勝たせたいという気持ちと、ライアン・ムーア騎手との追い比べに負けたくないという闘争心が合わさって、つい頭に血が上ってしまったのだろう。一度だけではなく2度も外によれており、さらに一度も左手にムチを持ち替えることはなかった。京都のフルゲートのマイル戦は、どの馬も直線に向いて手応えが残っているためごちゃつきやすい。そのあたりも熟知しているはずなのに、大舞台を台無しにしてしまったのは惜しい。

イスラボニータは惜しくも届かなかったが、クリスストフ・ルメール騎手の好騎乗で持ち味を生かし切った。早めに先頭に立つと気を抜くところがあるため、ゴール前でハナか首だけ前に出るイメージでルメール騎手は乗っていたはず。スタートからゴールまで、外に出すタイミングも申し分なく、あの不利にも巻き込まれることもなく、この馬が最もパーフェクトな走りであった。昨年の不甲斐ない負け方に比べると、たとえ負けはしたものの、イスラボニータのマイル適性を証明し、陣営にとっても胸のすくようなレースであったはずである。

ネオリアリズムのマイル適性のなさを隠すように、ムーア騎手はやや強引に乗った。これだけ迷いなく先行できるのは、多少バテたとしても、ゴールまでなんとか持たせることができるという自信があるから。ミッキーアイルに差し返され、イスラボニータには切れで負ける形になったが、初めてのマイル戦で3着に粘り込んだのだから大したもの。この馬の地脚の強さを生かすには、もう少し距離があった方が良い。

1番人気のサトノアラジンは悔しいレースであった。結果から振り返ってみると、2番枠を引いてしまったのが運の尽きだったのかもしれない。本来であれば、最後の直線では外に出したかったが、実際は内ラチ沿いを進まざるをえず、馬群をどう捌くかがポイントとなってしまった。たしかにエンジンのかかりが遅いタイプであり、スパッと抜け出すことができずに致命的な不利を受けてしまった(ダメ押しの2度目も)。

ヤングマンパワーはマイル適性うんぬんよりも、夏を越して使われてきた疲れが出てしまったのではないか。久しぶりの関西への長距離輸送も引き金になったのかもしれない。フィエロは不利なく回ってきたが、G1レースを勝ち切るのはワンパンチ足りない。3歳馬のロードクエストは序盤から推進力に欠けていたし、この流れではさすがに届かない。道中でハミを噛んでいた場面もあったように、気性面に若さが残っていて、乗り方が難しい馬である。


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馬を抑える本物の技術と自信が問われている


エリザベス女王杯2016―観戦記―
外枠から人気薄のプリメラアスールが先頭に立ち、それをメイショウマンボとシングウィズジョイがマークする形で序盤は流れた。前半1000mが61秒8、後半が58秒5という究極のスローペース。マリアライトに道中の不利があったことで、まくってペースを上げる馬が失われたことが、レースの流れを大きく変えてしまったと言える。とにかく前に行った馬にとって圧倒的に有利な、ラスト3ハロンの瞬発力勝負となった。

勝ったクイーンズリングにとっては、スタミナを問われる流れにならなかったことが最大の勝因である。これだけのスローでもかからない折り合いの良さがあり、上がってゆくべきときに鞍上の指示に反応できる素直さがあり、最後まであきらめない真面目さがある。体型的にもスタミナが豊富なタイプではなく、決して肉体的に恵まれている馬でもないが、今回はクイーンズリングの良さが全て良い方向に出たレースであった。

2着に粘り込んだシングウィズジョイは明らかに展開に恵まれた。体調が整って、自分の型にはまれば大崩れはしない馬だが、それにしても今回は楽に行けたことに尽きる。クリストフ・ルメール騎手はテン乗りということもあり、思い切って馬を出していけたのだろう。たまたま展開に恵まれたというよりは、展開に恵まれることを期待して前を攻めたところ、思っていた以上に恵まれたということである。

デムーロ騎手とルメール騎手のワンツーフィニッシュとなり、今回のレースに騎乗して、または観て、他の日本人騎手たちはどう感じたのだろう。馬を抑えて、脚をためる技術は目に見えにくいものだが、彼我の間には天と地ほどの差がある。認めたくないかもしれないが、彼らは意図的に出してポジションを取りに行っているのに対し、多くの日本人騎手たちは馬任せでポジショニングをしている。このようなヨーロッパに近い流れは彼らの得意とするところだと分かっていても、自らは動けないというジレンマがある。馬を抑える本物の技術と自信が日本人騎手に問われているのである。

ミッキークイーンは良い体つきになっており、肉体的にはリフレッシュされていたが、その分、最後は伸び切れなかった。浜中騎手はソツない騎乗をして、同馬の力を出し切っている。どのような状況でも好走するのがこの馬の良さであり、ひと叩きされた次走は、かなりの確率で勝ち負けになるのではないだろうか。3歳馬のパールコードは積極さが生きて、4着に粘り込んだ。これだけ流れに乗って、展開に恵まれての結果だから、現時点では古馬とは力が劣る。

1番人気に推されたマリアライトは最初のコーナーにおける不利が痛かった。ポジションを下げてしまっただけではなく、脚を失ってしまったのか、この馬の得意なまくりの作戦を打つことができなかった。上がり勝負になってしまうと苦しい馬だけに、昨年同様に途中から自らペースアップしたかったところだが、蛯名正義騎手は馬のダメージを気にしてためらってしまったのだろう。宝塚記念を牡馬相手に勝った馬がエリザベス女王杯で敗れるとは、競馬は本当に何があるか分からない。

マリアライトと同着のシュンドルボンも道中のポジショニングが悪かった。マリアライトがまくって行く、その後ろからついてゆく作戦だったのか分からないが、このペースであれだけ後ろを走っても勝つチャンスすらない。タッチングスピーチはスタミナ型の馬だけに、同じく今回のようなレースでは良さが全く生きなかった。

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面目躍如

Tennosyoaki2016wt
天皇賞秋2016―観戦記―
最内枠からエイシンヒカリが先頭に立ったものの、スピードに乗り切れず、前半1000mが60秒8という、昨年(60秒6)に続いてスローペースに流れた。道中はひと固まりの馬群となって進み、内で脚を溜められた馬、または前々のポジションを取った馬にとって有利になるはずが、結果的には、外を回った馬、後ろから末脚勝負に賭けた馬が上位を占めることになったという魔訶不思議なレースであった。ディープインパクト産駒が2、3、4着していることからは、一瞬の速い脚が問われる馬場と流れであったと考えられる。

勝ったモーリスは、ディープインパクト産駒を従えて、瞬発力勝負を堂々と制してみせた。前走で2000mを走っていたことで、行きたがる面も全くなく、きっちりと折り合っていた。最後の直線では外によれる素振りを見せたが、坂を駆け上がって手前を変えてからはもうひと伸びして、他馬を寄せ付けない強さを示しての完勝。そもそも2000mの距離には心配はなかった。ここ2戦の敗戦は、激戦を勝ち続けてきたことや海外遠征の疲労が抜けていなかったことによるものであり、決して力負けではない。ゴールドアクター同様に、一度崩れてから、再び立ち直ったように、スクリーンヒーロー産駒は筋肉が硬くなりにくいという長所がある。立て直された今回は力を出せる仕上がりで、陣営にとっては順当勝ちであろう。

ライアン・ムーア騎手はきっちりと仕事をこなした。今回のレースに限っては、ムーア騎手だから勝てたというよりも、誰が乗っても勝っていただろうが、そういう馬が回ってくるのが世界のトップジョッキーであることも証明である。考えうる限りのベストな手を尽くしたモーリス関係者たちの期待に、ソツのない騎乗で応えてみせた。派手なガッツポーズもなく、涼しい表情をして検量室に戻ってくる姿からは、彼にとっての天皇賞秋は世界の大きなレースのひとつであり、その勝利も数ある勲章の中のひとつにすぎないということなのだということが伝わってきた。

2着に入ったリアルスティールは最後の直線でぐいぐい伸びて、こちらも海外G1馬としての面目躍如であった。もともと鉄砲使いでも走るタイプだけに、毎日王冠を回避して、ここ1本に絞ったことも功を奏したのだろう。安田記念はマイル戦が向かなかったということもあるが、それ以上にドバイ遠征の疲労が抜けていなかった。体調が整ってさえいれば、どのような距離でも脚を使える馬である。レース後のケアをしっかりと行えれば、もちろん次走は(たとえマイルCSでも)さらにこの馬の力を出せるチャンスである。

ステファノスは前走の悔しさを生かし、今回は直線では外に出そうと決めていたのだろう。外枠を引いてしまったことで後ろから行かざるを得ず、外を回るロスもあったが、この馬の持てる力を出し切ったことは確かである。もう少し器用なレースができるようになれば、G1の勲章にも手が届く能力を秘めている馬であり、この先は末脚一辺倒の競馬から、どのようにして脱却するかがポイントになる。

エイシンヒカリは力を出し切れずに終わったというよりも、この馬らしいスピードを発揮することができる体調になかった。武豊騎手としては、この馬の良さを引き出すためには速いラップを刻んで逃げたかったはずだが、馬自身が行けなかった。海外遠征の疲労は特に関係者の目にも見えないことが多いのだ。ルージュバックは末脚が不発に終わった。このようなタイプの牝馬は、馬群から離す(他馬との間に十分なスペースを取る)ことで、一瞬の切れ味を引き出すことができるが、今回は終始馬群に包まれてしまい、気を遣ってしまった分、脚も失ってしまった。精神と末脚はつながっているのである。

Tennosyoaki201602

Photo by 三浦晃一

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しっかりとがっかり


菊花賞2016―観戦記―
ミライヘノツバサが先頭に立ち、そこにラビットを務めさせろと言わんばかりにサトノエトワールが絡み、前半の1000mは59秒9という淀みのない流れ。ところが、中盤になり13秒6、13秒2と急激にペースが緩み、後半の1000mが58秒9という上がりの速い勝負になった。この典型的な速遅速という流れからレース全体の時計まで、1998年にセイウンスカイが逃げ切ったときと酷似している。

13.3 - 11.5 - 11.7 - 11.7 - 11.4 - 12.1 - 13.1 - 13.5 - 12.7 - 12.9 - 12.3 - 11.9 - 11.6 - 11.5 - 12.0

13.0 - 11.3 - 11.0 - 12.4 - 12.2 - 12.7 - 13.6 - 13.2 - 12.3 - 12.7 - 12.2 - 12.0 - 11.6 - 11.5 - 11.6

上が1998年で下が今年の菊花賞である。前者は59.6-64.3-59.3で勝ちタイムは3.03.2、後者は59.9-64.5-58.9で勝ちタイムが3.03.3。まさに横山典弘騎手がセイウンスカイに乗って編み出した、京都3000mを逃げ切るための速遅速の流れである。つまり、道中が極端に緩んだことで、逃げ・先行馬はひと息入れることができ、有利になったということである。

勝ったサトノダイヤモンドは、先行有利の流れなど我関せず、好スタートから中団をピクリとも動かずに追走し、最終コーナーでは持ったままで先頭に立ち、そのまま押し切った。パワーで勝負する馬だけに、3000mの距離には一抹の不安があったが、これだけ折り合いがつけば全く問題なし。道中でエキサイトしない精神面における強さは、もしかすると海外に遠征するときには大きな武器になるかもしれないと思わせられた。馬体的には、春当時に見られた胴部と手脚の長さのアンバランス(重心の低さ)が解消し、馬体も枯れ、ひと夏越して完成期に至った。

クリストフ・ルメール騎手はそつなくサトノダイヤモンドを勝利に導いた。春シーズンからこの馬を選択し、皐月賞、日本ダービーと悔しい思いをしただけに、クラシック3冠目における勝利は格別だろう。今回の勝利は馬の強さをそのまま引き出しただけとも言えるが、ひとつだけ鍵となったのは、1周目のスタンド前で馬群の外に出せたことである。過去にフランスの大先輩であるオリビエ・ペリエ騎手が内枠から内ラチ沿いを走り、前が詰まって敗れてしまったゼンノロブロイの菊花賞における苦い思いを彼は忘れてはいなかった。どこで外に出すのかと見ていたが、スタンド前で外にしっかりと出せた時点で、ルメール騎手は勝利を確信したのではないか。

この流れの中を後方から差して2着したレインボーラインの強さは光った。さすが札幌記念で古馬モーリスに迫っただけのことはある。馬体的にはまだ鍛えて研ぎ澄ませる余地が多くあるが、夏を順調に越して、気持ちが走ることに前向きになってきたことが好結果につながっている。福永祐一騎手も、先週の秋華賞に続き、騎乗馬の力を素直に引き出せている。勝ち馬は一枚抜けていたが、2着、3着争いは騎手の乗り方次第で決まった。

エアスピネルは馬の力を信じて、先行したことが功を奏した。神戸新聞杯は折り合いを気にしたのか、消極的な敗北に映ったが、今回はその反省を生かしつつ、この馬の肉体的な強さを前面に押し出して3着に粘り込んだ。今回も後ろからソロッと回ってきたとしたら、おそらく掲示板に載るのがやっとであっただろう。ごまかしの利かない長距離戦で、完成度と実力をいかんなく見せつけた。

2番人気に推された皐月賞馬ディーマジェスティは、サトノダイヤモンドをマークして進み、最終コーナーまではイメージ通りの競馬であったはずだが、最後の直線に向いたときの手応えが勝ち馬とはあまりに違いすぎた。+6kgとやや馬体が重かった(余裕が残っていた)、上がりの速い競馬になってしまった、初の長距離輸送がこたえた(熱が上がりやすい)、など様々な敗因が考えられるが、いずれにしても凱旋門賞を目指す馬としては相応しくない。関係者や陣営が最もそう感じているはずだが、今回の敗戦には正直に言ってがっかりした。

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お見事!


秋華賞2016―観戦記―
チューリップ賞に続き、クロコスミアが敢然と逃げを打った。馬群が縦に長く伸びていたので、ある程度の淀みのない流れかと思いきや、前半1000mが59秒9、後半が58秒7というスローペース。小回りで外を回されることを嫌い、馬群がそれほど固まらなかったということだろう。馬群は先行集団と後方集団の2つに分かれて、後者にいた馬たちは届きにくく、前者にいた馬たちに有利なレースとなった。後方集団の先頭にいたヴィブロスはそれを差し切ったのだから、瞬発力の高さという点においては、このメンバーでは抜けていた。

勝ったヴィブロスは、春シーズン後にひと息入れたことで立て直され、大きく成長を遂げていたことは確か。それでも、前走の紫苑Sであれだけの大きなアクシデントに見舞われた場合、馬が恐怖心を抱いてしまい、レースに集中できなくなってしまうことも多い。今回のレースはそういった意味でもヴィブロスにとっては試金石であり、G1級の能力があることだけではなく、競走馬としての精神力の強さを(姉ヴィルシーナ同様に)持っていることを証明してみせた。410kg台しかないヴィブロスを細心の注意を払って仕上げた、友道調教師の手腕にも驚嘆する。

福永祐一騎手は、スタートからゴールまで一糸乱れぬ手綱さばきで、ヴィブロスを勝利へと導いた。スプリンターズSでは悔しい思いをしたはずであり、その鬱憤を晴らすかのような完璧な騎乗であった。好スタートを切ったことで、後方集団の先頭のポジションを走れたことが何よりも大きい。馬群の中でプレッシャーを受けることもなく、前の馬との距離があるため自分のリズムで走りやすいポケット(空間)にはまったことが、ヴィブロスの馬体の小ささというウィークポイントを隠す役割を果たした。最小限に馬を引っ張り、最大限に馬の力を引き出す福永騎手の技術が見事に発揮された。佐々木オーナーも福永騎手を信じて手綱を託してのG1勝利だけに、喜びはひとしおだろう。

パールコードは先行力を生かし、勝利まであと一歩のところまで迫ったが、勝ち馬の切れ味に屈してしまった。長距離輸送がない関西での競馬もプラスに働いた。ゴール前はさすがにバテたのか左右によれて走っており、真っ直ぐに走ることができていれば、もっと際どい勝負になっていたはず。ヴィクトワールピサ産駒は(4着に入ったジュエラーもそう)馬体が大きく出て、パワーに秀でた馬が多い。500kg台の恵まれた馬格から繰り出されるスピードとパワーは、牝馬限定のレースにおいては大きな武器となる。

カイザーバルは、先行して3着に粘り込んだ。さすがダンスインザムードを母に持ち、おばにダンスパートナーがいる良血馬だけに、使われつつ着実に力をつけてきた。決して大物ではないが、このまま無事に行けば、重賞の1つか2つは勝てる馬になるだろう。ジュエラーは前走の大敗から巻き返して4着に入り、桜花賞馬の意地を見せた。道中の行きっぷりやラストの反応を見ても、まだ完全復活とはいいがたい。1番人気で10着に大敗したビッシュは、全く脚を使えずに(反応せずに)終わってしまった。たしかに道中のポジションが良くはなかったが、それ以前の問題であり、休み明けの前走を快勝した2走ボケなのかそれとも長距離輸送が思いの外こたえたのか、走れる体調になかったということだ。私は後者と見ている。いずれにせよ、この時期の牝馬は本当に体調の変化が激しく難しく、今回の大敗でビッシュを決して見限ってはならない。

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咆哮

Sprinterss2016wt
スプリンターズS2016―観戦記―
外枠からミッキーアイルが先頭に立ち、前半が33秒4、後半が34秒2という、G1のスプリント戦としてはごく平均的なラップを刻んだ。速すぎもせず、遅すぎもしないペースであり、どのポジションでレースを進めた馬にもチャンスがあった。どの馬にも脚が残っているため、最後の直線では激しいスペース争いとなり、後ろから行った馬たちの中には、前が壁になり、力を出し切れずに終わってしまった馬がいた。逃げて2着に粘ったミッキーアイルは誰にも邪魔されることなく、勝ったレッドファルクスは外を回って早めに進出したことが功を奏した。

レッドファルクスは前走の強さをそのまま持ち込んで、G1の栄冠を手にした。前残りの競馬を1頭だけ別次元の末脚で勝利したCBC賞は桁違いの強さであったが、右回りに良績がなかったことや、3ヶ月の間隔が開いたことも含めて、人気の盲点になっていた感がある。使い込むと馬体が硬くなることもあり、ぶっつけでスプリンターズSに向かったことも吉と出た。スウェプトオーヴァーボードの産駒として初の芝のG1制覇となり、母の父サンデーサイレンスが大きく影響しているのは確かだが、父の種牡馬としての価値に新たな光をもたらした。

ミルコ・デムーロ騎手はこの馬に跨って3戦3勝。最初からレッドファルクスを選択していたように、CBC賞の勝ち方からもこの馬の強さを信じていたのだろう。思い切ってスタートから出していき、ポジションを悪くすることなく、最後の直線に向いた。この思い切りの良さがレッドファルクスの進路を開いたとも言える。騎手にも攻める気持ちがなければ、G1レースを勝ち切ることはできないのだ。そして、追い出してからのアクションも素晴らしい。これまでも何度も言ってきたし、これからも何度も言うことになるが、デムーロ騎手が追った馬は最後まで伸びるし、馬を追う技術には特筆すべきものがある。

ミッキーアイルは高松宮記念に次いで、またもや2着に敗れた。1200m戦だとあとひと押しが足りず、1600m戦だと最後に止まってしまう。1400m戦がこの馬の弱さを出さない距離であり、それゆえにG1の勲章に手が届きそうで届かない。仕上がりは良かったし、松山弘平騎手も迷いなく乗って力を引き出しているが、これがこの馬の限界だろう。

ソルヴェイグも鞍上の思い切りの良さが好結果に結びついた。前走は思い通りのポジションが取れず、この馬の良さを出せなかったが、乗り替わった田辺裕信騎手はそのあたりを踏まえ、積極的に出して行った。スタートしてスッとビッグアーサーの前をカットしたのも、隠れたファインプレーであろう。邪魔をされることなく、力を出し切ることができれば、G1レースでも上位争いをする力があることを証明した。

圧倒的な1番人気に推されたビッグアーサーは、馬群に包まれる形になり、馬が気の難しさを出し、最後の直線では行き場がなくなるとともに躓くアクシデントもあり、大敗を喫してしまった。このような形になると苦しいことは予期していたが、それ以上に厳しいレースを強いられ、絵に描いたような負け方であった。強くて速い馬であることは確かなだけに、力を出し切れずに敗れた感は果てしない。福永祐一騎手にはいつも苦言ばかり呈しているようで心苦しいが、1番枠を引いた時点で、何もしなければこのような状況に陥る確率は高かったはず。調教師からの指示があったのかもしれないが、たとえ止まってしまう可能性があったとしても、スタートから先頭に立つぐらいの気持ちで思い切って出していけば、そのまま逃げるか悪くてもソルヴェイグの走ったポジションを取るかを選ぶことができたのではないだろうか。前走で逃げたことが伏線となっているところもあり、難しい判断ではあるが、トップジョッキーとして、負けるべくして負けた罪は重い。

Photo by 三浦晃一

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私たちは勝てるのだろうか


凱旋門賞2016―観戦記―
マカヒキが惨敗しただけではなく馬券も外れたことで、いつもの2倍の悔しさを味わうことのできた、素晴らしい凱旋門賞であった。ヴェデヴァ二が先頭に立ち、外からオーダーオブセントジョージが2番手につけ、馬群はギュッと固まって流れた。こうなるとやはり内を走ることのできた馬に有利で、しかも前が止まらない馬場でもあり、道中のポジションが勝敗を大きく左右した。勝ったファウンドは内ラチ沿いピッタリを追走し、2、3着馬は先行した馬であった。逆に後ろから行った馬や外を回らされた馬たちは厳しい競馬を強いられ、シャンティイ競馬場で行われた今年も凱旋門賞らしいレースとなった。

マカヒキについては、外々を回されてしまったことはあくまでもひとつの敗因であり、それだけであそこまで大きく敗れたとは言い難い。2010年のナカヤマフェスタのようなケースであれば、外を回ったことが最大の敗因と断じることはできるが、今回はそうではない。最終コーナー手前ですでに反応がなくなっていたことから、マカヒキは凱旋門賞自体に万全の体調で臨むことができなかった、ゴールまで走り切ることのできる仕上がりにはなかったということ。日本ダービーを目標に究極の仕上げを施してから、約4か月で馬体と気力を回復させることができなかったということを意味する。陣営は細部に至るまで完璧に馬をつくってきたつもりだが、それでもどうにも抗いがたい、サラブレッドの体調のバイオリズムがあるということだ。

今回は過去の失敗を生かし、できる限りの策を講じてきたが、最後に残った日本ダービーの反動というピースだけが埋められなかった。斤量を考えると、3歳馬のうちに連れてくるほうが有利であるが、日本ダービーを勝った馬にとっては、その秋に凱旋門賞に万全の体調で臨むことは難しい。ディープインパクトやオルフェ―ヴルのような楽に2冠を獲るような馬であれば心配は要らないのだが、そのような10年に1度の名馬が菊花賞(3冠)を捨ててまで凱旋門賞に挑戦するだろうか。逆説的に聞こえるかもしれないが、私は日本ダービーで負けた馬を3歳時に凱旋門賞で連れてくるのがベストだと考える。今年で言えば、日本ダービーには100%の仕上がりで臨むことのできなかったディーマジェスティがそのイメージに近い。そして何としてでも、内枠発走を手に入れることだ。

最後に、ライアン・ムーア騎手のキス、ではなく、直線のコース取りを観ただろうか。前を行く2頭の間の、1頭分もないスペースをこじ開けるようにして抜け出している。外に持ち出す一瞬のロスさえ許さない、特に凱旋門賞のようなレースの厳しさを知り尽くしたジョッキーだからこその騎乗ぶりであった。気を抜いてしまう癖のあるファウンドに気を抜かせないためでもあっただろう。あれが日本であれば、危険すぎるという声ばかりが競馬関係者からもファンからも上がったことだろう。ぶつけられて3着になったデットーリ騎手が日本人騎手であれば、あれがなければ勝っていたとレース後にコメントしたかもしれない。良し悪しの問題ではなく、またやった者勝ちという低レベルの話でもなく、ジョッキーがこういう判断とスピードを持ち合わせていなければ、凱旋門賞は勝てないということを示唆しているのだ。私たちは勝てるのだろうか。私は凱旋門賞を勝ったあとの世界を見ることはできるのだろうか。

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最強はエルコンドルパサー


宝塚記念2016―観戦記―
大方の予想どおり、内枠からキタサンブラックが敢然と先頭に立ち、それを内からワンアンドオンリー、外からトーホウジャッカルが追いかけ、さらにアンビシャスも続いた。武豊騎手がスローに落としてくることを見越し、それに乗っかる形であわよくば漁夫の利を得ようと前に行こうとする騎手たちの意識の総和が、前半1000mが59秒1というハイペースをつくり出した。こうなることもジョッキーたちの頭にはあったはずだが、それでも前に行く方に大多数が賭け、逃げ・先行馬の脚色は最後の直線で崩壊した。

勝ったマリアライトは、ハイペースを中団外目の後方から追走し、外から捲るようにポジションを押し上げ、最後はキタサンブラックを捉え、ドゥラメンテを抑えての完勝であった。今期はG1レースを使わずに3戦目で宝塚記念に臨んできたように、フレッシュな状態であり、ここに狙いを定めてきたということでもある。展開やポジションに恵まれただけではなく、力がなければできない芸当であり、かつて牝馬で宝塚記念を勝ったスイープトウショウという名牝に匹敵するだけの強い勝ち方であった。430kg台の身体のどこにそれほどの力があるのかと驚かされるが、母の父にある名前を見て腑に落ちた。エルコンドルパサーこそがやはり最強なのだろう。最後のひと伸びはエルコンドルパサーが後押ししたのだ。早世が惜しまれるが、母の父として無尽蔵のスタミナとパワーを伝え、その血は永遠に残っていくはずである。

蛯名正義騎手にとっても快心の騎乗であったに違いない。昨年のエリザベス女王杯もそうであったが、道中のポジションからゴーサインを出すタイミングまで、全てがドンピシャであり、完璧としか言いようがない。道中のポジションが少しでも前後左右していたり、仕掛けるタイミングが少しでもずれていたら、勝っていたかどうか分からない。もう1度同じ騎乗を求められてもできない。それを1回きりの本番で成してしまうのは、これまでに蛯名騎手が培ってきた、あらゆる失敗や苦い経験が込められた、ベテランの腕があってこそである。

かつて蛯名騎手がエルコンドルパサーを背に凱旋門賞に挑み、惜しくもモンジュ―にゴール前で差し切られてしまったとき、ミスター競馬こと野平祐二氏は「蛯名騎手の追い方(体の使い方)に硬さがあった」と苦言を呈した。蛯名騎手は残念会で悔しさを隠すことなく男泣きした。あれから17年の時が流れた。もし野平祐二氏が生きていて、今回の宝塚記念における蛯名騎手の騎乗を見たら、言葉の限りを尽くして称賛するに違いない。武豊を差し切り、ミルコ・デムーロを凌いだのだ。もはやこれ以上の騎乗はない。蛯名騎手が凱旋門賞を勝つ準備はできている。来年、ディーマジェスティに乗って、日本人ジョッキーとして初の凱旋門を制してもらいたい。

惜しくも2着に敗れたドゥラメンテは力を出し切っている。レースの流れにも乗り、前がバテる展開を後方から追走し、勝ちパターンではあったが、わずかに届かなかった。最後の坂で少しモタモタしたように、ドバイ遠征帰りで目に見えない疲れがあったのかもしれない。それでも馬体はきっちりとできており、80%の出来にはあっただけに、今回は勝った馬の強さを認めるべきだ。デムーロ騎手のハイペースを読み切り、終いの脚に賭けた判断は見事であった。

最も強い競馬をしたのはキタサンブラックである。1000mが59秒1のラップを自ら刻み、マークされながら、先行馬が早めに動き出す流れの中でも、最後まで脚は止まらなかった。スピードとスタミナが高い次元で融合されており、しかもレースの主導権を握れる気性の素直さと前向きさがある。馬体重もさらに増えているように、雄大かつ、付くべきところに筋肉がついて成長著しい。秋以降はドゥラメンテの良きライバルとしてしのぎを削ってゆくことになるはずである。

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完璧な逃げ切りのシナリオ

Yasuda2016
安田記念2016―観戦記―
最強マイラーであるモーリスに恐れをなしたか、意外にも少頭数で行われた安田記念は、ロゴタイプが逃げを打つことで幕を開けた。前半マイルが47秒ジャスト、後半マイルが46秒ジャストという、前後半で1秒の落差があるスローペース。G1のマイル戦では考えられないほどの超スローペースと言ってよい。このペースでは、後ろから行った馬はまず届かない。粒ぞろいのメンバーが揃ったにもかかわらず、レースのレベルは過去最低だったと言っても過言ではないだろう(ロゴタイプの勝利の価値が低いという意味ではない)。

逃げたというたったひとつの事実が、ロゴタイプの勝因の全てを物語っている。皐月賞以来、精神的なスランプが長引き、さらに脂肪がつきやすい馬体ゆえの重苦しさが出ていた時期もあったが、ここにきて首回りがすっきりして、かつての良かった頃の馬体に戻っていた。誰にも邪魔されることなく、自分のペースで、自分のタイムで走ったら、勝っていたという感じだろう。3年間にわたって、この馬を信じつづけてきた関係者の方々は、長いトンネルを抜けた喜びで一杯のはず。吉田照哉氏が「サンデーサイレンスに似ている」と評した頃の輝きを、ロゴタイプがようやく取り戻した。

田辺裕信騎手は、ロゴタイプの手綱が回ってきて3戦目で結果を出してみせた。勝つためにはどう乗るべきかを考え、最善手をシンプルに実行したからこその勝利である。モーリスに勝つためには、モーリスよりも前に行かなければならない。結果的には、(ペースの読めない)外国人騎手の乗った(動くに動けない)人気馬に蓋をさせる形になり、完璧な逃げ切りのシナリオであった。行こうと思えば行けた他の騎手たちは、ほぞを噛んでいるに違いないが、考えたことをそのまま実行することは、頭で考えるほど簡単ではない。人気がなかったから可能であったという面もあるが、それができるからこそ、今の田辺騎手のポジションがあるのだろうし、これから先、トップに立つべき騎手であるということだ。少頭数の競馬は、お互いが探り合う分、騎手たちにとっては案外難しく、得てして今回のような競馬になってしまうことを、私たちは覚えておきたい。

2着に敗れたモーリスは、最後の直線で伸び切れなかった。勝ち馬の直後だけに、ポジションとしては悪くはなかったが、道中はずっと力んでスタミナを浪費してしまっていた。前走の香港マイルのときからその兆候はあったが、精神的にやや余裕がなくなってきているからか、行きっぷりが良いと言うよりは、力んで走っている。これだけ高いレベルの競走で連勝をしてくれば、馬も人間も目には見えない疲れが積み重なっているものだ。陣営は百も承知だろうが、この機会にゆっくりと休養を入れて、次のレースはもう1度、ゆっくりと走らせることから始めるべきである。

フィエロは実に惜しい3着であった。後ろから行った馬の中で最も良く伸びただけに、このスローペースが悔やまれる。馬体にわずかに重さがある馬だけに、G1レベルの争いになると勝ち切れなさを露呈してしまう。内田博幸騎手は、前に行けなかった分、最後の直線に向いても脚を溜めに溜めて、フィエロの切れ味を引き出した好騎乗であった。

サトノアラジンも脚質的に勝ち切れなかった。前走を後方から差し切ったという布石があったにもかかわらず、川田将雅騎手はある程度、展開を読んでいたのか、サトノアラジンをできる限り前にポジションしようと意識していた。それでも中団から差し込んで4着なのだから、今回は運がなかったとあきらめざるをえない。

イスラボニータはもったいない競馬であった。モーリスが返し馬から気負っているのを見て、引っ掛かることを期待して、モーリスの後ろにつける作戦を考えていたのだろうか。第1コーナーで先頭に立つこともできたはずの行きっぷりの良さにもかかわらず、手綱を引いてしまい、外からリアルスティールにポジションを奪われてしまった。スローペースの外を回された挙句、イスラボニータの先行力を生かせなかった。

リアルスティールは思い切って出していき、モーリスを見ながら、勝ち馬の後ろという最高のポジションを走ることができた。直線に入って海外遠征帰りのモーリスの脚が上がる可能性に期待したが、自身が先に力尽きてしまった。これがリアルスティールの本来の力ではなく、マイルの距離が短かったわけでもなく、異国の地で激走した見えない疲れが残っていたのであろう。

Photo by 三浦晃一

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名を残す馬たち

Derby2016
日本ダービー2016―観戦記―
きちんと朝食を食べ、部屋の片づけをし、トイレの便器をピカピカに磨いてから家を出る。競馬場に向かう途中の電車のホームで横入りをされても、グッと我慢して心を平穏に保つ。ゲンを担いでいるつもりはないが、せめて今日ぐらいは神様に味方してもらいたい。ダービーはそんな日なのである。競馬場に到着すると、すでに第10レースの出走馬たちはパドックを回っていて、それでも呑気にソフトクリームなんかを食べていると、あっと言う間にスターターが旗を振り、今年の日本ダービーの幕は切って落とされた。

内枠を利してマイネルハニーが先頭に立ち、アグネスフォルテとプロフェットが続く。この時点でペースが速くなる見込みはなく、案の定、前半1200mが72秒9、後半71秒1という超がつくスローに流れた。府中の2400mでこうなると、内枠の前目のポジションで脚を溜められた馬にとって、極めて有利な瞬発力勝負のレースになる。上位に来た4頭は全て内枠の馬であり、外枠からの発走となったリオンディーズだけが自分の競馬ができずに力を発揮できなかったといえる。

勝ったマカヒキにとっては、待ち望んでいたレースであり展開であった。すべては内枠を引いたことから始まったといっても過言ではなく、いつもより前のポジションをすんなりと確保し、直線に向くまでに無駄な動きひとつすることなく、徹底的に脚をためることができた。極限まで絞られた矢が放たれると、あとは伸びてゆくのみ。ゴールまで真っ直ぐに突き抜けて、サトノダイヤモンドの追撃をハナ差だけ凌いでみせた。フットワークの大きなマカヒキにとって、東京競馬場の広いコースは存分に力を発揮できる舞台であった。父ディープインパクトをそのままひと回り大きくしたような馬体であり、その分、スケールが大きい。この先、どのような活躍をするか分からないが、ディープインパクトの後継者はこの馬であろう。10年後に血統表を開いてみると、サンデーサイレンスからディープインパクト―マカヒキとつながっている図が目に浮かぶ。

川田将雅騎手はダービー初制覇となった。枠なりに少し出してゆくのは予定どおりだろうし、第1コーナーまでゴチャつかずにスムーズに乗り切れた時点で、好走を確信したのではないか。直線に向いて、前が開かない瞬間があったが、結果的にはあそこでひと呼吸置けて、脚がさらにたまったことが良かった。最後の直線では、外から来るサトノダイヤモンドのクリストフ・ルメール騎手との叩き合いになり、むこうは柔、こちらは剛といった追い比べを制してみせた。勝率や連対率からみても、日本人のジョッキーとしては最も巧い騎手であることは確かで、マカヒキの手綱が回ってくるべくして回ってきた、日本ダービーを勝つべくして勝ったといえるのではないか。

サトノダイヤモンドは惜しくも勝利を逃してしまったが、力は出し切っている(落鉄の影響の有無についてここでは述べない)。皐月賞は休み明けでやや太目残りだったが、今回はきっちりと仕上げられてきたことがスタートダッシュのスピードからも伝わってきた。折り合いを欠くことのない馬だけに、スローペースの流れにも乗り、最後の直線を理想の形で迎えた。追い出しのタイミングも文句なしだったが、そこから右によれてしまったロスが最後に響いた(落鉄の影響の有無についてここでは述べない)。着差が着差だけに、枠順が少なからず影響したことも否めない。自身も100%のレースをしているが、それ以上の走りをした馬がいたということだ。日本ダービーを勝てる力のある馬であることを自ら証明したが、勝ち馬のマカヒキと比べるとやや手脚が短く、重心が低く、将来性やスケールという点では見劣りする。もちろん、この世代のトップホースの1頭であることに間違いはない。

皐月賞馬のディーマジェスティは、最後まで伸びたが3着が精いっぱい。前の2頭に比べると瞬発力に劣るため、今回のようなラスト3ハロン33秒台の決着になると分が悪い。蛯名正義騎手もそのあたりは把握しており、早目に動こうとして工夫はしているが、レース全体の流れがこうなってしまうと仕方ない。この馬は上がりが掛かれば掛かるほど、馬場が重ければ重いほど力を発揮するタイプだけに、パンパンの良馬場でよくぞここまで走ったとも言えるだろう。上位馬たちの中でも最もヨーロッパの競馬に対する適性が高いだけに、二ノ宮調教師と蛯名正義騎手など、このチームでぜひとも凱旋門賞に挑戦してもらいたい。そうすれば、日本ダービーは勝てずとも、日本人騎手として初めて凱旋門賞を制するのは蛯名騎手となるはずである。

エアスピネルは武豊騎手に導かれ、力を出し切っての4着。スローペースを読んで先行し、これしかないという競馬であった。生まれた世代が悪かったという言い方はしたくないが、先着された3頭は圧倒的に強い。この馬自身にとって2400mは長く、マイルから2000mぐらいまでの距離でこそ、最も力を発揮できるはず。

リオンディーズはここ2走続けて掛かり気味に先行してしまったので、今回は抑えていく作戦に出たが、外枠とあいまってポジションを悪くしてしまった。気がつくと後方を走ることになってしまい、スローペースに見事にはまってしまった。最後は伸びているが、前も伸びており、掲示板に載るのが精いっぱいという競馬であった。これだけレベルの高い争いになると、折り合いに不安を抱えているだけで勝ち切れない馬になってしまう。

ここ最近の日本ダービーを観ていると、枠順によって勝敗や着順が決してしまうことが少なくない。昨年のドゥラメンテのように1頭だけ傑出している場合を除き、内枠を引かないと勝てないレースになってしまっている。世代の頂点が最終的に枠順によって左右されてしまうことに違和感を覚えるものの、それだけトップを決める争いに参加する馬のレベルが拮抗するということでもあり、またトラックを回る競馬という競技の特性上仕方ない(さすがに2400mを直線競で行うわけにはいかない)とあきらめざるをえないのだろう。

Photo by 三浦晃一

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目をつぶれば見えてくる

Oaks2016
オークス2016―観戦記―
ダンツペンダントがハナを切り、エンジェルフェイスやゲッカコウが追いかけ、前半1000mは59秒8という速いペースで流れた。中盤こそ12秒台後半のラップが刻まれて落ち着いたが、最後の3ハロンは再び速い上がりの勝負に。前半が速くなった分、先行馬たちは最後の直線半ばで力尽き、後ろから行った馬たちに有利な差し比べのレースとなった。こういう縦長のレースにおいては、前から下がってくる馬を捌かなくてよく、フットワークを伸ばして走らせやすい、馬群の外を回った方が好結果につながる。外枠から差し脚を生かした馬たちが上位を占めた中、内から攻めた勝ち馬の強さは際立った。

勝ったシンハライトは、道中はきっちりと折り合い、内で脚をためながら走っていた。焦点は最後の直線に向いてからどう馬群を捌くかだけ。最後の最後に抜け出して、辛勝したように見えるが、馬自身には余力があり、まだ本気で走っていないところがある。というのも、ゴールした直後に耳を立てているように、この馬はすぐに遊んでしまうところがあって、桜花賞のように早めに抜け出してしまうと気を抜いて、ペースダウンしてしまうため、最後まで馬体が併さる今回のような形がベストである。ふわふわして走っているので、騎手としては手応え以上に伸びるし、追えば追うほど伸びる馬である。小さな馬体ながらも、走るバネと潜在的なスタミナが豊富で、さらに距離が延びても良さが出るはず。

池添謙一騎手も内枠を引いた時点で、腹を決めていたのだろう。変に道中で動くことなく、前が開くなら開け、開かないならその時になんとかしようと、開き直って最後の直線に向いていた。スパッと抜ける瞬間はなく、シンハライトもジワジワと伸びたが、トップスピードに乗ったゴール前100mは素晴らしい切れ味であった。最後の直線で抜け出す際に、池添騎手は意図的にデンコウアンジュを外に弾き飛ばしているが、ここは目をつぶろう。たまたまデンコウアンジュが無事に走り終えただけであって、大きな事故につながる可能性も十分にあり、降着になるかどうかは運次第であった。しかし、あそこで待っていたら、シンハライトの馬のタイプから見て、敗れてしまっていただろうし、そんな競馬は見たくない。手段を選ぶなということではなく、脚のある馬は何としてでも抜け出してこなければならない。そのためには、引いてしまってはならないし、多少強引に見えても動かなければならない。そういう前提であれば、もし事故につながってしまったとしたら、それは結果としてそうなってしまったと考えるしかない。事故が起こった結果からその乗り方が悪いと批判するのではなく、もしシンハライトが歴史に名を刻むことを肯定するならば、最悪の結果さえも受け入れる、引き換えにすると考えなければならない。誰しも人を傷つけたくはないが、競馬というスポーツにおいて勝利を目指す上で、どうしてもそうなってしまうこともあるはずだ。競馬を楽しんでいる私たちが、結果だけを見て危険を叫んでみたり、かと思えば涼しい顔をしてシンハライトの勝利を祝ってみたりするのはどこかおかしい。その過程をすべて踏まえ、目をつぶらなければ見えないものもあることを知っておきたい。

チェッキーノは最後まで良く伸びたが、惜しくも届かなかった。シンハライトとは着差以上の差があり、今回は勝ち馬が強かったとあきらめるしかない。桜花賞を回避した判断はプラスに出ているし、この馬にたずさわってきた人々の忍耐や工夫が良い方向に向いている。ひとつ間違うと、一介のマイラーに終わってしまうこの血統の馬が、2400mをしっかりと走り切れたことに価値がある。戸崎圭太騎手もよく乗っている。道中のポジションも完璧であり、レースの流れを考えると、外を回して正解であった。最後の追い方も素晴らしく、坂を上がってからグッと馬を伸ばして連対を確保してみせた。

Photo by 三浦晃一

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ヴィクトリアマイルはスピードレース


ヴィクトリアマイル2016―観戦記―
内枠を利してスマートレイヤーがそのまま先頭に立つかと思いきや、レッドリヴェールが思い切ってハナを奪い、前半マイルが45秒7、後半が45秒8という平均ペースをつくった。4コーナー手前でカフェブリリアントが抑えきれずに先頭に立つシーンもあり、先行馬たちにとってはやや出入りの激しい展開。11秒台が連続する緩みのないラップに加え、府中の長い直線での追い比べとなり、各馬の実力が正直に反映されるレースとなった。勝ったのは出走馬中、最もスピードに優るストレイトガールであった。

ストレイトガールは昨年に続く勝利で、ヴィルシーナに次ぐ2頭目のヴィクトリアマイル連覇となった。しかも7歳牝馬のG1勝利は史上初の快挙。最後の直線に向いてからは追い出しを我慢するほどに手応えが良く、ゴーサインが出るや、あっと言う間に馬群から抜け出した。着差以上の完勝と言ってよいだろう。ピークが短い短距離馬、しかも牝馬であるにもかかわらず、7歳にしてこれだけの走りができることに驚かざるをえない。こんなにも長くトップレベルの能力を維持できるのは、ストレイトガールが短距離馬にしては珍しく気持ちのゆったりとした、オンとオフのはっきりした馬だからであろう。その証拠に、負けるときにはあっさり負け(特に前哨戦では)、本番では全能力を発揮できている。気性的にピリピリしているような馬であれば、このような戦績は辿れない。

戸崎圭太騎手は、これ以上ない見事な騎乗でストレイトガールを連覇に導いた。どのようにして内に潜り込んだのだろうと、何度もパトロール映像を見てしまうほど、馬群の間隙を縫って、いつの間にか最高のポジションを走らせていた。レース前の綿密なシミュレーションと内を走らせようという明確な意思があるからこそ、わずかなチャンスを掴むことができるのだ。直線に向いた瞬間、一気に前が開いたが、あそこで慌てず騒がず、ひと呼吸置いて、ドンピシャのタイミングで追い出したのもさすがである。

ミッキークイーンは休み明けをひと叩きされ、パドックでの見た目は腹回りが寂しく映ったほどに、きっちりと仕上がっていた。それでも勝ち切れなかったのは、力負けというよりは、勝った馬の方がヴィクトリアマイルへの適性が高かったということである。同じマイル戦でも、もう少しスタミナを問われるような馬場やレースで走れば、ミッキークイーンに軍配が上がるはず。あえて欲を言えば、もう少し馬体を増やして、パワーアップされるとさらに強くなる。怪我から復帰した浜中俊騎手も、スタートからゴールまで勝ち馬のほぼ後ろを走らせていたように、非の打ちどころのない騎乗であった。

ショウナンパンドラにもミッキークイーンと同じことが当てはまる。勝ち馬とはヴィクトリアマイル適性において劣っていただけで、決して力負けではない。スピードの絶対値では勝ち馬が一枚上であった。スタートが決まらず、レースの流れに乗るまでにバタバタしてしまったこと、そして4コーナーで外を回してしまったことが2着と3着の違いとなった。池添謙一騎手は、ギリギリまで追い出しを待った方がこの馬の末脚を発揮できることをジャパンカップで学んだはずだが、どうしたのだろう、今回はやや勝ちに焦ったのかもしれない。

スマートレイヤーはもう少しスローで行きたかったが、そうは問屋が卸さなかった。それでも、これだけの平均ペースを先行し、最後は上位3頭のG1馬たちの次に来ているのだから、この馬も間違いなく力をつけている。5着のルージュバックもよく走ったが、このメンバーに入ると、力を出し切っても5着というのが順当な力関係であろう。

最後に、今年の結果を受け、ヴィクトリアマイルはスピードレースなのだということがはっきりと分かった。フジキセキ産駒が多く勝っているのは、スローに流れることが多いため、距離がもってしまうのだと考えていたが、そうではなくヴィクトリアマイルはスピードの絶対値が問われるレースなのである。府中のマイル戦は、スタミナがないとこなせないコースだが、馬場が絶好の時期に行われるヴィクトリアマイルを勝つには、まずスピードが必要なのだ。つまり、マイルをこなせる中距離馬ではなく、マイルをこなせるスプリンターを狙うべきレースなのである。他の競馬ファンにとっては自明のことかもしれないが、ヴィクトリアマイルはスピードレースであると私はストレイトガールに教えてもらった。

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名馬誕生の予感

Nhkmilec2016
NHKマイルC2016―観戦記―
メジャーエンブレムが先頭に立ち、前半マイルが46秒0、後半が46秒8という平均ペースをつくり出した。2ハロン目以外は11秒台のラップがコンスタントに刻まれているように淀みのないペースであり、展開の有利不利が少なく、全馬が力を出し切れる舞台となった。とはいえ、勝ったメジャーエンブレムを追いかけた馬たちは大バテしており、後ろから勝負を賭けたロードクエストや馬群の外を走ったレインボーラインが上位に来ていることを考慮すると、見た目以上に前に行った馬たちにとっては厳しい内容のレースであったといえる。

勝ったメジャーエンブレムは、逃げてこのタイムで走り切ったのだから強い。府中のマイルコースは最も逃げ切りが難しいコースのひとつであり、特にクラスが上がるほどのその傾向は強まる。NHKマイルカップを逃げ切ったケースは他にもあるが、カレンブラックヒルはスローペースであり、ジョーカプチーノの年は前が止まらない異常な馬場であった。あえて比べるならば、ミッキーアイルが逃げ切った年に近いが、それよりも前半のペースも全体のタイムも速い。もちろん記録的な裏付けだけではなく、牡馬を引き連れての堂々の逃げ切りであったのは衆目の一致するところである。今になって思えば、前走、桜花賞でスピードに乗れなかったのは、クイーンCをレコードで快走したことの反動があったのかもしれない。今回きっちりと仕上げられていたので、この後はひと休み入れて、秋の秋華賞やエリザベス女王杯に備えてもらいたい。2400mまでならば、距離は延びても全く心配はない。

クリストフ・ルメール騎手は実に堂々と乗って、メジャーエンブレムを勝利に導いた。スローに落として逃げ切ろうとするのではなく、メジャーエンブレムのリズムで気持ち良く走らせることに徹していた。彼女の型にはまれば、簡単には止まらないし、やすやすと差し込まれることもない。そう信じて乗っていたに違いないが、それでも負けられない一戦だっただけに、先頭でゴールしたあと、ゴーグルの下に久しぶりに見せた厳しい表情が、ルメール騎手のこのレースに賭ける気持ちを物語っていた。

ロードクエストは道中でしっかりと脚をためて、最後も良い脚を使って追い込んできたが2着。脚質的に、前に強い馬がいると届かないのは仕方ない。スローで不発に終わるよりも、メジャーエンブレムが引っ張ってくれたおかげで、差し脚が生きたと考えることもできる。勝った馬との着差はわずかでも、見た目以上の力差があった。この馬はさめ顔というか羊頭というか、顔つきから幼さや気性の難しさがあることが窺え、それゆえにこうした極端な脚質になってしまうのだろう。堅実な末脚を見ると、今年の3歳牡馬のトップクラスの1頭であることは間違いないが、かといって日本ダービーで勝ち負けになるかと問われればならない。それほどに今年の3歳牡馬勢は層が厚いということだ。池添謙一騎手は差し馬に乗せたら天下一品であり、緩急自在にレースに対応し、騎乗馬の末脚を引き出すための仕掛けどころのポイントを知り尽くしている。

レインボーラインはステイゴールド産駒らしく気性的に激しいところがあるため、道中は馬群の外を走れたことと、スタミナをも問われる厳しい流れになったことで持ち味が生きた。無理に先行集団に取りつくことなく、スッと後方集団に控えた福永祐一騎手も見事な道中のポジショニングであった。ダンツプリウスは勝ち馬を追いかけた馬たちの中では唯一掲示板に載ったように、ニュージーランドT勝ちがフロックでなかったことを証明した。最後の直線で2度ほど外に振られる不利がなければ、2着争いに際どく食い込めたのではないかと思うともったいなさは残る。

Photo by 三浦晃一

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武豊祭りだ


天皇賞春2016―観戦記―
1番枠から好スタートを切ったキタサンブラックが先頭に立ち、内の2番手にはカレンミロティックがすんなりと収まったことで、ペースはあっと言う間に落ち着いた。前半の1000mが61秒8、後半の1000mが59秒1という超スローペース。前があまりにも楽をしているのは分かっていても、自ら動けば後ろから差されるかもしれず、また前後左右に馬がいて動きたくても動けないなど、長距離戦ならでは乗り難しさが重なって、ほとんどの馬たちが金縛り状態のまま最後の直線に向いた。後ろから行っては勝負にならない、前残りの展開であった。競馬はすべての馬が力を出し切れるわけではなく、出し切れるかどうかもゲートが開いてみないと分からない。

逃げ切ったキタサンブラックは典型的なステイヤーである。この馬がとにかく堅実に走るのは、ヒョロッとした馬体からは想像もできないほどの無尽蔵のスタミナを内包しているから。前走の産経大阪杯の方が馬体は立派であり、今回は絞れて枯れていた。馬体が寂しく見える方が走るのだから、ステイヤーは不思議である。もうひとつ不思議なことは、なぜ父ブラックタイド、母の父サクラバクシンオーという血統から、これほどのステイヤーが生まれたのかということだ。ブラックタイドや全弟であるディープインパクトは、ほんとうは正真正銘のステイヤーの血を伝えるのだろうかと最初は考えていたが、もしかするとサクラバクシンオーの血こそがステイヤーのそれなのかもしれない。思い返してみると、サクラバクシンオーの馬体や血統は決してスプリンターのそれではなかった。ただ気性的にスプリンターであっただけであり、ブルードメサイヤーとしてはスタミナを伝えるのではないだろうか。

武豊騎手は、1番枠を引いた時点で、好結果を予感したことだろう。すんなりとハナに立つことができれば、折り合いを欠くことのないキタサンブラックのペースに持ち込めることはほほ確実であり、そうすればキタサンブラックがバテる姿を想像するのは難しい。自分以上に切れる馬にマークされ、ギリギリで差し切られてしまうかもしれないが、それでも好勝負は必至であろう。そんな風にキタサンブラックを信頼する気持ちが馬にも伝わり、まさに思い描いていた通りに寸分の狂いもないレース運びとなった。決して技ありという騎乗ではなく(本人もそう思っているはず)、それでも青写真通りに流れて、ハナ差で勝ってしまうあたりが、さすが日本一のジョッキー武豊である。

カレンミロティックにとっては、超スローの展開をインの2番手という最高のポジションで進められたことが好走の原因である。8歳のセン馬としてはこれ以上ないレースができ、力を出し切っての2着だけに、完全燃焼したと同時に、頭の上げ下げで勝敗は変わっていたことを思うと、一抹の悔しさはあるはず。

3着に突っ込んだシュヴァルグランはもったいないレースをした。心配していたスタートをポンと出たにもかかわらず、最初のコーナーまでのポジション争いでやや下げてしまったことが悔やまれる。結局、内の4番手で流れが落ち着いてしまい、外に出して動くに動けず、最後の直線で脚を使っただけで、この馬のスタミナを生かすことができなかった。馬はきっちりと仕上がっていただけに、力を出し切れなかった印象が強い。

福永祐一騎手が大きなレースで騎乗馬の実力以上に勝てないのは、このあたりの攻め切れない気持ちに原因がある。100点満点か50点かという騎乗ではなく、常に80点の騎乗をしてしまう。ソツがないといえば聞こえがいいが、失敗や減点を恐れて平均的に乗る姿勢が染み付いてしまっている。このレースに向けて馬を仕上げてきた関係者は、今日の騎乗を見てどう思うだろう。最後のバトンを受けたジョッキーが80点で回ってきてどうするのか。もうG1レースでは乗せたくないと思うのではないか。父である福永洋一騎手ならばこう言うだろう。「あれだけ良いスタートを切れたのだから、もうちょっと突っ込んで、アドマイヤゼウスが走ったポジションを譲ることなく走るべきだった」と。父洋一騎手は大舞台でこそ、より大胆な騎乗で100点以上の結果を出した。だからこそ騎乗馬の人気よりも着順の方が上になった。もちろん、福永祐一騎手も分かっているはずである。

1番人気のゴールドアクターは外枠が災いした。吉田隼人騎手はスタートから攻めて行ったにもかかわらず、サウンズオブアースと同じポジションを争う羽目になり、結局、枠が少し外の分、控えざるをえなかった。道中は外を回され、最後は自ら動いてキタサンブラックを捕まえに行ったが、脚は残っていなかった。それにしても、道中で掛かる素振りを見せたり、大きく負けてしまったのは、ここまで連勝してきた見えない疲れが出てしまったのかもしれない。

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強い馬は多い方がいい

Satuki2016
皐月賞2016―観戦記―
リスペクトアースが押して先頭に立ち、外からリオンディーズらが第1コーナー目がけて殺到したことで勢いがつき、前半1000mが58秒4、後半が59秒5というハイペースとなった。馬群はあっと言う間に縦長になり、前半のポジションと着順が正反対に入れ替わったように、時計に現れる以上に前に行った馬たちにとっては苦しい展開となった。内が傷んだ馬場や強風の影響もあったのかもしれない。緩急の操縦がつきにくい3歳春とはいえ、前に行ったリスペクトアースやジョルジュサンク、アドマイヤモラールは大バテしており、あまりに常軌を逸したレースであった。逆に考えると、今回の目に見える結果を妄信してはならないレースでもあったともいえる。

勝ったディーマジェスティは、ハイペースを外を回って後方から追走し、最後の直線ではバテた先行馬たちを横目に突き抜けてみせた。展開がハマったことは確かだが、ゴール前では耳を前方に立てる仕草を見せていたように、余力を残しての勝利であった。祖母にシンコウエルメス(父サドラーズウェルズ)がいる超良血であり、底知れぬスタミナが遺伝していることがわかる。もちろん距離は延びて良いタイプであり、日本ダービーというよりも、さらに先々の真のスタミナを問われるレース(凱旋門賞やキングジョージなど)での活躍が見込まれる。共同通信杯からレース間隔を開けて成長を促した二ノ宮調教師はさすがであり、その期待に応えて成長したディーマジェスティもディープインパクトの血も素晴らしい。

2着に入ったマカヒキは敗れたものの、最後はきっちりと脚を使っている。これだけ速いペースを追走したのは初めてであり、この馬にとっては良い経験となったのではないか。今回は勝ち馬のスタミナと底力が一枚上であった。道中は相変わらず美しいストライドで走っており、もう少しゆったりと走れるペースやコースの方がこの馬には向いている。そういう意味では、日本ダービーが行われる府中の24000mが、今のマカヒキにとってはベストだろう。

最も強いレースをしたのはサトノダイヤモンドである。道中のポジションも悪くはなく、これだけのハイペースを正攻法で勝ちに行った。思っていた以上に後ろから行った馬に有利な展開になってしまったことと、惜しむべきは、最後の直線で内から外に弾かれてしまったことだろう。あのような玉突きが起こると、遠心力がついて最も外にいた馬に負荷が掛かるため、見た目以上にサトノダイヤモンドにとっては衝撃があったはず。それでもあきらめずに、前にいた馬たちを捕まえているように、やはりこの馬は強い。どんなレースでもできる賢さと気持ちの強さがあり、日本ダービー馬に最も近いのはこの馬である。

走る能力という点でいえば、5着(4着から降着)になったリオンディーズも引けを取らない。他の先行馬たちが最終コーナーを手前にズルズルと下がっていく中、この馬は最後の直線に向いても先頭を譲らんと走り、苦しくて左にヨレつつも、最後の最後まで抵抗していた。今回の皐月賞に関しては、外枠を引いてしまったことが不運であった。外を回されないためには、スタートから出して行くか後ろに下げるかの2択しかなく、前者を選択したのは勝つためである。結果的には後ろから行った方が勝てた可能性が高かったが、そもそもこのハイペース自体をリオンディーズが作っており、後者を選択していてもペースが落ち着いて外を回らざるを得ず、負けてしまっていただろう。それほどに、皐月賞で外枠を引くことは死を意味するということだ。日本ダービーに向けては、能力的には勝てるだけの器だが、2戦続けて前に行くレースをしている(弥生賞は試してみて、皐月賞は仕方なく)だけに、このままだと日本ダービーは確実に道中で激しくハミを噛むはずである。ディープブリランテに岩田康誠騎手が中間ずっと張り付いて調教したような荒業を使わなければ、日本ダービーまでにこの馬に折り合いを教えるのは難しい。

掲示板には載れなかったが、マウントロブソンも底力があることを証明した。こういった極端に速い流れのレースになると、その馬の真価が現れる。完成するのはまだ先だろうが、一流馬になることは間違いない。エアスピネルも武豊騎手の期待するように、普通の世代ならば皐月賞馬になれたほどの能力の高い馬である。サトノダイヤモンド、マカヒキ、リオンディーズの3頭が強いことは確かだが、今回の皐月賞を終えて、ディーマジェスティとマウントロブソン、そしてエアスピネルが加わって6強となったと言える。強い馬は多い方がいい。

Photo by 三浦晃一

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魔の桜花賞


桜花賞2016―観戦記―
メジャーエンブレムがすんなり先頭に立つかと思いきや、内のソルヴェイグのスタートが良く、さらに外からカトルラポールやメイショウバーズらが押し寄せたことで、先行争いは激化した。前半の800mが47秒1、後半が46秒3という、ややスローペースで流れたが、力が一歩劣る馬たちが前に行くことに活路を見出し殺到し、勝手に消耗してくれたことで、差しに徹した有力馬たちにとっては願ってもみない展開となった。落ち着いて末脚を引き出した上位3頭のジョッキーらはさすがで、その中でも、ほぼ最後方から進み、最後の直線に賭けたジュエラーとミルコ・デムーロ騎手が一か八かの勝負を制してみせた。

勝ったジュエラーは、牝馬としては大きな馬体を有し、パワーとその末脚の威力に関しては、新馬戦と2戦目のシンザン記念で証明済み。と同時に、良いポジションを取りに行くと馬が行きたがってしまい、末脚が鈍るという弱点も併せ持つ。この馬の末脚を存分に引き出すには、極端な競馬をせざるをえず、そうなると展開に大きく左右されることになる。チューリップ賞までに陣営は色々な試みをしてきたが、結局のところ、道中はゆったりと走らせ、最後の直線に全てを賭けるしかないという結論に至ったのだろう。今回はその決断が見事にはまった。ただし、次回のオークスは不発に終わる可能性も十分にあるということだ。

シンハライトはこの馬のレースをして、力を出し切ったが、外から勝ち馬に一気に来られてしまった。前走のチューリップ賞のゴール前でも耳を立てていたように、先頭に立つと気を抜いてしまうタイプなのだろう。今回はメンコを付けていることが裏目に出てしまった。音に敏感なのでメンコを付けているのだろうが、今回のように馬体を離して一気に来られた場合の反応が鈍くなるデメリットもある。馬体が併さっていれば、また違った結果になっていたはず。馬体は小さくても、走りは柔らかく、どんな展開でも末脚を発揮でき、ジュエラーよりも力は一枚上である。オークスではこの馬の方が有力になる。

圧倒的な1番人気に支持されたメジャーエンブレムは、これだけはやってはいけないという負けパターンにはまってしまった。メジャーエンブレム自身にいつもほどの行きっぷりがなかったのかもしれないが、クリストフ・ルメール騎手は慎重に乗り過ぎて、全く動けないまま最後の直線を迎え、この馬のスピードやスタミナを全く発揮することなく終わってしまった。まるで昨年のルージュバックのリプレイを見ているようで、さすがのルメール騎手でも(分かっていても)避けられなかったのだから、牝馬のクラシック初戦である桜花賞というのは難しいレースということなのだろう。

かつて桜花賞がおむすび型の阪神小回りコースで行われていた頃、乱ペースによって、1番人気の馬がなかなか勝てず、「魔の桜花賞ペース」と呼ばれていた時代があった。阪神競馬場の改修によって、コーナーが緩やかになり、最後の直線も長く、紛れが生じにくいレースになったと思っていたのも束の間、昨年に続いてこのようなレースになったのだから、魔の桜花賞ということなのだろう。冷静に理由を考えてみると、2つのことが思い当たる。ひとつは、3歳牝馬ということもあって、必要以上に慎重に(落ち着いて)乗ろうという意識が働きすぎるのだろう。それが裏目に出ると、動くべきところで動けず、(特に関東の騎手や外国人ジョッキーは)他馬からの包囲網に遭い、取り返しのつかないところまでポジションを悪くしてしまう。もうひとつは、いつもと同じような感覚で阪神のマイル戦に乗ってしまうことだろう。普段は最後の直線も長いし、コーナーも緩やかなので、多少の不利やロスはどこからでもカバーできるコースではあるが、G1レース特にクラシックは予想以上にマークが厳しく、思ったようなレースを最後までさせてもらえなくなる。そのギャップの大きさに気づいた頃には既に負けている。油断といえば油断である。昨年の戸崎圭太騎手は前者で、今年のルメール騎手は後者なのではないか。もちろん、ルメール騎手も同じ轍を2度も踏まないはずで、オークスは思い切った乗り方をしてくるはずだ。

13番人気ながらも外から鋭く差したアドマイヤリードも、この馬の競馬に徹した1頭であった。気性的に難しいところがあり、こうした繊細な牝馬の力を出し切るには、馬群からポツンと走らせてリラックスさせた方がいい。これだけ思い切った競馬ができて、さらに結果が出せるのも、現在の藤岡康太騎手の好調ぶりを物語っている。

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王として君臨せよ


高松宮記念2016―観戦記―
内枠から好スタートを切ったミッキーアイルが先頭に立つかと思いきや、外から手綱を激しくしごきながらローレルベローチェとハクサンムーンが強引にハナを奪い返す形で、レースの火ぶたは切って落とされた。こうなるとペースが速くなるのは必至で、前半600mが32秒7、後半が34秒0というスプリントG1らしい激しい流れ。硬い馬場でレコード決着となったように、後ろから行った馬たちは伸びても差し込みにくく、先行馬にやや有利な、スピードの絶対値がものをいうレースであった。

勝ったビッグアーサーはスタートからゴールまで、何から何まで、最高に上手く運んだ。まずはスタートしてから両隣の馬が外に膨れたことで、広いスペースができ、そこを突いて福永騎手は無理なく先行しつつ、馬を馬場の良い外に導けた。そこからは前を行く3頭を見ながら、ビッグアーサーは周りに馬がいないスペースを確保しつつ、脚を溜めることができた。あとは直線に向いて追い出すのみ。ここ2戦は極端な枠順を引いてしまい、裏目裏目に出てしまって力を出し切れていなかったが、本番で全ての流れがガラリと変わったのだ。もともとスプリンターらしい雄大かつパワフルな馬体を誇っており、デビュー戦以外はここまで全て1番人気にも推されてきたほどで、重賞で揉まれながらもレースに慣れ、成長し、果たして完成された。この先はスプリント王として、さらに高みを目指してもらいたい。

福永祐一騎手にとっても渾身の騎乗であった。これだけ全てが完璧に回るレースも、1年間騎乗して数回あるぐらいだろう。もちろん、そういうレースに組み立てられたのは福永騎手の経験と技術ゆえである。最大の勝因は、スタート直後に、スムーズに外に出せたことに尽きる。周りに馬がいなかったこともあり、内の馬場が荒れているところを避けつつ、最小限の距離ロスで道中を回ってこられた。長期の戦線離脱からカムバックして、外から見た目では分からないぐらいまで、その騎乗ぶりは全盛期に戻ってきつつある。前夜にお手馬のリアルスティールがR・ムーア騎手の手綱によってドバイで勝利して悔しかっただろうが、翌日にこうして自らの手でG1勝利を得て、健在ぶりを示してみせたのだからさすがである。

ミッキーアイルはこれが限界の結果だろう。1200mと1400の違いとも言える。1400では先頭に立てたとしても、1200mだとハナを叩かれてしまう。スプリントG1を勝つほどの圧倒的なスピードはなく、マイルG1を勝つにはムキになって走りすぎる。重賞を6勝もしているにもかかわらず、G1勝利がNHKマイルCのみというのは、このあたりに理由がある。それでも、無理に抑える競馬を強いるのではなく、ミッキーアイルのリズムで走らせてあげる方が良い結果が出ることを陣営が悟ったことは大きな収穫だろう。

アルビアーノはどうしたのだろう。スタートこそ良かったが、道中はずっと馬群の狭いスペースに押し込められるように走らされて、苦しいレースを強いられた。それぐらいのことでめげる馬ではないはずだが、前走オーシャンSの最後の直線で他馬と接触し、怪我を負ったことが、少なからず精神的に影響を及ぼしているのかもしれない。馬は記憶力の良い動物だけに、アクシデントに直接巻き込まれた馬やその周りでその光景を見ていた馬が、その後さっぱり走らなくなってしまうことはよくあることだ。最終コーナーのコーナーリングや彼女のぎこちない走りを見て、そんな心配をせざるをえない。

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馬が追えること、それはジョッキーにとっては最大の武器

Febs2016
フェブラリーS2016―観戦記―
スタートダッシュの良さを生かしてコーンベリーが先頭に立ち、前半マイルが35秒3、後半が35秒8という平均ペースでレースを引っ張った。前日の降雨の影響で馬場は水分を含み、最も走りやすい状態になったことで、1分34秒0という芝並みのレコード時計が出た。基本的には先行馬有利だが、後ろから行っても届かないことはない、前後でそれほど有利不利のない展開となった。砂というよりは土に近い、全体時計の速いレースにおいて、アメリカ血統を背景に持つ、スピードに富んだ馬たちが上位を占めたのも頷ける。

まさにアメリカの血統が敷き詰められた米国産馬であるモーニンにとっては、おあつらえ向きの馬場であり、レースであった。外枠から発走したことで、前半に無理することなく外の3、4番手のポジションを確保することができ、あとは仕掛けるタイミングを待つばかり。追い出されてからもしっかりと伸びて、前走の根岸Sの走りを再現したかのよう。クラスが上がっての200mの距離延長を心配していたが、馬場に助けられた面は少なくない。35秒台の砂であれば結果は違ったかもしれない。この馬自身は古馬とのレースで揉まれつつ強くなっており、安定したスピードとパワーと気性を併せ持つ馬だけに、今後もダートの短距離界を引っ張っていく存在になる。

ミルコ・デムーロ騎手は文句なしの騎乗であった。今回は外枠を引いたことで、ほとんど苦労なく走りたいポジションを走れて、本人としては、モーニンに捕まって回ってきただけだと謙遜するかもしれない。それでも、最後の直線でモーニンを追い出してからが、デムーロ騎手の真骨頂であった。騎座がしっかりとしているから、馬が止まらずに伸びる。馬の勢いを邪魔することなく、むしろ加速することができる。おそらく同業の騎手が見ても細かい技術は盗めないはずであり、彼が追うと馬がとにかく最後まで伸びるのである。馬が追えることは、ジョッキーにとっては最大の武器であることを改めて思い知らされた。

同じく米血統の父を持つノンコノユメは届かず2着であったが、あらゆる不利な条件を考えると、この馬の強さが浮き彫りになる。連勝が止まったあとのレースであり、普通の馬ならばあっさり凡走しても不思議ではない。しかも休み明けでもある。C・ルメール騎手が追いだしてからの反応がいつもより鈍かったとコメントしているように、身体の状態は決して万全とは言えない中で、最後まであきらめることなく力を出し尽くそうとする気持ちの強さは素晴らしい。脚質的に展開が向かないこともあるだろうが、今後体調が戻ってくれば、近いうちに必ずや大きなレースを勝つだろう。

アスカノロマンは後ろから行かざるをえず、最後は良く伸びたが3着が精いっぱい。このメンバーに入るとテンのスピードが速い馬がいるため、内枠を引いたことが仇となった。外枠を引いていたら、もっと際どい勝ち負けに持ち込めていたはず。前走の圧勝も含め、この馬も強くなっている。同じく内枠に苦しめられたのが昨年の覇者コパノリッキーだろう。高齢になってきた影響もあってか、テンのスピードが鈍くなり、内で包まれるような形になってしまい、この馬の先行力が生かせなかった。

ロワジャルダンはスタートダッシュこそ良かったが、道中で内と外から揉まれてしまった。それでも直線に向いて勢いはあったにもかかわらず、ゴール前では脚が上がってしまったように、最後までもたせることができなかった。芝はともかくとして、ダートは上体だけではなく下半身を含めた全身の力で推進させないと馬は動かない。誰にも肉体的な衰えは忍び寄るものであり、56歳まで騎乗し続けた岡部幸雄騎手は晩年ほどハードなトレーニングを自身に課していたという。横山典弘騎手には3000勝を目指してもらいたい。

Photo by 三浦晃一

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涙が出るほど

Arima15
有馬記念2015―観戦記―
誰も逃げないのを見越していたかのように横山典弘騎手とキタサンブラックがハナに立ち、前半1200mが75秒2、後半1200mが71秒5という有馬記念らしいスローな流れをつくりだした。中山競馬場の2500m戦のような6つのコーナーを回るコースにおいて、これだけペースが落ち着いてしまうと、後ろから行った馬は前との差を詰めるタイミングも場所もない。道中で無理に動いていけば脚を失ってしまうし、かといって待って直線に向いてからでは間に合わない。ほとんどの馬や騎手たちは、そうしたジレンマを抱えたまま今年の有馬記念を終えたはず。昨年と同じく、勝ったのは内の2、3番手を走った馬であった。

ゴールドアクターは今年に入って負けなしの4連勝で有馬記念を制した。菊花賞で3着に敗れたあと、十分な休養をはさんだことで馬体が成長し、この馬本来のスタミナを十全に発揮できるようになった。とはいえ、まだトモに甘さを残していることは確かであり、オールカマーを回避したことも、ジャパンカップを見送って有馬記念1本に照準を絞ったことも功を奏している。あそこで我慢することができずに使ってしまっていたら、トモに疲れが出て、今回の好走はなかったであろう。陣営とオーナーが待つことができたからこそ、あらゆる運と勝利を手にすることができたのだ。

ゴールドアクターの父スクリーンヒーローは、安田記念やマイルCS、香港マイルを勝ったモーリスに続き、またしてもG1ホースを誕生させたことになる。煌びやかな母系に配合されているわけではない中で、これだけの活躍馬を出すとは関係者も夢にも思っていなかったのではないか。グラスワンダーからこのような形で血がつながるとは思いもよらず、グラスワンダーの異能を見直すとともに、母系に流れる社台のゆかりの血の素晴らしさにも改めて想いを馳せる。トモに実が入ってくれば、ゴールドアクターにはさらに大きな期待ができるはず。ゴールドシップに代わる、新たな日高の星として来年は駆けてもらいたい。

吉田隼人騎手はG1初勝利となった。スタートを決め、一旦先頭に立つほどの勢いで馬を出して内に潜り込む、という攻めの騎乗が大一番の有馬記念でできたことが素晴らしい。道中のポジションといい、追い出しのタイミングといい、全てにおいて完璧であった。これだけの騎乗技術があり、昔から向上心も高く、今までG1レースを勝ったことがないのが不思議なぐらいだが、それだけ日本人の若手騎手たちにとって厳しい時代だということだ。勝利ジョッキーインタビューでは吉田隼人騎手の目に光るものがあり、こちらまで嬉しくなったし、彼が勝って良かったとさえ思えたのだから不思議である。

私が本命に推していたサウンズオブアースは、ほぼ勝ちに等しい内容の走りであった。勝ち馬との違いは、道中でごちゃついてしまったこと、そしてマークしていたリアファルが下がってきたことで勝負所の最終コーナーでポジションを下げてしまったこと。ゴールからスタートまで巻き戻してみると、やはり9番という枠番に行き着く。勝ち馬とのたった2つの枠番の違いが、道中の違いを生み、ゴール前での半馬身差の違いとなる。さすがのミルコ・デムーロ騎手もまさかリアファルが下がってくるとは思わなかったようで、どのレースもパーフェクトに乗ることは難しい。

キタサンブラックは楽に逃げられたことで3着に粘ることができた。スラリとした体型的に見ても、この馬は生粋のステイヤーだろう。ラブリーデイは良いポジションで走ることができたわりには、最後は伸びあぐねてしまった。年頭から使い詰めで走り、宝塚記念を勝利したあとも馬を緩めることなく、天皇賞秋をピークにそこから下降線を辿ってしまった。外見上は分からないが、気持ちの面で最後に踏ん張りが利かなくなっていた。同じことはゴールドシップにも当てはまり、3歳時から一線級で走り続け、ときには力を振り絞って勝利を重ねてきた勤続疲労がこの秋に噴出してしまった。宝塚記念で見せたゴールドシップの走りが、彼の心の叫びであったことに気づいた人はどれぐらいいたのだろうか。

個人的には、今年は「週刊Gallop」でも連載を書かせていただき、楽しみつつもそれなりの重圧は感じていた。当てなければならないというよりは、当てたいという気持ちが強かった。2週間前に予想を出すことの難しさが分かり、週刊誌の編集部や競馬記者の方々の大変さを知った。本命に推した馬のパドック写真を見て、目を覆ったことも数多くあった。それでも今回の有馬記念は、枠番がもう少し内であればということ以外は、サウンズオブアースの仕上がりも何もかも思っていたとおりに運んでいたので、かなりの期待を持って観戦していた。レースが終わって、リプレイを何度観てみても、勝てなかった事実には変わりがない。涙が出るほど悔しくて、涙が出るほど嬉しい。それが競馬。


Photo by 三浦晃一

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真似しようと思ってもできない


朝日杯フューチュリティS2015―観戦記―
内から3頭が飛び出し、その外からシュウジが引っ掛かり気味に追いかける形で序盤は進み、前半マイルが47秒3、後半が47秒1という平均ペース。阪神競馬場の外回り芝1600mのコースも考慮に入れると、展開や道中のポジションの有利不利はほとんどなく、各馬の実力がきっちりと反映されるレースとなった。中団から進み、最後の直線でも脚を伸ばした1番人気のエアスピネルが勝ったかと思いきや、最後方からリオンディーズが爆発的な末脚で全馬をまとめて差し切った。

勝ったリオンディーズの強さには驚かされた。兄エピファネイアの2歳時と比べると、馬体が薄く、筋肉の付き方にも物足りなさはあるが、それでいてこれだけの脚を使うのだから、馬体が完成されたあかつきにはどのような馬になるのか。兄が行きたがって仕方ないタイプの馬であっただけに、今回のレースでもその点に注意して馬をゆっくりと出して行ったのだろう。先々につながるようなリズムで走らせることを優先し、勝ち負けは二の次といったレースをしつつも勝ってしまったということだ。またキャリアが浅い馬だけに、馬群に揉まれずに走れたことも、リオンディーズの力を発揮することにつながった。とはいえ、来年のクラシックでは同じようなレースは通用しなくなるので、馬群に入れてコントロールが利くようなレースをどう教えていくかが課題となる。

ミルコ・デムーロ騎手は相変わらず馬が追えている。道中のポジションよりも馬がゆったりと走ることを優先する作戦は陣営からの指示だろうが、あそこまで先頭と離れてしまっても慌てずにいられるのは、馬に自らの技術に自信があるからであろう。ただ単に馬の気持ちに任せて走らせてしまうと、いざ追い出そうと思ったときに馬の気持ちが入らなかったりして、意外に伸びないことが多い。そうではなく、オンとオフのメリハリが手綱を通して伝わっているからこそ、追い出してから馬のスイッチが入るのだ。馬のリズムを崩すことなく、全身を使って力強く馬を扶助する。これはもう技術的な問題であり、長年の鍛錬や経験を通して培ってきたものでもあり、デムーロ騎手ではない他の騎手は真似しようと思ってもできない。

史上初のJRA平地G1完全制覇がかかっていた武豊騎手のエアスピネルは、惜しくも2着に敗れてしまった。記録が掛かっていたりして変に注目されてしまうと、得てしてこういう残念な結果に終わることが多いが、今回のレースに関しては、エアスピネルも最後まで伸びて力を出し切っているし、武豊騎手もこれ以上ないぐらいに完璧に導いている。それでも先を行く馬がいたのだから、勝った馬が強かったと素直にあきらめられるはず。母エアメサイアは奥手の馬であったが、エアスピネル自身は肉体的には完成度が高く、また距離的にもマイル前後がベストであり、来年のクラシックでの活躍を見込めるかというと疑問が残る。それだけに、朝日杯フューチュリティSは勝っておきたいレースであった。

3着以下はだいぶ離れたが、シャドウアプローチやユウチェンジは最後まで脚を伸ばしていた。社台ファームの生産馬は2、3着とまたもやG1勝利を逃してしまった。3番人気に推されたシュウジは先行して、バテてはいないが、伸びあぐねて5着。同じくキンシャサノキセキ産駒のアドマイヤモラールもそうだったように、馬体は素晴らしいが、やはり気持ちが前向きすぎて、阪神のマイル戦はやや長い。イモ―タルはまだ馬体に緩いところがあり、直線に向いてから左右にふらつくのか、武幸四郎騎手は追いづらそうであった。走る素質は高い馬だけに、馬体に芯が入ってくると大きなところで活躍できるはず。

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朝日杯フューチュリティSを当てるために知っておくべき3つのこと

Asahihaifs

■1■絶対的能力と完成度が問われる
傾向としては1番人気、2番人気が強く、過去10年間で1番人気【3・1・3・3】、2番人気【3・1・1・5】という成績である。どちらも連対率4割と高い。人気馬が好走することで有名なマイルチャンピオンシップよりも高い数字である。理由としては、かなり速い時計での決着となるため、実力の有無がはっきりと出てしまうことが考えられる。さらに2014年からは、トリッキーな中山競馬場のマイル戦から阪神競馬場に舞台を移し、この傾向には拍車がかかることが予想される。

また、過去10年の勝ち馬を見ると、平成18年のドリームジャーニー、平成19年のゴスホークケン以外、すべての馬が前走1着していることが分かる。これは現時点での絶対的な能力や完成度が問われるレースになることを示している。重賞ならば最低でも3着以内に好走していること、もちろん条件戦で負けているようでは×。

■2■生粋の逃げ馬は通用しない
ここまで逃げて勝ってきた馬がまったく通用していないことにも注目したい。中山1600mのコース形態上、2コーナーまでの位置取り争いが激化するため、ほぼ毎年、前に行った馬には厳しいペースとなる。さらに、最後の直線に急坂があることによって、スピードだけで押し切るのは難しい。この傾向も舞台が阪神1600mに変わっても同じ。中山競馬場で行われていたときよりも、長く良い脚を使えるかどうか、末脚の確実さが問われる。

このレースを逃げ切ったのはゴスホークケンだけ。そもそも、この年はペースがそれほど速くはなかったし、ゴスホークケンはその前走で抑える競馬をしていた。つまり、スピードを武器にした一本調子の馬ではなく、抑えが利いて、終いの脚を生かすような競馬ができる馬でないとこのレースは勝てないということだ。

■3■クラシックへつながるレースへ
このレースはペースが速くなることが多く、スピードこそ絶対だが、スタミナもないと勝ち切ることはできない。そのため、1600m以上の距離のレースを経験していることはほぼ必須条件になってくる。特に、阪神に舞台が変わる以上、中距離をこなせるぐらいのスタミナは必要であり、このレースを勝ち馬が来年のクラシックにおいて有力になってくるはず。そういう意味では、中山競馬場で行われていたときとは一線を画するレースであり、クラシックへつながる未来を見据えて馬券も買うべきだろう。

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大きな心と身体で


阪神ジュベナイルF2015―観戦記―
内枠からメジャーエンブレムが1頭分速くスタートを決め、そのまま逃げるかと思いきや、外からキリシマオジョウが抑えきれずに先頭を奪う。前半マイルが46秒9、後半が47秒6というやや前半が速い平均ペースで流れ、道中は極端にペースが落ちるところもなく、地脚の強さが問われることに。勝った馬に絡んだ馬は馬群に沈み、スタミナに不安のある馬は伸びあぐね、そういった意味では、現在の実力が素直に反映されたレースといえる。

メジャーエンブレムは力強く抜け出し、ゴール前は手綱を緩めての楽勝であった。ロケットスタートが決まった時点で、内枠を引いたことがプラスに働き、勝負の半分は決した感はあった。道中で先頭を奪われてもスッと番手で折り合えたように、前走の敗北を活かし、リラックスして走れたことが大きい。雄大なフットワークで走る馬であり、心に余裕を持って、道中をこれぐらいのリズムで走ることができれば、そう簡単には止まらない。かつて同じくダイワメジャー産駒のエピセアロームという牝馬がいて、小倉2歳Sを使った(勝った)ことで距離がもたない馬になってしまったことがあった。メジャーエンブレムはここまで1600m以上のレースを選んで使われてきており、来年の春の走りが今から楽しみである。

クリストフ・ルメール騎手は、中央競馬所属のジョッキーになってこれが初G1勝利となった。ミルコ・デムーロ騎手には先を越されてしまったが、騎乗馬を確実に操り、力をきっちり出し切らせるスタイルで、これからも勝ち星を積み上げていくはずである。前進気勢の強いメジャーエンブレムのような馬は、簡単に抑えているように見えて実は腕力の強いC・ルメール騎手だからこそという面もある。デムーロ騎手に比べて日本語のインタビューはまだまだだが、それでも3か国語を話しながら異国の地で生きるハングリーさと強かさを、私たちは噛みしめなければならない。

10番人気ながらも2着に突っ込んだウインファビラスは、新潟2歳Sの2着馬であり、休み明けの前走をひと叩きされて今回はきっちりと仕上がっていた。ステイゴールド産駒の牝馬にしては馬格があり、ある程度の負荷を掛けて仕上げを施すことができる。馬群の外を回しての連対だけに、決してフロックではなく、この馬も来年に向けて視界が広がった。

ブランボヌールもきっちりと仕上がって、この馬の力は十全に出し切った。レース巧者で走る資質は高い馬であるが、やはりパワーという点で勝ち馬とは数段の開きがあり、この着順が限界であった。同じ舞台で争われる桜花賞でメジャーエンブレムを負かすイメージは全く湧かない。思い切ってスプリント路線に矛先を向けるのもひとつの方向性ではないか。デンコウアンジュは早めに動いてメジャーエンブレムを捕まえに行った分、最後は脚が上がってしまった。結果的にも完敗と言ってよく、かなりのパワーアップをしなければ、再びメジャーエンブレムの影を踏むことは難しいだろう。

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ダート競馬の面白さであり、難しさでもある。


チャンピオンズC2015―観戦記―
コーンベリーに先頭を取られまいと、コパノリッキーが気合をつけてハナを主張したにもかかわらず、外からヒュー・ボウマン騎手のクリノスターオーと香港馬ガンピットが競りかけたことで、レースは大方の予想を超えたハイペースとなった。前半4ハロンが48秒0で、後半が50秒2という流れでは、さすがに前に行った馬にとっては厳しい。そこをさらにホッコータルマエが早めに追いかけたことで、先行馬は総崩れという展開となり、後ろから末脚を伸ばした馬たちの差し比べの決着となった。

勝ったサンビスタは厳しい流れを中団の内で追走し、直線では綺麗に抜け出したのだから強い。ダート戦における基本の勝ちポジを走れたことで、距離ロスがなく、脚をきっちりと溜められたことが最大の勝因ではあるが、それでも力がなければ成しえない勝利であった。牡馬に混じると勝ち切るのは難しいと考えていたが、私などの見立てを遥かに超えた走りで、さすが角居勝彦厩舎と言うべきか、大一番に合わせてトモの筋肉をしっかりとつくってきた。前走はやや余裕残しの仕上げであったのだろう。父スズカマンボ、母の父ミシルという血統の馬がG1レースを勝つのがダート競馬の面白さであり、難しさでもある。

ミルコ・デムーロ騎手はダート競馬の基本のキに徹していた。スタートを決め、内枠を生かして内の3番手のポジションに潜り込み、余計な動きをすることなく、あとはひたすら脚をためる。最後の直線に向いて、ひと呼吸置いてから、馬群の開いたところを目がけて追い出す。それで伸びなければ馬の力が足りなかったということで、今回はサンビスタの手応えが思っていた以上に良く、追い出してからも驚くほどに反応した。他の有力馬が勝利を意識しすぎて勝手に自滅したことは確かだが、騎手としてやるべきことをやったことで勝利が転がり込んできた。どのような状況においても、それができるのがデムーロ騎手の騎乗技術と言えるのでもあるが。

2着に入ったノンコノユメは展開が向いて、さらに内のコースが開いたが、わずかに届かなかった。勝った馬が強かったと諦めるしかない。それにしても、安定して末脚を繰り出せる精神力の強さは、とても3歳馬とは思えない。この後、東京大賞典に向かうのかどうか分からないが、来年に向けて、身体の成長を促していくことが課題である。もう少し馬格が出てくると、中団ぐらいを追走できるようになり、さらに走りが安定してくるはず。クリストフ・ルメール騎手は内をさばいて、巧く乗っているが、今回は勝ち運がなかった。

ほぼ最後方から3着に突っ込んだサウンドトゥルーにとっても、展開が向いただけに、悔しい敗北だろう。ノンコノユメとは外を回した分の差であるが、あそこで内外の是非を判断するのは難しい。これ以上ないほどに流れが向いても勝てなかったということでもあり、この馬ももう少しパワーアップし、道中のポジションを上げることができると、さらに強くなるはず。

1番人気のコパノリッキーにとっては、さすがに展開が厳しすぎた。前走のような鮮やかな逃げ切りを決める可能性がある反面、ハイペースに巻き込まれ崩れてしまう逃げ馬の脆さも同居している。それでも大きく負けてはおらず、どうにもチャンピオンズカップは相性が悪いが、年末の東京大賞典は好走のチャンスは十分にある。ホッコータルマエは、控えて伸びるタイプではないことは確かだが、あまりに強気に前を追いかけ過ぎた。レースは2頭だけで行われているわけではなく、コパノリッキーを交わせば勝てるという単純なものではない。昨年はあった他馬を抜かせない気持ちの強さが足りない感もあり、東京大賞典でも危ない人気馬になりそう。

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誰かの願いが叶うころ

Japancup2015
ジャパンカップ2015―観戦記―
カレンミロティックが積極的に引っ張ったことで、前半1200mが71秒6、後半が73秒1という、近年のジャパンカップにしては珍しい淀みのない流れとなり、スピードとスタミナの融合が求められるレベルの高いレースとなった。前傾ペースである以上、後ろから行って脚をためた馬たちに有利になるのだが、それと共に、最後の直線では瞬発力(一瞬のスピード)も要求され、ジャパンカップに相応しい実力が問われる舞台。ゴール前は横一線となり、ハナや首差の勝負となったように、実に見応えがあった。このような激しいレースを世界は求めている。

勝ったショウナンパンドラは、3歳時から馬体重こそ変動はないが、誰が見ても分かるほどに馬体が大きく成長した。今年の春までは線の細さや牝馬らしさを引きずっていたが、ここに来て馬体がパワーアップしている。前走の天皇賞秋では、外枠からスローペースの外を回らされて末脚が不発に終わったが、今回はレースが流れたことで、この馬の差し脚が最大限に生きた。瞬発力勝負で牡馬を交わしたのではなく、真っ向勝負で世界の馬たちも負かして頂点に立ったのだから、文句なしに強い牝馬である。想像を絶する成長力の源を考えてみたとき、やはり行き着くのはゴールデンサッシュ(ステイゴールドの母)、ダイナサッシュ(サッカーボーイの母)と綿々と続く母系の血である。

池添謙一騎手は絶妙な手綱さばきでショウナンパンドラを勝利に導いている。ペースが速くなったことが功を奏した面はあるが、道中は外から馬群のゴチャつきを避けて追走することができ、ショウナンパンドラの脚をためることに専念していた。秀逸だったのは、第4コーナーを回る勝負所で、他馬よりもひと呼吸置いて、直線に向くのを待ってから追い出したことだ。そして、前が開かずも焦らず、冷静にレース全体を見られていた。これだけの高額賞金が懸かった大レースで、あそこまで肝の据わった騎乗ができるのは、スイープトウショウやオルフェ―ヴルに跨ってきた経験があるから。今回は自分の腕で手に入れた勝利である。もし叶うならば、来年はこの馬と一緒に凱旋門賞に行ってもらいたい。

内ラチ沿いの経済コースを終始走り、内を突いて2着に突っ込んだラストインパクトも渾身のレースをしている。究極の仕上げとR・ムーア騎手の壮絶なライディングに後押しされて、自身の持てる力を最大限に発揮した。ムチを手放してしまったのは話のおまけであって、それで馬が気を抜いたわけではなく、大きな影響はなかった。勝った馬が一枚上であった。私は天皇賞秋でこの馬を買っていたので、より実感が湧くのは、きっちりと仕上げられた馬に超一流のジョッキーが跨ると走るということ。

1番人気のラブリーデイは積極的にポジションを取りに行き、横綱相撲をして敗れたのだから、負けて強しと考えてよいだろう。僅かに負けてしまった理由としては、ペースが速く前に行った馬にとっては厳しいレースであったこと、その分、2400mの距離が最後にこたえたこと、そしてもうひとつ、春シーズンから使い詰めで来ている(肉体的というよりは)精神的な疲れが見え始めていることが挙げられる。それでもこの馬は強くなったし、よく走っていると。決して歴史に名を残すような最強馬にはなれないかもしれないが、よくまとまっていて、隙がないタイプのサラブレッドである。

ゴールドシップはペース的にはハマって、この馬なりによく伸びているが、切れ味勝負では分が悪かった。休み明けをひと叩きされて、次走の有馬記念では体調はアップするはずだが、それ以上にこの馬の場合は気持ちの問題が大きく、掴み切れないところがある。ミッキークイーンは初の古馬との対戦で激しいレースを強いられ、好走は叶わなかった。私たちの期待が大きすぎただけで、これがこの馬の今の力であろう。まだ馬体が幼く、線の細さが残っている馬だけに(かつてのショウナンパンドラがそうであっったように)、肉体的に成長すれば来年以降はさらに強い馬になるはずである。

最後に海外馬で再先着を果たしたフランスのイラプトは、最後の直線であわやという伸びを見せた。3歳馬にして初の長距離輸送でもへこたれておらず、精神的にも安定して強く、道中も鞍上の指示をしっかりと聞ける賢さもある。第1コーナーと最終コーナーの両方のゴチャつきに巻き込まれてしまった上でのこの走りだけに、しかも日本のスピードトラックに対応したことを考えると、この馬の将来性は高い。このまま無事に成長すれば、来年度は欧州のトップホースとなり、日本馬を迎え撃つ最大の敵となるだろう。

Photo by 三浦晃一


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これぞ世界一


マイルチャンピオンシップ2015―観戦記―
内枠からレッツゴードンキが飛び出し、外からクラリティスカイがハナを主張する形となり、流れが速くなるかと思われたがなんのその、前半マイルが47秒1、後半が45秒7という超スローペース。マイラー同士の力のぶつかり合いというよりは、最後の直線における瞬発力勝負となった。結果的には力のある馬たちが上位を占めたが、レースの内容としては決して評価できるものではなく、道中の折り合いとポジションが明暗を分けたレースであった。

そんな中でも勝ち切ったモーリスは強い。この馬自身、レースの流れやポジションが向いたとは言い難く、休み明けで体調も万全とまではいかない中での勝利だけに、このメンバーでは力が一枚上であった。春シーズンの疲れがなかなか回復せず、毎日王冠を回避し、ぶっつけでマイルチャンピオンシップに臨むことになったが、無理に使わずに正解であった。走れないときは使わない、走るからにはきっちり仕上げる。さすが連対率3割を超える厩舎である。カリブソングやリアルバースデーを負かしてアルゼンチン共和国杯やAJCCを勝ったメジロモントレーのスタミナに支えられる奥深い血統に支えられ、どこまで強くなるのか楽しみな馬である。

ライアン・ムーア騎手はメリハリのある騎乗を見せてくれた。スタートはある程度出していき、道中はがっちりと抑えて脚をため、最後の直線では豪快に追い出した。動から静への移り変わりもスムーズであり、さらに静から動への切り替えも実に見事であった。モーリスが口を割るシーンもあったが、馬と喧嘩しているのではなく、制御している。単に抑えるだけではなく、抑えつつ脚をためることができているのだ。追ってからは、馬に一瞬たりとも気を抜かせることなく、あらんかぎりの力を出し切らせた。これぞ世界一のジョッキーの腕である。

フィエロに騎乗したミルコ・デムーロ騎手も序盤から積極的に攻めて、勝ちにいく競馬をしたが僅かに及ばなかった。これだけ最高に乗っても勝てないのだから、相手が悪かったということであり、またこれがこの馬の現時点における実力である。もうワンランク上げなければ、G1レースを勝ち切るのは難しいだろう。

1番人気に推されたイスラボニータは、スタートの出遅れが最後まで響き、3着を確保するのが精いっぱいであった。最後はよく伸びているが、さすがに前も止まらないし、さらに後ろから凄い脚で来られてしまった。上位を占めた馬たちの中では速い脚はないが、地脚が強いタイプだけに、蛯名正義騎手はできるだけ前で競馬を進めたかったはずである。その気持ちが強すぎたのか、馬もそれを察知してしまったのか、痛恨の出遅れであった。酷いとしか表現のしようがない負け方で、最高の状態でレースに送り出した陣営の悔しさは思うに余りある。

サトノアラジンはクリストフ・ルメール騎手が持ち味を十分に引き出した。馬に力がついてくれば、G1級のメンバーに入っても好勝負になることを証明した。3歳牝馬のアルビアーノも力は出し切ったが、及ばなかった。それでも大きな差はなく、この馬の馬格の大きさやスピード、そして気性の素直さを考えると、これから先の活躍が楽しみである。

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母の父に支えられて


エリザベス女王杯2015―観戦記―
ウインリバティがレースを引っ張り、リラヴァティが続いたが、それ以下の集団はひと固まりとなって進んだように、前半1000mが60秒7、後半が61秒4という時計にもかかわらず、道中はスローペースで流れたと考えてよい。特に勝負所の最終コーナー付近から馬群が横に広がったことで、後ろから行った馬たちはどうしても外を回さざるをえず、道中のわずかな位置取りの違いが、ゴール前でのわずかな差となって現れたレースであった。

勝ったマリアライトは道中でスルスルとポジションを上げて行き、第4コーナーでは無理なく先行勢を射程圏に捕らえることができた。こういった馬場が得意というのは、パワーがあるということではなく、スタミナを要する馬場になっても苦にしない、むしろ良さが出るということである。兄のクリソライトはダート重賞で活躍し、弟のリアファルは菊花賞で3着したように、万能性が高く、活力のある母系であり、母父エルコンドルパサーのスタミナの血がそれを支えている。今回のエリザベス女王杯はマリアライトにとって最適の舞台となった。

蛯名正義騎手はベテランらしい手綱さばきを見せ、マリアライトを勝利に導いた。勝つときはそういうものだろうが、スタートからゴールまで、これ以上は望めない、完璧な騎乗であった。特に絶妙だったのは、馬の行く気に乗って、コースの直線部分を利用して前との差を詰めたこと。これによって、道中で外を回すことなく、ポジションを押し上げることができた。最終コーナーまでにつくった有力馬たちとの位置取りの差がアドバンテージとなり、最後はクビ差だけ凌いでみせた。決して派手さはないが、分かる人には分かる、いぶし銀の騎乗であった。

ヌ―ヴォレコルトは外枠が仇となった。18番枠から先行しようとすれば、スタートから出して行かざるをえない。しかし今回は、ヌ―ヴォレコルト自身がパドックから入れ込んでいたため、馬を出して行けばかなりの喧嘩を強いられることが岩田康誠騎手の脳裏に浮かんだはずである。よって仕方なく後ろからコースロスを最小限に抑えて回ってくるレースを選択したが、それでもやはり最終コーナーでは外を回らざるをえず、その分、勝ち馬を捕えることができなかった。スタミナを問われるレースはこの馬には合っていたにもかかわらず、実に運のない敗戦であった。

3歳馬タッチングスピーチも上記2頭と同じく、無尽蔵のスタミナを有し、今回の距離と馬場のレースでそれが生きた。現状ではトモが甘く、跳びが大きいため、エンジンのかかりが遅く、前走の秋華賞のような芋を洗うような流れでは忙しすぎるが、ゆったりと行けるレースでは自分のリズムで走ることができる。このまま順調に成長すれば、来年のエリザベス女王杯は、この馬が戴冠に最も近い存在かもしれない。

ルージュバックは出が悪く、第1コーナーまでにポジションを下げてしまったことが最後まで響いた。戸崎圭太騎手としては、この馬の良さを生かしながら勝つためには先行したかったはずだが、休み明けで馬が気負っていたのだろう。あれだけ後ろから行くと、どうしても勝負所では外を回されてしまうことになり、距離ロスが大きかった。1~3着までをスタミナ系の牝馬が独占した中、それでもスピードタイプの同馬が僅差に詰めてきたのは資質の証明であり、私は今回のレースで初めてルージュバックの本当の強さを知った気がする。

ラキシスは見せ場なく11着に沈んだ。世界一のジョッキーの腕を持ってしても、連覇は叶わなかった。5歳の秋を迎え、競走馬としてのピークを越えてしまったのだろう。今年の産経大阪杯でキズナを負かした強さを見て、大きな成長を感じたものだが、思い返せば、あの時がこの馬のピークであったということだ。牝馬は好調期間が思っているよりも短く、気がついた頃にはお母さんの目になっている。

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キングカメハメハ産駒の最高形

Tennoshoaki15
天皇賞秋2015-観戦記-
逃げると見られていたエイシンヒカリから、内枠を利したクラレントがハナを奪うという波乱の幕開け。武豊騎手があっさりと控えたことで、前半1000mが60秒6、後半が57秒8という、およそ3秒も落差のある超スローペースとなった。ここまで遅くなると、後ろから行った馬、外を回された馬、そして折り合いを欠いてスタミナをロスした馬にとっては苦しく、ラスト3ハロンの瞬発力を問われただけのレベルの低いレースであった。勝った馬も含めて、今年の天皇賞秋の結果がそのままジャパンカップや有馬記念につながるとは考えにくい。

ラブリーデイはG1レース2勝目となり、宝塚記念と天皇賞秋を制したのはタマモクロスとテイエムオペラオーに次ぐ3頭目となった。ローテーション的にも、レースで問われる資質的にも、これら2つのレースを同じ馬が制するのは難しいのだが、それだけ今のラブリーデイが充実しているということ。キングカメハメハ産駒は、父がそうであったように、レコードの出るような速い時計の勝負に強く、またダート戦でも多くの活躍馬が出ているようにパワー勝負も得意とする。ラブリーデイはそんな父の血を色濃く受け継ぎ、宝塚記念では力の要る馬場をこなし、天皇賞秋ではスローの瞬発力勝負をスピードで制した。キングカメハメハの産駒としては最高形であり、後継者の筆頭となる馬だろう。

川田将雅騎手から代打のバトンを受けた浜中俊騎手は、スタートからラブリーデイを出して行き、内の2、3番手という最高のポジションを確保した。強い馬にこれ以上ないポジションを走らせたのだから、最後の直線で他馬に付け入る隙を与えなかったのもうなずける。今回は一発勝負であったことが逆に思い切りの良さにつながったのかもしれないが、秋華賞をミッキークイーンで勝ったときもそうであったように、勝ちに行く競馬をして勝っている。騎手冥利に尽きる勝ち方であり、浜中騎手もジョッキーとして本格化してきたことが伝わってくる内容の勝利であった。

2着に突っ込んだステファノスは、戸崎圭太騎手が道中での折り合いに専念したことが功を奏した。ひと叩きされて体調が上がってきていたこともあって、これだけ遅い流れの中でも、前に馬を置いてキッチリと折り合っていた。ラスト3ハロンの33秒6の末脚はさすがディープインパクト産駒のそれであり、クイーンエリザベス2世Cの2着がダテではなかったことを証明した。この馬の本質はマイラーであり、次走はマイルチャンピオンシップに出走してくれば勝機だろう。

イスラボニータは外枠に泣いた。外を回されたくないため位置取りを下げざるを得ず、道中で馬群に入れるスペースはなく、前に馬を置くこともできず、脚をためられなかった。それでいて、最後までしぶとく伸びて3着を確保したのだから、休養をはさんで完全復調と見てよい。ラブリーデイと枠の内外が逆であれば、勝っていたのはこの馬だったかもしれない。

エイシンヒカリは初めて馬を前に置く形になって、馬自身が戸惑っていた。決して逃げなければならないタイプではないが、大舞台で普段と違うレースを強いられ、持てる力を発揮することなく終わってしまった。いつも前に馬を置いている馬が逃げる形になると戸惑うのと同じで、どこかでそういう経験をさせておくことが重要である。負けたことが少ない馬というのは、案外そういう経験に乏しく、本番ではそれが弱点にもなりえる。

Photo by 三浦晃一

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日高まつりだ


菊花賞2015―観戦記―
立ち遅れたスティーグリッツ以外の馬たちは好スタートを決め、外から強引にスピリッツミノルが先頭に立ち、それを1番人気のリアファルが追いかける形でレースは始まった。前半の1000mは60秒2と流れたが、中盤で一気にペースが落ちると(64秒4)、途中から我慢しきれない馬たちが、入れ代わり立ち代わり、外から上がっていくことで大きく隊列が乱れ、最後の1000mは59秒3という上がりの勝負になった。典型的な中緩みのレースであり、中盤で折り合って息を入れられた馬にとっては、2000mほどのスタミナしか要求されないレースであり、乱ペースに対応できる操作性の良さが問われたという意味においては、長距離らしいレースでもあった。

勝ったキタサンブラックは、好スタートを決め、最高のポジションを確保し、道中は手脚をゆったりと伸ばして自分のフットワークで走れていた。さらに他馬が大きく引っ掛かって外を回したことで、内を走っていたキタサンブラックの周りには広々としたスポットができあがった。こうして道中をスムーズに回って来られた運も大きいが、それ以上に、同馬の折り合いの良さが光ったレースであった。母の父がサクラバクシンオーだけに、道中が厳しいペースになっていたらどうだったかは分からないが、道中でスタミナを温存できたことが最後の末脚につながった。馬体的には手脚が長く、スラリとした体型に成長しているだけに、ジャパンカップが行われる2400mぐらいまでは距離は持つだろう。父ブラックタイドはディープインパクトの全兄であり、やはり血は争えない。

北村宏司騎手はこれ以上ない完璧な騎乗で、キタサンブラックを勝利に導いた。藤沢和雄厩舎の調教を手伝う中で、もともと馬に折り合いをつける技術は高く評価されてきた騎手だけに、こうした折り合いが問われる(長距離)レースでこそ北村宏司騎手の良さが発揮されたと言える。また、枠なりに内を進んだが、勝負所でリアファルを前に置けたこともポイントであった。リアファルがバテて下がってくることは考えにくい以上、内が詰まるリスクもなく、しかも最後の直線ではリアファルを目標として追い出せばよいことになる。リアファルを内から交わしたところがまさにゴールであった。

もうひとつ、今年に入ってからの日高生産馬のG1勝利ラッシュは、まるで日高祭りのよう。キタサンブラックの生産牧場であるヤナガワ牧場は最近、コパノリチャードやコパノリッキーなど、日高で最も活躍馬を出している。年間30~40頭しか生産しない中で、これだけG1馬をコンスタントに出せるのは何か秘訣があるはず。ちなみに、コパノリッキーもコパノリチャードも小國ステーブルで育成された。しかも、今年に入ってから日高の生産馬でG1を勝ったレッツゴードンキもストレイトガールも同じく小國ステーブルだという。生産から育成まで、人々の気持ちが同じベクトルに向かってゆくと頂点まで届くということだろうか。いずれにしても、日高の関係者たちにとっては嬉しく励まされるニュースである。

リアルスティールは、体型的にも気性的にも、決して3000m向きのタイプではなく、馬の総合力で連対を確保した。福永祐一騎手も細心の注意を払って乗ってはいたが、ペースが急激に落ちたところで、他馬と接触したことがきっかけとなって馬がハミを噛み、持って行かれてしまった。あそこのロスが最後のクビ差につながったように、ほんの僅かなことではあるが、勝ち馬とリアルスティールの間には適性の違いがあったということ。それはつまり、偶然ではなく、必然の負けなのである。

リアファルはハナを叩かれて逃げられなかったことで、気負って走る面が随所に見られた。それでも最初の1000mは良かったのだが、中盤で急激にスピリッツミノルのペースが落ちたとき、2番手で後続に蓋をする形になったにもかかわらず、結局のところ蓋をできず、自らも折り合いを欠く羽目に。結果論かもしれないが、リアファルの地脚の強さを考えると、あそこは思い切ってスピリッツミノルを抜き去って先頭に立つべきポイントであった。百戦錬磨のC・ルメール騎手にしては珍しい判断ミス。最後の直線では、リアファル自身は止まっていないのだが、スタミナを失っていない切れるタイプの2頭に先着を許してしまった。

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激流


秋華賞2015―観戦記―
大外からノットフォーマルが飛び出し、その勢いに引き寄せられるかのように後続の馬たちも挙って第1コーナーに殺到した。あっと言う間に隊列は縦長になり、この時点において、レースが速く流れていることは明らか。前半1000mの57秒4は秋華賞史上最も速く、後半は59秒5だから、時計的にも究極のハイペースとなった。一流のジョッキーは、スタートしてからの数完歩でペースを見極めると言われる。いち早くハイペースに気づき、馬のポジションを下げることができたか、そして馬群のさばき方から仕掛けのタイミングに至るまで、ジョッキーの一瞬の判断が着順に大きく左右したレースであった。

そんな中でも、勝ったミッキークイーンは中団からレースを運び、先を行く馬たちを射程圏に入れ、最後の直線で力強く抜け出して完勝した。ペースが速くなったことで、外枠から発走したことが功を奏し、外にポジショニングできたことが有利に働いたことは確かだが、それでもこれだけのペースを積極的に追走し、後続を凌ぎ切ったのだから一枚力が違った。桜花賞にこそ出走が叶わなかったが、牝馬3冠に相応しい実力の持ち主である。馬体だけを見ると、完璧に仕上げ切っているわけではなく、まだ成長の余地を残しており、これから先が楽しみな馬である。次走のエリザベス女王杯では、引っ掛かるタイプの馬ではないため、たとえスローに流れてもギリギリ我慢できるはず。

浜中俊騎手は昨年に引き続き、秋華賞を2連覇した。昨年はショウナンパンドラを完璧にエスコートし、今年もミッキークイーンの力を十全に発揮させた。京都芝2000mコースにおける乗り方を知り尽くしており、激流の中、積極的に前を攻めながら、できるだけコースロスを避けて内に潜り込む。特筆すべき身体能力を持つからこそ可能になる騎乗スタイルであり、昨年は岩田康誠騎手、今年はミルコ・デムーロ騎手の追撃を振り切れたのは、一瞬の的確な判断を積み重ねて正確に実行できたことに理由がある。全体的には荒削りな部分もあるが、京都芝2000mに限っていえば、上記のようなトップジョッキーを凌ぐ存在である。

クイーンズリングはM・デムーロ騎手の好判断が光った。スタートしてからすぐにハイペースに気づき、とっさに手綱を絞った。馬の気持ちに任せて進んでいたとしたら、おそらく掲示板はなかったのではないか。惜しむらくは、最終コーナーを回るときに、あとワンテンポ仕掛けを待ち、あと1頭分内の馬群を割ることができれば、ゴール前はもっと際どかったはず。クイーンズリング自身は、1400mのフィリーズレビューを勝っているが、本質的には中距離馬であり、今回は適距離でレースの流れにも乗って、力を発揮してみせた。

強いレースをしたのは3着に入ったマキシマムドパリであろう。前半から積極的に先行し、これだけのハイペースを追走したにもかかわらず、最後まで脚が上がらなかった。こういう厳しいレースでも音を上げないのはキングカメハメハ産駒の特徴であり、ゆったりと流れて瞬発力勝負になるよりも合っている。道中で外にポジションを出した、幸英明騎手の好判断も生きた。

前哨戦のローズSを勝ち、2番人気に推されたタッチングスピーチは、外々を回されてしまい、なし崩し的に脚を使ってしまったことが悔やまれる。人気を背負っているので、ある程度外を回しても動いていかなければならないのは確かだが、最後の直線に向く頃にはすでに脚は残っていなかった。一か八か、内を突くような乗り方をするべきであったかもしれない。トモに実が入り切っていない現状において、今回のような厳しいレースでは弱さが露呈してしまった。同じことはトーセンビクトリーにも当てはまり、馬体が未完成であるがゆえに力を発揮できなかった。

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ひたすら真っ直ぐに

Sprinterss15
スプリンターズS2015―観戦記―
アクティブミノルが好スタートを決め、そのまま先頭に立つかと思いきや、ハクサンムーンが強引にハナを主張し、内枠の利を生かしつつ第1コーナーでは先頭を奪った。この争いを見て、大方の予想通りに流れが速くなると感じた騎手も多かったはずだが、結果的には、前半の600mが34秒1、後半が34秒0という平均ペースが刻まれ、スプリントG1としてはかなり遅い流れ。その証拠に、ハイペースだと外のポジションが有利になるのが常であるが、今回、バテて下がってくる馬もおらず、上位を占めたのは内を進んだ馬たちであった。馬群の内で最後まで脚を溜められたかどうかが勝敗を分けた。

1番人気に推されたストレイトガールは順当勝ちだろう。これまでは使い詰めで調子が落ちていたり、逆に休み明け(海外遠征明け)であったりと、G1のスプリント戦ではなぜか歯車が噛み合わず、逆にスローペースに流れたヴィクトリアマイルで初G1勝利を飾ったりしたが、この馬の本質はスプリンターである。スローペースの中、馬群の外を回らされ敗れてしまった前走をひと叩きされ、今回は走れる仕上がりになっていた。ラストランとなる香港スプリントに向けてさらに調子を上げてくるはずで、あのエアロヴェロシティに一矢を報いてほしい。

戸崎圭太騎手の落ち着いた手綱さばきも光った。道中は内でも外でも開いたスペースに出せる位置に馬を置き、最後の直線に向くまで追い出しを我慢し、進路が開いた瞬間を見逃さずにゴーサインを出して馬群を割った。もうひとつ前の(サクラゴスペルが走った)ポジションが理想的だったにもかかわらず、そんな素振りを全く見せず、よくぞあそこまで動かずにいられたと思う。ストレイトガールの力と状態の良さを信じていたからこその、ソツのない見事な騎乗であった。

横山典弘騎手のエスコートに応えて、、サクラゴスペルは休み明けをものともせずに2着に食い込んだ。スプリンターというよりは、一瞬の脚の使いどころが極めて難しい馬だけに、今回のようにロスのない競馬ができたときには光る末脚を発揮できる。それだけ、レースの流れやポジションに着順が左右されてしまうということだが、今回に限っては、全てにおいて非の打ちどころのなかった。

惜しかったのは3着に入ったウキヨノカゼか。最後の脚は際立っていたが、前半にどうしても置かれてしまうタイプだけに、G1レベルのレースになると、前に行く馬を全て飲み込むのは難しい。脚を余してしまったというよりは、さらに前の位置から伸びる馬がいたということだ。この馬自身は、最高の仕上がりで、力を十全に出し切った。休養を挟んで馬が立て直され、完全に本格化した。

ミッキーアイルは序盤にハミをかなり噛んでしまったことが、最後に響いた。もう少しペースが上がってくれた方がレースはしやすかったが、あれだけガツンと行ってしまうと、いくらスプリント戦とはいえ最後までもたない。それでも踏ん張っているので能力は高さは認めつつも、この馬が大成するかどうかは、力の使いどころをどう教えていくかにかかっている。ウリウリは外々を回らされたことで、突き抜けられなかった。後方から行って一瞬の末脚を生かすタイプであり、ポジション取りを含めて、この馬も最高に上手く乗らないと勝てない、乗り難しい馬である。サマースプリントシリーズの王者であるベルカントは、やや調子が下降線を辿っていたか。決して厳しい流れではなかったにもかかわらず、最後は手応えがなかった。

Photo by 三浦晃一

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タフネスとスキル


宝塚記念2015―観戦記―
ハナを主張する馬がおらず、その隙を突いて松若風馬騎手を背にしたレッドデイヴィスが先頭に立った。その外からラブリーデイが狙いすましたように番手を取り、ペースは一気に落ち着いた。その結果、4ハロン目と5ハロン目に13秒台が2度も刻まれる、G1レースとは思えないほどの超スローペースとなり、前に行けなかった馬や馬群の外を回らされてしまった馬たちにとっては厳しいレースであった。これが競馬における展開の恐ろしさであり、スタートしてから最初の2ハロンにおける挙動が、レースの勝敗を分けたと言ってよい。

勝ったラブリーデイは、展開に恵まれたことは確かだが、抜け出してから最後まで脚が止まることはなかった。筋骨隆々の馬体からは決して得意とはいえない長距離のレースを惨敗していたが、これぐらいの距離では力が最も生きる。この馬の凄いところは、昨年の暮れから今年の厳寒期を経て、春シーズンも使い詰めで来ているにもかかわらず、自分の守備範囲の距離のレースでは崩れていないことだ。普通の馬であれば、ピークを越えて、体力が残っていないはず。この馬の卓越したタフネスと、長いスパンにおいて調子を管理・維持し続けた池江泰寿厩舎のスキルの高さがもたらした勝利である。

川田将雅騎手は思い切った騎乗でラブリーデイを勝利に導いた。外枠を引いた時点で、(逃げてもいいぐらいの気持ちで)先行しようと腹を決めていたはずだ。長距離のレースを使っていたことで、スタートから出して行ってもそれほど掛かることはない、と前走のレース振りを見て考えていたのではないか。そもそもは大外枠を引いていなければ、ここまで前に行くことは考えなかったはずで、災い転じて吉と出るというべきか、代打でこの枠順だからこその腹の括り方ともいえる。これだから競馬は難しく面白い。

最も強いレースをしたのはデニムアンドルビーかもしれない。二の脚がつかず、道中は流れに乗ることができずに、仕方なく内ラチ沿いで脚をためる形になったが、最後の直線で外に出してからの伸びが秀逸。溜めて伸びるタイプではあるが、それにしても、もう少し器用な競馬ができればと思わざるをえない。父ディープインパクト×母父キングカメハメハという現代の日本競馬においては最強の血統構成を誇り、底知れぬ馬というか、この先、もっと馬体が大きく成長して、自分で動いて勝ちに行けるようになれば、G1のタイトルにも手が届く。

ショウナンパンドラは内枠を生かして、最大限の力を出し切った。池添謙一騎手の見事な騎乗であった。対照的に、内枠を引きながら、スタート直後に挟まれてポジションを下げてしまったカレンミロティックは、最後まで自分のレースができずに終わってしまった。切れる脚がない馬だけに、このペースでは何としてでも前に行きたかったが、今回は運が悪かったとしか言いようがない。ヌーヴォレコルトは昨年の疲れが完全には癒えていない。オークスの反動を引きずる牝馬は案外多いので、もう少し時間が掛かるだろう。

牝馬ながらも2番人気に推されたラキシスは、外枠発走から終始外々を回されてしまい、道中で脚を使ってしまっていた。C・ルメール騎手にしては珍しく、なされるままに外を回されていた印象を受けた。それでも勝てる自信があったのか分からないが、工夫のない騎乗であった。また、ラキシスにとって長距離輸送がないことは良いのだが、今回のプラス10kgはさすがに成長分というよりも、相手と自分の力の見積もりを誤った仕上げミスではないか。産経大阪杯を勝って、他のレースを見送ってまでこの宝塚記念に狙いを定めてきたのだから、もっときっちり仕上げてもよかったはず。

1番人気に推されたゴールドシップは、ゲート内で立ち上がってしまい、タイミング悪く2度目に立ち上がった瞬間にスタートを切られてしまった。行き脚もつかず、レースに参加したのは最終コーナー手前から。最後の直線に向いても一向に伸びる素振りさえ見せず、なんと15着に惨敗してしまった。このスローペースをあれだけ後ろから行き、コーナーごとに外を回らされてしまえば、さすがにゴールドシップでも苦しい。とはいえ、今回の敗戦については、それ以前の問題でもあり、枠内での駐立不良や行きっぷりの悪さを見ると、3連覇どころか、今回はもはや走る気さえなかったのではないかと思わざるをえない。それをゴールドシップの性格の問題としてしまうのは簡単だが、前走・天皇賞春の反動があったのではないか(ゴールドシップは基本的には2戦続けて走らない馬である)と考えるべきである。

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あらゆる意味でパーフェクト

Yasuda15 by 三浦晃一
安田記念2015―観戦記―
前走でスプリント戦を走ったミッキーアイルが好スタートを切り、それを制するように押してリアルインパクトが先頭に立った。前半マイルが45秒9、後半のそれが46秒1という平均ペース、むしろG1のマイル戦としては遅い流れといえる。2番手を進んだ牝馬ケイアイエレガントが掲示板に残っているように、全体としては中団から前に行った先行馬たちに有利なレースとなった。そのため、自らのペースを崩すことなく、無理せず好位に取りつけた馬たちが上位を占めた。力と力がぶつかり合うような例年の安田記念とは違い、今年のレースレベル自体はやや低い。

それでも勝ったモーリスは、ここ数戦の追い込み脚質から脱却し、先行してそのまま押し切ったのだから強い。G1レースを正攻法で勝ったということだ。2歳時から馬体の骨格の素晴らしさや末脚の鋭さなど非凡な資質は見せていたが、体質的に弱さがあって、力を発揮できないレースが続いていた。そこで長期の休養を挟んで、堀厩舎に転厩させ、じっくりと馬をつくり直した結果として、馬体に芯が入って今の活躍がある。具体的には、良い脚が長く使えるようになった。まだトモに甘さは残っているが、とにかく前駆の盛り上がりとそれに伴う肺活量には惚れ惚れするようで、どこかで見たと思ったら父の父であるグラスワンダーのそれである。

先週のドゥラメンテに続き、2週連続でのG1レース勝利となった堀厩舎の凄さは時間にある。馬をつくるためにかける時間。馬を歩かせることから始まり、時計の出る調教からクーリングダウンに至るまで。もちろん寝藁を替えたり、ブラッシングやマッサージなども含む、馬とかかわる時間のすべてが堀厩舎の管理馬をつくっている。ブラックと揶揄されるかもしれないが、とにかく時間を掛けて、じっくりとゆっくりと馬をつくる。皐月賞であれだけの脚を使ったドゥラメンテをダービーまでに回復させ、今回のモーリスもダービー卿CTの反動を癒すために、除外の可能性を考慮しつつ、無理をしてステップレースを使うことなく間を開けた。堀厩舎の快進撃を見ると、これまでの西高東低の差は栗東と美浦の施設環境の差ではなく、馬づくりにかけた時間の差であったのではと感じる。

大一番でバトンを受けた川田将雅騎手は、期待以上の形でモーリスを勝たせてみせた。タイミング良くゲートが開かれたことで、ポンと飛び出したモーリスを下げることなく、出たままのポジションで走らせた。負けたときのことを考えると、できそうで案外できないことである。並みのジョッキーであれば、もっと手綱を絞って、馬を下げてしまっていたのではないか。追い出しのタイミングも完璧で、2着馬に迫られたように見えたが、どこまで行っても変わらない差であった。これまで追い込んでいた馬があれだけ前に行けば、力んで掛かるのは当然のことで、それでも川田騎手だからこそ抑え込めたとも言える。何よりも、こういう勝ち方は馬にダメージを残さない。あらゆる意味でパーフェクトな騎乗であった。

ヴィンセンヌは良く追い込んだが届かず。勝ち馬との間にはクビ差以上の力差があるが、この馬自身も1頭だけ33秒台の脚を使って後方から伸びたように、3着以下の馬たちを凌ぐ実力を示した。折り合いに難しさがある馬であり、福永祐一騎手も上手く乗ってはいるが、展開に左右される面があることは否めない。前走の京王杯SCでは折り合いをつけて走ることに専念し、そのリズムが今回の安田記念に生きてはいるが、それでも届かなかった。G1レースを勝ち切る力は持っているので、あとはもう少し自在に動けるように教えていかなければならない。

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Crazy Strong!

Derby15

ミュゼエイリアンが果敢に先頭に立ち、外からキタサンブラック、内からコメートが続いた。前半1200mが71秒3、後半71秒9という、やや前半が速い平均ペース、道中淀みなく流れたことで、展開による大きな有利不利はなく、最後は力のある馬が抜け出してくる日本ダービーに相応しいレースとなった。有力馬が外の枠を引いたことで、2着には内枠を生かしたサトノローゼンが割って入ったが、それでもドゥラメンテを筆頭とした3強の能力は抜けていたということだ。3頭ともに成長の余地を残しており、まだ気が早いかもしれないが、古馬になってからも互いに鎬を削ることになるだろう。

勝ったドゥラメンテは、中団から追走し、最後の直線では危なげなく後続を突き放した。皐月賞は折り合いに気をつけて競馬をしていたが、今回はある程度のポジションを取りに行き、ほとんど折り合いを欠く素振りを見せなかった。ドゥラメンテは堀厩舎の管理馬にしては珍しく、筋骨隆々というわけではなく、どちらかというと筋肉のメリハリに物足りなさを残し、随所に緩さを感じさせる未完成な馬体である。ディープインパクトやキングカメハメハ、オルフェ―ヴルといった過去の名馬たちと比べるとまだまだだが、この薄い馬体で日本ダービーを勝ってしまったのだから恐れ入る。終わってみれば勝つべくして勝った、最も日本ダービーに相応しい馬が勝ったということである。血統的には菊花賞の距離はやや長いので、秋は凱旋門賞に向かうのも面白い。

中央競馬所属の騎手として初めて日本ダービーを勝ったM・デムーロ騎手は、ゴール直後に頭が真っ白になったのだろう、さすがに得意のパフォーマンスは見られなかった。終わってみれば楽勝であったが、特に日本ダービーのようなレースにおいて、勝つべき馬を無事に勝たせることは、M・デムーロ騎手ほどの百戦錬磨のジョッキーにとっても簡単ではない。ネオユニヴァースで勝ったときとはまた味が違う、なんとか大仕事を成し遂げたという喜びだろう。特筆すべきは、スタートしてから馬が掛かることを恐れずに、馬を出していったこと。最悪の形になっても、自らの腕で御しきれるという自信があるからこそでもある。リアルスティールやサトノクラウンよりも前の位置を取り、折り合った時点で、他馬に付け入る隙を与えなかった。

サトノラ―ゼンは岩田康誠騎手の好騎乗に導かれ、3強に割って入った。これぞ府中の2400mを勝つための乗り方であり、スタートから道中のポジション、仕掛けるタイミングから最後の叩き合いまで、非の打ち所がない見事な騎乗であった。枠順に恵まれたこともあるし、サトノラ―ゼン自身が力をつけてきていることもあるが、岩田騎手らしい攻めの姿勢がそれらを引き出した。この馬もまだ馬体に幼さを残しており、夏を順調に過ごせば、秋以降はさらに活躍が期待できる。

サトノクラウンは最後まで脚を伸ばしたが、サトノラ―ゼンを捕らえることができなかった。最終コーナーで大外を回らざるを得なかったのが最後に響いた。2着馬とは枠順の差であると言っても過言ではない。皐月賞は2度にわたって外に弾かれ、大きく能力を削がれた結果だけに、もともとはこれぐらい走って当然な馬である。サンデーサイレンスの血が全く入っていないにもかかわらず、日本ダービーでここまでの走りを見せるのだから、実に異能でこの先が楽しみな馬である。血統的な奥の深さはまだ分からないが、秋以降にはさらに強くなった姿を見てみたい。

リアルスティールはドゥラメンテに突き放されたばかりか、2着争いからも離された4着に終わってしまった。外枠発走ということもあり、積極的に攻めていくことができず、レースの主導権を勝ち馬に渡してしまっていた。最後はスタミナ切れしていたように、この馬は体型的には2000mまでの馬だろう。内枠を引くことができ、乗り方次第では勝利を拾うチャンスはあっただけに、馬にとってもジョッキーにとっても運がなかった。それでも、もし勝ちに行くことを狙うとすれば、一か八か馬を出して行き、第1コーナーまでに内に潜り込むべきであった。本番でそれができるように、デビュー戦から手綱を取り、レースを重ねつつ競馬を教え込んできたのではなかったのか。与えられた枠なりに回ってくる者に、ダービージョッキーになる資格はない。対照的に、コメートに騎乗した嘉藤貴行騎手は、枠を生かし、攻めの騎乗に徹していた姿が印象的であった。

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女王の強みは、気性。


オークス2015―観戦記―
ノットフォーマルが外枠から切れ込むようにして先頭に立ち、前半の1200mが73秒9、後半の1200mが71秒1というスローにレースは流れた。2ハロン目以外は12秒台(4ハロン目は13秒)のラップが前半はコンスタントに刻まれ、後半は11秒台のラップに転じるという、分かりやすいほどなだらかな後傾ペース。前半はしっかりと折り合えて、後半は長く良い脚を使える馬にとって打ってつけのレースであった。スローペースにもかかわらず、後ろから行った馬たちが上位を占めたのはそういうことだろう。

ミッキークイーンの最大の強みは、決して行きたがることのない穏やかな気性である。どちらかというと、ジョッキーが押してこそ前へ進んでいくタイプ。前走の忘れな草賞でも、ゴール前で浜中俊騎手が追うのをやめるや、すぐに耳を立てて遊んでいた。こういうタイプの馬は、オークスのように距離が一気に延びたりして、折り合いに気をつけなければならないレースにおいてこそ安心して騎乗することができる。久しぶりに忘れな草賞組から勝ち馬が出たが、桜花賞組が弱かったというよりは、ミッキークイーンが強かったということである。430kg台と小柄な馬だが、馬体の完成度は案外高く、今後は現在のシルエットを維持しながらも全体的にパワーアップしていけば、素晴らしい馬に成長するだろう。

浜中俊騎手はミッキークイーンの長所を生かす競馬に徹していた。勝ちに行くというよりは、馬の性格やこれまでの走りを考慮に入れて、ミッキークイーンが自分のレースができるようにサポートしていた。浜中俊騎手は騎手の中でもトップクラスの身体能力を誇り、海外で通用する日本人ジョッキーのひとりである。とはいえ、今回の騎乗に関しては、彼が剛腕や技術を振るったのは最後の接戦のときだけで、それ以外の部分は、馬を良く見て、馬の良さを引き出した感が強い。馬の背から消えるような騎乗であった。

桜花賞に続き1番人気に推されたルージュバックは、今回は積極的なレース運びで力を出し切った。本来はこういうスムーズな競馬ができる器用さのある馬である。道中の折り合いも、仕掛けるタイミングもほぼ戸崎圭太騎手が思い描いていた通りであったはずだが、それでも最後は伸びあぐねてしまった。しかし、この敗戦を見て、ルージュバックを見限ってしまうのは早計である。桜花賞まで無敗できたことで、陣営にも馬にも極限のプレッシャーが掛かり、馬体がしぼんだ状態で大敗したのち、そこからわずか2か月足らずでここまで回復してきたのだから凄い。今回も決して完調ではなく、並みの馬ならば勝ち負けには加われないだろう。大きく崩れていたとしてもおかしくはなかった。馬体は未完成であり、それでもここまで走るのだから将来が楽しみな馬であることは間違いない。

ゲート入りをごねたクルミナルは、やや立ち遅れたが、レースの流れには乗って、ルージュバックをマークする形で、最後はきっちりと末脚を伸ばした。この中間で胴部に伸びが出ていたとしても、前駆の勝ったパワータイプだけに、距離が延びたことがプラスに働いたとは言い難い。エンジンの良さで距離を克服したということだ。桜花賞馬のレッツゴードンキは、道中でハミを噛んでいたように、前走や前々走で逃げてきたことのツケが出てしまった。行かせてしまうと、後のレースで我慢が利かないようになってしまうデメリットがある。ココロノアイはベストポジションで走ることができたが、最後の直線で弾けることなく終わってしまった。良馬場の瞬発力勝負が合わなかったというよりは、この馬自身、昨年の暮れ以降、関西への長距離輸送が続いたこともあって疲れが残っているのかもしれない。

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これはスローペースではないのか?


ヴィクトリアマイル2015―観戦記―
大外枠からミナレットが大逃げを打ち、ケイアイエレガントがポツンと2番手を進み、そこからさらに大きく開いて後続集団が追走した。ミナレットが刻んだペースは前半マイルが45秒5、後半が46秒4という前傾ラップだが、ケイアイエレガントは平均ペース、そしてレース本体としては超がつくほどのスローペース。後続にとっては前の2頭は見えておらず、全く異なる空間を走っていた2つのレースが最後に1つに交わったような展開となった。レース映像に手を当てて、ミナレットとケイアイエレガントを隠して観てみると、今年のヴィクトリアマイルの実像が掴めるはず。

勝ったストレイトガールは、スローペースの瞬発力勝負を制し、初のG1タイトルを手にした。実質3番手を追走して、自身の上がり3ハロンが33秒ジャストだから、さすがにこれを上回る馬はいなかった。昨年も3着に来ているように、単なるスプリンターではなく、スタミナの裏付けもある馬ではあるが、今回はペースが落ち着いたことで、スタミナをさほど問われなかったことも勝因のひとつ。ヴィクトリアマイルが新設された当初は、各馬が手探りの競馬をして極端なスローに流れることが多く、コイウタやエイジアンウインズが勝利したように、フジキセキ産駒はこういったレースに滅法強い。

戸崎圭太騎手の良さは、自然体で乗ったときにこそ発揮される。スタートが良く、馬のリズムとレースの流れを自然に調和させることができるため、無理をすることなく最適なポジションを走ることができる。頭で考えすぎたり、自ら勝ちに行こうとしたりするタイプではないということだ。直線に向いて、追い出してからはさすがの迫力で、馬に気を抜かせることなくキッチリと最後まで追ってくる。南関東で頂点を極めたことも納得のフィニッシュ。関東に所属しているため、G1レースを勝つときは代打で関西馬に乗ったとき、というパターンはこれからも続くのではないだろうか。

ミナレットとケイアイエレガントはレースの盲点になり、恵まれたことは確かだが、最後までよく粘っていた。それにしても、ラップや時計うんぬんではなく、ノーマークで逃げられることがここまで有利に働くことに改めて驚かされる。クィーンスプマンテとテイエムプリキュアが大逃げを打って、ブエナビスタを負かした2009年のエリザベス女王杯を思い出したのは、私だけではないはずだ。競馬のレースは実に奥が深い。

レッドリヴェールもカフェブリリアントも、スローの流れを前につけて、インコースで脚を溜める最高の騎乗ができたが、勝ち馬の切れ味の鋭さの前に屈してしまった。レースを観る限り、前の2頭を追いかけず、蓋をしてしまったのはC・ルメール騎手であろう。レッドリヴェールのスタミナを生かすには、もう少し積極的に前を追いかけても良かったのではないか。ディアデラマドレはスタートから流れに乗れず、ラストは伸びてはいるものの、さすがに届かない。マイルの流れが合わないというよりは、マイル戦だからという鞍上の意識が馬に伝わって、馬が硬くなり、スタートして気持ちと身体がバラバラになってしまっている。

1番人気のヌ―ヴォレコルトは、勝ち馬のすぐ後ろの位置につけ、展開は向いたにもかかわらず、掲示板にさえ載れなかった。牡馬を凌ぐほどのスタミナを秘めているヌ―ヴォレコルトにとって、今回の究極の瞬発力勝負は明らかに分が悪かった。勝つために求められている適性が全く逆であるということだ。この馬なりに伸びてはいるが、自身の強みを生かせるようなレースではなく、悲観することは全くない。宝塚記念に出走すれば、十分にチャンスはある。

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馬の気持ちに乗った


NHKマイルC2015―観戦記―
レンイングランドが思い切ってハナを切り、3連勝中の牝馬アルビアーノは抑える競馬となり、前半の800mが47秒2、後半の800mが46秒3というNHKマイルCとしては超がつくスローペースで流れた。カレンブラックヒルやミッキーアイルが逃げ切った2012年と2014年でさえイーブンペースであったことを考えると、前に行った馬にとっては極めて有利、後ろから行った馬ではほとんど勝負にならないレースであった。桜花賞の超スローを筆頭として、G1レースとは思えないレベルの低下であり、この流れは今後も続くはずである。つまり、レースの流れ(展開)を予想するときには、スローに張る方が正解ということだ。

勝ったクラリティスカイは、前走の皐月賞で逃げたことが結果としては吉と出た。行かしてしまう競馬をすると、その後、馬が行きたがる(引っ掛かる)ようになることが多いが、今回に限っては、その前進気勢をなんとか抑え込み、先行できたことを生かしての勝利であった。さすが皐月賞5着馬であり、他の路線から来た馬たちを退けてみせた。父クロフネ譲りの骨量豊な胸前にはパワーが漲り、母父スペシャルウィークから受け継いだスタミナに支えられており、この馬にとっては府中のマイル戦はベストの舞台である。

横山典弘騎手はこれで2週連続のG1勝利となった。天皇賞春のゴールドシップもそうであったように、馬の特徴を把握し、生かすことで、騎乗全体としてはごく自然な振る舞いになっている。ゴールドシップは派手なレースをしたように見えるが、馬の気持ちや個性を尊重した結果であり、クラリティスカイも(文字通り)馬の気持ちに乗って先行したことで勝利を手にした。これぞベテランという騎乗で、難しいことをいとも簡単に見せてしまうのが横山典弘騎手の凄いところだろう。最後の直線で鞭を連打して馬を叱咤激励する姿は、とても47歳のアスリートとは思えない。

アルビアーノはスローペースにも恵まれ、2着に粘り込んだ。あと一歩のところまで走ったが、最後は牡馬クラシックで善戦していた馬にねじ伏せられてしまった。気性が前向きで素直な馬であり、レースに行っても乗りやすくて、力を出し切れる。ムチを使うことなく、最後まで手綱だけで追ってきた柴山雄一騎手にも好感を覚える。大一番のあとひと踏ん張りというところでも我慢して、馬の気持ちを壊さないことを優先していた。こうした細かいことの積み重ねが、将来の大きな勝利につながるのだ。

ミュゼスルタンは休み明けを叩かれ、走れる状態に仕上がって出走してきたが、展開に恵まれず3着まで。もう少しペースが速くなっていれば、突き抜ける脚はあったが、これが競馬だろう。勝てる能力を持っているからといって、必ずしも勝てるわけではない。あらゆる運に恵まれるからこそ、特に大きなレースは勝てるのである。アヴニールマルシェも良く伸びているが、道中のポジションが悪く、休み明けの分、反応が遅かった。ミュゼスルタン同様に身体と心がパンとしてくれば、もっと走って良い馬である。

1番人気のグランシルクは好枠を生かし、この馬としては非の打ちどころのないレースをしていた。前走のように大きく出遅れることもなく、中団のインで流れに乗って、最後の直線も勝ち馬の後ろのポジションという理想的な形で迎えることができた。それでも、勝ち馬を上回る脚を使えなかったのは、まだこの馬が未完成だからである。馬体にも幼さが残り、成長の余地を残している現状では、掲示板に載るのが限界であった。

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気持ちが不器用な馬


天皇賞春2015―観戦記―
クリールカイザーが強引に先頭に立ち、それにスズカデヴィアスとカレンミロティックが続き、前半の1000mが61秒4という昨年と同様に緩いペースでレースは流れた。道中は適度に緩み、ラスト1000mが59秒ジャストだから、後半にかけての持続力勝負であった。これだけのメンバーで3200mを走るのだから、さすがに豊富なスタミナがなければ勝ち切ることはできない。父ステイゴールド、母父にメジロマックイーンという典型的なステイヤー血統を背景に持つゴールドシップが、ロングスパートをかけ、3度目の正直で天皇賞春の盾を手に入れた。

ゴールドシップの最大の武器は、決して尽きることのないスタミナである。バテて脚が上がることがない以上、できるだけ早めからトップギアに入れて、その勢いで押し切りたいところ。とはいえ、この馬の難しいところは、気分がそぐわないと押しても叩いても前に進んで行かないどころか、耳を絞って反抗することに気持ちが向かってしまう。これまでも体調が優れないときは自らレースをやめようとしていたし、古馬になってからは、全力を出し切って走った次のレースでは続けて走ろうとしなかった。つまり、気持ちが不器用な馬であり、一般に言われるような速い上がりのレースや京都競馬場が苦手ということではない。走ってみなければ走るか分からない馬が、今回はたまたま前走に引き続き走ったということ。ということは、3連覇がかかる次走の宝塚記念も凡走と隣り合わせであることは覚えておきたい。

2着に突っ込んだフェイムゲームは、長距離のダイヤモンドSやアルゼンチン共和国杯を勝ち、ステイヤーとしての資質を示していた。前走からレース間隔こそ開いていたが、馬体はピカピカに輝き、見事な仕上がり。出走馬の中でも最後まで伸び切っていたように、この馬のスタミナがメンバーで随一であることに疑いはない。それにしても、父であるハーツクライの長距離適性には恐れ入る。3着に入ったカレンミロティックにしてもそう。体型的にはステイヤーとは言い難いのに、距離が延びれば延びるほど良さが出る。その産駒に共通しているのは、気性の素直さゆえ、道中で余計なスタミナを使わないこと、そしてもうひとつは我慢強いことである。

1番人気ながらも7着に敗れたキズナは、母父にストームキャットが入っているように、本質的にはステイヤーではない。さらに今年に入ってからは各パーツに実が入り(特にトモの部分)、2000m前後を得意とする馬体へと成長していることが、今回はマイナスに出た。馬体が緩かったこれまでのように、距離にごまかしが利かなくなってきたということだ。もちろん、このまま順調に行けば、距離が短縮される宝塚記念は楽しみである。

サウンズオブアースはどうにもギクシャクした競馬をしてしまった。スタートから積極的に出して行き、いつでもロングスパートをかけられる位置に馬を置いたまでは良かったが、外から来たアドマイヤデウスに外から蓋をされてからは、身動きが取れず、押したり引いたりを繰り返しと無駄なギアチェンジでスタミナをロスしてしまった。内田博幸騎手もあそこまで執拗にマークされるとは思ってもいなかっただろう。それでも最後は力尽きているように、自分の型に持ち込めないと、現状では勝ち切るだけの力がないことも事実であろう。

アドマイヤデウスは、母父サンデーサイレンスの血が影響したのか、スイッチが入ったように引っ掛かってしまった。これが中距離の重賞と長距離G1の違いであり、母父にサンデーサイレンスが入っている馬が天皇賞春を勝つことが難しいことの証明でもある。ただ、今回に限っては、岩田康誠騎手がサウンズオブアースを外に出さないという作戦に溺れ、共倒れになってしまった感も強い。相手の動きを封じ込めることには成功したが、道中ではぶつかり合ったりして消耗し、その横をゴールドシップがするすると上がって行ったのだから目も当てられない。

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エアグルーヴからつながる肉体と精神の強さの上に

Satsuki05
皐月賞2015―観戦記―
高速決着を予期してか、ひとつでも上の着順を狙ってか、横山典弘騎手とクラリティスカイが思い切って先頭に立った。逃げ宣言をしていたスピリッツミノルは見せ場なく、キタサンブラックが番手につけ、前半1000mが59秒2、59秒0という平均ラップが刻まれた。馬場を考えると前に行った馬に有利だが、ある程度流れたことで、後ろから行った馬でも力があれば届かなくはないというレース。最高に上手く立ち回ったリアルスティールが抜け出したかと思った瞬間、外を回ったドゥラメンテが規格外の末脚で突き抜けた。

勝ったドゥラメンテは共同通信杯以来という、昨年のイスラボニータと同じローテーションであったが、きっちりと仕上がっていた。中山競馬場の急坂で先行馬たちの脚が上がるところを、この馬はさらに加速したことで、あのような他馬が止まって見えるような驚愕の末脚となった。気性的に難しさを秘めている馬であるが、今回はそれが全て爆発力に転換されたような走り。エアグルーヴからつながる肉体と精神の強さの上に、母父サンデーサイレンスのスピードが載り、それを父キングカメハメハが補強した煌びやかな血統が如何なく発揮された。とはいえ、馬体的には幼さが残るし、これだけの末脚を使った反動も考えると、日本ダービー馬となれるかどうかは未知数である。

M・デムーロ騎手は初騎乗ながらもドゥラメンテの良さを見事に発揮させた。スタートしてから、無理に行かせず、周りに馬がいないスポットを走らせることができたことで、後半の爆発力を引き出した。馬を動かせるジョッキーがきっちりと仕上がった馬に乗ると、ここまで馬が反応するのかという競馬であった。最終コーナーの粗相は確かに危なかったが(もう少しゆっくりと外に出すべきだった)、ドゥラメンテ自身が初めての右回りだったことや競馬ファンの大歓声に驚いて、外に大きく逃げようとしたことから突発的に起こったものであり、故意ではない。周りのジョッキーたちが上手く交わして大事には至らなったが、厩舎サイドとしては後味の悪い勝利となった。

敗れたものの、リアルスティールは次につながる競馬をしていた。前走のスプリングSは、道中で苦しがって、レースから逃げたがっていたが、今回はそういう面が薄れていた。序盤こそ行きたがったものの、レースに集中し、最後までしっかりと走れていた。デビューしてから3戦目ぐらいが競走馬にとっては辛い時期だが、それを乗り越えつつあるということだろう。以前はコロンと映っていた馬体も、ここに来て少しずつ長さが出て、クラシックを迎えて成長してきている。日本ダービーに向けての期間をどう過ごすかで、最高の結果が出る可能性がある。日本ダービーに王手をかけたのは、実はこの馬である。

キタサンブラックは浜中俊騎手の積極的な騎乗に導かれ、力を出し切っての3着。パドックで最も良く見えたのはこの馬であり、手脚がスラリと伸びて、線の細さこそあれ、ここにきて馬体が大きく成長してきている。父ブラックタイドはディープインパクトの全兄であり、この種牡馬にもクラシックを前にグンと力をつける遺伝子が埋め込まれているのだろうか。キタサンブラックは器用なレースができる、レースセンスの高い馬だけに、勝てるかどうかは別にして、日本ダービーでも楽しみな存在ではある。

1番人気のサトノクラウンはパドックからいつになく入れ込んでおり、馬体こそ仕上がっていたが、精神的に追い込まれていた。これが負けていない馬ゆえの怖さであり、中5週というレース間隔の難しさである。先週のルージュバックもそうであったが、人間サイドの負けてはならないという過剰なプレッシャーが知らぬうちに馬にも伝わってしまうということだ。それに輪をかけて、最終コーナーで蛯名正義騎手のダノンプラチナに外に弾かれ、その次にはM・デムーロ騎手のドゥラメンテに進路をカットされて万事休す。トップスピードに乗る時点でこのようなアクシデントに巻き込まれてしまうと、馬に掛かる負担は想像以上に大きく、簡単に脚を失ってしまうものだ。巻き返しが可能かというと難しいだろう。皐月賞に向けてきっちりと仕上げられて(マイナス8kg)敗れてしまった馬を、次までに立て直すのは案外難しい。

最後に、今年の中山競馬場は芝の発育や排水溝の関係上、8日目にしてもパンパンの馬場で行われた。走りやすいのは良いことだが、勝ちタイムや勝ち馬の上がり時計を見ると、やや作り込まれた感が否めない。必要以上に馬場(タイム)をつくることに意味はない。2002年にノーリーズンが勝ったときと同じような違和感を覚えた。つくられた馬場で勝ってしまった馬は、その反動から故障して次のレースに出走できない、もしくは次のレースで凡走してしまうものだ。技術や品種改良の発達は良きことだが、あまり人工的に競馬をいじってはならない。

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勝つためには勝つ気で乗らないこと


桜花賞2015―観戦記―
行き切る馬がいないと見るや、レッツゴードンキが先頭に立ち、前半の半マイルmが50秒ジャスト、後半マイルが46秒ジャストという、恐ろしいほどのスローペースでレースは流れた。当然のことながら、馬群は団子状態の横長になり、各馬折り合いをつけるのに必死であり、馬群の中で揉まれた馬たちの消耗はさらに大きかった。そんな中、1頭だけ馬群から離れた位置を走り、前半は歩くようにして脚を溜め、他馬とは全く違う種類の競馬をしたレッツゴードンキがあっさりと逃げ切った。

勝ったレッツゴードンキを褒める前に、鞍上の岩田康誠騎手を称えたい。逃げ馬不在の内枠という条件であっても、直線の長い阪神のマイル戦で再び逃げを打った勇気には恐れ入る。人気こそ落としていたとはいえ、チャンスのある有力馬に跨って、大一番のここぞというタイミングで先頭に立つのは難しい。思い切った騎乗をすると、負けたときにはジョッキーの責任を問われるからであり、無難に折り合って負ける方を好む騎手も多い。願ってはいないだろうが、負けて降ろされたら仕方がないと心のどこかで割り切れているからこそ、大胆な騎乗ができる。このメンタリティこそが岩田騎手の強さであり、勝つにはこれしかないという究極の逃げ切りであった。

レッツゴードンキは早い時期から完成度の高かった馬であり、どのレースでも確実に伸びてくる肉体と精神の強さを併せ持つ。折り合いにそれほどの心配がなく、気性面でも素直なので操作性が高いため、安定して力を発揮できる。阪神ジュベナイルFやチューリップ賞こそ、勝ち馬の前前に屈してしまったが、この馬の力は出し切っていた。今回は自身の力をコンスタントに出せる強みが勝利に結びついた。もともと完成度の高かった馬だけに、この先の成長という意味では疑問だが、オークスでも好勝負になるだろう。とはいえ、今回の桜花賞はピンポイントで拾った勝利だけに、もう一丁はさすがに難しい。

クルミナルは立ち遅れがもったいなかったが、それゆえに揉まれないスペースを探し、スムーズに流れに乗れた幸運もあった。チューリップ賞では1番人気に推された馬であり、その素質は高く買われていたが、前走の道悪における惨敗によって評価を下げていた。これぐらいの走りができる実力はある馬であり、ディープインパクト産駒らしく春のクラシックに向けて成長曲線を辿ってきた面もある。前駆の発達したパワータイプだけに、距離が延びるオークスは微妙だが、展開やペース次第でチャンスは十分にある。

コンテッサトゥーレはスローペースを内々の2、3番手で追走し、全くロスのない最高の立ち回りで3着を確保した。まだ440kg台とクルミナルと比べるとパワー不足は否めないが、現状の持てる力は出し切った。クイーンズリングも良く走っているが、枠順に恵まれず、後方からの追走で外を回った分の4着。ココロノアイも外々を回されて、末脚が不発に終わった。重馬場のチューリップ賞を勝った反動が少なからずあったかもしれない。次走のオークスまでは時間があるので、巻き返しに期待したい。

最後に圧倒的な1番人気に推されていたルージュバックは、見せ場なく9着に敗れてしまった。こうやったら負ける、もっとはっきりと言うと、これ以上は下手に乗れないという騎乗であった。スローの展開も予測できたはずだし、真ん中の枠を引いて揉まれたくないとも思っていたはず。陣営にも馬にもプレッシャーがかかっていたことで、強い追い切りが1本多く、馬はギリギリであったが、勝てない状態ではなかった。隣のクルミナルが立ち遅れたのだから、レッツゴードンキの後をそのまま付いて行って、ゴール前で交わせば勝てていたレースである。そうした積極的な競馬をするために、前走のきさらぎ賞では前に行く競馬を試したのではないのか。

と、ここまで書いたが、これが中央競馬で圧倒的な1番人気を背負うことのプレッシャーなのだ。地方競馬では頂点を極めた、百戦錬磨の戸崎圭太騎手でさえ、金縛りに遭ったかのように、分かっていても身体が反応できなかったのである。勝とうとするから勝てない、安藤勝已騎手いわく、勝つためには勝つ気で乗らないことなのだ。そして、数々の圧倒的人気馬を勝たせてきた武豊騎手の凄さもよく分かる。戸崎騎手にとっては、悔やんでも悔やみ切れない敗戦だろうが、これを糧にしてさらなる高みを目指してもらいたい。

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力の違いをみせつけた


高松宮記念2015―観戦記―
香港馬エアロヴェロシティが好スタートを切り、逃げるかに見えたが、それを制してアンバルブライベンがハナに立った。ハクサンムーンがそれを追走し、前半600mが34秒ジャスト、後半が34秒5というラップが刻まれた。やや重の馬場を考慮すると、上りの時計は0.5秒多く掛かるとして、全体のペースとしてはおよそ平均的な流れ。スプリントG1としては、スローペースと考えてよく、後ろからレースを進めた馬たちにとっては厳しい競馬であった。結果的にも、前に行った馬たちのワンツーフィニッシュとなった。

勝ったエアロヴェロシティは、日本にはあまりいないタイプの短距離馬である。特に前進気勢に優れているわけではなく、他馬が来て馬体が併さると、抜かれまいとして伸びる。長距離馬にはよくあるタイプだが、手綱を放すとぶっ飛んでいくような短距離馬にしては珍しい。その分、ジョッキーにとっては、どの馬に併せるかを間違うと致命的であり、今回のレースにおいてミッキーアイルに相手を絞ったZ・パートン騎手の判断は正解であった。着差こそ僅かだが、通ったコースやエアロヴェロシティ自身、手脚が長く、大跳びのため、グリップが悪い馬場は合っていないにもかかわらずの勝利だけに、力の違いをみせつけたと言って良い。この2分の1馬身差はどこまで走っても縮まらないどころか、さらに広がっていくだろう。エアロヴェロシティはこれで17戦9勝とセン馬にしては珍しくキャリアがまだ浅く、昨年の香港スプリントと今年の高松宮記念を制し、いよいよこれから競走馬としてのピークを迎えるだろう。

ハクサンムーンは前走のオーシャンSを叩き、マイナス8kgの馬体重で完璧に仕上がって出走してきた。ロードカナロアと鎬を削った実力は健在であるが、ただ2年前と比べるとどうしてもスピードは落ちてきている分、今回、馬場がやや渋って力を要するようになったのがプラスに働いた。もちろん、思っていたよりもペースが落ち着いたことも、この馬にとっては良かった。レース前から逃げ馬が多いため確実にハイペースになると言われているときほど、逃げ馬が互いにけん制し合って、案外レースが落ち着いてしまうことが多い。酒井学騎手の積極性とコース取りの良さも光った。

ミッキーアイルは前走同様、抑える競馬を試みたが、結果には結びつかなかった。今回のレースを勝つことだけを考えれば、行かしてしまった方が良い着順が出たはず。最後の直線半ばで一瞬は抜け出したように見えたが、エアロヴェロシティに差し返され、ハクサンムーンを捕らえることすらできなかった。とはいえ、1200mでも折り合いを欠くほどだから、この馬のスピードと前向きな気性には感心する。ディープインパクト産駒にしては珍しいタイプであり、この馬のスピードの持続力を生かすには、現時点でのベストの距離はやはり1400mだろう。

1番人気のストレイトガールは少々控えすぎた嫌いはあるが、それにしても伸びなかった。馬体も完全には仕上がっていなかったし、もしかするとピークを過ぎてしまったかもしれない。遅咲きの牝馬ではあるが、あと少しのところで勝てないレースが続き、トップレベルのレースで3シーズンを走り続けてきた疲れが出てしまってもおかしくはない。カレンチャンのような馬は例外であり、短距離馬、特に牝馬のピークは意外に短いものだ。

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ダート競馬の流れが合わなかった。


ドバイワールドカップ他2015―観戦記―
ドバイワールドカップは芝とダートの両雄が出走したものの、世界のダート競馬の壁に跳ね返されてしまった。9頭立ての5着と9着だから惨敗と言ってよいだろう。見どころがあったのはホッコータルマエの方で、スタートしてからすぐさま先頭を主張し、後続の馬たちから終始プレッシャーを受けながらも、最後の直線半ばまで抵抗してみせた。たしかに併走する車を気にしていたようなところもあったが、これが半ば実力であろう。ホッコータルマエが弱いと言っているわけではなく、世界のダート競馬にはさらに上がいるということだ。

ホッコータルマエはその実績だけではなく、馬体や血統、走り方から気性に至るまで、これまで日本で走ったダート馬の中でもトップクラスの存在である。パワーに裏付けられた先行力があり、大きなフットワークでトップスピードを持続してもバテないスタミナと心臓の強さを備えている。そういう意味では、かつてのどのダートの鬼たちよりも、たとえばカネヒキリやヴァーミリアンらよりも、世界のダート競馬向きの馬である。にもかかわらず、勝ち負けには及ばず、見せ場しかつくらせてもらえなかったのだ。

道中におけるジョッキーの動きを観てもらえれば分かるが、スタートしてからゴールするまで、道中のほとんどで馬を追っ付けている。馬が息を入れられるのはほんの僅かな時間であり、特にラスト1000mからのペースアップには凄まじいものがある。つまり、道中の半分以上をトップスピードで走らなければならないのだ。これぐらいの厳しいペースを追走し、道中で内から外からぶつけられ、前を行く馬が蹴り上げる土を顔面に食らいながらも、さらにそこから伸びて抜け出してくる馬が世界にはいるのだ。勝った8歳セン馬のプリンスビショップはダッシュがつかずに苦労していたが、エンジンが掛かってトップスピードに乗ってからの持続力には目を見張るものがあった。2着に入ったカリフォルニアクロームも敗れはしたが、前々を攻めて、最後までよく伸びている。

エピファネイアはレースに参加させてもらえなかった。他馬の蹴り上げてくる土を気にしたとスミヨン騎手はコメントしているが、それはあくまでも表面上の理由であって、根本的な敗因はレースの流れの厳しさにある。かつてジェニュインという馬いて、有馬記念の敗因を中山競馬場のカラスを気にしたとされたが、それと同じである。たしかにそれはきっかけになったかもしれないが、根本的な敗因は違うところにある。そこを突き詰めて考えなければ、馬場(ダート)が合わなかったという結論で終わってしまい、毎年馬を変えて同じことが繰り返されるだろう。ダートが合わなかったのではなく、ダート競馬の流れが合わなかったのだ。この馬に関して言うと、自身は掛かり気味になるぐらいの流れの中、ガッチリと抑えて、脚を溜めて、最後に爆発させるレースが合っている。


ドバイシーマクラシックはペースが緩くなり、道中2番手の内で脚を溜めたドルニアが抜け出して勝利した。日本のワンアンドオンリーは3番手外につけ、最後までよく粘った。昨年秋シーズンは、日本ダービーを勝った疲れが抜けていなかったが、少しずつ回復の兆しが見られる。日本の超一流馬や世界のトップホースたちと比べるとまだまだだが、体調と走る気持ちさえ戻ってくれば、特に長距離のレースにおいては面白い存在である。ハープスターは全く力を出し切れていない。この馬は繊細なところがあり、周りに馬がいると力んで走ってしまうため、馬群から離して走らせなければ良い脚が使えない。にもかかわらず、R・ムーア騎手は馬群に入れてしまっていた。R・ムーア騎手は、おそらくハープスターのこれまでのレースをあまり良く見ていないのではないか。松田博資調教師は「馬なりで」ではなく、「馬群から離して」という明確な指示が必要であった。身も蓋もないことを言えば、レースに注文がつく(馬群に入れられない)馬は、レベルが高い競馬であればあるほど、勝つチャンスは少なくなるということだ。ここにジェンティルドンナとハープスターの決定的な違いがある。


UAEダービーはゴールデンバローズが3着、タップザットが5着と健闘した。勝ったムブタヒージの突き抜けるときの脚は尋常ではなく、同じ3歳馬とは思えない強さであった。それでもゴールデンバローズは見せ場以上のものをつくっており、ドバイ遠征の疲れが癒えた暁には、今回の経験を生かして日本でも活躍してくれるだろう。もちろん、他の2頭にも同じことは当てはまり、違った環境の中で厳しいレースをした身体的な記憶こそが、馬の直接的な成長につながるのだ。しかも3歳という若い時期に、そうした経験をしたことの価値は高い。

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盤石の押し切り勝ち


フェブラリーS2015―観戦記―
逃げ馬コーンベリーが出遅れ、大外枠からアドマイヤロイヤルが敢然と先頭に立ち、その直後にコパノリッキーらが続き、前半マイルが46秒9、後半が49秒4というフェブラリーSらしいペースを刻んだ。前半の時計は速いが、5ハロン目に13秒台のラップが入ってガクンとペースダウンしたことで、先行馬はここで息を入れられた。上位を占めた馬たちは馬群の外をスムーズに先行した馬たちであり、決して差し馬が伸びていないわけではなく、G1レベルのダート戦では前も止まらないのである。内枠からのスタートで前に行けなかった馬や、脚質的に後方から行った馬たちにとっては厳しいレースであった。

フェブラリーSを連覇したコパノリッキーは、内枠からのスタートであったが、道中で外に出し、自らの型に持ち込んで力を発揮した。体型的にもスタミナは十分であり、こういった持久力勝負になっても強いところを見せつけた。ホッコータルマエさえいなければ、さすがに今の日本のダート界ではこの馬の総合力が一枚上であった。武豊騎手も実に上手くコパノリッキーを導いた。アドマイヤロイヤルに終始外からフタをされる形になれば苦しかったが、先に行き切ってくれたおかげで、外に出すスペースができた。また、番手の外でスムーズに競馬ができたのも、前走の東海Sで本番を見据えて乗っていたからである。全てが見事に噛み合った、盤石の押し切り勝ちであった。

インカンテーションの好走の理由は、先行できたことに尽きる。スタートが決まり、外枠発走だったことも味方して、狙っていたポジションにつけることができた。最後の直線に向いて、さすがにいつもほどの末脚の破壊力はなかったが、ゴールまで踏ん張って2着を死守してみせた。この馬自身、5歳を迎えて素晴らしい馬体に成長してきたし、大野拓弥騎手からバトンを受けた内田博幸騎手もダイナミックなアクションで馬を叱咤激励し、最後まで持たせた。勝ち切るためには、もうひとつ上のレベルのスピードが必要だが、今年はこのコンビが地方交流競走を含めて大いに活躍するはず。

ベストウォーリアは、道中でやや行きたがる面を見せつつも、持てる力の全てを出し切っての3着。第4コーナーでシルクフォーチュンに外から捲られたことは誤算であったが、ほとんど思い描いていた通りの走りであった。ややスタミナが足りないため、最後は息切れしてしまった。この馬にとって、府中のマイル戦で行われるG1レースは距離が少し長かったということだ。最も力を発揮できるのは、1200~1400mの距離であろう。

ローマンレジェンドは内から伸びたが惜しい4着であった。好位の外にポジショニングできれば、もう少し違った結果が出たかもしれない。岩田康誠騎手は枠なりに腹を括った騎乗に徹し、考えうる限りの最高のレースをした。ワイドバッハも勝負所で前が塞がる不利はあったが、最後まで良く伸びている。ここに来てパワーアップしているのは確かで、確実に末脚を使えるようになっている。この2頭に関しては、7歳馬と6歳馬ということもあり、上位3頭に比べるとスピードの絶対値という面で分が悪かった。そういう意味では、来年以降もスピードに優る4歳、5歳馬を狙っていくべきレースであることは覚えておきたい。

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集中連載:血統について語るとき、私の語ること(最終回)

Kettounituite27

私がスペシャルウィークこそ最強だと考えるのは、その血を確実に残しているからである。他の2頭と比べると、種牡馬として、仔から孫まで血脈を伸ばしつつある。サンデーサイレンス系だからということではなく(むしろサンデーサイレンス系だからこそ配合が難しい場合もある)、種牡馬として、自身の資質の高さを証明しているということだ。もちろん、繁殖牝馬の質に大きく左右される面もあるが、それでも本当に有能な種牡馬は何らかの形で頭角を現すものだ。たった数戦のレースで走っただけでは分からない、サラブレッドとしての本当の強さは、血を残すことによって証明されてゆくのである。

数々の名馬を育てた橋田満調教師の言葉が忘れられない。橋田調教師の父・橋田俊三氏が書いた競馬小説「走れドトウ」を「ROUNDERS」創刊号とvol.2に掲載したく、依頼のために幾度もお宅に伺った際、いろいろな話をしてくださった。伝統的な調教師から直接、聞かせてもらえる競馬論や血統論は刺激的で、砂漠の砂が水を吸収するように、私はそのひと言ひと言を胸の内に刻んだ。その中で最も私の記憶に鮮明に残っている言葉は、「競馬のレースは、サラブレッドの選抜競走である」というものだ。

つまり、優秀なサラブレッドの血を選抜するために、競馬のレースは行われるということである。競馬のレースに勝てる馬をつくるために、優秀な血を残し、繁栄させていくのではなく、その逆である。私たちが目の前で見ているレースは、競馬全体の世界から見るとごく一部に過ぎず、その背景には過去から綿々とつながってきた血の歴史があり、先には果てしない未来が広がっている。レースの勝ち負けと血を残すことのどちらが主でどちらが従かというと、圧倒的に後者が主なのである。もう少し見方を変えると、競馬のレースは血を残すという偉業の前哨戦にすぎないのだ。

だからこそ、競馬のレースで圧倒的に強い(強かった)だけでなく、その血を後世まで残して初めて最強馬であったと私は考える。そういった意味においては、キングカメハメハやディープインパクト、ハーツクライらは本当の意味で強かった。シンザンやシンボリルドルフといったあまりに世代が違いすぎる名馬たちとの比較は難しいが、ここ最近の間に日本の競馬の血統レベルが格段に上がり、世界で活躍するようになってからの名馬の中でも、血を残している馬たちこそが最強である。もちろん、まだこれから先の見えない未来の話ではあるが、オルフェ―ヴルもその血を確実に伝えていくことで、自らの最強説を証明していくだろう。

ここまで血統について語ってきたが、語れば語るほど話は尽きず、私の血統に対する空想は広がっていく。知れば知るほど、さらに分からないことが増えていくように、血統の話には出口が見つからない。血統は迷宮なのである。これこそが最も恐れていたことであり、だから私は、競馬を始めてから20年以上にわたって、血統の世界に深入りすることを避けてきた。それでも結局、競馬とはサラブレッドの血の世界のことであり、競馬に携わっている以上、血統の迷宮に足を踏み入れているのであって、私たちは決してそこから逃れられないのだ。(了)

Photo by 三浦晃一

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文句なしの最強牝馬

Arima2014
有馬記念2014-観戦記-
どの馬よりもダッシュ良く飛び出したジェンティルドンナをヴィルシーナが内から交わし、まるで歩いているような単騎逃げを打った。前半1000mは63秒0、中盤に1ハロン13秒台のラップが3度も刻まれるという超スローペース。さすがにこれだけ遅いと、少しでも後ろから行った馬や外を回らされてしまった馬たちにとってチャンスはない。今年は中山競馬場の馬場も傷んでおらず、従来のパワーやスタミナが問われる有馬記念ではなく、今年はポジション取りと瞬発力が生きる有馬記念となった。

勝ったジェンティルドンナは、思いつく限りの幸運を引き寄せる形で引退レースを飾った。9月の中山開催が今年は行われなかったことで軽い芝を維持しており、公開枠順抽選会では絶好の4番枠を選ぶことができ、さらにレースは超スローペースに流れ、外枠に入った有力馬たちの末脚が封じ込まれたのみならず、自身は絶好のポジションを確保することができ、武器である瞬発力が最大限に生きた。とはいえ、本当に強い馬とはそういうものなのだろう。実力があるからこそ、運さえも引き寄せる。ジェンティルドンナをここまで育て上げた全ての関係者の方々には心から敬意を表したい。

ジェンティルドンナの強さを表現するのは難しく、私はずっと「並んだときにスッと前に出る一瞬の速い脚の凄さ」と書いてきた。サラブレッドは時速60㎞くらいで走るが、同じトップスピードで競って走っている時、ほんの一瞬で頭だけ前に出るというのは大変なことなのである。ゴール前の直線で、仮に時速60㎞で2頭が競り合っているとすると、単純に考えると、相手が時速60㎞なら、時速61㎞出せば頭くらいは前に出られそうだが、そうはいかない。時速1㎞の差で頭だけ前に出るには、20m近く走らなければならない。一気に抜き去るのではなく、ジェンティルドンナのように馬体が並んでそこからスッと前に出るには、相手を遥かに超えていくスピードを出さなければならないのだ。世界の競馬を見渡しても、これだけのトップスピードを持った馬はおらず、父ディープインパクトの血が凝縮され、ジェンティルドンナの牡馬顔負けの屈強な肉体が支えている。

2着に入ったトゥザワールドは、ダービー以降は距離の長さゆえに力を出せずにいたが、スタミナを要求されないレースになって穴を開けた。基礎能力の高い馬であることは確かだが、春シーズンの疲れが取れて体調が上がってきたところに、内枠で絶好のポジションを走れたことが重なって120%の力を発揮できたということだ。日本の競馬に慣れてきたW・ビュイック騎手も最高に上手く乗っている。

ゴールドシップは、凱旋門賞の疲れを取り、なんとか間に合った形で出走してきたが、このスローペースではさすがに捲り切れなかった。それでも、岩田康誠騎手を含め、できるだけ前にポジションしよう、道中は勝ちに行こうという姿勢が見られて、負けて納得の3着であった。欲を言えば、この馬にとっては、もう少し時計の掛かる、力を要するいつもの暮れの中山競馬場であった方が良かった。父ステイゴールドは晩年でも闘争心を失わなかった馬であり、この馬にもそういった傾向が見られるので、ぜひ来年もまた古馬戦線を盛り上げていってもらいたい。

ジャスタウェイは最後、大外を回りながら良く伸びているが、ここまでが限界であろう。それはこの馬の限界ということではなく、小回りコースと超スローペースと今の中山の馬場において差してくる限界ということだ。それが分かっていながら、後ろから行った福永祐一騎手の罪は重い。外枠発走を考えると、勝ちに行くのであれば、多少強引にでも先行するべきであった。極端に引っ掛かる馬ではないし、昔のジャスタウェイとは違って、前に行ってそこからさらに伸びるほどに肉体が成長を遂げているのだから。それにしても、枠順しかり展開しかり、須貝厩舎の2頭は凱旋門賞以来勝ち運にも恵まれず、因果応報と言おうか、何とも不甲斐ないレースとなってしまった。

ジャパンカップを圧勝し、その勢いを持って臨んできたエピファネイアは、このスローペースにそれほど掛かる素振りを見せることもなく、どちらかというと折り合っているように見えたが、ラストは弾けなかった。道中の走りや騎手とのコンタクトを見ると、折り合っているというよりは、馬の身体が伸び切ってしまっていて脚がたまっていない状態で走っていることが分かる。それに伴い、馬の気持ちも抜けて、前進気勢が削がれてしまったまま。エピファネイアという馬の乗り難しさを象徴しているようなレースであった。

Arima201401

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ひと捲り


朝日杯フューチュリティS2014―観戦記―
武豊騎手に導かれて先頭に立ったアクティブミノルが、前半マイルが47秒3、後半が48秒6というハイペースをつくり出した。道中は馬群が密になって進んだため、それほど速いペースには映らなかったが、レース全体としては淀みなく流れ、前崩れの展開となった。今年から阪神競馬場で行われるようになったことも含め、これぐらいの厳しい競馬になった以上、来年のクラシック戦線へとつながってゆくことは間違いない。スピードとスタミナ、そして底力が問われるレースであった。

勝ったダノンプラチナは、ほぼ最後方からひと捲りで他馬をねじ伏せた。道中はゴチャつく場面も見られたが、早々に先行集団を捉えての完勝。先週に続きディープインパクト産駒の2歳G1連勝となった。ショウナンアデラが究極の切れ味であったのに対し、ダノンプラチナはかなり長く良い脚を使っている。どちらにしても、ディープインパクト産駒のトップギアに入ったときの桁違いの速さを示した形となった。関東からの長距離輸送を経てこの勝ち方だけに、来年のクラシックの主役となる(少なくともダービーまでは)ことは確かである。

蛯名正義騎手も先週に続いてのG1レース連勝となった。さすが百戦錬磨のベテランだけに、思い切りが良く、勢いに乗ると止められない感がある。今回も、内の馬場が悪く、ペースが速くなることを見越してか、スタートしてからすぐに外に出そうとしていたし、3分3厘から動き始めたのもダノンプラチナの脚の長さを掌握していたからだろう。馬が強かったのは確かだが、その馬の力を最大限に引き出せるように、随所において正しい選択をしている。馬を動かす技術だけではなく、豊富な経験から来る瞬時の判断が実に見事である。

14番人気のアルマワイオリが2着に突っ込んで穴を開けた。道中は内で折り合いに苦労していたが、最後まで仕掛けを我慢させたことで、この馬の末脚が生きた。祖母に阪神3歳牝馬S(現阪神ジュベナイルF)を末脚一閃で勝ったスエヒロジョウオーがいる早熟な血統であり、末脚の鋭さが受け継がれた。勝浦正樹騎手も落馬負傷を克服して、久しぶりに穴ジョッキーとしての本領を発揮してくれた。

クラリティスカイはレースの流れに乗り、正攻法で立ち回ったが、そのまま押し切るだけの力はなかった。前走レコード勝ちした反動が少なからずあったか。レースに行っての器用さはこれからも武器になるはずで、母父にスペシャルウィークが入っているだけに、距離はもう少し延びても問題ないだろう。ただ、大きなところを勝つにはもうワンパンチほしい。横山典弘騎手からバトンを受けた岩田康誠騎手も、考えうるかぎり最高の騎乗をしていた。

好枠を生かし、出して行きたかったはずのネオルミエールは、スタートで立ち遅れたことで、内枠がかえって仇となった。道中では内を突いたが前が詰まり通しで、直線でもコース取りもスムーズではなく、あまりにもお粗末な騎乗であった。ロックドゥカンブの菊花賞のときもそうであったが、柴山雄一騎手はここぞという大一番で勝負弱い。ブライトエンブレムは休み明けで、途中から動いていった分、最後は力尽きた。馬格のないアッシュゴールドにとっては、力を要する馬場で切れ味が削がれた形となった。以上の3頭は、必ずしも勝負づけが終わったわけではなく、今後のローテーションや成長力次第ではクラシックでの活躍が期待できる。

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軽く飛んだ


阪神ジュベナイルF2014-観戦記-
酒井学騎手に乗り替わったスマートプラネットが押し出されるように先頭に立ち、前後半が全く同じ47秒2というフラットなペースをつくり出した。掛かり気味になっている馬の姿が多く見られ、見た目はスローに映ったが、道中は淀みなく流れていたということ。前に行った馬にとっても、後ろから脚を伸ばした馬にとっても、大きな有利不利のない、実力が素直に反映される展開であり舞台でもあった。

勝ったショウナンアデラは驚くほどの脚を見せて、全馬まとめて差し切った。やや行き脚がつかなかったことで、後方からの競馬に徹したが、特に直線に向いて、馬群の外に出してからの伸び脚は強烈で、他馬が止まって見えるとはこのこと。ディープインパクト産駒特有のというよりは、超G1級の馬の切れ味であった。蛯名正義騎手が「軽く飛んだ」とコメントした、2006年朝日杯フューチュリティSを勝ったときのドリームジャーニーの末脚を彷彿とさせる。他馬とは次元が違う強さであり、来年のクラシックの主役となるのは間違いない。

レッツゴードンキは道中行きたがる素振りを見せていたが許容範囲内。折り合わせるために前に壁をつくろうとする気持ちは分かるが、それによってどうしても馬群の窮屈なところに入ってしまうことになる。レッツゴードンキが精神的な強さを備えているとはいえ、さすがにこの時期の牝馬にとって、馬群の中で揉まれ込んでしまうことによる消耗は激しい。それでも最後は確実に脚を使っており、完成度という点においては他馬を一歩リードしていたが、今回は相手が悪かった。

ココロノアイは内ラチ沿いで我慢して、ラストも内を伸びた。前走のように、行きたがったときに行かせてしまうと、次走以降で抑えが利かなくなることが多いが、さすが横山典弘騎手だけあって、上手く制御してみせた。父ステイゴールド、母父デインヒルは天皇賞馬フェノーメノと同じ血統構成であり、また祖母にはマックスジョリーがいる超良血馬。誰がどう考えてもスタミナの裏付けはある以上、馬体重を増やしつつ、折り合うことを教えていければ、来年に向けて楽しみが広がる馬である。

1番人気のロカは、ゲートから大きく立ち遅れてしまい、そのロスを最後まで覆すことができなかった。パドックではそれほど入れ込んでいなかったので、ゲートのタイミングによる偶然かもしれないし、もしくはキャリアの浅さゆえと言えなくもないが、あまりにももったいなかった。過剰人気していたきらいはあり、素質は確かなのだから、もう1度立て直して、来年に向けて備えてもらいたい。それにしても、ハービンジャー産駒がなかなか2勝目を挙げられないのは不思議である。

コートシャルマンは結果的には前に出して行きすぎた。この馬はゆっくり行って、最後に脚を伸ばす形が合っている。せっかく外枠を引いたのだから、思い切って遅らせ気味に外を走らせてみた方が良かった。川田将雅騎手の今回の騎乗は、積極策というよりは安全策に映った。W・ビュイック騎手が跨ったダノングラシアスは理想的なレース運びであったが、最後の直線では伸びず。このメンバーに入ってしまうと、まだ馬体に緩いところが多く、パワーという点で引けを取ってしまった。この馬が良くなるのはもう少し先だろう。

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先行力としぶとさ、そして経験


チャンピオンズC2014-観戦記―
行く馬がいないと見てR・ムーア騎手がクリノスターオーを先頭に導き、それにホッコータルマエが蓋をする形で、前半4ハロンが50秒4、後半の4ハロンが48秒7という超がつくスローペースとなった。さすがにここまで遅く流れると、後方から進めた馬や馬群の外々を回らされてしまった馬たちにとってはノーチャンス。ゴール前は、レースの流れに器用に乗れた馬と内々で脚を溜められた馬同士の争いとなった。

勝ったホッコータルマエは、持ち前の先行力としぶとさを最大限に生かした。スタートを決めると、あとは番手でピタリと折り合い、第4コーナーからローマンレジェンドに競りかけられ、ゴール前ではナムラビクターの追撃に遭ったが、全てを振り切ってみせた。前走(JBC)をひと叩きされ、本来のホッコータルマエへと蘇った。いかにもキングカメハメハ産駒らしく、馬体全体に伸びがあって、大きなストライドで走る馬であり、芝でも走れるがダートが合っている。ドバイに渡り、海外の強い馬たちと走った経験がこの馬をさらに強くした。

幸英明騎手は久しぶりの中央G1レース勝利となった。騎乗回数は群を抜いて多いが、最近は重賞勝ちにあまり結びついていなかっただけに、本人にとっても嬉しい勝利であろう。甘いマスクに似合わず、肉体的に頑強なジョッキーだけに、ダート競馬で馬を力強く走らせることに長けている。今回はさすがに直線焦ったのだろう、幸騎手らしい豪快なフォームで馬を追えていなかったが、ダートでバテた馬を最後までもたせる術を心得ている。勝っても驕(おご)ることなく、常に礼儀正しさを失わない姿勢は、馬主から騎乗を依頼される騎手という職業のお手本になるはず。

ナムラビクターは内々で脚をためて、最後の長い直線で爆発させた。スタート前はゲート入りを拒んでみたりと気難しい面があるが、ダートではそれ砂を被ってもひるまない闘争心につながっているのだろう。小牧太騎手も絶好のポジションで、絶妙なタイミングの仕掛けでゴールを目指したが、今回は相手が止まらなかった。

ローマンレジェンドは、馬体を併せると燃える気性を岩田康誠騎手が熟知し、早目からホッコータルマエに目標を絞って一騎打ちに持ち込んだが、最後は肉体的にバテて3着に敗れてしまった。最近のこの馬にとっては、レース間隔を開けた方が、気性的にはフレッシュされて良いが、肉体的にきっちり仕上がらず、そのあたりが難しい。

4着ながらも大健闘といえるのは牝馬のサンビスタである。後ろからの競馬になってしまったが、道中は馬群のポケットに入る形でスムーズに走ることができ、最後は力強く前の3頭に迫った。JBCレディースクラシックを勝ったときもそうだったが、ここに来てさらに強くなってきている。良い調教がここまで馬を強くするという典型的な例だろう。

1番人気のコパノリッキーは、スタートダッシュが悪く、二の脚もつかなかったことで、道中は馬群の外を回らされる最悪の展開となってしまった。これだけのスローで、あんなにも外を回されては惨敗も仕方ない。前走のJBCであまりにも楽に勝ちすぎて、馬も陣営も気持ちが抜けてしまっていたように感じた。地力をつけていることは確かだが、そういう意味では、まだムラがある馬ということなのだろう。

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充実の5歳秋

Japancup201401
ジャパンカップ2014-観戦記-
ジャパンカップの発走時刻にはなんとか間に合った。すでに群集の背中から青い空しか見えないほどの盛り上がり。久しぶりに東京競馬場のホースプレビューに陣取り、実況を耳で聞きながらレースを想像し、私の本命馬であるエピファネイアとC・スミヨン騎手が、1着馬の入るべき枠内に戻ってくることを期待して待つことにした。ファンファーレが鳴り響き、10万人の競馬ファンはもちろん、JRAの職員からテレビ局のカメラマンらの報道陣、そしてジョッキーの身の周りの世話をするバレットたちまで、全員が固唾を飲んで1つのレースの行方に集中する様子は神々しく思えた。

逃げたサトノシュレンをタマモベストプレイが追いかける形で道中は進み、前半1200mが71秒8、後半1200mが71秒3という、淀みのないフラットなペースが刻まれた。極端なペースではないため、前後のポジションによる影響は少ないが、内ラチ沿いを走った馬たちが上位を独占したように、内外のポジションの差が着順を大きく左右した。さらに言うと、内外のコース取りは枠順がほぼ規定してしまう以上、内枠を引いた馬たちにとっては有利な、逆に外枠を引いた馬たちにとっては厳しいレースとなった。

本来であればジェンティルドンナが走るはずのポジションを確保できたことで、エピファネイアはスタートからゴールまで実にスムーズに回ってくることができた。前走はやや余裕残しの仕上がりで道中力みどおしであったが、今回は引っ掛かる素振りを見せたのはほんの一瞬。前進気勢は漲っていても、抑えきれないほどではなかった。ダービーで躓いても2着した世代のトップホースが、菊花賞の疲れも癒え、昔で言うところの充実の5歳秋を迎えてようやく本格化した。母シーザリオ譲りの伸びのある馬体に成長してスタミナは豊富で、父シンボリクリスエスからはパワーを受け継いでいる。普通に走れば、この馬が止まる姿を想像することができない。次走の有馬記念でもおそらく勢いは止まらない。

C・スミヨン騎手は、エピファネイアに跨り、手綱をがっちりと抑えながら、馬場を1周回ってきただけのように見える。本人にとってみれば実際にそうかもしれないが、決して簡単なレースではなかった。勝負所はスタートしてから第1コーナーまでの間。エピファネイアのような前の馬に乗り掛かるほどに引っ掛かる馬をして、あそこまで積極的に馬を出していけたのは、どれだけ行きたがっても御することができるという自信があるからだ。それは肉体的な腕力ではなく、これまで実戦や調教で幾多のサラブレッドを御してきた経験に裏打ちされた確固たる技術があるのだ。故野平祐二先生も言っていたように、日本人騎手と海外のトップジョッキーの最たる違いは、馬を御して、脚を溜める技術である。

海外遠征帰りのジャスタウェイは、フレッシュな馬体に回復しており、凱旋門賞時よりも体調は上向いていた。勝ち馬に離されたのは久々の分で、この馬としては最後まで伸びて、力を出し切った。血統的にも馬体の造りから考えても、2400mの距離自体は全く問題ない。有馬記念に出走してくるとすれば、ひと叩きされて完調で臨めるはずで、エピファネイアに迫る最有力候補になる。福永祐一騎手は自らのお手馬に敗れてしまったが、騎手をしていればそういうこともある。

スピルバーグは非常に強い競馬をして、天皇賞秋がフロックではなかったことを証明した。内ラチ沿いを走らず、後ろから行って掲示板に載ったのはこの馬1頭のみ。その末脚の鋭さと息の長さは、並み居るG1ホースたちの中でも随一である。その分、不器用な面があり、レースの綾や紛れの影響を受けてしまうのは否めないが、来年に向けて楽しみな個性的な馬がまた1頭誕生した。

3連覇がかかっていたジェンティルドンナは、直線で伸びを欠いて4着に敗れた。勝ち馬よりも内の枠を引いていただけに、主張すれば内の2番手が取れたはずだが、珍しく今回はR・ムーア騎手が消極的な騎乗をしてしまった。それだけ昨年と比べるとジェンティルドンナから伝わってくるものが少なく、自信がなかったのかもしれない。さすがのジェンティルドンナも、3年にわたって国内最高峰のレースのひとつであるジャパンカップを勝利することは難しい。

3歳牝馬ハープスターは、最後の直線で外からこの馬らしい末脚を発揮したが届かず5着。冬毛が目立っていたように、決して体調は万全ではなかったし、勝負所で下がってきたトレーディングレザーを交わす際に、リズムを崩してしまったことも悔やまれる。それでも馬群の中でレースができたように、色々と試しながらも成長していて、将来へ向けて明るい材料は多い。

イスラボニータはスムーズなレースができていなかった。惜しむらくは、スタートから第1コーナーまでの間に内に入れるチャンスがあったにもかかわらず、蛯名正義騎手は抑えることに専念してしまった点である。差す競馬をして、仕掛けるポイントをできるだけ遅らせようという意図は見て取れるが、あそこで内に入れつつでも良かったのではないか。天皇賞秋でフェノーメノに乗って負けたときと同じ失敗であり、そのフェノーメノに乗り替わった岩田康誠騎手が今回、隙あらばフェノーメノを内に導こうとしていたのに比べると、たとえ2300勝しているベテランジョッキーでもまだまだ未熟であると言わざるをえない。

Japancup201402

Photo by 三浦晃一

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そろそろ負けを認めたほうがいい。


マイルCS2014-観戦記-
内枠を利してホウライアキコが先頭に立ち、外からミッキーアイルが追いかける形でレースは進んだ。ほとんどの馬が掛かり気味で追走し、馬群が固まって流れていたため、それほど速くは映らなかったが、前半マイルが45秒3、後半マイルが46秒2と、昨年とは打って変わってほぼハイペース。外回りコースの長い直線を含め、差し脚のあるマイラーにとっては、うってつけのレースとなった。

勝ったダノンシャークは差しに徹した作戦が吉と出た。スタートが良く、スピードがある馬だけに、どうしても気分良く走りすぎて、ゴール前で力尽きるというレースが続いていたが、今回はジョッキーも変わったことで、一か八か、道中は抑え込んで脚をためたことで、最後まで伸び切ることができた。馬体が小さく、パンチ力不足に悩まされてきたが、直線が平坦なコースそしてジョッキーの腕といったあらゆる要素が見事に絡み合った。これまで不思議と大舞台でアクシデントに巻き込まれ、大きく不利を受けてきただけに、今度こそようやく悲願のG1タイトルを手に入れた。

たしかにダノンシャークが勝ったのだが、それ以上に、岩田康誠騎手が勝たせたという印象が強い。ただ単に差しに回ったから勝てたのではなく、スタートしてから常に1頭分でも内を狙う姿勢を見せていたし、最終コーナーにかけて他馬が上がって行ったときも、岩田康誠騎手だけはまだ動くなという合図を送っていた。他馬をやり過ごしたあと、ひと呼吸置いて仕掛け、直線では内を突くことも狙っていたはず。そうしないと勝てないことを知っていたからであり、そしてその通りに乗って勝たせてしまったのだから凄い。岩田康誠騎手がハナ差の勝負に強いのは、騎手としての技術と経験の絶対値が違うからである。彼のことを、不格好だとか、馬の背中を傷めるとか、危険だとか、手綱が緩んでいるとか批判する人は、そろそろ己の負けを認めたほうがいい。

フィエロは好スタートからスムーズに流れに乗って、ゴールまでしっかりと伸び切った。差して届かないレースが多かったが、今回は横綱相撲をして勝ちに行った結果の2着と、決して悲観する内容ではない。馬体は大きくとも、この馬も全身に力が付き切っていない現状があり、もっと馬体がパンとしてくれば、パンチ力が増し、大きなレースでも勝ち切れるようになるだろう。福永祐一騎手はソツなく乗ったが、最後の最後はジョッキーの技量の差が出てしまった。相手にあって自分にないものは何か、そこを埋めるのは難しいが、今回の敗北を機に謙虚に見つめてみてほしい。ヒントはゴール板前の写真にある。

グランデッツァは力のあるところを見せ付けた。ディープインパクト産駒2頭の切れ味に屈してしまったが、それでも速いペースを追走し、最後まで粘り強く走り通した。ワールドエースやロゴタイプといった強い現5歳世代の馬たちが復調に苦しむ中、ほぼ完全復活の兆しを見せてくれた。昨年の覇者であるトーセンラーにとって、レースの流れは向いたが、末脚に昨年のような破壊力はなかった。力にやや陰りが見えてきている。1番人気に推された3歳馬ミッキーアイルは、これまでペースに恵まれてきたが、G1の今回はさすがに楽には走らせてもらえず惨敗。まだ幼いところを残しており、走る資質は極めて高いものがあるだけに、馬体が成長すれば来年以降が楽しみである。

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黄金配合のひとつとして


エリザベス女王杯2014-観戦記-
先手を奪いたいヴィルシーナを制してサンシャインが逃げ、前半の1000mが60秒3、後半が59秒2というスローペースで道中は流れた。特にラスト3ハロンは全て11秒台であり、究極の瞬発力勝負となった。できるだけ先行しつつ、馬群の内で脚を溜められた馬たちにとって有利なレース、逆に後ろから行った馬や馬群の外々を回された馬たちにとっては苦しいレースであった。1~4着までは内ラチ沿いを進んだ馬たちであり、枠順が大きく着順を左右したともいえる。

勝ったラキシスは終始、先団の内々を走り、ディープインパクト産駒らしい、極限の鋭い脚を使い、ゴール前でヌ―ヴォレコルトを競り落とした。休み明けを叩かれて体調は上向き、それに加えて長距離輸送がないことで、馬体は鍛えられながらもふっくらと維持されていた。ディープインパクト×母父ストームキャットという血統構成の一流馬が目立つのは、ただ単純にストームキャットがついている母系は一流であるからということに加え、ディープインパクトのアメリカ血統との相性の良さがある。なぜ相性が良いかというと、ヨーロッパの母系だと重厚になりすぎるからであり、もうひとつは馬体が大きく出やすいからである。種牡馬としてのディープインパクトの弱点である体の小ささを補って、450kg以上で走る産駒を出してくれるのである。現にラキシスは輸送を含めて450kgを切らんとしているときには、持ち前のパワーを生かせていない。

3歳馬のヌ―ヴォレコルトは、秋華賞とは違って、スタートからゴールまで完璧なレース運びであったが、あと一歩前に出ることができなかった。それを古馬の壁と言うこともできるし、ハーツクライとディープインパクト産駒の一瞬の切れ味の違いと解釈することもできる。が、それ以上に、オークスを勝ったことによる疲労が、府中の2400mを走り切ったことによる反動が、少なからずあると私は考える。ヌ―ヴォレコルトは堅実に走る馬だけに疲れが目に見えにくいが、最後のひと踏ん張りが利かないのはそこに理由がある。今年は無理をせず、ゆっくりと休ませて、成長を促せば、来年はハープスターと互角に渡り合える馬になるだろう。

ディアデラマドレはもっとも惜しい競馬、そして強い競馬をしたと言っても過言ではない。外枠からの発走であり、脚質的にも後方の外を回らされる形となってしまった。最後の長い直線を生かして、鋭い末脚で追い込んできたが、道中のポジションが響いて3着に敗れた。内ラチ沿いを走ることができていれば、勝ち負けまであったはず。藤岡康太騎手にとっては非常に悔しく、もどかしい3着であったに違いない。同厩舎のキャトルフィーユは5着と、角居厩舎の管理馬が3頭出しで1、3、5着と上位を占めた。今年はリーディングトレーナー(最多勝利調教師)には手が届きそうにないが、それでも大レースでの勝負強さは群を抜いている。

秋華賞馬であるショウナンパンドラは、前走ほどの行きっぷりがなく、ポジション取りに苦労していた。秋華賞で激走した目に見えない疲れがあったのかもしれない。馬体は増えてパワーアップしていたように、夏を越しての成長が著しい。来年が楽しみな1頭である。昨年の覇者メイショウマンボは積極的に好位を取りに行ったが、全く伸びることなく惨敗を喫してしまった。昨年、オークスを勝ち、秋のG1レースを2勝した疲れが尾を引いているのだろう。馬体は回復しても、気持ちが戻ってこなければ、牝馬は特に走らない。

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名門復活の兆し

Tennosyoaki2014 by 三浦晃一
天皇賞秋2014-観戦記-
カレンブラックヒルが悠々とハナを切り、前半60秒7、後半が59秒0という極端なスローペースに落ち着いた。先行馬たちが外枠から切れ込むようにして第1コーナーに進入したことで、馬群が密集して窮屈な格好になり、ほしい位置を取れなかった馬たちもいた。改修前の魔の府中2000mと呼ばれた頃に似た序盤であり、そこを上手く乗り切れたかどうかが着順を大きく左右した。基本的には前、そして馬群の内にポジションできた馬にとっては有利なレースであった。

勝ったスピルバーグは、メンバー中随一ラスト3ハロン33秒台の、桁違いの末脚を繰り出した。脚質的に前につけることができず、前半は馬群の内に入れて脚をため、最後の直線に全てを賭けた。前走は完全に脚を余して負けただけに、今回はスピルバーグの能力を十全に発揮することができ、関係者の鬱憤も晴れたことだろう。決して楽な競馬ではなく、直線の坂を駆け上がって、勝敗が決したと思われたところから差し切った脚は、いかにもディープインパクト産駒しい見事なものであった。こういう極端な競馬をすると肉体的に負荷が掛かり、次走では凡走することが多々あるので、ジャパンカップに関しては半信半疑というところ。

これだけの脚を使ったスピルバーグも凄いが、天皇賞秋に照準を絞ってキッチリと仕上げ切った陣営も素晴らしい。藤沢和雄調教師にとっては久しぶりのG1制覇となった。今年は厩舎も絶好調であり、いよいよ名門復活の兆しが見えた。北村宏司騎手もダンスインザムードのヴィクトリアマイル以来、8年ぶりにG1レースを勝ったことになる。肉体の強靭さと馬を折り合わせる技術は折り紙つきなだけに、岡部幸雄元騎手が去った後の藤沢和雄厩舎の主戦として、数々の名馬に跨ってきた経験が合わさって、熟成されつつある。

ジェンティルドンナは最後の最後でイスラボニータを競り落とした。ドバイ遠征を経て宝塚記念からのぶっつけで完璧な状態ではなかったが、並んでからスッと前に出る瞬間的な脚と勝負強さは健在である。スタートから絶好のポジションを取ってレースを進めていた戸崎圭太騎手もさすが。休み明けのジェンティルドンナにできるだけ負担を掛けずに、勝たせることに専念していた。勝ち馬の強烈な末脚に屈してしまったが、ひと叩きされた次走のジャパンカップにおける史上初の3連覇の偉業も夢物語ではない。

3歳馬のイスラボニータはスピードを生かして積極的な競馬を試みたが、ゴール前で力尽きてしまった。ペースと枠順を考えると、スタートしてからのポジショニングは申し分なく、ゴチャつく内の馬たちを横目にむしろスムーズなレース運びができたと言って良い。スピードがあり余っているために、手応え抜群の持ったままで最後の直線に向き、ルメール騎手も追い出しを待ってから仕掛けたが、それでもゴールまでは持たなかったのは、現時点での完成度の違いということだ。これはロードカナロアが2012年の高松宮記念で3着に敗れたときにも感じたことで、つまりそれだけの素質をイスラボニータにも感じるし、遅生まれだけに焦ることはない。来年は凄い馬になっているはずだ。

天皇賞春を2連覇して臨んできたフェノーメノは、見せ場なく惨敗を喫してしまった。スタートから第1コーナーまでの間にポジションが取れず、スローペースの外を回すことになり、この馬の良さをひとつも発揮できなかったように、蛯名正義騎手としては最悪とも思える騎乗であった。もちろん、中間の乗り込みは豊富で外見上も素晴らしかったが、馬の中身ができていなかったことが最大の敗因であろう。それほど天皇賞春を勝つことは負担が大きいということでもある。とはいえ、馬体は完成期を迎えているので、きっかけひとつでジャパンカップや有馬記念ではチャンスはある。

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ステイヤーのための菊花賞


菊花賞2014-観戦記-
サングラスが先頭に立ち、シャンパーニュがそれに続く形ですんなりと隊列が決まり、前半1000mが60秒9、中盤が61秒3、そして後半が58秒8という、実に淀みのない流れ。特筆すべきなのは中盤の61秒3というタイムで、道中でほとんどペースが落ちるところがなく、スタミナの裏付けがない馬たちにとっては厳しいレースとなった。そこからラスト5ハロンを58秒8でまとめているように、最後まで止まることなく伸び切った上位2頭は、極めて優秀なステイヤーであることを自ら証明した。

トーホウジャッカルはスタートから好位を確保し、やや掛かり気味になる場面も見られたが、前進気勢を失うことなくスムーズに走っていた。最終コーナーを回るときには手応え抜群で、追い出されてからは弾けるように伸びた。父スペシャルウィークを彷彿させる、胴部が薄くてヒョロッとした典型的なステイヤーの馬体であり、距離が延びて真価を発揮した。姉トーホウアマポーラはCBC賞を勝った短距離馬であり、この馬は菊花賞を勝ったステイヤー。ここにフジキセキとスペシャルウィークの種牡馬としての大きな違いが表れている。父にはもちろん、母父にスペシャルウィークが入った馬は、今後の菊花賞でも注意が必要であると覚えておきたい。

酒井学騎手の騎乗は見事のひと言に尽きる。1枠を引いたことや、前走で脚を余したこともあって、今回は勝ちに行くために思い切って馬を出して行った。多少行きたがっても抑えられる自信もあったのだろう。勝負どころは、スタートしてから第1コーナーまでの間。あそこで隣枠に入ったサウンドオブアースよりも前のポジションを取れたことが大きかった。最後の直線に向けて外に出しつつ、追い出すタイミングも絶妙で、トーホウジャッカルの瞬発力を生かしてみせた。二ホンピロアワーズやハウサンムーンらに跨って積んできた経験が、大舞台で馬の力を信じ切った攻めの騎乗へとつながった。

惜しくも敗れたサウンズオブアースは、勝ち馬に先に抜けられてしまい、渋太く食い下がったが、最後まで前に出ることができなかった。同じステイヤーでも、トーホウジャッカルが切れるタイプなら、サウンズオブアースはジワジワと伸びるタイプ。血統的には母父DixielandBand(2004年の菊花賞馬デルタブルースの母父)が利いている。蛯名正義騎手としては、最終コーナーを外から捲って、一歩先に引き離しておきたかったはずだが、内枠で馬群に包まれてしまい外に出すタイミングがなかった。もしくはテン乗りで手探りの状態であったことで、サウンズオブアースの良さを引き出せなかったのであれば、藤岡祐介騎手からの乗り替わりが裏目に出たことになる。このあたりが菊花賞であり長距離戦の難しさである。

ワンアンドオンリーの敗因については、こちらに書いたので改めて述べるつもりはない。余程力が抜けている馬でなければ、日本ダービーと菊花賞を勝つことは難しいのである。それだけ日本ダービーは重いということでもある。レースでは苦しがって、終始掛かり通しで、最後の直線に向くころにはすでに手応えがなかった。横山典弘騎手の乗り方云々の問題ではなく、今回は馬の問題である。秋シーズンは決して無理をさせず、下手に凡走すると馬も自信を失うので、十分な間隔を開けて、来春の天皇賞春に備えてもらいたい。

トゥザワールドはワンアンドオンリー以上に大きくバテて、惨敗を喫した。血統的には母父にサンデーサイレンスが入って、さらに全兄のトゥザグローリーに比べて脚が短く重心が低い馬体もあって、明らかに長距離向きではない。最後はガス欠を起こし、自らレースを止めてしまう格好となった。ステイヤーとしての資質が問われる今年のような菊花賞になってしまうと、特に長距離適性のない同馬には苦しかった。兄同様に走る能力は高い馬なので、今後は2000m前後のレースに絞って使うべきである。

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ディープ産駒らしからぬディープ産駒


秋華賞2014-観戦記―
大方の予想どおりペイシャフェリスが先頭に立ち、前半1000mが58秒ジャスト、後半59秒ジャストというハイペースをつくりだした。ブランネージュまでの先頭集団と、ショウナンパンドラからの後続集団の2つに綺麗に分かれ、最後の直線では見事なぐらいに前と後ろの集団が入れ替わった。見た目以上に、前の集団に位置した馬たちには厳しく、後ろにいた馬たちにはおあつらえ向きの展開となった。

勝ったショウナンパンドラは、その後方集団の先頭に立ち、コーナーでは内を突き、馬の間を割って突き抜けた。夏を越して、見た目以上に成長していたし、馬体を見るとディープインパクト産駒にしては珍しいパワータイプである。重馬場の前走、前々走でもきっちり走っていたように、母系の血が色濃く出ている。瞬発力よりもパワーが要求される秋華賞の舞台で、ディープインパクト産駒らしくないディープインパクト産駒が勝利を収めた。それゆえに、瞬発力や要求される次走のエリザベス女王杯は苦しい戦いを強いられるだろう。

スタートからゴールまで、全くと言って良いほどにロスのない競馬で、浜中俊騎手にとっては渾身の騎乗であり、ショウナンパンドラもそれに応えてみせた。こういうレースのことを、二度と同じことはできない、一世一代の競馬というのだろう。こういうレースをされてしまうと、他の騎手は手も足もでない。日本人騎手の中では潜在能力は随一の存在だけに、これでG1レースは4勝目ではあるが、これからますます勝つことだろう。ただ、日本という枠に収まってしまうよりも、若いうちにぜひ海外の競馬に長期挑戦してもらいたい。

ヌ―ヴォレコルトは内外の進路取りの差で負けたように見えるが、騎乗自体には一点の曇りもなく、よくぞあそこまで追い詰めたという印象を受けた。ペースを考えると、あそこで外を回すのは妥当だし、ギリギリまで待って斜めに外に出しているだけに、距離ロスはほとんどなかった。それよりも、ハイペースを見越して馬を出して行かなかった判断はさすがで(もしかしたら春シーズンの疲れがあって馬が前進気勢になかったのかもしれないが)、岩田康誠騎手のポジション感覚の鋭さにはいつも驚かされる。上がり勝負となったローズSとは打って変わって、淀みのない持続力勝負になったことで馬が戸惑っていた。33秒台の上がりで勝利した馬が次走でコロッと負けてしまう典型であるが、それでも2着を確保したのはヌ―ヴォレコルトの地力の高さの証明であり、岩田騎手の好判断の賜物である。

3着に入ったタガノエトワールのレースぶりは理想的であり、内が詰まるリスクがあった勝ち馬よりも、速いペースを考えると絶好のポジショニングであった。それでも勝てなかったということは、現時点においては、上位2頭には力が及ばなかったということ。キャリア5戦目でこれだけのレースができるのだから、この先も楽しみな馬の1頭である。同じ松田博資厩舎のサングレアルも展開に恵まれて5着に突っ込んだ。レーヴデトワールは勝ちに行き過ぎた。負けた馬の中でも、ブランネージュは先行集団にいたにもかかわらず踏ん張ったように、この先、肉体が成長してきたら楽しみな馬である。バウンスシャッセも結果的に前を攻め過ぎたが、大崩しなかったように、復調してきている。

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勝つときはそんなもの


スプリンターズS2014-観戦記-
ダッシュ良く飛び出したハクサンムーンからダッシャ―ゴーゴーがハナを奪い、前半33秒7、後半35秒1というスプリント戦らしいハイペースで道中は流れた。勝ち時計は1分8秒8と掛かっており、中山競馬場で行われる例年のスプリンターズSが1分7秒台前半で決着するのに比べ、明らかに別物のスプリンターズSであった。夏から使い込まれた新潟競馬場の(特に内側の)芝は傷んでおり、自然と外々を回る形になるため、パワーだけではなく1200m以上のスタミナが問われるレースとなった。その結果、馬場の良い馬群の外を走り、前半はスタミナを温存した馬たちが上位に突っ込んだ。

勝ったスノードラゴンは、ダートでも活躍していたように、力の要る馬場での差し脚勝負には滅法強い。前走は小回りの札幌競馬場で追走に手間取っていたが、今回はスタート直後の直線の長さを生かしてスムーズに中団に位置し、最後の直線では力強い末脚を繰り出した。得意の左回り、時計の掛かる馬場、そして外枠から馬場の良いところを走れたこと、差し脚が生きるハイペースになったことなど、スノードラゴンにとってはこれ以上ない条件が揃った。勝つときはそんなもの。G1レース初勝利となった大野拓弥騎手も、文句のつけようのない会心の騎乗で、同馬を勝利に導いた。

ストレイトガールは勝ち運に見放されている。決してこういった時計の掛かる馬場を苦手とする馬ではないが、本来はパンパンの良馬場でこそ、この馬の切れ味が生きる。今年の高松宮記念もそうであり、今回のスプリンターズSもまた、スピードや瞬発力よりもパワーやスタミナが要求される、この馬の適性と異なるレースになってしまった。それでも高松宮記念は3着、そして今回は2着と好走しているように、スプリンターとしての資質や能力は極めて高い。

適性が異なるといえば、レッドオーヴァルにとっても厳しいレースとなった。この馬こそが、ディープインパクト産駒らしく、良馬場での瞬発力で勝負する馬であり、今回は完全に馬場に殺されてしまった。前走は外々を回らされた分、届かなかったが、今回はハイペースを理想的なポジションで追走できただけに、新潟開催による馬場の悪化が悔やまれる。あと10kg馬体重が増え、ひと回り身体が大きくなってくれば、スプリンターとして大きなところを制するチャンスが広がるはず。

1番人気のハクサンムーンは、最後の直線で力尽きてしまった。決して無理なペースで飛ばしたわけではなく、この馬にとってはマイペースと言ってもよい流れ。自分の型に持ち込めなかったが、それほど戸惑う素振りも見せず、むしろ理想的な直線の向き方をしただけに、ぱったりと止まってしまったのは不可解だ。この馬の武器であるスピードが殺されてしまったことは確かでも、あまりに無抵抗すぎて、拍子抜けしてしまう敗戦であった。ロードカナロアと鎬を削った昨年こそがこの馬の全盛期であり、スプリンターのピークは短いということなのだろうか。

見どころがあったということで言えば、3歳牝馬のベルカントである。馬場の悪いところを通って先行した馬たちに厳しいレースであったにもかかわらず、グランプリボスとハナ差の5着に粘り込んだ。スプリント戦であれば、G1レースでも通用する能力を秘めていることを証明した。この先無理をせずに成長を促すことができれば、来年は面白い存在になる。

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文化が足りない


凱旋門賞2014-観戦記-
完敗という言葉しか思い浮かばない。ジャスタウェイ、ハープスター、ゴールドシップという3頭の名馬たちが走っても、あらゆる面において相手の力が二枚も三枚も上であり、レースにすら参加させてもらえなかった。唯一見どころがあったと言えば、最後の直線におけるハープスターの一瞬の切れ味ぐらいで、それもほんの一瞬でしかなかった。挑戦したこと自体には称賛の拍手を送りたいが、これを良い経験と言って片づけてしまうのでは、あまりにも情けない。

ハープスターは末脚に賭ける乗り方に徹し、この馬の力は出し切った。残念だったのは、前半の1000mまでは馬群から離してポツンと追走していたにもかかわらず、途中から内ラチ沿いに進路を変えてしまったことである。ゴールドシップの行きっぷりが悪く、外から被されるような形になったことも影響したのかもしれないが、結局、直線の入り口で外に出すぐらいなら、最後まで気楽なポジションを走って、ハープスターの気を溜めておくべきであった。もしあそこで内に入れたのであれば、内からこじ開けるようにして馬群を抜けてほしかった。この馬は日本では相当な名牝になるだろうが、馬場とポジションに注文がつく以上、海外では厳しい。

ジャスタウェイとゴールドシップについては、ローテーション的に、走る前から負けていた。世界ランキング1位に輝くジャスタウェイは、ドバイデュ―ティーフリーの疲れが抜ける間もなく不良馬場の安田記念を勝利したことで、凱旋門賞までにベストな状態に戻すことができなかった。ゴールドシップは宝塚記念を勝ったことで、凱旋門賞にピークを合わせることが難しくなった。これは何度も書いてきていることだが、もし本気で凱旋門賞を勝ちたいならば、宝塚記念を使ってはならないのだ。6月末にG1レースを勝つ状態に仕上げられた馬が、およそ3か月後の凱旋門賞までに再び完調に戻ることはない。海外遠征による環境の変化が加わればなおさらだ。遠征に掛かる莫大な費用を宝塚記念で補いたい気持ちはよく分かるが、凱旋門賞の栄誉を取りたければ、目先のお金は捨てなければならない。

野平祐二騎手がスピードシンボリに跨って凱旋門賞に挑戦したのは1969年のこと。あれから45年の歳月が流れ、日本競馬のレベルは格段にアップした。エルコンドルパサーやディープインパクト、ナカヤマフェスタ、オルフェ―ヴルらの凱旋門賞での走りを見るまでもなく、日本馬の実力は世界中で認められ、たとえ凱旋門賞でも勝てるだけの力は秘めている。血統レベルの向上だけではなく、生産から育成、調教に至るまで、あらゆる面において、ヨーロッパやアメリカなどの競馬先進国に追いついた、はずであった。しかし、本当にそうなのだろうか。日本の競馬人である私たちは、今年の3頭の敗戦を真摯に受け止めて、真剣に考えなければならない。

何が足りないのか?抽象的で申し訳ないが、文化が足りないと私は思う。これはサッカーのワールドカップのときにも強く感じたことだが、日本のサッカーに足りない、いや、ないのは文化であった。選手からマスコミ、そしてファンの間に文化の蓄積がまるでないのだ。お金の出どころばかりを気にして、サッカーのことを本当に考えている人が少ないということだ。同じことが日本の競馬にも当てはまる。当たり障りのないインタビューや提灯記事ばかりで、ローテーションの不備を突いたり、過去の凱旋門賞における騎乗ミスを振り返ったりした議論はあったのか。凱旋門賞を本当に勝つには、日本の競馬人全員が言葉の粋を尽くして語り合い、互いに高め合わなければならないのではないだろうか。批判されて取材拒否をする関係者などもってのほかで、気を遣ってばかりのマスコミも情けない。悲しいかな、そうして流された表面的な情報ばかりに競馬ファンは踊らされる。だから負けても誰も気づかないのだ。私たちの競馬には文化が足りないことを。

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トレヴを彷彿させる


札幌記念2014-観戦記ー
4万人以上の競馬ファンが集まった札幌競馬場で、凱旋門賞に挑戦する2頭が直接激突した。シンガポール帰りのトウケイへイロ―がすんなりハナを奪い、ロゴタイプが番手を取る形で進んだレースは、前半の1000mが58秒4、後半の1000mが60秒7という極端なハイペースとなった。直線に坂のない、小回り平坦コースとはいえ、さすがにこれだけ流れが速くなってしまうと、先行した馬たちにとっては苦しい展開となった。後ろから行った有力馬2頭にとってはおあつらえ向きの流れになったことは確かで、ハイペースにも後押しされた5馬身差と解釈してよいだろう。

勝ったハープスターは、細江純子元ジョッキーもパドックで解説していた通り、春シーズンの疲れが完全に癒えたという馬体ではなく、これから凱旋門賞に向けて作っていくという段階の発展途上の馬体であった。にもかかわらず、歴戦の古馬たちを捲り切って、ゴールドシップを振り切って勝利したのだから恐れ入る。気持ちで走る馬だけに、オークスと違って、馬群から離れて追走できたことが良かったし、何と言っても、これだけ脚の速い馬に52kgの斤量で走られたら、他馬はなかなか追いつけない。これが斤量の怖さであり、まるで昨年の凱旋門賞でトレヴがオルフェ―ヴル以下をアッと言う間に突き放したレースを彷彿とさせる直線の走りであった。

ハープスターは勝つには勝ったが、もちろん課題もある。まず、陣営にとっては、やや走り過ぎたという感覚があるはずだ。決して仕上がりは良くなかったにもかかわらず、気持ちで走ってしまった。反動がどの程度あるのか心配だが、最後方からとびきりの脚を使って勝ったというわけではないので、なんとか回復できるかもしれない。良く考えれば、調教でしっかりと仕上げていけば、この先、直行で凱旋門賞に出走しても力は出し切れる感触は得られたということだ。

そして、大きな課題としては、ついぞ馬群に入れるレースができなかったということ。凱旋門賞はスローに流れることが多いため、どうしても馬群が凝縮され、密集しやすい。後方から末脚を生かすにしても、外から捲るにしても、道中は馬群の中でじっと脚を溜めている時間が長い方が良い。馬群の中で押し込められたとき、果たしてハープスターはどんな反応をするだろう。オークスのように、周りに気を遣ってハミを噛んでしまうようであれば、思うように脚は溜まらない。夏を越して精神面での成長があるかどうか、この点をテストするためにはもう1度レースを使わなければならないし、もし直行するならば、本番では一か八かの極端なレースをせざるを得ない。

ゴールドシップは、宝塚記念に比べると、馬に覇気がなく、スタートから進んで行こうとはしなかった。横山典弘騎手も、さすが百戦錬磨のベテランらしく、慌てず騒がず、無理に追走させることはしなかった。そうはいっても、さすがに3分3厘からは手が動き始め、ハープスターに食らいついたが結局2着に甘んじた。負けはしたものの、陣営としては文句なしのステップを踏めたと感じているのではないだろうか。走る必要がないときには、それほど走らなくてもよいのだ。ブリンカーに関しても、こういった馬具のほとんどは装着した最初だけ効果があるだけで、馬が慣れてきてしまうと効果が薄れてしまう(先日亡くなったタイキブリザードもそうであった)。周りを気にせずに集中して走るという効果が少ないのであれば、かえってゴールドシップの闘争心を引き出すために、本番ではブリンカーを外して臨むのが得策である。

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ゴールドシップの気に乗った

宝塚記念2014-観戦記-
スタートの良さを生かしてヴィルシーナが逃げ、それをフェイムゲームとカレンミロティックが追いかけるようにしてレースは淡々と流れた。前半の1000mが62秒4、後半の1000mが59秒4という、前後半の落差が3秒もある超スローペース。明らかに前に行った馬にとって有利な展開であり、後ろから行っては勝負にならない、結果がポジションに大きく左右されるレースとなった。

勝ったゴールドシップは、復活したというよりは、スムーズに先行できたことが最大の勝因である。昨年は他馬を力でねじ伏せる強いレースであったのに対し、今年は展開に恵まれた感は否めない。今年はようやく走る気持ちが戻ってきているのを感じるが、前走・天皇賞春の大出遅れなどを見ると、ムラ駆けするタイプの馬なのだろう。力はあっても、走るかどうかは当日の馬の気分次第ということ。凱旋門賞を狙える馬の1頭だが、環境が大きく変わる海外遠征において、こういう気性の難しい馬はアテにならないところがあることを知っておきたい。また逆に、宝塚記念でステイゴールド産駒が圧倒的な実績を残しているのは、この時期の馬場の悪さを苦にしないからであり、その点においては凱旋門賞の重い馬場でも力を発揮できるはず。

今回の勝利は、横山典弘騎手の勝利と言っても良い。上手く乗った、いやほとんど何もせずに勝ったというべきか、それこそが横山典弘騎手の狙いだから、やはり上手く乗ったのだろう。レースの流れが遅くなることは予測していたはずで、横山典弘騎手に与えられた命題は、ただひたすらにゴールドシップの気持ちに逆らうことなく、かつ前のポジションにつけることであった。外枠を引いたことで、スタートから第1コーナーまで、馬群から離して気分良く走らせることに専念し、気がついたら4、5番手にいたのだから、そこから先は笑みが止まらなかったはず。ゴールドシップの気に乗った見事な騎乗であった。

2着に入ったカレンミロティックは、スムーズに先行し、持ち前のパワーを生かすことができた。阪神の2200mでも、これぐらいの緩いペースであれば、スタミナ不足を露呈することはなかった。ヴィルシーナは前走の勢いをそのままに、自分の型に持ち込み、最後まで渋太く粘ってみせた。この馬の勝負根性には感心させられる。

ウインバリアシオンは道中の行きっぷりが悪く、後方からの競馬となり、万事休す。決してパワータイプではなく、また跳びが大きい馬だけに、こういった馬場が合わなかったことが敗因である。それも含め、ゴールドシップとの実力差であり、パワーの違いということでもあり、G1レースを勝つためにはもうひと回り肉体的な成長が必要ということになる。

ジェンティルドンナは、昨年同様に精彩を欠く走りであった。特に今年はドバイで激走した後だけに、目に見えない疲れが残っている中での出走であった。ドバイに遠征した馬にとって、春を2走で終わらせるか、安田記念もしくは宝塚記念に出走するかの判断は難しい。あのジャスタウェイもドバイの疲れが残っていたからこそ、安田記念では苦戦を強いられたのだ。もちろん、これがジェンティルドンナの実力ではなく、夏はゆっくりと休ませて、ひと叩きしてジャパンカップ3連覇の偉業に挑戦してもらいたい。

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WORLD'S BEST RACEHORSE

Yasuda2014
安田記念2014-観戦記ー
ミッキーアイルがダッシュ良く飛び出し、いつも通り、耳を立てながら楽に先頭に立った。前半マイルが47秒1、後半が49秒7という数字を見ると、極端なハイペースに見えるが、そうでもない。最後の1ハロンが13秒8も掛かっており、決して遅くはないペースを追走し、どの馬もバテて最後は脚が上がってしまったという表現が相応しい。あれだけ出走していたディープインパクト産駒が3着以内に入っていないように、スピードや瞬発力とは相反する、スタミナとパワーが要求される不良馬場のレースであった。

勝ったジャスタウェイは、最後まで止まらなかった唯一の馬である。道中は泥を被り、しかもちょうど馬場の悪いところを走らされたが、最後の最後まであきらめずに伸びた。ジャスタウェイの内包するスタミナが生き、また腰がパンとして本格化していた時期だからこそ、苦しみながらも勝つことができた。ドバイで激走した僅か2か月後に、これだけの激戦を制したのだから、さすがワールドランキング1位の馬である。とはいえ、見た目にはない疲れが必ずあるはずで、この後は決して宝塚記念に向かうことなく、ゆっくりと体と心を休めてもらいたい。

柴田善臣騎手は最後ヒヤヒヤしながら馬を追ったはず。もう1頭分、外のコースを走らせたかっただろうが、外から被せられて馬場の悪いところを走らされたばかりか、直線に向いてもジャスタウェイ本来の爆発的な末脚は影をひそめ、追ってもジワジワとしか伸びなかったのだから。こういった不良馬場では馬群がバラけることが多いが、今回は思いの外、窮屈になってしまい、外に出すスペースもタイミングもなかった。最後は馬の力と意地だけで勝たせてもらったようなレースであり、ジャスタウェイの強さに感謝すべきだろう。

惜しかったのは、グランプリボスと三浦皇成騎手。長い休養をはさんだことで、馬がリフレッシュし、うまく表現するのは難しいが、レースから逃げようとして引っ掛かるのではなく、前進気勢に溢れていて抑えるのが大変という行きっぷりであった。惜しむらくは、手応えが良すぎたばかりに、結果的に少し早仕掛けになってしまったこと。スタミナに優るジャスタウェイに勝つには、ジャスタウェイよりも先に動いてはいけなかった。安定した騎乗フォームには定評がある三浦皇成騎手も、さすがに勝ちを焦ってか、馬がヨレたこともあってか、ゴール前はずいぶんと姿勢が崩れてしまっていた。着差がハナ差だけに、悔やんでも悔やみ切れない騎乗だったに違いない。

離れた3着、4着に入ったショウナンマイティとダノンシャークは昨年の2、3着馬。昨年は勝ち馬(ロードカナロア)が強かったし、今年は馬場に泣かされたが、この距離とコースに適性があり、マイラーとしての資質が高いことを証明した。そして、もうひとつ、安田記念はキャリアが問われる珍しいタイプのG1レースであることが分かる。だからこそ、リピーターレースともなる。今年の上位馬がキャリアを重ねた翌年も出走してきたら、人気を問わずに狙ってみても面白い。

ワールドエースは大外枠からの発走に加え、この不良馬場と運に見放された。それでも5着に踏ん張ったあたり、この馬が完全復活する日は遠くない。マイラー寄りの馬体に変わってきているが、本来は距離が延びて良いタイプであり、走る素質という点においては、ジャスタウェイを筆頭とした古馬の超一流馬と比べても引けを取らない。2番人気に推されたミッキーアイルは、馬場を苦にして早々と失速してしまった。馬体が未完成で幼さを残す馬にとって、こういった馬場は特にこたえるものだ。

Photo by 三浦晃一

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ダービーを勝たせるために生まれてきた

Derby2014 by M.H
ダービー2014-観戦記-
エキマエが先頭に立ち、前半1000mが59秒6という引き締まった流れをつくり出した。2番手以下の集団もおよそ平均ペースで流れており、馬群が凝縮して、わずかの隙間もなく、ヨーロッパ競馬のようなタイトな競馬となった。どのジョッキーも道中のロスを最小限に抑えたい、少しでも上の着順に持ってきたいという強い意志を持って騎乗していることが、手に取るように伝わってくる素晴らしいレースであった。今年は力の抜けた馬がおらず、枠順やポジションの差で勝敗が分かれたように、運の良い馬が勝つという言葉を体現したようなダービーであった。

勝ったワンアンドオンリーは、内枠を引いたことが勝利に結びついた。内枠を引いたからこそ、横山典弘騎手もスタートから迷うことなく馬を出してゆく選択をすることができ、道中は引っ掛かりながらも馬を周りに置いて我慢させることができた。外枠を引いて、いつものように中団より後ろから行っていたら、届いていなかったかもしれない。「格好悪い競馬だった」と横山騎手自身も語るように、人馬共に苦しみながらの勝利であったが、ダービーを勝つということはそういうことなのだろう。1着でゴールインしたのち、左前を行く蛯名正義騎手の姿を見て、横山騎手の胸の内にどういった感情が去来したのだろうか。それは単なるダービーを勝った喜び以上の、ベテランジョッキーにしか知りえない、もっと深い何かであった気がする。

それにしても、ワンアンドオンリーに究極の仕上げが施されていたことは間違いない。本来、トモがそれほど強くない(未完成な)馬であったが、ここに来てグンと成長したことを含め、肉体的にも精神的にも前のポジションで競馬ができるよう目一杯に仕上げられていた。橋口弘次郎調教師がダービーを勝ちにきて、勝つべくして勝ったダービーであったと言える。あのダンスインザダークの屈辱を18年後にようやく晴らした橋口調教師の意地と矜持に、最大の拍手を送りたい。新馬戦の凡走からここまでの過程を振り返ると、ワンアンドオンリーはまさに橋口調教師にダービーを勝たせるために生まれてきたような馬に思えてならない。一方で、究極に仕上げられて勝ったダービー馬は、秋以降が鬼門となることも示唆しておきたい。

イスラボニータは負けて強しの競馬であった。勝たなければ意味がないのがダービーかもしれないが、それ以上に、競走馬としての資質の高さを見せつけてくれたレースであった。スタートで他馬と接触したことがきっかけとなり、馬がエキサイトしてしまい、道中ではハミを噛む時間が長かった。それでも最後の直線では、1頭持ったままで先頭に踊り出たように、スピードとスタミナの絶対値が高い。今回はレースの綾が絡み合い、より適性の高い、より仕上がった馬に負けてしまったが、見る人が見ればこの馬の強さは分かるはず。未完成な馬体でここまで走るのだから、もしかすると、総合的な能力の高さという点では父フジキセキを超えているかもしれない。蛯名騎手の「枠順の差(枠順が逆だったら)」というコメントは心の叫びだろう。

マイネルフロストは枠なりで競馬をして好結果に結びついた。松岡正海騎手らしい、絶妙な騎乗であった。対して、2番人気のトゥザワールドは、せっかくの好枠を引いたにもかかわらず、最初から外に出そうと決めていたようだ。跳びが大きく、これまでも外を回って勝ってきた馬だが、さすがにあのポジションでは5着が精いっぱい。馬群の内に入れない気性的な問題があるのか、もしないのであれば、マイネルフロストが走ったポジションを走っていれば3着はあったはず。唯一の牝馬であったレッドリヴェールは見せ場なしの大敗を喫してしまった。休み明けの桜花賞とは打って変って体調が悪く、ステイゴールド産駒の牝馬の仕上げの難しさがここにある。ト-センスターダムは積極的に2番手を追走し、良い形で直線に向いたが、苦しがって内ラチに激突してしまった。同馬にとっては距離が長いことに加え、仕上がりも不十分であったことが原因か。

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それはなかったことにするということではなく

Oaks2014 by 三浦晃一
オークス2014-観戦記-
先週に引き続き内田博幸騎手がハナを叩き、前半1200mが73秒4、後半が72秒4というスローペースをつくり出した。前に行った馬と後ろから行った馬が最後の直線で入れ替わった桜花賞とは打って変わって、極端なスローではないが、今の東京競馬場の馬場を考えても、後ろから行き過ぎると届かない流れとなった。とはいえ、人気馬が上位を占めており、展開による大きな有利不利のない、実力が素直に反映されるレースであった。

勝ったヌ―ヴォレコルトは、チューリップ賞、桜花賞でハープスターに惜しくも破れていた鬱憤を、距離が延びたオークスで見事に晴らしてみせた。馬体を見る限りでは、まだ幼さを残していてG1レースを勝ち切るような馬には思えないが、それでもこうして堅実に走るのだから、よほど心臓が良いのだろう。そして、それを支える気性の素直さと気持ちの強さがある。+6kgの馬体重からも分かるように、馬体をフックラと保ち、今回は久々に長距離輸送がないことも大きくプラスに働いた。

岩田康誠騎手は東京競馬場2400mの勝ち方を知り尽くしていているように映る。いつの間にか内ラチ沿いに潜り込み(5枠から第1コーナーまでに内を取るのは意外と難しい)、向こう正面では馬群の中で動かず脚を溜め、3、4コーナーを回りながら少しずつ外に出し、最後の直線では馬場の良いところを選んで追い出す。こうした計算づくの騎乗が実現できるのも、スタートから馬を出して攻めていっているからだ。自分の馬を一歩前に出すことで、外枠から発馬した馬たちを自分の馬の外に回し、隙があれば内に開いたスペースに馬を入れていく。この芸術的なポジション取りがなければ、ハープスターに勝ててはいなかったはず。

それでも、派手なガッツポーズやウイニングランはなく、勝利ジョッキーインタビューでは終始感情を抑えることに徹していた。岩田騎手の複雑な思いが伝わってくるようで、後藤浩輝騎手はどういう気持ちであのインタビューを見たのだろうか。ジョッキーはいつ何時、自分が被害者や加害者になってしまうか分からない、危険と隣り合わせの職業である。岩田騎手は同じ騎手に対して加害者となってしまったわけだが、そこにあった過失は重く受け止めながらも、先に進まなければならない。それはなかったことにするということではなく、先に進めなければ、もし立場が逆転したときに、そこで終わってしまうジョッキーを生んでしまうということだからだ。落ちた方だって辛いが、落とした方だって苦しい。ジョッキー同士は互いに分かっている。そういった意味でも、今回の勝利の意味は大きい。

ハープスターは最後までヌ―ヴォレコルトを追い詰めたが、わずかに届かなかった。ハープスターの器を考えると、伸びなかったというべきだろう。距離が長かった、蹄鉄が外れかけていた、最終コーナーで外に振られたなど、細かい敗因は多く挙げられるが、蓄積されていた疲労があったということが最大のそれである。スタートから序盤こそ完璧であったが、中盤で前を行く馬がバカついたあおりを受け、ハミを少し噛むシーンが見られたのもそれゆえだろう。何度も言うが、ハープスターのようなタイプの牝馬は、他馬から少し距離を離し、周りに馬がいないポジションで気持ちを抜いてあげることが、最後の極限の切れ味につながる。そういう意味で、騎手の勝ちたいと思う気持ちが裏目に出てしまう乗り難しい馬であることは確か。能力の高さは間違いないので、まずは秋までゆっくりと休ませ疲れを取って、凱旋門賞にぜひ今年向かってもらいたい。

バウンスシャッセは非常に惜しい3着。上がりが速い競馬は不向きと見ていたが、それを覆す走りであった。東京開催に勝負を賭けてきている藤沢和雄調教師の渾身の仕上げが実を結んだ。道中は勝ち馬以上に完璧なポジションでレースを進めていただけに、最後の直線でスムーズに前が開いていれば、勝ち負けになったはず。結果論かもしれないが、最終コーナーでもう少し内を突く意識があっても良かったはず。その選択肢があるポジションだっただけに、勝ち馬と同じスペースを狙おうとしたのがもったいなかった。

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おかえりなさい


ヴィクトリアマイル2014-観戦記-
ヴィルシーナが得意のロケットスタートを決め、クロフネサプライズからハナを奪い、創り出した流れは、前半マイルが46秒2、後半が46秒1というイーブンペース。前が止まらない今の東京競馬場の高速馬場を考慮に入れると、先行した馬たちにとって有利なレースとなった。さらに、それほど速いペースにならなかったことに加え、仮柵を少し外に動かしたことによって、先週のNHKマイルCと同様、芝の状態の良い内ラチ沿いで脚を溜めることのできた馬たちの末脚が最後に勝った。

ヴィルシーナは史上初のヴィクトリアマイル連覇となった。昨年はホエールキャプチャの連覇をハナ差凌ぎ、今年は自身が連覇を達成したのだから、よほどこのレースに対する適性が高いのだろう。昨年の単勝310円に対し今年は単勝2830円と、昨年の覇者がこれだけ人気を落とした上で(完全に盲点となって)勝利してしまうレースも珍しい。この1年間、全く力を出し切れていなかったということでもあり、それでもこの馬を信じて復活させた陣営の地道な努力には拍手を送りたい。試行錯誤した様子はヴィルシーナのチークピーシズにも表れていて、今日は最後まで集中して走っていた。

内田博幸騎手にとっても、1年ぶりのG1勝利となった。今年に入ってから不振を極めているだけに、完全復活とまではいかないが、ようやく光が見え始めたのではないか。戸崎圭太騎手の中央移籍によって少しずつ力学が変わりつつあり、それを挽回するための一か八かの騎乗が裏目に出たり、チグハグな競馬が目につくようになった。どこが具体的に(技術的に)悪くなったということではなく、全てが悪循環してしまっている。内田博幸騎手は元々外様なだけに、関東でリーディングを走っているぐらいの勢いがないと、栗東(関西)から良い馬の騎乗を頼まれにくくなってしまう。

メイショウマンボは内ラチ沿いをスルスルと伸びたが、わずかに届かず2着。最高のポジションでレースができていただけに、この馬本来の調子になかったということだろう。昨年を通じて、極限のレースを繰り返したことにより蓄積されたダメージは計り知れないが、変に燃えすぎるところもなく、非常に精神的に安定しているので、他の牝馬に比べれば回復も早いはず。この馬には1400m戦を勝ったスピードと切れがあり、2400mを制したスタミナと我慢強さがある。秋には再び大きなレースを狙えるよう、飯田祐史調教師にはじっくりと調整してもらいたい。

ストレイトガールの走りには驚かされた。内ラチ沿いでスタミナのロスを最小限に抑えられたことも功を奏したが、最後まで伸び切ったように、府中のマイル戦をこなせるだけの十分なスタミナもあることを証明してみせた。体調がもっと良い時期であれば、突き抜けていたかもしれないと思わせるほどの好走であった。騎乗停止明けの岩田康誠騎手は、直線ではムチを使うことなく、周りを気遣いながらの慎重な騎乗に徹しているのが痛いほどに伝わってきた。これを機に、角を矯めるのではなく、騎乗技術を磨き、さらに上のレベルの騎手を目指してもらいたい。

1番人気に推されたスマートレイヤーは、出遅れることなくレースの流れに乗ったものの、最後の直線では弾けることなく凡走してしまった。強烈な差し切りの次のレースではよくある現象で、レースの流れが全く違うことに馬が戸惑っていたし、正攻法で勝ち切れるだけの力がまだこの馬には付いていないということである。ホエールキャプチャは、年齢的なものもあるのか、この馬としては完璧なレースをして(3年ともに同タイム1.32.4)、精一杯の力を出し切っての4着であった。デニムアンドルビーは追走に手いっぱいで、この馬本来の末脚が使えなかった。体が増えていなかったように、このレベルの戦いで勝つにはもう少し馬体重が必要か。

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シンプルに5連勝

Nhkmilec2014 by 三浦晃一
NHKマイルC2014-観戦記-
ダッシュよく飛び出したミッキーアイルが刻んだペースは、前半マイルが46秒6、そして後半マイルも46秒6という完全なるイーブンペース。一昨年にカレンブラックヒルが勝ったときと同様のラップ構成であり、NHKマイルCというレースの特性を考えても、このメンバーとしては遅めの流れ。これぐらいのペースに落とさないと、府中のマイル戦を逃げ切るのは難しく、ミッキーアイルにとっては望んだとおりレースであった。スローの流れの中、上位には馬群の内で脚を溜めることができた馬たちが、長い直線を活かして差し込んだ。

勝ったミッキーアイルの武器は、天性のスピードとセンスの良さである。スピードの絶対値が違い、また馬体にパワーもあるため、ゲートが開いてから、すぐに他馬よりも一完歩前に出ることができる。無理をすることなく先頭に立ち、あとはこの馬のリズムで走るのみ。先頭に立つとすぐに耳を前に向けてリラックスして走ることができる気性も、この馬の長所である。道中で力みがないため、スタミナを無駄にロスすることがない。シンプルに5連勝を積み上げたといえる。とはいえ、馬体は未完成であり、今回はペースにやや恵まれた感もある。まだ成長の余地を残している馬だけに、まずは馬を一旦休ませて、秋に備えてもらいたい。

浜中俊騎手は、スタートからゴールまで、迷いなくミッキーアイルを導いた。下手に抑えても意味がなく、乗っているだけで先頭に立ってしまうことは確実。逃げたくないのに逃げてしまったドバイのデニムアンドルビーのケースとは全く異なる、自信満々の逃げであった。さすがに府中の直線は長く感じただろうが、ミッキーアイルは最後まで止まっておらず、着差以上の完勝であった。日本人離れした肉体的資質を持っているジョッキーだけに、日本国内での活躍はもちろん、この先は海外遠征や国外での騎乗も視野に入れてほしいと思うのは私だけではないはず。

2、3、4着に入ったタガノブルグとキングズオブザサン、ロサギガンティアは、内枠を引き、道中は脚を溜め、最後の直線に賭けたことが吉と出た。1頭分前にいたタガノブルグが先に抜け出た分、キングズオブザサンに先着した格好となった。三浦皇成騎手は惜しくも初G1勝利を逃してしまった。おそらく遠くない未来に、人気馬ではなく、今回のような人気薄でG1を勝つ日がくるだろう。蛯名正義騎手は相変わらず乗れている。今回もまた無欲の騎乗で力を引き出した。ロサギガンティアは距離云々もあるが、それよりもスプリングS時がピークの体調にあったのではないか。

牝馬として最先着したホウライアキコは良く走っている。今回はミッキーアイルを追いかけすぎたが、勝ちに行っての5着だけに価値は高い。マイルまでの距離であれば、牡馬に混じっても力上位であり、また今年の3歳牝馬のレベルの高さを証明してみせた。同じく牝馬のベルルミエールは、外から同型のホウライアキコに被せられ、常に苦しいポジションで競馬を強いられてしまった。馬を外に置くと良くないタイプなのだろう。ショウナンアチーヴは、前走ニュージーランドTは展開に恵まれた感があり、今回は最高の競馬をしての5着と力通りの結果であった。

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もし凱旋門賞を制することがあるとすれば


天皇賞春2014-観戦記-
サトノノブレスが内枠を利して先頭に立ち、ペースメーカーとして、前半の1000mが61秒7という緩やかな流れをつくりだした。同じ良馬場で行われた昨年が59秒4だから、今年がいかにスローペースであり、ヨーイドンの瞬発力勝負になったかが分かる。スローペースの長距離戦においては、折り合いがついていること、馬群の内の経済コースを走られているかどうかがポイントとなる。そうでない馬たちは、いくらスタミナが問われない遅い流れとはいえ、最後の直線で伸びあぐねてしまうことになる。

メジロマックイーンとライスシャワー、テイエムオペラオーに続き、フェノーメノが天皇賞春を連覇した。この事実だけで、フェノーメノの強さと偉大さが分かる。しかも、昨年の上がりの掛かる競馬と今年の瞬発力勝負のレースのいずれをも制してのものだけに、より価値は高い。スピードとスタミナ、パワーを兼ね備えているだけではなく、2度の坂越えを乗り越えるだけの精神力と執念が並外れている。絶好調であった昨年には及ばなかったが、休み明けをひと叩きされてガラッと変わるあたりも、ライスシャワーを彷彿とさせていかにもステイヤーらしい。このあとは馬の様子を見て、宝塚記念ではなく、秋の凱旋門賞を目指してほしい。

蛯名正義騎手は、皐月賞のイスラボニータに次いで、春のG1レースを連勝することになった。今回も道中の位置取りから仕掛けのタイミングまで完璧で、円熟の域に達したベテランが気を吐いている。思い返せば、ステージチャンプでライスシャワーを差し切ったと勘違いしてガッツポーズをしてしまったあの天皇賞春から19年の歳月が流れた。これだけの長い間、一線級として活躍し続けていることが驚きで、さらに最近は新しい馬の追い方を取り入れているように、(周りにどう言われようが)常に進化していこうとする姿勢が何よりも素晴らしい。もし日本馬に日本人ジョッキーが乗って凱旋門賞を制することがあるとすれば、それは2着2回の実績がある蛯名正義騎手なのかもしれない。

ウインバリアシオンはワンパンチ足りない走りで惜敗した。一昨年の3着から着順を上げているように、屈腱炎を乗り越えて、完全復調した。急きょ乗り替わりとなった武幸四郎騎手は、ウインバリアシオンをレースの流れに乗せて、ソツなく導いたが、その分、勝ち馬には及ばなかった。勝った相手が一枚上だったと認める反面、思い切ったレースをしなければ出し抜くことはできないだろう。

3着に突っ込んだホッコーブレーヴは決してフロックではない。父マーベラスサンデーは名ジャンパーを出しているようにスタミナの血を伝える種牡馬であり、母父のダンシングブレーヴは凱旋門賞を勝った名馬である。距離が延びれば延びるほど良いタイプであり、ここにきて力をつけてきている。田辺裕信騎手も内ラチ沿いで脚をため、追い出しをギリギリまで待って、この馬の末脚を引き出した見事な騎乗であった。

圧倒的1番人気に推されたキズナは、最後の直線でいつもの伸びがなかった。展開的に厳しかったことに加え、上位の馬たちとは距離適性の差が出てしまった。キズナにとって3200mの距離が長すぎることはないのだが、母父にストームキャットが入っており、この馬の切れ味が生きるのは2400mまでであろう。日本ダービーを勝った頃に比べ、トモに筋肉が付いてパワーアップしていることは確かだが、そのことがかえって距離適性を縮めることもある。2014年は無敗で行くとか日本最強馬を名乗るのはまだ早計か。

ゴールドシップはゲートで暴れて、スタートで立ち遅れてしまった。昨年の流れであれば巻き返せたかもしれないが、今年は万事休す。C・ウイリアムズ騎手は直線で止まらない心臓の強さを生かしたかっただろうが、そのプランも一瞬にして水の泡と消えた。そもそも、ゲートで暴れたことや行き脚がつかなかったことを見ると、前走とは打って変わって、今回は馬が走ることを嫌っていたようだ。昨年秋の不振を乗り越えて、今年は精神的にもリフレッシュされたと思っていただけに、この馬の難しさが身に染みる。陣営やジョッキーはなおさらだろう。

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ヤエノムテキやサクラユタカオーを連想させる

Satsukisyo2014 by 三浦晃一
皐月賞2014-観戦記-
大外枠からウインフルブルームが逃げを打ち、前半1000mが60秒2、59秒4という、ほぼ平均ペースで道中は流れた。脚質による大きな有利不利はないが、直線が短い小回りコースだけあって、外枠から先行するために脚を使ってしまった馬と後ろから行き過ぎた馬たちにとっては厳しいレースとなった。勝ち馬と2着馬の差は枠順のそれでもあり、もし枠順が逆であったら着順も逆になっていたかもしれない。それぐらいに、2番枠と17番枠を引いた馬の間には決定的な差があり、かなりの力差がなければ大外の馬が勝ち切ることは至難の業である。

勝ったイスラボニータにとっては全てが上手く運んだ。外の有力馬たちがポジション取りに四苦八苦するのを横目に、先行集団と後方集団の間のポケットを伸び伸びと走っていた。直線に向いても抜群の手応えで、前を行くトゥザワールドやウインフルブルームらをあっさりと突き放して完勝。この馬の良さは、スピードとパワーがありながら、筋肉が柔らかく、バネの利いた、実に収縮性に富んだ走りをすること。オールドファンなら分かってもらえるはずだが、ヤエノムテキやサクラユタカオーを連想させる馬である。ただ、こういうタイプの馬は距離に限界があることが多く、日本ダービーはその点で半信半疑である。

枠順が決まった時点で、蛯名正義騎手はこういう競馬を思い描いていたはず。道中で引っ掛かる素振りも見せず、馬の行く気に任せて、レースの流れに完璧に乗っていた。スタートが抜群で、かつ先行力があり、騎手としても乗りやすい馬である。中山2000mはトリッキーなコースだが、イスラボニータのような器用な馬に乗っていると、ジョッキーも安心して騎乗できる。最後の直線では、関西のリーディング川田将雅騎手との迫力のある追い比べとなったが、全く引けを取ることがなかった。果たして今年こそ、これまで涙を呑んできた悲願の日本ダービーに手が届くのだろうか。

連勝が途切れてしまったトゥザワールドは枠順に負けたと言ってもよい。馬が非常に賢く、ハンドルが利くからこそ、今回のようなレースができて2着を確保したが、スタートから第1コーナーまでに脚を使ってしまったことで、最後の詰めが甘くなってしまった。勝ったイスラボニータに匹敵するかそれ以上の実力がある。全兄のトゥザグローリーに比べると重心が低い馬体のため(手足が短い)、2000mがベストであり、距離が延びる日本ダービーは最適とは言いがたい。また、連勝が途切れたことによる精神面の反動も、日本ダービーに向けた心配材料となる。

逆に日本ダービーに王手をかけたのがワンアンドオンリーではないか。完成度の高い他の有力馬たちに比べるとトモの肉付きが悪いため、前半は追走に苦労していたが、最後の直線では脚色の違う末脚を繰り出して4着に追い込んだ。このあたりは若駒の頃の父ハーツクライを彷彿させる。この馬自身、坂路調教でも速いタイムが出るようになってきているので、日本ダービーまでにさらに負荷を掛け、トモにもっと実が入ってくれば、距離が延びる本番では、少し前のポジションで追走でき、さらに切れる末脚を使えるようになる。

ウインフルブルームは、スタートしてから先頭に行き切った分、道中はマイペースで経済コースを走ることができた。朝日杯フューチュリティSでもハイペースを粘り込んだように、一瞬の切れ味には欠けるが、どんなペースになっても大崩れしない渋太さがある。馬体も研ぎ澄まされていた。アジアエクスプレスは、戸崎圭太騎手に導かれ、道中は2番手を追走。積極的にというよりは、外枠発走の不利を最小限に抑えるとすれば、この乗り方しかなかった。ただ、その分、この馬のリズムで走ることができず、道中ずっと脚を使ってしまい、本来の力強い末脚を発揮することができなかった。この馬もトゥザワールド同様に外枠に泣かされた。

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流星ひとつ


桜花賞2014―観戦記―
フクノドリームが終始レースを引っ張り、他の先行馬たちもそれを追いかけたことで、前半マイルが45秒3、後半マイルが48秒0という淀みのない流れとなった。道中の通過順位と最後の着順がそっくりそのまま入れ替わっているように、前に行った馬たちが最後の直線で力尽き、ゴール前で後ろから行った馬たちとの大逆転が起こった。差し・追い込み馬にとっては末脚を発揮しやすい展開であり、最後は力勝負、スタミナの有無が問われたレースでもあった。

勝ったハープスターは、実力通りの走りを見せて、最後方から大外を回しての直線一気で全馬をごぼう抜きにした。G1レースにもなると、なかなか簡単には勝たせてくれないが、今回はようやく先頭でゴールして初めてのG1タイトルとなった。母父ファルヴラヴの良さが出た力強い馬体は、3歳馬のそれとは思えず、まるで古馬の牡馬のようである。その分、ベストな距離はマイル前後であり、完成度の違いでこなしてしまうだろうが、距離が延びる次走オークスに向けては若干の心配が残る。それにしても、松田博調教師の管理馬は桜花賞の舞台に強い。調教法と阪神のマイル戦で求められる資質が見事にマッチしている。

川田将雅騎手は本当に久しぶりにG1レースを勝利した。騎乗技術は年々アップしているにもかかわらず、G1レースに関しては何度も大きなチャンスを逃してきただけに、まずはひと安心といったところか。今回も決して簡単な騎乗だったわけではなく、阪神ジュベナイルFで馬群に入れて追走してしまったことの反省を生かし、前走のチューリップ賞と同様に、ポツンと最後方を走らせ、最後の末脚に賭けた。現時点でのハープスターの切れ味を生かすには、こういったレースがベストである。この先、牡馬や古馬との対戦や凱旋門賞に挑戦するにあたっては、どこかでモデルチェンジをしなければならないときが来るだろう。

ゴール寸前に交わされてしまったが、レッドリヴェールは休み明けを感じさせない好走であった。道中は力みなく追走していたし、追い出されてからも最後まで伸び切った。仕上がりがパーフェクトであったことに加え、この馬の精神面における強さをはっきりと示したレースであった。ハープスターばかりに注目は行ってしまったが、この馬も負けじと強い。今後の不安材料として、連勝が途切れてしまったことにより、気持ちが切れてしまうことが挙げられる。連勝している間は、馬も人間も張りつめているが、負けたことをきっかけとしてこれまでの疲れが噴出してしまうことはよくある。次走オークスでは、目に見えない疲れをどう克服するかがポイントとなる。

ヌ―ヴォレコルトは、父ハーツクライ譲りの豊富なスタミナを生かして3着と健闘した。上位2頭とは力が一枚も二枚も違う印象だが、この馬自身も現時点での力は出し切っている。馬体には成長の余地を多く残しているため、秋や来年の活躍を大いに期待したい。負けた馬たちの中で、最も強いレースをしたのはホウライアキコではないか。中団の前目を追走して、厳しい展開になったにもかかわらず、最後まで粘り通していた。この馬はNHKマイルCに行けばチャンスはある。ベルカントは外枠発走やスタミナ不安を考慮に入れて後ろから行ってみたが、掲示板に載ることはできなかった。もっとも普段通りの逃げを選択していたら、もっと崩れてしまっていたはずだ。そういった意味では、武豊騎手とベルカント陣営の好判断とも言える。

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よくぞやってくれた


高松宮記念2014-観戦記-
逃げ宣言をしていたハクサンムーンが出遅れたことで、意外にもエイシントップが先頭に立ち、それにレディオブオペラが続き、大方の予想とは違った序盤の争いとなった。こういう不良馬場のスプリント戦においては、圧倒的に前に行った馬が有利となる。なぜなら、直線に向いたときには、すでにどの馬も脚が上がってしまっていて、そのまま粘り込む、つまりほとんど着順が変わらないことが多いからである。たとえば、昨年の高松宮記念のレースラップと比べてみると分かりやすい。

11.9 - 11.0 - 11.4 - 11.2 - 11.0 - 11.6  1:08.1レコード
12.1 - 10.7 - 11.7 - 11.9 - 12.6 - 13.2  1:12.2

上が昨年、良馬場で行われ、ロードカナロアが勝ったレースであり、下が今年である。全体時計には4秒以上の差があるにもかかわらず、前半の4ハロン目まではほとんど違いがない(2ハロン目は今年の方が速いぐらい)。大きな違いは、最後の直線に向いたラスト2ハロンにあることが分かる。スタミナを要する不良馬場を全力で追走してきて、ラストはどの馬もバテて、歩いてしまっている。こんな状態では、自らがゴールまでたどり着くことで精一杯で、前の馬を交わすどころではない。

勝ったコパノリチャードは3番手の内を追走し、直線で抜け出した。馬場の恩恵を受けたことも確かだが、前走もハイペースを逃げて突き放したように、父ダイワメジャー譲りのスピードとそれを支える母父トニービンから受け継いだスタミナが絶妙のバランスで融合してきている。また今回は逃げなくとも結果が出たように、精神面における成長も著しい。まだ4歳馬であり、馬体にも成長の余地を残しているだけに、今年は充実の年になるのではないか。

M・デムーロ騎手は迷いなく馬場の悪いところを走らせ、直線に向いても馬を真っ直ぐにゴールインさせた。馬をキッチリとコントロールする技術は、馬がハミを頼って走りたがるこういった道悪馬場でこそ生きてくる。ゴールインした瞬間に久しぶりにヒコーキポーズを披露してくれ、危険だと眉をひそめる面々もいるかもしれないが、私はひそかによくぞやってくれたと思っている。ずぶずぶの関係の中で既得権益を守ろうとする者たちや新参者を拒もうとする社会に対するアンチテーゼに思えてならない。M・デムーロほどのジョッキーの騎乗を目の前で見られることに、私たちはもっと感謝するべきなのだ。

1番人気に推されたストレイトガールは、この馬場の中、外からよく差してきている。良馬場であれば突き抜けていた可能性は十分にあるが、今回ばかりは運がなかった。外から追い込んできたスノードラゴンは強い競馬をしている。ダート路線で培ったパワーや我慢強さが生きたことはあるが、今後は芝の短距離の差し馬として活躍が見込まれる。ハクサンムーンはスタートのタイミングが合わなかったように、気持ちの面で難しさが出てきているのだろう。スプリンターは気持ちで走るだけに、精神面で萎えてしまうと途端に走らなくなるし、ピークの期間も短い。

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衰えたなんて誰が言った?


有馬記念2013-観戦記-
ルルーシュが果敢に先頭に立ち、カレンミロティックがそれを追いかける形で、前半1000mが60秒2(最初の100mは除く)、後半60秒8という平均ペースでレースは流れた。特に速くも遅くもないペースではあったが、オルフェーヴルが早めに捲くり切ったことで、先行した馬たちは早々に飲み込まれ、2着争いは後ろから行った馬たちにやや有利に働いた。その中でも、豊富なスタミナに支えられたウインバリアシオンとゴールドシップの2頭の末脚が僅かに勝った。オルフェーヴルが2、3着馬につけた差は8馬身。別世界を走るサラブレッドのようであった。

引っ掛かるのを恐れたのか、オルフェーヴルは後方からのレースとなったが、勝負所で上がっていくときの勢いが他馬とは違った。選ばれしサラブレッドたちがトップスピードに乗る有馬記念の最終コーナーを、折り合いを欠いてではなく、ジョッキーが引っ張りながら捲くるのだから凄い。最後の直線に向いて、後続との差を拡げてゆく姿は圧巻のひと言。これが2年間にわたって世界に挑み続けてきた馬とそうでない馬との差ということだ。昨年に比べて衰えがあるとも評されていたが、年を重ねてさらに成長、進化していることを証明した。父ステイゴールドも晩成型の馬であり、その力の源は決して衰えることのなかった闘争心にあった。オルフェーヴルはその長所を余すところなく受け継ぎ、肉体面では父を遥かに凌駕し、日本競馬史上でおそらく最も強い馬となった。

私たちがもう1度考えなければならないのは、このオルフェーヴルでさえも凱旋門賞を勝てなかったということだ。しかも2度挑戦して。昨年のオルフェーヴルは体調が下降線を辿っていたことで最後に失速し、今年はさらに成長し、仕上がりも完璧であったにもかかわらず、斤量差を生かした3歳牝馬の後塵を拝した。おそらく昨年の相手が今年の相手であったら、もしくは今年の体調(状態)で昨年走れていたら、勝っていたはずである。まさにタラレバの世界であり、取り返しのつかない過去の話である。私たちに残されたメッセージは、もう凱旋門賞を勝つチャンスは限りなく“ない”、ということだ。決して悲観しているわけではない。日本古来の血統から生まれ、日本で育成・調教された馬が海を渡って凱旋門賞で2度も2着したのだから、このことはもう十分に誇っていい。ただ、私たちはそろそろ新しい物語を見つけてもよいのではないだろうか。

ウインバリアシオンは、同世代にオルフェーヴルがいたことを恨むしかない。しかし、この馬の持つ堅実な末脚は、オルフェーヴルが先団を捲くり切ってくれるからこそ発揮されるとも考えられる。オルフェーヴルがいないこれからの課題は、自ら動いて、自らの脚力で差し切るレースをすることだ。岩田康誠騎手もこの馬の特性を活かし、見事に2着を拾った。技ありの騎乗であった。

昨年の覇者ゴールドシップは、オルフェーヴルには格の違いをみせつけられ、ウインバリアシオンは足元をすくわれて3着。宝塚記念を無理して勝った反動から、この秋は精神的に走れる状態にはなかったが、それでも少しずつ復調の兆しを見せている。この馬は気持ちで走るタイプなので、この冬はゆっくりと休ませて、気持ちを癒して、来年の春に備えてもらいたい。そうすれば、天皇賞春を勝てる馬である。

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日本人騎手には見当たらない

Asahihaifs2013 by Scrap
朝日杯フューチュリティS2013-観戦記-
牝馬であるベルカントが好枠から飛び出し、前半4ハロンが46秒8、後半が47秒9という、朝日杯フューチュリティSとしては通常のハイペースでレースを引っ張った。最終コーナーまで淀みない流れが続き、最後の直線で先行勢が失速するのを尻目に、道中は中団で脚を溜めていた馬たちの差しが決まった。スピードの持続力が問われる展開となり、軽い芝を滅法得意とするサンデーサイレンス系よりも、ダートに適性がありそうな非サンデーサイレンス系の血統馬たちの好走が目立った。

驚くべきことに、勝ったアジアエクスプレスはこれが初芝のレース。どれだけ芝の方が合いそうな手脚が長く、筋肉の柔らかい馬体をしていたとしても、初めての芝のレースがG1となれば話は別である。レースの流れから求められる走法まで、全てが初めての経験の中で勝ち切ったことは、この馬の潜在能力の高さを物語っている。マイナス8kgと、厩舎としても渾身の仕上げであったことも確か。それでも、全てがこの馬の強さかというとそうではないだろう。鞍上がR・ムーア騎手だからこそ勝ち切れたのだ。逆に言えば、アジアエクスプレスは能力以上のものを出し切ってしまったということであり、R・ムーア騎手が乗らなくなる(だろう)来年こそが試金石となる。

R・ムーア騎手は、ジャパンカップに引き続き、今季G1レース2勝目となった。きっちり仕事を果たしたジェンティルドンナのジャパンカップとは違い、今回はR・ムーア騎手にしかできない芸当を見せてくれた、というのが正直な感想である。特筆すべきは、勝負所で馬にハミを掛けて追い出してからの力強さ。昔、日本でよく言われていた剛腕という表現が恥ずかしくなるほどの力強さで、馬をプッシュしていくその姿には凄みを感じざるをえない。おそらく日本人騎手は口には出さないだろうが、この馬をこのような形で持ってこられてしまうと、もうグウの音も出ない。同じように勝たせることのできるジョッキーを探してみても、残念ながら日本人騎手には見当たらない。

ショウナンアチーヴは、レースの流れにスムーズに乗り、自身の力はきっちりと出し切った。33秒台の速い上がりになると厳しいが、ラストはコンスタントに脚を使う馬だけに、道中の流れが厳しく上がりが掛かったことがプラスに働いた。後藤浩輝騎手にとっても、思い描いていたとおりの騎乗だったのではないだろうか。勝ち馬とは、外に出して脚を使い始めたタイミングの差だけであったが、早めに動いて押し切るスタイルを貫いての敗北だけに、自身も納得がゆくはずだ。勝ちたくて仕方がなかったはずだが、R・ムーア騎手を祝福する後藤騎手を見て、ジョッキーとしてだけではない人間としての成長を感じた。

1番人気のアトムは中団を追走したが、直線では思ったほど伸びず。448kgの馬体重が示しているように、このメンバーに入ると現時点ではパワー不足は否めない。地方馬のプレイアンドリアルは先行して押し切りを計ったが、厳しい展開になってしまい、さすがに後続の勢いに飲み込まれてしまった。地方に所属していることで、環境が変わったり、調整が難しいことを含め、能力が一枚は抜けていないと中央のG1を勝ち切ることは難しい。牝馬ベルカントはラスト200mぐらいまで粘っていたように、牡馬に混じっても見劣りしないスピードとパワーがあることを証明してみせた。耳の動きを見ていると、まだ真剣に走っていないようなところもあるので、精神面での成長があれば将来が非常に楽しみになってくる。

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勝負強さとして

Hanshinjf2013 by M.H
阪神ジュベナイルF2013―観戦記―
ニホンピロアンバーが逃げ、ダイヤモンドハイ、スイートガーデンにホウライアキコが続く形で、前半の半マイルが46秒3、後半が47秒6というハイペースでレースは流れた。前後半の落差が2秒4もあった昨年ほどではないが、後方から追走した差し馬にとってはおあつらえ向きの展開となり、直線半ばで先行集団と後方の有力馬たちの形勢が一気に逆転した。最後は3頭の激しい叩き合い。わずかにレッドリヴェールに軍配が上がった。

レッドリヴェールはマイナス8kgと完璧に仕上がった馬体で、最高の走りを見せてハナ差の勝負を制してみせた。新馬戦の上がりが33秒3、札幌2歳Sの上がりが41秒3という、(馬場こそ違え)勝ち馬に求められる資質が全く異なる2つのレースを連勝した時点で、この馬がG1級の力の持ち主であることは明らかであり、今回は究極の仕上げも加わって、その能力を証明してみせた。ステイゴールドの産駒は気性的に激しいところがあり、それがレースに行っての勝負強さとして現われたが、今後は飼い葉食いが落ちないように精神面を十分にケアしていく必要がある。

戸崎圭太騎手は、中央競馬に移籍してから初めてのG1制覇となった。もはや時間の問題であった感はあるが、今回は関西の須貝厩舎からのオファーに見事一発で応えてみせた。ラストのハナ差は戸崎圭太騎手だからこそ残せたと言っても過言ではなく、さすが百戦錬磨のジョッキーである。南関東出身の先輩である内田博幸騎手よりも馬への当たりが柔らかく、地方のダート競馬よりもむしろ中央のレースの方が合っているのではないか。これを機に、関西馬への騎乗は増えてゆくはずで、戸崎圭太騎手が関西馬に乗り替わるタイミングには注目していきたい。

1番人気を裏切る形となったハープスターだが、この馬自身の力は出し切った。前走のような上がりの極端に速い競馬ではなく、G1らしくスタミナも問われる流れになったことで末脚はやや鈍ったものの、それでも脚色が最も良かったのはこの馬であった。あえて言えば、スタートが良かったこともあり、優等生的な競馬をしてしまっていた。もう少し後ろから馬群の外を走らせて、ゆったりとエンジンを掛けていけば、もっと切れたはず。走ったコースの内外の問題ではなく、こういうタイプの馬は馬群に入れるよりも、1頭でポツンと走らせた方が切れ味を引き出せる。と言うのは簡単だが、大一番で、最後方からポツンと大外を回すことは案外難しい。

フォーエバーモアは、思っていたよりも走ったというのが正直なところだろう。まだ緩さがあり、体を持て余しているところはあるが、それでもここまで走るのだから将来性は高い。上位3頭と同じく、距離が延びてさらに良さが出そうなタイプだけに、来年の桜花賞やオークスに向けて馬体を成長させていけば、実に楽しみな馬が登場した。

ホウライアキコは大外枠からの発走も影響なく乗り切り、引っ掛かることもなくレースの流れに乗っていた。追い出すタイミングも申し分なかったが、前走とはレースのレベルが違うため、道中で身体が伸び切って追走していた分、ラストの伸びを欠いてしまった。最後の直線の急坂も応えたかもしれない。とはいえ、決して単調なスピード馬ではないので、今後、NHKマイルCに照準を絞っていけば巻き返せるチャンスはあるはず。

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静と動


JCダート2013―観戦記―
これといって逃げを主張する馬もおらず、内枠からスタートを切ったエスポワールシチーが自然と先頭に立ち、前半の800mが49秒2、後半800mが48秒8という、ほぼフラットなペースを作り出した。前に行ったと後ろから追走した馬の間に大きな差はなく、レースの綾や展開による有利不利のない、最後は実力が素直に反映される力勝負となった。

勝ったベルシャザールは、芝よりもダートに適性があることを証明してみせた。松田国英厩舎の先輩であるクロフネほどの圧倒的な力はないが、ダート戦であれば、どんなレースをしても確実に伸びてくる末脚がある。芝からダートに舞台が変わったことで、それまでは重さとしてマイナスに働いていた雄大すぎる馬体が、パワーとして十全に発揮されるようになった。そして、この馬がダート馬であることの何よりの証明は、前走の武蔵野Sのレースにて、馬群の内で砂を被りながらも怯むところが全くなかったこと。ダートを走るパワーやスピードはあっても、意外と砂を被るとダメという馬は多いのだ。

C・ルメール騎手にとっては、日本での久しぶりのG1勝利となった。よほど嬉しかったのだろう、ゴールしてからも、何度も、ガッツポーズを繰り返していた。それだけ、ベルシャザールで勝てる、勝ちたいという手応えを感じていたとも言える。今回の騎乗に関しては、2008年のJCダートでカネヒキリを勝たせたときに見せた、いつの間にか内に入れるという神がかったコース取りがあったわけではないが、道中はきっちり馬を抑えて脚を溜め、追い出してからは最後まで真っ直ぐ伸ばすという、静と動のメリハリが利いていた。

好騎乗ということで言えば、2着に突っ込んだワンダーアキュートの武豊騎手である。和田竜二騎手から手が替わって、3戦とも先行して味がないレースを繰り返していただけに、今回は脚をためる作戦にシフトしてみせたことが功を奏した。こういった大きなレースで、失敗を覚悟で思い切った乗り方ができるのは武豊騎手ならでは。敗れはしたものの、普通に乗っていたらホッコータルマエには先着していなかっただろう。今年に入って、武豊騎手の凄さが垣間見えるレースが少しずつ増えてきて、素直に嬉しい。

3着に敗れたホッコータルマエは、圧倒的な1番人気を背負っていたことで、無難な乗り方をしてしまった。レースの流れに乗り、極めて無難なポジションで、無難なタイミングで仕掛け始めた。決して幸英明騎手の乗り方が悪いということではなく、無難に乗って勝てるほどにはホッコータルマエの力は抜けていなかったということだ。連勝が途切れた反動があったはずの前走を勝ってしまったことで、今回は目に見えない疲れが残っていたという敗因もある。負けて悲観するべきではなく、ゆっくりともう1度立て直していけば、どんなレースからでも抜け出せるダートの鬼になれるはずの馬である。

ローマンレジェンドはどうしたものだろう。道中は最高のポジションでレースを進めていたが、3分3厘から、岩田康誠騎手がゴーサインを出して上がっていこうにも、既に手応えがなかった。手脚が長く、フットワークの大きな馬が窮屈な走りを強いられたせいもあるが、根本的な敗因としては、馬が重かったということに尽きるのではないか。アメリカ馬であるパンツオンファイアは、スタートから見せ場なく最下位。アメリカの土と日本の砂の差はかくも大きい。

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世界の果てまで

Japancup2013 by M.H
ジャパンカップ2013―観戦記―
まさかのエイシンフラッシュが逃げ、前半の1000mが62秒4、後半が58秒1だから、昨年以上の究極のスローペース。まるでヨーロッパの競馬のようであり、馬には我慢できる精神力、そしてジョッキーには馬をガッチリと抑えて脚を溜める技術が問われることになった。馬の力や体調如何はあるにせよ、R・ムーア騎手、W.ビュイック騎手、C.ウィリアムズ騎手、J.スペンサー騎手といった外国人ジョッキーが、混戦の中で上位を占めたのはそういうことだ。浜中俊騎手は日本人として唯一食い込んでおり、肉体的にも技術的にも、海外に通用する若手騎手であることを図らずも示してみせた。

勝ったジェンティルドンナは、好スタートからエイシンフラッシュを見る形で追走し、最後の直線に向くと早め先頭で押し切った。欲を言えば、もう1頭分、内のポジションを走りたかったはずだが、トーセンジョーダンが思わず先行してきたことで、少し外を回る形になった。それでも、エイシンフラッシュを交わすときに久しぶりに見せた、あのスッという一瞬の脚は健在であった。今年の春シーズンは、昨年秋の激走の反動が少なからずあったが、疲れが抜けて、気力が戻ってくれば、牡馬さえも横綱相撲で退けてしまう世界レベルの実力の持ち主である。内外離れたことで際どくなったが、馬体が併さっていれば、世界の果てまで行っても抜かれることはなかった。

R・ムーア騎手は、なんとか仕事をやり遂げたという気持ちだろう。最後は冷や汗ものではあったが、これだけのスローペースに惑わされることなく、道中はガッチリと馬を抑え込んで、最後の直線で力を爆発させた。簡単そうに見えても、並のジョッキーであれば持っていかれていたかもしれないし、馬とケンカして脚を溜めることができなかったかもしれない。そういった意味では、(これだけのスローになることを予測していたわけではないだろうが)乗り替わりはプラスに転じた可能性はある。さすが世界の名手という手綱さばきであった。

デニムアンドルビーは斤量が好走の主な理由である。もともと今年の3歳牝馬世代の中では、メイショウマンボに引けを取らない、もしくはそれ以上の走力の持ち主だが、小さい馬体がネックとなってきた。今回は53kgという(馬体重の12%をやや超える程度の)斤量に恵まれたおかげで、このメンバーに入ってのパンチ力不足を補うことができた。もちろん、浜中俊騎手の馬を抑える技術、追う技術が高い次元にあることもデニムアンドルビーの好走に貢献したことも確か。今後、G1レースを勝ち切るためには、もう少し馬体重を増やしてパワーアップする必要がある。

ゴールドシップは気持ちが走る方に向いていない。馬群から離れて追走し、内田博幸騎手に追っつけられても反応しなかった。さすがにここまで動かないと、ジョッキーとしては成す術がない。気持ちで走るタイプだけに、気力が戻ってくれば、有馬記念はあっさりということもあるはず。エイシンフラッシュはまさか逃げることになるとは思わなかったが、それはM・デムーロ騎手も同じだろう。いつもより前のポジションを取ろうと思ったことが裏目に出てしまった。レース全体としては、この馬向きの展開になっただけに、最初からガッチリ抑える競馬に徹していればチャンスは大きかったはずである。関係者にとっては悔やんでも悔やみきれないレースだろう。

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パーフェクトライド


マイルCS2013―観戦記―
ダッシュ良く飛び出したコパノリチャードに後続が一斉に続き、凝縮した馬群のまま最終コーナーまで進んだ。前半の半マイルが46秒8、後半が45秒6と、前後半の落差が1秒2もある、マイルのG1レースにしてはかなり遅いペース。これ程までの後傾ラップは、カンパニーが勝った2009年のマイルCSぐらいしか記憶にない。あの時は逃げたマイネルファルケが2着に粘り、勝ったカンパニーは好位のインを進んでいたように、今年も基本的には内ラチ沿いを走った先行馬たちにとって有利なレースとなった。

そんな流れの中、後方からラスト3ハロン33秒3の末脚を使って差し切ったトーセンラーは、このメンバーでは力が一枚上であった。さすがオルフェーヴルやゴールドシップ、フェノーメノらと覇を競ってきただけのことはある。これぐらいスタミナと底力に支えられた馬がマイル戦に出走してきたら、単なるマイラーでは歯が立たない。初めてのマイル戦でも引っ掛かる姿を見せていたように、肉体的にも気持ちの面でも、陣営がトーセンラーをマイル仕様に造り変えてきたことが分かる。中距離以上になると、前述の馬たちとの底力の差が出てしまうので、今後はマイル路線を歩むのが正解だろう。

武豊騎手は見事にトーセンラーを勝利に導いた。なだめるのに苦労するぐらいの行きっぷりで、最後の直線で弾けそうな手応えを感じていたからこそ、終始落ち着いて騎乗することができたはず。特筆すべきは4コーナーの回り方。スローペースを知って、少しでもロスを減らしたいという思いからか、ふた呼吸ほど仕掛けるタイミングを我慢し、直線に向いてから斜に進路を取るように外へ出した。道中の馬の抑え方といい、コーナリングや進路の取り方といい、ゴールする瞬間をマックスのスピードにもっていく追い出しといい、全盛期を彷彿させるパーフェクトライドであった。

内から伸びたダイワマッジョーレは、この馬の持てる力を発揮しての2着。少しずつ成長を遂げているし、常に全力を出し切るのがこの馬の良さ。ややズブいところがあるので、距離はマイル以上の方が合う。ペースが落ち着くことを読んでいたのか、枠順を活かしたかったのか、スタートから積極的に出していった蛯名正義騎手のポジショニングも光った。敢えて言うならば、第4コーナーを回ったところで、一瞬内を突こうとして前が詰まったことが勿体なかった。あそこは内が閉まると判断するべきであったはず。

1番人気に推されたダノンシャークは、最後まで差を詰めているが勝ち切れず。外枠だったこともあり、終始馬群の外を回されたことも響いて、人気に応えることはできなかった。福永祐一騎手もソツなく乗っているが、これ以上の着順に持ってくるのは難しかっただろう。いずれにせよ、ダノンシャーク自身がワンパンチ足りないということである。これからは関西の競馬場でマイル前後の距離を使いながら、馬体を増やしていくことを主眼に置くべき。そうすれば、G1レースには手が届かなくても、重賞の1つか2つは確実に勝てるはず。

初の全国リーディングを目指す川田将雅騎手が騎乗したクラレントは、直線で追われるも意外と伸びずに失速してしまった。道中で舌がハミを越していたように、レースに集中できていなかったようだ。得意とするスローの流れになっただけに、今回は中間の調整に狂いがあったのではないだろうか。驚かされたのは、ほぼ最後方から5着に突っ込んだドナウブルー。あれだけ使い込まれながらも、ここに来て馬体が充実してきている。血統は侮れない。

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メイショウマンボに乗っているときが一番上手い。


エリザベス女王杯2013―観戦記―
ハナを切ったエディンに続く先行集団がごった返し、中団以降との間にパックリと間が開くという珍しい展開でレースは進んだ。中盤のペースは緩み、前後半に分けてみても、前半1000mが62秒7、後半が60秒4というスローに流れた。それでも、前に行った馬も後ろから差して来た馬も好走しており、道中のポジションというよりは、重馬場の巧拙とスローペースの我慢比べにおける精神力が問われたレースであった。

秋華賞からの連勝となったメイショウマンボには強いのひと言しかない。どんな距離でも、確実に末脚が切れる。スタートしてからの前進気勢にも優れているし、道中で折り合いを欠くこともなく、勝負所でゴーサインを出すと体を大きく使って、ゴールまで伸びる。血統も馬体も地味だが、レースに行けば、他馬に付け入る隙を与えない走りをするのだから驚きである。今思えば、フィリーズレビューを勝ったから短距離の差し馬なのではなく、距離延びて良い馬がフィリーズレビューを勝ったということなのだ。今回のレースでも、外を回して早めに動きながらの完勝だけに、もはやジェンティルドンナを脅かす存在に躍り出たと言っても過言ではない。

武幸四郎騎手は、この馬とのコンビで既にG1レース3勝を挙げた。さすがに今回は挑戦者の立場ではなかったのでプレッシャーはあったに違いないが、メイショウマンボの操作性があまりにも良いこともあって、実に冷静に堂々とした騎乗を見せてくれた。内の馬場が重かったため、馬群の外へ出すタイミングだけが唯一の心配材料だったが、馬群が前後に割れた先頭を走ることができたことで、すんなりと外に出すことができた。ひと昔前に、故野平祐二氏が「和田竜二騎手はテイエムオペラオーに乗っているときが一番上手い」と表現していたが、まさに武幸四郎騎手もメイショウマンボに乗っているときが一番上手い。

ラキシスは先行グループから唯一抜け出して連対した。こういった馬場はあまり得意ではないはずだが、最後まで脚を伸ばした走りは今後につながるはず。結果的に3歳世代のワンツーとなり、今年の3歳世代の牝馬の優秀さを示すことになった。もちろん、ラキシスの大駆けの要因のひとつとして、特に今年は乗れている川田将雅騎手の手腕も挙げられる。騎座がしっかりしており、きっちりと馬を追える川田騎手だからこそ、こういった走りにくい馬場でも好走することができた。今年のリーディング争いは、最後には福永祐一騎手との一騎打ちになるだろう。

1番人気のヴィルシーナはいつもの行きっぷりがなく、追い出されてからの反応も今ひとつ。こうした重い馬場ではこの馬の一瞬のスピードが生きない。それでも、これだけ大きく負けた以上、本質的な敗因としては、馬体に余裕がありすぎたということだろう。デニムアンドルビーはいつも通り後方からレースを進め、最後は伸びてきてはいるが掲示板まで。G1レースで突き抜けるためには、もうひと回り馬体に成長がほしいところ。3着に入ったアロマティコは良く伸びてきたが、勝ち馬と同じ脚色になってしまった。道中のポジション次第でチャンスはあったが、本来、良馬場で切れるタイプであり、この馬も馬場に泣いた。

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一味違う

Tennosyoaki2013 by 三浦晃一
天皇賞秋2013―観戦記―
逃げ切り3連勝中のトウケイヘイローが難なくハナを切ったと思いきや、外からジェンティルドンナがピッタリとマークし、他馬もそれに追随する形で、序盤から激しい攻防が繰り広げられた。前半の1000mが58秒4、後半が59秒1というハイに近い平均ペースではあるが、人気馬が前にいた分、後続の意識も前傾気味になり、前に行った馬たちにとってはやや苦しい展開となった。

そんな中、スタートからゴールまで、近くに馬がいないスペースを保ちつつ、これ以上ないぐらいに自分のリズムで走ることができたジャスタウェイが、最後の直線で突き抜けた。勝つときはこんなものかもしれないが、なかなか勝ち切れなかった馬が大一番で最高の走りをしてみせた。父ハーツクライがそうであったように、古馬になって、トモに力がついてきたことで前に行けるようになった。道中で少しでも急かしてしまう(動かしてしまう)と、極端に末脚が鈍る馬だけに、馬なりで中団に位置できたことが大きい。仕掛けることなく、今回のようなポジションを取れるようになったのであれば、この先の活躍も大いに期待できる。

福永祐一騎手は、先週の菊花賞に続き、2週連続のG1レース制覇となった。馬の力が違いすぎた先週とは違い、今週は本人にとっても非の打ち所のない勝利であったはず。道中で馬に負荷を掛けず(マイナスを極力減らして)直線まで持ってくる騎乗スタイルは、福永祐一騎手の真骨頂といえる。かつある程度は前傾姿勢を保ち、必要不可欠なポジションは失わない。大舞台でのパンチ力不足にあえいでいたこれまでとは一味違い、アメリカ競馬で吸収してきたことを含め、ここ最近はこれらのバランスが見事に融合しつつある。

ジェンティルドンナは牡馬顔負けの正攻法で一旦は先頭に立ったが、ジャスタウェイの激走の前に、なす術もなく敗れてしまった。武豊トウケイヘイローを深追いしすぎたこと、そして何と言ってもぶっつけでのG1出走ということもあり、負けて強しと考えてよいだろう。馬体は仕上がっていたので大きな上積みはないだろうが、ひと叩きされて、これでジャパンカップ連覇に向けて王手をかけた。岩田康誠騎手は、逃げ馬に離されるのを嫌ったのだろうが、断然の1番人気を背負ったレースの組み立てとしてはやや単調だった感は否めない。

エイシンフラッシュは最後に差を詰めてきたが3着が精一杯。スローの切れ味勝負には滅法強い馬だけに、今回のような速い流れを追走し、最後まで脚を伸ばした走りは評価されてよい。昨年の天皇賞秋や前走の毎日王冠のようにはハマらなかったが、6歳になっても衰えを見せることなく、まだまだ力をつけてきている。次走のジャパンカップがスローに流れたときは、再びこの馬の末脚が発揮されるかもしれない。

4着に入ったアンコイルドは末脚の強さを最大限に生かすことができた。夏場を使いながら力をつけ、今回マイナス8kgと最高の状態に仕上げてきた陣営の手腕も光った。5着に敗れたものの、3歳馬のコディーノは復調気配。ゴール後にウンベルト・リスポリ騎手が「よくやった」とばかりにコディーノの首筋をポンと叩いてあげていたのが印象的であった。こういう一つひとつの動作が馬の気持ちを立て直すことだってある。

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大器晩成


菊花賞2013-観戦記-
バンデが颯爽とハナを切り、前半61秒2、中盤63秒1、後半61秒0という、ほとんど中緩みを感じさせないラップを刻み、長距離戦としては標準的なペースで道中は流れた。雨が降った影響で、力の要る馬場になったことを考えると、スタミナの絶対値が問われる、つまりごまかしの利かない、実力がそのまま結果に反映された菊花賞であった。また、上位に入った騎手たちの名前を見れば分かるように、重馬場の長距離戦ということで、騎手の技量が問われるレースでもあった。

勝ったエピファネイアは、最後の直線ではムチを1度も使うことがなかったように、力の違いを存分に見せつけた。勝ち切れなかった春のクラシックの鬱憤を、最後の1冠で見事に晴らしてみせた。母父スペシャルウィークの血が騒いだのか、夏を越して、胴部がひと拳分伸びてステイヤーらしくなっていた。肉体面での完成に伴い、精神面も大きく成長したのだろう。スタンド前を通過して落ち着いてからは、舞い上がることなく、かつレースに集中して走っていた。折り合いを欠くことさえなければ、総合力という点ではロゴタイプやキズナよりも上を行く馬で、まさに大器晩成、これからが非常に楽しみな馬である。

福永祐一騎手は、ようやくクラシックの栄冠を手にすることができた。終わってみれば楽勝であったが、そこに至るまでの過程は簡単ではなかったはずで、ホッと胸を撫で下ろしたことだろう。スタートが良すぎたことで、最初のコーナーに向けて、いきなり引っ掛かるシーンも見られたが、スタンド前で他馬の後ろに入れることで落ち着かせた。それ以降は、福永祐一騎手としては、エピファネイアにつかまっていただけで勝ったようなものであり、自分の腕が生きたわけではない。だがこうして強い馬を依頼され、本番でも乗せてもらえるようになったことが、今の福永祐一騎手の全てを物語っている。

サトノノブレスは、スタミナを問われるレースになって、ステイヤーの血が発揮された。神戸新聞杯では動き出すのが遅く、切れ味で負けてしまったが、今回は重馬場と距離で他馬の切れが鈍る分、この馬のスタミナと渋太さが生きた。馬体を見ても、まだまだ成長が見込まれるだけに、古馬になってからの走りに期待したい。馬場が悪いことで、馬群がバラけることを見越して、内にポジションを取った岩田康誠騎手の好判断も光る。最後にバンデをきっちり捕らえたのは、騎手の技量があったからこそである。

3着のバンデは、早めに勝ち馬に来られたにもかかわらず、バテない強みを生かして最後まで粘り切った。逃げ馬としてはこれ以上ないレースをして、力を出し切っての結果と考えてよいだろう。こういう強い長距離の逃げ馬がいると、これからのレースが盛り上がる。この馬も順調に成長して、古馬となった来年の走りが楽しみである。マジェスティハーツは最後方からレースを進め、ラストの切れ味に賭けたが不発に終わった。良馬場であれば、あのポジションでも上位に来られたはずだが、今回の馬場ではさすがに厳しかった。雨が降ったことで、一転して勝ちポジは前となり、大外枠が仇となった。

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前進気勢に優っていた


秋華賞2013-観戦記-
前走で芝1200mを勝っていたビーナストリックが玉砕覚悟の逃げを打ち、それに紫苑Sを逃げ切ったセキシュウが続き、前半58秒9、後半59.7という前傾ペースとなった。掲示板に載った上位馬の道中のポジションを考えると、先行した馬たちにとってはやや苦しい流れであったことが分かる。とはいえ、極端なハイペースではなく、4つコーナーの小回り平坦コースではあり、あまりに後ろから行きすぎても届かない。勝った馬と勝ち切れなかった有力馬の違いは道中の僅かなポジションのそれにあったと言っても過言ではない。

オークスに次ぐG1制覇となったメイショウマンボは、スタートしてから第1コーナーに向かうまでの前進気勢において他の有力馬に優っていた。体型的には距離が伸びてよいタイプだが、1400mのフィリーズレビューを勝っているように、気性面で鋭敏なところがあるのだろう。今回の秋華賞ではそれがプラスの方向に出た。休み明けの前走で、無理をせずに少しだけ負けておいたのも、本番での勝利に結びついた。距離が伸びるエリザベス女王杯は、メイショウマンボの繊細な気性をコントロールできるかどうかにかかっている。

武幸四郎騎手は実にソツなくメイショウマンボをゴールまで導いた。やや行きたがる素振りを見せる馬を柔らかくなだめ、気持ちを削がない程度にハミをかませていた。外からデニムアンドルビーが来たときも、今回は自分の馬の方が手応えが良かったため、前に入られることのないように併走することができた。直線に向いて追い出すと、それまで溜めていた分、きっちり伸びてくれた。これは結果論であるが、前の2頭が飛ばしてくれたことで、馬群が縦に長くなり、外枠からの発送が不利にならなかったことにも恵まれた。

スマートレイアーは良く伸びているが、決して届かない2着。立ち上がり気味のスタートを切ってしまい、思ったようなポジションを取れなかったことが最後まで響いた。ここ数年で武豊騎手が勝ち切れない典型的なパターンでの負け方である。良かった時期は、それでも差し切ってしまうだけの力の違う馬に乗っていたから勝っていたが、騎乗馬の力差がほとんど変わらない状況においては、ほんの僅かなコース取りやポジションが明暗を分けてしまうということだ。たとえ内が伸びないかもしれない馬場であっても、内で詰まってしまう可能性があるとしても、スタートにおけるロスを取り戻すには内を攻めるしかなかったはず。

1番人気に推されたデニムアンドルビーは4着に敗れてしまった。道中の行きっぷりや位置取りはいつも通りとして、今回は勝負所から上がっていくときの行き脚がなかった。最終コーナーで先団に取り付くのがやっとで、直線に向いたときに既に脚は残っていなかった。前走で道悪を激走してしまったことによる、目に見えない反動が少なからずあったはず。今回の結果だけで見限るのは早計だろう。スマートレイアーもそうだが、デニムアンドルビーも気性的にはゆったりしている牝馬なので、もしエリザベス女王杯に出走するようであれば、今回の舞台よりはレースがしやすいはずである。次走に期待したい。

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あまりにも遠い


凱旋門賞2013―観戦記―
自ら率先して逃げる馬は見当たらず、道中は馬群が詰まった形となる、いつもの凱旋門賞らしいスローな流れ。オルフェーブルとキズナの日本馬2頭は、いずれも馬群の外を回す形で折り合いに専念していた。勝ったトレヴをはさんで前後のポジションであり、結果的には、外を回したことによるマイナスはなかったと考えてよい。それよりも、最後の直線に向いてからの、瞬発力勝負における勝ち馬の圧倒的な強さになす術がなかった、というレースであった。

トレヴは5戦無敗で頂点まで登り詰めた。凱旋門賞馬になるためにトレードされたようなものであり、その素質を見抜いたオーナーや極限まで仕上げ切ったトレーナーらの想いが、最後の直線における切れ味として結実した。デットーリ騎手から乗り替わったジャルネ騎手も、ベテランらしく、勝負所を過たずに上がって行き、早めに突き放した騎乗は見事であった。これだけ強くて完璧に仕上げられた牝馬が54.5kgの恵量で切れると、さすがに後続の古馬は追いつけない。世界は広い。

オルフェーヴルは昨年と同じ2着に敗れたが、今年はあきらめのつく敗北であった。昨年と違い、宝塚記念をスキップできたことでコンディションは万全に仕上げられ、それほど極端に外を回されることもなく、持てる力は全て出し切った結果である。やれるべきことはやった。誰もミスはしていない。それを完敗と言ってよいのか表現に苦しむが、つまりは勝ち馬トレヴとの差は斤量のそれであることが誰の目にもはっきりとしたのは確かである。1kg=1馬身と言われるとおりであり、これだけ芝の深い馬場においては、もしかするとそれ以上かもしれない。オルフェーヴルは強かった。

4着に敗れはしたものの、キズナは果てしなく広がる未来を想像させてくれる走りであった。日本ダービーを未完成の状態で勝った馬が、ひと夏を越して、海を超えて、大きく成長したことが伝わってくる。世界の頂点を目指す馬たちとの戦いで、異次元のトレヴは別にして、オルフェーヴルやアンテロに食い下がるようにして伸びた末脚の強靭さは、日本最強馬のバトンを受け取るに相応しい。最終コーナーで、外からオルフェーヴルを閉じ込めるようにして早めにスパートした姿に、武豊騎手の矜持を見た。来年度は、このコンビが日本の競馬場のターフを席巻する姿を見てみたい。

1969年にスピードシンボリと野平祐二騎手が挑戦してから44年の歳月が流れ、日本馬が勝っても負けても、今年はひとつの区切りとなる凱旋門賞であったと思う。過去の挑戦者たちの悔しい想いが積み重なって日本競馬のレベルは上がり、世界に肩を並べようとするところまでやって来たのだ。ディープインパクトのときとは今回は意味が違う。考えうるあらゆる手を打ち、全ては順調に事が運んだにもかかわらず、それでも勝てなかった。遠い、あまりにも遠い。両陣営の関係者は、そう感じたに違いない。また挑戦し続けようなんて軽々しくて言えない。

これはもう力負けではない。日本馬が凱旋門賞を勝つという設定自体に無理があるのではないか。ロンシャンの馬場に合った日本の最強馬を連れていったとしても、同じぐらい強いヨーロッパの3歳馬に斤量差によって足元をすくわれる。かといって、最強の3歳馬を連れて行くにしても、この時期の3歳馬がヨーロッパまで遠征してレースに臨むのはあまりにも苛酷である。ダービーやオークスを勝った疲れもなく、飛行機での輸送や環境の急激な変化にもたえうる3歳馬が、凱旋門賞に挑戦する日は果たしていつだろう。今日の私には、あまりにも遠く思える。

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磐石

Sprinterss2013 by 三浦晃一
スプリンターズS2013―観戦記―
ゲートが開くやハクサンムーンが勢いよく飛び出し、戦前から火花を散らしていたハナ争いをあっさりと制してみせた。フォーエバーマークが控えたことで、ペースは思いの外上がらず、前半32秒9、後半34秒3という普通のハイペース。スプリンターズSとしてはごく平均的な流れであり、展開や馬場に恵まれた馬の少ない、ほぼ実力どおりの結果となった。

勝ったロードカナロアは、このメンバーではスプリント能力が一枚も二枚も違うことを示した。スタート直後に挟まれたが、そこから慌てず騒がずに追走し、最後の直線に向いて仕掛けられると、今回はゴール前でキッチリとハクサンムーンを捕らえてみせた。さすが世界のロードカナロアと称されるだけのことはある。ただ、この秋は追い出してからの反応が全盛期ほどではなく、気持ちの衰えを感じなくはない。残されたあと1戦、サクラバクシンオーに匹敵する最強スプリンターとして、完全燃焼してもらいたい。

岩田康誠騎手にとっても、ここは負けられないレースだったはず。前走のセントウルSの負け方を考えると、ハクサンムーンを深追いしたくなるのが常だが、偶然にもスタートで挟まれて前に行けなかったことも功を奏した。すぐに腹を括り、差しに切り替えることができる判断力が、幾多の修羅場をくぐってきた岩田康誠騎手ならでは。遅れた分を少しでも取り戻そうと、基本に忠実に道中は1頭分でも内に入れて走らせようとしたのも、見えない好プレイであった。

2着のハクサンムーンは最高の逃亡劇を演じ、負けて納得のレースだろう。最初の1ハロンで同型の出鼻を挫くことができれば、あとは自分の型に持ち込めることを知っていたかのような、素晴らしいダッシュであった。これだけのスピードで行かれては、相手が戦意喪失してしまうのも無理はない。今年に入ってから力をつけており、逃げ馬に乗せたら実に巧い酒井学騎手との相性も合っているのだろう。夏を使い込んできただけに、このあとはしばらく休ませて、ロードカナロアが去りし後のスプリント界を背負って行ってほしい。

グランプリボスは休み明けということもあり、スプリント戦のペースについて行くのがやっと。引っ掛かる癖を出すまでもなかった。この馬に関しては、今回はスプリント戦への適性うんぬんではなく、セントウルSなどのステップレースを使えていればと悔やまれる。この後は、スワンSもしくはマイルCSに臨むのだろうが、短いところを使ったあとだけに、いつもよりも余計に行きたがってしまう心配がある。

サクラゴスペルは好スタートを決めたが、ハクサンムーンとフォーエバーマーク、パドトロワがほぼ一団となって進んだため、終始、その外を走らされることになった。馬体を併せるとムキになるのを心配したのか、気分よく行かせすぎて、逆に脚がたまるところがなかった。横山典弘騎手としては、ロードカナロアと逆のポジションで競馬をしたかったはず。

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今年でしょ!

Takaraduka2013 by Scrap
宝塚記念2013―観戦記―
逃げ馬シルポートがダッシュ良く先頭に立ち、大逃げを打った。昼前から降り続いた雨の影響で、土が見えるぐらいに緩んだ馬場であったことも考慮すると、前半1000mが58秒5というラップはかなりのハイペース。その激流を有力馬たちが積極的に追走し、まるでアメリカの競馬を見ているよう。最後は力と力がぶつかり合うガチンコ勝負となった。

勝ったゴールドシップは、我慢比べの中から、最後の直線でグイっと抜け出して、最強であることを自ら証明してみせた。スタンド前では内田博幸騎手に追っ付けられながらも、道中は行きっぷり良く先行し、新たな境地を開いての勝利でもあった。今回は人間に反抗する姿をほとんど見せなかったように、天皇賞春の惨敗からわずか2ヶ月の間に、精神的にも完全に立ち直っていた。こういうパワーとスタミナがあって気持ちが強い馬に、来年ではなく今年、凱旋門賞に行ってほしい。

内田博幸騎手と須貝厩舎にとっては、さすがにここは負けられない、負けたくない一戦であったろう。中間は内田博幸騎手が付きっ切りで調教し、陣営による懸命なケアもあって、ゴールドシップを精神的にも立て直すことに成功した。道中の位置取りも、気を抜くクセのあるゴールドシップをレースに集中させるための一か八かの作戦。難しい馬であることは確かだが、この先も十分なケアを施しつつ、メジロマックイーンのような最強のステイヤーに育てていってもらいたい。

今回のレースで最も驚かされたのは、川田将雅騎手がダノンバラードを2着に持ってきた手腕である。今年に入って、騎乗技術が一段とアップしていることには気づいていたが、それにしても今回の宝塚記念は全く隙がなかった。スタートからゴールまで、実質的には馬群の先頭に立つ形に持ち込んで、3強に割って入った。川田将雅騎手でなければ2着はなかったと断言してもよい、見事な騎乗であった。

ジェンティルドンナは、道中スムーズに先行し、勝ちパターンに持ち込んだと思われたが、この馬本来の伸びは見られなかった。昨年度の疲れが癒えていないのか、それともドバイ遠征の影響があるのか、こうした馬場を苦手としたのか分からないが、グッと来るところがなかった。夏は十分な期間を休養にあてて、一旦完全にリフレッシュさせてから秋に備えてほしい。負けたから言うわけではないが、もし凱旋門賞を勝ちたいと思うならば、宝塚記念は負けていいレースである。

フェノーメノはどうしたのだろう。スタートから行き脚がつかず、位置取りとしては3強の中で最も後ろに下がってしまった。そのため、せっかくの内枠を生かすことができず、外を回す羽目に。跳びの大きな馬だけに、阪神の小回りコースに加え、泥田のような馬場状態になってしまったことで、この馬のフットワークで走ることができなかった。また、春3戦目ではあったが、天皇賞春でメイチに仕上げてから2ヶ月という微妙な間隔が、中途半端な仕上がりにつながってしまったのだろう。

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日本競馬史上に残る最強のスプリンターへ

Yasuda2013 by Scrap
安田記念2013―観戦記―
大方の予想通りシルポートが一気にハナに立ち、前走同様に好スタートを決めたヴィルシーナが追っかける。さらに内からカレンブラックヒル、外から引っ掛かり気味でエーシントップが続いたことで、前半の800mが45秒3、後半が46秒2という前傾ラップのレースとなった。先行勢が全壊したところを見ると、数字以上に、道中は息が入らない厳しい流れであったはず。こういうレースでは、中団よりも後ろの列で馬群の外を走った馬が有利になる。

勝ったロードカナロアは、心配された距離延長を難なくこなし、スプリントとマイルの2階級制覇を成し遂げた。決して一本調子ではない馬なので、パタッと止まって崩れることは考えにくかったが、ここまできっちりとマイラーの走りをするとは驚きである。さすが世界のロードカナロア。高松宮記念を勝ったとき、あのサクラバクシンオーに匹敵すると書いたが、マイルのG1を獲った今、総合力ではこの馬の方が上だろう。日本競馬史上に残る、最強のスプリンターである。

岩田康誠騎手は流れを読んで、道中は実に隙のない騎乗をしていたが、最後の直線だけはいただけない。降着とか過怠金とかそういう話ではないのだが、同じレースに乗っている騎手であれば、「なんだかなあ」、「あれはないわ」と心の底で思ってしまうだろう。ロードカナロアが右にヨレ続けているにもかかわらず、ムチを右手に持ち替えず(利き手うんぬんの問題でもない)、修正しようという意思が見られなかったところが残念なのだ。ロードカナロアの強さに少し水を差してしまったような、後味の悪い騎乗であった。

ショウナンマイティは最後まで伸びたが僅かに届かず。これだけ速いペースを道中は馬なりで追走していたように、引っ掛かることのない分、マイル戦の方がレースがしやすい。この馬の末脚を生かすことができる東京競馬場という舞台も揃っていただけに、陣営は何としても勝ちたかったはず。結果的に見れば、外に出すのに手間取ってしまったように、内枠が災いしたということだ。敢えて言うならば、浜中俊騎手は直線でショウナンマイティを追いながらも、もう少し冷静に前の馬たちの動きを見ておけば、結果は違ったかもしれない

ロードカナロアの斜行の影響を最も受けたのは、3着に入ったダノンシャークではないか。道中は勝ち馬の真後ろのポジションを進み、最後の直線に入って、ワンテンポ待って追い出したところまでは完璧だったが、まさかあそこまでヨレてくるとはC・デムーロ騎手も読めなかったに違いない。スピードに乗り始めたその瞬間だっただけに、遠心力がついたように外に弾かれ、決して馬格のある馬ではないだけにダメージを受けてしまった。マイルCSも同じような不利を受けており、つくづく運のない馬であるとしか言いようがない。

グランプリボスはどうしたのだろう。これだけ速いペースだったにもかかわらず、道中は引っ掛かりっぱなしで、内田博幸騎手も抑えるので精一杯でレースにならなかった。前走はハマった感のある勝ち方ではあったが、今回の凡走の理由としては、その反動というよりも、マイナス10kgの馬体重が示しているように、陣営の勝ちたいという気持ちが伝わり、馬が必要以上に気負っていたことが挙げられる。

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ダービーへ来てくれてありがとう。

Derby2013 by 三浦晃一
ダービー2013―観戦記―
内からアポロソニックが逃げ、C・ウイリアムズ騎手が深追いしなかったことで、前半1000mが60秒3、後半が59秒4というスローペース、そしてラストの4ハロンが全て11秒台という上がり勝負になった。道中は抑えが利かずに苦労する人馬が目立った。逃げた馬が3着に粘ったことからも分かるように、前に行った馬、もしくは瞬発力勝負に強い馬にとって有利なレースであった。

勝ったキズナは、道中で折り合いを欠くこと微塵もなく、最後の直線まで脚を十分に溜めることができていた。掛かることなく、追い出されるとどこまでも伸びるのがこの馬の長所であり、それらが全て発揮された日本ダービーであった。本当に良くなるのはもう少し先だろうが、現時点での完成度を補うべく、瞬発力勝負に持ち込めたのが最大の勝因。それにしても、母系がアメリカ血統のディープインパクト産駒は走る。ディープインパクトは本質的にはステイヤー血統であり、それを母系のスピードとパワーが補って、見事なバランスが取れるのだろう。

武豊騎手は技ありのひと言に尽きる。こういう形になれば勝てるとイメージしていた通りの、まさに絵に描いたようなレースになったはず。平均ペースで流れたら届かないし、ハイペースで流れたらパワーで劣ってしまうが、スローで折り合いと瞬発力勝負が問われるレースならばチャンスありという読みだ。もっとも、他の有力馬との力の比較から、今のキズナにとっては後ろに下げて終いの競馬に徹することが最善である、とラジオNIKKEI杯2歳Sの時点で見抜いたのだからさすが。点をつなげて線にする。これぞ経験のなせる業である。

勝ったと思った瞬間に外から差し切られたエピファネイアは、実に惜しい2着であった。道中は掛かりっぱなし、3~4コーナーの間では躓くアクシデントがありながらも、最後はグイっと伸びたように、日本ダービーを勝てるだけの力はあった。福永祐一騎手もスタートしてから馬群の内に上手く馬を収めたが、ペースが極端に落ちたことで、行きたがる馬をどうしても御すことができなかった。もう少し枠が内であれば、母シーザリオのようなレースも考えられたが、ある程度出して行かざるをえなかった分、ポジションを取ることと折り合いを付けることの両立ができなかった。それでもダービー2着まで来たのだから、あと少しで手が届くはず。

皐月賞馬ロゴタイプは、正攻法のレース運びで力を出し切っての5着。厳しいペースを前々で攻めて、粘り強く脚を伸ばすタイプのこの馬にとって、展開が向かなかったということである。あえて言うならば、今回のC・デムーロ騎手は実に真っ正直な乗り方ではあるが、日本ダービーを勝つためのそれではなかったということだ。たとえ先行させるにしても、内ラチにポジショニングして脚を溜めるべきであり、日本の競馬に対する経験不足が肝心なところで出てしまった。

コディーノはパドックから落ち着いており、道中も比較的スムーズにレースを進めていたが、最後の直線では弾けなかった。ダービーを勝ちたいという悲願は痛いほど分かるが、本質的にはマイルを得意とする馬であり、2400mは適距離ではなかったということだ。もし朝日杯フューチュリティSではなくラジオNIKKEI2歳Sを使っていれば、多少なりとも体内リズムをごまかせたかもしれず、そのあたりの一貫性のなさも響いている。どのレースでどのような走りをするか、1戦1戦が若駒の未来をつくるのである。

今年で日本ダービーも80回目を迎えた。「ダービーへようこそ」のキャッチフレーズに象徴されるように、たくさんの競馬ファンが競馬場に集まっていた。本馬場に入りきれず、ターフビジョンでしかレース見えないという状況は、おそらく15年ぶりぐらいではなかろうか。若い人たちが多かったようにも思う。少し遠くから競馬ファンの背を見ていると、なぜかとても嬉しくて、レース前にもかかわらず一人涙が溢れてきた。これまでずっと競馬をやってきて、ほとんど誰も認められたことはないけれど、そんな中で競馬が次第に縮小していくのを感じつつ、それでもこうしてたくさんの人が競馬場に集まっているのを観ると、やっぱり少しは救われたような気がするのだ。ダービーへ来てくれてありがとう。

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教科書どおりの好騎乗

Oaks2013 by 三浦晃一
オークス2013―観戦記―
外枠からクロフネサプライズが飛び出し、それをトーセンソレイユが追い掛けたことで、前半1200mが71秒4、後半が73秒8というハイペースになった。どこかのラップが極端に速かったというよりも、前半の6ハロンの中で11秒台のラップが3回刻まれているように、ペースが少しも落ち着くところなく最終コーナーまで突入したと考えてよい。クロフネサプライズが引っ張ったおかげで、レース全体としては、締まりのある厳しい流れとなった。

勝ったメイショウマンボは、プラス10kgの馬体重が示すとおり、桜花賞からオークスに向かうこの中間で馬体をパワーアップさせてきた。1400mのフィリーズレビューを勝ったので、マイル以下で切れ味を生かす馬だと考えていて、その割には馬体が薄いと見くびっていたが、どうやら距離が伸びて良いタイプだったようである。父は天皇賞春を勝ったスズカマンボであり、母父も有馬記念を連覇したグラスワンダーだから、血統的にはフィリーズレビューを勝ったことが驚きということだ。

武幸四郎騎手は、ソングオブウインドの菊花賞以来の久々のG1勝利となった。前走の桜花賞は、外を回ったことに加え、早く仕掛けてしまったことで脚を失うという拙騎乗であったが、今回はそれを挽回して余りある好騎乗であった。スタートして即、内ラチに張り付き、道中は中団で脚をためながら追走し、最終コーナーを回りながら少しずつ外に出し、最後の直線では馬場の真ん中を走らせて伸びる。まさに府中の2400mを勝つための教科書どおりの騎乗であった。改めてチャンスを与えたオーナーの懐は深く、それに応えた武幸四郎騎手も見事であった。

エバーブロッサムはまたしても勝ち切れなかった。外枠からの発走で、外々を回ってしまったことが敗因だが、それでも最後まで良く伸びている。ここに来ての成長力は目を見張るものがある。筋肉の付き方から見て、決して距離が延びて良さが出るタイプではないが、成長力で距離を乗り切った。戸崎圭太騎手は、中央入りしてから初のG1制覇に僅かに手が届かなかったが、最後の直線で馬を追い出す姿にはさすがの迫力を感じさせた。

デニムアンドルビーはどうにも幼さが残るレース振りにもかかわらず、よく3着まで突っ込んできた。行き脚がつかず、最後方からレースを進め、ラスト1000mあたりから内田博幸騎手に追っ付けられ、それに応えるようにしてゴールまでジワジワと伸びた。搭載されたエンジンと使える良い脚の長さは3歳牝馬離れしていて、今後レースに行っての器用さが出てくれば牝馬の頂点に立てる器である。

桜花賞馬アユサンは、自分のレースはできたが、ペースが速く、底力が問われる流れになり、力及ばず4着。中間は桜花賞を勝った疲れを回復させるだけで精一杯だったのだろう。桜花賞時と比べると、万全とは言いがたい馬体の仕上がりであった。もうひとつ付け加えるならば、せっかく黒い帽子の枠を引いたのであれば、勝ち馬の後ろになってしまったとしても、もう1頭分、内にポジションを置いた方が良かったはず。

レッドオーヴァルは長距離輸送が応えたのだろう。マイナス8kgという数字が物語っているように、レースの前に勝負は終わっていた。同じくレース前に終わっていたクロフネサプライズは、スタート直後に鈴を付けられたのが痛かった。あれでムキになってしまい、まるでマイル戦を走るようなペースで突っ走ってしまった。前方に広がる府中の直線は、さぞかし長く感じられたことだろう。

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まさに死闘

Victoriam2013 by RUBY
ヴィクトリアマイル2013-観戦記-
ヴィルシーナが先頭に立つ勢いを見せたが、内からアイムユアーズが来るとスッと控えた。逃げ馬不在ではあったが、前半の800mが46秒3、後半の800mが46秒1という淀みのないほぼフラットなペースでレースは流れた。東京競馬場のマイル戦でこの流れであれば、展開の有利不利はほとんどなく、各馬が力を発揮できた結果としての着順。どの馬もどの騎手も渾身の力を振り絞ったゴール前100mの叩き合いは、牝馬同士のレースとは思えない、まさに死闘であった。

ヴィルシーナはようやくG1レースを勝利することができた。抜群のスタートから番手を進み、先頭に立つ勢いで直線に向き、文字通り勝ちに行くレース振り。前走の産経大阪杯を叩き、体調もアップしていたことに加え、最終的には良馬場でレースが行なわれたことが大きかった。典型的なディープインパクト産駒であり、切れ味(速い上がり)を問われる競馬に滅法強い。この馬自身は最適の舞台で最高の力を出し切ってこのハナ差だから、他馬との力差はそれほどない。常に力を出し切ってきたからこそ、G1のタイトルに手が届いたのである。

内田博幸騎手は、G1レースで1番人気に応えられなかった騎乗やヴィルシーナで惜敗続きの鬱憤を晴らしてみせた。最後の直線でヴィルシーナを追う姿からは、絶対に負けられないという気迫が伝わってきた。それに応えるように、一旦はマイネイサベルに交わされてしまったヴィルシーナもしぶとく食らいつき、ゴール前では逆転してみせた。直線ではフラフラして確かに行儀は悪かったが、苦しがってヨレれるヴィルシーナを最後までもたせることができたのは、内田騎手ならではであった。

昨年の覇者ながらも12番人気とファンに見放されたホエールキャプチャが、直線で猛然と追い込み、あわや連勝かというところまでヴィルシーナに迫った。道中も折り合っていたし、直線では前の馬群が割れて綺麗にスペースが開いた幸運はあった。それでも、気持ちさえ戻ってくれば、勝ち負けになる能力を有していることを十分に証明した。それにしても、蛯名正義騎手の手綱捌きには鬼気迫るものがある。まさに円熟期に突入したようで、これからもさらなる活躍が期待できる。

マイネイサベルは、先週のNHKマイルCジョッキーを背に、スタートからゴールまで最高のパフォーマンスをしてみせた。あと一完歩前に出ることができなかったのは、スタミナの問題だろう。とはいえ、3着に敗れはしたものの、勝ちに等しいレース内容であった。

1頭だけ末脚を余してしまったのはハナズゴール。右に行けば右に、左に行けば左にという形で前にいたヴィルシーナが壁になり、スペースが開いたときにはすでに遅し。ゴールから逆算すると、スタートしてからのポジションが1頭分後ろだったことが悔やまれる。前走で外を回って脚を失ったことで、今回は前半ポジションを下げて勝負に行った結果、馬群から抜け出すことができなかった。競馬で勝つことは難しい。

最後に、競走中止したフミノイマージンのご冥福を祈りたい。極端な脚質ゆえにG1のタイトルは取れなかったが、札幌記念で並み居る牡馬を捲くりきった走りはいつまでも忘れられない。

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大地に根を張って

Nhkmilec2013 by 三浦晃一
NHKマイルC2013-観戦記-
コパノリチャードがレースを引っ張り、それにガイヤースヴェルトが鈴を付ける形で道中は淀みなく進んだ。前半800mが46秒1、後半の半マイルが46秒6という数字だけを見ると、平均よりもやや速いだけのペースに思えるが、レースの決め手は外からの差し。差しが決まりやすい特殊な馬場状態に加え、10R湘南ステークスの46秒6―45秒9をひっくり返したような展開となり、その前後半ラップのわずかな傾き具合の違いが、大きく勝敗を分けた。

勝ったマイネルホウオウは、結果的に最高のポジションを走っていたことになる。後方で脚をためつつ、前から下がってくる馬に邪魔されずに馬場の良いところに出せる外を走り、直線に向いて追い出されるや、ジワジワとしかし確実にゴールに向かって伸びた。前走のニュージーランドTは出遅れて外を回されての大敗だけに、スプリングSの3着こそがこの馬の実力である。決してフロックではないが、負けた馬たちとの力差があったわけでもなく、今回は展開に助けられての勝利と考えるべきだろう。

柴田大知騎手にとっては初めてのG1勝利となった。一時は騎手を辞めようかと思ったところから、再起を果たしたのだから素晴らしい。日本人ジョッキーが厳しい競争にさらされる中、こうして大地に根を張って、少しずつ成長し、G1のタイトルに手が届く騎手が現れたことには大きな価値がある。マイネルホウオウでNHKマイルCを勝ったときのガッツポーズと、コスモブレードで5Rを勝ったときのそれの大きさは全く同じであった。柴田大知騎手にとって、手塩にかけて育てた馬での勝利の喜びは、どの馬も同じなのである。

2着に突っ込んだインパルスヒーローは、外から良い脚を使ったがわずかに及ばず。この馬自身は力を出し切って、展開も見事にはまったが、勝ち馬との差はスタミナの差であった。田中勝春騎手は湘南ステークスでも勝利していたように、今の東京の馬場を読み切っていたし、またこういった差しに徹する競馬に強い。3着のフラムドグロワールは強い競馬をした。朝日杯フューチュリティSのあと、京成杯を使わずに休養し、本番前にひと叩きできていれば、NHKマイルCのタイトルを手に入れていたのではないか。

レッドアリオンは出遅れたことが功を奏して4着に突っ込んだ。好スタートを切って、先行できていたとしても、4着以上はなく、4着以下であった可能性もある。たまには出遅れがプラスに働くこともある。ガイヤースヴェルトは、ウイリアムズ騎手を鞍上に、積極的に攻めたが、惜しくもゴール前で力尽きてしまった。今回は負けて強しの内容であった。やや強引すぎた嫌いがあるが、ウイリアムズ騎手がレースの主導権を握っていたことは間違いない。

1番人気のエーシントップは、ガイヤースヴェルトを前に見る形でレースを進め、直線で伸び切れずに7着と凡走した。内田博幸騎手はペースが速くなることをいち早く察知し、控えようとしたが、極限の仕上げが施されていたエーシントップは行く気満々で抑えが利かなかった。前走のニュージーランドTは余裕のある勝ち方であったが、今回は180度異なった質のレースになってしまい、力を発揮できなかった。ニュージーランドTとNHKマイルCは基本的には直結しないということだ。

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これぞ大器晩成

Tennosyoharu2013 Photo by M.H
天皇賞春2013―観戦記―
内枠からサトノシュレンがハナを切り、外枠からトウカイパラダイスとムスカテールが追い掛けたことで、前半1000mが59秒4という、長距離戦としては速いラップが刻まれた。行きたい馬が外枠から押して出してゆくとペースが上がる、という典型的な展開であり、馬群は縦長になり、折り合いに苦労するような馬は皆無。その分、スタミナを要する厳しいレースになり、真の実力がそのままゴール前の着差として現れた結果となった。

勝ったフェノーメノは、4歳になり、肉体的に大きく成長し、サラブレッドとしての完成期を迎えた。3歳時には馬体に緩さが残っていた分、最後のひと踏ん張りが利かず僅差の敗北を繰り返していたが、古馬になってそれが解消された。最終コーナーを引っ張りきれない手応えで回り、追い出してからもゴールまで伸び切った。馬体が完成された今、最強の古馬陣の仲間入りを果たしたことになり、次走の宝塚記念でも勝利のチャンスは大きい。海外遠征帰りのジェンティルドンナやリズムを崩したゴールドシップには付け入る隙があり、オルフェーヴルとの一騎打ちになるだろう。

第1コーナーまでの攻防の中、ハイペースを読み切り、控えたところに蛯名正義騎手のファインプレーがあった。ゴールドシップよりも前を意識しすぎて、あそこでハイペースを追いかけてしまっていたら勝利は危なかったかもしれない。あとはコントロールの利きやすいフェノーメノを無理なく最後の直線まで導き、今年から試している全身を使った追い方で豪快にフィニッシュした。1995年の天皇賞春の幻のガッツポーズから18年、そして昨年の涙のダービー2着の悔しさを、この大舞台で見事に晴らしてみせた。

トーセンラーは道中ピタリと折り合い、あわやと思わせるほどの抜群の手応えで最終コーナーを回った。フェノーメノの底力にこそ屈してしまったものの、レース内容といい、最後の末脚といい、勝ちに等しい内容であったと言えるだろう。馬体だけを見るとステイヤーではないが、そこはディープインパクトの血の成せる業か。武豊騎手も、この馬と手が合うのだろう、実にらしい騎乗を見せてくれた。やっぱり、こうでないと競馬は盛り上がらない。

圧倒的な1番人気に推されたゴールドシップは、4コーナーですでに手応えが怪しくなり、直線では全く反応しなかった。のんびりとしたスタートはいつも通りだが、今回は追い出されてからの息の長い末脚を発揮することができなかった。端的に言うと、連勝は難しいということである。昨年の神戸新聞杯から菊花賞→有馬記念、そして阪神大賞典と、無敵の強さを見せつけて勝ち続けてきたが、肉体的にも精神的にも追い詰められていたはずである。特にステイゴールド産駒は、昨年のオルフェーヴルに象徴されるように気難しいところがあり、精神的に切れてしまうと簡単に凡走につながる。そして、こういったケースは、すぐに立て直すことは難しく、もし宝塚記念に出走してきたとしても、同じく凡走してしまう可能性は十分にあることを心に留めておきたい。

外国馬のレッドカドーは、ハイペースを追走し、最後も伸びていたように、さすがドバイワールドカップの2着馬。日本馬は地元の利を得ていることを考えると、この馬も天皇賞春の盾に相応しい実力の持ち主であったといってよいだろう。今の日本馬のレベルを踏まえると、外国馬が日本のG1レースを勝つことのハードルはかなり高いはず。それでも挑戦してくることに敬意を表し、これからも門戸を大きく開きつつ、海外からの挑戦者に負けない競馬を見せつけてほしい。

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日本ダービーへとつながるレベルの高さ

Satuki2013 by 三浦晃一
皐月賞2013―観戦記―
宣言どおりコパノリチャードが先手を奪い、軽快に飛ばして作り出した流れは、前半1000mが58秒ジャストというハイペース。道中も淀みなく、ついて行くだけで厳しいレースが演出され、最後はスピードと器用さだけではなくスタミナをも要求されたことで、実力が正直に反映された結果に終わった。掲示板に載った上位4頭は強く、1、2、3、4着の順位そのままが、現時点での実力の順ということになる。実にレベルの高い、日本ダービーへとつながる皐月賞であった。

勝ったロゴタイプは、中団を折り合い良く追走し、最後はエピファネイアをマークする形で動き出し、そしてねじ伏せた。文句を付けようがない完勝である。ローエングリン×サンデーサイレンスの配合はマイル寄りの印象があるが、この馬に限っては、良い意味での馬体の緩さが手伝って、距離は十分にこなす。おそらく2400mも距離的には全く問題ないだろう。スピードとスタミナのバランスが抜群かつ道中のコントロールが利くように、付け入る隙がなく、ダービーに向けて最有力の存在となった。

M・デムーロ騎手は桜花賞の悔しさを晴らすように、パーフェクトな騎乗をしてみせた。いつもよりも後ろの位置取りになったが、動じることなく、他馬の手応えを把握しつつ、絶妙なタイミングで外に出した。エピファネイアに照準を絞ったのも正解であった。道中もミスをすることなく、追い出してからの動きも完璧で、もうジョッキーとして完成の域に達している。ネオユニヴァース以来の、外国人ジョッキーによる日本ダービー制覇が再び今年観られるかもしれない。

エピファネイアは最後までロゴタイプに食い下がったが、今回は勝った馬が一枚上であった。外枠からの発走であったため、向こう正面に至るまでに何度もハミを噛んで行きたがる姿が目についた。力んだ分の負けということもできる。先々のことを見据えて、福永祐一騎手は手綱を緩めることはなかったが、これで正解だろう。目の前のG1レースを勝つだけが全てではない。今回の騎乗は日本ダービーへとつながるだろうし、そこで内枠を引ければ、ロゴタイプを逆転できる可能性はまだ残されている。

コディーノは横山典弘騎手に完璧に導かれ、この馬の力を発揮したが3着。血統的にも気性的にもマイラータイプだけに、このメンバーに入ってしまうと2000mはやや長い。それでも最後まで伸びていたように、クラシック級の実力の持ち主であることは間違いない。今後のローテーションは、日本ダービーではなく、NHKマイルCを目指すべきだろう。日本ダービーでは勝ち目はないが、NHKマイルCは好勝負になるだろうから。

カミノタサハラは外からよく伸びたものの、上位3頭とは完成度が違った。ハイペースを後ろから行って、展開的には恵まれたはずだが、それでも1分58秒ジャストの時計では走れなかったということだ。馬体を見る限り、まだ幼さが残っていて、本当に強くなるのは来年以降かもしれない。タマモベストプレイは短距離血統の馬だが、実に首を上手く使って走るため、距離をこなす。この馬もNHKマイルCに回るようなら有力候補の1頭になる。

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ディープインパクト産駒はこの季節になって開花する


桜花賞2013-観戦記-
内枠を利してサマリーズが先頭に立ち、外枠からクロフネサプライズがジワっと2番手に付ける。先行集団は密集して、そこからポツンと離れたところをレッドオーヴァル以下が追走した。それほど速くは見えなかったが、前半マイルが46秒9、後半マイルが48秒1と、積極的に前に行った馬たちにとってはやや苦しいペース。最後の直線でほとんどの人馬の脚は上がり、デムーロ兄弟が跨る2頭のディープインパクト産駒だけがゴールまで伸び切った。

アユサンは最後までレッドオーヴァルに抜かせなかったように、豊富なスタミナも有していることを示してみせた。アルテミスSのゴール前で脚が止まった走りを見て、母父ストームキャットの影響もあってか、スタミナに欠ける、マイル以下で一瞬の脚を生かす馬だと考えていたが、本番の桜花賞に向けて一気に力をつけてきたようだ。それにしても、クラシックシーズンにおけるディープインパクト産駒の成長力は驚異的である。今年に入ってから、なかなか産駒が大きなレースを勝てずにいたが、この季節になってようやく素質が開花した。

C・デムーロ騎手の騎乗には文句を付けようがない。先行して伸び切れなかった前走を受け、陣営からの支持もあったのかもしれないが、道中は少しずつ下げる形で脚を溜める競馬に徹した。1馬身下げると2馬身伸びるという騎乗の鉄則を、忠実に体現した乗り方であった。また、最終コーナーの回り方も絶妙。他の有力馬がクロフネサプライズを目標に早めに仕掛けていたのを尻目に、4コーナーを回りきってから初めてアユサンにゴーサインを送った。ゴール後は喜びを爆発させたが、道中は実に冷静な騎乗が光った。

レッドオーヴァルは外から伸び、勝ったと思った瞬間、再度内からグイっと出られてしまった。兄としては、弟に追い比べて負けてしまい、さぞかし悔しかっただろう。先行集団を見るようにポツンと離れた最高のポジションを走り、最終コーナーもゆっくり回っていただけに、完璧なレースをしてそれでも勝てなかったのだから仕方ない。スタミナ不足というよりは、体が小さくて、先を見据えて攻めきれなかった分の負けではないか。オークスまでは十分な時間があるので、じっくりと仕上げていけば、アユサンを逆転できるチャンスはある。

プリンセスジャックはこういう競馬が合っているのだろう。先行集団の後方で脚を溜め、展開に恵まれた部分もあっての3着と好走した。メンコとシャドーロール、そして末脚の切れ味は、母ゴールデンジャックを彷彿させる。馬の能力を冷静に見極め、ギリギリまで脚を溜める競馬に徹した福永祐一騎手の隠れたファインプレーであった。

クロフネサプライズはこの馬の力を出し切っての4着だろう。チューリップ賞とは流れが正反対であったことに加え、1番人気の逃げ馬ということで、他馬の目標にされてしまったことも影響したはず。また、上位の馬たちの成長力が上回ったということでもある。この馬自身の能力が非常に高いことは間違いなく、もう少し馬体面での成長が伴ってくれば、いつの日かG1タイトルに手が届くはず。

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勝たなければ


ドバイシーマクラシック2013―観戦記―
最内枠からシャレータがそのまま先頭に立ち、その外からセントニコラスアビー、トレイルブレイザー、そしてジェンティルドンナの順で内から外に先行集団が形成された。その中でも、ジェンティルドンナはわずかにダッシュがつかなかったが、いずれにせよ枠なりのポジションを強いられたはずである。4コーナー手前から手応えが怪しくなり、下がっていったトレイルブレイザーを除けば、最後までこの隊列でレースは流れ、外を回されたジェンティルドンナにとっては厳しい競馬となった。

最大の敗因は、石坂正調教師も言うように、道中で外を回らされたことによるものである。外枠からのスタートでも、すぐに内に張り付くことができたジャパンカップとは、この点で異なる。本質的には2000m前後がベストの距離であるジェンティルドンナにとって、2410mの距離のレースで外々を回されてしまっては、直線で伸びを欠いてしまうのも仕方ない。もちろん休み明けということもあったはずで、ジャパンカップの激走後から一旦馬体や気持ちを緩めてからの巻き直しになった今回は、陣営は仕上げたつもりでも、さすがに100%には至っていなかったはず。ゴール前で突き放されたのは悔しいが、あらゆる状況を総合すると、この結果はさすがジェンティルドンナということになる。

とはいっても、岩田康誠騎手の「2着で悔しい」、石坂正調教師の「何とか勝ちたいと思っていたけど、申し訳ない」という両者のコメントは本音だろう。海外遠征は負けて帰ってくるのが当たり前、たとえ負けても「よくやった」と思っていた時代とは、今は違うということだ。それでも負けて帰ってくるほうが多いだろうが、あくまでも勝ちに行っての結果としてである。こういった関係者たちの意識の変化は心強い。もし故野平祐二氏が生きていらっしゃったら、「それでも勝たなければいけません。日本馬のレベルはそこまでアップしています。岩田騎手は最後の直線で力んで馬を追っていたように映りましたね。やや硬さが目につきました」とコメントしたかもしれない。

グローバルな視点で観てみると、イギリスのセントニコラスアビーは強かった。勝った馬が強かったということである。最高の状態に仕上げられてもいたのだろう。まさに世界は広いということであり、世の中には上には上がいる。セントニコラスアビーを管理するオブライエン調教師らの勝って喜ぶ姿を観て、ああやって世界の各地から真剣に勝つ意思を持って人と馬が集うのだから、勝たなければならないけど勝つのは難しいというのが現実だろうと実感するのだ。だからこそ、世界で勝つことには値千金の価値があるのである。

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サクラバクシンオーに匹敵する


高松宮記念2013―観戦記―
ハクサンムーンが先手を奪い、メモリアルイヤーやアイラブリリが控えたことで、前半の600mが34秒3という、絶好の馬場状態を考慮に入れると、遅めのペースでレースは流れた。後半の600mが33秒8という、スプリントG1にしては珍しい後傾ラップとなり、後ろから行った馬たちにとっては苦しいレース。逃げ馬が残った展開の中、それでも差してきた上位2頭は、着差以上に強い競馬をしたといえる。

勝ったロードカナロアは、いつもよりやや行き脚がつかなかったが、慌てず騒がず、リズムを崩すことなく道中は走ることができた。直線に向いて追い出されると、半ばにして弾けるようにして伸び、香港スプリントG1を勝った実力をみせつけた。決して楽な展開ではなかったが、このメンバーでも搭載しているエンジンが違う。昨年の高松宮記念はまだ馬が成長途上にあり3着に敗れてしまったが、今年は完成された肉体をもっての完勝であった。スピードとパワーが最高の次元で融合されていて、タイプこそ違えども、私が知る限りの最強のスプリンターであるサクラバクシンオーに匹敵する。

岩田康誠騎手は自信満々に乗っていた。負けられないというプレッシャーもあっただろうが、それを吹っ切ったかのような胆の据わった騎乗を見せてくれた。これぞ岩田騎手の真骨頂であり、レースが一旦始まると、勝つことだけに集中できるのが素晴らしい。この先も、ロードカナロアやジェンティルドンナと共に世界へ飛び出し、日本に岩田ありと世界の競馬ファンに知らしめてもらいたい。そして、日本の若いジョッキーたちもそれに続いてほしい。

2着に敗れたドリームバレンチノは最後まで伸びたが、世界的スプリンターには届かなかった。馬体も絞れて生涯最高の出来で臨むことができ、ロードカナロアを見ながら進む理想的なポジションを確保したが、結果論としては、この馬にとってはペースが遅すぎた。松山弘平騎手はハイペースをロードカナロアが早めに仕掛け、万が一バテてくれたら勝機はあると踏んでいたはず。思い描いたとおりの完璧なレースはできたが、思っていたよりも道中が流れなかったということだ。競馬は生きものであり、あらゆる全てに恵まれなければG1レースは勝てない。

ハクサンムーンは気分良く逃げて、最後の直線でも半ばまで持ったまま。酒井学マジックが炸裂かと思いきや、さすがにゴール前は強い2頭に差し切られてしまった。それでもそれ以外の馬たちは完封しており、自分のペースで走ることができたときの強さを証明した。酒井学騎手は逃げ馬で大穴を開けることがあるように、馬にブレーキをかけず、馬の行く気を削がない騎乗は、ときに馬を激走させることにつながる。

サクラゴスペルはスローの展開の中、先団に位置し、理想的なレースができたが、それでも4着に敗れてしまった。このメンバーに入るとパンチ力不足は否めず、一線級で活躍するためには鍛え方が足りない。悲願のスプリントG1に臨んだダッシャーゴーゴーは、外々を回されてしまい、脚を失ってしまった。集中力が一瞬しか続かない馬だけに、勝ち切るのは難しいか。7歳馬ながらも3番人気に推されたサンカルロは、自慢の末脚が不発に終わった。年齢的な衰えはあるだろうし、この展開では差を詰めるだけで精一杯であった。

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大きな自信に

Febs2013 by 三浦晃一
フェブラリーS2013-観戦記-
エスポワールシチーを振り切って逃げたタイセイレジェンドが、前半マイルが46秒5、後半マイルが48秒6という、いかにもフェブラリーSらしいハイラップを刻んだ。超ハイペースとなった昨年が46秒6-48秒8だから、前後半の落差はほとんど変わらない。とはいえ今年は、たとえペースは厳しくとも、前に行っている馬が止まらないことによって、後ろから行った追い込み馬たちは差し届かない、中団に位置できた馬にとって有利なレースとなった。

勝ったグレープブランデーは、枠なりに道中は経済コースを立ち回った。その分、直線に向いてもなかなか前が開かず、綱渡りの競馬であったが、最後は豪快に抜け出して差し切った。ジャパンDDで将来を嘱望されながらも骨折のアクシデントがあり、なかなか成績が安定しない時期を経て、ようやくここに来て本格化した。長い休養期間を間に挟んだことで、馬体面の成長は顕著であっただけに、気性面も充実してきたことが大きい。砂を被る厳しいポジションにもかかわらず、最後まで集中を切らすことなく力を出し切った。

浜中俊騎手にとっては、2009年菊花賞以来のG1制覇となった。昨年はリーディングジョッキーに輝きながらも、G1には手が届かず悔しい思いをしたが、今年初めてのG1レースにて、自身も納得の最高の形で勝利した。ソツなく乗るだけではG1レースは勝てないことに気づかされ、100%以上の騎乗をしようと考え、その通りにできたのだから、本人にとっては大きな自信につながるはずだ。最後の直線でグレープブランデーを激しく追う姿を見て、現在の日本の頂点に立たんとするジョッキーの矜持を感じた。

エスポワールシチーはこのペースを2番手で追走し、あわや勝利かというシーンまで作ったのだから、さすが実力馬である。JCダートは気分良く走りすぎ、前走の東京大賞典は自らの形に持ち込めなかったことで大敗を喫していただけで、決して終わってはいなかったことを自ら証明した。全盛期には及ばなくとも、これだけの走りをすることができるのだから、佐藤哲三騎手が言うように、ダートの超一流馬は2度ピークを迎えるという息の長さには驚かされる。

ワンダーアキュートにも同じことが当てはまり、昨年の秋から厳しいレースを闘い続けているにもかかわらず、今回も3着と好走した。年齢的にもピークは過ぎているはず。その頑張りには頭が下がる。ただ、降着にはならないが、和田竜二騎手の直線での強引な進路取りは感心しない。新しいルールで行うからこそ、より騎手たちに善意が求められることを忘れてはならない。

テスタマッタとシルクフォーチュンの追い込み組は、昨年ほど前が止まらなかったことで、末脚が不発に終わった形となった。昨年のように展開がピタリとハマることは、さすがに2年連続では起こらなかった。また、イジゲンとガンジスの4歳馬2頭は、歴戦の古馬たちに比べて肉体的に成長途上にあり、厳しいレースになったことで、それが表面化してしまった。

1番人気に推されたカレンブラックヒルは2秒8差の15着と大敗。府中の芝マイル戦を1分34秒5のタイムで走り抜けた馬が、ダートであったとしても1分37秒9も掛かったのだから、芝とダートは別ものであると考えるべきなのだろう。それでも、ここまで大敗してしまった理由としては、初めてのダート戦ということだけではなく、むしろそれ以上に、連勝を続けてきた馬が敗れてしまった(連勝が止まった)による疲れの噴出にあったはず。敗れた天皇賞秋から十分な間隔を取って調整してきたものの、肉体は回復しても、途切れた気持ちを巻き戻すのには時間が掛かるのだ。

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スタミナが全てを制圧する

Arima2012 by 三浦晃一
有馬記念2012―観戦記―
内からポンと飛び出したアーネストリーが先手を奪い、前半1200mが72秒4、後半が72秒5というイーブンペースを作り上げた(最初の100mを除く)。前半、中盤、後半の3ブロックに分けると、47秒1-49秒7-48秒1だから、中盤が緩んだやや前傾ラップであり、最終コーナー手前から有力馬が動き始めたことも加わって、先行していた馬たちにとっては苦しい展開になった。中団の内で脚を溜めることのできた馬に有利な流れであり、それらをまとめて大外から差し切った勝ち馬は力が抜けていた。

ゴールドシップは、最後方からひと捲くりして勝ったように、このメンバーに入っても地脚の強さが際立っていた。有馬記念を捲くって勝った馬といえば、マンハッタンカフェとディープインパクト、そしてオルフェーヴルが思い浮かぶように、もはや超一流と呼ばれる馬たちと遜色ないレベルに達していることを示した走りであった。父ステイゴールド、母の父メジロマックイーンという黄金配合にあっても、毛色も含め、メジロマックイーンの血が濃く出ていることを感じさせる。スタミナで全てを制圧するステイヤーらしい勝利であった。サラブレッドのピークはそれほど長くないのだから、来年 に凱旋門賞へ出走し、フォルスストレートから捲くって、ロンシャン競馬場の最後の直線を真っ直ぐに突き抜けてほしい。

内田博幸騎手の騎乗は実に腹の据わったものであった。行き脚がつかないことも織り込み済みで、それでも最後には捲くりきれるという自信があったからこそ、道中で無理をしてポジションを上げようとはしなかった。そして、思ったとおりに全馬を捲くりきって、最後の直線でも止まらないゴールドシップの勢いを手綱から感じ、もう後ろから来られる馬はいない、そう確信してのゴール前での会心のガッツポーズであった。ゴールドシップは自ら前に進もうとしないが、当たりの強い、ビッシリと追える内田博幸騎手にはピッタリの馬である。また、上がりの速くなりがちなジャパンカップではなく、上がりの掛かる有馬記念を選択した須貝調教師の判断も見事であった。

オーシャンブルーは1頭だけ違う脚で馬群から抜け出してきた。道中はレースの流れに完璧に乗り、脚を溜められていたからこそ、この馬の力をフルに発揮できた。そこにはオーシャンブルー自身の成長力もあるし、池江泰寿調教師の渾身の仕上げもあった。また、C・ルメール騎手の見事な手綱捌きもあった。ステイゴールド産駒は芝の時計の速いレースを得意とするが、馬場が荒れても苦にしない。C・ルメール騎手は昨年に続き有馬記念で2着と、ここ1番での冷静な騎乗はさすがである。

ルーラーシップは大きく出遅れて、最後は差してきたが3着が精一杯であった。ジャパンカップの出遅れを受けて、この中間はゲート練習にも励んできたが、前回以上の大きな立ち遅れ。練習のときには表面に出ないが、レースに行ってから必ずそうなるのは、馬の癖というよりは、精神的に馬が追い詰められてしまっているからだろう。休養をはさんで気持ちをリフレッシュさせるか、年齢的にもこのまま引退させた方が良いかもしれない。

当日の朝、M・デムーロ騎手から三浦皇成騎手に乗り替わりになったエイシンフラッシュは、最後は見せ場を作ったものの、惜しくもゴール前で止まってしまった。この馬にはもっと軽い馬場でスローの流れが合う。M・デムーロ騎手からバトンを受けた三浦皇成騎手にとっては、かなりのプレッシャーだったに違いない。それをはねのけて、エイシンフラッシュの力を出し切って、見せ場を作った文句のつけようのない好騎乗であった。

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大成の予感が

Asahihaifs2012 by 三浦晃一
朝日杯フューチュリティS2012-観戦記-
ポンと出たクラウンレガーロをエーシントップが追走し、その外からロゴタイプやマイネルエテルネルが被せるようにして、4頭がひしめき合うように第1コーナーを回った。コディーノが外に出した途端に引っ掛かり、ネオウィズダムが抑え切れずに外を回るようにして先頭に立つなど、出入りの激しい競馬。レース全体としては、前半の半マイルが45秒4、後半が48秒ジャストという、かなりのハイペースとなった。3~4コーナーの内側が荒れていて、各馬外を回ったことを含めても、底力のない馬は最後に脱落してしまう厳しいレースであった。

勝ったロゴタイプの渋太さには脱帽した。これだけ速いペースを前々で進みながら、最後の直線ではコディーノに交わさせなかった。前走のベゴニア賞でも内で折り合って、器用なレースをしていたように、行こうと思えば行けるし、控えようと思えばそうできる賢さがある。馬が精神的に安定しているからこそ出来る芸当でもあり、休み明けの前走を叩かれ、仕上がりも完璧であった。父ローエングリンの産駒として、初めてのG1制覇となった。3着にもローエングリン産駒のゴッドフリートが入っており、母父のサンデーサイレンスを味方につけて、ローエングリンはこれから種牡馬として大成しそうな予感がする。

断然の1番人気を裏切ったコディーノは、道中で外に出して引っ掛かった分、最後に伸びを欠いてしまった。まさか横山典弘騎手もあそこまで引っ掛かるとは思わなかったはずだが、藤澤和雄厩舎の管理馬のように隊列(縦列)調教をしている馬は、馬の外に出すとゴーサインだと教えられており、コディーノもそのまま素直に反応してしまったということだろう。道中で脚を使ってしまい、最終コーナーで馬群の外々を回らされたことが致命傷となったわけだが、それで勝てなかったのだから、G1を勝てる器ではなかったとあきらめるより他はない。

横山典弘騎手にとっては、悔やんでも悔やみきれない2着だろう。結果論ではなく、あそこは枠なりでジッとしているべきであり、安全運転をしようとわずかに外に出した余計な動きが敗北につながった。藤澤和雄調教師の管理馬で勝ちたい、断然の1番人気に応えたいという気持ちの中に、いつの間にか守りの意識が芽生えていたのだろうか。普段のレースなら当たり前にできることが、なかなかできない。これがG1レースの怖さである。本人も分かっているのでこれ以上は書きたくないが、情けないほどに完全な騎乗ミスであった。デムーロ騎手の馬上からの握手に応じられなかった気持ちはよく分かる。

ゴッドフリートは道中コディーノを前に見る形でレースを進め、ギリギリまで追い出しを待って、ゴールまでしっかり伸びた。前の2頭はさすがに強かったが、スミヨン騎手の冷静な騎乗に導かれて、この馬自身の力は出し切っている。フラムドクロワールは追っ付け気味で追走しつつ、最後までバテることなく末脚を発揮した。現時点ではスピードの絶対値が足りなかったが、順調に成長を遂げることができれば、来年のNHKマイルCでは面白い存在になっているはず。エーシントップにとっては、道中のペースが速すぎた。前走の京王杯2歳Sとは180度違う、厳しい流れに戸惑い、失速した。

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まさにサプライズ


阪神ジュベナイルF2012-観戦記-
タガノミューチャンが飛び出して、それをクロフネサプライズが追いかける形でレースはスタートした。馬群が固まって進んだこともあり、ペースはそれほど速くないのかと思われたが、レースが終わってみると前半800mが45秒9、後半マイルが48秒3という超ハイペース。外から差しが決まりそうな展開だが、そうならなかったのは、どの馬もバテて差し脚がなくなっていたからだろう。上位2頭の強さが目立ったレースであった。

この流れを道中は内を進み、馬群の中で我慢して、最後は抜け出してきたのだからローブティサージュの強さは驚きだ。好スタートから、内々でスムーズに走られたとしても、キャリアわずか2戦の2歳牝馬に簡単にできる芸当ではない。豊富なスタミナと強靭な末脚と精神力を兼ね備えている素質馬であることを、この1戦ではっきりと証明したことになる。前走のファンタジーSは距離が足りずに差し損ねたが、今回は一変してスタミナを問われるレースになり巻き返した。

秋山真一郎騎手は今年2つ目のG1制覇となった。今回もスタートから実に落ち着いて騎乗していて、追い出しのタイミングも抜群であった。最内枠からの発走ということで、一旦下げて外を回すか迷ったはずだが、ローブティサージュを信じて正攻法で乗ったのが正解であった。有力ジョッキーが香港遠征で不在の中、前日の朝日チャレンジCに続き、ベテランの老獪な技を見せてくれた。ミスのない騎乗ができる数少ないジョッキーのひとりだけに、今後も騎乗馬に恵まれれば、大いに活躍が期待できる。

クロフネサプライズは、これだけの速いペースを終始掛かり気味に走りながら、最後まで粘り込んでしまったのだから、まさにサプライズであった。しかも最後は差し返していたように、勝負根性という点においても、かなりの器であることは間違いないだろう。芦毛ということもあってか、一昨年の阪神ジュベナイルFで2着したホエールキャプチャを思い起こさせる。それほどに、もしかしたら勝った馬かそれ以上の、強さを示した走りであった。

1番人気のコレクターアイテムは伸びそうで伸び切れなかった。浜中俊騎手は好スタートからソツのない騎乗をしていたが、最後はコレクターアイテムの脚が上がってしまい、これまでのような伸びがなかった。勝った前走のアルテミスSとは正反対の、スタミナを問われる厳しいレースになったことが影響したのだろう。同厩舎のローブティサージュとの力関係がはっきりしてしまっただけに、来年からは挑戦者としてクラシックに挑むことになる。

関東馬のサンブルエミューズも伸びきれずに馬群に飲まれた。現時点では馬が若く、関西への輸送を含めると、さすがに勝ち切るのは難しかったということだ。ファンタジーSの勝ち馬であるサウンドリアーナは積極的なレースをしたが、厳しいレースを追走したことで、直線に向いて失速してしまった。サンブルエミューズやサウンドリアーナのみならず、先行したスピード優位の馬たちにとっては非常に苦しいレースであった。

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清清しい勝利


JCダート2012-観戦記-
逃げ宣言をしていたトランセンドが押して叩いても行かず、代わりに内枠から自然な形でハナに立ったエスポワールシチーが、前半の1000mが59秒8という淀みのないペースでレースを引っ張った。各馬の実力が拮抗していたこともあってか、馬群は縦長にならず密集し、第4コーナーでも外に膨れながら回らざるをえない馬が多く見られた。コースロスのないポジションで、スムーズに走ることができたかどうかが勝敗を分けた。

勝ったニホンピロアワーズは、好ダッシュからすぐさま好位置を取り、あとは馬任せのペースでレースを運ぶことに成功した。最終コーナーを回っても、酒井学騎手の手綱は持ったまま。あり余る手応えを感じながらも、ギリギリまで仕掛けを我慢して追い出されると、ゴールまで一直線に伸びた。これまでの詰めの甘さが嘘のような、会心の競馬であった。ニホンピロアワーズ自身、力を付けているのは確かだが、どの馬よりもスムーズにレースができ、いつも通りの力を出し切れたことが最大の勝因である。

酒井学騎手にとっては、初のG1勝利となった。前に行かせたら天下一品であり、今回もきっちりと馬を御して、完璧に回ってきたように、ここにきてメキメキと力をつけているジョッキーである。地道な努力が少しずつ実り始め、走る馬に少しずつ乗れるようになり、関係者からも少しずつ認められるようになってきた。外国人ジョッキーや地方出身のジョッキーの台頭により、かつてないほど厳しい環境下におかれても、こうして才能のある騎手が芽を出してきたことが素晴らしい。実に綺麗で、無欲で、清清しい勝利であった。

ワンダーアキュートは先行力を生かし、道中は最高のポジションを進んでいた。前走のJBCクラシックとは違う速いペースにやや戸惑う面はあったが、最終コーナーでは前に行く馬たちを射程圏に入れて絶好の形で回ることができた。それでも、最後は突き放されてしまったのは、前走で絞り込まれて激走した反動があったのかもしれない。あえて言うならば、第4コーナーを回った勝負所で、ブレーキをかけることなく内を突いていれば、もう少し際どい勝負になっただろう。

1番人気のローマンレジェンドは、道中で思ったようなポジションが取れず、最終コーナーでは外を回したことで、最後は脚が上がってしまった。さすがに内を突くわけにはいかず、外々を回して勝てるほど弱いメンバーでもなかった。ここまで6連勝で来たが、道中での手応えも良くなかったように、蓄積された目に見えない疲れがあったのだろう。まだ4歳馬であり、この先の成長が見込まれるし、大きな期待を掛けていい馬である。

3歳馬のホッコータルマエは先行力にものを言わせて、今回も堅実に力を出し切った。3歳馬の中では最先着を果たしたように、堅実さという点では世代一である。同じ3歳馬のイジゲンは、またもや立ち遅れる形で、後方からのレースを強いられた。前走はそれが逆にハマったが、さすがにG1レースの舞台では同じ競馬は通用しない。ハタノヴァンクールももっと前に行けるようではないと、このレベルのレースでは厳しい。

エスポワールシチーはどうしたのだろう。確かにペースは速かったが、無抵抗に敗れてしまったのは、気持ちの衰えがあるのだろうか。エルムSでローマンレジェンドを差し返したシーンを見て、闘争心が戻ってきたと感じただけに残念だ。全てを知っている佐藤哲三騎手からの乗り替わりも、決してプラスには働かなかったのだろう。

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死闘

Japancup2012 by 三浦晃一
ジャパンカップ2012-観戦記-
ビートブラックが内枠を生かしてハナに立ち、前半の1000mが60秒2、後半が58秒6というスローペースを作り出した。後半はかなり後続を突き放し、第4コーナーまでレースを引っ張ったように見えたビートブラックのタイムでさえこれだから、その後ろの集団はかなり遅い流れであった。勝ったジェンティルドンナの上がり3ハロン32秒9からも、今年のジャパンカップの異常なまでのペースの遅さ、そして究極の上がりの競馬になったことが分かる。

勝ったジェンティルドンナは、見た目以上の強さを秘めている牝馬である。タイプでいうと、ウオッカやブエナビスタのように分かりやすい強さではなく、ダイワスカーレットのような底知れない強さ。何度も書いていることだが、他馬に追いつく(または突き放す)ときに使う、スッという脚が凄い。トップスピードに乗ったときの速さが桁違いというべきか。それが勝負所の一瞬だけに、大きく離して勝ったり、驚異的な末脚を使ったりするのではないから分かりにくいのだ。牡馬にも匹敵するほどの肉体的強さも秘めているので、古馬になった来年の可能性はさらに大きく拡がってゆく。

岩田康誠騎手はジェンティルドンナを前に出してゆき、最高のポジションでレースを進めることができた。外枠を引いただけに、下げてオークスのような末脚に賭けるという選択肢もあったはずだが、岩田康誠騎手の判断は結果的に正しかった。後続をギリギリまで待ってから追い出し、オルフェーヴルとぶつかり合いながらも、最後の最後は執念でハナ差だけ前に出した。直線では前からバテたビートブラックが下がってきて、外からヨレてきたオルフェーヴルに閉められて行き場がなくなったが、強引に外に張り出す形で進路を確保した。最後の2頭の叩き合いは、さながら格闘技のようであった。

先週のマイルCSに続きジャパンカップも長い審議となった。そもそも武豊騎手のサダムパテックは審議対象にさえなっていなかったようだが、勝つチャンスを逃さないために進路をこじ開けたという点においては、どちらも同じである。先週がアウトなら今週もアウトだし、その逆も然り。意図的なのは今回だが、レース全体における他馬の被害(またはレースを壊したかどうか)という点においては先週の方が悪質である。

ラフプレーを擁護するわけではないが、今回は一騎打ちをした馬同士のぶつかり合いであり、オルフェーヴル陣営が強調するほど問題があるとは思えない。そもそも、全周パトロール映像で見れば分かるように、ずっと内にモタれて真っ直ぐに走れていないのはオルフェーヴルの方なのではないだろうか。今回に限っては、ジェンティルドンナとオルフェーヴルの差はどこまで行っても縮まらない。関係者は分かっているし、競馬ファンの目は節穴ではない。

オルフェーヴルはさすがに海外遠征の目に見えない疲労があるのだろう。また、今回のようなペースで外を回されたことも響いて、最後は内にモタれて伸び切れなかった。それでも、凱旋門賞であそこまで走って、そこからわずか2ヶ月足らずというローテーションの中、ここまで走ってしまうのだから、さすが超一流馬である。体調が優れないときにどんな走りを見せるかで、その馬の真価が問われるのだ。まともな状態で走ったら、この馬に敵はいない。ぜひ来年も現役を続けて、悲願の凱旋門賞を手にしてほしい。そのためには、有馬記念を使わず、来年は阪神大賞典と天皇賞春だけを使って、向こうに渡るべきだろう。

ルーラーシップはまたもや届かず3着と、競馬に行っての不器用さに、今回は外枠が災いしたレースであった。立ち上がるような格好でスタートを切り、そこからすぐさま内に進路を切り替えたウイリアムズ騎手はさすがだが、第4コーナーでは馬群が広がらず、外を回される羽目になってしまった。ラスト3ハロン32秒7の脚を使っても差せないのだから、もうどうしようもない。今年になって本格化して、能力の高さは疑いのない馬だけに、有馬記念では内枠を引けたらという条件付きで狙ってみたい馬である。

3歳馬フェノーメノは内枠を利して、きっちり勝ちパターンで回ってきたが、最後の直線では突き離されてしまったように、まだこのメンバーに入っては力が一枚足りないということだろう。3歳馬らしく、まだ馬体にも緩さが残っている馬だけに、来年に成長した姿を楽しみに待ちたい。ダークシャドウは後ろから行き過ぎた感がある。距離もベストではなく、それでも4着に差してきたのはこの馬の底力だろうし、レース選択ひとつでG1のタイトルを獲れる器であることは間違いない。

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きれいな競馬はむずかしい。


マイルCS2012-観戦記-
シルポートがハナに立ったにもかかわらず、前半の800mが46秒9、後半が46秒0という、マイルCSもしくはマイルのG1レースとしては珍しいほどのスローペース。道中で馬群は固まり、口を割って引っ掛かる素振りを見せる馬も何頭か見られた。こういった展開の中では、後ろから行った馬や馬群の外を回った馬は苦しい。先行もしくは内々を器用に立ち回った馬たちが、力を発揮しやすい流れのレースであった。

勝ったサダムパテックはスローペースの中、最高のポジションでレースを進めることができた。最終コーナーに入ってゆく手前では、前に適当なスペースも出来て、武豊騎手もかなり手応えを感じていたに違いない。最後の直線に向いて、前の馬がヨレた影響で外に張り出す形で進路を取り、そこからはゴールまで一直線に突き抜けた。ムラのあるタイプではあるが、もともとクラシックや安田記念でも1番人気に推されるほどの実力馬であり、勝ち負けになる力は備えていた。枠順や展開という外的な要因が噛み合って、遅ればせながらG1タイトルを手にすることになった。

武豊騎手の久しぶりのG1制覇に水を差すようで申し訳ないが、最後の直線のあの場面では、横に避けるのではなく、縦に逃げてほしかった。一旦手綱を引いて、内でスペースが開くのを待つという選択肢があったにもかかわらず、横に張り出す形になり、玉突き事故の第2因になってしまった。あそこで焦ってしまったのは、さすがの武豊騎手も勝ちたいという本能が前面に出てしまったということだろう。その気持ちは歓迎したいし、最後の直線まで最高の騎乗だっただけに、やや後味の悪いレースになってしまった。きれいな競馬というのは本当に難しい。

グランプリボスは、前走と違い、ペースが極めて遅かったこともあり、前半はかなり力んで走っていた。それでいて、最後は大きな不利を跳ね返してサダムパテックを追い詰めた以上、古馬になってもマイルのG1を勝てる力は備えていることを証明した。イギリスに渡ったことで、長く調子を崩していた時期もあったが、今年の秋は本来の力強い姿を取り戻している。内田博幸騎手は、これで今年の秋のG1レースで2着が3回目。普通に回ってくれば勝てるのに、普通に回ってこられなかった今回ばかりはさすがに悔しいだろう。

ドナウブルーは外を回されたにもかかわらず、僅差の3着と好走した。着差以上の好走であり、夏場から使ってきたことを考えると、今回の走りは価値が高い。さすがジェンティルドンナの姉である。このあとはゆっくり休ませて、来年はどこかのG1で姉妹対決を楽しみにしたい。

堀厩舎の3頭出しは、リアルインパクトが最先着を果たした。ストロングリターンは脚質的にどうしても展開に左右されてしまう。今回は安田記念のように前が止まる流れにはならなかった。ファイナルフォームは最後の直線でのアクシデントが致命的であった。キャリアの浅い3歳馬が、あれだけの不利に巻き込まれては、さすがに巻き返しは難しかった。

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消えない虹を


エリザベス女王杯2012-観戦記-
レジェンドブルーが逃げて作り出したペースは、馬群が固まって進んでいたように、前半1000mが62秒4、後半が61秒0というスローペース。エリンコートが我慢しきれずに動き出したところから、レースは流れ始めた。結果としてエリンコートは14着に大敗したのだから、秋華賞のチェリーメデューサとは違い、レースを壊しただけで終わってしまったように見える。道中で外を回されてしまった馬は早々に脚を失ってしまい、また最後はどの馬も脚が上がっていたように、道悪適性も問われたレースであった。

勝ったレインボーダリアだけが、余裕綽々の手応えで先頭に立ち、そのまま押し切った。洋芝の函館や札幌競馬場で勝っているように、力の要る馬場はドンとこいの馬である。父ブライアンズタイム、母の父ノーザンテーストという、悪く言えばオールドファッションな血統の牝馬であり、だからこそ、この力と我慢強さを問われる馬場で勝利することができたとも言える。馬体もふっくらと仕上がっていて、最高の状態で臨んでいたことも好走の一因である。走る馬を頻繁に入れ替えるのではなく、走る馬を待ってさらに走る馬に育てていく二ノ宮敬宇調教師の手腕は、目立たないながらもいぶし銀の光を放っている。

柴田善臣騎手の騎乗も見事と言うしか他はない。前走こそ外を回されてしまい結果を出せていなかったが、今回は外枠からの発走を跳ね返し、レインボーダリアを後方の内に待機させた。エリンコートが動いても動じることなく、外を回して仕掛けていくタイミングが抜群であった。ハマるレースとそうでないレースが極端ではあるが、馬の気分を害さずにスムーズにレースをさせる柴田善臣騎手のスタイルと道悪のレースは相性が良いのだろう。

またもや2着とG1タイトルを逃したヴィルシーナは、今回は道悪に泣かされた。道中自ら前に進んで行かないシーンが見られたように、もともと自分でハミを噛んで走るタイプの馬ではない。だからこそ、道中は引っ掛かることもなく、距離が延びても心配がなく、騎手にとっては乗りやすい馬なのであるが、今回の道悪馬場ではそれが凶と出た。滑るような馬場では馬は騎手のハミを頼って走るので、ヴィルシーナのようなハミをガッチリ噛まない馬はノメりやすいし、騎手にとっても操縦しづらくなってしまう。最後はなんとかヴィルシーナの根性と内田博幸騎手の技術で2着に持ってきたが、良馬場でこそ良さが生きる馬である。

ピクシープリンセスはスタートで後手を踏んでしまい、ミルコ・デムーロ騎手は腹を括って最後方からレースを進めた。最内の馬場が荒れていない所を通って、最後は大外に出して追い込んできた。跳びが大きい馬であり、道悪は決して得意ではないだけに、この馬にとっても今回の大雨はついていなかったといえる。出遅れたにしても、ジワジワとフットワークを大きくしてゆき、最後の直線では思いっきり脚を伸ばすことに成功したデムーロ騎手はさすがである。ヒカルアマランサスで勝った京都牝馬Sのレースを思い出した。

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もう言葉はいらない

Tennosyoaki2012 by 芝周志
天皇賞秋2012-観戦記-
単独でシルポートが逃げて刻んだ流れは前半1000mが57秒3というハイペース、と思いきや、後続集団は全く追いかける素振りすら見せない。カレンブラックヒルを先頭とすると、後続集団自体は推定60秒前後で前半を折り返したことになる。最終コーナーを迎えても、各馬動き出す素振りさえ見せず、勝ち馬の上がり33秒1を見れば分かるとおり、スローペースのヨーイドンのレースとなった。これだけ逃げ馬と後方集団が違う競馬をするG1レースも珍しい。

ダービー以来、久しぶりの勝利となったエイシンフラッシュは、終始内々を回り、ギリギリまで脚を溜め、最後の直線では内を突き抜けた。スローペースのお手本のような競馬であり、かつエイシンフラッシュ自身、ダービーも同じような競馬で制しているように、スローの瞬発力勝負に滅法強い。直線での伸び脚には、さすがダービー馬と思わせられた。外を回されて脚を失ってしまった前走の毎日王冠とは対照的なレースであり、また前走を叩いたことで仕上がりも良かった。ダービー後にその強さを再び見せることなくターフを去る馬が多い中、こうしてダービー馬の強さの片鱗を見せてくれたことは喜ばしい。

M・デムーロ騎手の芸術的な手綱捌きにはもう言葉はいらないかもしれない。12番枠からの発走にもかかわらず、スペースを見つけながら内にポジションを見出し、内にこだわる挑戦者のレース運びに徹していた。あそこまで綺麗に内が開くとは思っていなかっただろうが、最短距離を走らせることで、エイシンフラッシュの良さを引き出し、能力を十全に発揮させた。ポンと日本の競馬場にやって来て、ここまで完璧な騎乗をしてしまうところに、デムーロ騎手の凄みがある。超一流のジョッキーが、向こうでは毎日のように実戦で研鑽を積んでいるのだから、当人にとっては当然のことなのかもしれないが。馬上からではなく、馬を下りての跪拝も見事な演出であった。

3歳馬フェノーメノは好スタートから好位を確保し、後続集団の先頭という理想的なポジションで競馬をすることができた。蛯名正義騎手にとっても、考えうる限り最高の騎乗であったはずである。ゴール前でやや苦しがって、右にヨレたことぐらいしか、マイナスポイントはみつかならない。フェノーメノの力は出し切った結果としての2着であった。古馬と比べると、この馬自身、特にトモに筋肉が付き切っていないことも含め、発展途上にあるといえる。レースセンスの良さと、競走馬としての資質はすでにG1レベルにあるのだから、古馬になって馬体がパンとしてくれば、この馬が頂点を極める日が必ずや来るはずである。

ルーラーシップは行き脚がつかず、後方からの競馬を強いられ、最終コーナーでは外を回してしまった分の3着。勝ち馬と同じ33秒1の上がりで走っているのだから、道中の位置取りが悔やまれる。人気を背負っていた分、I・メンディザバル騎手が最後の直線で外に出したことは仕方ないとして、それ以前のポジショニングが悪かった。プラス18kgと大幅な馬体重増がややモタついた原因のひとつかもしれないが、見た目の仕上がりは決して悪くなかった。最後は大きなフットワークで大外をグイグイ伸び、今回はゴール前届かなかったが、次走のジャパンカップではポジション取りさえ間違わなければ勝利の期待は非常に大きい。

敢えて正直に指摘すると、I・メンディザバル騎手はレース前にルーラーシップについての研究を怠っていたのではないだろうか。これまでのレース振りを見れば、大跳びゆえ、スタートしてから行き脚がつくまでに時間が掛かる馬であることは分かるはずで、スタートでふわっとしてしまったのは仕方ないとして、そこからのリカバリーが足りなかった。C・ウイリアムズ騎手が宝塚記念でそうしたように、無理に追っ付けてでも、ポジションを取りに行くべきであった。具体的には、ジャガーメイルの内側を通って、アーネストリーを追いかけなければならなかった。高い技術を持った騎手ではあるが、ウイリアムズ騎手やデムーロ騎手にある研究熱心さが足りなかったのではないか。

無敗で臨んできたカレンブラックヒルは、唯一、シルポートを追いかけようとした馬で、それでも5着に粘りこんだのだから強さを証明したと言える。NHKマイルCはスローの逃げ切りであり、前走の毎日王冠は前が止まらない馬場だったが、今回は負けはしたものの、厳しさの中でようやくこの馬の真の強さが垣間見えた。連勝が止まっただけに、次走は体調が下降線を辿っているはずであり、香港の国際競走での好結果は期待しにくい。この敗北を機として、もう1度、馬を作り直してからターフに戻ってきてほしい。

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メジロマックイーンがフラッシュバックした


菊花賞2012-観戦記-
今年の菊花賞は道中に2つのポイントがあった。ひとつは、スタートしてからスタンド前までのポジション取り。圧倒的な1番人気に推されたゴールドシップの脚質を意識してか、少しでも前の位置を確保しようと各馬が第1コーナーに向けて殺到した。にもかかわらず、前半の1000mが60秒9とそれほど速いペースにはならなかったことで、ブレーキを掛けて引っ掛かる馬が目立った。ここでスムーズに自分のリズムで走れた馬が、最後の直線でも伸びている。もうひとつは、3~4コーナーにかけての攻防。ゴールドシップに早めに来られたことで、先行集団にとっては厳しいレースとなり、最終コーナー手前でバテて下がっていく馬に進路を塞がれてしまう(上がっていけない)有力馬がいた。結果的には、前半に無理をすることなくゆっくりと走り、勝負所の3~4コーナーで外を回しながら押し上げていった馬のワンツーとなった。菊花賞を勝つための定石の乗り方ができたかどうかが勝敗を左右したということである。

勝ったゴールドシップは最内枠が憂慮されたが、行き脚がつかなかったことがかえって吉と出た。もし好スタートを切って、道中で馬群の内を走るようなことがあれば、行き場を失って、スパートのタイミングが遅れてしまうという最悪のケースも考えられたはずだ。ところが、いかにもステイヤーらしいゆったりとしたスタートを切ったことで、内田博幸騎手も落ち着いてほぼ最後方を走らせ、いつでも外に出せる態勢を整えることができた。向こう正面では外に出して、あとはゴーサインを出すタイミングを計るのみ。安全策を取ったために、外から上がってゆくタイミングが少し早かったが、内田博幸騎手にとってはほぼ思い描いていたとおりのレースだったのではないだろうか。

ゴールドシップはこれで皐月賞、菊花賞という2冠馬となった。奇しくも昨年の3冠馬であるオルフェーヴルと同じ血統構成(父ステイゴールド、母父メジロマックイーン)であり、ゴールドシップはさらにパワーとスタミナ寄りの馬である。皐月賞はあらゆる条件が向いての勝利であったが、今回の菊花賞は力でねじ伏せた完勝であった。スピード優先の現代競馬において、ゴールドシップのような馬がクラシックを2つも勝てるのは不思議な気もするが、これもまた競馬の面白さである。最後のコーナーを回ってゆくゴールドシップの姿を見て、メジロマックイーンが勝った22年前の菊花賞がフラッシュバックしたのは私だけではないだろう。この先、良く言えば古風な、悪く言えば時代遅れのゴールドシップが、歴戦の古馬を相手にどのような走りを見せてくれるのか楽しみでならない。

スカイディグニティは、最後の直線であわやという見せ場をつくった。テン乗りとは思えないメンディサバル騎手に導かれて、前半はこの馬のリズムでスタミナを温存し、後半はゴールドシップに外から来られたにもかかわらず、外を回しながら上手く馬群をさばいた。スムーズに走らせることを心掛けていたら、いつの間にか前には勝ち馬しかいなかったという感じであろう。スカイディグニティはセントライト記念の2着馬であり、この馬の好走を見るにつけ、もしフェノーメノが菊花賞に出走してきたらどれだけ凄いレースになったろうと思わざるをえない。

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着差以上の3冠牝馬の強さ

Syukasyo2012 by 芝周志
秋華賞2012-観戦記-
最内枠を引いたヴィルシーナが内田博幸騎手に気合をつけられながらハナを奪い、コーナーワークを利用しながら急激にペースを緩めて、前半の3ハロン目と4ハロン目が13秒台という究極のスローペースを創り上げた。ダイワスカーレットがスローに落として勝利した年でさえ13秒台は1ハロンだけだったのだから、歴史に残る超スローペースとなった。向こう正面で小牧太騎手のチェエリーメドゥーサが捲くって先頭に立ったのも当然の判断といえる。

勝ったジェンティルドンナは、よくぞあの位置から差し切ったものだ。外枠からの発走だったことに加え、道中は超スローペースに流れたことで、終始外を回されつつ、やや折り合いすら欠いていたのだから、完全な負けパターンであった。最終コーナーも外を回り、万事休すかと思われたが、スッと先団にとりつき、そこからスッと抜け出してみせた。ヴィルシーナに最後まで食い下がられたが、態勢有利を生かして、ハナ差で3冠牝馬に輝いた。着差以上に強い勝ち方であり、あのスッと抜け出してくる脚こそが、この馬の強さの表れである。

ジェンティルドンナの3冠の中でも、今回が最も苦しんだレースであったが、それだけ3冠を獲ることは難しいということである。新阪神コースのマイル戦に始まり、府中のチャンピオンディスタンス、そして最後は京都の小回りの2000m戦といった具合に、あらゆる条件を克服しなければ3つ全ては勝てない。私たちの想像する以上に困難な道のりを歩み、成し遂げたジェンティルドンナとその関係者には最大限の賞賛を贈りたい。次走はエリザベス女王杯であろうか。3冠達成の直後のレースは少なからず反動が出るので注意して見守りたい。

岩田康誠騎手もさすがに今回は苦しい騎乗であった。決して岩田康誠騎手の騎乗ミスがあったわけではなく、自然な流れから、考えられる限りの最悪の展開となり、4コーナーまでは致命的なレースと思われただけに、馬の力で勝たせてもらったと感じているはず。それでも、最後はハナ差で差し切ったあたり、ジェンティルドンナだけではなく、岩田康誠騎手の勝負強さも出たレースであった。このハナの差は大きい。歴史にその名を刻めるか否かを隔てるハナ差であった。

ヴィルシーナは勝ちに行く競馬をしての2着だけに、勝った相手が強かったとあきらめるしかない。それでもあえて言うならば、もしチェエリーメドゥーサがあそこで捲くってこなければ、もしかするともっと自分のペースでスパートを待てたかもしれない。チェエリーメドゥーサを目標に動かなければならなかったことで、やや前倒しでの仕掛けとなった。この馬の力は出し切っており、内田博幸騎手もこれ以上ない納得の騎乗であろう。

3、4着に入ったアロマティコとブリッジクライムは内の好枠からスタートして、道中で脚を温存できたことがラストの伸びにつながった。対して、外枠からの発走となったアイムユアーズ、アイスフォーリス、ミッドサマーフェアといった有力馬たちは、外々を回されてしまったことが最後の脚に影響した。ここまで極端なペースになると、道中のポジションひとつで結果が大きく左右されてしまう。特に3強の1角として大きな成長を持って臨んだアイムユアーズにとっては、不完全燃焼のレースとなった。

レースを作った内田博幸騎手、それを壊した小牧太騎手、そして最後は猛然と叩き合いを制した岩田康誠騎手、共に地方出身の騎手たちである。砂の世界から飛び込んできたジョッキーたちが、芝の上で魅せてくれた競馬の奥深さに、馬券を握り締めた手の震えが、しばし止まらなかった。

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悔しくて眠れない

オルフェーヴルの凱旋門賞を見終わったらすぐ寝ようと思っていたが、あまりにも悔しくて眠れないので、どこよりも早く観戦記を書いてみたい。アヴェンティーノが立ち遅れたことでペースメーカーとしての役割を務められず、道中はいかにも欧州のレースらしいスローに流れた。それでもオルフェーヴルはフォア賞のときのような頭を上げる素振りもほとんど見せることなく、前半戦を無事にクリアできたように見えた。欲を言えば、もっと馬群の中に入り込んで脚を溜めたかっただろうが、大外枠ということを考えると、あそこまで内に入れるのが限界だろう。

フォルスストレートに差し掛かって、オルフェーヴルが一瞬行きたがったが、そこはC・スミヨン騎手が他馬の後ろに付ける形でなんとかなだめた。持ったままで最後の直線に向いて、ゴーサインが出されると、外から前の馬たちをまとめて交わして先頭に立ったオルフェーヴルの勢いを見て、誰もが勝利を確信したに違いない。いよいよ待ちに待った日本馬が凱旋門賞を勝つ瞬間が来たと。スミヨン騎手はもちろん、オルフェーヴルの関係者、そして世界中の競馬ファンがそう感じたはずである。私には凱旋門賞を撮影しに行っているカメラマンの友人の心臓の高鳴りが聞こえてきた。

この先は書くに耐えないが、オルフェーヴルは先頭に立った瞬間、右にササりながら、内ラチの方へと切れ込んでいく。異変を感じたスミヨン騎手は、なんとか立て直そうと、右手のムチと体重移動を使いながら、大きなアクションでオルフェーヴルを叱咤激励した。しかし、明らかにオルフェーヴルは苦しがっていた。一旦は交わしたはずのソレミアに差し返されたのだから、最後はほぼ脚が上がっていたと言ってよい。道中も手応え良く回ってきて、最後の直線でも弾けたように見えたが、最後の最後で力尽きてしまったのだ。

最後の失速振りを見て、スミヨン騎手の仕掛けが早かったと考える向きもあるだろうが、私はそうは思わない。オルフェーヴルの手応えを考えると、先頭に立つタイミングとしては申し分なかったはず。早く先頭に立ちすぎてオルフェーヴルが気を抜いたわけではなく、苦しがってヨレて伸びあぐねたのだ。あえて言うならば、オルフェーヴルの手応えを見誤ったということになるだろうか。手応えの良さの割には、オルフェーヴルは追い出してから伸びなかった、いや、失速した。

ゴール寸前でササって追えない管理馬を見て、池江調教師が「私の技術が世界レベルになかった」と自分を責める気持ちは痛いほど分かる。が、今回に限っては、調教技術うんぬんの問題ではない。ディープインパクトはやや馬体が立派すぎた、もっとはっきり言うと、仕上げが手ぬるかったゆえに伸び切れなかったが、オルフェーヴルは前哨戦のフォア賞を使われ、やれるだけの調教は施されてきたはずである。誰を弁護しているのでもなく、考えうる限り最高の仕上げであった。

それでも最後に力尽きてしまった理由はひとつ。オルフェーヴルの調子がピークを過ぎていたということだ。宝塚記念の観戦記でも少し触れたが、春のシーズンオフの宝塚記念を勝利して、わずか3ヶ月ほどで再び100%の状態に仕上げるのは難しい。体調を維持するのには長すぎるし、一旦、馬体を緩めて巻き直すには短すぎる。今回に関して言うと、前者に当てはまり、フォア賞の前後あたりがピークで、その後、凱旋門賞に向けて体調は下降線を辿っていたのではないだろうか。ここでまたひとつの教訓が生まれる。もし凱旋門賞を勝ちたいなら、宝塚記念は勝っては(使っては)ならない。来年もう1度挑戦するならば、春シーズンは天皇賞春を勝って(使って)そのまま休養に入り、それからフランスの地に渡り、同じくフォア賞を叩いて、スミヨン騎手(もしくは現地のジョッキー)を背に臨んでもらいたい。そうやって考えることで、私たち誰しもが救われるのだ。

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世代交代

Sprinterss2012 by 三浦晃一

スタート良く飛び出したシンガポールのキャプテンオブヴィを筆頭に、先行力のあるスプリンターたちが第1コーナー目がけて殺到したことで、前半600mは32秒7、後半600mが34秒0という、スプリンターズSらしいハイペースに流れた。それでも道中は団子状態で進んだように、逃げ、先行馬にとっては引くに引けない展開であった。中団にポジショニングをし、馬群の外を走った2頭の有力馬が、まるで遠心力を味方につけるかのように、直線では伸びた。

勝ったロードカナロアは、1番人気で惜敗した高松宮記念の借りを返した形で、同厩舎のカレンチャンを負かし世代交代を果たした。G1レベルの壁にぶつかったように見えたが、この夏でさらに成長を遂げ、遂に頂点まで登り詰めた。具体的には、夏を越して、よりスプリンターらしい、まるで怪物のような体型へと変貌した。前走を叩いて、今回はマイナス6kgと、最高の状態に仕上げられてきたのも勝因のひとつである。この先もスプリント戦に限れば、敵なしの強さを誇ることだろう。

岩田康誠騎手の大一番での強さは折り紙つきである。その強さの秘訣は、レース中のポジショニングにある。自分の足で歩いて、馬場の良いところ悪いところを把握したりと研究熱心なところに加え、ゲートが開いてからのレースの流れを瞬時に掴み、とっさに馬を出したり下げたりしてポジショニングできる肌感覚が凄い。誰も真似したくても真似できない、天性の勘とでも言うべきだろうか。今回もスッと下げて、カレンチャンの後ろのあの位置だったからこそ、直線で弾けることができた。

カレンチャンは惜しくも2着と、スプリントG1の3シーズン制覇は成らなかった。スプリンター(特に牝馬の)は好調期間が短く、あのフラワーパーク(高松宮記念→スプリンターズS)やビリーヴ(スプリンターズS→高松宮記念→スプリンターズS2着)でさえ2シーズンまでだったのだから、歴史に名を残す名牝スプリンターたちを抜くことはできなかったが、肩を並べたことは間違いない。池添謙一騎手は、スムーズにレースを運んで、カレンチャンの力を出し切っている。

ドリームバレンチノは先行集団について行けず、控える形になったことが功を奏した。松山弘平騎手も慌てることなく、差しに徹し、腹を括ったからこその3着であった。欲を言えば、どこかで外に出せていればもっと際どかったかもしれないが、この馬の力はほぼ出し切っている。同じくエピセアロームも外枠からの発走と道中で控えたことが吉と出た。ロードカナロアやカレンチャンほど伸びなかったのは、G1レベルではあと一歩パンチ力が足りないということである。

香港馬はラッキーナインが5着、リトルブリッジが10着と、今年は精彩を欠いた。しかもラッキーナインは展開に恵まれてのものだけに、額面(着順)どおりには評価できない。ローテーションだけを見ても、やはり今年の香港馬はここに照準を絞っていなかったのだろう。もちろん出走してくるからにはあわ良くばという期待はあったにせよ、ここをひと叩きして自国のスプリントG1が目標ということになる。香港のスプリント馬は強いだけに、陣営の本気度は今後も注目するべきである。

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あと3ヶ月しかない

Takaraduka2012 太田宏昭
宝塚記念2012―観戦記-
ネコパンチが外から逃げ、天皇賞春馬のビートブラックも積極的に前々を攻めたことで、前半1000mが58秒4、後半が60秒4という淀みのないペースになった。最初の直線が長いコースで、それほどダッシュが良くない逃げ馬が大外枠に入ると、無理をしてでもハナに立とうとするため、ペースが速くなりがちである。とはいえ、これぐらいのペースがG1レースとしてはちょうど良い。道中の厳しいポジション争いも含め、各馬の実力と調子が正直に反映されたレースとなった。

勝ったオルフェーヴルは、負けられないレースを制したといえる。出走するからには勝利が求められたはずで、だからこそ急ピッチで仕上げられて、なんとか間に合った。決して7割の出来ではなく、オルフェーヴルの生命力によって、ほぼ100%に近い仕上がりにまでたどり着いたといえる。道中も流れたことで、折り合いの心配もなく、レースがしやすかったことも幸いしたが、オルフェーヴルが力を発揮すればこんなものだろう。馬場の真ん中を通って、あっという間に突き抜けた。充実した今のルーラーシップに2馬身もの差をつけたのだから、世界で通用する実力があることは間違いない。この後は凱旋門賞に向かうはずだが、あと3ヶ月しかない本番に向けて、どのように調整をしてゆくのか。陣営の手腕が問われる。

池添謙一騎手は、落とせない一戦だったにもかかわらず、実に落ち着いて乗っていた。各馬が動き始めた4コーナー手前で、自身も動きたくなったはずだが、あそこでじっくりと待てたことが大きい。それぐらいオルフェーヴルの手応えが良かった(待っても突き抜ける手応えがあった)ということだろうが、池添騎手の置かれていた状況を考えると、そう簡単ではなかったはず。スイープトウショウ、デュランダル、ドリームジャーニーなど、数々の追い込み馬に跨ってきた経験が、馬の末脚を信じて、ひと呼吸置くことの大切さを池添騎手に教え込んだのだ。

負けはしたが、ルーラーシップも鞍上のC・ウイリアムズ騎手も非の打ち所のないレースをした。ゲートボーイがいない関係で、今回もスタートが上手く決まらず行き脚がつかなかったが、そこからのウイリアムズ騎手の判断が絶妙であった。内の各馬が第1コーナーに殺到したことによってできたスペースを見逃さず、馬を動かして、スッと内のポジションに入れたのだ。あそこでルーラーシップのリズムを重視しすぎていたら、ほぼ最後方からの競馬を強いられていたに違いない。最後の直線に向く前に外に出して、ルーラーシップの大きなフットワークを生かした点も見事というほかない。それにしても、今回は勝った相手が強すぎた。

ショウナンマイティはこの春の調子の良さを生かし、展開にも恵まれての3着。前の2頭と比べると、まだG1レースを勝ち切るだけの力はないが、産経大阪杯の驚異的な末脚がフロックでないことを証明してみせた。溜める競馬が合っている馬だけに、どうしても展開に左右されてしまう面は否めない。浜中俊騎手もショウナンマイティを型にはめて、きっちり乗っていた。

ウインバリアシオンやビートブラックといった天皇賞組にとっては、今回の速いペースは不向きであった。いずれも典型的なステイヤーだけに、追走に脚を使ってしまい、直線に向いたところですでに脚は残っていなかった。距離が長い方がバテない馬もいるということである。

エイシンフラッシュはどうしたのだろう。スタートしてから他馬にぶつけられたのか、第1コーナーに向かうまでに、鞍上の制止を振り切って、力んで走っていた。せっかくの好枠を生かしきれなかった。レース前から入れ込んでいる姿を見せていたことからも、ドバイ遠征の内面的な疲れが抜けていなかったのだろう。調教では良い動きを見せるだけに、調子の判断が難しい馬である。

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冷静と信頼こそ

Yasuda2012 by mkoichi
安田記念2012―観戦記―
絶対的な逃げ馬シルポートが先頭に立ち、昨年の覇者であるリアルインパクトが番手を追走し、前半マイルが44秒9、後半が46秒4という、いかにもマイルのG1戦らしいペースでレースは流れた。ペースが速かった割に、馬群がひと固まりとなったのは、どの馬が勝ってもおかしくないという力差の見えないメンバー構成を意識して、ほとんどの人馬たちがチャンスを狙って前に行ったから。その状況を裏から読んで、内の経済コースを進みつつ、虎視眈々と後ろからレースを進めた2組がワンツーフィニッシュを決めた。

勝ったストロングリターンは、結果的に見ると、力が一枚抜けていた。昨年は悔しい負け方をしていただけに、今年こそはという想いで、安田記念を目標にしてやってきたのだろう。休み明けの前走を叩かれて、必要な箇所の筋肉が盛り上がり、まるで絵画から抜け出てきたような馬体を誇っていた。怪我などによって、ほぼ1年間を棒に振ってしまったが、あきらめることなく、じっくりと丁寧に仕上げてきた陣営の手腕と忍耐には最大級の賛辞を送りたい。いかにもマイラーだけに、今後は秋の大目標であるマイルCS、もしくは海外のレースにも目を向けて調整してもらいたい。

福永祐一騎手は、ようやく大レースで、その安定した騎乗技術を披露して見せた。好スタートを決め、多くの馬が前へ前へと殺到する中で、外を回しすぎた嫌いのある前走の反省を踏まえ、冷静に内で脚を溜めていた。先日の日本ダービーほどの人気やプレッシャーを背負っていなかったこともあるが、ストロングリターンの能力に全幅の信頼を置いていたからこそ、あのポジションでも我慢ができたのだろう。直線に向いて、馬群が開いた瞬間を見逃さず、絶好のタイミングで追い出してみせた。最後は馬を真っ直ぐ立て直しながらも、内田博幸騎手との追い比べを制し、リーディングジョッキーとしての貫禄を見せてくれた。この冷静と信頼こそが福永騎手の真骨頂である。

敗れたものの、グランプリボスも内々で脚を溜めて、最後の直線で爆発させた。長く良い脚が続かないため、脚の使いどころが難しい馬ではあるが、今回は内田博幸騎手に導かれて最高のレースをした。NHKマイルC以来、久しぶりのG1レースでの好走となり、まだ終わっていないことを証明してみせた。矢作芳人調教師は、先週のダービーに続き、2週連続でのG1制覇とはならなかったが、今年は連対率も高く、好調が続いている。

コスモセンサーは前に行った組の中では、最後まで粘って、自身の成長力を証明してみせた。3頭出しだった西園正都厩舎の馬たちの中で、最も人気薄にもかかわらず最先着した。競馬とは案外そういうものである。強いと思っていた馬が負け、弱いと思っていた馬が好走する。コスモセンサーは切れる脚がないので勝ち切れるイメージが湧かないが、東京新聞杯のように逃げる形に持ち込めれば、これからも大きなレースでチャンスがあるだろう。

押し出される形で1番人気になったサダムパテックは、C・ウイリアムズ騎手がソツなく乗ったにもかかわらず、最後は弾けなかった。前走で激走した反動があったのか、それとも単なるポカか分からないが、2戦続けて完璧なレースをすることの難しさを改めて感じさせた。アパパネは不利がなかったにもかかわらず、直線では手応えがなくなっていた。肉体的には本来の状態に戻っていた以上、最後まで走り抜く気力が失われてしまったのだろうか。ゲート入りを嫌っていたことも気になった。香港から来た2頭も11着、14着と惨敗した。チャンピオンズマイルの全体時計と比較するとおよそ4秒も違い、同じマイル戦でも全く別ものと考えたほうがよいレースであった。

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彼には志があるからだ

Derby2012 太田宏昭
日本ダービー2012―観戦記―
約束どおりゼロスがすんなりと先頭に立ち、ディープブリランテがその後ろに入り込み、外からトーセンホマレボシが番手を確保して隊列が決まった。前半1200mが70秒8、後半が73秒0だから、ゼロスがラビット的な存在を示すことで、道中はかなり引き締まったG1らしいペースとなった。それでも、後続集団はそれほど速いペースではなく、高速馬場の影響もあって前に行った馬はなかなか止まらない。皐月賞でワンツーフィニッシュした人気馬ワールドエースとゴールドシップの2頭も伸びてはいるが、展開が向かなかった。

勝ったディープブリランテは真正面からレースの流れを受け止めて、チャンピオンディスタンスを最後まで走りきった。体型的には決して適距離とはいえないが、最後まで我慢できたのは、この馬の心肺機能の高さであり、また仕上がりも究極であった。これまではどうしても走るレースが不良や重馬場になってしまっていたが、ようやくの良馬場で力の全てを発揮してみせた。秋はと問われれば、菊花賞ではなく、天皇賞秋などの中距離路線を進んでほしい。それよりも、ダービーを制することで精魂尽き果ててしまった馬は数知れず。まずはディープブリランテ自身の疲れを癒すことが大切だろう。悲願のダービー制覇を成し遂げた矢作芳人調教師とアイルランド人ながら日高でサラブレッドを生産することに身を捧げるハリー・スウィーニー氏には敬意を表したい。

岩田康誠騎手のダービー制覇には涙が止まらなかった。1番人気に推されたアンライバルドで惨敗したあの日から、岩田康誠騎手と私にとっては3年越しの悲願であった。岩田康誠騎手はダービーを勝つためにずっと騎乗してきたし、私も岩田康誠騎手が勝つと思って賭け続けてきた。共同通信杯やスプリングSでのディープブリランテの負け方を見て、今年もダメかと私は半ばあきらめかけたが、岩田康誠騎手はあきらめていなかった。ディープブリランテをダービー馬にするという使命感が、彼から消えることは一度もなかった。先週からディープブリランテの追い切りに跨る岩田康誠騎手の真剣な目を見て、私はもう一度彼とディープブリランテを信じてみようと思ったのだ。

園田競馬場という小さな競馬場でデビューして、ここまで這い上がってきた岩田康誠騎手の涙に私たちは何を見るだろうか。いつも競馬場に応援しに来てくれる父に支えられ、若かりし頃からただひたすら馬を速く走らせることに集中してきた。彼から馬乗りを取ったら何も残らないのではないか。それぐらい、人生の全てを騎手という職業に捧げてきた。競馬は彼にとって絶対に負けられない勝負であり、そういう意味で彼は正真正銘の勝負師なのである。そんな彼のひたむきな姿を見て、ある人は笑うかもしれない。独特な追い方は得てして批判の対象になり、彼が結果を出すと、勝っても馬に対する負担が大きい乗り方だと揶揄される。それでも彼は信念を曲げない。なぜなら、彼には志があるからだ。最高の騎手になるという志が。

勝負のポイントは第1コーナーにあった。東京2400mを勝つためのポジションは3、4番手の内である。間違いなくゼロスが逃げることが分かっていた時点で、岩田康誠騎手の腹は決まっていた。折り合いを欠きやすいだからといって、スタートをソロっと出すのではなく、逃げても良いぐらいの気持ちで出す。そして、第1コーナーを回るまでに、ゼロスを先頭に行かせるようにすると、自然と自分たちは2番手に収まるという計算である。計算どおりにディープブリランテを2、3番手の内につけ、向こう正面で気持ちよく折り合っていた時点で、岩田康誠騎手は勝利を意識したに違いない。あとは全身全霊でディープブリランテを叱咤激励し、ゴール板ではハナの差だけ残してみせた。他の騎手では差されていたに違いない。まさに岩田康誠騎手の真骨頂とも言える騎乗であった。

惜しくもハナ差で負けたフォノーメノも強いレースをした。自身も最後は脚が上がってしまっており、力は出し切ったといえる。ほんの僅かだけ、力が足りなかった。雄大な馬格を誇る馬であり、今回のようなスピードレースでも好走したように、スピード、スタミナ共に豊富であることを証明してみせた。ダービーの大きなタイトルこそ逃してしまったが、未来は明るい。蛯名正義騎手は、レース後、「悔しい、悔しすぎる」と言って人目も憚らず号泣したそうだが、その騎乗は完璧であった。誰も責める者はいないだろう。勝っても負けても男たちが涙する日本ダービーというレースに、そして競馬というスポーツに、私は美しさを見た。

トーセンホマレボシは前々を攻めて、最後は差されてしまったものの3着を確保した。結果的に見ると、ウイリアムズ騎手が前を追い駆けすぎた嫌いはあるが、こういう競馬をしたからこそトーセンホマレボシの良さが生きたとも言える。この馬はまだ完成されていない以上、じっくりと育てていけば、兄たちと同様に大きなタイトルを獲れる馬に成長するはずである。それにしても、何度も言うが、C・ウイリアムズ騎手の攻める心と馬を持たせる技術は素晴らしい。

1番人気に推されたワールドエースは良く伸びてきてはいるが、前には届かなかった。脚を余したかというとそうではない。前走の皐月賞で展開がハマったことで強さが強調されてしまったが、最後の直線でもフラついていたように、現時点での実力は発揮しての敗北である。力が抜けているわけではなかった以上、今回のように流れが向かなければ勝てないこともありうるということだ(同じことは、皐月賞馬ゴールドシップにも当てはまる)。池江調教師が「仕上げが甘かったかも」と語ったのは、限界までは仕上げなかったという意味だろう。それぐらいの仕上がりでも勝てると踏んでいたこともあるだろうし、何と言っても、ダービーを勝つためだけにワールドエースは生まれてきたわけではないということだ。未完成の馬であり、この馬の成長に沿いながら、育てていけば間違いなく大物になる。

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ものをいうのは完成度の高さ

Oaks2012 写真:太田宏昭
オークス2012―観戦記―
今年は好天に恵まれ、レコードが出るような絶好の馬場でレースは行なわれた。マイネエポナが逃げて作り出した流れは、前半1200mが71秒0、後半が72秒6という、オークスでは珍しいハイペース。前残りの競馬が続いていたこともあり、各ジョッキーが意識的に前のポジションを取りに行ったことで、逆に厳しいペースになった。レースは生き物であり、スローになると広く思われているときに限って、案外速くなってしまうものだから不思議である。

桜花賞に続き、これで2冠達成となったジェンティルドンナは、後方で脚を溜めて、直線で爆発させた。抜け出してからもさらに伸びたように、1頭だけラスト3ハロンを34秒台で走り、他馬をあっという間に抜き去った。全体が速いペースになったことで、外枠が不利とならず、かえって絶好のポジションを走れたことを含め、あらゆる条件がこの馬にとって最高に運んだといえる。馬体を見ても、桜花賞の疲れなど微塵も感じさせず、胴部には伸びもあって、悪い材料は全く見当たらなかった。

新阪神コースで行なわれるようになってからの6年間で、桜花賞→オークスの連勝はこれで3頭目(ウオッカのダービーを入れると4頭目)となる。かつてとは比べ物にならないほど、桜花賞とオークスの連動性は高い。特に今回のジェンティルドンナは意外なほど人気がなかったが(3番人気)、馬券を買う私たちは頭を切り替えて、桜花賞を勝った馬の力をオークスでも素直に評価しなければならない。たとえ距離が800m延びたとしても、最後にものをいうのは完成度の高さなのである。

川田将雅騎手は、岩田康誠騎手からの急遽乗り替わりを受け、ピンチヒッターとしての役割を全うしてみせた。石坂正調教師も誰に依頼すべきか迷ったはずだが、結果的に見ても、代役の選択は正しかった。具体的に述べると、ジェンティルドンナのような、やや首を高く保ちながら走る馬にとって、岩田騎手や川田騎手のようなスタイルの追い方をするジョッキーは合うということだ。これだけの差をつけたのだから、他の騎手が乗っていたとしても勝っていたかもしれないが、ジェンティルドンナの末脚を十分に引き出した川田将雅騎手には拍手を送りたい。

ハマの大魔神・佐々木一浩氏が馬主ということで話題を集めたヴィルシーナは、人気にこそ応えられなかったが、なんとか2着を確保してみせた。思っていたよりも速いペースに惑わされることなく、中団に位置して、最後の直線に向いてからは、内田博幸騎手の叱咤激励に応えながら、ゴールまでしぶとく伸びた。今回は勝った馬が強かった。欲を言えば、折り合いに不安のない馬だけに、道中はスローに流れてくれれば、前々で折り合い、ジャンティルドンナよりも先に抜け出して、速い上がりでまとめたかったはず。G1のタイトルこそ手に入らなかったが、ヴィルシーナにとっては良い経験となったのではないだろうか。エリザベス女王杯あたりで大輪を咲かせてもらいたい。

1番人気に推されたミッドサマーフェアは大敗を喫してしまった。道中のポジションは悪くなかっただけに、これだけ負けてしまったのは、スタミナ不足が原因だろう。タニノギムレット産駒には優秀なマイラーが多い。最後の直線では力尽き、真っ直ぐに走ることさえできていなかった。反対に力を発揮したのがアイスフォーリスである。ここでもステイゴールド産駒の底力とスタミナを見た気がする。厳しい流れになったことで、血が問われたレースでもあった。

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横山典弘騎手は上手すぎる


ヴィクトリアマイル2012―観戦記―
大方の予想どおりクイーンズバーンが先頭に立ち、前半の半マイルが46秒4、後半が46秒ジャストと、前走の阪神牝馬Sを逃げ切ったときと同じような平均ペースを刻んだ。いかにもヴィクトリアマイルらしい流れではあるが、このメンバーとしては遅く、上位2頭は前に位置した馬、掲示板に載った他の3頭も内を回った馬という、典型的なスローペースにおける競馬となった。外を回されてしまった馬や道中後方を進んだ馬は手も足も出ないレースであった。

勝ったホエールキャプチャは、スッと逃げ馬の後ろに付け、手応え十分で最後の直線を迎え、ゴールまで綺麗に伸び切った。非の打ち所のない完璧な走りであった。なかなかG1レースを勝てなかったが、長距離輸送のないマイル戦のG1という最適な舞台を得て、ようやくタイトルに手が届いたことになる。母系にはスタミナの血が流れているが、父クロフネ×母父サンデーサイレンスという血統は、やはり本質的にはマイラー。それでも、オークス3着、秋華賞3着、エリザベス女王杯4着と大きく負けていないことからも、この馬の能力の高さが分かる。同じマイル戦の安田記念で、厳しい流れになったときにこそ、この馬の真価が問われるだろう。

横山典弘騎手は上手すぎる。好スタートから迷いなく先行し、いつの間にか、内のポケットを確保した。神業のようなポジショニングであった。横山騎手の予想どおり、ペースが落ち着いた時点で、ほぼ勝負あった。ミスが起きやすかったポイントとしては、最後の直線に向いて、スムーズに前が開きすぎたところぐらいか。そこでも慌てて追い出さずに、ひと呼吸、ふた呼吸を置いてゴーサインを出した。外にナウブルーが見えていただけに、つい焦って仕掛けて行きたくなるところだが、さすが百戦錬磨のベテランらしく、手綱はピクリとも動かなかった。人馬一体の流れるような競馬を久しぶりに観た。

田中清隆調教師にとっては、2001年のレディパステル以来のG1勝利となった。田中清隆調教師は、騎手として野平祐二調教師の元に所属していた。騎乗技術だけではなく、競馬人としてたくさんのことを学び、まさに野平祐二のDNAを受け継いでいるホースマンのひとりである。ホエールキャプチャでは歯がゆいレースが続いていたが、決して極限まで仕上げたりせず、また使いすぎたりもせず、馬を壊さなかったことが今日の勝利につながった。

ドナウブルーは短期放牧をはさんで馬体を回復させ、力を出し切れる仕上がりにあった。勝ち馬とは手応えが違ったが、最後まで食らいついたように、なかなか根性がある。牝馬同士であればこのクラスでも通用することを証明してみせた。それにしても、C・ウイリアムズ騎手の展開を読み切って、馬を動かし、勝ちに行く姿勢には驚くべきものがある。

マルセリーナは内の苦しいポジションにて何度か前が詰まるシーンが観られた。前走で馬体が減っていたのが誤算であり、今回は上積みがなかっただけではなく、少し苦しがって行きたがったことも災いした。最後は伸びてきたが、あの位置でも折り合ってさえすれば、1、2着馬との差はもう少し詰まったはず。

1番人気のアパパネは、少し揉まれる競馬になったにせよ、最後は伸びようとしなかっただけに、精神的な部分の影響が大きいのだろう。馬体は絞れてきているので、走る気持ちさえ戻ってくれば、安田記念でも勝負になるはずだ。見限ってはいけない。

フミノイマージンの池添謙一騎手に批判が集中しているが、こういう脚質の馬だけに、負けるときはこんなものだろう。後ろから行くということは、ペースの主導権を握れないだけではなく、前が詰まってしまうというリスクがあるということだ。それよりも、アプリコットフィズとオールザットジャズは残念な競馬であった。オールザットジャズは行き脚がつかず、アプリコットフィズは折り合いに気を使いすぎて、後ろから行く羽目になったばかりか、外々を回らされてしまい万事休す。勝った馬のスムーズさとはあまりに対照的であった。


追伸
「ガラスの競馬場」メールマガジンを月曜日に配信しました。ホエールキャプチャ自身の勝因、そして前走(中山牝馬S)の敗因は競馬場のカラクリにあります。そのあたりについてメールマガジンで書きました(月曜日に配信済みです)。ひとつ前までのバックナンバーもお届けしますので、ご興味のある方は無料期間に試し読みしてください。どうぞよろしくお願いします。

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ほんとうにおめでとう

Nhkmilec2012_2 by Shibashuji
NHKマイルC2012―観戦記―
カレンブラックヒルが好スタートを決め、他に誰も行く馬がいないと見るや、そのまま先頭に立ってレースを作った。前半800mが47秒3、後半の800mが47秒2という驚くべき平均ペース、かつ中盤も緩んでおり、このクラスとしてはかなり遅い流れとなる。馬場差があるとはいえ、レコードが出た一昨年の前半4ハロン44秒8と比べても、どれだけ遅いか分かるだろう。誰にも突かれることなく、自分のペースですんなり走ることができたカレンブラックヒルは、ラスト3ハロンを34秒6でまとめて難なく逃げ切った。勝ってくださいといわんばかりのレースであった。

カレンブラックヒルはこれで4連勝。その中でも、今回のNHKマイルCが最も楽に運べたのではないかと思われるほど恵まれた展開ではあったが、無敗で頂点まで登り詰めたのだから、その底力を素直に評価したい。この馬の良さは賢さである。あり余るスピードを持ってしながら、決して突っ走るだけではない。抑える競馬を試みた2戦目と前走のニュージーランドTは、スタートしてから一旦はムキになって先頭に立とうとする面を見せたが、秋山真一郎騎手が手綱を引くとすぐさま冷静になり、2、3番手で折り合った。はやる気持ちを抑えることができる、我慢が利くという賢さがこの馬にはある。スピードに長けた、短距離系の気質を持つ馬にとっては、意外に難しいことなのである。

秋山真一郎騎手と平田修調教師にとっては初のG1レース制覇となった。ハナ差で勝利を逃したベッラレイアのオークスから5年の時を経て、ようやくこのコンビで雪辱を晴らすことができた。あの時は気の焦りからの早仕掛けとなっただけに、今回、直線に向いても落ち着いてスパートのタイミングを計っていた秋山騎手に、大舞台で強い馬に乗るという経験の大切さを見た。そして、G1レースを勝つためには、力がある馬に乗るだけではなく、今回のように流れというか運にも恵まれなければならない。G1レースを勝つことがいかに難しいか。デビューした頃からその堅実な騎乗を貫いてきた秋山真一郎騎手には、ほんとうにおめでとうと言いたい。

2着に入ったアルフレードは、C・ウイリアムズ騎手の好判断が目立った。スローを見越していたのだろう。外枠からスッと先行して、道中のペースが予想以上に遅いとみるや、最終コーナーでは勝ったカレンブラックに目標を定めて仕掛け始めた。アルフレード自身も立て直されて、調子を上げつつあったが、この一連の判断と動きがなければ、2着を確実に確保することは難しかったはずである。

横一線のゴールとなったクラレントとオリービン、セイクレットレーヴは良く伸びたものの、勝ったカレンブラックヒルには逆に突き放される形となり、勝ち切るだけの力はなかったといえる。福永祐一騎手騎乗のジャスタウェイも大外を走って伸びてはいるが、さすがにあの位置から差し切るほどの末脚を持ち合わせていなかった。最後に、シゲルスダチの進路を妨害したことで失格となったマウントシャスタについては、パトロール映像を観る限りにおいては、岩田康誠騎手の不注意によるものか、それとも馬が急激にヨレたものか分からないところがあるが、かなり危険なシーンであったことは間違いない。マウントシャスタが馬群をスパッと抜け出す脚を使えなかったことも、今回の事故に大きな影響を与えている。このあたりは、毎日杯を勝ちきれなかった馬でもあり、まだ線が細く、完全には力が付いていないということである。


追伸
「ガラスの競馬場」メールマガジンvol.5を月曜日の夜に配信しました。もし現時点で届いていないという方がいらっしゃいましたら教えてください。vol.5は、「私たちはもっと丁寧に展開を読まなければならないのではないか」というテーマで書いてみました。かなり長文になってしまいましたが、1週間の無料体験もありますので、ぜひ読んでみてください。

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計算と直観、そして大胆


天皇賞春2012―観戦記―
ゴールデンハインドが逃げ宣言どおりにハナに立ち、それにナムラクレセントが続くと思いきや、最内枠からスタートしたビートブラックがスッと2番手に付けた。それ以外の馬(騎手)たちは、とにかく前半はレースの流れに乗ることだけを意識して、ゆっくりと1周目の坂を下っていった。ホームストレッチに入ってもその隊列は変わることなく、むしろ攻める側と守る側(失うものがない2頭とそれ以外と言うべきか)の距離は離れる一方。ナムラクレセントはその中間に位置する馬であった。最後のコーナーを回っても状況は変わることがなく、動けなかったオルフェーヴルを待っていた馬たちの仕掛けも遅れ、早めに先頭にたったビートブラックがまんまと押し切ってみせた。

勝ったビートブラックが秀逸だったのは、ちょうど中盤にあたる8~9ハロンに刻んだラップである。本来であれば、たとえG1レースの天皇賞春であっても、このあたりは13秒台に落ちることがほとんどである。この辺りでひと息入れて、ラストの4ハロンでスパートをかける。しかし、ビートブラックはここを12秒7、12秒7のペースで走った。レース全体を通しても、13秒台に落ちたことが1度もないのである。ここには石橋脩騎手の緻密な計算と直観が働いていたに違いない。前が止まらない開幕2週目の馬場を考えると、中盤でペースを落とさなくても、最後まで止まらないと。その大胆さに応えたビートブラックも見事であった。今回は究極に仕上げられ、持てる力を最大限に発揮してみせた一世一代の大駆けとなった。母にノースフライト、父にサンデーサイレンスをもつミスキャストの良血がこういう形で紡がれたのも、天皇賞春という舞台だからこそ。血統の多様性を失わないためにも、3000m級のG1レースは必要と強く感じた。

石橋脩騎手はこれからの日本競馬を背負ってゆくべき騎手のひとりになる。何よりも素晴らしいのは、馬が追えるということである。道中の思い切りの良さも目を引くが、とにかく追い出してから一変する。ビッシリ追うという表現がピッタリとくる、実に若者らしい追い方である。もの静かなタイプで、決して営業が強いわけではないが、見る人が見れば分かる。これからも関西の調教師からの騎乗依頼は増えてゆくことだろう。海外のジョッキーたちの中に入っても、決して見劣りしない日本の若手騎手が、こうして大きなタイトルを獲ったことの価値は高い。

トーセンジョーダンは中間から気配が一変しており、出来のよさを生かして2着に好走した。春秋の天皇賞制覇というわけにはいかなかったが、それでも秋の天皇賞を1分56秒台で制した馬が、3200mの天皇賞春でも連対したのだから、その能力の絶対値は疑う余地がない。岩田康誠騎手からは、オルフェーヴルを意識しながらも、常に攻める姿勢を貫いていたことが伝わってきた。結果的には、後ろの集団の中では最先着を果たしたのだから、及第点のレースと評価してよいだろう。勝ち馬とは、失うべきものがなかったかどうかの差である。

ウインバリアシオンは自分の競馬に徹していたが、自ら動けないタイプだけに、どうしても展開に左右されてしまう。今回もラスト3ハロンを33秒5で上がってきたが届かなかった。同じことはジャガーメイルにも言えるだろう。この馬の瞬発力は生かしたが、こういう展開になってしまうと手も足も出ない。

最後にオルフェーヴルについて。今回の結果を見ても分かるように、オルフェーヴル自身が走れる体調になかったということに尽きる。覆面や馬場は直接の敗因ではない。たとえ外々を回されたとしても、いつも第4コーナーで見せる脚の速さが全くなく、トモは外へ外へと流れてしまっていた。この中間のイレギュラーな調整過程も理由のひとつではあるが、これまでの伏線を考えると、オルフェーヴルは肉体的にも精神的にも参ってしまっていたということである。だからこそ、阪神大賞典はあれだけ折り合いを欠き、挙句の果てには逸走したのであり、今回の天皇賞春ではもはや行きたがる元気もなかった。騎手や調教師を責めるのはもうやめようよ、サラブレッドは機械ではないのだから。

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競馬はやってみなければ分からない

Satuki2012 by Ruby
皐月賞2012-観戦記-
春の中山開催は雨にたたられることが多く、また前日の降雨の影響もあり、馬場の内側の傷みが目立つ状態で皐月賞を迎えることになった。内から先頭に立ったメイショウカドマツを外からゼロスが追いかける形でレースは幕を開け、道中は2頭による逃げ争いが繰り広げられた。重に近いやや重馬場にもかかわらず、前半59秒1という超ハイペース。馬群は縦長になり、前日から外からの差しが多く決まっていたこともあって、各馬は馬場の傷んだ内側を避けて外々を回った。内を通ったら伸びないというのが騎手たちの共通認識だったように思える。

そんな中、1組の人馬だけが内に進路を取り、道中は最後方、直線の入り口ではあっという間に先頭に立った。ゴールドシップと内田博幸騎手である。ゴールドシップはワールドエースの追撃を尻目に、そのまま後続に2馬身半の差をつけて、クラシック第1冠を制してみせた。共同通信杯からという珍しいローテーションではあったが、マイナス8kgと馬体も絞れていたように、仕上がりが良かったことも勝因のひとつである。もちろん、前年の3冠馬オルフェーヴルと同じ、ステイゴールド×メジロマックイーンという血統構成も見逃せないところである。ステイゴールドの気性の荒さをメジロマックイーンの寛容さが受けとめているということだ。府中の2400mに舞台が変わってむしろプラスになる馬であり、2走ボケさえなければ、日本ダービーも勝ち負けになる。

内田博幸騎手のコース取りも見事であった。スタートが切られる前から内を狙っていたのではなく、道中のペースも速く、ゴールドシップが置かれ気味となり、向こう正面で腹を括ったのだろう。このまま馬群を追い駆けても外を回らされることは必至で、ここは思い切って誰も通らない内側に進路を切り替えようと。内を走ることも想定していただろうが、レースの流れの中での勝つための一瞬の決断であったはず。集団心理が働く中で、競馬はやってみなければ分からないと我が道を突き進んだ騎乗ぶりは、内田博幸騎手ならでは。これで名実ともに完全復活となった。

ワールドエースはスタート直後に躓いてしまい、後方からのレースを余儀なくされた。まるで父ディープインパクトの皐月賞のよう。それでも福永祐一騎手は慌てることなく、どれだけ先頭から離されようとも、ワールドエースの競馬に徹していた。とてつもなく外を回らされることになったが、人気を背負っていたことを考えると、良く言えばソツのない騎乗ぶりであった。そして何よりも、あらゆる悪条件を乗り越えたことで、ワールドエースの真の強さが示された。ディープインパクト産駒のエースが、日本ダービーの栄冠に王手をかけた。

同じくディープインパクト産駒のディープブリランテはレースに行くと引っ掛かってしまう癖があり、今回も力んで前を追い駆けてしまった。それでも3着に粘ったあたりに、この馬の非凡な能力を感じる。力をセーブして走ることができれば、大きなタイトルに手が届く馬ではあるが、現状の馬の若さを考えるとすぐには難しい。これは他のディープインパクト産駒に当てはまることでもあるが、決して重い馬場が苦手なわけではないが、やはり良馬場でこそ真価を発揮することができる。

1番人気に推されたグランデッツァは結果的に大外枠が仇となった。馬体もさらに絞れて、パドックでは落ち着いて周回していたように、仕上がりは申し分なかった。それでも、ここまで外々を回されてしまっては、さすがにラストは脚が残っていなかった。2000m以上のスタミナが問われたレースでもあり、正直に言うと、アグネスタキオンの最高傑作という評価と日本ダービーでの巻き返しにも疑問が残る結末となった。

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ディープインパクト産駒の成長力


桜花賞2012-観戦記-
大外からアラフネが先頭に立ち、エイシンキンチェム、マイネエポナと続き、前半800mが47秒1、後半が47秒5という全体としてはほぼ平均ペースで流れた。やや力を要する馬場であったが、道中で心配されたごちゃつきもなく、実力のある人気馬がそのまま来たことになる。唯一、後方から大外を回したジョワドヴィーヴルだけが、伸びきれずに掲示板を外してしまうという結果となった。

ジェンティルドンナは、中団を追走して、最後は岩田康誠騎手の叱咤激励に応えて、見事に桜花賞馬の栄冠を手にした。前走のチューリップ賞は、熱発のため急仕上げで力を発揮できなかったが、1度使われたことで体調が大きくアップしていた。道中は馬群の中での競馬だったが、前走で馬込みを経験していたことも今回のレースに生きた。元々、この時期の牝馬としては立派な馬体の造りをしている馬が、さらに磨きこまれていたのだから、陣営も自信があったのではないか。マイルチャンピオンシップを勝った、同じ厩舎の先輩ブルーメンブラッドに似ている。ということは、絶対能力が高いだけに凡走はしないだろうが、距離延長は決してプラスではなく、オークスに向けて視界良好というわけではないことは明記しておく。

最終追い切りに跨った岩田騎手も相当に手応えを掴んでいたのだろう。勝った直後のガッツポーズは考えていなければできないもので、考えていたイメージどおりの騎乗ができたに違いない。それにしても、道中は冷静に馬を抑えて脚をため、勝負所から直線に入って馬を動かす技術は卓越している。静から動へ。大レースになればなるほど、岩田騎手の技術力の確かさと勝負強さが生きてくる。ゴール前の岩田騎手と内田博幸騎手とピンナ騎手の追い比べは見どころがあった。これら騎手の名前を見ても、ジョッキーがどれだけ競馬の着順に影響を与えるのか分かるだろう。

ヴィルシーナは惜しくも2着に敗れたが、この馬の成長力と潜在能力の高さを示した一戦となった。道中はスッと先行してレースの流れに乗り、最後まで伸びてみせた。これはジェンティルドンナにも言えることだが、クラシック直前におけるディープインパクト産駒の成長力は凄い。昨年のマルセリーナもそうだったように、3歳時にあまり無理して使われていなかった産駒が、クラシック本番を前にした春にグッと力をつけてくる。この先は未知数ではあるが、今年のディープインパクト産駒には昨年以上の期待をしてよいだろう。内田博幸騎手も完璧に乗って完全復活をアピールした。

アイアムユアーズにとっては若干距離が長かったようだ。前走のフィリーズレビューとは全く違う流れに戸惑うことなく、レースの流れにも乗れていたが、最後はスタミナの差が出てしまった。マイルまでは克服できる馬ではあるが、やはり距離は短い方が良い。オークスではなく、NHKマイルCに行くべきだし、その先はスプリント路線を歩んでほしい。

1番人気を裏切る形となったジョワドヴィーヴルは、直線で外に逃げるようにして苦しがって伸びを欠いた。前走よりも走れる体になっていたし、気合の乗りも良かったが、馬格から来るパワーがない分、今日のような力の要る馬場は厳しかったのだろう。勝ったジェンティルドンナとの違いはパワーの差であった。後ろから行くのはこの馬の型であるし、ポジションも決して悪くなかった。ゲート入り直前にボロをするという不可解な行動もあったが、主な敗因は馬場に求めたほうがよい。本質的には距離が延びてこそのタイプで、オークスに向けては馬体的な成長がほしい。まだ決着はついておらず、巻き返しは十分に可能だろう。

追伸
昨日の夜、「ガラスの競馬場」メールマガジンvol.1を配信しました。万が一、申し込んだのに届いていないという方がいらっしゃいましたら教えてください。vol.1は桜花賞に出走できなかったあの馬について、「馬には第6感がある」というテーマで書いてみました。予想ではなく、スポーツとしての競馬に興味のある方はぜひ読んでみてください。

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鉄の女カレンチャン


高松宮記念2012―観戦記―
5連勝中のロードカナロアが最内枠から好スタートを決めると、昨年の短距離女王カレンチャンが負けじと先手を取ろうと攻撃し、悲願のG1制覇を狙うダッシャーゴーゴーがそれに続いた。強引に逃げたのはエーシンダックマンで、前半3ハロンが34秒5、後半が35秒8という、このメンバーにしては極端に速くも遅くもないペースが刻まれた。展開による有利不利のない、しかも新設の中京1200mコースは枠の内外の違いもほとんどないため、実力が正直に反映されたレースとなった。

カレンチャンは正攻法の競馬で、他の有力馬を従える形で勝利した。ゴール前では詰め寄られたように見えるが、カレンチャンの耳の動きを見ると、まだ余裕があった。スピードとスタミナ、そしてパワーを兼ね備えた名スプリンターである。しかも気性が素直であることが加わって、どの競馬場で行なわれるどんなレースでも、常に持てる力を発揮することができる。1分7秒台で決まった昨年のスプリンターズSと、1分10秒3で決着した高松宮記念の両スプリントG1を勝ったことの価値は高い。カレンチャンがいかに欠点のない3拍子揃った馬か分かる。スプリンターは短い期間で燃え尽きてしまう馬が多い中で、昨年の激戦を勝ち抜きながらも、今年に入ってもトップの座を譲らなかったのだから、見た目からは想像もつかないほどタフな女のだろう。

2着に突っこんだサンカルロは、これでスプリントG1において2着が2回、3着が1回とコンスタントに力を発揮している。それでも勝利に手が届かないのは、カレンチャンと違い、どうしても展開の影響を受けてしまう脚質であるがゆえである。最後の直線で他馬が総崩れするような、よほど極端なハイペースで流れてくれないと勝ち切れない。吉田豊騎手はサンカルロが馬の後ろに位置しないと脚がたまらないことを知りながらも、できる限り前目のポジションを取り、最後まで追い出しを我慢していた。人馬共に完璧なレースであった。

1番人気に推されたロードカナロアも、現時点での持てる力を最大限に発揮しての3着。好スタートから絶好のポジションを取り、道中は脚をためて直線で爆発させるというイメージどおりの競馬ができた。それでも伸び切れなかったのは、この馬が未完成であることに加え、これまでの5連勝とは同じスプリント戦でもまるで中身の異なるレースになったからである。具体的に言うと、スピードだけではなく、パワーとスタミナも問われるレースになったということだ。それでも3着に来たわけだから、この経験を生かすことができれば、将来的にはスプリント界の頂点に登り詰めることになるだろう。

ダッシャーゴーゴーは、なぜかG1レースになると不利を受けてまともに走られないことが多かったが、新設中京の広々としたコースを生かして、スムーズな走りをすることができた。やや外を回った嫌いはあるが、この馬の能力は出し切っている。マジンプロスパーも力をつけていることを証明した。有力馬と真っ向から組み合っても引けを取らない実力の持ち主である。敢えていうならば、あと1ハロン距離が延びた方がこの馬のリズムで走ることができるはず。

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折り合いがつくことがどれだけ大切か

Febs2012 by Monpe
フェブラリーS2012-観戦記-
強引にハナに立ったセイクリムズンをトウショウカズンが追いかけ、さらにそれを有力馬のほとんどが積極的に追走したことで、前半の800mが46秒6、後半の800mが48秒8という超ハイペースとなった。フェブラリーSは速い流れで飛ばしても、なかなか前がバテない傾向があるが、さすがに前後半が2秒2も違う前傾ラップでは、前に行った馬たちの脚は上がってしまう。断然の1番人気のトランセンドを筆頭に、有力馬のほとんどが先行馬であったことで、引くに引けない馬たちも多かったのではないだろうか。

「やってまった」と勝利騎手インタビューで岩田康誠騎手が話したように、テスタマッタの勝利は展開の利を得たことによるのは確かだが、それにしても最後の爆発力には目を見張った。前走の根岸Sではレースの半分ぐらい引っ掛かって、最後には伸びを欠いてしまったが、今回は騎手と喧嘩をしてしまう時間が比較的短かった。前半は折り合いを欠く場面も見られたが、ギリギリまで脚を溜めて、最後の直線だけで他馬をごぼう抜きしてみせた。テスタマッタの走りを見ると、折り合いがつくことが、競走馬にとってどれだけ大切かが分かる。

岩田康誠騎手もテスタマッタの癖を掴み、今回は絶対に折り合わせようと決めていたに違いない。道中はやや力づくにも映ったが、前走のように行かせてしまうことなく、後方から2、3頭目にポジショニングすることができた。最後の直線では、大きなアクションで馬を叱咤激励して伸ばしていた。さすが昨年度のリーディングジョッキーである。同じミスを二度と繰り返さない、または前回の反省を次に活かすことができる。超一流のジョッキーが円熟の域に入ってきたのだから、今年もまた、福永祐一騎手と火花の散るような激しいリーディング争いを繰り広げるに違いない。

シルクフォーチュンは自分の競馬に徹して2着に突っ込んだ。脚質的に不器用な馬だけに、G1レベルではなかなか勝ち切れないが、地力のあるところは示して見せた。藤岡康太騎手もG1の舞台だからといって特別な乗り方をするのではなく、前半で置かれ気味になったが慌てず、シルクフォーチュンのリズムで走らせることに専念していた。あらゆる全てが見事に調和して、シルクフォーチュンの力が存分に発揮された、悔いのないレースであった。

ワンダーアキュートはいつもより後方の位置取りになったが、終始前を追いかけた分、最後に外から来られたときには脚が残っていなかった。それでも、ゴール前でダノンカモンを競り落としたように、前に食らいついてゆく渋太さは健在であり、この馬の良さは発揮された。惜しむらくは、もう少し落ち着いた流れになれば、前を追走した馬の中では最先着したのだから、G1のタイトルに手が届くチャンスはあったということだ。

ダノンカモンも見所のある走りを見せてくれた。積極的に前々を追走し、勝ちに行ったが、ハイペースに巻き込まれる形で最後は力尽きた。それでも、いつもの苦しくなると尻尾を振る癖を見せなかったことは大きな収穫だろう。陣営の苦労が実って矯正されつつあるのか、それとも精神的な成長によるものか、そのいずれもかもしれないが、最後まできっちり走ることができるようになることは、この馬にとって最大の課題を克服したことになる。このまま行けば、次走は勝利の文字が見えてくる。

トランセンドは追走に骨を折っていたように、本質的にはマイルの馬ではない。テンの速い流れになってしまったことに、JCダート以来の休み明けで100%の仕上がりにはなかったことが加わって、本格化してから初めて掲示板を外してしまった。とはいえ、敗因が明らかである以上、ドバイワールドカップに向けては順調に来ている。かつてのダートの鬼たちは、このフェブラリーSで仕上げすぎて本番(ドバイワールドカップ)で力を発揮できなかったケースが多かっただけに、誤解を招くかもしれないが、負けて丁度良かったのかもしれない。昨年の悔しさはドバイで晴らしてほしい。

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ディープインパクトの失敗が報われる日が

Arima2011 by mkoichi
有馬記念2011―観戦記―
先行したいが逃げたくはないアーネストリーとトーセンジョーダン、ヴィクトワールピサらが牽制し合い、最終的に引導役を引き受けることになったアーネストリーが刻んだペースは、道中に14秒台のラップが2つも並ぶ超スローとなった。もはやここまで遅くなると、ポジションうんぬんではなく、どこまで我慢することができるかという精神力が問われるレースであった。直線に向いて失速した馬が目立ったのは、決してスタミナ切れではなく、馬の気持ちが切れてしまったのである。

今年G1レース4勝目となったオルフェーヴルは、道中は苦しいポジションながらも、ひたすら折り合いをつけることに専念していた。距離こそ短縮されたものの、前走の菊花賞よりも道中は我慢比べのレースとなり、古馬相手どうこうではなく、自分自身との戦いとなった。最後まで集中力を切らすことのなかったオルフェーヴルは、勝負所で外から動き、捲くるようにして先頭に立ち、最後は沈み込むような末脚で他馬を封じ込めた。自ら動いた距離の長さを考えると、着差以上の完勝であった。ゴールしたあとも、池添謙一騎手を振り落とそうとしていたように、まだ余裕十分であった。考えられる全ての課題をクリアした今、もはや国内に敵はいない。あのディープインパクトの失敗が報われる日が、もうすぐそこまで来ている。とにかくこのまま順調に行ってほしい。

今秋、エイシンフラッシュは条件が噛み合わずに不本意なレースを続けていたが、内枠からの発走で道中は脚を溜め、この馬の得意とするレースに持ち込めた。前2走ともに絶好の仕上がりで臨んでいただけに、3戦目にしてようやく力を出し切れた。最強世代のダービー馬の称号に恥じない走りであったが、前に1頭だけ馬がいた。ひと世代下の3冠馬の方が強かったということだ。ルメール騎手の道中で脚を溜める技術も実に見事であった。“抑える”のではなく“溜める”技術を日本のジョッキーも見習いたい。

トゥザグローリーは秋3戦目で体調が上向いてきたこと、さらにこの時期の馬場や気候が合うのだろう。道中では引っ掛かる素振りも見せたが、最後まであきらめることなく伸びてみせた。叩いて良くなるタイプだけに、昨年と同様に、この後(先)のレースでまた強さを見せてくれるはず。それにしても、池江泰寿調教師の管理馬の底力には驚かされる。5着に敗れたトーセンジョーダンも、札幌記念からコンスタントに走り続け、オーラス有馬記念まで見せ場を作った。父から受け継いだ知恵や独学で得たノウハウを活かし、調教の質量から競走馬の栄養管理まで、馬づくりのあらゆる面において一歩先を行っているのだろう。

ドバイワールドカップ馬のヴィクトワールピサは、直線に向いて手応えなく失速してしまった。スタートから前進気勢に乏しく、デムーロ騎手が押して押して2番手を取りに行ったように、ヴィクトワールピサらしくない走りに終始してしまった。ジャパンカップを叩いて馬体こそ出来ていたが、レースに対する気持ちが戻ってきていなかったようだ。結果的に見れば、ドバイで大金星を挙げた時点で、この馬の肉体と精神は限界を超えていたのだろう。

ここが引退レースとなったブエナビスタは、絶好のポジション取りだったにもかかわらず、最後までガツンと来るところがなかった。これだけのスローペースだから、引っ掛かる仕草を見せたのは自然であるし、その程度も許容範囲内であった。それでも全く伸びなかったのは、やはりレースに対する気持ちがどこか切れてしまっていたのだろう。枠順や乗り方の問題ではない。2歳時からトップレベルで走り続け、最後の2年間は古馬の牡馬相手に極限の競争を走り抜いた。父スペシャルウィークもそうであったが、ブエナビスタも飄々とした馬だけに見過ごしがちだが、この2年間の生きざまのどれだけ壮絶なことか。勝って引退とは行かなかったが、誰も文句は言うまい。最強牝馬も最後は母となるのだ。

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父の姿が重なって見える

Asahihaifs2011 by mkoichi
朝日杯フューチュリティS2011―観戦記―
ハクサンムーンが2の脚を使って先頭に立ち、前半の半マイルが45秒9、後半が47秒5というハイペースでレースは進んだ。このメンバーであれば当然の流れとはいえ、前に行ったハクサンムーンやニンジャ、マコトリヴァーサルらは大バテしてしまっているのだから、決して先行した馬にとって有利な流れではなかった。それでも、外を回さざるを得なかった馬や後ろから差してきた馬にとっても勝ち切ることが難しいという、中山コース特有のレースであった。

勝ったアルフレードは好スタートから内枠を利して先行し、最後は内ラチ沿いに鋭く伸びた。これで3戦3勝、使われる毎に緩かったトモにも実が入って、馬体が大きく成長している。黒鹿毛の雄大な馬体には、3歳になってからジワジワと力をつけた晩成の父シンボリクリスエスの姿が重なって見えるが、アルフレードの方が現時点での完成度は高い。また、この時期の中山の芝は、速いタイムが出る割には力を要することが多いため、ダートに適性があるパワータイプのシンボリクリスエス産駒に合っていたともいえる。馬体からは距離が伸びても良さそうに思えるが、道中の行きっぷりや気持ちの入り方を見ると、マイルから2000mがベストの馬になるはず。つまり、来年のクラシックに向けては、馬をつくり変えない限り、ダービーまでは難しいということである。

クレイグ・ウィリアムズ騎手はスタートからゴールまで、アルフレードを完璧な形で導いた。真っ直ぐな体制でスタートを切り、内枠を生かして、最初のコーナーまで直線的に攻めた。番手の内を確保すると、行きたがる馬をなだめながら、レース全体の流れに乗せてゆく。教科書どおりと言ってしまえばそれまでだが、この大舞台で1番人気に跨ってのものだけに、私の目には芸術的に映った。ウイリアムズ騎手はレース前に十分すぎるほどに下準備をするジョッキーであり、競馬場のコース形態から馬場状態、そして相手関係まで調べつくしてレースに臨む。だからこそ、たとえテン乗りであったとしても、このコースに乗り慣れている日本人ジョッキーと同じ、もしくはそれ以上のパフォーマンスが発揮できるのだ。

2着のマイネルロブストも内枠を活かして、最高の立ち回りをしてみせた。勝った馬の後ろというベストポジションを取り、アルフレードが抜け出したあとのスペースを通って伸びた。相手をアルフレードに絞った蛯名正義騎手の判断も見事であった。また、道中で行きたがるところのあるこの馬にとって、ペースの速いG1レースのマイル戦が合っていた。

レオアクティブは後方から直線に賭けたが、どうにも届かなかった。直線も短く、最後の坂で勢いが止まってしまうコースだけに、あれだけ外を回して差し切るのは難しい。横山典弘騎手は前日の10R香取特別でヒラボクマジックに乗って見事な差し切り勝ち(結果的には失格となってしまったが)をしており、そのイメージで乗ったのだと思うが、さすがに前が止まらなかった。それでも、前走の爆発力がフロックでなかったことを証明してみせた。

同じく外枠からの発走が仇となったのがダローネガ。スタートでやや立ち遅れたため、後方から追走することになり、外々を回されてしまった。中山競馬場のような小回りのコースでは、京都競馬場のような大回りのコースに比べ、外を回されることに対するロス(負荷)は大きい。4着と惨敗してしまったが、決して力負けではないはずだ。

トウケイヘイローは4コーナーでは早めに先頭に立ったが、最後まで粘り通せなかった。あそこで馬の行く気を抑えていたとしても、伸びていなかったと思われる以上、行かせたのは後藤浩輝騎手の好判断であった。前走からあと1ハロン距離が延びたことも、多少の影響もあったかもしれない。

クラレントは自分の競馬に徹したが伸び切れなかった。坂路調教でも速いタイムが出ないように、まだ身体に力が付き切っていない。逆に考えると、今の状態でここまで走るのだから、潜在的な力は相当に秘めているといえる。

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それにしても血統とは

Hansinjf2011 by M.H
阪神ジュベナイルF2011-観戦記-
どの馬も行こうとはせず、結局、押し出されるような形でファインチョイスが先頭に立ち、さらに中からラシンティランテ、外からサウンドオブハートやエピセアロームらの有力馬が引っ掛かりながら続いた。前半の半マイルが48秒ジャスト、後半のそれが46秒9だからスローペース、特に最初の1ハロンは12秒6と極端に遅かった。スタートしてからスッと折り合いがついたかどうかが、最後の長い直線における攻防の明暗を分けた。

大外から豪快に突き抜けたジョワドヴィーヴルは、ゴール前では抑える余裕すらあった。メンコを外して臨んでいたように、1度使われて、かえって落ち着いてレースに臨むことができたようだ。また、外枠から発走したことで、馬群に揉まれることもなく、自分のフットワークとリズムで終始走ることができた。恵まれた部分もあったにせよ、キャリア1戦の馬とは思えない末脚であった。それにしても血統とは恐ろしい。姉ブエナビスタや同厩舎の先輩レーヴディソールのこの時期に比べ、馬体の完成度は低く、前走の走りを見ても課題ばかりだったにもかかわらず、この一変である。どこにこれだけの力が秘められていたのだろうか。ジョワドヴィーヴルの馬体が成長して、完成した暁には、もしかすると姉さえも超えてしまうのではないか、そんな想像と期待が果てしなく膨らんだ。

福永祐一騎手は昨年に比べ、今年は気楽に乗っていた印象を受けた。馬の出たなり、枠なりのポジションを進み、ゴーサインを送ると、馬が沈んで伸びた。勝とうとして勝ったというよりは、馬に跨って回ってきたら勝っていたという感じ。それだからこそ、涼しい顔をして勝ったように見えるが、ゴールしたとき、ジョワドヴィーヴルの伸び脚に最も驚いたのは福永祐一騎手だったかもしれない。

松田博資厩舎の調教法と阪神のマイルコースの相性も語らずにはいられない。阪神ジュベナイルFにおいては、レーヴダムール(2着)から始まり、ブエナビスタ、ベストクルーズ(3着)、レーヴディソール、桜花賞においては、ブエナビスタだけではなく、マルセリーナ、トレンドハンター(3着)と活躍馬が目白押しである。これは松田博資厩舎独特の長めから追い切る馬のつくり方と、阪神マイルコースの息の長い脚を使わなければならないという特性が絶妙にかみ合うのだろう。

アイムユアーズは前に行った馬の中では、掛からずに走れていた分、最後まで止まらなかった。実に小気味良いフットワークで走る馬で、前走のような道悪はもちろん苦にしないばかりか、今回のような器用に立ち回ることを要求されるレースにも強い。メンディザバル騎手は、周りの動きを見ながら馬を先行させたように、レースの流れに応じて柔軟に騎乗できるばかりではなく、追ってから非常に力強い。最後にサウンドオブハートを競り落としたのは騎手の技術でもある。

サウンドオブハートは、あれだけ持っていかれながらも最後まで粘っているのだから、走る能力自体は高い。気性の前向きさをコントロールできるようになれば、大きな勝利に手が届くかもしれない。2番人気のエピセアローム、3番人気のラシンティランテともに、スタートしてからハミを噛んで掛かってしまい、道中でスタミナを大きくロスしてしまった。前者は前走で1200m戦を使っていたことでリズムを崩し、後者はレース間隔が中1週しかなかったことで馬が気負ってしまっていた。

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もし願いが叶うならば


JCダート2011―観戦記―
大外枠から強引にハナを奪ったトランセンドが刻んだペースは、前半4ハロンが48秒2、後半4ハロンが49秒7というハイペース。昨年の47秒9―48秒9と比べても、より前傾ラップであり、逃げたトランセンドにとっては苦しいように映るが、実はそうではない。昨年と今年で決定的に違うのは5ハロン目のラップである。昨年の12秒1に対して、今年は12秒7と、前半が一見速いように見せて、本当のところは、ちょうどレースの真ん中のところで息が入っているのだ。これによって、トランセンドは、ゴール前では抑える余裕さえ見せ、逃げ切ることに成功した。

トランセンドはこれでJCダート2連覇となった。ドバイワールドカップで2着に粘った馬が、自分の型に持ち込んで、地脚の強さをストレートに反映したのだから、他の馬はなす術がない。ダート馬らしからぬ、スマートな馬体の持ち主だが、それゆえに無尽蔵なスタミナを有している。この馬が大きくバテる姿は想像しにくい。藤田伸二騎手は、大外枠を引いてかえって腹を括ったのだろう。スタートしてから先頭に立つことは最初から決めていたようだ。結果的には、この判断がトランセンドの力を最大限に発揮させることになり、勝利へとつながった。

前走のJBCクラシックでは、トランセンドには休み明けの南部杯を激走した反動が少なからずあり、スマートファルコンに敗れてしまったが、もし今回のJCダートのような出来で戦うことができれば、おそらく力関係は互角とみる。スタートからお互いに先頭を譲らないマッチレースになれば、果たしてどちらの馬がゴールで前に出ているのだろうか。そんな想像を駆り立てる傑出した存在が、ダート戦線から出現したことに、今の日本競馬の面白さがある。もし願いが叶うならば、トランセンドとスマートファルコンの直接対決をもう1度観てみたい。

ワンダーアキュートはスタートで躓いて、後方からの競馬を余儀なくされた。それで仕方なくという表現が適切だろうが、和田竜二騎手は内に進路を変えて、直線でも内を突くことになった。馬群の中を抜けてきたワンダーアキュートも立派だが、道中のコース取りが良かったからこその2着ともいえる。もし普通にスタートを切って、枠なりに馬群の中団外を走っていたとしたら、果たして連対できていたかどうか。競馬はゲートが開いてみるまで分からない。

エスポワールシチーはトランセンドを前に見る形でレースを進め、ほとんど完璧に近い組み立てだっただけに、完敗を認めないわけにはいかない。肉体的は申し分ないほどに回復しているが、全盛期ほどの気の漲りがないのではないか。あれだけ激しいレースを積み重ねてきて、さらに海外遠征まで行なったのだから、それはそれで自然なことであるともいえる。個体差こそあれ、サラブレッドが己の極限を超えてまで踏ん張れる期間は、それほど長くはないのだ。

これが引退レースとなるラヴェリータは、武豊騎手の見事な手綱さばきに導かれ、有終の美を飾った。好枠を生かした形で最高のポジションを走り、あらん限りの力を出し切った。この馬の全盛期であれば、もっと際どい勝負になっていたはずである。

ダノンカモンやヤマニンキングリー、ミラクルレジェンドといった外枠を引いた馬たちは、道中でも内に入るスペースがなく、終始外々を回されてしまった。ダートコースは小回りになるため、枠順によって、どうしても道中のポジションが規定されてしまうことになる。3頭とも最後は伸びているが、枠順的に勝つチャンスが少なかったといえる。

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競馬場が拍手で埋め尽くされた日

Japancup2011 by mkoichi
ジャパンカップ2011―観戦記―
米国のミッションアプルーヴドが先手を奪い、それをトーセンジョーダンが追走する形でつくり出された流れは、前半74秒1、後半70秒1という典型的なスローペース。道中は馬群が固まるようにして進み、なかなか折り合いが付かずに鞍上が苦労している馬も多く見られた。あまりの遅さに、ウインバリアシオンの安藤勝己騎手が自ら動いたように、後ろから行った馬、そして内に入れなかった馬にとっては苦しいレースとなった。掲示板に載った5頭の全てが、内ラチ沿いを回ってきた馬であることもそれを証明している。

ブエナビスタはスタート良く飛び出し、内枠からの発走を利して、第1コーナーを回るまでに絶好位を確保した。道中の折り合いも抜群で、最高の形で直線を向くと、あとは馬群を抜けて、食い下がるトーセンジョーダンを競り落としてゴールした。外枠から全馬をねじ伏せた昨年ほどの迫力はなかったが、今年は枠順にも恵まれ、仕上がりもピークの状態にあり、勝つべくして勝ったレースであった。これでG1レース6勝目となり、クリフジに始まり、エアグルーヴ、ダイワスカーレット、ウオッカと継承されてきた史上最強の牝馬の称号を、名実ともに手にしたと言ってよい。ブエナビスタがゴールした瞬間から、その強さに対する拍手で競馬場は埋め尽くされ、しばらくやむことがなかった。やはり競馬はスターが勝ってこそ盛り上がる。

ブエナビスタの競走馬としての素晴らしさは、「脚の速さ」と「タフさ」の2点に集約される。「脚の速さ」とは、単純に他馬よりも脚が速いということ。速く走るために生まれてきたサラブレッドの中でも圧倒的に脚が速いのだから、その凄さが分かるだろう。G1レースを勝つような馬であっても、実は脚が速い馬はそうはいない。レースに対する適性や体調のバイオリズムなど、あらゆる要素が噛み合ってようやく勝てる。私が知る中で、脚が速い馬はディープインパクト、オルフェーヴル、そしてブエナビスタの3頭だけである。脚が速い馬かどうかは、重賞クラスのレースの第4コーナーを観れば分かる。他馬が最速力で走っているところを、外から1頭だけ違う次元の速さで捲くっていけるのが脚の速い馬である。

もうひとつの「タフさ」とは、心身ともに健康であるということ。無事これ名馬というが、ブエナビスタほど極限のレースをコンスタントに走り続けられる馬はいない。象徴的なのは、昨年、天皇賞秋→ジャパンカップ→有馬記念という3つのレースに全て出走して、崩れなかったこと。そして、恐ろしいことに、普通の馬であれば終わってしまってもおかしくない翌年(今年)も走って、なんとジャパンカップを勝ってしまったのだ。あのタフなエアグルーヴでさえ成し遂げられなかった快挙であり、この先もこれだけタフな馬が出てくるとは到底思えない。ブエナビスタのタフさはその肉体と精神に宿っているはずで、つまり、この馬の馬体と気性こそが理想的なサラブレッドのそれという結論に至るである。

勝って喜びを爆発させた岩田康誠騎手は、レース後になってようやく安堵したことだろう。これまでの2着に負けたレースを見ても、決して下手に乗っているわけではなく、ブエナビスタの力が少し衰えつつ、体調のバイオリズムも悪かった頃にお鉢が回ってきただけの話であった。今回のレースは全てがドンピシャに運び、きちんと結果を出すことができた。常に攻めの姿勢を貫くライディングスタイルは清清しく、関係者だけではなく競馬ファンにも共感も呼ぶ。直線での馬を追うフォームは、地方競馬から持ち込んだものを中央競馬と融合させたものであり、その上さらにヨーロッパの香りを漂わせている。最後まで抵抗するトーセンジョーダンに根負けさせないよう、最後まで全身のアクションを使ってブエナビスタを叱咤激励する姿には、馬の能力を一滴残らず出し切るだけではなく、ファンに魅せるという騎手としての矜持が垣間見えるのだ。これぞ現代のジョッキーの理想の姿ではないだろうか。

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あの泥があればこそ咲け


マイルCS2011―観戦記―
絶好枠からあっさりとハナを奪ったシルポートがレースを引っ張り、前半が46秒7、後半が47秒2という平均ペース、G1のマイル戦にしては比較的緩やかなペースをつくり出した。それに加え、前日に降った大雨の影響で馬場が緩く、追い込みが利きづらく、前残りの典型のような決着となった。コースロスなく馬場の内側をすんなり先行できた馬が、上位を占めたレースであった。

エイシンアポロンはレース巧者ぶりを遺憾なく発揮して、ゴール前で粘るフィフスペトルを競り落として勝利した。返し馬のときから、池添謙一騎手との一体感が目立っていたように、4歳の秋を迎えて肉体的にも精神的にも充実している。秋華賞を勝ったアヴェンチュラと同じように、この馬の場合も1年間の休養が馬に成長を促すきっかけとなったのだろう。また、3歳時にレベルの高い世代のクラシックレースや古馬との厳しい闘いに挑んだことが、今回の勝利につながったような気がしてならない。サンデーサイレンスの血が入っておらず、スパッと切れる一瞬の脚のないエイシンアポロンにとって、やや上がりが掛かる馬場になったことも幸いした。

これで今年G1レース5勝目となった池添謙一騎手は、自信と余裕を持って騎乗している。ダービー1番人気になったことや3冠制覇の重圧に比べれば、たとえG1レースとはいえ、今回のマイルCSは肩の力を抜いて乗れたはずである。エイシンアポロンの行く気に任せ、無欲でレースの流れに乗ったことが最高の騎乗につながった。ハミや手綱を通してのエイシンアポロンとの意志の疎通もパーフェクトであり、追い出してからも人馬一体の綺麗なフォームで追えていた。スイープトウショウやデュランダル、そしてドリームジャーニーなど、仕掛けどころの難しい追い込み馬に乗り、勝たねばならない極限のレースで鍛えられたこと全てが今の充実をつくり上げた。

2着に入ったフィフスペトルは、この馬自身の復調に加え、横山典弘騎手の絶好の騎乗も手伝って、勝利まであと一歩というところまで手が届いた。枠順や馬場状態を考えると、これしかないという乗り方だったが、それを絵に描いたように実現してしまう騎乗技術が横山典弘騎手の凄さである。フィフスペトルは函館2歳Sを勝ったように、早い段階で完成度の高かった馬である。それ以降、なかなか勝ち切れないレースが続いたが、あきらめずに立て直しを図り、ようやくこのようにしてG1の舞台であわやという場面をつくった陣営の手腕にも賛辞を送りたい。

サプレザは負けて強し。昨年と同じく外枠を引いてしまい、しかも脚質的に後方からのレースを強いられてしまったが、最後まであきらめずに伸びて3着を確保した。もしこの馬にスッと先行できる器用さとスピードがあれば、あっさり勝ってもおかしくない能力の持ち主であることを証明した。6歳にして最高の出来で挑戦してきただけに、非常に惜しいレースとなった。

1番人気に推された3歳馬リアルインパクトは、道中はレースの流れに見事に乗っていたが、最後の直線での反応が悪く5着に沈んだ。安田記念のときは4kgあった斤量差が、今回は1kgまで縮まったことも理由のひとつではあるが、何よりも関西への長距離輸送がこたえたのではないだろうか。パドックから返し馬に至るまで、首を上下に振ったりと、変に入れ込んでおり、この馬らしい落ち着きがなかった。来年はマイル路線を引っ張っていかなければならない存在だけに、輸送の問題はぜひとも克服してもらいたい課題である。

リディルは外枠が災いした。馬場状態を考えると先行すべきであり、だが8番枠ということもあって、気合を付けて出していったものの、前に壁をつくることができずに引っ掛かってしまった。何とか折り合いはついたが、前半でのロスと外々を回されたことが響いて、最後は脚がなくなった。内枠を引けていれば、違った結果が出ていたはずだから、競馬は実力だけではなく運もなければ勝てないということである。

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胸が締めつけられるような

Elizabeth2011 by Scrap
エリザベス女王杯2011―観戦記―
逃げるはずのダンシングレインに行き脚がつかず、その代わりにシンメイフジが思い切って先頭に立ったものの、前半1000mが57秒5という無謀なペースでレースを先導した。後続グループとは10馬身以上離れており、上位に入った馬たちの上がりを見ても、レース全体の流れとしてはややスローといったところか。最後の直線では、勝ちにいった3歳馬ホエールキャプチャを女王アパパネが捕らえ、さらにその外から秋華賞馬アヴェンチュラがねじ伏せたと思った矢先、昨年の覇者スノーフェアリーが間を割って突き抜けた。胸が締めつけられるような激しい叩き合いであった。

勝ったスノーフェアリーはもはや牝馬というカテゴリーを超えている。ペースを考えると外枠は不利だったはずだが、最後の直線だけで全てをはねのけてみせた。今年に入って、怪我から復帰してからなかなか勝てずにいたが、相手が強かったり、流れが向かなかったりというレースが続いていただけで、力が落ちているわけではなかった。愛チャンピオンSでは59kgを背負って2着、凱旋門賞では58kgを背負って3着した馬にとって、牝馬限定のG1戦で56kgでは裸同然に感じたに違いない。それほど馬体の大きい馬ではないだけに、軽い斤量で走られる日本では、より一層に切れ味が増すということだろう。激戦を戦ってきたのち、長距離輸送を克服しての勝利だけに、圧倒的な力の違いを見せ付けられたというのが正直な感想である。

ライアン・ムーア騎手は昨年に続き冷静な騎乗で勝利を掴んだ。昨年は1頭だけ内を突いて周囲を驚かせたが、今年も大外発走のスノーフェアリーをいつの間にか4コーナー手前で内に導いた。まるでもう何年も京都競馬場で乗っているようなコース取り。スノーフェアリーほどの実力があれば、外を回してもギリギリ勝てたかもしれないが、あそこで内に進路を寄せて脚をためていたからこそ綺麗に勝つことができた。今回のレースを観て、日本の騎手は何を思うだろう。馬の抑え方から道中のコース取りに対する考え方、そして馬の追い方まで、何度も何度もリプレイして、超一流の騎手から何かを学ぶべきである。

アヴェンチュラは、負けはしたものの、今回は相手が悪かった。前走は2000mのスピードレースになったため、行き過ぎてしまわないよう、岩田康誠騎手は慎重にスタートから出していかなかった。そのせいもあってか、道中では思っていた以上に折り合いがついていた。今年の春を怪我で休んだことで、肉体的にもパワーアップしたと同時に精神的にも大人になっている。姉トールポピーに比べ、ハンドルが利きやすくロスが少ない馬だけに、安定して力を発揮することができる。骨折が判明したのは残念だが、今日の走りを見る限り、牡馬の一線級に混じっても好勝負できるはず。

アパパネは手応え良く追走し、4コーナーを絶好の形で回ってきた。先に抜け出したホエールキャプチャに迫ったときの迫力は往年と変わりなく、身体も気持ちも最後の牝馬限定G1レース制覇に向けて仕上がっていた。世界の強豪と勢いのある3歳馬に敗れてしまい、記録達成とはいかなかったが、自身の力を出し切ってのものだけに悔いはない。年齢的に、若駒の頃と比べて良化に少し時間が掛かっているということもあり、まだ望みはある。

3歳馬ホエールキャプチャは積極的な競馬をして力を出し切った。前走のように、なし崩し的に脚を使わされるレースよりも、今回のようにタメる競馬の方が合っている。G1レースのタイトルには手が届かなかったが、これだけの走りができたのだから、あらゆる条件が合えば勝ち切るだけの力は持っている。同じく3歳馬のレーヴディソールは、休み明けでの距離延長はさすがに苦しかった。1度使われての変わり身に次は期待したい。

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このコンビでドバイへ

Jbcclassic2011 by Scrap
JBCクラシック2011-観戦記-
スマートファルコンがあっという間に先頭に立ち、それを追ってトランセンドとシビルウォーが続いた。前半1000mが60秒7、後半が61秒4という平均ペースで流れ、当日の速い時計の出やすい馬場を考慮に入れると、スマートファルコンにしてはゆっくりと逃げたレースであった。その他の馬たちは、スマートファルコンに鈴をつけにいくのを避けたが、結局、道中は追走で一杯になってしまった。最後は、スマートファルコンとトランセンドのマッチレースとなり、ダートの両雄による力と力の真っ向勝負を堪能させてもらった。

スマートファルコンと武豊騎手は、スタートしてからの数十メートルで勝負を決したと言ってよい。好スタートから斜めに進路を取ってスッと先頭に立ち、ライバルであるトランセンドに全く隙を与えなかった。その分、骨を斬らせて肉を断つような激しいレースではなく、自身にとっても負荷の少ない、スマートなレースとなった。これで7連勝となり、昨年のJBCクラシックのような重いダートのレースから、東京大賞典のようなスピードレースまで、あらゆるタイプのダート競走を制しているように、もはや国内には敵はいない。あとは己の体調維持や衰えとの闘いになるだろう。

武豊騎手に手綱が渡ってから快進撃が始まったように、スマートファルコンの型を作り上げた武騎手にも賛辞を送りたい。下手に抑えるのではなく、走るリズムを優先した結果、スマートファルコンの力を最大限に発揮できる「逃げ」という型が出来上がった。言うほど簡単ではなく、スマートファルコンの意に任せて逃げさせるにも、最初は勇気が要ったことだろう。武騎手の経験と勘が、スマートファルコンの成長と上手く結びついて、最高の形として結実した。ぜひこのコンビでドバイへ行ってほしい。

トランセンドも敗れはしたものの、ゴール前では再び差を詰めたように、完膚なきまで叩きのめされたわけではない。再び相見えることがあれば、次はどうなるか分からないという余韻を残しての敗戦であった。ひとつだけ気になったことは、前走の南部杯でも見せていた行きっぷりの悪さである。いつもは手応え抜群で追走できる馬だが、今回はそれほど速いペースでなかった割に、勝負所で藤田伸二騎手の手が動いていた。最後は盛り返してきているのだから、馬がバテているわけではなく、気持ちが前向きではないということ。ドバイ遠征の精神的な疲れがまだ癒えていないのだろうか。それでもここまで走るのだから、ダートの超一流馬であることに間違いはない。

シビルウォーは玉砕覚悟で前の2頭についていったことで、ここに来ての成長が確かなことを証明してみせた。これまでは折り合いに気を遣う形でソロっと出していたが、今回キッチリと流れに乗れたことで、今後の脚質に幅が出てくるはずである。ダートは先行できないと安定感が増さないので、そういう意味でも、シビルウォーにとって負けても収穫の多いレースであった。

追記
上のスマートファルコンの写真を撮影されたとーじゅさんからも、「ROUNDERS」vol.2にサイレンススズカの写真を提供していただきました。ダメ元でお願いしてみたのですが、とーじゅさんは何とサイレンススズカの毎日王冠の写真を持っていらっしゃったのです。あの頃から、これだけクオリティの高い写真を撮り続けられていることには尊敬の念を感じざるをえません。カメラのファインダー越しに観る競馬の世界を、ぜひとーじゅさんのブログ「Scrap」で堪能してみてください。

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Scrap

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厳しいレースがサラブレッドを育てる

Tennosyoaki2011 by mkoichi
天皇賞秋2011-観戦記-
シルポートの宣言どおりの大逃げによって、前半1000mが56秒5という激流が作り出された。時計が出やすい硬い馬場であったことを考慮に入れても、どの馬にとっても息の入らない極限の流れ。厳しさという点においては、2008年にウオッカが勝利したレースに似ている。あの時もそうであったが、こういうレースでこそ馬の真価が問われる。このペースを追走し、掲示板に載るような走りができた馬は総じて強い。たとえ今日は負けたとしても、次走以降での好走が期待できる。厳しいレースがサラブレッドを育てるのだ。

勝ったトーセンジョーダンは潜在能力をようやく開花させた。ぶっつけで臨んだ宝塚記念こそ凡走したが、立て直した札幌記念をひと叩きされて、究極の仕上がりにあった。N・ビンナ騎手も速いペースの中団につけて、上手く流れに乗っていた。最後は馬場の良い外側に持ち出されると、弾けるように伸び、後ろから迫ったダークシャドウを抜かせなかった。3歳時から活躍を期待されたものの、脚元の関係からなかなか思うようにレースを使えなかった素質馬が、何度もG1レースの壁に弾き返されながらも少しずつ力をつけ、大一番で最高のパフォーマンスを見せてくれた。ここ最近は調教での動きも目立っていたように、陣営もトーセンジョーダンの成長に確かな手応えを感じていたのではないだろうか。これだけのレースができたのだから、ジャパンカップでも有馬記念でも十分に力は通用する。あとは激しいレースの反動をいかに癒すことができるかどうかにかかっている。

ダークシャドウは最高につくり上げられた馬体でレースに臨んだが、あと一歩及ばず、敗れてしまった。最後の直線の入り口で一瞬前が壁になるロスはあったが、最後はステッキを嫌がって尻尾を振っていたように、初めて味わう厳しい流れに苦しがって逃げようとしていた分の負けである。前走の毎日王冠が楽なレースだったことも伏線とはなっているが、最後まで踏ん張ることができなかったのは残念である。こういう癖を出す馬は、また次のレースでも同じように反抗して、ファイトしなくなる恐れがある。ステッキを使わずに追う方が良いのかどうか分からないが(だとすれば福永騎手からの乗り替わりが裏目に出た)、能力の高さ自体は証明されたのだから、たとえ距離が2400mや2500mに伸びたとしても、チャンスは十分にあるだろう。

ペルーサは昨年と同様に後方を追走し、最後の直線に賭けてハマった感が強い。とはいえ、これだけのペースを追走して差してきたのだから、この馬も強い。今年春は前に行く競馬を試してみたが、やはり後ろから自分のリズムで走る方が合っているようだ。横山典弘騎手もこれからはこの形で行こうと心に決めたことだろう。

ブエナビスタは積極的な競馬をして、進路が塞がるロスがあったが、最後まで伸びて4着。マイナス10kgと仕上がりは良く、現時点での力は出し切っている。年齢的なものもあり、どうしても肉体的、精神的な衰えは隠せない。それでもこの走りができるのだから頭が下がる。およそ2年間にわたって、一線級の古馬(牡馬)に混じって勝ち負けを繰り返してきたことを最大限に評価したい。この秋、G1レースを勝ち切れるイメージは湧かないが、それでもこの馬こそが史上最強の牝馬である。

トゥザグローリーは休み明けにもかかわらず見せ場を作った。福永祐一騎手がこの馬を選んだのかどうか分からないが、春ラスト2走の凡走を覆すような走りに、改めてこの馬の強さを認識した。道中のポジションや追い出しのタイミングも見事であった。やや細く映ったように、きっちりと仕上がってはいたが、ひと叩きされた次走はさらに期待が持てる。広々とした東京競馬場で行われるジャパンカップ、パワーが要求される暮れの中山競馬場の有馬記念、どちらでも良いだろう。

宝塚記念馬アーネストリーは、大外からの発走に加え、ハイペースに巻き込まれてしまったことによって大敗を喫した。ここまで大きく負けてしまったということは、体調自体も万全ではなかったのだろう。春のシーズン最後にある宝塚記念でピークに仕上げた馬を天皇賞秋で再び勝たせるのは難しい。体調を維持するには間隔が長すぎるし、つくり直すには短すぎる。

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負けることで強くなった

Kikkasyo2011 by M.H
菊花賞2011-観戦記-
曇天の中、今年の菊花賞はなんとか良馬場で行われた。フレールジャックが先頭を奪うまさかの展開で幕を開け、前半1000mが60秒6、中盤が62秒1、後半が60秒1という中弛みの極めて少ない、平均的なペースでレースは流れた。ペースが緩くならなかったことにより、引っ掛かる馬もそれほど目立たず、全体的に実に綺麗なレースとなった。最終コーナーではオルフェーヴルが満を持して先頭に立ち、2着馬に2馬身半差をつける圧勝で、ディープインパクト以来となる、史上7頭目の3冠馬に輝いた。

過去の3冠馬に比べ、オルフェーヴルが異色なのは、最初から強かったわけではなく、クラシックの直前から急激に強くなってきた点にある。非凡な脚を見せてはいたが、やんちゃな気性が災いして、真っ直ぐに走らなかったり、引っ掛かったりして、どうにも勝ち切れないレースが続いた時期があった。一転して、オルフェーヴルの肉体面と精神面における成長が噛み合ったスプリングS以降は、他馬を寄せ付けない走りを見せて、5連勝で3冠馬に昇り詰めた。負けることで強くなってきた馬なのである。負けたことのない馬、少ない馬は実は危うい。弱点を克服してきたゆえの強さ。この強さこそが、世界の舞台で最後にものを言うのである。

池添謙一騎手にとって、勝負のポイントは1周目のスタンドをどのように回ってくるかにあった。下り坂で勢いがついてしまうことやスタンドからの大歓声の影響で、勝つために極限にまで仕上げられた馬はどうしてもスイッチが入りやすい。勝負所はここではなく先であることを馬に伝えつつ、ロスを最小限に抑えなければならない。私が見る限りにおいて、このポイントを池添謙一騎手は見事に乗り切った。一瞬、口を割って引っ掛かる素振りを見せたが、すぐに落ち着かせて、スタンド前では馬群の中で折り合わせることに成功した。

この時点で、オルフェーヴルが身体をしっかりと伸縮させて走る様子を感じて(見て)、池添謙一騎手も私も半ば勝利を確信した。それ以降、池添謙一騎手の手綱は終始緩んだままで、人馬一体の境地で3冠の舞台を走っていた。最終コーナーを回るときの脚は、過去の3冠馬たちのそれと同じく圧巻。まるで他馬とは脚の速さが違うと言わんばかりの加速力であった。最後は抑える余裕もあったように、見た目以上の楽勝であり、馬に負担を掛けないよう、池添謙一騎手も最後は流すようにしてゴールさせた。これだけのプレッシャーの中で、ひとつのミスもしなかった池添謙一騎手には拍手を送りたい。

ウインバリアシオンは最短距離を通って勝ちにいく競馬をした。母父にストームバードが入っているため、血統的には決してスタミナタイプではないのだが、今日のパドックでも恐ろしいほどに落ち着いて歩いていたように、気性的にはステイヤーなのだろう。そんなウインバリアシオンの良さを最大限に生かした、安藤勝己騎手のファインプレーであった。これでダービーも菊花賞も2着と惜しい結果となったが、相手が悪かったとしか言いようがない。まだ成長の余地を残した馬体だけに、もし有馬記念に出走してくるようであれば楽しみはある。

3着に突っ込んだトーセンラーも力を出し切った。距離が伸びて良いタイプではなかっただけに、かえってこの馬の強さを確認させられた。2000m前後の適距離に戻れば、古馬に混じっても十分に通用するはずである。サダムパテックは、オルフェーヴルに勝つならこういうレースという乗り方をされたが、最後は力尽きてしまった。明らかに距離が長かった。ハーバーコマンドは14番人気ながらも4着と大健闘した。園田の木村健騎手にはいつも驚かされる。偶然の好走ではなく、木村健騎手の鞍ハマリの良さが出た騎乗であった。

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迷うことなく


秋華賞2011―観戦記―
ラビットと見間違うような大逃げをメモリアルイヤーが打ち、後続がそれに続き、秋華賞らしい淀みのない流れとなった。前半の1000mが58秒5だから、2番手以下はごく平均ペース。外を回した馬や後ろから行った馬は物理的に届かないというバイアス、つまり、特殊な前残り馬場であったことは確かで、小回りの高速馬場を利して、内枠から内々の前目を積極的に攻めた2頭がワンツーを決めた。

勝ったアヴェンチュラは2番手集団の番手で、ほとんど逃げるような形でレースを進め、そのまま押し切った。春のクラシックを怪我で棒に振ったことが、かえって馬体や精神面での成長を促したようだ。前走で古馬相手のクイーンSを完勝していたように、同世代のレースに戻れば力が一枚上。姉トールポピーに比べ、ハミ受けが良く、ゴーサインに対する反応も良いため、騎手が操縦しやすい馬である。その操縦性の高さが、姉が敗れた舞台で雪辱を果たすという好結果につながった。エリザベス女王杯は、距離が延びることはプラスに働かないが、古馬とは1度戦っているだけに素直に力を発揮できそうだ。

岩田康誠騎手は、テン乗りにもかかわらず、アヴェンチュラの力を十分に発揮してみせた。自身がブラックエンブレムで勝ったときの秋華賞を再現したかのような騎乗であった。スタートから思い切って出していったように、枠順や馬場状態を考慮に入れて、前々を攻めると決め打ちしていたのだろう。たとえ馬が引っ掛かっても御せる技術と、ペースが速くなろうとも最後まで持たせる自信があったからこそ、ここまで迷うことなく積極的に勝ちにいけたのだろう。こういう先手必勝のトリッキーなコースに乗せたら本当に巧い。

2着に入ったキョウワジャンヌは上がり馬の勢いをそのまま見せつけた。夏を使われてきたが、調子を落とすことなく、この中間も馬がグングンと成長していた。内枠を利して先行できたことも好走の要因のひとつではあるが、何よりもこの馬自身が強くなっている。飯田祐史騎手も腹を括って乗ったことで好結果を出した。敢えて言うならば、アヴェンチュラよりも内枠を引いたのだから、思い切ってアヴェンチュラよりも前のポジションを取りに行っても良かったかもしれない。

1番人気に推されたホエールキャプチャは外を回されて、なし崩し的に脚を使わされたことが響いて3着に敗れた。前走は内を回って全くロスのない競馬で勝ったが、今回は地脚の強さを問われるような競馬となってしまった。前走後も栗東に滞在して、調整も上手くいき、仕上がりは万全だっただけに、今回ばかりは完敗を認めざるを得ないだろう。桜花賞馬マルセリーナはスタートで後手を踏んでしまい、最後は伸びてきたが届かなかった。枠順といい、馬場といい、今回はあらゆる全てがこの馬に向かなかった。ただ、ホエールキャプチャと同じく、不利を覆すだけの力がなかったということであり、他馬との間にそれほど大きな力差がなかったということを意味する。

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もはや隙はない

Nanbuhai2011 by mkoichi
南部杯2011―観戦記―
藤田伸二騎手の公言どおりにトランセンドが控えたことによって、エスポワールシチーがハナに立ってレースを引っ張った。2009年にエスポワールシチーが勝ったフェブラリーSの前後半800m47秒0―47秒9と比較すると、今回の南部杯は46秒1―48秒7という超を付けてもよいほどのハイペースとなった。前が止まらない馬場であることを考慮しても、このペースを先行して最後まで伸びた1、2着馬は圧倒的に強い。最後は激しい叩き合いになり、東京競馬場で行われた初めての南部杯はド迫力のレースとなった。

勝ったトランセンドは、ドバイワールドカップ2着馬としての意地を見せた。中間の乗り込み量も豊富であったし、坂路コースで速いタイムを出していたこともあり、休み明けも距離の不安も全くの杞憂に終わった。最後の直線では、エスポワールシチーとダノンカモンの間から差し返してきたように、精神面における成長も著しい。かつては周りに馬がいるだけで怯んでしまった馬が、大きな舞台で勝利することで自信をつけ、海外遠征などの厳しい環境を経験することでタフになった。スピードもスタミナもある馬が精神的にタフになったのだから、もはや隙はない。あとはスマートファルコンとの激突が見てみたい。

負けはしたがダノンカモンは完璧に乗られていた。スタート良く飛び出して、スッと控えたことで、有力馬を前に見る絶好のポジションを走ることができた。一旦は先頭に立ったものの、最後はトランセンドに差し返されてしまったように、あと一歩力及ばず。ただ、かつて書いたように、ダノンカモンが最後の直線で尻尾を振る仕草を見ると、この癖さえなければ勝てているのにと思う。尻尾を振るのは苦しいからであり、それに抵抗しようとして尻尾を振る動作をするのである。どの馬も最後の追い比べで苦しいのは同じであるが、それでも走ることに集中できる馬と、そこから意識が逃げようとする馬かの違いがゴール前で出てしまうのである。それでも2着に入るのだから、ダノンカモン自身の走る能力が相当に高いことは確かである。

シルクフォーチュンは武器である末脚を遺憾なく発揮してみせた。展開に左右されやすい脚質の馬であるが、今回は前が淀みないペースで引っ張ったことで、力を出し切ることができた。フェアな東京コースでこういう速い流れになると、力のある馬でないと上の着順には来られない。3着に入ったのは実力の証明である。エスポワールシチーに先着してみせ、今年のダート界を担うゴールドアリュール産駒がまた誕生した。

エスポワールシチーは4着。仕上がりは良く、ラスト200mまでは粘ったが、最後は脚が上がってしまった。佐藤哲三騎手からバトンを受けた松岡正海騎手はソツなく乗って、その役割を果たした。確かにペースが速かったことはあるが、強かった頃のエスポワールシチーならば止まることはなかっただろう。それだけに、肉体的、精神的な衰えを感じざるを得ない。息長く活躍できるのがダート馬の特徴ではあるが、世代交代の波には逆らえない。

上がり馬ランフォルセと3歳馬ボレアスは共に直線で力尽きた。速いペースを中団から後方で追走したまでは良かったが、勝負所で手応えがなくなってしまった。ごまかしの利かない、厳しいレースになって、現時点での力差が現れてしまったということになる。G1クラスのダート馬とぶつかり合うにはもう少し時間が必要であろう。岩手のロックハンドスターは予後不良。こういう形で南部杯が行われただけに、なんとも残念でならない。

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牡馬を尻目にカレンな勝利

Sprinterss2011 by mkoichi
スプリンターズS2011―観戦記―
パドトロワが行き切る展開で、前半3ハロンが33秒0、後半が34秒4という、スプリンターズSとしては平均的なペースで道中は進んだ。流れがそれほど速くなかった分、前に行った馬にやや有利なレースとなり、馬群が密集して直線に向いてゴチャついてしまった。どの馬にも手応えが残っているため、バテて下がってくる馬がおらず、前に馬がつかえて壁になってしまうのである。特にスプリント戦では、こういうちょっとしたロスが致命傷となってしまう。

好位の外を追走したカレンチャンが楽々と抜け出して、5連勝でスプリント界の頂点に登り詰めた。5連勝するだけでも難しいのに、最後は牡馬を尻目にG1の壁までも破ってしまったのだから恐れ入る。夏に使われてきた馬が、秋のG1シリーズで息切れしてしまうパターンを何度も見てきただけに、その可憐な勝利には正直驚かされた。中山の急坂を克服しただけではなく、これだけ長い間ピークを維持することができたカレンチャンの健康さと陣営の手腕には拍手を送りたい。池添謙一騎手の無心の騎乗も吉と出た。

2着に粘ったパドトロワは体調が戻っていたことが大きい。輸送に弱かったり、キッチリ追い切りができなかったりと、この夏は決して満足のいく走りができなかった。栗東の坂路がよほど合っているのだろうか、マイナス10kgと、ようやくこの馬の本来のスピードを生かすことができる状態に仕上がっていた。切れる脚がないことを見越して、内枠を利してハナに立った安藤勝己騎手の判断も見事であった。最後の直線で内に寄れたことで審議となったが、レースの流れの範囲内であり、あの状況でラッキーナインが内を突いたこと自体が無謀であろう。普通なら、あそこは開けないし、開かない。

エーシンヴァーゴウも夏からの好調を維持して3着に粘り込んだ。前に有利なレースになったことは確かだが、ここに来て急激に力を付けている。今となってはコーナリングの問題もなく、周りに馬がいる形になってもビクともせず、精神面での成長も著しい。使い詰めで来ているだけに、この後はしっかりと休養を挟んで、来年もまた卓越したスピードと気の強さを見せてほしい。

圧倒的な1番人気に推されたシンガポールのロケットマンは、力を発揮することなくレースを終えた。包まれたとはいえ、外から来たカレンチャンの脚色の方が勝っていたし、最後にスペースが開いたときにはすでに脚が残っていなかった。いかにもスプリンターらしい激しい気性の馬だけに、長距離輸送がこたえたのだろうか。トモが薄く見えたように、決して本調子にはなかった。たとえ最強のスプリンターとはいえ、海外から遠征して来て勝つことはそう簡単ではない。

ダッシャーゴーゴーは行き場をなくして大敗した。ここまで全く追えないレースも珍しく、リベンジを期して臨んだ川田将雅騎手の無念は察して余りある。それでも敢えて言うならば、高松宮記念で強引に先行して押し切れなかったこと、そして前走のセントウルSで引っ掛かったことなどが伏線となり、今回は無理をさせず、この馬のペースで行こうと決めていたことが裏目に出てしまった。スプリンターにしては珍しく、自分から行くタイプではないので、馬任せにしたばかりに、やや流れに乗り遅れてしまった。その僅かなポジション取りが、ここまで致命傷になるとは思ってもみなかっただろう。仕上がりは良かっただけに、G1レースに縁のない馬なのだろうかとさえ思ってしまう。

G1レースを勝てる力がありながら、結局、勝てずに生涯を終えてしまう馬はたくさんいるし、一気にスターダムに登り詰める馬もいる。同厩舎で明暗が分かれた今年のスプリンターズSであった。

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まるで地平線のように


凱旋門賞2011―観戦記―
勝ち時計の2分24秒9は凱旋門賞としてはかなり速いタイムではあるが、道中のペースは極めてスローであった。それだけ馬場が良かった(硬かった)ということであり、最後の直線に向いての瞬発力勝負になったということでもある。有力馬の多くは、外枠からの発走のため、外々を回されてしまう、もしくは後方からの位置取りを強いられることになってしまった。枠順と道中のポジションが勝負の行方を大きく左右したレースであった。

勝った3歳牝馬デインドリームは強烈な瞬発力で圧勝した。今回のようなヨーイドンの形になると、馬体が軽い馬、そして背負っている斤量の軽い馬にとっては、一瞬の脚が生かせるため有利になる。まさに小柄な牝馬が斤量の恩恵を最大限に受けた形となったが、それを差し引いても強い競馬であった。ドイツ生産馬の底力を見た思いがした。時計の掛かる馬場を連勝してきただけに、人気の盲点になっていたのだろう。秋華賞を辞退した馬が、凱旋門賞を圧勝するのだから、競馬は本当に何があるか分からない。

人気に推されていたソーユーシンクとサラフィナは位置取りが後方すぎた。最後は伸びてきてはいるが、前も止まらずに脚色が同じになってしまった。スノーフェアリーも後ろの有力馬を意識したのか、前の馬を捕らえ切れずに終わってしまった。終わってみると、3歳牝馬のワンツーであり、3着にも牝馬が突っ込んでいるように、牝馬が上位を独占した形となった。世界的に牝馬の躍進は目覚しいものがあるが、これだけ極端な結果になってしまうと、そろそろ凱旋門賞におけるセックスアローワンスや斤量面の見直しも必要なのかもと思わせられる。

期待を背負っていたヒルノダムールはパドックから入れ込みが目立っていた。陣営の言葉を借りるなら、「雰囲気にのまれて」しまっていた。仕上がりが悪かったわけではないので、フォア賞の時とは違う何かを感じ取っていたのだろうか。全てが上手く運んでいたことが、かえって重圧を高めてしまったのかもしれない。そう考えると、海外に遠征をして、世界最高峰のレースを勝つことが果てしなく難しく思えてくるから不思議だ。近くにあるように見えて遠くにある。まるで地平線のように、凱旋門賞の栄冠が遠のいたように感じたのは私だけだろうか。

それでも、藤田伸二騎手の騎乗には見所があった。スタートしてから、気合をつけてポジションを取りにいった積極性には唸らされたし、道中は絶好位の内で綺麗にレースを運んでいた。一瞬、前が詰まる不利はあったが、何事もなかったかのように乗り切ると、直線に向くまで冷静に追い出しのタイミングを待っていた。完璧な騎乗だったが、残念ながら今回は馬が弾けなかった。これまで日本の騎手がなかなか出来なかった当たり前の騎乗が当たり前にできたことに頼もしさを感じ、日本を代表するジョッキーの1人として誇らしく思う。

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強さは美しさに

アメリカの競馬は、ダートとはいえども日本のような砂ではなく土に近い馬場状態のため、脚抜きが良く、前に行った馬が止まりにくい。だからスタートからスピードに任せてガンガン進んでいき、早めから仕掛けて、最終コーナーでは先頭に立って押し切る競馬が王道である。それに対して、ヨーロッパの競馬は芝が深くて重い馬場に加え、起伏も激しいコースで行われるため、道中はとにかく折り合いをつけ、スタミナのロスを避け、ギリギリまで脚をためて、最後の直線に向いてヨーイドンの競馬が王道となる。そういう走りをしないと、最後の直線でバタバタになり、歩いてしまうことになるからだ。

逆説的ではあるが、前走のセントジェームズパレスSで無茶なレースをしたからこそ、フランケルの強さはより際立った。あれだけ早めから自ら脚を使って動き、前を捉えに行って押し切るという、まるでアメリカ競馬のようなレースを、ヨーロッパの深くて重い馬場で成し遂げてしまったのだ。フランケルが無尽蔵なスタミナを有していることが分かる。これまではマイル戦を中心に使われてきたが、道中で折り合いさえつけば、2000mまでなら十分に守備範囲だろう。

その怪物フランケルがまたもや魅せてくれた。今回のサセックスSは、前走から一転してすんなりと先頭に立ち、道中はピタリと折り合い、楽な手応えで最後の直線に向くと、弾けるように伸びた。負かした相手も、前走のクイーンアンSであのゴルディコヴァを負かし、マイルG1を5連勝中で臨んできたキャンフォードクリフス。ほとんどの馬たちがこの2頭に恐れをなして回避したため、4頭立てという静かなレースになったが、完璧に立ち回って、楽に勝利したことで、フランケルの強さは美しさに昇華した。


関連エントリ
「ガラスの競馬場」:美しいレース

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3冠を勝つことの難しさ

昨日、「神様、もう1レースだけ」というエントリーを書こうと思っていた。そう、牝馬として、南関東の3冠制覇に挑戦したクラーべセクレタの勝利を祈念してのものだ。地方からも競馬を盛り上げるため、スターホースの誕生は望むべきところだし、まして牝馬となれば歴史的快挙である。もう1レースだけ、なんとか勝ってほしいという想いがあった。残念ながら私の願いは届かなかったが、クラーべセクレタは中央競馬の牡馬を相手に正攻法のレースをして、敗れたことの価値は高い。

アメリカの3冠レースを見ても分かるように、短期間で3つのG1レースを全て勝つことは難しい。わずか5週間の間に3つのG1レースを走り、勝利しなければならないのだ。思い浮かぶだけでも、古くはノーザンダンサーから、サンデーサイレンスやウォーエンブレムもそうだし、シルバーチャーム、リアルクワイエット、スマーティージョーンズ、最近でいうとビッグブラウンなど、3冠達成を目前にして苦杯を舐めた馬たちは枚挙に暇がない。

3冠目のレースにおいて、あっと驚く大敗を喫する馬もいれば、ハナ差で僅かに勝利を逃してしまう馬もいる。ケンタッキーダービーとプリークネスステークスは勝ったものの、最後のベルモントステークスで敗れてしまった馬が11頭もいるのだ。1978年にアファームドが3冠を達成して以来、なんと30年以上もの間、アメリカでは3冠馬が誕生していないという現実がある。

なぜこのようなことが頻発するかというと、体調を維持することが難しいからである。2つは勝つことができても、3つ目が恐ろしく難しい。南関東の3冠はアメリカの3冠体系に似ていて、わずか2ヶ月の間に3つのレースが行われる。クラーべセクレタも、前走の東京ダービーで-9kgとキッチリ仕上がっていたように、今回のJDDに向けて体調がやや下降線を辿っていた。また、5連勝してきたことによる、目に見えない疲れもあったはず。

もうひとつ、レースを見ていて気づいたのだが、もしかするとクラーべセクレタは砂を被ることを極端に嫌うのかもしれない。最初の直線での仕草や、戸崎圭太騎手が外に出したがる動きを見ても、そうなのではないだろうか。そうなると、どうしても外を回らされることになり、距離ロスが多い競馬を強いられることになってしまう。これから先、さらに強い相手と戦っていくには、馬群の中でもジッと我慢できる強さを身につけなければならない。どれだけ強い馬にも課題はあり、そこにこそ成長の余地もある。

クラーべセクレタには、最強のダート牝馬として、地方と中央の垣根を越えるだけではなく、夢半ばで散ったホクトベガの分まで、世界へ羽ばたいていってほしい。

1998年ベルモントステークス

3冠目前のリアルクワイエットをハナ差で差し切ったヴィクトリーギャロップに乗っていたのは、前年にシルバーチャームで3冠を逃していたゲイリー・スティーブンス騎手。3冠を勝つことの難しさを、世界で最も知っているジョッキーなのではないだろうか。こういうレースを観ると、競馬は一瞬の油断も許されないスリリングなスポーツなのだと実感する。必見。

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手の内に入れて、育てる。

Takaraduka2011 by M-Style
宝塚記念2011-観戦記-
過半数の出走馬が前走からの乗り替わりという状況の中、佐藤哲三騎手を主戦に据えるアーネストリーがレコードタイムで完勝した。ナムラクレセントを行かせて番手を追走し、第4コーナーでは早々に先頭に立つ横綱相撲で、ブエナビスタやエイシンフラッシュらの追撃を振り切った。春はここ1本に目標を絞ったことでフレッシュな体調で臨めたことに加え、シーズンオフに近い宝塚記念の時期は力を要する馬場になることも、父グラスワンダーから無類のパワーを受け継いだアーネストリーにとっては有利に働いた。

同じ騎手が乗り続けている、つまり乗り替わりがないことのメリットは2つ。ひとつは、騎手が馬を手の内に入れることができる。つまり、その馬がどういうタイプ(性格から肉体の構造まで)かを時系列で把握していることで、騎手が自信を持って騎乗することができるということである。アーネストリーはためて切れるタイプではないので、多少流れが速くとも、行く気に任せて先行し、パワーで押し切る競馬をすることで、持てる力を発揮することができた。佐藤哲三騎手ではないジョッキーが跨っていたら、もう少し遅いペースに落とそうとして、抑えて持ち味を殺してしまっていたかもしれない。

もうひとつは、馬を育てることができる。これは見落とされがちだが、騎手は調教だけではなくレースを通しても馬を育てることができる。息の入れ方やペース配分の仕方など、実戦のレースでしか教えられないこともある。騎手が1戦ごとに違ってしまえば、教えられるものも教えられなくなってしまうのだ。騎手にとっても、次に自分が乗れるチャンスがあるかどうか分からない中では、馬を育てるという長期的視点に立つことは難しく、まずは目の前のレースを勝つための乗り方をするのは自然なことである。

騎手の体はひとつしかないので、ずっと同じ馬に乗り続けることが難しいケースもある。そういった場合、信頼できる騎手に、ワンポイントリリーフとして、次につながる騎乗を細かく依頼するのだ。たとえば佐藤哲三騎手の場合、アーネストリーの手綱をかつて松岡正海騎手と三浦皇成騎手に任せている。エスポワールシチーの時もそうだったが、佐藤哲三騎手の松岡正海騎手に対する信頼はよほど厚いのだろう。ひとつひとつのレースで大切に育てたことが、アーネストリーにとって1年越しのG1レース制覇につながったのである。

1番人気に推されたブエナビスタは、最後の直線でよく追い込んできたものの届かず。絶好調時に比べると、前半の推進力に欠け、末脚にも迫力がない。昨年秋の疲労が残っていることは確かである。そんな中でも牡馬相手に連対を外さないのだから、ブエナビスタの肉体的そして精神的強さには頭が上がらない。

エイシンフラッシュは経済コースを通ってロスのない競馬ができたが、最後は逆に勝ち馬に突き放されてしまった。仕上がりは抜群で、走りたいという前向きな気持ちも戻ってきていた。だからこそ、敢えて言うならば、安藤勝己騎手には、エイシンフラッシュの気持ちに任せて、アーネストリーの後ろを積極的に追いかけるぐらいの競馬をしてもらいたかった。エイシンフラッシュの末脚を生かそうとしたのだろうが、もしテン乗りでなければ、乗り方は違ったろうし、また結果も違ったのではないか。

ルーラーシップはスタートで行き脚がつかず、道中は後方から進み、最期は外を回してしまい力尽きた。前走ほどの大きな出遅れではなかったが、前走のように外からひと捲くりできる相手でもなかった。この馬自身、力をつけていることは確かだが、今年は1月の日経新春杯から使っている(このレースがピークであった)上に、ドバイ遠征を挟んで、さすがに疲れがあるように映った。それが前走からの出遅れという現象にも現れている。

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歴史を脅かす日が来ることを


セントジェームスズパレスS2011―観戦記―
無敗馬フランケルの強さばかりが目立ったレースであった。着差が僅かであったので、力差がなかったと勘違いしてしまうかもしれないが、決してそうではない。2番手集団のペースが遅いとみるや途中から自ら動き、壊滅的なペースを作り、最後まで粘り通してみせたのだから、その速さと強さは本物である。ラップが計時されない中、どうやってレースの厳しさを計るかというと、他馬のポジションや動きを見ればよい。2着に突っ込んできたゾファニーは、最後方から突っ込んできたように、フランケルを追いかけなかった馬である。フランケルについて行った馬は、皆、脚を失ってしまった。グランプリボスは2番手で追走したのだから、体調がピークを過ぎていたとはいえ、早々に手応えがなくなってしまったのも仕方がない。

「馬券のヒント」にも書いたことだが、強い逃げ馬がいるとヒモが狂うのだ。とてつもなく速くて強い逃げ馬がいると、2着には大穴が飛び込んでくることが多い。なぜなら、とてつもなく速いその馬をマークして追走し、仕掛けることによって、他の有力馬が自分のリズムを崩してしまうからだ。また、よどみのない速いペースになることが多く、まともに追走した馬がなし崩し的に脚を使わされる中、勝負を捨て、道中は自分のペースを守った人気薄の台頭がある。まさに今回のセントジェムズパレスSは、その典型的なレースであった。連勝が止まる時は必ず来るはずだが、それにしても世界には恐ろしく逃げ馬がいるものだ。

300年の歴史を誇るロイヤルアスコット開催に、父サクラバクシンオーのグランプリボスが出走したことの意義は果てしなく大きい。「ROUNDERS」の連載でルドルフおやじさんが書かれているように、20歳近くになったサクラバクシンオーが、朝日杯フューチュリティSの勝ち馬を出したこと自体が驚きであり、血の更新が盛んになった現在、これほど息長くチャンピオンクラスの仔を出し続けている内国産種牡馬がいるのは奇跡に近い。ルドルフおやじさんの言葉を借りると、サクラバクシンオーは内国産の「歴史」そのものなのである。いつかサクラバクシンオーの仔が再びアスコットの地に立ち、歴史を脅かす日が来ることを楽しみに待ちたい。

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迷うことなく

Yasuda2011 by Ruby
安田記念2011―観戦記―
シルポートが飛び出し、それを外からジョーカプチーノがマークする形でレースは進んだ。前半600mが45秒4、後半が46秒6だから、マイルのG1レースに相応しい厳しい流れになったといえる。府中競馬場の長い直線を考えると、力のある馬であればどこからでもチャンスのある、実力が素直に反映されるレースとなった。最後は横一線の叩き合いとなり、早めに抜け出した3歳馬リアルインパクトが僅かに先にゴールした。

3歳馬として史上初の安田記念馬となったリアルインパクトは、力と力の勝負を制してみせた。古馬に比べて斤量が4kg軽いことを差し引いても、このメンバーに入って、先行して押し切って見せたのだから、マイラーとしての完成度は相当に高い。叩き3戦目でキッチリ仕上がっていたし、まるで古馬のような堂々とした馬体を誇る馬である。母系は短距離血統であるが、父がディープインパクトからスタミナと真面目さを受け継いでいる。春の2戦とも(もっと言うと朝日杯フューチュリティSも)、厳しいポジションを走らされただけに、ようやく能力を全開できたということだろう。

地方の騎手として中央競馬に参戦しつづけ、ようやくG1レースのタイトルを手に入れた戸崎圭太騎手の騎乗にも賛辞を送りたい。最大の勝因は、迷うことなく勝ちに行ったこと。ペースが速くなりそうという予測はあったはずだが、それでもスタートから前々を攻めていった。ハイペースに飲み込まれるリスクを承知で、リアルインパクトを自身の大きいフットワークで走らせることを優先した。その攻めの姿勢を裏付けるのは、あらゆるバテた馬たちを最後まで残してきた、日々の実戦の中で培われた追う技術である。府中の坂を上り切ってからの、リアルインパクトを残した戸崎圭太騎手の手綱からは、鬼気迫るものを感じた。

2着に差し込んだストロングリターンは、追い出しが僅かに遅れたことが悔やまれる。内々を進んだことでポジションを悪くしてしまい、最後は馬群を縫ってきたが届かなかった。石橋脩騎手は悔しくて眠れないだろう。それぐらい、勝ち馬との力差はなかったし、あと一歩でG1レースに手が届いていたのだ。この敗戦を生かし、追える若手騎手の代表から一流のジョッキーへと成長してほしい。それにしても、堀宣行調教師の馬をつくる手腕には脱帽である。絵画から抜け出てきたような理想的な馬をつくることには定評があったが、今年は連対率が4割(6月2日現在)と実際にレースで走ってもいる。美浦トレセンにまた一人、頼もしい調教師が登場した。

1番人気に推されたアパパネは、負けはしたが、最後まで踏ん張ってみせた。ヴィクトリアマイルから中2週というローテーションに加え、まだ完調にまで戻りきっていないことを考えると、一線級の古馬を相手に0.2秒差の6着だから、精一杯走っているといえる。この後は放牧に出して、ゆったりと英気を養うことができれば、また秋には肉体的にも精神的にも強いアパパネが蘇ってくるだろう。そうなったら、たとえ古馬の牡馬だろうが、相手に不足はない。

スマイルジャックは昨年に続き、惜しい3着に敗れた。ガツンと出てしまうと、引っ掛かって止まらなくなってしまう馬だけに、乗り方が難しい。最後は大外に出して良く伸びたが届かなかった。もう少しスムーズに好位が取れれば、G1レースを勝てる力のある馬だけに、今年もまた内枠が仇となった印象を受ける。また、4着と陰に隠れてしまったが、クレバートウショウを操った武豊騎手の見事な騎乗を忘れてはならない。スムーズに先行して、クレバートウショウのスタミナを考えて、ギリギリまで追い出しを我慢していた。さすが3400勝を記録した日本一のジョッキーである。


関連エントリ
Boukanzaidesyusinkei_2
リアルインパクトの一口馬主の方が堀宣行調教師の真髄について書かれています。
つまり、競馬って、そういうことが大切なのだと思います。必読です。
傍観罪で終身刑:「リアルインパクト、あるいは堀宣行先生のこと」

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信じた者と、信じられなかった者と。

Derby2011 by Photo Stable
ダービー2011―観戦記―
梅雨が例年よりも早めに訪れたおかげで、オークスに続き、日本ダービーもが雨の降りしきる中、道悪馬場で行われた。オールアズワンが内枠と馬場を利そうと先頭に立ち、比較的緩やかなペースでレースを引っ張った。展開的には決して後ろから行った馬に有利ではなかったが、前に行ったことで馬が折り合いを欠き、スタミナをロスしてしまった馬たちが直線でバテる中、余計な動きをせず、最後の直線に賭けた馬たちが上位を占めたレースとなった。

これで皐月賞に次ぐ2冠となったオルフェーヴルは、力の違いをまざまざと見せ付けた。最後の直線での力強い脚取りを見ても、他馬がもがく中で道悪を苦にすることもなく、どちらかというとゴールに近づくにつれて差を拡げていった。スプリングSと皐月賞でも見せていたが、今回のレースでも最後は耳を立ててゴールする余裕の勝利であった。馬体重こそ減ってはいたが、この中間は馬体もグッと逞しくなり、その筋肉量は兄を彷彿させるほど急激に成長していた。この極悪馬場を伸び切ったのだから、2400m以上のスタミナを有していることは間違いない。菊花賞で3冠を制すにあたって、なんら距離の心配はなく、またもし凱旋門賞を勝てるとすれば、この馬なのではないかという期待さえ抱いてしまう。

池添謙一騎手はオルフェーヴルを最後まで信じて騎乗していた。急かせてしまうと、自身のリズムを崩し、折り合いを欠いてしまうタイプだけに、スタートから馬任せで道中を進めていた。こういう馬場だと少しでも前に行きたいと思うのは自然であり、しかも1番人気に推されていれば、その気持ちに拍車がかかり、手綱を通して馬に伝わってしまうものだ。しかし、お互いを信頼し合った池添謙一騎手とオルフェーヴルのコンビは見事に折り合っていた。デビュー戦での大暴走や京王杯2歳Sで折り合いを欠いて大敗した痛い経験が、折り合いに専念するという形で本番につながった。また、ひとつ間違えば、競走馬として大成することがなかったであろう、気性の難しさを秘めたオルフェーヴルを信じ、一つ一つ教え込み、ここまでの馬に成さしめた陣営にも最大級の賛辞を送りたい。

ウインバリアシオンは安藤勝己騎手の一発勝負が決まった形で2着に追い上げた。前半は勝負を捨てて、4コーナー手前から一気に仕掛けるという捨て身の騎乗であった。他の馬たちは前々を攻めて勝手にバテることも読んだ上での作戦だが、これを日本ダービーの舞台でやってしまうところが安藤勝己騎手の安藤勝己騎手たるゆえんだろう。あわやという場面も作ったが、最後はさすがに相手が強かった。ウインバリアシオン自身、まだ体が出来上がっていない現状を考えると、この馬場でよく走っている。父ハーツクライのように、古馬になって馬体が完成されてくれば、大きなところを勝てるだけの馬になるはずである。

ベルシャザールはジリジリとしか伸びない分、こうした馬場状態がプラスに働いた。前向きな気性を生かしながら、内に進路を取って、最後までバテさせなかった後藤浩輝騎手の手腕も冴えた。ナカヤマナイトは一瞬素晴らしい伸びを見せたが、最後は止まってしまった。力をつけている途上ではあるが、厩舎の先輩であるナカヤマフェスタにも負けずと劣らない素質を持っていることを証明してみせた。普段は冷静な柴田善臣騎手が、オルフェーヴルを前に出すまいと、右ムチを連打して勝ちに行った姿に、どの騎手でも胸に秘めているダービーへの熱い想いを垣間見た。

2番人気ながらも見せ場なく敗れてしまったサダムパテックにとっては、2400mの距離に加え、スタミナを奪われる馬場となってしまったことが最大の敗因だろう。岩田康誠騎手も第1コーナーまでは上手く運べていたが、馬場の良いところを選んだのか、道中から外に出してしまったばかりに馬が引っ掛かってしまい、4コーナーでも外に振られてしまった。あそこはサダムパテックを信じて、内を回ってくるべきであった。馬を信じられなければダービーは勝てない。

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何が起こるかわからない、競馬も、人生も。


オークス2011―観戦記―
レース直前の叩きつけるような雨により、追い込みの利きづらい、力が要る馬場状態へと一変した。ピュアブリーゼが刻んだ前半72秒9-後半72秒8という流れは、数字だけを見ると平均ペースだが、中盤が緩んだことで、前に行った馬にとって有利な展開となった。後ろから進んだ人気2頭、マルセリーナとホエールキャプチャにとっては、身上とする切れ味を殺され、しかも展開にも恵まれないという二重苦を味わったレースとなった。ほんの1時間前に降り始めた雨によって、結果がここまで左右されてしまうところに、競馬の不確実さがある。

勝ったエリンコートは中団でピタリと折り合い、4コーナーでは先行集団を射程圏に入れると、馬場を苦にすることなくしっかりと伸びた。最後はスタンドからの照明を気にしてヨレてしまったが、ラストまで抜かせなかった根性は素晴らしい。血統的には説明がつきにくいが、力の要る馬場と2400mの距離に対応したのだから、この馬自身、道悪を苦にせず、距離が延びて良いタイプなのだろう。デュランダル産駒にしては柔らかい筋肉と、まだ緩さの残る未完成の馬体だからこそ克服できたとも考えられる。審議については、進路妨害をした後、後藤浩輝騎手はムチを左手に持ち替えて、馬を立て直して追っており、決して悪質ではなかったからこそ、セーフと判断されたのだろう。

父モンズンという典型的な欧州血統が流れているピュアブリーゼは、力の要る馬場に滅法強いことを証明してみせた。切れ味勝負になると分が悪いが、しぶとさを生かせる馬場は合っている。もちろん、単騎ですんなり逃げられたことも功を奏したように、あらゆる条件が追い風となり、能力を発揮することができた。主に繁殖を見据えて購入したであろう馬がこれだけ走るのだから、サラブレッドは分からない。また、これは何度も見る光景だが、柴田善臣騎手はこういう形で逃げさせると、スローダウンするのが非常に上手い。

ホエールキャプチャはギリギリに仕上げられていたことに加え、降りつける雨に嫌気を差したのか、ゲート内でイライラして立ち上がった瞬間にスタートを切られてしまった。あっという間に進路を塞がれ、後方からの競馬を余儀なくされた。追い込みが利きづらい馬場を考えても、前で競馬をしたかっただけに、一瞬のミスが致命傷となった。それでも、池添謙一騎手は進路を内に取り、コーナーリングでも距離ロスを避け、最善を尽くしたが、最後は同じ脚色になってしまった。今回はあらゆる要素がこの馬にとって向かなかった中で、よくぞ走っている。

1番人気に推されたマルセリーナは、持ち前の切れ味を馬場に完全に殺されてしまった。展開も不向きであり、さすがにあそこのポジションからでは追い込めない。前走の桜花賞でやや掛かったことを考慮して、安藤勝己騎手は積極的に出して行かなかったのだろう。まだ本当の強さがなかったということではあるが、もし1時間前の良馬場で行われていたら、最後まで伸び切っていたはず。馬体重こそ変わらないが、しっかりと筋肉がつき、馬体の成長は著しい。このまま順調に行けば、秋が楽しみな馬の1頭である。

良血グルヴェイグにとっては、あらゆる条件が厳しすぎた。跳びが大きく綺麗な馬だけに、今回のような馬場は合わないし、あれだけ外を回されてしまっては苦しい。将来性は随一の素質馬だけに、限界を超えて走ってしまうよりも、ダメージを残さない負け方ができて、かえって良かったのではないだろうか。

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女シンザンと呼ぶに相応しい。

Victoriamile11 by Ruby
ヴィクトリアマイル2011―観戦記―
牝馬限定のG1レースにもかかわらず、目移りするようなメンバーが集い、それに相応しい激しいレースとなった。逃げたオウケンサクラが前半4ハロンを44秒6のハイラップで飛ばし、レース全体の流れを引き締めた。北村宏司騎手はヴィクトリアマイルにありがちな超スローではオウケンサクラの持ち味が殺されてしまうと考え、自ら厳しいレースを作る作戦に出たのだろう。たった一人の騎手の思惑がきっかけとなり、レース自体の性質が変化してしまうのが、競馬の面白さであり怖さでもある。伏兵の付け入る隙はなくなり、最後の直線では3強、そしてゴール前は女王2頭の一騎打ちとなった。

アパパネは力と力の勝負を見事に制してみせた。ゴールに向けて、歯を食いしばって走る姿は観ているだけで胸を打つ。決して体調が良かったわけではなく、完調に一歩手前という状態であったからこそ、今回の勝利の価値は高い。牝馬3冠(実質は4冠)を取った後、あらゆる疲労の蓄積があった中、わずか半年でここまで立ち直ったのだ。健康な肉体と常に前向きな気持ちが、この馬の存在を際立たせている。最後の最後に抜け出す勝負強さは、女シンザンと呼ぶに相応しい。次走は安田記念になるが、体調はさらに上向くだけに、牡馬の一線級を相手に不足はない。

蛯名正義騎手も全体の流れを考えると、最高のポジションでレースを運んでいた。通ってきたコース、そしてブエナビスタを待たずして追い出したタイミングも完璧であった。まさに前の馬も後ろの馬も受けて立った競馬であった。スパッと切れるが、突然止まってしまう牝馬が多い中、アパパネのように渋太く最後まで伸びるタイプは、ジョッキーとしても安心して乗れるはずである。かつてテイエムオペラオーに乗っていた時の和田竜二騎手が1番上手かったように、アパパネに乗っている時の蛯名正義騎手が1番上手い。

ブエナビスタは最後までアパパネを追い詰めたが、あと一完歩届かなかった。ジリジリとしか伸びなかったところを見ると、やはり昨年秋の3連戦の疲労がまだ残っているのだろう。ドバイへの遠征を挟んでいるのだから、当然といえば当然である。昨年に比べると仕上がりは良かったと言えば誤解を招くかもしれないが、あらゆる面で順調に来ていたことも確かである。それでも、こうして勝ち切れなかったのは、マイルへの適性でなく、ブエナビスタの気持ちの問題である。精神的な疲労が残っていることは、レースでの前進意欲の少なさを見れば分かる。サラブレッドの一生の中で極限を超えて踏ん張ることのできるレースは限られているのだ。岩田康誠騎手の乗り方にミスはなかった。

レディアルバローザはこのハイペースを内から先行して、勝ったかと思わせる場面を作ったように、ここに来て大きく成長していることを証明してみせた。馬体はひと回り大きくなり、以前の線の細さは微塵も感じさせない。父キングカメハメハはもとより、3年連続でカナダの古馬牝馬チャンピオンになった母から流れる晩成の血がようやく開花した。惜しむらくは、福永祐一騎手の読みに反して、レース全体のペースが速くなってしまったこと。ペースが落ち着いていれば、あのポジションで大正解であり、アパパネとブエナビスタにひと泡吹かすシーンが作れたはずである。

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戦いはまだ始まったばかり


NHKマイルC2011―観戦記―
フォーエバーマークがハナを主張して、それにクリアンサスとエイシンオスマン、リキサンマックスが続く形で、半マイルが45秒7、そして後半が46秒5だから、このメンバーにしては決して速くはないが、淀みない流れでレースは進んだ。結果的に、先行争いを演じた逃げ・先行馬たちは最後の直線で力尽き、後方やや外にポジションした差し馬が上位に台頭した。道中でのポジションが勝敗を分けたレースであった。

勝ったグランプリボスは、マイル戦の淀みないペースに折り合いが付き、脚をためることができたことで、最後の直線で末脚を爆発させることができた。スプリングS、そしてニュージーランドTでは折り合いを欠く姿が目立っただけに、外枠からスムーズに流れに乗れたことも吉と出て、ようやくこの馬の力を発揮することができた。最後の直線では舌を出していたように、騎手にとっては操縦の難しい馬だろう。テン乗りのウィリアムズ騎手もきっちりとコントロールして巧く乗っていたが、そういう意味でも、マイル以下の距離でこその馬である。

グランプリボスの父は先日他界したばかりのサクラバクシンオー。最後までこうしてG1ホースを誕生させるところに、サクラバクシンオーの種牡馬としての偉大さがある。もちろん、母の父に入ったサンデーサイレンスの血が、サクラバクシンオーの後押しをしていることも忘れてはならない。この後は、英国のセントジェームズパレスSに挑戦して、あのフランケルと対戦するとのこと。サクラユタカオーから脈々と流れる内国産の血を、どこまで途絶えることなく伝えてゆくことができるのか。グランプリボスの戦いはまだ始まったばかりなのかもしれない。

コティリオンはスタートから行き脚がつかず、最後方からのレースを強いられた。そのため、かえって折り合いがついて良かった面もあるのだろうが、最後は届かない位置から2着まで追い込んだので精一杯だった。まだ馬体が出来上がっていない状態でこれだけ走るのだから、将来性は非常に高い。また、ディープインパクト産駒の成長力にも驚かされる。桜花賞を勝ったマルセリーナもそうだったように、春のクラシックが始まるのに合わせて、グッと良くなってくる馬が多い。これはかつてのアグネスタキオンがそうだったが、つまりクラシック血統ということである。

同じくディープインパクト産駒のリアルインパクトは、内田博幸騎手が最高のレースをしたが、最後の直線でブレーキを踏む形になってしまい、外からスムーズにレースを運べた馬たちに先着されてしまった。フットワークの大きい馬だけに、中団より外の枠を引けていれば、2頭の間に割って入れたかもしれない。

3番人気に推されたエーシンジャッカルは、内枠が災いしてしまい、まともなレースをさせてもらえなかった。岩田康誠騎手のことだけに、リアルインパクトが走った前々のポジションを狙っていたはずだが、スタート後に寄られて、それから後手後手に回ってしまった。今年絶好調の岩田康誠騎手だが、ジョッキーはいつも上手く乗れるわけではない。

エイシンオスマンは最後まで良く粘っている。皐月賞からの中1週という間隔も全く問題なかったし、距離の短縮もこの馬にとってはプラスであった。実は4着に粘ったプレイとエイシンオスマンは同じロックオブジブラルタル産駒であり、マイル前後の平均ペースで力を発揮するのだろう。へニーハウンドは道中でやや行きたがっていたように、1200m戦から府中のマイル戦という変化に戸惑っていた。キャリアが浅い馬だけに仕方ない部分もある。

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血は恐ろしい

Tennosyoharu11 by M-style
天皇賞春2011―観戦記―
逃げる意志を見せる馬がおらず、好スタートを切ったゲシュタルトやペルーサ、ビートブラックという面々が押し出されるように先行した。隊列が決まったかと思いきや、スタンド前でコスモヘレノスが一気にハナを奪い、さらに1番人気に推されたトゥザグローリーが抑え切れずに先頭に立つ。それだけでは終わらず、スタートで立ち遅れたナムラクレセントが向こう正面でまくりをかけ、なんと3度にわたって先頭のポジションが変わるという珍レースとなった。

馬場状態を考慮に入れても、前半1000mの64秒2は過去10年で最も遅く、中盤1200mの76秒5も超スローに流れた昨年とタイで最も遅い。この極限までに遅い流れの中で、折り合いを欠く馬が目立ち、それを抑え切れない騎手も多かった。それにさらに輪をかけたのがやや重馬場であり、3200mを走った各馬から容赦なくスタミナを奪い去っていった。まるでヨーロッパ競馬のようであり、どこまで「ジッと我慢できるかという精神力」と「スタミナ」、まさにステイヤーとしての資質が問われる苛酷なレースであった。

勝ったヒルノダムールは、一流のステイヤーとして世代の頂点に立った。他馬が折り合いを欠いて汲々とする中、ただ1頭だけ、何ごともなかったかのようにスムーズに走れていた。父は菊花賞と天皇賞春を制したマンハッタンカフェ、母の父は無敗のまま凱旋門賞を制したラムタラである。デットーリ騎手が「ライオンの心臓を持つ」と賞賛し、44億円という莫大な日本マネーをつぎ込んで輸入した神の子が、母の父という形で名ステイヤーを出そうとは。日高の関係者の心情を思うとなんとも言いがたいが、こういう馬をこそ、ぜひ凱旋門賞で走らせてほしい。

藤田伸二騎手も実に冷静に騎乗していた。ヒルノダムールの折り合いを欠かない長所と2番枠という枠順を最大限に生かし、理想的なポジションで道中は進み、追い出しから直線に立つタイミングまで完璧であった。ステイヤーのヒルノダムールが2000mの前走(産経大阪杯)で勝ったのだから、レース前から自信はあったに違いない。今年は乗り鞍も減り、忸怩たる思いもあるだろうし、ドバイワールドカップでは惜しくも2着に敗れて悔しい思いもしただろうが、そういう全てを胸に秘めて、大舞台で最高の仕事をやってのけた。このジョッキーもライオンのハートを持っている。

惜しくも2着に敗れてしまったエイシンフラッシュは、ダービーからおよそ1年の時をかけて、ようやく復調してきた。藤原英昭調教師の手腕によって、ほぼ完調に近いところまで馬体は立て直された。レースに行っても、これだけ遅いペースにもなんとか折り合いがついていたし、追い出されてからグッとハミを噛んで伸びていた。最後にもうひと踏ん張りできなかったのは、気持ちの面でまだ完全にダービーの疲れが癒えていないのだろう。馬の一生のうちで、精神が肉体の限界を超えて走られるレースは極めて少ない。それにしても、この馬のステイヤーとしての資質は高い。さすが最強世代のダービー馬である。

ナムラクレセントは立ち遅れてしまったことにより、自らの型に持ち込むことができなかった。それでも、結果的に3着に粘りこんでいることを考えると、すんなりハナに立てていれば、もっと際どい勝負になったのではと思わせる。スタミナが問われる馬場も苦にしなかったように、この馬も生粋のステイヤーである。

ステイヤーのマイネルキッツにとってはお膳立てが整ったようなレースであったが、松岡正海騎手がスタートから出して勝ちに行った分、馬がその気になって掛かってしまっていた。人間の勝ちたいという気持ちが馬に伝わり、今回に限っては裏目に出てしまった。

1番人気に推されたトゥザグローリーは、道中の超スローペースと入れ替わりの激しい展開とスタミナを要する馬場という3重苦に負けてしまった。前に馬を置くことができず、四位騎手もとにかく行きたがって仕方ないトゥザグローリーを抑えるのに苦労していた。向こう正面ではあきらめて先頭に立たせたが、また外から来られ、あの時点でトゥザグローリーのレースはすでに終わっていた。G1レースともなると、陣営も極限の仕上げをしてくるので、そういった時にこそ、まさに血が騒ぐのである。トゥザグローリーの場合は、母や母の父から引いた(長距離戦においては)前向きすぎる気性が表出してしまったということだ。母の父にサンデーサイレンスを持つローズキングダムにも、全く同じことが当てはまる。血は恐ろしい。

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強えぇぇ


皐月賞2011-観戦記-
前日の雨が残っていたため、馬場はやや緩く、若干のパワーを要求される状態であった。エイシンオスマンが先頭に立ち、前後半60秒3という、まさに平均ペースでレースを引っ張った。後ろを離しているように見えても、決してペースが速かったわけではなく、馬群はひと固まりとなり、レースは最後の直線に向いてからの瞬発力勝負になった。

勝ったオルフェーヴルは次元の違う脚で突き抜けた。終わってみれば、この馬の力が一枚抜けていたということになる。スプリングSの時もそうだったが、今回もゴール後すぐに耳を立てて、余裕綽綽であった。馬体だけを見ると、まだ幼さを残し、頼りないのだが、いざ走りだすと豹変する。きさらぎ賞やスプリングSで見せた、第4コーナーで他馬を飲み込むような加速は、あのディープインパクトやブエナビスタが見せたそれに近い。池添謙一騎手が折り合いを教えてきたことで、前半で脚を溜めて、コンスタントにラスト600mでスピードを爆発させられるようになった。

全兄ドリームジャーニーと比較されてしまうのは仕方ないが、2頭は全くタイプが違う。ドリームジャーニーはピッチ走法で一瞬の脚を武器にしていたので、コーナーが多くある小回りのコースが合っていた。対するオルフェーヴルは、馬体の伸縮の良さで走る脚の速い馬なので、伸び伸びと走ることのできる広いコースでより力を発揮できる。そう考えると、同じ東京競馬場で400m距離が延びて行われるダービーに王手をかけたことは間違いない。あとは前走時から少しずつ減っている馬体をどこまでケアして、ダービーまで維持していけるかどうか。

1番人気に推されたサダムパテックは、ロスのない内々を進み、直線でも最後まで良く伸びている。岩田康誠騎手もソツなく完璧に乗っているし、フジキセキ産駒だけにやや力の必要な馬場を苦にしたとも思えない。休み明けの前走弥生賞を叩かれ、マイナス8kgと馬体も絞れて、仕上がりも万全であった。あえて言うならば、この馬の口の堅さ(ハンドルの堅さ)が、追い出されてからの反応の悪さとして表出してしまったのだが、それでもこれだけ完敗してしまったのは、想像以上にオルフェーヴルが強かったということだろう。そうである以上、距離が延びて血統的にもプラス材料はなく、相手がミスをしてくれるのを待つ以外にチャンスは少ない。

オルフェーヴルと同厩舎のダノンバラードも最高の結果を出した。武豊騎手は内枠を生かし、前半から攻めてポジションを取りに行き、ダノンバラードの力を十分に出し切った。折り合いを意識するあまりポジションを下げてしまうことの多い武豊騎手らしからぬ、積極的な攻めの騎乗であった。新たなスタイルへの第1歩となるのかもしれない。ダノンバラードもラジオNIKKEI杯2歳Sの勝ち馬だけに、体調さえ整えば、これぐらい走られる下地はあった。

ナカヤマナイトはサダムパテックと同じような位置を進んだが、最後は伸びそうで伸びなかった。馬体こそ絞れていたが、やはり2ヶ月以上の間隔が開いていたことで、最後の200mで息切れしてしまった。一瞬、グッと伸びようとした場面もあり、力負けではないので、皐月賞をひと叩きされて、次走のダービーではもう少し走れてもいい。

トーセンラーは外枠からの発走が仇となり、道中で内に入るスペースがなかった。終始外をまわった挙句、第4コーナーでは大外をぶん回して脚を失ってしまった。勝ち馬とは力差があったが、もし第4コーナーでオルフェーヴルの後ろをついて抜けてくれば、もう少し上位争いに加われていたのではないだろうか。仕上がりは悪くなかっただけに、惜しまれる騎乗であった。

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1日でも長く乗っていてほしい。


桜花賞2011―観戦記―
フォーエバーマークが押してハナを切り、前半46秒7―後半47秒2という、ごくごく平均的なペースでレースは流れた。長い直線を考えると、各馬の実力が素直に反映しやすい、展開による有利不利のほとんどないレース。最後は末脚の有無が勝負を分け、上がり3ハロンを34秒台前半でまとめた上位3頭の強さが目立った。

勝ったマルセリーナは、ディープインパクト産駒として、初のG1制覇となった。クラスが上がってから勝ち切れない点を指摘されつつあったが、いきなりG1レースを制して私たちに衝撃を与えてくれた。やはり、こうでないとディープインパクトらしくない。マルセリーナ自身は、コンパクトにまとまった馬体から、父譲りの圧倒的な末脚を繰り出して、ゴールまで真一文字に伸びた。レベルの高かったエルフィンSを楽勝しただけのことはある。トライアルレースを使わず、慌てず焦らずじっくりと仕上げられたことで、馬体も充実していた。今回は折り合いも教えながらの勝利だっただけに、オークスに向けて期待は大きい。

安藤勝己騎手は、さすが大一番に強いところを見せてくれた。クラシックの大舞台で2番人気の馬に騎乗して、馬群の中であそこまで待てたことに驚かされる。よほどマルセリーナの末脚に自信があったのだろうか、それともギリギリまで末脚を溜めてこそ勝利することができると知っていたのだろうか。いずれにしても、肝の据わった、達観した騎乗からは、他のどのジョッキーにも踏み入ることのできない領域に彼がいることを伺い知ることができる。道中で揉まれて難しいところを出しかけていたが、なんとかなだめすかせてみせたように、ひとつ操作を間違っていれば凡走もあり得た。いつも言っていることだが、安藤勝己騎手には1日でも長く私たちの前で乗っていてほしい。

1番人気に推されたホエールキャプチャは、惜しくも勝利を逃した。外を回したことよりも、馬体を併せると伸びるタイプの馬だけに、勝ったマルセリーナに一気に突き抜けられてしまったこと、真ん中と外で離れてしまい馬体が併せられなかったことが敗因である。2ヶ月ぶりの実戦にもかかわらず、マイナス6kgと仕上がりは非常に良かった。この仕上がりでも勝てなかったのだから、距離延長は問題ないにしても、次のオークスでの逆転は望みにくいだろう。

トレンドハンターは最後方から外を回って、最後まで脚を伸ばした。マイル以上の距離を中心に使われてきた馬だけに、阪神のマイル戦にもスムーズに対応していた。大本命であったレーヴディソールの戦線離脱はあったが、勝ったマルセリーナと同じくこの馬も松田博資厩舎の管理馬であり、この厩舎の牝馬勢の層の厚さには目を見張る。また、松田博資厩舎流のCWコースを長めから追い切る調教法が、この阪神1600mで行われる桜花賞のリズムに合っているともいえるだろう。

ダンスファンタジアは好位の内を進んだが、最後の直線でスタミナ切れを起こしてしまった。長距離輸送を考えて、中間もそれほど厳しい調教を課せなかったように、関東所属の繊細な牝馬にとって、桜花賞は難しいレースである。フレンチカクタスは一瞬の脚に欠ける弱点が露呈してしまった。平均的な流れになり、末脚勝負になった時点で分が悪かった。外からホエールキャプチャに一気に進路を塞がれてしまい万事休す。道中で馬群が固まった外を回り、マイル以上の距離を走らされてしまったことも痛かった。

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もうこれ以上は走れないだろう


高松宮記念2011―観戦記―
ヘッドライナーが押して先頭に立ち、ダッシャーゴーゴーが外から被せるような形で強引に番手を取りに行った。前半の600mが33秒6、後半が34秒3だから、このクラスとしてはほぼ平均ペース。3コーナー手前でゴチャつく場面はあったが、ダッシャーゴーゴーが早めに動いたことにより、最後は力と力がぶつかり合う、実力が素直に反映されたレースとなった。

勝ったキンシャサノキセキは正攻法の競馬をして、成長著しい4歳馬をねじ伏せた。8歳という年齢が心配されはしたが、このメンバーでは一枚力が上だったということだ。昨年の高松宮記念後は疲れが出て、立て直しに時間が掛かったが、前走をひと叩きされ、当日の馬体重がマイナス10kgと、今回のレースに賭ける陣営の想いが伝わってくるような究極の仕上げであった。およそ6年間にわたって激戦を走り抜いてきたキンシャサノキセキに敬意を表すると共に、もうこれ以上は走れないだろうという思いもあり、最高のタイミングでの引退だったと思う。

キンシャサノキセキを勝利に導いたウンベルト・リスポリ騎手は、震災後も日本に残り、騎乗し続けたことの正しさを、自らの手綱で証明してみせた。若干22歳にして、この冷静かつ緻密な手綱捌きを見るにつけ、デットーリ騎手、デムーロ騎手に続き、またしてもイタリアから超のつく新星が現れたことを確信した。今回のレースで言うと、ゴチャついた場面において、狭いところを引っ張らずに前に出た一瞬の判断が素晴らしかった。あらゆる面において、パーフェクトな騎乗をしてくれるので、ウンベルト・リスポリ騎手の馬券を持っていると安心できる。

サンカルロは決してスムーズなレースとは言えなかったが、最後まで脚を伸ばし続けた。直線で外に出すことができず、馬群を縫って追い込んできたように、周りにいる馬を気にしない強いメンタルの持ち主である。その激しさは、脆さと表裏一体ではあるが、今回は良い方向に出た。この馬の持てる力を出し切った。

アーバニティもレースの流れに乗り、力を出し切った。最もスムーズに気持ちよく走られる1200m戦が、この馬には合っているのだろう。また、この馬のリズムを優先して走らせた四位騎手の好騎乗でもある。綺麗に馬に負担を掛けずに乗るのは本当に上手い。

1番人気に押されたジョーカプチーノは、行き脚がつかず行き場を失い、なおかつ差して切れる脚があるわけでもなく、結果的には中途半端なレースとなってしまった。前走は展開がハマった感があり、たとえ1200m戦が4戦4勝であったとしても、決してスプリンターではないはず。この馬の平均的なスピードが活かせるのはマイルの舞台である。

ダッシャーゴーゴーは、スプリンターズSに続く降着で11着となった。切れる馬ではないので、早めに動いて粘り込もうという作戦だったのだろうが、川田将雅騎手は勝ちたいという思いが強すぎて、全体が見えていなかった。積極的に勝ちに行くことでキャリアを切り拓いてきたジョッキーではあるが、さすがに今回の騎乗は目も当てられない。ジョッキーは最後のバトンを受けて、無事にゴールまで運ぶ役割があることを忘れてはいけない。ダッシャーゴーゴー自身は、昨年に比べ、幼さが抜けて、逞しい馬体に成長してきている。もともと素質は高かったが、さらに力をつけてきていることは確実で、キンシャサノキセキが引退した後のスプリント界を背負うのはこの馬であろう。

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まるでこだまのように

ヴィクトワールピサがドバイワールドカップを制した。2001年にトゥザヴィクトリーが2着に入って以来、いつか近い日にとは思っていたが、あれから10年の歳月が流れていた。国内では暗いニュースばかりが飛び交う中、日本馬としては初の快挙であり、しかも2着にはフェブラリーS馬トランセンドが入ったのだから、これ以上の結果は望めないだろう。日本人ジョッキーによる勝利でなかったことを悲観する向きもあるようだが、私にはミルコ・デムーロ騎手が日本人にしか見えなかった。ミルコ・デムーロ騎手がチームジャパンの一員として感じ、考え、悲しみ、喜んでくれていたのが嬉しかった。

それにしても、ミルコ・デムーロ騎手にはいつも驚嘆させられる。昨年の有馬記念もそうだったが、全体のペースが緩んだタイミングで馬を動かして、先行集団との差を一気に詰め、しかも2番手で止める。今回のドバイワールドカップも、スタートで出脚がつかず、ほとんど最後方からという位置取りにもかかわらず、向こう正面であっという間に先団に押し上げ、2番手でピタリと折り合った。途中から上がっていく形になってしまうと、馬は行く気になってしまうので、ほとんどは先頭に立ってしまう。そうすると、たとえスローペースで逃げられたとしても、気を抜いたり、マークされたり、逆に気を遣ってスタミナをロスしたりする。そこをミルコ・デムーロ騎手はヴィクトワールピサを先頭に立たせず、2番手で抑え込んだ。たとえば、ルーラーシップがドバイシーマクラシックで先頭に立ってしまったことからも分かるように、途中から動いて2番手で折り合わせることは案外難しい。

これは馬との呼吸が見事に合っているからこその芸当である。「行け」と思えば馬が行き、「止まれ」と思えば馬は止まる。まるでこだまのように馬を動かしている。かつて武豊騎手が「乗り手の意志を伝えるときに、1番いいのは、その馬の体に知らせるのではなく、頭に伝えることなんです」と言っていたが、つまりそういうことだろう。もはや技術を超えた次元で、身体ではなく精神に伝えることで、馬を動かしているのである。

角居勝彦調教師にとっても、悲願のドバイワールドカップ制覇となった。2006年にカネヒキリで挑戦して以来、毎年、厩舎のトップホースを送り込んできたが、ドバイの高く厚い壁に跳ね返されてきた。あのウオッカを擁しても乗り越えられなかった壁である。「海外に行くと負けて帰ってくるのが当たり前」という気持ちで挑みつつも、「馬づくりの根本から考え直さなければならない」と思い詰めたこともあった。それら敗北の経験は今に生きている。角居勝彦厩舎の馬たちの踏み込みが、他のどの厩舎の馬たちのそれよりも深いことを私は知っている。ヴィクトワールピサはその結晶である。

あらゆる環境の違いを乗り越えて、異国の地で世界の強豪に競り勝ってしまったのだから、ヴィクトワールピサは本当に強い馬である。スローペースの展開に恵まれたことは確かだが、最後の最後まで後続に抜かせなかった。レベルの高い現4歳世代の中でもトップという評価はこれで不動のものとなった。天皇賞秋を2着した兄スウィフトカレント(父サンデーサイレンス)をふた回りも大きくしたような馬体から繰り出される、まるで肉食動物のような雄大なフットワークには、いつも惚れ惚れさせられる。まだ4歳だけに、これからどれだけ勝利の山を築けるのか楽しみでならない。

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叩き合いを見てみたかった。

Febs2011 by Scrap
フェブラリーS2010-観戦記-
藤田伸二騎手がハナを主張して作った流れは、前半47秒9、後半48秒5という、ほぼ平均ペース。例年に比べて時計が遅いのは、馬場(砂の深さ)の問題であって、レースレベルが低いということではない。スタート後の芝コース部分以外、展開や馬場、コース設定ともに極端な有利不利が少なく、実力が素直に反映されやすいレースとなった。

勝ったトランセンドは、昨年秋に比べると8分程度の仕上がりであったが、それでも押し切ってみせた。気性的に鉄砲が利きやすいということ、左回りの方が走りやすいことが後押しをして、このメンバーでも力が一枚上であることを証明してみせた。自分からレースを作り、自力で押し切れるのがトランセンドの強みである。地脚が強いとも言え、それを信じて活かした藤田伸二騎手の腹の据わった騎乗であった。

ただ、今回の勝利がドバイへとつながっていくかどうかは疑問である。過去の例を見てみても、叩き台であるはずのフェブラリーSで激走してしまい、本番のドバイでは余力が残っていないことが多い。アグネスデジタルしかり、アドマイヤドン、カネヒキリ、ヴァーミリアンしかり。フェブラリーSがG1レースであるがゆえに、賞金が高いがゆえに、ステップレースとして考えていたはずにもかかわらず、キッチリと仕上げてしまう、もしくは目一杯走ってしまうことになる。フェブラリーSで僅かに負けてドバイに行くぐらいの気持ちでちょうど良いのではないか。

フリオーソには惜しいという言葉しか見当たらない。スタートで出負けしてしまい、芝コースのスタートの部分に戸惑ったのか、大きくポジションを下げてしまった。さすがデムーロ騎手、それでも落ち着いて道中を進め、最小限のロスで回ってきたが、最後の直線での追い込みは届かなかった。溜めて伸びるという新しい形を見出したことは唯一のなぐさめだが、中央のG1制覇の最大のチャンスだっただけに陣営の悔しさはひとしおだろう。普段どおり先行できた地方の雄フリオーソと王者トランセンドの叩き合いを見てみたかった。

4歳馬バーディバーディは最後まで踏ん張っていた。ダート馬にとって大切な要素のひとつ、頭を上げないことがこの馬の最大の長所である。フリーオーソもそうだが、ブライアンズタイム産駒がダートを滅法得意とするのは、この苦しくなっても、砂を被っても頭を上げない強さが遺伝しているからではないだろうか。池江泰郎調教師にとっては最後のG1レースとなってしまったが、バーディバーディがタイトルを獲るチャンスはいずれやってくるはず。

ダノンカモンは力を出し切った。昨年の春からずっと使い詰めで来ており、体調は下降線を辿っていた中だけに、この馬のタフさには頭が下がる。放牧に出して、ゆっくりと休ませてあげれば、今度戻ってくる時にはさらに強くなっているだろう。

マチカネニホンバレは勝ったトランセンドをマークする形で進み、最後も勝ちに行っての5着と強いレース振りであった。大型馬だけに、東京競馬場のような広いコースが合うのだろう。気分良く走っていた。最後はトランセンドに振り切られてしまい失速したが、それほど大きな力差は感じない。

セイクリムゾンは、距離不安があった中、道中で引っ掛かってしまい万事休す。馬体もやや緩みがあり、3連勝していた頃の勢いに欠けていただけに、完全な力負けではない。この後は、放牧に出して、もう1度立て直してくれば、G1のメンバーでも十分に通用する馬である。

それにしても、特に今回は強く思ったことだが、ダートのG1レースにもかからず、スタートしてから80mも芝を走るという設定はおかしい。芝とダートの切れ目に戸惑う馬も見受けられた。条件はあらかじめ分かって出走してくるのだからアンフェアということではなく、競馬場のレイアウト等を考えると現状では難しいのも分かるが、将来的には全ての馬がダートコースを1600m走られる設定で行うべきである。

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私は認めたい。

Arima10_2 by Ruby
有馬記念2010-観戦記-
スタート良く飛び出したトーセンジョーダンが、三浦皇成騎手に追っつけられるようにして先頭に立った。逃げ馬不在の中、大方の予想どおり、前半1200mが75秒3 後半1200mが70秒4という超がつくスローペースでレースは流れた。奇しくも、ブエナビスタの父スペシャルウィークがハナ差で敗れた有馬記念も、前半が77秒7、後半が72秒4という超スローであった。前目のポジションを確保できた馬にとって、圧倒的に有利なレースとなった。

勝ったヴィクトワールピサは、デムーロ騎手による最高の騎乗で、ハナ差だけ女王ブエナビスタを退けた。距離に若干の不安を抱えていたが、ピッタリ2500mを回ってきたことで、この馬の力を最大限に発揮した。道中で一旦先頭に立つ形にはなったが、あれは引っ掛かったのではなく、馬が行く気になっていたからであろう。あそこで無理をして引っ張らなかったことも、最後のハナ差につながった。これだけの大舞台で、しかもテン乗りで、馬の力を100%出し切り、しかも自身の持てる技術をプラスアルファしてしまうのだから恐ろしい。もうここまでくると、ジョッキーに日本人も外国人もないのではないか、という気さえする。あるのは勝てる騎手か勝てない騎手か、ただそれだけ。

騎手の話が先になってしまったが、ヴィクトワールピサはこの中間も熱心に乗り込まれていて、最高の仕上がりにあった。フランスより帰国してからの馬体を見ると、海外遠征が良い休養になったのではないかと思わせられるほど、ふっくらとして成長している。ディープインパクトの時もそうであったが、シャンティでは体が立派になりすぎて、凱旋門賞は凡走してしまったということである。ジャパンカップをひと叩きされて、今回はさらに上向きで臨んできたということになる。ネオユニヴァース産駒だけに、多少なりとも上がりが掛かる馬場やコースも合っていた。フットワークの素晴らしい馬であり、強い今年の3歳世代でもナンバーワンの実力があることを証明した。

競馬ファンの期待を背に走ったブエナビスタだが、惜しくもハナ差の2着に敗れてしまった。明らかに展開に恵まれず、道中も馬群に押し込められる形で、他の14頭から厳しいマークに遭っていた。レースは生きものであり、人智を超えた力が働く。秋3戦目ではあったが、季節的にも冬毛が出始めて、楽勝した天皇賞秋の時と比べると、目に見えない程度であるが、体調が僅かに下降線を辿っていたことは否めない。あえて言うならば、直線に向いた時のスピード感ともうひと伸びが足りなかった。それでも、天皇賞秋を勝ち、ジャパンカップは実質の1着、そして有馬記念でハナ差の2着だから、秋の3戦を走れなかった(走らなかった)ウオッカやダイワスカーレットよりもサラブレッドとしての強さは上であろう。そして、父スペシャルウィークに並んだと共に、エアグルーヴを超える名牝として私は認めたい。

練習の効果もあり、3歳馬ペルーサはスタート良く飛び出し、今度こそ納得のいく競馬をしてみせた。それで負けたのだから、現時点では力が足りないということである。この秋は、後ろから行って楽をする競馬を覚えてしまっていたが、今回の競馬で刺激を受け、馬の気持ちが前向きに変わってくるようだと、来年は大きいところを勝てる馬になるだろう。

昨年の勝ち馬ドリームジャーニーは見た目には仕上がっていたが、中間の追い切り本数も少なかったように、中身が出来ていなかった。ダービー馬エイシンフラッシュは、まだ本来の体調に戻っていない。ダービーを勝つことによってもたらされる肉体的、精神的疲労は、私たちの想像を絶するものがある。一か八かの先行策に出たオーケンブルースリは、急かされる競馬に嫌気を差して、4コーナー手前で走る気を失ってしまっていた。ルーラーシップは出負けしてしまい、思い通りのポジションを取れなかったのが痛い。ルメール騎手本来のスッと前につける騎乗を見られないまま、今年は終わってしまった。


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「ガラスの競馬場」:デムーロ、卓越した騎乗技術

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もはや時間の問題

Asahihaifs10 by Ruby
朝日杯フューチュリティS2010-観戦記-
1番枠を利してオースミイージーが先頭に立ち、シゲルソウサイがそれを追いかける形でレースは幕を開けた。前半の半マイルが46秒6、後半の半マイルが47秒3という、極端に速くも遅くもない、ごく平均的なペース。それにしては馬群が密集して進んだため、道中で外を回らされてしまった馬にとっては苦しいレースとなった。中山競馬場のコース形態からも、あまり後方からでは追い込みづらく、道中のポジションとコーナリングの差が明暗を分けた。

勝ったグランプリボスは、究極に仕上げられており、最後はキッチリと馬群から抜け出した。道中は馬群の真ん中を進み、わずかに行きたがる素振りを見せたが、途中からは落ち着いて脚を溜めることができた。第4コーナーを回った時点で前が壁になり、そこで追い出しをひと呼吸、我慢できたことが最後の伸びにつながった。追われてからの切れ味は、さすが母父サンデーサイレンスというもの。皮膚が厚いタイプだけに、マイルを超える距離という点では不安が残るが、現時点でのパワーと瞬発力を見せつけて、矢作芳人厩舎に待望のG1タイトルをもたらした。

デムーロ騎手ほど卓越した技術を持つジョッキーは、世界を探してもそうはいないだろう。スタートの安定感から、道中のポジショニングと鞍はまりの良さ、精密なコーナリング、そして馬に気を抜かせない隙のない追い出しまで、どこを取っても非の打ち所がない。目に見えない部分でも、冷静な判断力と闘争心を併せ持っている。ラフプレーと好騎乗は常に紙一重ではあり、今回も道中はゴチャつくところがあったが、自由自在にさばいて、力量的には横一線のメンバーの中、ゴール前で1頭だけ抜け出してみせた。最も上手く乗ったのがデムーロ騎手ということである。

リアルインパクトは一瞬、勝ったかと思わせられる2着。前走の京王杯2歳Sは脚を余した感があったが、今回は内々の絶好のポジションを進み、最後までよく伸びている。ディープインパクト産駒の初G1制覇はおあずけになったが、もはや時間の問題だろう。リアルインパクトは母父メドウレイクの影響が濃く出ており、パワーとスピードに長けている。ベリー騎手も日本で初めてのG1騎乗にもかかわらず、ベストポジションを確保して最後は内を突いたように、さすがキネーン騎手の後継者だけのことはある。

同じくディープインパクト産駒のリベルタスは、福永祐一騎手が実にソツのない騎乗をして3着を確保した。前走からの間隔が詰まっていて、ローテーション的に厳しかったことも確かだが、内の2、3番手のポジションを進んで、最後までビッシリと追われたのだから、現時点では力負けということだろう。この馬も母系の持つ骨太さとスピードが前面に出ているように、ディープインパクトは種牡馬としては母系の良さを存分に引き出している印象を受ける。

1番人気を裏切る形になったサダムパテックは、スタートで立ち遅れて、道中では相変わらず行きたがり、ハンドルが利かないところを露呈してしまった。前走の東スポ杯での破壊力に隠れてしまったが、見た目以上に乗りにくい馬なのではないだろうか。今回からリングハミに替えてきたが、あまり効果はなかったようである。人気を背負っていることもあったが、外を回してなし崩し的に脚を使ってしまい、いざ追い出す時にはもう余力は残っていなかった。強さと弱さが同居しており、今後への課題が残るレースであった。

リフトザウイングはスタートでダッシュがつかず、後方からの競馬を余儀なくされてしまった。ルメール騎手としては、先行させてレースの流れに乗りたかったはずだが、馬が性格的にのんびりしているせいか、前に進んでいかなかった。最終コーナーでもサダムパテックをマークしたために、大外を回してしまい万事休す。結果論から言えば、グランプリボスの後ろを進んでいれば、もう少し前に来られたかもしれない。ポジションとコーナリングが良くなかった。

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時代は動いた。

Hansinjf10 by M.H
阪神ジュベナイルF2010-観戦記-
ポンと飛び出したフォエバーマークを交わし、押し出されるようにピュアオパールがハナに立ち、それをマルモセーラがマークする形でレースは進んだ。前半800mが48秒5、後半が47秒2という、大方の予想どおりのスローペースで、道中ではゴチャつく場面も随所に見られた。揉まれず、引っ掛からず、スムーズに走ることのできた馬が好走したように、いかにも3歳牝馬戦らしいレースであった。馬場が柔らかく、タイム的には見るべきところはなかったが、クラシックホースを毎年送り出しているレースだけに、上位に入った馬たちの将来には当然期待したい。

勝ったレーヴディソールは、僅差ながらも、現時点での完成度の差を見せつけた。今回はスタートを普通に出て、道中は少し引っ掛かるぐらいの行きっぷりの良さ。途中、外からダンスファンタジアに被せられるシーンがありヒヤッとさせられたが、それ以外は安心して観ていられる横綱相撲であった。この馬の良さは前脚の軽さで、ほぼ水平にまで脚を高く伸ばして走ることができるように、脚捌きがとにかく美しい。天性のバネの強さを、しなやかなフットワークが支えている。父がアグネスタキオンだけに、距離はマイルから2000mぐらいがベストではないだろうか。ブエナビスタほどの大物感はないが、このまま順調に行けば、来年のクラシックはこの馬を中心に回ることは間違いない。非業の死を遂げた兄姉たちの分まで、何よりも無事に走ってほしい。

福永祐一騎手は、圧倒的な人気のプレッシャーを全く感じさせない、冷静な騎乗を見せた。今年初めてのG1勝利を挙げたと共に、関西リーディングの座をほぼ手中に収めたと言っても良いだろう。今年の後半戦の活躍は目覚しく、勝率・連対率の上昇が示すとおり、リーディングジョッキーに相応しい手綱捌きをコンスタントに魅せてくれた。デビューした頃から知る身にとっては感慨深く、ジョッキーとしても人間としても大きく化けた福永祐一騎手を誇りに思う。武豊世代に代わって、これからは日本の競馬を背負っていく番である。時代は動いたのだ。

惜しくも2着に敗れたホエールキャプチャは、馬群の中でジックリと脚を溜め、最後の直線で爆発させた。スムーズに走れてはいたが、キャリア4戦の牝馬にして、馬群の中であれだけ我慢できたことが好走につながった。母父サンデーサイレンスからは気持ちの強さを、父クロフネからは筋肉の柔軟性を受け継いでいるのだろう。これは4着までの馬たちにも当てはまることだが、牡馬を相手に好走した経験が、牝馬同士のレースで生きている。

ライステラスは4コーナーに向いて、あわやというシーンを作り出した。最後は力負けしてしまったが、勝ちにいく積極的な競馬で地力を示した。父ソングオブウインド、母の父がスピードワールド、母母父がミスターシービーという、懐かしい匂いのする血統構成であり、こういう馬もぜひ大舞台で活躍してほしいと切に思う。大外枠は明らかに不利であったが、ロスなく回して力を温存していたデムーロ騎手のコーナリングには、いつもシビれさせられる。

アヴェンチュラはスタートからポジションを落としてしまったことが致命的であった。トモに弱さを残している馬だけに、どうしてもスピードに乗るのに時間が掛かってしまう。今回は時計の本数も少なかったように、中間が決して順調ではなかった。トモがパンとしてくるまで、ジックリ待って成長を促すことができれば、将来が楽しみな1頭である。ツルマルワンピースは、安藤勝己騎手がスローペースに上手く乗せて、見事に力を出し切った。良血ダンスファンタジアは、道中で引っ掛かってしまい、最後の直線ではバテてしまった。母ダンスインザムードよりも馬体に伸びがなく、初めての長距離輸送の影響か、やや気負っている面も覗かせていた。素質が高いのは確かなのだから、あえてクラシックを目標にすることなく、この馬の気持ちに沿って育てていってほしい。


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「ガラスの競馬場」:祐一よ、リーディングを目指せ!
「ガラスの競馬場」:福永祐一騎手を応援しないわけにはいかない。

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新時代のリーダーへ

Jcdirt10 by jra
JCダート2010-観戦記-
好枠を利して1番人気のトランセンドがハナに立ち、2ハロン目こそ10秒7と速く流れたが、それ以降は12秒台が平均的に刻まれる持続力勝負となった。前半800mが47秒9、後半が48秒9と、やや前傾ペースで流れたことによって、トランセンドに付いていった馬には苦しく、後ろから差してくる馬には追い込みづらい絶妙な展開となった。

トランセンドは肉を斬らせて骨を断つことに成功した。坂路コースで抜群の時計が出るように、安定した脚力のある馬であり、その良さを藤田伸二騎手が見事に生かし切った。結果的に見ると、下手に抑えるよりも、逃げた方がこの馬の地脚の強さを最大限に発揮できたということになる。上下動が少なく、横揺れもほとんどない、まるで外車のような乗り味なのであろう。このメンバーでは一枚力が上であり、最も確実に勝利できる戦法として逃げたということだ。ただ、今後、さらにメンバーが強くなるとすれば、1本調子の逃げばかりでは最後に捕まってしまうだろう。脚質に幅を出すことが今後の課題である。

それにしても、藤田伸二騎手のソツのない騎乗振りにはいつも感心させられる。スタートを決めるや、外から来る馬たちを牽制しながら先頭を取り切り、道中は馬に余計な負担を掛けず、ゴーサインのタイミングも抜群で、追い出すとゴールまでビッシリ追ってくる。このミスの少なさが、勝率0.146、連対率0.256という現在の数字に表れている。力のある馬に乗れば、最も安心して観ていられるジョッキーの一人である。今年の開催も残すところあと6日となるが、最後まで関西リーディング、そして新時代のリーダーを争って欲しい。

最も惜しいレースをしたのは、グロリアスノアではないだろうか。外枠からの発走であったため、中団からの競馬を強いられてしまった。前走から馬任せでスムーズに前に付けられるようになっていたし、休養を挟んでグングンと体調を上げてきただけに、非常に残念である。最後の直線では、1頭だけトランセンドを追い詰めてきたが、僅かに届かなかった。真ん中よりも内の枠番を引けていれば、結果は違ったかもしれない。ドバイ遠征を経て、体質だけではなく精神面も強化され、これからも強い4歳ダート世代の中心を担っていくはずである。

小林慎一郎騎手も非の打ち所のない騎乗であった。第1コーナーで先行ポジションを取りに行ったが、難しいと判断してスッと馬を下げた潔さも見事であったし、4コーナーでトランセンドにあれだけ離されても慌てずに、コーナーをロスなく回していた。あともう少しでG1レースに手が届くところまできた、今日のレースの感触を忘れないで欲しい。矢作芳人調教師はまたしてもG1レースを勝てなかった。決して高くはない馬をここまで走らせるのだから、その手腕は光っている。いつかその日は必ずやってくるはずである。

同じく4歳世代のシルクメビウスは、スタート後に位置取りを下げてしまったことが痛かった。第4コーナーで外々を回してしまった(回さざるを得なかった)分、最後は追い込み切れなかった。ダート初挑戦となった3歳世代のアリゼオは、スタートで出遅れて万事休す。ポジションが悪くなったばかりか、砂を被ってしまい、今回は全く力を出し切れなかった。体調も毎日王冠をピークとして、やや下降線を辿っていた感がある。血統的にも馬体的にもダートは向いているはずであり、もう少し経験が積めれば、ダート戦線でも楽しみな存在になるのではないか。

福永祐一騎手が跨るキングスエンブレムは絶好のポジションを確保したが、最後は止まってしまった。まだ幼さを残す馬体だけに、これだけのペースを無理して付いていったことで、脚を失ってしまったのだろう。その兄ヴァーミリアンはさすがに衰えを隠せない。最終コーナーでは手応えがなくなってしまっていた。それでも、ダート最強馬の想いは弟に引き継がれるはずである。

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あなたなら、どっちだ?

Japancup2010 by Scrap
ジャパンカップ2010-観戦記-
逃げ馬不在の中、行くしかチャンスはないと腹を括った藤田伸二シンゲンが、果敢にハナに立った。前半の1000m通過が1分07秒だから、このメンバーにしては超がつくほどのスローペース。どのジョッキーもガッチリと馬の行く気を抑え、最後の直線に向いての瞬発力勝負に備え、ひたすらに脚を溜めていた。

これだけのスローで、あれだけ外を回しながらも、最後は突き抜けたブエナビスタは文句なしに強い。ジャパンカップで牝馬が圧倒的な1番人気に推されること自体が驚きだが、今回はプラス6kgと多少余裕残しに作っていたにもかかわらず、一線級の牡馬たちを力でねじ伏せてしまったのだから、もはや名牝の域をゆうに超えている。それでも、最後は手前を替えてヨレていたように、苦しかったのだろう。これだけ小さな馬体に、競馬ファンの大きな期待を背負って走り続けているのだから、これ以上、彼女に何を望めよう。

降着に関しては、スミヨン騎手に直接の非は求めるべきであろう。外枠を克服しようという意識が働きすぎて、スタート後に前の馬に乗っかかって躓いただけではなく、直線ではエキサイトして真っ直ぐに馬を走らせることを忘れてしまったようだ。最初の斜行は仕方ないとして、2度目は意識して立て直すべきであった。そうしないと、何よりもイメージが悪い。ただし、繰り上がりで優勝となったローズキングダムとは明らかに脚色が違っただけに、降着にまですべきかどうかの判断は微妙であった。あれだけの競馬ファンが競馬場に集まり、まるでお祭りのごとくブエナビスタの勝利に酔っていた中、JRAも大いに迷ったに違いない。スポーツを取るか、それとも単純な公正さを取るか。あなたなら、どっちだろうか?

勝ったローズキングダムは、得意の瞬発力勝負になって持ち味が生きた。菊花賞からの距離短縮がプラスに働いたのは確実で、スローな流れにピタリと折り合い、最後までキッチリと伸びた。G1レースでは2着が定位置であったバラ一族から、朝日杯フューチュリティSを勝っただけではなく、ジャパンカップを勝つ馬が出てしまうとは。母系に足りなかった渋太さを補ったキングカメハメハの種牡馬としての力には毎度のことながら驚かされる。煮え切らないレースではあったが、武豊騎手が最後の直線まで完璧にローズキングダムを導いたからこその勝利であることも付け加えておきたい。

3着に粘ったヴィクトワールピサは、ダービーと同じような形になってしまい、伸び切れなかった。フットワークの大きな馬だけに、これだけペースが遅いと、馬自身が走法的に縮み切れずに脚が溜まらない。あと少し速いペースで流れれば、この馬の破壊的な末脚が発揮されるはずである。ギュイヨン騎手はスタートしてすぐにスローペースを見切っていたように、レース勘の良いタイプなのだろう。もう少し真っ直ぐ走らせて欲しかったが、天才ジョッキーの素質の片鱗は見せてくれた。

ペルーサはまたまた立ち遅れてしまい、最後方からのレースを強いられてしまった。今回も安藤騎手は腹を括って2着狙いに徹した騎乗を心掛けたが、さすがに今回のペースでは前も止まらなかった。最後は素晴らしい脚を使うだけに、スムーズにレースの流れに乗れるようになれば、大きなレースを勝てる器であることは証明した。それにしても、今年の3歳世代はやはり強い。

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こんな男を待っていた。

Milecs10 by JRA
マイルCS2010―観戦記―
滑り込みで出走が叶ったジョーカプチーノが楽々とハナを奪い、前半45秒3、後半46秒5というハイペースを作り出した。3ハロン目にも10秒台のラップが刻まれたのは、過去10年で今年のみ。前半からかなり厳しい流れでレースが進んだことになる。よって、先行馬にとっては苦しいレースとなり、後方で脚を溜めることのできた差し馬がゴール前で台頭した。

勝ったエーシンフォワードは、岩田康誠騎手の手綱によってゴールまで完璧に導かれた。好スタートを切って中団につけると、進路を内に取り、4コーナーでも外を回す素振りひとつ見せず、ゴールまで最短距離で駆け抜けた。距離が1ハロン長いこと、外を回して勝つだけの力差がないことを意識していたからこそ、ひたすらに内を狙ったのだろう。岩田康誠騎手の真骨頂を見た気がした。もう一度同じレースを、と言われても、おそらく出来ないだろう。それぐらいに勇気に満ちた、針の穴を通すような騎乗であった。先週のエリザベス女王杯で指摘した直後だけに、こうした騎乗を日本人ジョッキーがG1レースで見せてくれたことが素直に嬉しい。こんなハングリーな男を待っていた。

エーシンフォワード自身も前走のスワンSを叩かれて、体調が大幅にアップしていた。馬体には活力が漲り、この馬の力を出しきれる準備は整っていたといえる。そもそも、今年の春シーズン最後の惨敗は、昨年の冬から使い詰めできた疲れが出ていたもので、決してこの馬の力ではなかった。それでも大きく負けていなかったところに、この馬の渋太さがある。今回は何もかもが上手くいっての勝利だけに、ベストマイラーとは言いがたいが、それでもG1レースを勝つだけの力があることを証明した。

1番人気に推されたダノンヨーヨーは、道中でモタれる仕草を見せて、追走に苦しんでいた。もう少し前のポジションに付けられるようになれば、グッと勝利に近づくのだが、このメンバーではちょっとした隙が敗北につながってしまう。スミヨン騎手の叱咤激励に応えて、最後はよく追い込んできたが、わずかに届かなかった。スミヨン騎手も4コーナーを落ち着いて回って、最後の直線に賭けていた。スミヨン騎手だからこそ、2着に持ってこられたといえる。

ゴールスキーは3連勝の勢いを生かして、最後まで良く伸びていた。平坦コースのマイル戦という舞台が最も合うのだろう。3歳馬で56kgを背負ってのものだけに、大健闘といえる。絶好調の福永祐一騎手も見事な騎乗を見せて、外国人ジョッキーの間に割って入った。道中の馬の進め方、そして追ってからのブレがないため、馬に掛かっている負荷が少ない。リーディングジョッキーの座はもうすぐ手が届くところにある。ぜひともこのチャンスを生かして欲しい。

サプレザはダノンヨーヨー同様によく追い込んできているが、スタートでの立ち遅れが致命的であった。追走で手一杯になり、道中で馬を縮めて、脚を溜める時間を取れなかっただけに、追い出してから思ったように馬が伸びなかった。ああゆう形で立ち遅れてしまうということは、勝ったエーシンフォワードとは対照的に、どこか苦しいところがあったのかもしれない。昨年よりも順調に来ているように見えただけに、外国馬の調整は難しいとともに、馬券を買うことも難しいと感じた。

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日本競馬人の怠慢

Elizabeth10 by M.H
エリザベス女王杯2010-観戦記-
テイエムプリキュアの大逃げに見えたが、実は前半1000mが60秒1、後半1000mが60秒3というごく平均的なペース。ということは、後続は遅いペースで追走していたことになる。4コーナーではどの馬にも手応えが残っていて、馬群が一気に縮まり、横に膨れたことで、内外のコース取りの差が勝敗を大きく左右したレースとなった。

勝ったライアン・ムーア騎手は、アパパネをマークする形で道中は進み、狙いすましたように4コーナーでポッカリと開いた内を突き、一気にセーフティーリードを取った。まるで凱旋門賞のリプレイを観ているようであった。それにしても、日本のジョッキーは外を回しすぎである。蛯名正義騎手にしても池添謙一騎手にしても、4コーナーで10馬身以上ついたと思われる差をどう考えているのか。内と外にパックリと開いたあの大きな溝は、海外のトップジョッキーと日本のジョッキーとの間にある超えがたい差を象徴しているのではないだろうか。

そういえば、私の知る限り、凱旋門賞における蛯名正義騎手の乗り方について言及したメディアはなかった。蛯名正義騎手が「馬の力は出せた。勝ちたかったが、良い競馬はできた」とコメントしたから、もうそれ以上突っ込むことができなかったのだろうか。それとも、あの騎乗でよしと本気で考えてしまっているのだろうか。いずれにしても、そこが競馬メディアの堕落であり、その上にあぐらをかく日本のジョッキーを筆頭とした、私たち競馬ファンを含む日本競馬人の怠慢なのである。これ以上ないと思ってしまえば、もうそこで終わりなのである。

勝ったスノーフェアリーはライアン・ムーア騎手に導かれ、あっという間に内ラチ沿いに突き抜け、英オークスで見せた末脚がダテではなかったことを証明してみせた。中間は初めての環境に戸惑う仕草を見せていたが、そんな心配を吹き飛ばすような快勝であった。いかにも3歳馬らしく、幼さと素直さが同居していて、とてもイギリスとアイルランドのオークスを勝ち、日本に遠征してエリザベス女王杯まで勝ってしまう馬には到底見えない。ラスト3ハロンを34秒台で上がったように、日本の軽い馬場にも適応してみせたのだから凄い。

メイショウベルーガは惜しくも2着と、池添謙一騎手は父親の馬に乗ってG1を制するという夢を果たすことができなかった。スタートから追っつけて出して行き、道中は中団につけて、最後の末脚の確かさを最大限に生かす競馬を心がけていた。あえて苦言を呈するとすれば、もう少し早く動いておくか、仕掛けを遅らせるならば、もっと4コーナーでは待つべきであった。日本の馬と日本のジョッキーだけのレースであれば届いたが、国際レースでこういう乗り方をされてしまうと足元をすくわれてしまう。

アパパネは最後まであきらめずに伸びていた。3冠を制したことによる疲れが出ていた中、今回、古馬を相手にこれだけの競馬ができたことで、アパパネの強さが改めて浮き彫りになった。強い今年の3歳世代の中でも抜けて強いということである。スピード、パワー、そしてスタミナと3拍子が揃って、3冠馬の名に相応しい。この後はゆっくりと休養をして、充電することで、来年のさらなる飛躍につなげて欲しい。

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どこにでもいそうな牝馬のどこにこれだけの

Tennosyoaki2010 by Scrap
天皇賞秋2010-観戦記-
先行馬が揃ったメンバーの中、シルポートが果敢に逃げて、前半後半共に59秒1という平均ペースでレースは流れた。2番手につけたキャプテントゥーレも追いかける素振りを見せず、馬群は固まり、勝負は直線に向いてからの瞬発力勝負へ。前に行っていた馬はもちろんだが、それ以上に、末脚が切れる馬にとって有利な展開となった。その中でも、勝ったブエナビスタと2着に追い上げたペルーサの末脚の破壊力は凄まじい。

ブエナビスタは飛んでいるというより、まるで泳いでいるような走りで、馬群の中からすり抜けだし、あっという間に先頭に立つと、後はほとんど馬なりでゴールまで駆け抜けた。ドバイから帰国緒戦のヴィクトリアマイルを激走し、その反動からガタガタの状態であった宝塚記念後、ひと息入れて、厩舎に置かれてゆっくりと調整されたことで、ほぼ完調と言えるまでに仕上がっていた。普通の体調で走ればこれだけ強いということを、古馬の一線級を相手にきっちりと証明してみせた。

それにしても、パドックから返し馬においても全く入れ込むことなく、あれだけの走りをしたレース後もケロッとしている姿を見ると、このどこにでもいそうな牝馬のどこにこれだけの力が眠っているのか、生命の神秘にさえ想いを馳せてしまう。前々から繰り返し言ってきたことだが、ブエナビスタは足が速い馬である。速く走るために生まれてきたサラブレッドの中でも、足が速い馬がいる。私の知る限りにおいて、あのディープインパクトとブエナビスタの2頭だけ。ブエナビスタはこの後、父スペシャルウィークが歩んだジャパンカップ→有馬記念という道を辿ることになるだろう。長距離輸送を含め、あと2度の厳しく激しいレースを、彼女が走り切ることが出来るかどうか。ブエナビスタが切り拓く未来と歴史を、この秋はとくと堪能したい。

ペルーサはわずかに出遅れたものの、安藤勝己騎手が慌てることなく馬群の後方に付け、自慢の末脚を生かすべく腹を括った。直線に向いても、ひたすら馬群が開くタイミングを待って、最後の最後まで脚を溜めていた。これぞ安藤勝己流の2着確保の術である。決して悪い意味ではなく、他馬との力関係や手応えの違いをいち早く察し、無理に勝ちに行って着順を落とすのではなく、負けてもひとつでも上の着順に持ってこようという円熟さの極みである。それに応えたペルーサの力も大したもので、カッカしてしまう精神面での若さが解消してくれば、恐ろしい馬になりそうだ。今年の強い3歳馬の代表として、これからの活躍に期待したい。

アーネストリーはパワータイプの馬だけに、馬場の重い宝塚記念や札幌記念での好走が、スピードレースの天皇賞秋にそのまま直結はしなかった。仕上がりもパーフェクトであったし、道中のレース運びも理想的で、この馬としては精一杯の力を出し切っている。G1クラスのメンバーの中で、ラストの瞬発力勝負になってしまうと、わずかに力不足だったということだ。天皇賞秋を目標にして完璧に仕上げてきただけに、G1レースを勝てるだけの力はついているが、この後のレースまで体調を維持できるかどうか心配である。

シンゲンは勝ち馬をマークする形で進み、直線に向いてから追い出されて、最後までよく伸びている。長期休養明けを勝った前走の反動もなく、この馬の力は出し切っている。ただ、敢えてひとつだけ挙げるとすれば、瞬発力ではブエナビスタに勝てないのだから、もう少し前のポジションを取るべきであった。

ジャガーメイル陣営にとっては、悔やんでも悔やみ切れないレースとなった。抜群の手応えで直線に向いて、エイシンアポロンの進路をカットする形で内に切れ込み、さらに今度は前にいたシルポートに進路を塞がれ、万事休す。手応えの良さゆえに勝ちを焦ったのか、名手ホワイト騎手にあるまじき拙騎乗であった。落ち着いて乗っていれば2着はあったのではないだろうか。

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サンデーサイレンス恐るべし

Kikka2010 by jra
菊花賞2010-観戦記-
生まれてから1度もハナを譲ったことのないコスモラピュタが先頭に立ち、前半1000mが61秒0、中盤1000mが64秒5、後半1000mが60秒6という典型的な中緩みのラップを刻んだ。それでも、中盤においてコスモラピュタと後続の差は大きく開いていたわけだから、どうれだけ道中がゆっくりと流れていたか分かる。断然の人気を背負ったローズキングダムが後方で動けなかった(動かなかった)ことで、他の有力馬たちも金縛りにあってしまっていた。

勝ったビッグウィークは、集団の先頭を走ることで、まんまと逃げたと同じ形となり、レースがしやすかった。前走の神戸新聞杯ではスローペースで切れ負けしてしまったが、今回は後続が追い上げてくる前に自分から積極的に動き、その反省を生かすことができた。川田将雅騎手の冷静かつ絶妙なエスコートであった。父のバゴにとっては初年度産駒となり、桜花賞を2着したオウケンサクラを含め、幸先の良いスタートとなった。

ローズキングダムは、最後は差してきたものの、惜しくも届かなかった。それでも、2歳の朝日杯フューチュリティSを勝った上に、菊花賞でも2着したのだから、この馬の潜在能力の高さが分かる。前走から馬体重もさらに増やして、馬肥ゆる秋となった。武豊騎手はわずかにローズキングダムのスタミナに不安があったのだろう。道中は折り合いをつけることに専念して、我慢に我慢を重ね、ギリギリまで脚を溜めていた。ローズキングダムの切れ味を存分に発揮させた、最高の騎乗であった。あれ以上巧く乗れと言われても乗れない。

勝ったビッグウィークとローズキングダムは、母父にサンデーサイレンスを備えている点で共通している。そうした馬たちが上位に来られたのは、3000mを走りながらも、ラストの3ハロンで11秒台のスピードを求められたレースの構造による。完全なスタミナ勝負になってしまうとさすがに苦しいが、道中が緩んで脚を温存できると、最後の爆発力につながるのである。今年の天皇賞春も同じようなレースになり、母父にサンデーサイレンスを持つジャガーメイルが勝った。父からスタミナと我慢強さを受け継ぎながらも、父に足りないスピードを補っているのである。サンデーサイレンス恐るべし。

ビートブラックの好走には驚かされたと同時に嬉しくなった。前半から積極的にレースを進め、最後までバテることなく、見せ場を作った。前々のポジションでレースを運んだことが好走の理由だが、それでもここまで踏ん張ったのは血の成せる業であろう。父のミスキャストは私が最強のマイラーの1頭と信じるノースフライトとサンデーサイレンスの間に出来た超良血馬である。競走馬としては活躍できなかったが、種牡馬として生きていること、そしてその産駒がこうして走っていることが喜ばしい。

トウカイメロディは、持ち前のスタミナを生かせるレースにならなかったのが痛い。洋芝の方が合っているのか、それとも長距離輸送がこたえたのか、道中からついていくのがやっとで、ペースが上がった時にはすでに勝つチャンスはなくなっていた。G1クラスの壁に当たったような走りでもあった。長距離適性はあるので、今後はどのようにしてスピード不足を補っていくかだろう。

ヒルノダムールは内枠が災いした。道中は折り合って伸び伸びと走っていたが、勝負どころで前が壁になり、ポジションを上げることができなかった。最後は切れているだけに、レーヴドリアンが走ったポジションが取れていれば、と思わせられる。これが菊花賞の内枠の怖さである。

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まるであのシンザンのような

Syukasyo10 by Scrap
秋華賞2010-観戦記-
その年ごとに目まぐるしくペースが変わる秋華賞だが、今年はアグネスワルツがレースを引っ張り、前半の1000mが58秒5、後半が59秒9というハイペースを作り出した。アグネスワルツにとってみれば地脚の強さを生かすにはもってこいのラップだけに、柴田善臣騎手としては予定どおりの計った逃げだろう。それでも、ついて行った馬たちにとっては厳しく、かといって後ろから行き過ぎても届かないという、脚質的に器用さを問われるレースとなった。

勝ったアパパネはいつどこからでも動ける器用さに加え、スピードとパワーは十分、追ってからも最後まで伸びるという、欠点のない強さを発揮して、スティルインラブ以来7年ぶりの牝馬3冠を制した。夏を越して、背も伸びていたように、春シーズンのダメージや今年の酷暑を経て成長した姿を見せてくれた。ナタのような切れ味、そして、圧倒的な勝ち方をするわけではなく、本番では少しだけ抜け出すという、まるであのシンザンのような競馬をして偉業を達成した。

アパパネの3冠が特に意義深いのは、関東の牝馬によるものだからである。阪神ジュベナイルFを含めると、栗東に滞在したとはいえ、3度の長距離輸送を克服しての載冠だけに、関東の牡馬が3冠(長距離輸送は菊花賞の1度だけ)を獲る以上の難しさがあったはず。蛯名正義騎手がミスなく乗ったということ、そして何よりも、国枝栄調教師が用意周到に準備していた緻密な3冠プランが見事に実現されたということだ。関係者の方々には最大の賛辞を送りたい。

2着に突っ込んだアニメイトバイオは、後藤浩輝騎手の落ち着いた手綱さばきに導かれていた。小回りコースを意識して飛ばす先行集団を見据えて、この馬の切れ味を引き出すことに全てを賭けていた。最後の直線では馬群を割って、あと一歩のところまでアパパネを追い詰めた。4分の3馬身以上の力差はあったが、アニメイトバイオ自身が休み明けのローズSを快勝後も、なんとか体調を維持できたことが好走の要因である。

アプリコットフィズは道中で引っ掛かる素振りを見せながらも、最後まで良く踏ん張っていた。走る能力が高い馬だけに、もう少しリラックスして走られればと思うが、春シーズンと比べると体もしっかりしてきており、今回は及第点としてよいだろう。

ワイルドラズベリは外から末脚を伸ばして、力を出し切った。前走からの距離延長でスタミナ面での不安があっただけに、道中は一瞬の脚をどこで使うかを意識して池添謙一は乗っていた。小回りの内回りだけに、仕掛けどころも難しかったに違いない。

レディアルバローザは内々を攻めて5着と、力のあるところを見せてくれた。前走からマイナス12kgと馬体も絞れていたように、仕上がりも本番に向けて万全であった。父がアパパネと同じキングカメハメハ、母がカナダの古馬チャンピオンだけに、これからの成長力に期待したい。

サンテミリオンは出遅れてしまい、そのまま見せ場なくゴールを迎えてしまった。スタートとゲートで暴れたタイミングが合ってしまったという不運はあったが、道中でこの馬の持ち味である推進力を微塵も見せることがなかったように、オークスにおけるデッドヒートの反動が癒えていなかったことが顕著に結果として出てしまった。そう考えると、アパパネの強さがさらに際立つ。

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共同幻想

Sprinterss2010 by ede
スプリンターズS2010-観戦記-
抜群のスタートで飛び出したウルトラファンタジーがそのまま行き切るかと思いきや、外からローレルゲレイロが先頭を奪い返そうとしたものの、4コーナー手前では再びウルトラファンタジーが先頭に立つ、という出入りの激しい競馬となった。その割には、前半3ハロンが33秒3、後半3ハロンが34秒1という、スプリントG1としてはスローペースでレースは流れた。そのため、後ろから行った馬、外を回されてしまった馬にとっては苦しいレースとなった。

逃げ切った香港馬のウルトラファンタジーは、とにかく自分のペースを貫いたことが勝利につながった。道中で無理をしなかったからこそ、上がり34秒1でまとめて、他馬の追撃を凌ぎ切ることができた。今回は他にも行きたかった面々がいたが、それらの馬たちよりも内の枠を引いていたことも有利に働いた。それにしても、これだけ緩いペースで逃がしてくれるとは、想像すらしなかったはずである。同じ香港馬のグリーンバーディーが人気になっていて、その一方でこの馬はジョッキーたちにとっても盲点となっていたようだ。

惜しくも勝利を逃し、かつ降着となってしまったダッシャーゴーゴーだが、最後はよくぞ勝ち馬を追い詰めていた。スローペースの中、内々で脚を溜められたことが大きい。未完成の馬体でここまで走るのだから、この馬の天性のバネの強さは本物である。スプリンターにしては精神的にもドッシリしているので、この先、馬体が成長してくれば、スプリントのG1タイトルを取れる器である。香港馬に負けたこの借りを、この馬に世界のどこかで返して欲しい。川田雅将騎手は勝ち気がはやったのだろうか。ほんの一瞬でも、後ろの馬の状況を確認してから追い出せていれば、このような結末にはならなかった。

繰り上がりの2着となったキンシャサノキセキは、持てる力を最大限に発揮した。もともとG1級の資質を持っていた馬が、今年に入ってから肉体と精神が一致し、安定して走られるようになってきている。今回は休み明けではあったが、前哨戦のセントウルSを疝痛で回避したことがかえってプラスに出たようだ。力を出し尽くした高松宮記念から間隔を開けて、回復を図ることができていたように、仕上がりは悪くなかった。馬群の外を回されたロスがなければ、もう少し勝負は際どかったはずである。

サンカルロは千載一遇のチャンスを逸してしまった。レース前の調整からレースの流れまで、何もかも上手く運んでいたが、最後の直線に向いた途端に、勝利への扉が閉じてしまった。競馬にタラレバは禁物だが、もしあそこでスムーズに馬群を抜けられていれば、勝っていたのではないだろうか。それぐらい、致命的な不利であった。あえて言うならば、ダッシャーゴーゴーがいたポジション、つまりひとつ前のそれを取れていれば、結果は違ったのではないか。

サマースプリントチャンピオンのワンカラットは、あきらめずに伸びていたが、最後は力尽きてしまった。夏場を仕上げて使ってきた疲れが噴出してしまった形で、この馬本来の出来にはなかった。サマースプリントチャンピオンとスプリンターズSが両立しないのは、サラブレッドのピークがそれほど長くないからである。スプリントチャンピオンを取るかG1を取るかで、ワンカラットの陣営は前者を選択したのだから、この結果は仕方ないと納得できるはずである。スプリント能力が高く、パワーもある馬だけに、来年はぜひG1タイトルを目指してほしい。

最後に、香港馬グリーンバーディーは、最後伸びてきたものの届かず7着と人気を裏切ってしまった。道中のペースがこの馬向きではなかったこと、最後の直線で抜け出すスペースがなかったことなど、あらゆる悪条件が重なってしまったことは確かだが、何よりもこの馬自身の体調が、前走に比べてわずかに下降線を辿っていたことが最大の敗因だろう。前哨戦で意外にも仕上がっていたということである。

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大駆け

Takaraduka10 by Scrap
宝塚記念2010-観戦記-
小牧太騎手鞍上のナムラクレセントが先頭に立ち、前半1000mが1分ジャスト、後半が1分07秒と、やや重の馬場を考えると、ほぼ平均ペースを作り上げた。上がりも掛かっており、この流れであれば、位置取りによる有利不利はほとんどなく、実力のある馬であればどんな脚質であっても勝ち負けになる展開となった。

勝ったナカヤマフェスタにとっては、外枠からの発走により、馬群の外々を気分良く走られたことが大きい。特に、スタートから第1コーナーまで馬任せで走り、スムーズなコーナーリングで前半を乗り切れたように、ナカヤマフェスタと柴田善臣騎手の息もピッタリ合っていた。阪神の2200mというコース設定と力の要る馬場も、ステイゴールド産駒のこの馬にとって最適の舞台であったことは言うまでもない。まさに人馬一体の大駆けであった。気性の難しさを秘めた馬だけに、今後どのような活躍を見せてくれるのか分からないが、秘めた能力の高さは証明した。

二ノ宮敬宇調教師は、エルコンドルパサーが勝ったジャパンカップから、なんと12年振りのG1レース制覇となった。馬の体調に合わせて、慎重に慎重を重ねてレースを選択する調教師だけに、馬の絶好調時にレースの条件がピッタリと一致すると、このような激走がある。前走でメトロポリタンSを勝って、余力を残して臨んで来れたように、裏街道を歩んできたことが、今回の宝塚記念では吉と出た。

ブエナビスタは追っ付けるような形で先団を確保し、アーネストリーをマークしながらレースを進めた。最後の直線を向いて、一瞬内から突き抜けるかと思われたが、アーネストリーの激しい抵抗に遭ってしまった。ドバイ遠征後わずかな期間で臨んだ、前走のヴィクトリアマイルを快勝してしまった疲れが抜けておらず、この馬本来の出来にはなかった。それでもゴール前ではアーネストリーに競り勝ったのだから、もはや牝馬の域を超えている。この後、ひと息入れて、無事に夏を越すことが出来れば、秋にはまたブエナビスタ特有の脚の速さを見せてくれることだろう。

アーネストリーは最後の最後に伸び切れなかったように、まだ厩舎の先輩であるタップダンスシチーの域には達していない。力の要る馬場で行われる中距離戦、しかも2番枠という舞台が整い、佐藤哲三騎手もイメージどおりに乗っていただけに、完敗であったことは否めないだろう。敢えて言えば、トモが若干薄い馬だけに、直線が平坦コースの方がベストだったかもしれない。ただ、もうあと一歩でG1のタイトルに手が届きそうなのは確かである。夏を経て成長し、壁を破れればチャンスはある。

ドリームジャーニーは、産経大阪杯以来という休み明けの分、力を出し切れなかった。馬体はキッチリと仕上がっていたのだが、パドックから入れ込んでいたように、精神面で完全な状態ではなかったのだろう。スタート後に大きくバランスを崩したロスが響き、最後にもうひと伸びが足りなかった。グランプリ3連覇は夢と消えたが、それでも地力のあるところは示した。

ネヴァブションは海外に遠征して自信をつけてきたのだろう。内ラチ沿いを追走し、最後までシッカリ伸びている。上位の4頭とは少し力差があるが、7歳にして衰えを見せることなく、さらに競走馬として上向いている感さえある。絶好調の後藤浩輝騎手が、小細工をすることなく、自信満々に乗っていたことも功を奏した。

2番人気に推された天皇賞春馬のジャガーメイルは、見せ場なく8着と敗れた。香港で走っているように、決して力の要る馬場を苦手とするわけではないので、今回に関しては、前走の天皇賞春で極限の脚を使ったことによる反動が出たと見るべきだろう。適距離ではあったが、快勝した前走とは対照的なレースとなってしまったことも加わり、力を出し切れなかった。

復活を期待されたロジユニヴァースは、4コーナーではもう手応えがなく、最後の直線では失速してしまった。馬体はマイナス18kgと絞れていたが、絶好調時と比べると、必要なところの筋肉が失われてしまっていたように、本来の出来とはほど遠かった。過去のダービー馬のその後の不調を見るにつけ、ダービーを勝つことの壮絶さを思い知らされる。

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昭和の孝行息子

Yasuda10 by Ruby
安田記念2010-観戦記-
大外枠を嫌った岩田康誠騎手がエーシンフォワードを半ば強引にハナに導き、それにマイネルファルケが続く形で、前半800mが44秒9、後半が46秒8というハイペースを作り出した。たとえ前が止まりにくい今年の東京競馬場の馬場を考慮に入れたとしても、さすがにこのペースでは前に行った馬にとって苦しい。ジョッキーの意識の総和が閾値に達すると、極端にハイペースに転じてしまう、今の東京開催の展開の難しさが浮き彫りにされたレースでもあった。

勝ったショウワモダンは馬群の外々を追走し、最後の直線では力強い末脚で伸びてみせた。心配された外枠からの発走も、蓋を開けてみればペースが速くなったことで、絶好のポジショニングの助けとなった。また、前走で差す競馬をしていたことも、今回のレースで自信を持って追い出しを我慢できたことにつながった。勝つときはこんなもので、全てが最高に噛み合っての勝利。デビューから39戦目にして、3連勝で頂点に上り詰め、父エアジハードとの親子制覇となった。

後藤浩輝騎手は4年ぶりのG1制覇となった。今日のレース振りを見るに、アドマイヤコジーンで初めてG1レースを勝った安田記念を思い出した方も多いのではないだろうか。私もそのひとりである。自信満々かつ慎重に追い出して、最後は内と外からの追撃を凌ぎ切ってみせた。積極的な騎乗を持ち味とする、後藤浩輝騎手の真骨頂を見た気がする。デビュー5年目にしてアメリカに単身で渡り、それ以来、常に己の信じるスタイルを貫いてきた。先週のダービーは悔しい2着であったが、今期の東京の馬場は、後藤浩輝騎手のスタイルに合っている。

2着に突っ込んだスーパーホーネットは、展開が向いたことは確かだが、フェブラリーSで減らした馬体が前走で戻り、ようやく本来の実力を発揮することができるようになった。ウオッカを差し切り、G1レースで2着した実績はダテではない。あと一歩のところでタイトルこそ逃がしたが、2歳時から7歳に至るまで常に一戦級のレースで走り続けているのだから、立派のひと言に尽きる。矢作厩舎にとっては惜しい2着と、初G1制覇はまたしてもおあずけとなった。

スマイルジャックにとっては悔しい3着となった。ペースが速くなったことにより、折り合いがスムーズにつき、この馬の末脚を最大限に生かすことができた。惜しむらくは、内枠からのスタートとなり、道中で馬群が壁になってしまい、ポジションを上げていくことが出来なかったこと。東京新聞杯を境にして、前々でも折り合って競馬が出来るようになっていただけに、枠順次第では突き抜けていたのではとさえ思える。三浦皇成騎手にとっても、届きそうで届かないG1のタイトルとなった。

ダービージョッキー内田博幸騎手が乗ったトライアンフマーチは、外枠からリズム良くレースの流れに乗り、早めに先頭に立ってあわや押し切らんという強い競馬をしてみせた。気性に難しいところのある同馬にとって、道中いかにスムーズに走らせるかがポイントであり、内田博幸騎手はそれを実践してみせた。ただ、結果的に言うと、仕掛けるのが早かった。もう少し、後ろのポジションで馬も人も我慢できていれば、と思わせられた走りであった。

押し出される形で1番人気に推されたリーチザクラウンは、折り合いに気を取られてしまい、終始、内の最も苦しいポジションでレースを強いられることになった。変に折り合いが付いてしまい、この馬のスピードを全く生かしきることなく、直線に向いた時にはすでに走る気を失っていた。安藤勝己騎手でもこうなのだから、リーチザクラウンという馬がどれだけ乗り難しいかが分かる。この馬には、エンジンをふかしながらブレーキをかける、という乗り方が合っているはず。

キャプテントゥーレも好位の内を走ったため、最後の直線で力尽きてしまった。勝ち馬に寄せてゆく形で直線の半ばまで踏ん張ったが、最後はスタミナ切れを起こしてしまった。マルカフェニックスは直線で前が壁になる不利が痛かった。大きなフットワークの馬だけに、スムーズに伸びていればもう少し上の着順もあったかもしれない。

香港馬としてはサイトウィナーが最先着を果たした。フェローシップ、ビューティーフラッシュを含め、自国のG1で好走してきた後だけに、本来の体調になかったのだろうか。どの馬からも勝ち切るだけのパンチ力が感じられなかった。来年以降に再び出走してきても、期待を掛ける必要はないだろう。アジアマイルチャレンジの最終戦として、今年は寂しい結末となった。


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