“野芝”か“洋芝”か、それが問題だ。(再掲)

毎年、うだるような暑さが続くこの時期になると、私たち競馬ファンは、“洋芝”や“野芝”という言葉を耳にタコができるほど聞かされていることだろう。「血統的にこの馬は洋芝適性がある」とか、「野芝100%の絶好の馬場だからレコード決着になりそう」など、中央開催時には聞いたこともない会話が飛び交う。“洋芝”や“野芝”は、夏競馬を攻略するためには、必ずや知っておかなければならないキーワードであることは疑いようがない。

野芝は暖地性の芝草であって、気候が暖かくなる6月から成長を開始し、8月の一番暑い時期に最盛期を迎える。野芝は非常に強靭で、耐久性が高い。地面に地下茎を張り巡らせて横にネットワークを作るため、馬の蹄が当たって多少の衝撃があろうともビクともしない。野芝が生え揃った状態の馬場には、押すと弾き返すといったクッションが感じられ、硬くてスピードが出る。主に新潟、小倉競馬場が野芝100%の芝コースを採用している。

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野芝の弱点は、寒さに弱く冬枯れしてしまうということである。野芝しか使っていなかった昔の中山競馬場の馬場は、暮れになると芝がまるで土のような色になり、見映えは決して褒められたものではなかったことを思い出す。当時、ジャパンカップに来た外国人関係者が、「芝のコースはどこにあるのですか?」と尋ねたという笑い話は有名である。

洋芝は寒地性の芝草である。洋芝の葉の密度は野芝よりもずっと濃いため、馬の蹄が芝の上に着地してから、芝が倒れて足の裏が地面に着くまでに時間差があるように感じる。野芝が押すと弾き返すクッションであれば、それとは対照的に、洋芝は押すと凹んで力を吸収するクッションである。それゆえ、洋芝の芝コースは重くて、パワーとスタミナが必要とされる。主に札幌、函館競馬場が洋芝100%の芝コースを採用している。

洋芝の芝コースは極めて美しい。次々に新しい芽が吹いて密度がどんどん高まり、しかも寒い時期でも冬枯れしないため、芝コースを1年中緑に保つことも可能である。野芝に比べ、洋芝はテレビ映りが断然にいいのだ。

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しかし、強度と耐久性という点では野芝に劣る。馬の蹄が強く当たると、根こそぎ芝が剥がれてしまうこともあり、ポカっと穴があいてしまい危険である。また、高温の夏には夏枯れしてしまうことがあり、さらに雨が降ってしまうと途端に馬場が悪化することもある。だからこそ、洋芝100%の芝コースは札幌と函館競馬場のみでしか成立しない。

たとえ同じ芝でも、“洋芝”と“野芝”ではこれだけの違いがある。野芝100%の芝コースで行われる新潟、小倉競馬場ではスピードと軽さが求められるのに対し、洋芝100%の芝コースで行われる札幌、函館競馬場ではパワーとスタミナが求められる。これだけ相反する要素が問われる以上、その馬が“洋芝”と“野芝”のどちらに適性があるのかを知らなければ、夏競馬で勝ち馬を見つけることは難しいのである。

“野芝”と“洋芝”に対する適性を見極めるためには、「血統」、「走法」、「馬体」、の3点に注目しなければならない。

まずは「血統」から述べていくと、かなり大雑把ではあるが、野芝は内国産(もしくは日本で走った)種牡馬を父に持つ馬、洋芝は欧州の血を引く馬と考えると分かりやすいだろう。なぜ野芝が内国産(もしくは日本で走った)種牡馬を父に持つ馬かというと、実際に日本の軽い芝で活躍したからである。レコードが出るようなパンパンの馬場で勝った馬や、上がり3ハロンが33秒台で決着するような一瞬のトップスピードが問われるようなレースを制した馬だからこそ、種牡馬になれたのである。スピードと軽さを備えた種牡馬の血を引く馬が、野芝のレースを得意とするのは当然といえば当然といえる。

サンデーサイレンス系以外のひと昔前の代表格としては、サクラバクシンオーやタイキシャトルが挙げられる。この2頭の現役時代のスピードと軽さは、どちらもスプリンターズSをブッちぎって勝っているように、今さら説明する必要もないだろう。サクラバクシンオーはスプリンターズSを連覇したし、タイキシャトルは京王杯スプリングカップではゴール前、岡部幸雄元騎手が馬を追うのではなく引っ張っていた。それだけ他のサラブレッドとは別次元の速さがあったということだ。もっともサクラバクシンオーもタイキシャトルもパワーも兼備していたので(後者はフランスのG1レースを勝っている)、洋芝でも産駒は走るのだが、野芝でスピードを争うレースを最も得意とすることは間違いない。

また、サンデーサイレンス系としては、ダンスインザダークやスペシャルウィーク、最近ではディープインパクトやハーツクライらが台頭してくる。いずれもサンデーサイレンスからスピードを受け継いでいて、それを驚異的な瞬発力に変換して大レースを制した馬たちである。母系に綿々と流れる豊富なスタミナをベースとして、かつ手脚に軽さがあるからこそ、一気にギアチェンジが可能だったのである。ダンスインザダークが3000mの菊花賞で繰り出した、ラスト3ハロン33秒8の末脚には驚きを隠せなかったし(私は差しきられたロイヤルタッチを買っていた)、スペシャルウィークも3200mの天皇賞春を34秒2の瞬発力で、コテコテのステイヤーであるメジロブライトを下した。これらの種牡馬の産駒は、特に野芝で行われる中距離のレースでスピードと軽さを生かすことができるのだ。

なぜ洋芝が欧州の血を引く馬かというと、洋という言葉が示す通り、欧州の重い馬場をこなしたパワーとスタミナがあるからである。たとえば、トニービンやダンシングブレーヴのように、脚が埋まってしまうような馬場をものともせず、凱旋門賞を制した馬には計り知れないパワーとスタミナがある。あのディープインパクトでさえ、苦しがって最後の直線で3度も手前を替えていたレースを制したのだから、2400mという距離以上のスタミナもあるのは確かである。こうした名馬の血を受けた産駒たちが、日本の洋芝を苦にするはずがない。他の馬たちが芝に脚を取られて、スタミナを失っている間に、涼しい顔でゴールを駆け抜けるのである。

洋芝は字ズラ以上にスタミナが問われることを考えると、実は父だけではなく、母の父にヨーロッパの血統が入っているかどうかも見なければならない。スタミナは母の父から遺伝する部分が大きいだけに、たとえ父が短距離血統であっても、母の父にヨーロッパのスタミナ血統が入っていれば十分にこなしてしまうことがあるのだ。

次に、「走法」について述べると、首の高い馬は洋芝が得意である。首が高いというのは、走る時に首の上下動がなく、胸を張ったような体勢で走る馬のことである。こういう走り方をする馬は、概して上半身の力が強いのだが、全身を使って走るという意味においては少し物足りない。野球のピッチングでいうと、上半身だけを使って投げるピッチャーのようなものである。しかし、個体の肉体的な特性においてそういうフォームが出来上がっている以上、その馬にとっては最も走りやすいのであれば仕方ないという他はないだろう。

そんな褒められたフォームではない首の高い馬でも、重い馬場には抜群の適性を発揮する。荒れた馬場や道悪馬場、洋芝のように、力を要する馬場が得意なのである。なぜかというと、単純に上半身のパワーが強いからである。普段はどちらかというとロスの多い走法ではあっても、他の馬が苦にするような力を要する馬場では、上半身の力が強いという強みが生きるのだ。そう考えると、首の高い走法が洋芝に合っているのではなく、首の高い走り方をするような馬はパワーがあるからこそ、洋芝を得意とするということである。

首の高い馬として真っ先に思い浮かぶのはジャングルポケットである。アグネスタキオンやクロフネと同じ2001年、レベルの高い世代のダービー馬である。この年のダービーは重馬場で行われ、首の高いジャングルポケットにとっては願ってもみない舞台となった。アグネスタキオンがいなかったこともあるが、重馬場を苦にすることなく、1番人気に見事に応えて見せた。レース後の興奮状態の時、首を天に突き上げるような仕草を何度も見せていたのが印象的であった。また、3歳にしてジャパンカップを制した時も、ペリエ騎手が最後の直線で首を何度も何度も押しながら、ジャングルポケットを追って追って、ゴール前でようやくテイエムオペラオーを差し切ってみせたシーンが記憶に残っている。ジャングルポケットの産駒は、首の高さ(首の高い走法)を受け継いでいて、やはり上半身が強い馬が多いのだろう。内国産馬であるにもかかわらず、洋芝でも強いレースをするのはこれゆえである。

最後にもうひとつ。「馬体」について述べると、馬格の大きい馬の方が洋芝を得意とする。繰り返しになるが、洋芝は野芝に比べてパワーが問われるレースになるため、単純に馬格の大きな馬の適性が高い。分かりやすく言うと、馬体重の大きな馬を狙うべきということである。

このように、「血統」、「走法」、「馬体」の3点に注目してみると、“野芝”と“洋芝”に対する適性が少しずつ見極められるようになったのではないだろうか。もちろん、各馬は十人十色である。血統的には洋芝適性があっても、馬体が小さかったり、また首の高い走法で洋芝適性がありそうでも、野芝適性がある血統だったりするだろう。そこから先は、私たちが見極めなければならない。その場で考えて、結論を出さなければならない。「生きるか死ぬか、それが問題だ」と言ったハムレットのように、私たちは“野芝”か“洋芝”かを常に問われているのだ。それが夏競馬の面白さであり、難しさでもある。

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若駒の大幅な馬体減は必ずしもマイナス材料にならない

ものすごく個人的な話をしてしまうと、レッドオーヴァルは一口で出資しようと考えていた馬である。どなただか忘れてしまったが(申し訳ない)、東京サラブレッドクラブの今年の募集馬でどの馬がいいと思いますか?と聞かれたときも、安田隆行厩舎に入るディープインパクト産駒の牝馬と答えた。なぜなら、馬体が光っていたと言いたいところだが、私と誕生日が同じだったからである。もちろん、クラシックに強いディープインパクト産駒であり、ストロングリターンの下であれば桜花賞はドンピシャという気持ちもあったと思う。結局のところ、出資しなかったわけだが、私が東サラの会員であったなら、間違いなくこの馬を選んでいた。

そんなことは完全に忘れてしまった頃、レッドオーヴァルは私の世界に突然飛び込んできた。紅梅Sで大外から一気に伸びて他馬をごぼう抜きにしたレースをリプレイで観たとき、そのしなるような走りに魅了されたと同時に、東サラの安田厩舎のディープインパクト産駒ということでピンと来た。慌てて誕生日を調べてみると、やはり、あのときの馬であった。自分の馬を見る目が正しかった(?)ことが証明されたにもかかわらず、なぜあのとき面倒くさい手続きをしてでも一口持たなかったのだろう…と悔やんでも悔やみきれない思いであった。

前置きはこのあたりにして、いよいよ牝馬クラッシク第一弾の桜花賞である。この時期の若駒(特に牝馬)のベスト体重を想定するのはとても難しい。体も出来上がっておらず、輸送等の外的な条件の変化に大きく影響を受けてしまうため、陣営も手探りで仕上げていることが多いからだ。特にキャリアの浅い馬の大幅な馬体重の増減は、必ずしも悪いとは言えない。

たとえば、平成8年の桜花賞馬ファイトガリバーの新馬戦からの体重を見てみたい。
新馬戦   494kg 1着
紅梅S   486kg 2着
桃花賞   482kg 1着
アネモネS 476kg 3着
桜花賞   470kg 1着

なんと、新馬戦から桜花賞までの間に24kgも体重が減っていることが分かる。結果的に見ると、新馬戦の馬体が明らかに太かったのであって、桜花賞の470kgがこの馬にとってはギリギリの仕上げであったと考えられる。

この時期の牝馬は敏感で仕上げが難しいため、大幅な馬体減や馬体増の意味をきちんと見極めなくてはならない。歯替わりやフケの影響かもしれないし、調教やレースでの疲労から体が痩せてきているのかもしれない。また、これまでが余裕を持たせたつくりで、今は少しずつ絞れてきているのかもしれない。

レッドオーヴァルの馬体重を新馬戦から見てみると、
新馬戦        446kg 2着
未勝利        444kg 1着
紅梅S        436kg 1着 
チューリップ賞   426kg 7着

デビュー戦からチューリップ賞まで20kgの馬体減である。着順と馬体重の関係から紐解くと、新馬戦と未勝利戦の446kgは明らかに太め残りであった。紅梅Sはひと絞りされて、ようやくレッドオーヴェルの本領が発揮できるだけの仕上がり。少し間隔が開いたチューリップ賞では、余分な部分が削がれた分の馬体減であり、7着に敗れたのは、本番前で仕上がり途上にあったことに加え、スローペースで馬群の外を回されたことが理由であると説明がつく。

つまり、馬柱の馬体重の箇所を塗りつぶしてみればいいのだ。若駒の(特に牝馬の)大幅な馬体減は必ずしもマイナス材料にならない、と知っていれば、レッドオーヴァルは今回狙い目ではないかということになる。馬場の悪化が心配ではあるが、桜花賞の勝ちポジである外を回れる枠を引いたのも心強い。私が一口馬主になり損ねたレッドオーヴァルは、氷上競馬にも参戦した世界的ジョッキー、M・デムーロ騎手を背に、果たしてどんな走りを見せてくれるのだろうか。

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去勢することのメリット

Senba「去勢によって気性難は解消されるものなのでしょうか?」という質問を、Sさんより頂戴した。Sさんは一口馬主をやっておられて、未勝利戦を勝ち上がれなかった愛馬がいる。気性難からか、いつも直線でモタれてしまい、真っ直ぐに追うことができずに、勝ち切れないレースを繰り返してしまったようだ。引退かと思われた矢先、去勢してセン馬となって現役を続行することが決定されたのだから、Sさんが当惑するのも無理はない。

質問に対する答えはイエスである。馬を去勢することで気性難は解消される。解消されるというと誤解を招くかもしれないが、気性の激しさが緩和されるのである。煩くて反抗的だった馬が、去勢された途端に大人しく人間の言うことを聞くようになったりするのではない。程度の差こそあれ、それまでよりは馬が落ち着いて、扱いやすい馬になるということだ。Sさんの愛馬も、一変とまではいかないかもしれないが、最後まで真っ直ぐ走れるようになるかもしれない。

去勢してセン馬になることのメリットは、上記の気性難の解消だけではない。去勢というと、気性難の解消が目的と片付けられてしまうが、どちらかというと、それ以外のメリットの方が大きかったりする。具体的に挙げていくと、以下のとおりである。

1、体質の改善
2、中年太りの解消
3、筋肉が柔らかくなる
4、ストライドが大きくなる

1の体質の改善とは、ホルモンのバランスが変化することで、体質が強くなるということだ。体質が強くなるので、多少の厳しい調教を課されてもへこたれなくなるし、レースが終わった後の回復も早くなる。だからこそ、使えるレースの数も多くなるだけではなく、高齢になっても衰えを感じさせずに走ることができる。ジョンヘンリー(83戦39勝)やファーラップ(51戦37勝)、エクスターミネーター(100戦50勝)など、伝説のセン馬は高齢になるまで衰え知らずの走りを披露して、競馬ファンの人気を博した。

去勢することで、私にとっても悩みの種のひとつである(笑)中年太りの解消にもなる。人間だけではなくサラブレッドも、年齢を重ねるごとに、必要のないところに脂肪がついてくる。自然といえば自然なのだが、運動する(走る)ということにおいては、プラスに働くことはひとつもない。特に、サラブレッドは首の付け根に脂肪がつきやすく、首でバランスを取って走りにくくなってしまう。高齢になって急激に走らなくなるのは、このことが原因の場合もある。

3の筋肉が柔らかくなるというメリットもある。これも1と同じくホルモンバランスの関係だろう。筋肉が柔らかく、傷みにくくなるので、故障が少なくなる。そして、4のストライドが大きくなることにもつながる。4のストライドが大きくなる主な理由は、邪魔をするモノがないためである(嘘のような本当の話だが)。イギリスの障害馬にセン馬が多いのは、去勢することで少しでもストライドを大きくするためだそうである。

これだけのメリットを見ると、競走馬としてはいいことづくめであることが分かる。早いうち(馬が若いうち)から去勢しておくと、これらのメリットをより得やすい。とはいえ、同じ男性として、Sさんの複雑な気持ちもよく分かる。種牡馬としての可能性を断たれるばかりか、日本の競馬におけるセン馬にはどこか哀しさが伴う。それでも、レガシーワールドやマーベラスクラウンはセン馬だからこそ応援したし、その勝利からは勇気をもらった。もうあとがない、走ることでしか自分を表現できないセン馬にシンパシーを感じてしまうのは私だけだろうか。盛岡競馬場にまで遠征して、1年かけてようやく初勝利を挙げ、中央に戻ってからは毎日王冠やAJCCなど数々の重賞を勝ち、ジャパンカップでは4着に入ったマグナーテンという不屈のセン馬もいる。Sさんの愛馬(3歳)の活躍を長い目で見守りたい。

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夏競馬は内国産を狙ってみたい

Natukeibanaikokusannba20世紀の後半、世界の血統勢力図をもの凄い勢いで塗り替えたノーザンダンサーは、夏は高温多湿で、冬は氷点下30度前後まで冷え込むというカナダの牧場で生まれ育った。それだけでなく、神経をイラつかせるハエやアブにたかられるため、特に夏は炎天下の狭い馬房の中に閉じ込められて過ごさざるをえなかった。もちろん、エアコンや扇風機のようなものはない。そんな過酷な環境の下で育ったノーザンダンサーが、並はずれた精神力や環境への適応能力を身につけていったのは当然のことである。

ノーザンダンサーの血を持つ馬は夏競馬に強いと言われるが、決して暑さに強いのでもなく、パワーを要する馬場に強いのでもなく、他の系統の産駒たちが暑さや力の要る馬場を苦手とする中で、総じてノーザンダンサー系の馬はそれらを苦にしないということである。ノーザンダンサーの血を引く馬たちは、芝、ダート、道悪馬場、スピードの出る硬い馬場、小回りコースなど、いかなる条件にも適応できる万能性を持っている。だからこそ、ノーザンダンサーの血は世界をあっという間に席巻することが出来たのだ。

サンデーサイレンスの血もこれと同じような万能性を持っている。どのようなコース、馬場、展開であろうが、ありとあらゆる条件を克服し、圧倒的な結果を出してきた。もちろん夏競馬にも強い。サンデーサイレンスのあら探しをする血統予想家がいつも恥をかかされるのは、この万能性ゆえである。後継種牡馬を通して、これから世界へと広がっていくサンデーサイレンスの血が、どれだけの影響力を持つことになるのか、今から楽しみで仕方がない。

夏競馬における内国産の種牡馬についても、これと同じような論理が当てはまる。内国産の種牡馬は、厳しい日本の夏を経験したうえで、選抜されて種牡馬になっている。日本の気候風土に順応し、猛暑にも耐えて生き残ってきたエリートたちである。夏に弱ければ、自分自身の代で淘汰されてしまうか、もしくは運よく生き残ったとしても、自分の仔の代で息が絶えてしまうことになるだろう。だからこそ、外国産馬や父外国産馬と比べ、内国産馬は厳しい暑さに耐えられる強さを備えているのである。

たとえば、サクラユタカオーの後継種牡馬であるサクラバクシンオーの産駒は、夏競馬になると圧倒的な力を発揮し始める。スピードを生かせる馬場や小回りコースが合っているのも確かだが、蒸し暑い夏を苦にしないという点も代々受け継いでいるのだろう。かつて函館スプリントSを2連覇したシーズトウショウの強さは忘れられないし、アイビスサマーダッシュで復活したカノヤザクラのことも思い出される。

サンデーサイレンス系ということであれば、ステイゴールドやフジキセキがその筆頭格であろうか。そして、今年からはディープインパクトも加わることだろう。もちろん、夏競馬に強いだけではなく、ステイゴールドやフジキセキ、ディープインパクトを経由したサンデーサイレンスの血は、日本の競馬を飛び越えて、世界へと広がっていく。

8月も半ばになったが、うだるような暑さはまだまだ続く。そんな暑さを吹き飛ばすためにも、暑い夏は内国産馬を狙ってみたい。

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晩成の馬が勝つ

Bansei同じぐらいの素質と才能を持った早熟な馬と晩成の馬が、同じ土俵で戦うことがあれば、必ずや晩成の馬が勝つと私は信じている。自分の才能のなさや遠回りの人生を肯定したいだけなのかもしれないが、まあ聞いてほしい。理由は2つあって、ひとつは、完成されるまでに培った「経験」が晩成の馬にはプラスされるからということ。もうひとつは、その素質と才能が花開くまでの長い間、大切に温められてきた、情念に似た「情熱」が晩成の馬を突き動かすからである。

サクラローレルというステイヤーがいた。相手をねじ伏せるような強さという点において、最強の馬の1頭であった。決して生まれたときから才能に恵まれていたわけではない。タフさや勝負強さ、我慢強さをジワジワと身につけていった馬である。初勝利を挙げるのに3戦も掛かっただけでなく、500万条件を勝ち上がるのにさらに3戦を要した。青葉賞で3着に入り、日本ダービーに出走する権利を得たと思ったのも束の間、右後脚の球節炎により回避することに。同世代のナリタブライアンは、皐月賞を圧倒的な強さで勝ち、日本ダービーも大外を悠々と駆け抜け、菊花賞では後続を7馬身も千切るという離れ業を演じ、ついに華やかな3冠馬となっていた。サクラローレルは、菊花賞に出走することすら叶わなかった。

古馬になってようやく金杯を制し、天皇賞春を目指したサクラローレルは、調教中になんと安楽死処分を検討されるぐらいの重傷を負ってしまう。関係者の懸命の努力により、治療が行なわれ、安楽死処分は免れたが、長い休養に入らざるをえなかった。サラブレッドが最も充実すると考えられている4歳時に、サクラローレルはわずか2戦しか走ることができなかったのだ。たしかに光るものはあったが、サクラローレルがのちに凱旋門賞を目指して渡仏するような馬になるとは、この時点では誰も想像だにしなかった。

しかしサクラローレルは、この何もできなかった空白の時間にこそ、大きく成長したに違いない。手術の間やその後のケアの段階では、とにかくジッと静かにしているという我慢強さが問われる。それと同時に、人間に頼らないと生きていけないことを感じ、人との信頼関係も深まるはずである。肉体的には、消耗を最小限に抑えつつ、成長を最大限に促すことができた。目黒記念において早仕掛けで差された苦い経験も、それ以降のレースに生きた。そして、何と言っても、ここまでの時間を掛けたのだから、絶対にひと花咲かせたいという人間の情熱が、サクラローレルにまで燃え移っていたように思えた。

サクラローレルは復帰後の中山記念を豪脚で勝利したのち、ようやく1年越しで天皇賞春に挑戦することになった。サクラローレルは、圧倒的な1番人気のナリタブライアンをマークする形でレースを進めた。最後の直線に入り、早めに先頭に立ったナリタブライアンが勝利したと誰もが思ったその瞬間、サクラローレルが外から次元の違う脚で突き抜けたのだ。あのナリタブライアンがなす術もなく抜き去られたのだから驚きである。その年の暮れの有馬記念での強さも恐ろしいほどであった。ピーク時の強さは、どの馬にも負けないと思わせられるほどに強かった。あれが晩成の馬の強さである。

サクラローレルの走りを見て以来、世に出るのは遅ければ遅いほどいいと私は思っている。最近は若くして世に出ることを良しとする風潮が高まり、若者はさかんに世に出たがっているように思えて仕方がないのだが、それはあまりにも性急すぎる価値観ではないのだろうか。いつ世に出ることが出来るのか、そもそも世に出ることが出来るのかも分からないまま待ち続けるのは容易なことではないが、その過程で蓄えられた「経験」や「情熱」こそが、いつまでも自らを支え続けるのだ。

だからこそ、一度世に出た晩成の馬はそう簡単には崩れないし、負けない。今週の宝塚記念に出走するルーラーシップも、前走の香港での走りを見る限り、良血がようやく開花したと言ってよいだろう。肉体と精神が一致すべき時がやってきたのだ。焦らず待って仕上げた陣営の胆力には敬意を表する。この暑い時期の海外遠征を挟んでの仕上げが難しいのは確かだが、今のルーラーシップを負かすのはそう簡単なことではないはずである。

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無敗であることの最大のリスク

Muhainouma

「無敗という事実には無限の可能性がある」

競馬仲間である高校時代の友人Tから教えてもらったこの概念を、私は今でもはっきりと覚えている。Tは今や大学の教授になったほどの数学オタクで、人に教えるのも上手く、高校に入ってから数学が苦手になった私は、よく彼に教えてもらっていた。彼に補助線を引いてもらうと、それまでの霧が一気に晴れたように感じたものだ。

Tがこの言葉を発したのは、1998年のNHKマイルCでのこと。新設されて間もないG1レースで、当時はスピードと仕上がりの速さに優る外国産馬の独壇場になっていた。そして、この年のNHKマイルCには、無敗の馬がなんと4頭も出走してきたのである。新馬戦→500万下→共同通信杯→NZT4歳Sと4連勝中のエルコンドルパサーが1番人気に推され、新馬戦→黒竹賞→菜の花S→クリスタルCと同じく4連勝中のトキオパーフェクトがそれに続いた。その他、ラジオたんぱ杯3歳Sを含め3連勝中のロードアックスとデビュー以来2連勝中のシンコウエドワードであった。

無敗の馬たちの中でも、どの馬が本当に強いのか、私たちは嬉々として予想した。もし1度でも負けていたら、その馬の能力の限界はある程度において推測することができるが、事実として1度も負けたことがないのだから、私たちはその馬の負ける姿を想像しがたく、能力の底がどこなのかさえ分からない。Tが言いたかったのは、実無限とか可能無限とか、アルキメデスは亀に追いつくか追いつかないのか、そういう数学的なことだったのかもしれない。私はその隣で、もしかするとシンボリルドルフのような名馬が潜んでいるかもしれない、と果てしない空想に耽っていた。

結果としては、エルコンドルパサーが5連勝で危なげなくNHKマイルCを制し、2着にもシンコウエドワードが突っ込み、無敗馬同士のワンツーフィニッシュとなった。エルコンドルパサーはその後、ジャパンカップを3歳にして勝利し、海を渡って欧州の重賞タイトルを獲得し、凱旋門賞ではモンジューの2着と、世界レベルの伝説の名馬となった。私の想像を遥かに凌ぐ能力を見せたのだ。私は無敗の馬の無限の可能性を改めて体感したと共に、エルコンドルパサー以外の無敗の3頭が負けて、その後も鳴かず飛ばずであった事実も同時に確認した。無敗とは、いつか負けるというサインでもあるということを。

今となっては、無敗であることはリスクでもあることを私は知っている。何と言っても、無敗であることの最大のリスクは、弱点が分からないまま、ここまで来てしまったということだ。無敗のキタノカチドキに跨ってダービーに出走した、武邦彦騎手のレース後のひと言に、そのことは表れている。

「馬にすまないことをしたと思いました。生涯に1度のチャンスを生かしてやれなかったことを詫びましたよ。もし、キタノカチドキがダービーまでに1度でも負けていれば、僕はダービーを勝てていたのではないかと思っているんですよ」

キタノカチドキは皐月賞で単枠指定を初めて受けたほどの強い馬であった。皐月賞も1馬身半差で7連勝目を飾ると、もはやダービーは勝って当たり前という雰囲気になった。武邦彦騎手はこの時のジョッキーとしての緊張感を、「不安を通り越して、恐怖を感じた」と表現した。厩務員のストによる日程変更や7枠19番という外枠発走など、様々な要因も重なり、ダービーの最後の直線でキタノカチドキはヨレた!

このロスが致命傷となり、キタノカチドキは1馬身差の3着に敗れた。直線でヨレるという弱点(癖)を分かっていれば、もしかしたら武邦彦騎手ならばなんとかできたかもしれない。本番まで弱点を見せることなく順調に来てしまっていたから、いや、見せていたのだろうが、致命傷にはつながっていなかったからこそ、いざ本番という極限の状況においてどうすることもできなかったのだ。極限の状況だからこそ、弱点が噴出しやすく、また挽回が利きにくいということでもある。だからこそ、本番前には敢えて負けておくというプロスポーツ選手もいるのだ。

無敗馬はまずは疑ってかかるべきである。4連勝、5連勝ときている馬と同様に、いやそれ以上に、無敗の馬は今回のレースで負ける可能性が高い。体調を維持することの難しさや相手が強くなることによる能力の壁に加え、自分の弱点が分からないまま来てしまっているという怖さを秘めているからだ。シンボリルドルフやディープインパクトのような最強馬は、100年に1度ぐらいしか誕生しない。それ以外の馬は、体調が悪かったり、相手が強ければ負ける。弱点のない馬もいない。そう考えると、無敗の馬は無限の可能性があるというよりも、むしろ一歩ずつ敗北に近づきつつあるといえるのではないだろうか。

今年のNHKマイルCには、カレンブラックヒルが3戦無敗で臨んでくる。初戦こそスピードの違いで逃げ切ったが、2戦目からはスッと抑える競馬もできるようになった。ムキになって走らないのがこの馬の良さである。レースセンスの良さを生かして、無敗のまま頂点に立てるのか。平田修調教師と秋山真一郎騎手のコンビは、2007年のオークスにおいてベッラレイヤでハナ差負けを喫した雪辱を果たせるのか。それとも、気づかなかった弱点が露呈してしまい、府中の長い直線で差し馬の餌食になるのか。最後の直線の坂を登り切ってからの200mが、今年のレースの最大の見どころである。

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連勝している馬ほど危険

Rensyou by mkoichi

連勝している馬は、それだけで人気になってしまう。馬柱に1、1、1…と数字が並んでいれば、誰が見ても勢いを感じるだろうし、その馬の能力の高さが分かるからである。競馬をよく見ている人ほど、その勝ちっぷりの良さを知っていて、そしてここ最近ではその馬が勝つところしか見ていないように思えるだろう。そんな馬をいきなり馬券の対象外とするのは難しく、どちらかというともう一丁を期待して、渾身の◎を打ちたくなるのも当然である。

しかし、実は連勝している馬ほど危険な馬はいない。走る能力のある馬であれば、何かのきっかけ(脚元や気性の不安が解消されるなど)でポンポンポンと3連勝することはできても、4連勝、5連勝することは極めて難しいのである。連勝の壁は、3と4の間が高く、4と5の間はさらに高い。ドミノ倒しのように3、4、5と倒れていくのではなく、3、4、5と段々高くなっていく壁を登っていくイメージである。シンボリルドルフやディープインパクトのように傑出している馬は別として、その他の馬たちにとって、4連勝、5連勝は難しいのだ。

なぜならば、連勝していくにつれ、戦う相手が強くなっていくからである。当たり前のことだが、連勝してクラスが上がっていくと、同じように能力の高い馬と走らなければならなくなる。1000万下と1600万下では走破タイムも違うし、レースの厳しさも異なる。1600万下とオープンではなおさらである。これも連勝の論理と同じで、クラスが上がっていけばいくほど、壁は高くなってゆく。勝てば勝つほど相手が強くなり、勝つのが難しくなってくるのは自明の理だろう。

もうひとつの理由は(といっても競馬ではこちらの方が大きいのだが)、連勝するために体調を維持することが難しいからである。競馬で連勝することの難しさは、実はここにある。たとえどれだけ能力の高い馬であっても、肉体面、精神面でのコンディションが悪ければ負けてしまう。シンボリルドルフが秋の天皇賞でギャロップダイナに強襲されたのも、ディープインパクトが有馬記念でハーツクライを捕らえられなかったのも、体調が優れなかったからに他ならない。サラブレッドという繊細な生き物の特性上、常にベストコンディションを保ってレースに出走することは、極めて難しいのである。

そこが3連勝と4連勝の壁であり、4連勝と5連勝の壁でもある。たとえば、1ヶ月に1回のペースでレースに出走し、休養を挟むことなく連勝を3に伸ばしたとすると、およそ3ヶ月の間、コンディションを保っていたことになる。しかし、なかなかそれ以上になると苦しい。サラブレッドの体調には必ずバイオリズムがあり、3ヶ月以上にわたってベストコンディションを保ち続けることは至難のワザなのである。かつて藤沢和雄調教師が春3走、秋3走がベストと言っていたのは、そういう意味でもある。

また、レースとレースの間に休養を挟んで連勝を3に伸ばしたとする。すると、一度馬体を緩めてから改めて仕上げ直すことになるため、毎回毎回休み明けでもキッチリと仕上げていることになる。それはそれで難しいことでもあるし、次もキッチリ仕上げて勝たなければならないという人間側のプレッシャーが長期間にわたるため、それが馬にも伝わり、精神的に休まっていない状態が続くことになってしまう。

だからこそ、連勝している馬ほど危険な存在はいないのである。見た目とは裏腹に、一寸先は闇という状況が続いているのだ。競馬というスポーツもしくはゲームの構造上、同じ馬が何度も続けて勝つことは困難なのである。競馬は勝ったり負けたりして成り立っていて、その勝負の綾の上に名馬やドラマが生まれるのだ。

年末から年始にかけて、連勝している馬が人気になりそうなレースが続く。7連勝中で東京大賞典に臨むスマートファルコンと中央に入って5連勝中で中山金杯に臨むアドマイヤコスモス。どちらの馬もメンバー的には力上位で、あとは己との戦いになる。特に、スマートファルコンは、ドバイへ向けて、負けられない、負けたくない一戦である。ただ、その気持ちが人馬ともにプレッシャーとなり、まさかの敗戦へとつながってしまうこともあるのだ。いつまでも連勝を伸ばしてほしいという想いがある一方、連勝している馬ほど危険であることも肝に銘じておきたい。

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骨折明けの馬

Kossetsusitauma by ede

骨折した馬ということで、真っ先に私が思い浮かべるのはヤマニングローバルである。ちょうど私が競馬を始めた頃に活躍した馬だったので、記憶が鮮明なのだろう。ヤマニングローバルは父ミスターシービー、母の父ニジンスキーという、当時においては超良血であり、デビュー前からかなりの評判を呼んでいた。その期待に応えるべく、デビュー戦からデイリー杯まで3連勝を飾った。どのレースも、武豊騎手がゴール前は抑える余裕を見せるほどの楽勝であった。

ところが、デイリー杯をレコードタイムから0.2秒差という好タイムで勝利した直後、ヤマニングローバルを悲劇が襲った。武豊騎手が馬を止めようとした矢先、ヤマニングローバルが馬場の窪みに脚を取られ、バランスを崩して右前脚を骨折してしまったのである。競走中のアクシデントではなかったにもかかわらず、検査の結果として、右前種子骨が縦真っ二つに割れているという最悪の状況が判明した。通常ならば、安楽死が取られてもおかしくないケースである。

しかし、陣営は治療(手術)を選択した。クラシックの有力候補と謳われた逸材を、このような形で失うことに耐えられなかったのだろう。武豊騎手も「来年のG1レースを4つ損した」と、ヤマニングローバルの寄せていた期待の大きさを語っていた。割れた骨をボルトでつなぐという荒治療であったにもかかわらず、手術はなんとか成功した。一時は蹄葉炎を発症するなど、危険な状況はあったものの、関係者の献身的なケアとヤマニングローバル自身の持つ生命力によって、翌年の秋には調教を再開できるほどまでに奇跡的な回復を遂げたのだ。

復帰後の初戦は洛陽ステークスで、さすがにこのクラスということもあり1番人気に推されたものの、4着と敗退した。その後も、人気になるものの惜敗の繰り返しであった。阪急杯では2着、高松宮杯では3着とあと一歩のところまで走ることもあったが、どうしても勝利することができない。陣営もダート戦を使ったり、短距離戦を使ったりと工夫を試みたが、ゴール前でどうしても走るのをやめてしまうヤマニングローバルに、かつて3連勝した頃の面影は全くなかった。ついに武豊騎手から田島良保騎手に乗り替わり、さらに横山典弘騎手に手綱が渡った。

誰もがあきらめかけていた時、そんな雰囲気を察したのか、ヤマニングローバルはアルゼンチン共和国杯でようやく復活した。2年ぶりの勝利であった。馬券を買っていなかった私も、さすがに心を動かされた。次走の有馬記念こそ6着と敗れてしまったが、年明けの目黒記念では圧倒的な1番人気に推され、堂々と先頭で駆け抜けた。府中の直線を一緒に走って応援した私は、脚にボルトが入っている馬が重賞を勝ったその事実に感動した。競馬は激しいサバイバルレースであり、ヤマニングローバルは尊敬に値すると感じた。

前置きが長くなってしまったが、私が書きたかったのは骨折した馬の涙の復活劇ではない。骨折した馬が再びレースで勝利することが、どれだけ難しいかということである。ヤマニングローバルは、9つのレースと2年の歳月を費やすことになった。あのアドマイヤコジーンでさえ、12戦と3年の年月を要した。たとえ骨がくっ付いて、トレーニングが重ねられ、以前の肉体に完全に戻ったとしても、勝つことは容易ではない。どうしても、レースに行ってあとひと踏ん張りが利かなくなってしまうのである。勝つ能力はあっても勝てない、そんなレースを続けてしまう。

その最大の理由は、骨折がサラブレッドの心理面に落とす根深い影響である。あの時のあの痛みをサラブレッドは忘れない。その記憶が、レースで全力疾走を求められる場面で蘇ってくるのだろう。もしくは、速く走ろうとする本能を無意識にセーブするのかもしれない。たとえ調教で素晴らしい走りを見せていても、それはまやかしである。追い切り程度の速さであれば、能力の高い馬であれば軽く走ってしまう。ウッドチップが敷き詰められている馬場では、脚元の不安はそれほど感じない。それが実戦に行くと、硬い芝の上を調教とは違うスピードで走らされるため、骨折の記憶がある馬は自ら走ることをやめてしまう。人間のムチに応えるために限界を超えたりはしない。そういうレースが続くのである。いつ本気で最後まで走るようになるかというと、その答えは骨折した馬のみぞ知る。馬は骨折したことを忘れしまうわけではなく、何度もレースを走ってみて、これなら全力で走っても大丈夫そうだと確信したから復活するのである。

リディルはデビュー3戦目でデイリー杯2歳Sを勝利し、その後、放牧先の大山ヒルズで左第1趾骨複骨折が判明した。すぐに手術が行なわれたものの、全治に至るまで1年以上の歳月を要してしまった。同じ橋口弘次郎厩舎のローズキングダムと遜色ない評価をされていたほど能力の高い馬だったが、ターフに復帰してからはなかなか勝つことができず、3戦連続して人気を裏切る形となった。しかし、骨折明け4戦目の谷川岳Sで、リディルは久しぶりの勝利を挙げた。続く安田記念でも7着に好走し、その後、米子S、スワンSと連勝して完全復活を遂げてみせたのだ。忌々しい記憶を己の力で拭い去ったリディルが、今年のマイルCSでどのような走りを見せてくれるのか楽しみでならない。

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最後にどれだけ踏ん張れるか

G1raceexperience by mkoichi

G1レースのような大きな競走を経験したことにより、その後、見違えるほどに強くなる馬がいる。ここで言う大きな競走とは、タイムが速かったり、ペースが速かったり、ラップが厳しかったり、ということではなく、ただ単純に、格が高いレースという意味である。たとえG1であっても、タイムが遅く、スローペースで、ラップ的にも見るべきものがないレースだってあるだろう。それでも、強いメンバーが揃う、格の高いレースで走った馬が、突然に覚醒して、まるで別馬のように走り出すのはなぜだろうか。

最大の理由を挙げると、強い馬が集まるレースでは、最後の直線における各馬の踏ん張りが違うということに行き着く。踏ん張りとは、もはや走る余力などこれっぽっちも残っておらず、一杯いっぱいになってしまった極限状態でも、そこから我慢して、さらにもうひと伸びしようとするということである。速く走るために生まれてきたサラブレッドである以上、どの馬も潜在的なスピードやスタミナは持っているのだが、それでも強い馬と弱い馬がいるのは、最後の踏ん張りが違うからである。最後にどれだけ踏ん張れるかが、ほとんどの大レースにおいては勝者と敗者を隔てているのである。

それまでは能力だけでトントンと勝ち進んできた馬が、初めてG1レースに挑戦して、あっさり負けてしまうのもそういうわけである。ゴール前で極限を超えてまで踏ん張るという経験をしたことがないだけに、能力的にはゆうにG1級であったとしても、あと一歩及ばずという結果になってしまうことがある。

たとえば、昨年の宝塚記念でG1レースに初めて挑戦したアーネストリーがそうである。絶好のポジションを手応え良く追走し、自分の勝ちパターンに持ち込めたように見えたにもかかわらず、ブエナビスタには差し返されたばかりか、外からナカヤマフェスタの強襲に会い、0.2秒差の惜しい3着に敗れてしまった。レース後の佐藤哲三騎手の「最後のところで、もう少しガムシャラさがあれば」というコメントが印象的であった。2頭に先着を許してしまったのは、能力でも展開でも体調でもなく、最後の直線の攻防におけるガムシャラさだというのだ。

昨年の宝塚記念のレース映像をつぶさに観てみると、佐藤哲三騎手の伝えたいことが良く分かる。ブエナビスタやナカヤマフェスタと叩き合いをしている最中にもかかわらず、アーネストリーの耳はわずかに浮いている(立とうとしている)。決して余裕があったわけではないので、どこか集中力に欠けた部分がアーネストリーにあったことは否めない。極限の争いの中で、ブエナビスタやナカヤマフェスタの耳がグッと絞られて、最後までガムシャラに踏ん張ろうとしている姿とは対照的である。おそらく、アーネストリーはこれほどまでにラストで踏ん張る馬たちの中で競馬をしたことがなかったのだろう。これこそが、G1レースに初挑戦する馬が、いきなり勝利することの難しさのひとつである。

こうした敗戦を経験することで、その馬自身も大きく成長する。同じことは地方競馬の馬が中央のレースに参戦する際にも、また日本馬が海外に遠征する際にも言えるだろう。岡部幸雄元騎手が、「ヨーロッパの馬はバテたと思ったら、そこからひと踏ん張り、そしてもうひと踏ん張りする。だから強い」と言っていた。そんな馬たちの中で、これまで味わったことのない厳しいレースを走ることによって、走る能力が上がるのではなく、最後の踏ん張りが違ってくるということだ。それまで調教ではもちろん、実戦の中でも体感したことのなかった厳しさの中で、強い馬たちと鎬を削ることによって、もう一段上の領域にまで引き上げてもらうのだ。

アーネストリーは翌年、宝塚記念をレコードタイムで快勝してみせた。体質が強くなり、満足のいく調教ができるようになったことや、十分な休養を挟んだことで体調が良かったことも勝因のひとつではあるが、何よりもアーネストリー自身がG1レースのような大きな競走を経験していたことが大きい。それは今年の宝塚記念のゴール前において、最後まで気を抜くことなく、耳をグッと絞って、ガムシャラに踏ん張ろうとしているアーネストリーの姿を観れば分かる。結果的には1馬身半の差を付けたが、もし少しでも気を抜いてしまっていたら、後続の餌食になっていたはずである。G1レースのような大きな競走に初挑戦して、ゴール前の厳しさを知った馬の次走以降を狙いたい。

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突然逃げる馬、突然逃げた馬

Totuzennigeruuma

逃げ切るための条件のひとつとして、「突然逃げる」が挙げられる。逃げるはずではなかった馬が逃げたり、これまで逃げたことのなかった馬が逃げたりした時ほど、逃げ残る確率が高いということだ。なぜ突然逃げると逃げ切りやすいかというと、想定外の馬が逃げた場合、その馬をマークするかどうかという騎手の共通意識が働きにくいからだ。各ジョッキーが他の騎手の動きをうかがっている内に、あれよあれよと逃げ切ってしまうのである。

これは人間側の理由であるが、もうひとつ、サラブレッド側の理由もある。それは、馬も突然逃げることになって、レースに集中するからである。先頭をスイスイ行くと馬は気持ち良く、精神的なストレスがないから、突然逃げた馬は好走する、と思われるかもしれないが、全くの逆である。馬にとって、馬群の先頭を走ることほど不安でストレスの溜まることはない。先頭に立たないと力を出し切れないという馬もいるにはいるが、それはまた別の理由(馬を怖がる等)である。本来、サラブレッドは集団性の草食動物だけに、馬群の中にいる方が安心して走られる。また、野生の群れであれば、真っ先に敵の餌食になるのは先頭を走っている馬であり、本能的に先頭を走ることを嫌がる馬の方が多い。馬にとって、突然逃げることは、突然恐怖に陥れられることに近い。

私の記憶に鮮明に残っているのは、当時デビュー3年目であった福永祐一騎手が、1998年の日本ダービーで2番人気のキングヘイローに乗って逃げた時のことである。キングヘイローはデビューから東京スポーツ3歳Sまでの3連勝を、好位抜け出し、追い込み、中団からの差しと変幻自在のレースで飾った。暮れのラジオたんぱ杯3歳Sを2着と破れてしまったが、好位で流れに乗る競馬が板に付き、年明けの弥生賞を3着、皐月賞で2着と着順を上げてきたところであった。そして迎えた日本ダービーであったが、こともあろうに福永祐一騎手は突然逃げてしまったのである。

勝ったのは1番人気に推されたスペシャルウィークで、キングヘイローはなんと14着に沈んでしまった。スペシャルウィークに乗った武豊騎手にとっては、これが日本ダービー初制覇となった。武豊騎手の満面の笑みとは対照的に、引き揚げてくる福永祐一騎手の顔面は蒼白であった。デビュー3年目にして日本ダービーで2番人気の馬に乗って、逃げてしまい馬群に飲み込まれたのだから無理もない。「初めて逃げることになって、馬が気負ってしまい…」とだけコメントを残した。この時、私はサラブレッドという動物の繊細さと共に、逃げることの難しさも知った。

キングヘイローのように気負ってしまっては、その馬本来の走りは到底望めない。だが、その一歩手前の緊張状態、つまり、とにかく速く走って獲物から逃げ切ることに集中している状態であれば、ゴールまで全速力で駆け抜けるに違いない。これが突然逃げることによる、馬への効果である。昔は福永洋一騎手がいきなり逃げて勝ったり、最近では横山典弘騎手がここぞというタイミングで逃げて勝利してみたりしているが、別に奇をてらっているわけではなく、こうしたメカニズムを作用させているのである。もちろん、先頭に立ったら気負ってしまうタイプの馬には、そういう作戦は採らないだろう。

ただ、この突然逃げるという話には続きがあって、突然逃げるのはワンチャンスしかないということである。つまり、突然というのは1回もしくはたまにだからこそ突然なのであって、毎回逃げてしまっていたら、それは突然ではない。だからこそ、いつ突然逃げるのか、そして突然逃げた後のレースはどうなるのか、という2点が大事となってくるのだ。

まず、いつ突然に逃げるのか、はっきり言ってしまうと、これは予測がなかなか難しい。いつも逃げている馬が逃げるか(逃げられるか)どうかは、ある程度の予測がつくだろう。同じような脚質の馬がいないかどうか、いるとすれば、どちらが内側の枠を引いているのか、もしくはどちらのダッシュ力が高いのか、目と頭を使えば答えはおのずと明らかになる(ことが多い)。そうではなく、これまで逃げたことのない(もしくは近走で逃げていない)馬が突然逃げるかどうかは、もはや想像の域を出ない。これといった逃げ馬の不在、枠順、ジョッキーの気質、コースの形状、馬場、もしくは押し出されたり引っ掛かったりする形で。あらゆる理由は思いつくが、ゲートが開く前の段階で突然逃げる馬を見極めるのは困難を極める。それでも、敢えて言うとすれば、基本のキに戻るのだが、出走表を片手にスタートから第1コーナーまでの各馬の動きをイメージすることだ。ジョッキーたちが皆そうするように、レースの前日に。それしかインスピレーションを得られる方法はないだろう。

次に突然逃げた後のレースはどうなるのか、これは簡単である。突然逃げた馬は、その次のレースでは凡走するのだ。突然逃げた前走で好走したので、その次も人気になることが多いが、今度は逃げられず、もしくは逃げられても、驚くほど簡単に凡走してしまうのである。なぜかというと、突然逃げるという行為が、馬に適度の緊張感を強いて、レースに集中させることで好走させる効果を持つのだから、同じことは2回も続きづらいのである。それは、ブリンカーなどの馬具を着けた時の効果に近い。初めて装着した時が最も効果が高く、常に着けていると効果は薄れていく。つまり、突然逃げることも馬具を装着することも、ここぞという場面でこそ使わなければならない戦略なのだ。こう考えていくと、いつ突然逃げるのかという難問に対するヒントが少し得られた気がするのは私だけだろうか。


Photo by Hidehiko Sugawara

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レコードタイムの信憑性

Record_3掲示板にレコードの赤い文字が灯ると、必ずと言ってよいほど、「オオー!」というため息にも似た驚きの声が上がる。競馬がコンマ1秒を争うレースである以上、これまでの誰よりも速くゴールを駆け抜けた馬を賞賛し、そのレースを高く評価するのは当然といえば当然のことである。そこに私たちの速さに対する幻想も加わって、レコードタイムに対する価値は否が応でも上がる。この時点では、レコードタイムで勝った馬が次のレースで負ける姿を想像しがたいだろう。しかし、これだけレコードタイムが連発される今の競馬において、私たちはレコードタイムを本当に信じてよいのだろうか。レコードタイムで走ったという事実は、果たしてどのような意味を持つのだろうか。

結論から述べると、レコードタイムには信じてよいものと疑ってかかった方がよいものがある。両者を隔てる基準は、「2着以下の馬との差」と「自分で作ったものかどうか」である。

ひとつめの「2着以下の馬との差」について述べると、2着以下の馬との差が大きければ、そのレコードタイムは価値がある。つまり、その馬は強いレースをしたと考えてよい。反対に、2着以下との差が僅差であれば、そのレコードタイムの価値は疑問である。なぜかというと、2着以下の馬も同じような速いタイムで走ったということは、もしかすると速い時計の出やすい条件であった可能性が高いからだ。G1レースのような上級の競走でない限り、2着以下の他の馬たちもレコードに近いタイムで走られる強い馬であったとは考えにくい。

たとえば、昨年の2歳戦でもレコードタイムが多く見られた中、ラベンダー賞でゼンノエルシド産駒のロビンフットが、アグネスワールドの持っていた函館の2歳コースレコードを0.1秒更新して快勝した。ただ、2着のマイネショコラーデ、3着のヤマノラヴとの着差は僅か(同タイム)であったように、この時期の函館競馬場の馬場は時計が出やすかったと考えられる。案の定、次走のクローバー賞では、圧倒的な1番人気に推されたものの、あっさりと5着に負けてしまった。プラス8kgの馬体重が影響したのかもしれないが、それにしても前走をレコードで走った馬の走りではなかった。

2つめの「自分で作ったものかどうか」については、そのレコードタイムをどこまで自分自身の能力で作ったかどうかということである。昔からよく言われるのは、逃げ馬が作ったレコードタイムは価値が高いということ。つまり、誰かに引っ張ってもらったのではなく、自らの力で刻んで作ったレコードタイムでないと、本当の意味において能力の証明にはならないということである。

かなり昔の話になるが、マティリアルという馬がいた。父パーソロン、母の父がスピードシンボリという、まさにあのシンボリルドルフと同じ血統構成で、さらに岡部幸雄騎手が鞍上とくれば、競馬ファンが期待しないわけにはいかないだろう。マティリアルの名が一気に全国区となったのは3歳春のスプリングSであった。道中11番手の遥か後方からレースを進め、誰が見ても届かない位置から、全馬をまとめて差し切ったレースはあまりにも衝撃的であった。しかも、勝ちタイムは1分49秒3というレースレコード。マティリアルは一躍、クラシック戦線の主役に躍り出たのだ。

ところが、このスプリングS以降、マティリアルは目を覆いたくなるような走りを繰り返すことになった。断然の1番人気で臨んだ皐月賞は3着、これまた1番人気に祭り上げられたダービーでは何と18着と惨敗を喫した。そして、それから2年間にわたって人気を裏切り続け、最期のレースとなった京王杯オータムSを勝つまで、たったの1勝もできなかったのだ。

こうして振り返ってみると、マティリアルはスプリングSで実力以上に派手な勝ち方をしてしまったということなのだろう。前の馬が無謀とも思えるペースでレースを引っ張ったことで、前に行った馬たちがゴール前で総崩れを起こし、後ろで力を温存していたマティリアルが漁夫の利を得ただけだったのである。レースレコードも、この馬自身の力ではなく、引っ張ってもらって作った以上、あまり信用できるものではなかったということだ。このように、レコードタイムという事実は同じでも、その内容によって価値の解釈が全く異なるのである。

私たちはレコードタイムを素直に信じてはいけない。そのレコードには本当の価値があるかどうか、「2着以下の馬との差」と「自分で作ったものかどうか」という2点を踏まえた上で、しっかりと吟味しなければならない。もし自ら逃げて、しかも2着以下の馬との差を広げて作ったレコードタイムであれば、その馬は相当に強いと考えてよいだろう。ただし、レコードで勝利した後は、肉体的に反動が出てしまうということも踏まえて、次走は狙ってみるべきである。

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理想のサラブレッドによる理想的なレース(前編)

「ダートのサイレンススズカみたいですね」

2011年の帝王賞を9馬身差、しかもノーステッキで制した後、勝ったスマートファルコンを称して、武豊騎手はこう語った。その言葉には、逃げて圧勝したということ以外に、深い意味が含まれている。下手に抑えてタメ逃げをするよりも、他馬がついて来られないほどのペースで飛ばした方が持ち味を発揮できる。オーバーペースがマイペース。そう、あのサイレンススズカのように、武豊騎手が理想的と考える競馬ができる馬という意味である。

スマートファルコンの凄いところは、道中をハイペースで飛ばしたほうがしまいまでしっかりとした脚でまとめられること。アメリカの超一流馬に共通した特長がそれなので、いよいよそういう馬になったのではないかと感じています。(「武豊オフィシャルサイト」より)

ここで武豊騎手が書いている「道中をハイペースで飛ばしたほうがしまいまでしっかりとした脚でまとめられる」には多少の語弊があるので、補足させてもらいたい。

サラブレッドは1ハロン15秒より速い時計で走ると、その分、無酸素系のエネルギーを消費してしまい、体内にカルシウムイオンが放出され、筋肉が収縮するとされている。速いペースで走れば走るほど、後半にかけて筋肉に疲労が残り、思うように走れなくなってゆく。だからこそ、理想的なペース配分とは、いかにレース終盤までエネルギーを温存して走るかということになる。つまり、肉体的なことだけを考えると、個体差こそあれ、道中をハイペースで飛ばしたほうが良いという馬は存在しない。

しかし実際には、道中をハイペースで飛ばしても、エネルギーを終盤まで温存したと同じくらい、最後までスピードが落ちない馬がいる。サラブレッドは馬体を伸縮させて走るのだが、こういった馬はスピードに乗るほどにフットワークが大きくなっていき、まるで慣性の法則に則るかのように、そのフットワークをゴールまで保つことができるのだ。無尽蔵なスタミナや強靭な筋力という肉体的な特性に支えられていることは間違いない。道中をオーバーペースで飛ばしても、最後までフットワークが乱れないという、超一流馬しか持ち合わせない稀な特長である。

もうひとつ、肉体と精神はつながっているため、たとえペースが速くても、リラックスして走れる方が、スピードが落ちないという馬がいる。たとえば、サイレンススズカは後ろから突かれるような逃げ方だと興奮してしまい、また前に馬がいる形だと追いかけたくてウズウズしてしまったという。その馬の肉体、精神に合ったリズムの走りができるからこそ、余計なスタミナを奪われることなく、最後の直線に向くことができる。他馬を大きく離すことで、リラックスして走ることができるということだ。

(後編に続く→)

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スタミナは母の父から(今年はどうなる)

Sundaysilence

スタミナは母の父から伝わることに気付いたのは、私に起こったある2つの非連続的な出来事による。ひとつは、一昨年の天皇賞春において、母父にサンデーサイレンスの血を持つ有力馬たちが、淀の最後の直線でバタバタと倒れていったこと。勝った馬は父チーフベアハート×母父サッカーボーイという血統構成のマイネルキッツであった。私は2年連続でアサクサキングスに本命を打っていただけに、あまりの無様な負け方に少なからずショックを受けた。そして、サラブレッドの血による支配を感じざるを得なかった。

2009年天皇賞春、人気に推された有力馬たちの血統を挙げると、以下のようになる。

アサクサキングス(1番人気)父ホワイトマズル 母父サンデーサイレンス
スクリーンヒーロー(2番人気) 父グラスワンダー 母父サンデーサイレンス
ジャガーメイル(6番人気) 父ジャングルポケット 母父サンデーサイレンス
ヒカルカザブエ(7番人気) 父ジャングルポケット 母父サンデーサイレンス

いずれの馬も馬体だけを見ると、胴部や手脚に伸びがあり、長距離レースを走られそうなスタミナを有しているように思える。前哨戦の走りを見てもそれは明らかで、だからこそ本番の天皇賞春でも人気になったともいえる。アサクサキングスとヒカルカザブエは阪神大賞典(3000m)の1、2着馬である。さらに、アサクサキングスの父ホワイトマズルは、天皇賞春を制したイングランディーレを出している。スクリーンヒーローの父グラスワンダー自身は2500mの有馬記念を、ジャガーメイルとヒカルカザブエの父ジャングルポケットは、2400mのダービーとジャパンカップを勝っている。前哨戦から距離がわずか200m伸びただけで、またレースの格が上がり、中身の濃い厳しい競馬になったとしても、この4頭があそこまで大崩れしてしまうとは到底考えられなかったのだ。

もうひとつは、ある飲み会の席でのちょっとした会話である。髪の毛の話になり、席上のひとりが自分の頭を指差してこう言った。「俺のオヤジは禿げてるんだけど、母親のおやじがフサフサでさ、おかげで助かったよ、ほらこの通り」。それを聞いたもうひとりが、「そっか、だから僕は髪の毛が薄いんだ…。オヤジはフサフサなのになぁ」と返した。そんなやり取りを見て、私はドキッとして、ひと言も発することが出来なかった。最近薄くなってきた自分の頭や母の父を想い、「なるほどね」と我が意を得たのである。サラブレッドのスタミナの有無が主に母の父から受け継がれるように、信じたくはないが、人間における髪の毛の薄さも母の父から遺伝するようだ。

日本競馬を席巻し、なお今も産駒の直仔を通して圧倒的な影響を及ぼし続けるサンデーサイレンスだが、唯一の弱点は母父に入った時のスタミナのなさという点だろう。サンデーサイレンスは基本的にはスピードと瞬発力を伝える種牡馬である。その裏返しとして、母父に入った時には、ジリジリと走らなければならない、スタミナを問われるレースを苦手とする。父としてはダンスインザダークやディープインパクトなど、菊花賞や天皇賞春を制した産駒をたくさん出したが、それは母父にスタミナを十分に有する種牡馬がかかっていたからである。ちなみに、ダンスインザダークの母父はニジンスキー、ディープインパクトの母父はアルザオである。

たとえ現代のスピード化された競馬であっても、3000mを超すレースではスタミナが問われる。スタミナが母の父から受け継がれる以上、長距離レースを予想するにおいてまず見るべきは母の父だろう。このエントリーを書いた昨年は、母父サンデーサイレンスのジャガーメイルの勝利に終わり、見事に裏切られた結果になったが、あの一戦だけで持論を曲げるほど私は素直ではない。昨年はレースの上がりが34秒2と、稀に見るスローペースの天皇賞春であり、長距離戦ほどのスタミナが必要なかったと考えている。今年も同じようなスローにならないという保証はないが、母の父にサンデーサイレンスをもつトゥザグローリーやローズキングダムはどのような走りを見せてくれるだろうか。

特に、圧倒的な1番人気になるであろうトゥザグローリーの母はドバイワールドカップで2着に粘った快速トゥザヴィクトリー、父はNHKマイルCと日本ダービーを驚異的なレコードタイムで制したキングカメハメハ。スピードの勝った配合であることは一目瞭然である。昨年の有馬記念でヴィクトワールピサとブエナビスタと接戦を演じ、今年に入ってからは京都記念→日経賞と圧勝続きのトゥザグローリーだが、血統的には長距離レースへの適性があるとは言いがたい。同じくローズキングダムも菊花賞では2着と伸びあぐねた。私の持論が勝つのか、それともトゥザグローリーやローズキングダムが距離を克服して栄光を勝ち取るのか。今年はどうなる。


Photo by Ichiro Usuda

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スプリンターのピークは短い

Sprinterpeak

スプリンターのピークは短い。これは動かしがたい事実である。ここで言うピークとは、絶好調である期間のことであり、もう少し長い目でみると、一線級で走り続けられる期間のことでもある。ピークが長いステイヤーに比べ、スプリンターはピークが圧倒的に短いのだ。ステイヤーを線香花火だとすると、スプリンターは打ち上げ花火のように、華やかに咲いては散ってゆく。

過去10年の高松宮記念を制した名スプリンターの顔を思い浮かべてみたい。トロットスター、ショウナンカンプ、ビリーヴ、サニングデール、アドマイヤマックス、オレハマッテルゼ、スズカフェニックス、ファイングレイン、ローレルゲレイロ、キンシャサノキセキ。この中で、同年の秋シーズンに行われるスプリンターズSをも制したのはローレルゲレイロの2頭だけ。高松宮記念を連覇した馬はいない。相手との力関係もあるのは確かだが、スプリンターにとって絶好調の期間を2シーズン保つことは難しく、まして1年間となるとさらに難しい。

その理由はスプリンターの精神面にある。あらん限りの力をスタートからゴールまで感情と共に爆発させることによって他馬よりも速く走ることができるため、スプリンターは燃えやすい気性を有している馬が多い。多少なりとも、気性がキツかったり、激しかったりしなければ、スプリンターとしては大成しない。スプリンターの燃えやすさは、調教からレースに至るまで、その競走生活を貫いている。普段の生活でもちょっとしたことに敏感に反応してしまうし、持ったままの馬なり調教でも好時計が出てしまうため、精神的にも肉体的にも消耗が激しいのである。もし落ち着いたり、人間の思い通りに走られるようになったなら、そのスプリンターは燃え尽きてしまった証拠だろう。スプリンターは燃え上がらなければ力を出し切れないし、一瞬にして燃えてしまう分、燃え尽きるのもまた早い。そして、燃え尽きたスプリンターは勝てなくなってしまうのだ。

そういう意味では、キンシャサノキセキはスプリンターとして稀有な存在であることが分かる。2005年にデビューしたキンシャサノキセキは、5戦目にしてNHKマイルCに出走して僅差の3着に好走するや、それ以来、なんと5年以上にもわたってトップレベルのスプリント競走を走り続けてきていることになる。その間、何度か調子を崩したり、精神的に参ってしまったりしたこともあったが、その度に立ち直ってきた。2009年のスワンSから2010年の高松宮記念までの4連勝には、誰もが目を見張った。堀宣行調教師の長く馬を走らせる手腕に脱帽しつつも、キンシャサノキセキの生命力の高さにも驚かされる。これだけ長く、闘争心を維持できるスプリンターも珍しい。

そのキンシャサノキセキが連覇を目指して高松宮記念に出走してくる。昨年の同レース以来、ぶっつけで臨んだスプリンターズSを2着、マイルCSこそ大敗したが阪神Cで復活し、今年に入ってからも前哨戦であるオーシャンSを2着と好走した。前走はずいぶん苦しそうにモタれていたが、直線では鮮やかに追い込んできた。この2着という結果をどう見るかは、私たち次第である。まだまだ負けないと闘争心を維持していると見るか、それとも翳り(かげり)が出てきていると見るか。私は後者であると見ているが、前者であっても決して驚かないだろう。良い意味で裏切られるのであれば、それこそが競馬のドラマチックなところであり、そんな結末を心のどこかで期待している私がいるのもまた確かなのである。

Photo by H.M

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芝とダートの適性の違い

Sibadirthumon

私が競馬を始めたちょうどその頃、カリブソングという一風変わった名の馬が、芝・ダートを問わず走り続けていた。テレビ中継がされるメインレース周辺に出走することが多く、いつの間にか好きになって追いかけていた。カリブがどこにあるのか、またそこどんな歌が歌われているのかも知らなかったが、「カリブの歌が聞こえるぞ!」と言いながら、友人と一緒に予想をするのが楽しかった記憶がある。実際に、カリブソングはレースでも好走することが多く、最後の直線では、「カリブソング!カリブソング来た!」とカリブの歌がよく聞こえたものであった。

カリブソングの全成績【10・10・8・13】のうち、芝が25戦3勝、ダートが16戦7勝とダートでの勝ち星の方が多いのだが、目黒記念と金杯を勝ち、天皇賞秋で2着した実績を考えると、芝・ダート不問であったといえる。馬場だけではなく、距離や斤量さえも克服して、最後まであきらめずに昭和の時代を走り抜けた、まさに無事これ名馬という馬であった。

こういう原初体験があるため、私にとっては、「走る馬は芝でもダートでも走る」という感覚が今でもある。しかし、よく思い返してみると、芝でもダートでもトップクラスで勝ち負けになった馬は片手でも数え切れるぐらいしかいない。カリブソング以外には、ホクトベガ、クロフネ、メイショウボーラー、そして極めつけはアグネスデジタルだろうか。これらの馬が例外であって、ほとんどの馬にとっては、芝とダートの両方を器用に走ることは難しい。なぜなら、3つの適性の違いがあるからだ。

1、走法
2、馬体
3、気性

まずひとつめの理由としては、走り方が違うということ。芝が得意な馬は後肢のキック力を活かして前に進み、前肢は払うようにして前に伸ばす。対して、ダートが得意な馬は、前肢を上に持ち上げて叩きつけるような走り方をする。前肢を強く掻き込むようなフォームということ。ダートでは脚が砂の中に沈んでしまうので、前肢を前に払うような走り方では上手く走れないのだ。つまり、ダートと芝に適した走り方には、自動車でいうと、前輪駆動と後輪駆動ぐらいの違いがある。

2つめは体つきや骨格が違うということ。ダート特有の走り方をするということは、すなわちダートに向いた体型が求められることでもある。前肢を上に持ち上げて叩きつけるように走るためには、前駆の筋肉が発達していなければならない。また、当然、芝に比べてダートではパワーを要求される以上、全体的に馬格のある馬で体に幅のある馬が良い。さらに言うと、ダートでは馬体の柔軟性は芝ほど問われず、繋ぎの部分が短く、爪が小さく立っていると良いと言われる。

3つめは気性である。ダートのレースでは、前の馬が蹴った砂が飛んで顔面を直撃する。これを嫌がる馬ではダートでの好走はおぼつかない。砂を被るのを厭わない、向こうっ気が強くて怯まない気性がダートを走る馬には求められる。また、ダートは前に行っていないと勝負にならない性格のレースが多いため、自らハミを噛んで先行できる前向きな気性の馬が有利になる。昨年のフェブラリーSの覇者であるエスポワールシチーは、佐藤哲三騎手が付きっきりで競馬を教え、前向きさを引き出したからこそ大成したのである。

これら3つの適性の違いに加え、ダートを走った経験の積み重ねが重要な要素となる。たとえば、コーナリングにおいて、芝とダートでは脚の引っ掛かりが違う。ダートは芝のレースに比べて、小回りであり、しかも砂が外に流れるため、脚も一緒に外に流れてしまうのだ。特に、スピードに乗った時ほど脚は外に流れやすいので、調教ではなく、実戦を経験していることが重要なのである。このように、実際のレースを数多く経験することによって、ダートのスペシャリストが誕生するのだ。

芝とダートで求められる適性がかくも違う以上、芝とダートの両方で好走するということは至難の業であることが分かる。昨年のフェブラリーSでも、芝で重賞を勝った実績のあるローレルゲレイロ、リーチザクラウン、ザレマ、レッドスパーダ、スーパーホーネットらが出走して人気を集めたが、揃って大敗を喫してしまい、結局勝ったのはダートの鬼であるエスポワールシチーであった。芝とダートの両方を走るのが無理ということではなく、全く別物として捉えた方がよいということである。そう考えると、芝の重賞を勝ちながらもダートの大きなレースを制したカリブソングやホクトベガ、クロフネ、メイショウボーラー、そしてアグネスデジタルという、芝・ダート不問の名馬たちの偉大さがよく分かる。


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再掲「武豊論」:日本一“押せる”ジョッキー

Ikkannpo by M.H

サラブレッドのスピードは、「一完歩の長さ(ストライド)×頻度(ピッチ)」で決まる。もちろん、疲労してバタバタになった馬は脚が伸びないように、同じ馬でも状況によって一完歩の長さは変わるが、走る頻度(ピッチ)が同じであれば、当然、一完歩(ストライド)を長く走った馬の方が先にゴール出来る。

一完歩の長さ(ストライド)は馬の持って生まれた肉体的特徴によるところが大きいのだが、数センチ位の長さであれば、実は騎手の技量によって補うことが出来るのだ。ゴール前1ハロンの完歩数は平均27完歩であり、もし一完歩が10cm長くなったとすると、27完歩×10cm=270cmで2.7m。つまり、ゴール前1ハロンだけで、なんと1馬身の差が生じることになる。このことからも、一完歩を少しでも長く走らせることが、一流騎手の仕事だといっても過言ではないだろう。

日本のジョッキーでは、やはり武豊騎手が、この一完歩を少しでも長く走らせる技術に長けている。たとえば、ロジックを勝利に導いた2006年のNHKマイルCのラスト1ハロンには、武豊騎手の馬を伸ばす技術が凝縮されているといってよい。あれだけの接戦の中で、ほとんど鞭を使うことなく、馬の走るリズムに合わせて、ストライドを少しでも長く走らせることに集中している。そのストライドのわずかな差が、ゴール前のクビの差に結果的につながっているのである。もし他の騎手であったら、負けていても不思議ではなかったレースである。

日本では馬を“追う”というが、海外では“押す(PUSH)”という。馬を“追う”とは、ムチでビシバシ馬を叩くことではなく、手綱を通して馬を“押す”ことである。もう少し具体的に描写すると、馬が着地する時に、もう何センチか先につかせることによって、一完歩を長く走らせるのである。そのためには、馬の走りのリズムに合わせて手綱を引きつけ、タイミング良く解き放つことによって、馬体を最大限に収縮させなければならない。馬のリズムを崩さないように、少しずつ重心を下げて、ストライドを長く伸ばして走らせるのである。武豊騎手は追えないという筋違いの評価があるが、全くの誤解である。あえて言うならば、武豊騎手は“押せる”騎手なのである。


追伸
このCMを観て「ガラスの競馬場」を思い出してくれたという方からメールをいただき、武優騎手に対する応援歌という意味でも再掲させていただきました。全力で追っていないため、馬を「押す(PUSH)」感覚は伝わってこないと思うが、武豊騎手の長身を馬の背に折畳んだ美しいフォームや、華麗な鞭捌きを堪能してください。メイキングの随所から、武豊騎手が日本の競馬のためにどれほどに力を尽くしてきたかが伝わってきます。だからこそ、武豊騎手は日本一の騎手なのだと思います。小田和正の歌声も最高!

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デッドヒートの代償

Deadheat

18世紀以前の競馬では、同じ組み合わせの馬たちで複数回競走を行い、勝ち馬を決定するヒートレース(Heat race)という方式が採られていた。1回の競走を1ヒートと呼び、同じ馬が2回もしくは3回と続けて勝つまでレースは行われたという。着差が僅かであった場合、当時は人の目による勝利判定だったため、そのレースは同着による無効とされ、デッドヒート(Dead heat)と呼ばれた。これが俗に言うデッドヒートの語源である。

そんなデッドヒートの語源をまさに体現したのが、今年のオークスであった。府中の最後の直線で外から一気に抜け出したアパパネを、内からサンテミリオンがジワジワと差し返したところがゴールであった。アパパネとサンテミリオンによる激しい叩き合いは、これだけ科学が発達し、コンマ何秒が争われている世界でも、デッドヒート(同着)と判定されたのだ。G1レース史上初めてという、記録にも記憶に残るレースとなった。

このデッドヒートを観て、私は1996年の阪神大賞典をふと思い出してしまった。ナリタブライアンとマヤノトップガンが火の出るような追い比べを演じたマッチレースである。このレースはデッドヒート(同着)ではなかったが、3着以下の馬との差がなんと9馬身もあったように、まさにヒートレースのようであった。ナリタブライアンの単勝馬券を手にしていた私は、いつものレースよりも長い、最後の直線における至福の時の流れを味わうことができた。それはマヤノトップガンの単勝を握っていた人も同じだったのかもしれない。

この話には続きがあって、当然のことながら、次走の天皇賞春において、ナリタブライアンは1.7倍、マヤノトップガンは2.8倍と、圧倒的な人気に推された。しかし、阪神大賞典で後続に9馬身もの差をつけたはずのナリタブライアンとマヤノトップガンが、本番の天皇賞秋であっさりと負けてしまったのだ。ナリタブライアンは、最後の直線で先頭に立ったものの、サクラローレルに外から交わされると、すでに抵抗する力は残っていなかった。マヤノトップガンは、阪神大賞典で相手にしなかったはずのハギノリアルキングにも後ろから差されて、5着と惨敗してしまった。

天国と地獄といおうか、もちろんナリタブライアンの単勝に前回の勝ち分もまとめて突っ込んでいた私は、驚きを隠せなかった。どうすれば、あれだけ前哨戦で他馬に差をつけた2頭が、全く不利もない状態で、これだけ凡走するのだろう。レース後の私は、戸惑い、うろたえ、一緒に観戦していた友人に対して、意味の分からないことをつぶやいていたような気もする。そして、最後は、「競馬に絶対はない」という言葉で締め括ったのだろう。それ以外に説明する言葉が見当たらなかったのだから仕方ない。

「デッドヒートの後には反動が出る」。

ナリタブライアンとマヤノトップガンが、阪神大賞典を通して私に示した教えである。ここで私が言うデッドヒートとは、同着のレースという厳密な意味ではない。最後の直線にて、2頭もしくは複数の馬が馬体を併せ、死力を尽くしてゴールまで長きにわたって叩き合うことである。たとえ同着であっても、たまたまゴールしたタイミングが同じというレースであれば、お互いに反動は皆無だろう。そうではなく、騎手からの叱咤激励を受け、サラブレッドの本能に導かれ、馬体を併せた相手に負けまいと、肉体の限界を超えて走る時間が長ければ長いほど、必ずやレース後に反動に襲われるのだ。

府中のぬかるんだ長い直線を叩き合ったアパパネとサンテミリオンの2頭に、反動がなかったとは思えない。3冠を狙うアパパネは、ローズSの直線で失速し、まさかの4着と秋緒戦を落とした。サンテミリオンにおいては、酷暑の影響もあったにせよ、前哨戦すら使えず、回復が遅れていたことは否めない。アパパネもサンテミリオンも他の牝馬たちとは一枚抜けた能力を持っていることは確かであるが、オークスでのデッドヒートの代償をどのような形で支払うことになるのだろうか。もし秋華賞で2頭が負けるようなことがあっても、今回だけは「競馬に絶対はない」という言葉を使うことはないだろう。


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連勝が止まった馬の次走

Perusa連勝につぐ連勝を重ねてきた馬が、突如としてあっけなく負けてしまうことがある。その理由は、「連勝している馬ほど危険」にも書いたように2つあって、ひとつは連勝していくうちに相手が強くなってくるから、もうひとつは体調を維持することが難しいからである。そんな中でも、4連勝、5連勝できる稀な馬もいる。高い能力を秘めていることの証明であり、真似しようと思ってもできない芸当だろう。こうして何連勝もできる馬は間違いなく強い。

しかし、そんな強い馬でも、一度連勝が途切れてしまうと、その後が続かないことが案外多い。それまでの連勝がまるでウソのように、勝てなくなってしまったり、再び力を発揮できるようになるまで多大な時間が掛かったりする。

このことを初めて思い知らされたのは、今から20年前に遡る、1990年の天皇賞秋のことである。実は私が競馬を始めた年でもあり、初めて競馬場に足を運んだ日であった。この年の天皇賞秋にはあのオグリキャップが出走していて、どのスポーツ新聞を見ても「オグリキャップ!」の文字が躍っていた。宝塚記念以来のぶっつけで臨んできたオグリキャップが、どのように劇的に復活するのか、そこに競馬ファンとマスコミの焦点は集まっていた。そんな逆らいがたい雰囲気に流されつつも、私には1頭だけどうしても気になる馬がいた。

マキバサイクロンという馬である。父オランテ、母の父テューダーペリオットという地味な血統(当時はそんなこと知る由もないが)ながらも、天皇賞秋の前哨戦である毎日王冠まで4連勝してきた馬であった。900万下条件を2度勝ち、安達太良Sを勝ち、返す刀で関屋記念を制した。4連勝の勢いで臨んだ毎日王冠は負けてしまったものの、勝ち馬とは僅差の2着。この強さは本物で、天皇賞秋でも勝つチャンスは十分にあると思えた。何よりも、競馬を始めたばかりの私にとって、競馬新聞の馬柱がほとんど1着で埋め尽くされていることと、竜巻という雄々しい名の響きに魅力を感じてしまったのだ。

ところが、私の期待に反して、マキバサイクロンは13着に大敗してしまった。オグリキャップが負けたことで騒然とする競馬場で、ただひとり、私は競馬新聞の馬柱をもう一度見直していた。なぜあれほど強かったマキバサイクロンが、こうもあっさりと惨敗してしまったのだろう。マキバサイクロンから、連勝していたときの輝きがなぜ失せてしまっていたのだろう。考えてみたものの、当然のことながら、その当時は答えに至ることはなかった。マキバサイクロンは、その後、1勝もすることなくターフを去った。マキバサイクロンの謎は謎のまま私に残った。

今ならば分かる。連勝が止まった馬がその次のレースでもまた負けてしまうのは、肉体的にも精神的にも切れてしまうからだ。これは連勝している馬があっけなく負けてしまう2つの理由と密接に関係している。連勝している馬には陣営の負けたくないという気持ちが伝わって、常に100%に仕上げられるため、連勝が途切れた途端に調子は下降線を辿ってしまうことになる。また、クラスの壁にぶち当たって連勝が止まった馬にとって、どれだけ一生懸命走って力を出し切っても、これまでのように他馬に勝つことができなくなってしまう。これらの理由が重なると、2度と立ち直れなくなってしまうことも多い。つまり、連勝している馬ほど危険であるとともに、連勝が途切れてしまった馬の次走もまた危険なのである。

今年の毎日王冠にはデビュー以来、負け知らずの4連勝でダービーに臨んだペルーサが出走してくる。残念ながら、ダービーは出遅れがポジション取りに影響し、超スローペースのレースで外々を回されて力を出し切れずに敗れてしまった。あれが力負けだとは決して思わない。それでも、連勝が止まったことは確かで、どこまで肉体的にも精神的にも回復しているのか心配である。それとも、ダービーが終わった後、タイミング良く休養を入れたことが吉と出るのか。連勝が止まったペルーサの走りに注目して見守りたい。

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出遅れた幸運

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出遅れにはどうしても悪いイメージがつきまとう。出遅れてしまって逃げられず、または出遅れてしまい最後は伸びてはいるが届かず、などなど。人間の競走に比べ、競馬のレースには展開や脚質というものがあるので、多少出遅れてもなんとかなるかもしれないという希望を抱きやすいが、そもそも競走において、スタートで出遅れてしまうことがマイナスに働くことは言うまでもないだろう。特に、わずか1分そこそこのタイムで決着してしまうスプリント戦において、出遅れは致命的である。ただし、ごく稀なケースではあるが、例外的に出遅れたことがプラスに出ることもある。

これはもはや伝説になっている話だが、まだデビューして間もなかった頃の武豊騎手が、桜花賞という大舞台で、圧倒的な人気に推されていたシャダイカグラを出遅れさせて勝利したことがある。当時、桜花賞は改修される前の阪神競馬場のおむすび型コースで行われていて、内枠を引いてしまった馬は、馬群の中で窮屈な競馬を強いられることが多かった。3歳のうら若き牝馬にとっては、馬込みの中で押し合いへし合いしているだけで、スタミナを消耗してしまう。

そんな中、武豊シャダイカグラは3枠を引いてしまったのだ。普通にスタートすれば、おそらく馬群の内に包まれたままレースを運ばなければならなかったが、武豊騎手は敢えてシャダイカグラをゲートからゆっくりと出し(と言われている)、馬群の外を気持ち良く、彼女のリズムで走らせた。その結果、ゴール前、シャダイカグラは糸を引くように伸び、内で粘るホクトビーナスを最後の最後で差し切ってみせたのだ。個人的には、武豊騎手はわざとシャダイカグラを出遅れさせたのではなく、出遅れることも想定していたからこそ、あれだけ冷静な、あたかも最初からそうすると決めていたような騎乗ができたのだと思う。

また、キンシャサノキセキは出遅れたことが馬の走るリズムを変えたケースである。キンシャサノキセキは今年の春、4連勝で高松宮記念を制し、届きそうで届かなかったG1タイトルを手にした。この快進撃のきっかけとなったのは、昨年の暮れに行われた阪神カップである。このレースで、キンシャサノキセキはスタートで大きく出遅れた。しかし、鞍上にいたデムーロ騎手は慌てることなく、キンシャサノキセキを最後方からゆっくりと走らせた。それまでのキンシャサノキセキは行きたがる気持ちが前に出すぎて、いつも力んで先行して、最後の1ハロンだけ止まってしまうというレース振りであった。だからこそ、G1レースを勝つことができなかった。

デムーロ騎手に導かれたキンシャサノキセキは、馬群の外々を伸びやかに走り、最終コーナーでは先頭に踊り出るほどの手応えの良さで、最後の直線では他馬を突き放した。あれだけ手脚を伸ばして走るキンシャサノキセキを久し振りに見たと私は感じた。最も驚いたのは、キンシャサノキセキ自身だったのではないだろうか。こんなにゆっくりと走っていいんだ、競馬っていつも一生懸命に走らなければならないものだと思っていた。キンシャサノキセキはそう思ったに違いない。7歳にして力を抜いて走ることを覚えたキンシャサノキセキは、遂に覚醒したのだ。

キンシャサノキセキは偶然の出遅れであったが、意図的に出遅れさせて、後方をゆっくり走らせることで馬のリズムを変えてしまったケースもある。ダンスインザムードがそれである。ダンスインザムードは桜花賞を制した後、極度のスランプに陥ってしまった。もとはと言えば、兄にダンスインザダーク、姉にダンスパートナーを持つ、ステイヤー寄りの血統背景の馬である。そのダンスインザムードが、マイルの桜花賞を理想的な競馬をして勝ってしまったのだから驚きであった。これはひとえにダンスインザムードのセンスと武豊騎手の絶妙な手綱さばきがあったからこそなのだが、反面、馬が短い距離を走るリズムを体で覚えてしまった。ダンスインザムードは道中で行きたがってコントロールを失い、ゴール前で失速というレースが目立つようになった。体はステイヤーでも、気持ちはマイラーになってしまったのだ。

あまりの不甲斐なさに、ダンスインザムード陣営は一策を講じることにした。ダンスインザムードが4歳になった年の府中牝馬Sのことであった。思い切って最後方からのんびり行かせて、最後の直線だけ脚を伸ばすというレースをしてみたのだ。それまで掛かり気味に先行していたダンスインザムードが最後方からトコトコ走っているのだから、競馬ファンは驚いた。追い込んできて8着と、このレースの結果を見る限りでは、作戦は失敗に終わったように映った。

しかし、そうではなかったのだ。ダンスインザムードは次走の天皇賞秋で牡馬に混じってあわやの3着と好走したのをきっかけに、マイルチャンピオンシップでは4着、休養を挟んで臨んだマイラーズCでダイワメジャーの2着に入った。何よりも良かったのは、その内容である。気持ちばかり焦っていた今までの走りとは打って変わり、道中でリラックスして走ることができるようになったのである。府中牝馬Sでわざと出遅れさせて、あなたのリズムでゆっくり走っていいんだよ、と教えた陣営の意図が見事に伝わったのだ。体と心が一致したダンスインザムードは、その年、ヴィクトリアマイルを勝利し、桜花賞以来となるG1タイトルを手にした。生まれ変わったダンスインザムードは、その後、アメリカのG3レースを制することになる。

出遅れという不運の中にも、幸運が眠っていることもある。シャダイカグラもキンシャノキセキもダンスインザムードも、あの出遅れがなければ、G1という勲章を手にしていたかどうか疑わしい。スピード優先の世の中で、出遅れてしまうことは確かに致命的かもしれないが、そうではないこともあるのだ。身と心が一致して、それまでとは生まれ変わったような走りを見せてくれた馬たちが、そのことを教えてくれる。もし出遅れてしまったら、慌てて追いつこうとなど、夢にも思わないことだ。出遅れたことをくよくよ悩まずに、周りを見渡しながら、自分のリズムでゆっくり走ってみよう。そうすることで、長い目で見れば、出遅れは出遅れではなくなり、出遅れた幸運にいつか感謝する日がくるはずだ。

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“野芝”か“洋芝”か、それが問題だ(後編)

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次に、「走法」について述べると、首の高い馬は洋芝が得意である。首が高いというのは、走る時に首の上下動がなく、胸を張ったような体勢で走る馬のことである。こういう走り方をする馬は、得てして上半身の力が強いのだが、全身を使って走るという意味においては少し物足りない。野球のピッチングでいうと、上半身だけを使って投げるピッチャーのようなものである。しかし、個体の肉体的な特性においてそういうフォームが出来上がっている以上、その馬にとっては最も走りやすいのであれば仕方ないという他はないだろう。

そんな褒められたフォームではない首の高い馬でも、重い馬場には抜群の適性を発揮する。荒れた馬場や道悪馬場、洋芝のように、力を要する馬場が得意なのである。なぜかというと、単純に上半身のパワーが強いからである。普段はどちらかというとロスの多い走法ではあっても、他の馬が苦にするような力を要する馬場では、上半身の力が強いという強みが生きるのだ。そう考えると、首の高い走法が洋芝に合っているのではなく、首の高い走り方をするような馬はパワーがあるからこそ、洋芝を得意とするということになる。

首の高い馬として真っ先に思い浮かぶのはジャングルポケットである。アグネスタキオンやクロフネと同じ2001年、レベルの高い世代のダービー馬である。この年のダービーは重馬場で行われ、首の高いジャングルポケットにとっては願ってもみない舞台となった。アグネスタキオンがいなかったこともあるが、重馬場を苦にすることなく、1番人気に見事に応えて見せた。レース後の興奮状態の時、首を天に突き上げるような仕草を何度も見せていたのが印象的であった。また、3歳にしてジャパンカップを制した時も、ペリエ騎手が最後の直線で首を何度も何度も押しながら、ジャングルポケットを追って追って、ゴール前でようやくテイエムオペラオーを差し切ってみせたシーンが記憶に残っている。

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ジャングルポケットの産駒は、首の高さ(首の高い走法)を受け継いでいて、やはり上半身が強い馬が多いのだろう。内国産馬であるにもかかわらず、洋芝でも強いレースをするのはこれゆえである。たとえば、今年の函館2歳Sは、ジャングルポケット産駒のマジカルポケットが、ゴール前でマイネショコラーデを差し切った。この馬も典型的な首が高い馬である。そして、翌週に札幌競馬場で行われたクイーンSでは、ジャングルポケット産駒のアプリコットフィズが古馬を相手に逃げ切って見せた。春は線の細さを感じさせた馬であったが、馬体も大きく成長して、持ち前の上半身のパワーを生かし切ったレースであった。このように、首の高い馬の産駒もしくは首の高い走法の馬は、野芝よりもパワーを問われる洋芝でこそ力を発揮する。

最後に、「馬体」について述べると、馬格の大きい馬の方が洋芝を得意とする。繰り返しになるが、洋芝は野芝に比べてパワーが問われるレースになるため、単純に馬格の大きな馬の適性が高い。分かりやすく言うと、馬体重の大きな馬を狙うべきということである。

たとえば、今年の札幌記念では「血統」的に洋芝適性の高い馬が何頭かいた。前述したように、母父にヨーロッパの血を持つ、アーネストリー(母父トニービン)、ロジユニヴァース(母父ケープクロス)、ヒルノダムール(母父ラムタラ)、ジャミール(母父サドラーズウェルズ)である。結果的には、これらの馬が上位を独占したのだが、その中でも馬体重の重い2頭がワンツーフィニッシュを決め、軽い2頭が4、5着に敗れてしまった。枠順や脚質などの要素が絡み合っての結果ではあるが、馬格のある馬の方が先着したのは事実である。洋芝適性がある馬が多く出走しているようであれば、馬体重の重い方を狙ってみるのもひとつの手であろう。逆のことが野芝にも言えるのではないだろうか。

このように、「血統」、「走法」、「馬体」の3点に注目してみると、“野芝”と“洋芝”に対する適性が少しずつ見極められるようになったのではないだろうか。もちろん、各馬は十人十色である。血統的には洋芝適性があっても、馬体が小さかったり、また首の高い走法で洋芝適性がありそうでも、野芝適性がある血統だったりするだろう。そこから先は、私たちが見極めなければならない。その場で考えて、結論を出さなければならない。「生きるか死ぬか、それが問題だ」と言ったハムレットのように、私たちは“野芝”か“洋芝”かを常に問われているのだ。それが夏競馬の面白さであり、難しさでもある。

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“野芝”か“洋芝”か、それが問題だ(中編)

Nosibayousiba01_2“野芝”と“洋芝”に対する適性を見極めるためには、「血統」、「走法」、「馬体」、の3点に注目しなければならない。

まずは「血統」から述べていくと、かなり大雑把ではあるが、野芝は内国産(もしくは日本で走った)種牡馬を父に持つ馬、父を洋芝は欧州の血を引く馬と考えると分かりやすいだろう。なぜ野芝が内国産(もしくは日本で走った)種牡馬を父に持つ馬かというと、実際に日本の軽い芝で活躍したからである。レコードが出るようなパンパンの馬場で勝った馬や、上がり3ハロンが33秒台で決着するような一瞬のトップスピードが問われるようなレースを制した馬だからこそ、種牡馬になれたのである。スピードと軽さを備えた種牡馬の血を引く馬が、野芝のレースを得意とするのは当然といえば当然といえる。

たとえば、代表格としては、サクラバクシンオーやタイキシャトルが挙げられる。この2頭の現役時代のスピードと軽さは、どちらもスプリンターズSをブッちぎって勝っているように、今さら説明する必要もないだろう。サクラバクシンオーはスプリンターズSを連覇したし、タイキシャトルは京王杯スプリングカップではゴール前、岡部幸雄元騎手が馬を追うのではなく引っ張っていた。それだけ他のサラブレッドとは別次元の速さがあったということだ。もっともサクラバクシンオーもタイキシャトルもパワーも兼備していたので(後者はフランスのG1レースを勝っている)、洋芝でも産駒は走るのだが、野芝でスピードを争うレースを最も得意とすることは間違いない。

野芝でも、距離が伸びるとダンスインザダークやスペシャルウィークらが台頭してくる。どちらもサンデーサイレンスからスピードを受け継いでいて、それを驚異的な瞬発力に変換して大レースを制した馬である。母系に綿々と流れる豊富なスタミナをベースとして、かつ手脚に軽さがあるからこそ、一気にギアチェンジが可能だったのである。ダンスインザダークが3000mの菊花賞で繰り出した、ラスト3ハロン33秒8の末脚には驚きを隠せなかったし(私は差しきられたロイヤルタッチを買っていた)、スペシャルウィークも3200mの天皇賞春を34秒2の瞬発力で、コテコテのステイヤーであるメジロブライトを下した。これらの種牡馬の産駒は、野芝で行われる中距離のレースでスピードと軽さを生かすことができるのだ。

なぜ洋芝が欧州の血を引く馬かというと、洋という言葉が示す通り、欧州の重い馬場をこなしたパワーとスタミナがあるからである。たとえば、トニービンやダンシングブレーヴのように、脚が埋まってしまうような馬場をものともせず、凱旋門賞を制した馬には計り知れないパワーとスタミナがある。あのディープインパクトでさえ、苦しがって最後の直線で3度も手前を替えていたレースを制したのだから、2400mという距離以上のスタミナもあるのは確かである。こうした名馬の血を受けた産駒たちが、日本の洋芝を苦にするはずがない。他の馬たちが芝に脚を取られて、スタミナを失っている間に、涼しい顔でゴールを駆け抜けるのである。

洋芝は字ズラ以上にスタミナが問われることを考えると、実は父だけではなく、母の父にヨーロッパの血統が入っているかどうかも見なければならない。スタミナは母の父から遺伝する部分が大きいだけに、たとえ父が短距離血統であっても、母の父にヨーロッパのスタミナ血統が入っていれば十分にこなしてしまうことがあるのだ。たとえば、昨年のクイーンSで大穴を開けたピエナビーナスは、父がフジキセキだが、母父にカーリアンが入って大幅にスタミナを増強している血統であった。内ラチ沿いをコースロスなく回ってきた好騎乗はあったとしても、ピエナビーナス自身の大変身を見るにつけ、洋芝に明らかに適性があったことは間違いない。

(後編に続く→)

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“野芝”か“洋芝”か、それが問題だ(前編)

毎年、うだるような暑さが続くこの時期になると、私たち競馬ファンは、“野芝”や“洋芝”という言葉を耳にタコができるほど聞かされていることだろう。「血統的にこの馬は洋芝適性がある」とか、「野芝100%の絶好の馬場だからレコード決着になりそう」など、中央開催時には聞いたこともない会話が飛び交う。“野芝”や“洋芝”は、夏競馬を攻略するためには、必ずや知っておかなければならないキーワードであることは疑いようがない。

野芝は暖地性の芝草であって、気候が暖かくなる6月から成長を開始し、8月の一番暑い時期に最盛期を迎える。野芝は非常に強靭で、耐久性が高い。地面に地下茎を張り巡らせて横にネットワークを作るため、馬の蹄が当たって多少の衝撃があろうともビクともしない。野芝が生え揃った状態の馬場には、押すと弾き返すといったクッションが感じられ、硬くてスピードが出る。主に新潟、小倉競馬場が野芝100%の芝コースを採用している。

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野芝の弱点は、寒さに弱く冬枯れしてしまうということである。野芝しか使っていなかった昔の中山競馬場の馬場は、暮れになると芝がまるで土のような色になり、見映えは決して褒められたものではなかったことを思い出す。当時、ジャパンカップに来た外国人関係者が、「芝のコースはどこにあるのですか?」と尋ねたという笑い話は有名である。

洋芝は寒地性の芝草である。洋芝の葉の密度は野芝よりもずっと濃いため、馬の蹄が芝の上に着地してから、芝が倒れて足の裏が地面に着くまでに時間差があるように感じる。野芝が押すと弾き返すクッションであれば、それとは対照的に、洋芝は押すと凹んで力を吸収するクッションである。それゆえ、洋芝の芝コースは重くて、パワーとスタミナが必要とされる。主に札幌、函館競馬場が洋芝100%の芝コースを採用している。

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洋芝の芝コースは極めて美しい。次々に新しい芽が吹いて密度がどんどん高まり、しかも寒い時期でも冬枯れしないため、芝コースを1年中緑に保つことも可能である。野芝に比べ、洋芝はテレビ映りが断然にいいのだ。

しかし、強度と耐久性という点では野芝に劣る。馬の蹄が強く当たると、根こそぎ芝が剥がれてしまうこともあり、ポカっと穴があいてしまい危険である。また、高温の夏には夏枯れしてしまうことがあり、さらに雨が降ってしまうと途端に馬場が悪化することもある。だからこそ、洋芝100%の芝コースは札幌と函館競馬場のみでしか成立しない。

たとえ同じ芝でも、“野芝”や“洋芝”ではこれだけの違いがある。野芝100%の芝コースで行われる新潟、小倉競馬場ではスピードと軽さが求められるのに対し、洋芝100%の芝コースで行われる札幌、函館競馬場ではパワーとスタミナが求められる。これだけ相反する要素が問われる以上、その馬が“野芝”や“洋芝”のどちらに適性があるのかを知らなければ、夏競馬で勝ち馬を見つけることは難しいのである。

それでは、どのようにして“洋芝”と“野芝”に対する適性を見極めるだろうか?

この続きは、また次回へ。

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スタミナは母の父から

Sundaysilence

スタミナは母の父から遺伝することに気付いたのは、私に起こったある2つの非連続的な出来事による。ひとつは、昨年の天皇賞春において、母父にサンデーサイレンスの血を持つ有力馬たちが、淀の最後の直線でバタバタと倒れていったこと。勝った馬は父チーフベアハート×母父サッカーボーイという血統構成のマイネルキッツであった。私は2年連続でアサクサキングスに本命を打っていただけに、あまりの無様な負け方に少なからずショックを受けた。そして、サラブレッドの血による支配を感じざるを得なかった。

人気に推された有力馬たちの血統を挙げると、以下のようになる。

アサクサキングス(1番人気)父ホワイトマズル 母父サンデーサイレンス
スクリーンヒーロー(2番人気) 父グラスワンダー 母父サンデーサイレンス
ジャガーメイル(6番人気) 父ジャングルポケット 母父サンデーサイレンス
ヒカルカザブエ(7番人気) 父ジャングルポケット 母父サンデーサイレンス

いずれの馬も馬体だけを見ると、胴部や手脚に伸びがあり、長距離レースを走られそうなスタミナを有しているように思える。前哨戦の走りを見てもそれは明らかで、だからこそ本番の天皇賞春でも人気になったともいえる。アサクサキングスとヒカルカザブエは阪神大賞典(3000m)の1、2着馬である。さらに、アサクサキングスの父ホワイトマズルは、天皇賞春を制したイングランディーレを出している。スクリーンヒーローの父グラスワンダー自身は2500mの有馬記念を、ジャガーメイルとヒカルカザブエの父ジャングルポケットは、2400mのダービーとジャパンカップを勝っている。前哨戦から距離がわずか200m伸びただけで、またレースの格が上がり、中身の濃い厳しい競馬になったとしても、この4頭があそこまで大崩れしてしまうとは到底考えられなかったのだ。

もうひとつは、ある飲み会の席でのちょっとした会話である。髪の毛の話になり、席上のひとりが自分の頭を指差してこう言った。「俺のオヤジは禿げてるんだけど、母親のおやじがフサフサでさ、おかげで助かったよ、ほらこの通り」。それを聞いたもうひとりが、「そっか、だから僕は髪の毛が薄いんだ…。オヤジはフサフサなのになぁ」と返した。そんなやり取りを見て、私はドキッとして、ひと言も発することが出来なかった。最近薄くなってきた自分の頭や母の父を想い、「なるほどね」と我が意を得たのである。信じたくはないが、サラブレッドのスタミナの有無が母の父から受け継がれるように、人間における髪の毛の薄さも母の父から遺伝するようだ。

日本競馬を席巻し、なお今も産駒の直仔を通して圧倒的な影響を及ぼし続けるサンデーサイレンスだが、唯一の弱点は母父に入った時のスタミナのなさという点だろう。サンデーサイレンスは基本的にはスピードと瞬発力を伝える種牡馬である。その裏返しとして、母父に入った時には、ジリジリと走らなければならない、スタミナを問われるレースを苦手とする。父としてはダンスインザダークやディープインパクトなど、菊花賞や天皇賞春を制した産駒をたくさん出したが、それは母父にスタミナを十分に有する種牡馬がかかっていたからである。ちなみに、ダンスインザダークの母父はニジンスキー、ディープインパクトの母父はアルザオである。

たとえ現代のスピード化された競馬であっても、3000mを超すレースではスタミナが問われる。スタミナが母の父から受け継がれる以上、長距離レースを予想するにおいてまず見るべきは母の父だろう。昨年ほどではないが、今年の天皇賞春にも母父にサンデーサイレンスの血を持つ馬が出走してくる。京都記念であのブエナビスタに迫ったジャガーメイルや親子4代制覇を目論むホクトスルタンがそうである(ホクトスルタンは残念ながら出走できず)。対して、ジャミールやメイショウベルーガ、フォゲッタブル、トーセンクラウンといった、母父にサドラーズウェルズやトニービン、ダンシングブレーヴなど欧州のステイヤーの血を含む馬も多い。極限のスタミナを問われるはずの天皇賞春こそが、髪の薄さとスタミナの有無は母の父から遺伝するという仮説を実証してくれるのではないだろうか。

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ヴィクトワールピサはアグネスタキオンか?

Yayoisatuki

過去10年間において、弥生賞を勝ちそのまま皐月賞を制した馬は、アグネスタキオンとディープインパクトしかいない。理由についてはここでは言及しないが、それだけ弥生賞と皐月賞という2つのレースの相性が悪いということになる。アグネスタキオンやディープインパクト級ではないと、弥生賞→皐月賞という連勝は難しいのだ。

今年はヴィクトワールピサがこのパターンに当てはまる。そして、重馬場の弥生賞を勝ったという点において、私にとってはアグネスタキオンとヴィクトワールピサがどうしても重なって見えて仕方ない。

実を言うと、2001年の皐月賞で私はアグネスタキオンを消しにした。なぜなら、弥生賞の勝ち馬が皐月賞でも同じようなパフォーマンスをすることは難しいからである。ディープインパクトのように、よほど余裕残しで弥生賞を勝つぐらいではないと苦しい。アグネスタキオンは、重馬場の弥生賞で2着以下を千切り捨てるような強い勝ちっぷりであったが、その強さがかえって心配材料に思えた。マイナス8kgという馬体重からも、思いのほか弥生賞で仕上がってしまったと私は解釈した。先に控えるダービーのことを考えると、無意識であったとしても、陣営は皐月賞で少し緩めて仕上げてくるだろう。それでも勝てるかどうか。私は否と思い、アグネスタキオンではなくジャングルポケットに本命を打った。

結果的には、アグネスタキオンは危なげないレース運びで1冠を手にした。弥生賞から緩めることなく、さらにビッシリと仕上げてきたような状態であった。予想が外れてしまったからではなく、アグネスタキオンの勝ちっぷりを見て、私はアグネスタキオンの行く末を危惧した。果たして、このままダービーまでもつのかどうかと。ダービーまでの中5週のローテーションは、絶好調をそのまま維持するには長すぎて、一旦馬体を緩めて再び仕上げ直すには短すぎる。奇跡でも起きない限り、アグネスタキオンはダービーを勝てない。3冠確定という世間の空気を読めない私は、ダービーでも絶対に消しを貫こうと心に決めた。

ところが、アグネスタキオンは屈腱炎を発症してしまい、ダービーに出走することはなかった。弥生賞と皐月賞を連勝することの代償を、こんな形で払うことになるとは無念だったろう。どこかで無理をしないと、この2つのレースをどちらも制することは難しい。そのことは、皐月賞後の河内騎手の「この馬本来の走りではなかった」というコメントに集約されているのではないだろうか。私は今でも、もしアグネスタキオンがなんとかダービーで走っていたとしても、ジャングルポケットには負けていたと信じている。

ヴィクトワールピサはアグネスタキオン級の素質を持っている馬である。だからこそ、無理をすれば皐月賞を勝てないことはない。しかし、それが本当に良い結果とは限らないことを知っておきたい。勝ってほしいけど、負けて欲しい。私にとって今年の皐月賞は、そんな歯がゆいレースになりそうだ。ヴィクトワールピサはアグネスタキオンになるのか、それとも…。

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デリケートな問題にこそ

Hinbanobataijyuu

この時期の牝馬は敏感で仕上げが難しいため、大幅な馬体減や馬体増の意味をきちんと見極めなくてはならない。歯替わりやフケの影響かもしれないし、調教やレースでの疲労から体が痩せてきているのかもしれない。また、これまでが余裕を持たせたつくりで、今は少しずつ絞れてきているのかもしれない。

たとえば、平成8年の桜花賞馬ファイトガリバーの新馬戦からの体重を見てみたい。

新馬戦   494kg 1着
紅梅S   486kg 2着
桃花賞   482kg 1着
アネモネS 476kg 3着
桜花賞   470kg 1着

なんと、新馬戦から桜花賞までの間に24kgも体重が減っていることが分かる。結果的に見ると、新馬戦の馬体が明らかに太かったのであって、桜花賞の470kgがこの馬にとってはギリギリの仕上げであったと考えられる。その反動が出たのか、次走のオークスでは、最後は差してきたものの2着に敗れてしまった。

今年の桜花賞も、前走で大幅に馬体重を減らした馬が目に付く。

ショウリュウムーン 458kg→450kg(デビュー戦は464kg)
コスモネモシン 444kg→438kg(デビュー戦は454kg)
サウンドバリアー 472kg→466kg(デビュー戦は478kg)
エーシンリターンズ 448kg→440kg(デビュー戦は464kg)

この4頭に共通するのは、前走である前哨戦で1~3着と好走しているということ。サウンドバリアーはまだ太いというコメントが調教師から出ているが、普通に考えれば、権利を獲るために前走でキッチリと仕上げてきたと考えることができる。たとえば、休み明けでチューリップ賞を2着したアパパネ(+6kg)やフィリーズレビューを2着したラナンキュラス(+6kg)、アネモネSを2着したアニメイトバイオ(+14kg)と比べると、仕上げの過程の違いは一目瞭然である。つまり、前走で仕上がって上積みがない馬たちと、前走をひと叩きして上積みを期待できる馬たちに分かれるということだ。

その他、デビューからほとんど馬体重が変化しない馬たちもいる。アプリコットフィズはデビューから3戦とも430kg、オウケンサクラはどんなにレース間隔が詰まっていたとしても490kg前後の馬体重でコンスタントに走っている。レディアルバローザに至っては、デビューから6戦とも同じ466kgという馬体重であるから驚きである。馬体重に変動のない(少ない)馬は、多少の環境の変化には動じない、牝馬らしからぬ精神的強さや安定感があるのだろう。アプリコットフィズは初の長距離も案外こなしてしまうかもしれないし、レディアルバローザはビッシリ調教が施せるはず。オウケンサクラは今回も頑張るだろう。

馬体重の変遷を見ると、その馬の仕上がり具合だけではなく、気持ちのありようまで見えてしまうから不思議だ。今年の桜花賞は、年頃の女の子たちにとってはデリケートな体重の問題にこそ、勝ち負けの秘密が宿っているのではないだろうか。

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昨年の覇者は買い?それとも消し?

Sakunennohasya02私たちが馬券の検討をする際に、昨年の覇者をどう扱うかという問題に直面することがあるだろう。昨年そのレースを勝った馬が今年も再び出走してくることができる重賞レースでは、そういった問題が起こりやすい。特に夏競馬や隙間の重賞で、その傾向は顕著である。G1レースに比べて、ある特定の条件のレースにある特定の馬が目標を定めて、何度も出走してくることが多いからである。

昨年の覇者を考えると、2面性が浮かび上がってくる。プラス面でいうと、昨年の覇者はそのレースにおける適性が高い。その馬の特性(個性)が、その特定のレースで要求されているスピードやスタミナ、脚質や器用さ等と合致したからこそ、昨年は勝てたのである。マイナス面でいえば、昨年の覇者はひとつ歳を取っているということである。高齢まで活躍できる馬もいることは確かだが、1年という年月の経過によって、基本的には昨年に比べると力が衰えているケースが多いだろう。また、昨年の覇者ということでマークされる立場に回ることにもなる。

結論から述べると、昨年の覇者をもう一度狙うかどうかの基準は人気である。昨年よりも人気になっていれば消し、人気になっていなければ買いということだ。なぜ人気を基準にするかというと、あくまでも妙味の問題である。つまり昨年の覇者には、そのレースに対する適性は高いという好材料と力が衰えている上にマークされるというリスクが同居している以上、人気になっている馬を買うのは美味しくなく、人気が下がっている馬は狙いどきということである。

たとえば、マツリダゴッホがオールカマーを3連覇したことは記憶に新しい。どのレースも、他の馬たちには手も脚も出させない完勝であった。マツリダゴッホのオールカマーにおける人気(単勝オッズ)は以下のとおり。

2007年 2.3倍(1番人気)
2008年 1.4倍(1番人気) 消し!
2009年 4.6倍(3番人気) 買い!

オールカマーにおけるマツリダゴッホの場合、2008年は昨年よりも人気になっているので消し、今年2009年は昨年よりも人気になっていないので買いということだ。そうすると、昨年は外れてしまうことになるが、それは仕方ないことだろう。1.4倍の馬券を買わずに外れても、今年の4.6倍の単勝を当てる方が良い。つまり、結果的に見ると、マツリダゴッホの力は衰えていなかったわけだが、そのリスクを考慮に入れると2008年は買うべきではない馬券であり、逆にオールカマーというレース(特に中山2200m)に対する適性を考えると、人気が落ちた今年は絶好の買い時だったといえる。

もう1頭、今年もサマースプリントチャンピオンに輝いたカノヤザクラを例に取り上げたい。カノヤザクラが連覇を狙った、アイビスサマーダッシュとセントウルSにおける人気と着順は以下のとおりである。

アイビスサマーダッシュ
2008年 5.4倍(2番人気) 1着
2009年 7.5倍(3番人気) 1着 買い!

セントウルS
2008年 7.6倍(3番人気) 1着
2009年 3.4倍(2番人気) 4着 消し!

アイビスサマーダッシュは昨年あれだけの強さを見せつけたにもかかわらず、臨戦態勢等が不安視されたのか、7.5倍の3番人気にとどまった。スタートからゴールまで折り合いを気にすることなく一気に走り切る、新潟の直線競馬に対するカノヤザクラの適性の高さを考慮すると、この7.5倍は非常に美味しい馬券だったといえるのではないか。対照的に、セントウルSでは昨年と打って変わって3.4倍の2番人気に支持されてしまい、牝馬の5歳であることを考えると、昨年ほどの勢いを期待するのは酷だったということになる。

あくまでも私が述べているのは妙味の話である。もちろん、昨年の覇者といっても各馬それぞれの状況があるが、もし買いか消しかで迷ったら、昨年よりも人気になっていれば消し、人気になっていなければ買いという基準で判断してみて欲しい。そして、もう勘の良い方ならばお気づきになったと思うが、昨年の覇者は昨年よりも人気になりやすいので基本的には消しになることが多い。今年の京都大賞典には、昨年の覇者トーホウアランが出走してくる。昨年は9.1倍の4番人気で見事勝利したが、今年はおそらくそれよりも人気になりそうな雰囲気である。よって、今年は買うつもりがないのだが、果たして結果はいかに。

Sakunennohasya

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連勝している馬ほど危険

Rennsyou_2連勝している馬は、それだけで人気になってしまう。馬柱に1、1、1…と数字が並んでいれば、誰が見ても勢いを感じるだろうし、その馬の能力の高さが分かるからである。競馬をよく見ている人ほど、その勝ちっぷりの良さを知っていて、そしてここ最近ではその馬が勝つところしか見ていないように思えるだろう。そんな馬をいきなり馬券の対象外とするのは難しく、どちらかというともう一丁を期待して、渾身の◎を打ちたくなるのも当然である。

しかし、実は連勝している馬ほど危険な馬はいない。走る能力のある馬であれば、何かのきっかけ(脚元や気性の不安が解消されるなど)でポンポンポンと3連勝することはできても、4連勝、5連勝することは極めて難しいのである。連勝の壁は、3と4の間が高く、4と5の間はさらに高い。ドミノ倒しのように3、4、5と倒れていくのではなく、3、4、5と段々高くなっていく壁を登っていくイメージである。シンボリルドルフやディープインパクトのように傑出している馬は別として、その他の馬たちにとって、4連勝、5連勝は難しいのだ。

なぜならば、連勝していくにつれ、戦う相手が強くなっていくからである。当たり前のことだが、連勝してクラスが上がっていくと、同じように能力の高い馬と走らなければならなくなる。1000万下と1600万下では走破タイムも違うし、レースの厳しさも異なる。1600万下とオープンではなおさらである。これも連勝の論理と同じで、クラスが上がっていけばいくほど、壁は高くなってゆく。勝てば勝つほど相手が強くなり、勝つのが難しくなってくるのは自明の理だろう。

もうひとつの理由は(といっても競馬ではこちらの方が大きいのだが)、連勝するために体調を維持することが難しいからである。競馬で連勝することの難しさは、実はここにある。たとえどれだけ能力の高い馬であっても、肉体面、精神面でのコンディションが悪ければ負けてしまう。シンボリルドルフが秋の天皇賞でギャロップダイナに強襲されたのも、ディープインパクトが有馬記念でハーツクライを捕らえられなかったのも、体調が優れなかったからに他ならない。サラブレッドという繊細な生き物の特性上、常にベストコンディションを保ってレースに出走することは、極めて難しいのである。

そこが3連勝と4連勝の壁であり、4連勝と5連勝の壁でもある。たとえば、1ヶ月に1回のペースでレースに出走し、休養を挟むことなく連勝を3に伸ばしたとすると、およそ3ヶ月の間、コンディションを保っていたことになる。しかし、なかなかそれ以上になると苦しい。サラブレッドの体調には必ずバイオリズムがあり、3ヶ月以上にわたってベストコンディションを保ち続けることは至難のワザなのである。かつて藤沢和雄調教師が春3走、秋3走がベストと言っていたのは、そういう意味でもある。

また、レースとレースの間に休養を挟んで連勝を3に伸ばしたとする。すると、一度馬体を緩めてから改めて仕上げ直すことになるため、毎回毎回休み明けでもキッチリと仕上げていることになる。それはそれで難しいことでもあるし、次もキッチリ仕上げて勝たなければならないという人間側のプレッシャーが長期間にわたるため、それが馬にも伝わり、精神的に休まっていない状態が続くことになってしまう。今年の皐月賞でロジユニヴァースが思わぬ惨敗を喫したのも、連勝による精神的な疲れがピークに達してしまっていたことにある。特に無敗でクラシックに臨むプレッシャーは計り知れない。

だからこそ、連勝している馬ほど危険な存在はいないのである。見た目とは裏腹に、一寸先は闇という状況が続いているのだ。競馬というスポーツもしくはゲームの構造上、同じ馬が何度も続けて勝つことは困難なのである。競馬は勝ったり負けたりして成り立っていて、その勝負の綾の上に名馬やドラマが生まれるのだ。今週のセントライト記念には3連勝中のアドマイヤメジャーが出走するが、この馬も危険な人気馬であることは確かである。もしここを勝って4連勝で菊花賞に臨むことになったとしても、本番ではさらに危険な人気馬になることは、このエントリーを読んでいただいた方ならお分かりいただけるだろう。

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牝馬の「瞬発力」について

先日のエントリー「夏は牝馬のウソ本当」の内容について、「けいけん豊富な毎日」のけん♂さんからご質問を頂戴したので、この場を借りて補足説明をさせてもらいたい。けん♂さんの質問内容は以下の通り。

勾配の急な競馬場で牝馬が活躍しにくいという理由には非常に納得させられました。たしかに牡馬の方が力があるでしょうし生物学的に説明出来そうです。気になったのは瞬発力、という点。人間で見ると100m走でも男性のタイムの方が速いわけで、瞬間的な加速力についても生物学的に牡馬優位であるんじゃないかと・・・。50m走なら黒人よりも日本人の方が速い、という話を聞いたことがありますが、そういう感じで筋肉の質に違いがあるのでしょうか?

確かに、人間で考えてみると、女性よりも男性のタイムの方が速い。ちょうど先日、世界陸上で男子100m走を見終えたばかりなので、男子の短距離ランナーの圧倒的な爆発力が印象に残っていて、余計にそう思える。暑さに対する我慢強さや環境に対する適応力は人間に置き換えたにもかかわらず、こと瞬発力について話は別とするのはズルイ気もするが、やはり競馬でいう瞬発力と人間の短距離走では異なると考えるべきなのだろうか。

そもそも「瞬発力」とは何だろう?俗に言われる、上がり3ハロンが33秒台だから瞬発力があるという意味ではない。これは厳密に述べると、上がりの速い競馬に対応できる能力ということである(だからと言ってこの使い方が間違っているわけではなく、状況に応じて、そういう使われ方をすることもあっても問題ないと私は思う)。ここでいう「瞬発力」とは、瞬間的にスピードを上げる能力のこと。つまり、「瞬発力」に富んでいるとは、一瞬のうちにトップスピードに達することが出来るということである。

そういった定義の下、牡馬に比べて牝馬の方が「瞬発力」に富んでいるのである。牝馬の方がトップスピードに乗るまでの時間が短い、ということである。ラスト3ハロンとかそういう単位ではなく、もっと短い距離での一瞬のスピードの話なのだ。よく牝馬特有の切れ味という言い回しをされるのは、つまりそういうことである。牡馬がスピードに乗らんとしている時に、牝馬はあっという間にトップスピードに達してしまうということだ。

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なぜ牝馬は「瞬発力」に富んでいるかというと、気性と馬体のサイズという理由があると私は考えている。気性について述べると、牝馬は牡馬に比べ、総じて気性がきつい。癇性(かんしょう)が激しいと言い換えることも出来る。この癇性の激しさが、ジョッキーに追われた時(つまり獲物に追われている時)の反応の速さとして出るということである。

また、馬体のサイズについて述べると、牝馬は牡馬に比べ、総じて馬体が小さい。馬体が軽いと言い換えることも出来る。この馬体の軽さが、トップスピードに乗るまでの時間の早さとして出るということである。たとえば、軽自動車と2トントラックが同じ速さで走っていて、そこから一気にスピードを上げて競争することをイメージしてもらうと分かりやすい。2トントラックがジワジワとしかスピードを上げられず喘いでいるのを横目に、軽自動車は一瞬にしてトップスピードに乗ってしまうだろう。車体が重ければ重いほど、ギアチェンジをして瞬間的にスピードを上げるまでに、時間を要してしまうからである。

ここで述べているのはあくまでも一般的な話であり、全ての馬に当てはまるわけではない。分かりやすくするために、牡馬と牝馬と二分しているだけである。馬体が大きく、のんびりした牝馬もいるし、馬体が小さく、癇性の激しい牡馬もいる。牝馬が必ずしも瞬発力に富んでいるとは限らないのである。だからこそ、実際の競馬では個々の馬を見ていかなければならず、そのためにも、なぜそうなるかという理由を知っておかなければならない。そこが競馬というゲームの難しさであり、また奥深いところでもあるのだ。

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「夏は牝馬」のウソ本当

Natukeibatohinba_2夏競馬攻略法のひとつに、牝馬を狙うというものがある。これまで20年近く競馬を観てきて、夏競馬における牝馬の強さはよく分かっているつもりだが、牝馬が暑さに強いという理由にはどうしても納得がいかない。生物学的に、牡馬に比べ牝馬は暑さや痛みなどに対して我慢強く、また環境の変化への対応力にも長けているとされる。本当だろうか。

人間で考えてみても、後者は確かにそうだろう。新しいコミュニティに放り込まれても、素早く自然に溶け込んでいくのはまず女性であることが多い。そうやって、我われ人間はコミュニティや文化を保ってきたという面もある。人間関係だけではなく、気候などの変化に対しても、女性の方がスムーズに適応しやすい。男性に比べ、生命力が強いという言い方もできる。

それでは、前者はどうだろうか。100歩譲って痛みに強いことは認める。女性は出産の際の激痛にも正気を保っていられるが、男性であれば気絶してしまうという。自分の股下からあれだけ大きなものが出てくることを想像するだけで、私には耐えられない。しかし、暑さとなると話は別である。私の知っている限りの女性は、皆、男性である私よりも暑さに弱かった。すぐに「暑い、暑い」と言うのは決まって女性であった。今、ウンウンと頷いてくれている男性は多いのではないだろうか。

これはあくまでも私の主観だが、なぜ女性が暑さに弱いかというと、肉体の構造上、男性よりも脂肪の割合が多いからである。寒い時期には脂肪は保温の役割を果たすが、暑い時期には熱を逃がさない作用をしてしまう。羽毛の布団をかけているようなものだ。もちろん、個人差があるので、一概に決め付けられないことは分かっている。それでも、暑さということに限って言えば、総体的に見て、女性の方が男性よりも強いということはないことは明らかである。

夏競馬で牝馬が活躍するのは、実は別の理由がある。

夏競馬が行われる7月~8月のレースは、高低差のほとんどない平坦な競馬場で行われるからである。坂道を駆け上がることを思い浮かべてみて欲しい。全身にグッと力を入れて登るはずである。勾配が急であればあるほど、荷物が重ければ重いほど、力(パワー)が必要とされる。スピードや瞬発力ではなく、まずはパワーなのである。だからこそ、総体的に見てパワーに劣る牝馬にとって、アップダウンの激しいコースや直線に急坂のあるコースは苦しい。平坦なコースであれば、非力な牝馬の能力が削がれることなく、そのまま生かされやすい。

もうひとつ付け加えると、夏競馬が行われる函館、札幌、小倉、福島などの競馬場は直線が短いことも、牝馬が夏に活躍する理由として挙げられる。最後の直線が長ければ、スタミナにものを言わせてジワジワと伸びても相手を捕らえられるが、最後の直線が短いコースで勝ち切るためには、一瞬でスパッと切れる脚が求められる。1ハロンだけ、いやもっと短くても良いが、他馬を抜き去る一瞬のスピード(瞬発力)が武器となるのだ。最後の直線が短いことで、牡馬のスタミナを生かした地脚の強さが殺され、牝馬のスピードを生かした瞬発力が生きるということである。

そう考えると、ただ単純に夏に牝馬が活躍しているのではないことが分かるだろう。夏競馬で牝馬が強いのは、暑さに強いからというよりも、もう少し物理的な理由があるのだ。夏競馬のレースは平坦で直線の短いコースで行われることが多く、非力だが瞬発力に富む牝馬の能力を削がない。逆に言えば、夏競馬は牝馬特有のスピードや瞬発力が生きる舞台が整っているのである。それを知っていれば、なぜ新潟の直線1000m戦で牝馬が圧倒的な強さを見せるか深く理解できるし、同じ新潟競馬場でも2000m戦などの外回りコースでは牡馬が互角の争いをすることも分かるだろう。夏競馬のどのレースで牝馬を狙うべきか、およその狙いも定まるはずである。

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ロジユニヴァースは皐月賞とダービーを勝てるのか?

毎年、この時期になると、クラシックに向けて有力馬について占ってほしい、という主旨のメールを頂戴する。実は毎年、私もそうしたいと思っているのだが、なぜか機会を逸してしまう。そこで今年はようやく重い腰を上げてみたものの、どうやら期待に応えられそうにない。なぜかというと、これまでの若駒戦を振り返ってみても、およそ大方の予想と同じことしか書けそうにないからである。牡馬で言うとロジユニヴァース、牝馬で言うとブエナビスタ。この2頭の素質が他を圧倒していることは明らかであり、順調に行けば順当な結果が待っていることだろう。

それでは面白くもなんともないので、ロジユニヴァースについて書いてみたい。正直に言って、ロジユニヴァースの父であるネオユニヴァースの初年度産駒から、こんな大物が現れるとは思いもしなかった。というのも、サンデーサイレンス産駒の後継者たちの中でも、ネオユニヴァースは線の細いイメージがあったからである。先に種牡馬としても成功を収めているアグネスタキオンやフジキセキに比べ、ネオユニヴァースはスケールが小さかった。皐月賞とダービーの2冠を勝ってはいるが、唸るように強かった2頭に比べると、大物感は少なかった。だからこそ、初年度産駒の牧場での評判が良いと聞いても、あまり大きな期待はしていなかった。

しかし、こうしてロジユニヴァースという馬を目の当たりにして、種牡馬としてのネオユニヴァースを改めて見つめてみると、その血に眠る秘密が少しずつ分かってくる。ネオユニヴァースには5代に遡ってみてもクロスされている血が全くない。ほぼ完全なアウトブリードが成立しているということだ。さらに、現在の世界の競馬を席巻しているミスタープロスペクター系やノーザンダンサー系の主流血統が全く入り込んでいない。そして母系には、重苦しいと言ってもさしつかえのないほど、欧州のスタミナと底力に溢れる血が流れている。これはアグネスタキオンやフジキセキの血統構成と共通する点である。種牡馬としてのスケールや大物感は前記2頭と双肩するのだ。これがネオユニヴァースとロジユニヴァースを紐解く鍵となる。

Rojiuniverse by M.H

私がロジユニヴァースを超がつく大物だと感じたのは、札幌2歳Sを勝ったレースである。休み明けでプラス26kgの馬体重で重賞をあっさり勝った馬など、私の記憶にはほとんどない。しかも、直線での走る格好が非常に素晴らしかった。およそ休み明けで大幅な馬体増のサラブレッドが走るフォームとは思えない力強さに溢れていた。力の要る馬場での走りだけに、スピードや瞬発力だけではなく、相当なパワーも秘めていることが分かった。暮れのラジオNIKKEI賞はそれほど強さを感じさせなかったが、それでもさらにプラス10kgの馬体重なのだから、成長著しいとはこの馬のことを言うのだろう。今年から騎乗に対する考え方を変えてきた横山典弘騎手と、関東屈指の敏腕調教師が支えているのも心強い。

ただし、懸念材料もあるにはある。これは私だけの杞憂に終わるのかもしれないが、弥生賞を使うことが気に食わない。クラシックへの王道であることは百も承知なのだが、これから先の本番を見据えると、言い方は悪いが、もう少し楽なレースをステップにしても良いのではないだろうか。特に今年はなかなかのメンバーが集まりそうなので、勝つためにはきっちりと仕上げなければならなくなる。逆に中途半端に仕上げて万が一負けてしまっても、ずっと連勝してきている馬だけに、本番前に気持ちが切れてしまう恐れもある。どちらにしても、関東馬として久しぶりの皐月賞とダービー連勝を狙う以上、弥生賞に出走することが悪手となる可能性は高い。あのアグネスタキオンやフジキセキでさえ、クラシックを断念せざるを得なかった、魔のローテーションなのだから。

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9月競馬を攻略する2つのポイント

September夏競馬が終わり、ようやく開催が中央に戻ってきた。もう来月にはG1シリーズが始まるのだから、サラブレッドたちも忙しい。この9月いう時期は、秋のG1シリーズに向かうにあたっての過渡期にあたるシーズンである。そこで、期間限定ではあるが、9月競馬の攻略法について少し考えてみたい。

まずは、休み明けの馬よりも夏競馬を使ってきた馬を狙うということだ。この時期はまだまだ暑く、休み明けの馬にとっては調整が難しく、レースに行っていきなり能力を発揮しづらい。ところが、休み明けの馬は実績のある馬であることが多いため、たとえ仕上がりが悪くても、どうしても人気になってしまう面は否めない。私たちは春競馬での強い姿を覚えているので、ある程度の期待と幻想を持って、休み明けにもかかわらず実績馬を人気に祭り上げてしまうのだ。

実績馬がひと叩きされた後(10月以降)では、夏競馬を使ってきた馬の力関係は逆転する。夏に酷使された馬たちは力を使い果たし、夏を休養にあてていた実績馬たちの体調が上向いてくるということだ。つまり、9月いう時期は秋のG1シリーズに向かうにあたっての過渡期にあたるシーズンではあるが、厳密にいうと、夏競馬の延長線上にあるということになる。確かに休み明けの実績馬の取捨は難しいが、人気的な妙味を考慮すると、夏競馬を使ってきた馬を狙う方が妙味だろう。

さらに、前に行くことの出来る逃げ・先行馬を狙うということだ。普段は酷使されることの多い阪神競馬場や中山競馬場の芝だが、この時期だけは夏の間にしっかりと養生されたことで、芝がしっかりと根を張った野芝100%の状態になっている。どの馬にとっても走りやすい絶好の馬場であり、それゆえ速い時計が出やすい高速馬場でもある。マイル戦で1分32秒台の時計など当たり前で、全馬の上がり3ハロン時計が33秒台であるレースも珍しくない。

このような極めて速い上がりで決着するレースにおいては、多少のハイペースで道中が流れたとしても、前に行った馬はなかなか止まらない。たとえ後ろから行った馬が32秒台の強烈な脚を使って突っ込んできたとしても届かないということが頻出する。さすがにサラブレッドの使える脚には限界があるので、後ろから行ってしまうと物理的に届かないということである。もちろん、前有利をジョッキーたちが意識しすぎてオーバーペースになり、前崩れが起きることもあり得るが、それでも、私たちが思っている以上に、スムーズに前に行くことの出来る馬に妙味がある。

以上2つのポイントは、ごく当たり前のことではあるのだが、どんなテクニックよりも9月競馬においては効果的なので書き留めておくことにした。私たちが思っている以上に、休み明けの馬よりも夏競馬を使ってきた馬の方が優勢であり、また前に行くことの出来る逃げ・先行馬に有利であるということだ。これらのポイントを頭のどこかで意識しておくことで、危険な人気馬や意外なダークホースを見つけることが出来るかもしれない。競馬は私たちが考えるよりも複雑なゲームであるが、意外と単純な文脈から結果が出ることもあるのだから不思議である。

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2歳戦のツボ

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競走馬の持ち時計を参考にして予想をする人など、今や珍しいだろう。今まで速いタイムで走ったことのない馬(持ち時計のない馬)が、条件が違えばあっと驚くタイムを出してしまうことなどよくある話だ。レースの全体時計に差が生まれにくいスプリント戦であっても、たとえば今年の高松宮記念馬であるファイングレインは、持ち時計をなんと2秒も縮めて勝利した。距離が伸びれば、もっと簡単に大きな差が生まれるのは自明の理である。つまり、レースの全体時計は道中のペースや馬場などによって大きく違ってくるため、持ち時計はほとんど参考にはならない。

それでも、持ち時計を唯一信じることのできる時期がある。2歳馬、特に2歳の牝馬である。なぜ2歳牝馬かというと、この時期の牝馬は特に、レースの駆け引きなどは一切関係なく、スタートしてからゴールするまで、一本調子でバテるまで一生懸命走るからである。手を抜いて、常に楽をして走ろうと考えている古馬とは大違いなのである。だからこそ、2歳馬、特に2歳牝馬は、持ち時計が純粋にその馬のスピード能力の証明であることが多い。

さらに、この時期の牝馬は早熟であり、牡馬に比べて7分の調教で仕上がる。桜花賞の頃になればどの陣営も悩まされるフケの心配もまだない。幼さゆえのポカがある牡馬に比べ、この時期の牝馬は早熟であるがゆえに、安定して力を発揮することが出来るのだ。秋以降になると、素質馬が台頭してくることによって尻すぼみになることも多いのだが、この時期に限っては牝馬に注目すべきであろう。

夏競馬は2歳馬のデビューの舞台でもある。ここ最近、素質のある2歳馬は早々と夏にデビューする傾向がますます強くなっている。調教施設の充実や調教技術の向上によって、現役で活躍する馬の数が多くなり、それに伴い、2歳馬も早くから使わなければクラシックに間に合わない状況になってきているのである。

もちろん今年も例外ではなく、素質に溢れる2歳馬たちが今週の新潟2歳S、小倉2歳Sで鎬を削ることになるだろう。レコード決着を制した実績を持つガンズオブナバロンやツルマルジャパンなどの牡馬に、強い内容で新馬戦を圧勝したダイワバーガンディやデグラーティア、エリモプリンセスなどの牝馬が、どう勝負を挑んでいくのか見所は尽きない。個人的には、私のPOG馬であるガンズオブナバロンや、センス溢れるレース振りに大いなる素質を感じさせるデグラーティアを応援したいと思う。

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夏競馬は内国産馬を狙え

Natukeibanaikokusannba_320世紀の後半、世界の血統勢力図をもの凄い勢いで塗り替えたノーザンダンサーは、夏は高温多湿で、冬は氷点下30度前後まで冷え込むというカナダの牧場で生まれ育った。それだけでなく、神経をイラつかせるハエやアブにたかられるため、特に夏は炎天下の狭い馬房の中に閉じ込められて過ごさざるをえなかった。もちろん、エアコンや扇風機のようなものはない。そんな過酷な環境の下で育ったノーザンダンサーが、並はずれた精神力や環境への適応能力を身につけていったのは当然のことである。

ノーザンダンサーの血を持つ馬は夏競馬に強いと言われるが、私に言わせると少し違う。暑さに強いのでもなく、パワーを要する馬場に強いのでもなく、他の系統の産駒たちが暑さや力の要る馬場を苦手とする中で、総じてノーザンダンサー系の馬はそれらを苦にしないということである。ノーザンダンサーの血を引く馬たちは、芝、ダート、道悪馬場、スピードの出る硬い馬場、小回りコースなど、いかなる条件にも適応できる万能性を持っている。だからこそ、ノーザンダンサーの血は世界をあっという間に席巻することが出来たのだ。

サンデーサイレンスの血もこれと同じような万能性を持っている。どのようなコース、馬場、展開であろうが、ありとあらゆる条件を克服し、圧倒的な結果を出してきた。もちろん夏競馬にも強い。サンデーサイレンスのあら探しをする血統予想家がいつも恥をかかされるのは、この万能性ゆえである。後継種牡馬を通して、これから世界へと広がっていくサンデーサイレンスの血が、どれだけの影響力を持つことになるのか、今から楽しみで仕方がない。

夏競馬における内国産の種牡馬についても、これと同じような論理が当てはまる。内国産の種牡馬は、厳しい日本の夏を経験したうえで、選抜されて種牡馬になっている。日本の気候風土に順応し、猛暑にも耐えて生き残ってきたエリートたちである。夏に弱ければ、自分自身の代で淘汰されてしまうか、もしくは運よく生き残ったとしても、自分の仔の代で息が絶えてしまうことになるだろう。だからこそ、外国産馬や父外国産馬と比べ、内国産馬は厳しい暑さに耐えられる強さを備えているのである。

たとえば、サクラユタカオーの後継種牡馬であるサクラバクシンオーの産駒は、夏競馬になると圧倒的な力を発揮し始める。スピードを生かせる馬場や小回りコースが合っているのも確かだが、蒸し暑い夏を苦にしないという点も代々受け継いでいるのだろう。函館スプリントSを2連覇したシーズトウショウの強さは忘れられないし、最近ではカノヤザクラがアイビスサマーダッシュで復活した。

また、サンデーサイレンス系ということであれば、フジキセキがその筆頭格であろうか。もっともフジキセキを経由したサンデーサイレンスの血は、今年サンクラシークがドバイシーマクラシックを制したように、日本の夏競馬を飛び越えて、既に世界へと広がっているのであるが。

8月も半ばになったが、うだるような暑さはまだまだ続く。そんな暑さを吹き飛ばすためにも、暑い夏は内国産馬を狙ってみたい。

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踏み込みの深さが意味するものは?

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パドックでよく言われる、「後肢(トモ)の踏み込みがいいから、この馬は調子がいいですね~」という馬の見方がある。踏み込みの深い馬=調子の良い馬という等式は、かなり昔から、まるで定説のように信じられてきた。

しかし、私はこの定説に少し疑問がある。なぜなら、パドックでは馬はみな興奮しているので、普段よりも脚は大きく出るものだからだ。踏み込みのときに、いかにも力が入っているように見える馬は、興奮しているだけで、かえって良くないのではないかと思う。G1レースに出てくるような馬を見てもらっても、それほど力強くは映らないのではないだろうか。また、飛節の角度が大きい馬は自然と踏み込みも深くなるので、踏み込みが深い馬がいいとは一概に言い切れない。

それよりも、後肢の踏み込みの深さは、距離適性と密接な関係にある

スプリンターは前肢よりも後肢が発達しているので、後肢を深く踏み込み、一完歩一完歩に力を使いながら歩く。これで全力疾走すれば、短距離はなんとかもっても、距離が長くなってしまうとスタミナが続かないということになる。それに対して、ステイヤーの踏み込みは、後肢が深くなくても、リズミカルに踏み出され、返しもスムーズで無理がない歩き方をする。このように、スプリンターとステイヤーでは、踏み込みの深さや力強さが違うのである。

つまり、踏み込みの深さから分かるのは、調子の良さではなく、短距離適性なのである。もし短距離戦のパドックで踏み込みが深く力強い馬を見つけたら、スプリンターの資質が表れているということで狙ってみても面白いだろう。しかし逆に、もし長距離戦のパドックでそういう馬が歩いていたら、道中で引っ掛かってしまう、もしくは最後の直線でスタミナ切れを引き起こしてしまうのではないかという心配をしたほうがいい。

さらに、パドックで馬の動きのどこを見るかと問われれば、後肢の踏み込みよりも、前肢の出ではないかと私は思う。パドックで馬の調子を見極めるのは非常に難しいので、私は多くは語れないが、前肢が綺麗に(スムーズに)出ているように見える馬は好走する率が高いと思う。騎手にとっても、後肢よりも前肢の出が気になるという。乗馬経験のある方ならよく分かるのだが、前が窮屈だったり、硬かったりする馬は、乗っていても気持ち悪いものだ。

もっとも、前肢の出が綺麗か(スムーズか)どうかということを見極めるのも、また難しいのであるが…。

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カミソリとナタと

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カミソリやナタなどと物騒なタイトルたが、何てことはない、競走馬の末脚の切れ味のことである。「コダマはカミソリ、シンザンはナタの切れ味」という武田文吾調教師のコメントが由来だが、競馬界では日常的に使われている表現のひとつである。

まず、カミソリとナタとはどちらも切れるのだが、その切れ方が違う。カミソリはスパッと切れるのに対し、ナタはザクッと切れる。つまり、カミソリの方がナタよりも鋭く切れる。かといって、カミソリの方が切れ味が良いかというと、そうとは限らない。たとえば大きな木をカミソリで切っても切れないように、切る対象物によっては、カミソリよりもナタの方が切れる。カミソリが鋭く、ナタが鈍いということではなく、あくまでも切れ方が違うのである。

これをそのまま競馬に当てはめてしまうと、カミソリの切れ味とは、一瞬で鋭く切れる末脚のことで、対するナタの切れ味とは、良い脚を長く使える末脚ということになる。確かに間違ってはいないのだが、これだけではあまりにも抽象的で分かりにくい。もう少し具体的に、かつ厳密に述べると、以下のようになる。

カミソリとナタとの違いは、“スピードがスタミナに裏打ちされているかどうか”である。分子がスピードで、分母がスタミナとすると分かりやすい。その馬のスピードに対してのスタミナの比重が軽ければ、末脚はカミソリの切れ味となり、スピードを支えているスタミナが豊富であれば、末脚はナタの切れ味となる。

たとえば、総合力は同じだが、スピードとスタミナのバランスが違う2頭のサラブレッドがいるとする。Aという馬はスピードが勝っていて、そのスピードを後半の末脚に生かすタイプであり、Bという馬はスタミナが豊富で地脚が強いタイプである。この2頭が1000mのレースをすると、以下のラップが刻まれる。

A 10.9→10.9→10.8→10.6→10.0
B 10.8→10.8→10.8→10.4→10.4

結果としてタイムは同じなので同着であるが、レースでの末脚の切れ方は異なる。Aがラストの1ハロンで10.0という一瞬の鋭い末脚を披露したのに対し、Bは良い脚をコンスタントに2ハロン続けて使っていることが分かる。言うまでもないが、Aがカミソリの切れ味で、Bがナタの切れ味である。

Aは一瞬にしてスピードを爆発させスタミナを消費してしまうので、ゴーサインを出すタイミングが難しい。早く仕掛けすぎると、ゴール前でガス欠を起こしバタバタなんてこともありうる。このようなタイプは直線が短いコースの方がレースはしやすい。直線に向いてから仕掛けて、そのままゴールとなるからだ。

Bは豊富なスタミナを支えにしてスピードを持続させるので、実はこれもゴーサインを出すタイミングが難しい。仕掛けが遅すぎると、脚を余してしまうなんてこともありうる。このようなタイプは直線が長いコースの方がレースはしやすい。直線の短いコースでは、4コーナーを回る時点から仕掛けなければならず、スムーズなコーナーリングを妨げることになるからだ。

ところで、カミソリとナタとの違いは、“スピードがスタミナに裏打ちされているかどうか”と前述したが、そうすると、たとえ同じ馬の末脚であっても、距離によってはカミソリの切れ味にもなり、ナタの切れ味にもなるということにはならないだろうか。

マイルCSを連覇したデュランダルは、現役屈指の末脚を持ち、スピードとスタミナのバランスの取れた名マイラーである。この馬の末脚の切れ味はカミソリなのだろうか、それともナタなのだろうか?大方の見解としては、デュランダルの末脚はカミソリの切れ味ということになるだろう。他馬が止まって見えるほどに、その末脚は鋭いからだ。

しかし、私の見解は多少異なり、カミソリかナタかはレースの距離によって変わってくると考える。正確に言うと、デュランダルの場合、1200m戦ならばナタの切れ味で、マイル戦ではどちらとも区別は難しく、2000m戦ではカミソリの切れ味となるだろう。1200mのレースにおいては、他馬と比べてスタミナの比重が重いため、追っつけて追っつけて最後に差しきるというナタの切れ味になる。それに対して、2000m以上のレースにおいては、ジックリと溜めて最後に末脚を爆発させるというカミソリの切れ味になる。

durandal by M.H

つまり、その距離において、どれだけのスピードがどれだけのスタミナに支えられているかによって、末脚が一瞬の爆発的なものになるのか、長く持続されるものになるのかが決する。この馬はカミソリで、あの馬はナタと一概に決め付けることはできないのだ。

「コダマはカミソリ、シンザンはナタの切れ味」という武田文吾調教師のコメントは、そういった意味では的確ではない。コダマの末脚も、距離によってはカミソリにもなり、ナタにもなり得るのだ。親切心から付け加えさせてもらうとすれば、「“ダービーの2400mを走るとすれば”、コダマはカミソリ、シンザンはナタの切れ味」となるだろうか。


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チークピーシズ

先週の日経新春杯で1、2着したアドマイヤモナークとダークメッセージが、共に「チークピーシズ」という馬具を着けていたのをご存知だろうか?2002年のジャパンカップでイギリスのストーミングホームが着けていたことが話題になり、日本でも少しずつ普及し始めたのだが、最近ではオープン馬でも装着してくることが珍しくなくなってきている。

Cheek
Service

チークピーシズは頬(チーク)の部分に装着する馬具で、素材はシャドーロールと同じものである。後方への視界を遮るため、周りを気にしたり、怖がったりして集中できない馬をレースに集中させる、浅いブリンカーとほぼ同じ効果が見込まれる。また、ブリンカーと違い、チークピーシズは事前に装着の届出をしなくてもよいため、その時の馬の状況に応じてチークピーシズを使うかどうかの判断が出来る。

たとえば、これはブリンカーの話ではあるが(考え方は同じ)、1997年の安田記念を制したタイキブリザードは、前哨戦の京王杯スプリングCでブリンカーを装着して圧勝していた。本番である安田記念に臨む際、タイキブリザードを管理する藤沢和雄調教師は、再度ブリンカーを着けるかどうかの判断を最後の最後まで迷ったという。1400mの京王杯スプリングCならば、ブリンカーを着けてちょうど良かったのだが、1600mに距離が延びる安田記念で着けると、馬がレースに集中しすぎて、行きっぷりが良く、かえって折り合いを欠いて引っ掛かってしまうのではないかという心配があったのである。

藤沢和雄調教師は、ギリギリまで悩んだ末、安田記念ではタイキブリザードにブリンカーを装着しないことに決めた。結果的にはその判断は正しかったのだろう。タイキブリザードはレースの流れに乗りながら中団を進み、ゴール前では見事にジェニュインを差し切った。もしブリンカーを着けていたら、行きっぷりが良すぎて、道中で折り合いを欠き、最後の最後で伸びを失って負けていたかもしれない。そう考えると、ブリンカーを装着するかどうかは勝敗を左右する重要な判断であったとも言える。

チークピーシズの場合、枠順や馬場状態に応じて装着の判断ができ、極端に言うと、当日のパドックでの馬の様子を見てから、着けたり外したりすることも現状では可能なのである。たとえば、当日、馬に気合が乗りすぎていて、チークピーシズを着けたままだと行き過ぎてしまうと判断すれば外すことも出来るし、また初コースなどの理由で周りに気を遣ってしまっていると思えば着けることも出来る。このように状況に応じて装着の判断が出来るということは、陣営にとっては大きな安心材料となる。そのため、ブリンカーではなくチークピーシズを使う陣営が増えてきているのだ。

それからもうひとつ、これもブリンカーと同じ考え方だが、初めて装着する時の効果が最も大きいということも覚えておきたい(良い意味でも悪い意味でも)。初めてブリンカーやチークピーシズを使う馬が、刺激を受けたことによりまさかの激走(または凡走)をすることがある。しかし、その効果は、馬が馬具に慣れてしまうことにより、次第に薄くなっていく。

アドマイヤモナークもダークメッセージも、今回初めてチークピーシズを装着した馬ではないので、チークピーシズが直接の好走理由ではないだろう。しかし、チークピーシズに一定の効果があることが明らかな以上、当日に装着しているかどうかは、馬券を買う私たちも、少しだけ気に掛けておくべき事実ではないだろうか。


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夏負けしている馬、していない馬

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「普段から気性のカッカしている馬は夏負けしにくい」と、ある調教師がどこかの雑誌で語っていた。気性が大人しい馬ほど、夏は元気がなくなってしまう。総じて牝馬が夏に強いのは、ここにも理由があるのではないか、とのこと。とても興味深く読んだのだが、この話には少し疑問がある。

個体差や牝馬牡馬などの性差を抜きにして言えば、基本的に夏負けするのは、「無駄な動きをする馬」だと思う。普段の運動で突然立ち上がって暴れてみたり、乗り運動の時に乗り手の指示に従わず暴走してみたり、競馬場への輸送車の中でもジッとしていなかったりと、そういう無駄な動きをする馬こそが夏負けしやすいのである。

高齢馬が夏に強いと言われるのはこれゆえである。同じ馬であっても、高齢になるほど夏負けしにくくなるのは、もちろん暑さへの耐性が付いていくということもあるが、気性的に落ち着いて、無駄な動きをしなくなるからという理由が大きい。だからこそ、個体差はあっても、夏には高齢馬を狙えという馬券術には一理ある。

ところで、パドックで夏負けしている馬を見るポイントとして、一般的なところは以下の3つ。
(1)目の周りが黒ずんでいる
(2)大量の汗をかいている、もしくは汗を全くかいていない
(3)牡馬であれば睾丸が垂れ下がってきている

(1)は人間でも寝不足や疲労が重なると目の下にクマが出来るが、そのようなものとイメージしてもらいたい。これは程度問題であって、毛色によっても見分けにくさが違ってくるので、明らかに分かるくらい目の周りが黒ずんでしまっている馬は、夏負けの影響を考えたほうがよい。

(2)は極端に汗の量が多すぎたり、逆に少なすぎたりすることである。夏場だけに、普段より発汗量は多くて当然であるが、異常とも思えるぐらいの汗をかいていたり、反対に全く汗をかいていなかったりする馬は、夏負けを疑ってみたほうがよい。

(3)は牡馬特有の現象であるが、睾丸が普段の2倍以上の大きさに腫れ上がって、垂れ下がってきているということである。わざわざ競馬場まで行って、パドックで馬の睾丸を見るというのも情けない話だが、もし夏場のパドックでこういう馬を見かけたら、夏負けしている可能性が高い。

話を元に戻すと、「普段から気性のカッカしている馬は夏負けしにくい」というのは誤解であって、「普段から落ち着いて無駄な動きをしない馬は夏負けしにくい」の方が正しい。確かに、夏負けしてしまった馬が大人しくなってしまうことも事実なので、おそらくこの調教師が伝えたかったことは、「カッカしているぐらいの馬はまだ夏負けしていない」ということではないだろうか。つまり、普段から大人しい馬と、夏負けして大人しくなってしまった馬の区別はつけ難いが、いずれにせよカッカしているぐらいならまだ夏負けしていないということである。

今年からは、パドックで夏負けしている馬を見分けるポイントとして、(4)カッカしている馬はまだ夏負けしていない、を付け加えて夏競馬に臨みたい。

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どの騎手から乗り替わったのか

Mybestrace今月号の「優駿」で、騎手自身が選ぶ「マイ・ベスト・レース」という企画を読んだ。安藤勝己騎手からペリエ騎手、そして岡部元ジョッキーまで、15人のジョッキーらが自ら騎乗したレースの中でも最高のものを1つだけ選ぶという企画なのだが、私の印象に深く残ったのは、横山典弘騎手が選んだ2006年のフラワーカップである。

キストゥへヴンで勝ったこのレースであるが、横山騎手はこのレースを選んだ理由について、「騎乗前に考えた課題をすべてクリアできた会心のレースでした」と語る。その課題とは2つあって、ひとつは、テンションの高いキストゥへヴンに気持ちをコントロールしながら、折り合いをつけて走ることを覚えさせること。もうひとつは、次の本番である桜花賞に向けて余力を残して臨めるよう、負担をかけないレースをして、なおかつ権利を獲ること。この2つの課題をクリアできたからこそ、横山典弘騎手にとっては会心の騎乗であったというのである。

ご存知のとおり、桜花賞は安藤騎手の手綱によって勝利したわけだが、その勝利は横山典弘騎手が乗ったフラワーカップという伏線があってこそのものであった。騎手は勝たなければならないが、それだけではならない。将来を見据えながら馬に競馬を教え、先々へとつながるレースをしながら、なおかつ勝たなければならないのだ。ひとつのレースは点であるが、その点と点が結ばれながら線となって、その馬を形成していく。ひとつのレースで起こったことは、過去のレースからの集積であると共に、未来のレースへの布石でもある。

つまり、「どの騎手から乗り替わったのか」ということは、非常に大きな意味を持つということである。私たちは馬券を予想する上で、「どの騎手に乗り替わったか」ということに重きを置きすぎる嫌いがあるが、それと同じかそれ以上に、「どの騎手から乗り替わったのか」ということは大切な要素なのである。特に、競馬を覚えていく時期(クラシックシーズン)の若駒の走りを占う上では、どの騎手がどのようなレースをしてきたかという視点を欠いてはならない

明日は牡馬クラシックに臨む精鋭が集う弥生賞が行われる。アドマイヤオーラ、モチ、サムライタイガース、メイショウレガーロと、このレースも本番を見据えた乗り替わりが多い。中でも私は、後藤騎手から乗り替わったメイショウレガーロの走りに注目している。前走の京成杯は、後藤騎手が前半で抑えすぎたように映るが、その時の馬の雰囲気に合わせ、リラックスして走らせることに集中した、まさに先を見据えた騎乗であったと私には思えた。思えば、先週のローエングリンも、田中勝春騎手が差す競馬を根気強く教え続けたからこそ、後藤騎手がバトンを受けた中山記念でも、掛かることなく折り合いがつき、マイペースの単騎逃げを打つことが出来た。後藤騎手が勝たせたように見えても、実は田中勝春騎手が勝たせていたということはある。騎手とは因果な商売なのである。果たして今度は、後藤騎手の騎乗がメイショウレガーロをどのような形で皐月賞に導くだろうか。

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競走馬の分岐点

これは今でも親によく言われることなのだが、私は幼稚園の駆けっこではいつもビリだったらしい。ヨーイドンの合図で、他の子が一生懸命に走り出しても、私だけは一向に走ろうとしなかったという。その頃の私には、誰よりも速くゴールするという競走の意味が分かっていなかったのだ。人としての成長が遅いのは今も同じなのだが(笑)、他の子に比べて物心がつくのが遅かったのだろう。

競走馬のデビュー戦も幼稚園児の駆けっこのようなもので、訳もわからないうちに終わってしまうことが多い。もちろん、物心がつくのが早い馬と遅い馬がいて、デビュー前の調教から好タイムを連発して、新馬戦を圧勝するような馬は前者である。新馬戦では、体の完成度が高いだけではなく、気持ちが走るということに向いているかどうかが問われるのである。

しかし、2~3戦目ともなると話は別で、レースでは他馬よりも速く走らなければならないことを、ほとんどの馬は理解し始める。そして、このあたりが競走馬としての分岐点となるのだ。レースや調教というものを理解して、ようやく競走馬としての本能が目覚める馬もいれば、反対に、レースに行くと目一杯に走らされて苦しいことを知るため、走ることを嫌がるようになる馬もいる。もちろん、後者の方が圧倒的に多いのだが、その苦しさを克服しない限り、能力を発揮できるようにはならない。あのディープインパクトでさえ、ダービーまでは極度のストレスを感じ、入れ込んでいたことは記憶に新しい。

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今週の共同通信杯に、そのディープインパクトの弟であるニュービギニング(父アグネスタキオン)が出走する。ここにきて馬が変わってきているように、非常に奥の深い馬である。兄ディープインパクトは、どこまで強いか分からないという点において奥が深かったが、ニュービギニングには、一戦するごとに競走馬として大きく成長しているという奥深さがある。

正直に言って、デビュー前のその馬体や調教での動きを見る限り、ニュービギニングからは素質の片鱗さえも感じられなかった。兄がディープインパクトであることを知らなければ、誰もが中の下くらいの評価しかできない程度の、どこにでもいる馬であったし、父アグネスタキオンの産駒は総じて大柄に出るが、この馬は440kg台と小柄で、父譲りの迫力にさえ欠けていた。

そんな中、新馬戦を差し返す形で勝ち、続くホープフルステークスも後方一気の末脚で連勝を飾ってしまったのだ。実戦に行って大きく変わり、さらに調教や普段の動きも変わってきた。デビュー前はほとんど動かなかったにもかかわらず、今週の追い切りでは馬なりで併走馬に先着するようになった。ようやく走れる肉体になってきたということもあるが、それよりもニュービギニング自身の気持ちが走ることに向いて、集中出来てきたことが大きい。

デビュー3戦目となる今回の共同通信杯は、ニュービギニングにとっての分岐点となるレースである。苦しんで直線ヨレながらも3連勝を飾ったフサイチホウオーや、ソエの苦しさを克服したフリオーソなど強敵は多く、まだまだ幼さを残すニュービギニングはかなり厳しいレースを強いられることになるだろう。それでも、物心つくのが遅かったものの、競走馬としての意識にようやく目覚めてきたニュービギニングが、今度はレースの苦しさを克服することができるのかどうか。まるで我がことのように、暖かく見守りたいと思う。

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騎手の上手さは勝率に表れる

Kisyunogijyutu日本人ジョッキーの中では、武豊→安藤勝己→横山典弘→岩田康成騎手の順に上手いという仮説を私は持っている。これはあくまでも現在の仮説であるし、「どの騎手が上手いか」という問いは、「どの馬が強いか」という問いと同じくらいナンセンスであることは百も承知である。

しかし、あえてその仮説を証明すべき数字(データ)を色々と探し出してみたところ、最終的には案外と身近なところに落ち着いた。

やはり、騎手の総合的な上手さというのは勝率に表れるのである。

2006年度勝率
武豊 0.225
安藤勝己 0.192
横山典弘 0.171
岩田康誠 0.132

リーディングの順には並んでいないことが分かる。武豊騎手はリーディングも勝率も1位という断然の存在であるが、リーディング4位の安藤勝己騎手が勝率では2位に食い込んでいる。リーディング5位の横山典弘騎手も、勝率では3位にランクアップする。もちろん、ケガによる騎乗数やエージェントの問題も含まれるが、安藤騎手にしても横山騎手にしても600鞍以上を騎乗してのデータだけに、統計学的に考えても、ほとんど誤差のない数字であろう。

そして、勝率という観点から見ると、横山典弘騎手と岩田康誠騎手の間に、実は2人のジョッキーが存在する。藤田伸二騎手と内田博幸騎手である。藤田騎手の勝率は0.141で、内田騎手の勝率は0.138である。こうして見ると、その人間性はカッコで括るとしても、藤田伸二騎手は素晴らしい技術を備えたジョッキーであることが分かるし、全く乗り方の違う地方競馬と中央競馬を股にかけての数字だけに、内田博幸騎手の評価は高くて当然である。もちろん、岩田康誠も中央挑戦1年目であることを考えると、今年はさらに勝率を伸ばしてくることが予想される。

たくさん勝つこと自体は上手さの証明であるし、勝てば勝つほど良い馬を依頼されるので、また勝てるようになるのは必然の流れである。しかし、それだけではないのだ。騎手の技術は、どれだけ馬を上手く走らせることが出来たかに表れるのである。ナンセンスな問いに対する私の仮説は、そんな当たり前の結論に落ち着いた。

追記
当たり前の結論に納得がいかない方は(笑)、「けいけん豊富な毎日」のけん♂さんが、「支持達成率」と「穴馬率」という鋭い切り口で騎手の能力値について書かれていますので、ぜひご覧ください。なかなか面白い結果が出てますよ。

■上位騎手編はこちら→http://90884.blog64.fc2.com/blog-entry-731.html
■中堅騎手編はこちら→http://90884.blog64.fc2.com/blog-entry-737.html
■若手騎手編はこちら→http://90884.blog64.fc2.com/blog-entry-739.html

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全成績から分かること

ドリームパスポートは有馬記念で遂に4着と複勝圏内を外してしまったが、それまではデビュー以来12戦で【3・6・3・0】という、超が付くほどの堅実な走りを見せてきた。【山人の「適当」競馬予想】によると、1000円で複勝コロガシを始めると、デビューから有馬記念までで何と530万6700円になるらしい。ちなみに先日引退を発表した菊花賞馬ソングオブウインドは、デビューから菊花賞までの10戦を複勝でコロガし続けると120万2320円だそうだ。

それはさておき、実はこの【1着、2着、3着、それ以外】という全成績の数字列を見るだけで、その馬の大まかなタイプや強さを把握することができる。

全成績の数字列は大きく4つのタイプに分けられる。
1、逆三角形型
2、三角形型
3、ダイヤ型
4、砂時計型

1の逆三角形型とは、【5・3・2・1】のような数字列である。全成績を縦に並べたとして考えてほしい(通常、馬柱は縦に並んでいるので)。上が一番大きい数字が並んでいて、下に行くにつれ数字は小さくなってきている。こういう逆三角形の成績を残してきた馬は、紛れもなく強い馬である。勝ち切るだけの決め手を持っているし、どんな条件や相手だろうが、その力をいかんなく発揮できる馬である。こういう馬は安心して買ってよい。有馬記念でいうと、ディープインパクトが当てはまる。
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ディープインパクトの有馬記念時の馬柱(一番右が全成績)

2の三角形型とは、【1・2・3・5】のような数字列である。逆三角形型の正反対と考えてほしい。上の数字が一番小さくて、下に行くにつれ数字は大きくなる。こういう成績を残してきた馬は、あまり強くはない馬である。ほとんど勝ち負けに加われないことが多く、よほど条件や相手に恵まれた時だけ好走することが可能である。有馬記念でいうと、デルタブルースが当てはまる。
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デルタブルースの有馬記念時の馬柱(一番右が全成績)

3のダイヤ型とは【2・4・4・1】のような数字列である。上と下の数字に比べ、中の数字が大きいということである。つまり、大きく負けることはないのだが、イマイチ勝ち味に遅いというタイプの馬である。こういうタイプの馬は単勝で勝負するのは危険である。ただし、このような馬には将来性があって、なにかひとつのきっかけで勝てるようになると、あっという間に1の逆三角形のタイプに成ってしまうということもある。そのきっかけとは、休養を挟んで肉体的、精神的に成長したことであったり、脚質を変換したことであったりする。有馬記念でいうと、ドリームパスポートが当てはまる。
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ドリームパスポートの有馬記念時の馬柱(一番右が全成績)

4の砂時計型とは【4・1・2・4】のような数字列である。上と下の数字に比べ、中の数字が少ない(中が凹んでいる)ということである。能力は高い馬であるが、自分の型に持ち込めないと力を発揮できないタイプで、勝つときと負けるときがハッキリとしている馬である。ある程度の条件が揃えば、好走がかなり期待できる馬ということもある。有馬記念でいうと、ポップロックが当てはまる。
Zenseiseki03
ポップロックの有馬記念時の馬柱(一番右が全成績)

私は昔、地方競馬巡りをしていたことがあったが、初めて見る、横の関係も縦の関係も全く分からない馬たちのレースを予想する際に、このテクニックは重宝していた。1の逆三角形型は否が応にも人気になり、4の砂時計型は馬券的な妙味があり、3のダイヤ型は人気ほどの期待には応えてくれないことが多く、2の三角形型は馬券に絡まないことが多い。同じような人気になっていれば、1の逆三角形型→4の砂時計型→3のダイヤ型→2の三角形型の順で優先して本命を決める。

もちろん、全ての馬が単純に4つのタイプに区別されていくわけではなく、また各馬の成長によってタイプが変わってくることもあり得る。たとえば、ソングオブウインドは3のダイヤ型であったが、この馬は1の逆三角形タイプになっていくだろう(そう考えていた矢先に引退してしまったが)。それでも、その馬のその時点でのタイプや強さを、大まかではあるが把握することができるのである。おそらく誰もが意識する・しないに関わらず行っていることなのだとは思うが、極めてシンプルで数秒しかかからない作業なので、ぜひ一度試してみて欲しい。

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夏を自厩舎で過ごすこと

Natuyasumi

3冠を目指すメイショウサムソンは、昨年の3冠馬ディープインパクトと同じく、自厩舎で夏休みを過ごした。ダービー後に北海道に放牧に出すことも出来たが、神戸新聞杯から逆算すると、8月中には厩舎で調整を始めなくてはならず、その時期に気温差の大きい北海道から栗東に戻すことは、リスクが大きいと判断したとのことである。

このように、平成12年度より菊花賞の開催が前倒しになったことにより、春のクラシックで実績を挙げた期待馬たち(特にダービー馬)は、夏休みを厩舎で過ごすか、放牧に出すかという選択を迫られることになった。

夏を自厩舎で過ごすことには、メリットとデメリットがある

メリットとしては、先に述べたように、8月の暑い時期に気温差の大きい北海道から栗東、もしくは美浦に戻すことによって、馬が体調やリズムを崩すリスクを回避できるということが一つ。もう一つ、それ以上に大きなメリットとしては、調教師が自分の手元に常に置いて管理できるということである。調教師の目の届くところに置いておくことによって、安心かつ安全で、そして何よりも仕上げが施しやすいのだ。放牧に出してしまうとほぼ完全に馬体は緩んでしまうが、自厩舎であれば馬体を緩め過ぎることがなく、目標のレースに向かって、再度ネジを巻き戻しやすいということである

特にダービーを勝った馬を放牧に出すことには、非常に危険が伴う。なぜなら、ダービーを勝つためには極限の仕上がりが要求されるため、ダービーで全ての力を使い果たした馬を放牧に出してしまうと、その反動で疲れが噴出し、あっという間に体調はどん底まで落ちてしまうのだ。その状態から、4ヶ月で再び100%に戻すことは至難の業なのである。だからこそ、ダービーを勝ったような能力の高い馬であればあるほど、あらゆる意味において、自分の手元に置いて万全を喫したいと考えるのは当然なのである

反対にデメリットとしては、自厩舎で夏を過ごすと、馬はどうしても精神的にリフレッシュされないということである。肉体的にはある程度は緩められるので楽になるが、ずっと同じ環境にいることによって、馬の気が休まることがないのである。もちろん、馬によって差はあるのだが、涼しい気候の中、のんびりと走り回れる牧場と違い、自厩舎で夏を越すことは馬にとってはあまり喜ばしいことではない。知らず知らずの間に、人間にも分からないところで、精神的なストレスが蓄積されていくのだ

精神的にリフレッシュ出来なかったツケは、将来的にいつか回ってくる。途端に調教やレースで走らなくなることもあるし、また精神は肉体と直結しているため、精神的なストレスの蓄積が馬体の細化や怪我にまでつながってしまうこともある。ディープインパクトが3冠を制覇した直後の有馬記念で、あっと驚く敗退をした最大の原因はこれである。ディープインパクトはその後も自厩舎で調整を続けられたため、古馬になってからは調教で走らなくなってしまった。レース本番で結果が出ているため気付かれないが、ディープインパクトの精神的なストレスは測り知れない。このように、精神的なストレスが蓄積すると、将来的にあらゆるところに悪い影響が出てしまうことになる。

メイショウサムソンを管理する瀬戸口調教師は、これら全てのメリット・デメリットを把握した上で、あえて夏を自厩舎で過ごすという選択をした。それは全て、メイショウサムソンが菊花賞を勝って、3冠を獲るという最大目標のためである菊花賞の後のことや、古馬になってから回ってくるであろう将来的なツケを覚悟した上で、それでも菊花賞を勝つことに全てを賭けてきたのである

案の定、瀬戸口調教師の描いたシナリオどおりに、まずは神戸新聞杯を万全の状態で使うことができた。そして、神戸新聞杯後の仕上げもそれほど難しくはなかったはずである。メイショウサムソンは、最終追い切りでも、春と寸分たがわぬ力強い動きを披露している。他馬が牧場で休養を取っている中、夏休みを自厩舎で心身共に緩めず過ごしてきたことにより、メイショウサムソンが菊の栄冠にまた一歩近づいたことは確かである。皐月賞からダービー、そして菊花賞へと続く一本の栄光の直線の上に、勇者メイショウサムソンは独り立ち続けているのだ。

special photo by M.H

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逃げ切るための条件

Nigeuma

競馬は前に行ける馬の方が有利である。特に逃げ馬は、レースの主導権を握り、馬場の良い所を通って最短距離で走ることができ、アクシデントに巻き込まれることもほとんどない。追い込み馬とは比べ物にならないほどのアドバンテージを得て、逃げ馬は逃げることができる。

しかし、その反面、レースのレベルが高ければ高いほど、逃げて勝つことは難しくなっていく。なぜなら、逃げ馬は自然と他馬の目標になってしまうからである。レースで目標になってしまうと、道中は楽に走らせてもらえないばかりではなく、勝負どころでは手応えのある他の馬が次々と襲い掛かってくることになる。余程の力差がない限り、逃げ馬は厳しいレースをを強いられてしまうのだ。

だからこそ、本当に強い馬は逃げて勝つ馬だとも言える。とはいえ、ミホノブルボンやサイレンススズカのように強い逃げ馬ばかりでない以上、逃げ馬のレースでの勝ち負けは、自分の実力の外にある何かによって支配されることは避けられない。

そこで、逃げ馬が切るための4つの条件を挙げてみたい。
1、人気がない
2、突然逃げる
3、トップジョッキーが乗った人気馬が差し馬
4、差してきた逃げ馬の次走

1は基本中の基本だが、人気がなければ、それだけマークもゆるくなるということである。“あの馬を逃がしたらやられる”と思われれば、必要以上に競りかけられたり、早めに捕まえに来られたりするが、“どうせ最後までもたない”と思われれば、楽に逃がしてもらえる。逃げ馬の着順は、力の有無ではなく、人気による騎手の共通意識が創り上げていると言っても過言ではないだろう。つまり、逃げ馬を狙う時には、人気がないことを確認してから買うべきなのである。

2は前もって予測するのが極めて難しいのだが、逃げるはずではなかった馬が逃げたり、これまで逃げたことのなかった馬が逃げたりした時ほど、逃げ残る確率が高い。今年のローズSのシェルズレイのように、レースの途中から突然に逃げたりした場合も同じである。想定外の馬が逃げた場合、その馬をマークするかどうかという騎手の共通意識が働きにくいからだ。各ジョッキーが他の騎手の動きをうかがっている内に、あれよあれよと逃げ切ってしまうのである。

3はレースで目標とされやすいジョッキー(たとえば武豊騎手など)が人気馬に乗るとすれば、その馬は徹底的にマークされることは間違いない。本来であれば、逃げた馬との距離やペースを目安にして仕掛けるところを、トップジョッキーが乗る人気馬に合わせて追い出すことになる。そして、トップジョッキーが騎乗する人気馬が差し馬(後ろから行く馬)だとすると、騎手の共通意識の重点は後ろへと傾く。前を向いてレースをしていても、意識は後ろという感覚である。トップジョッキーが騎乗した2、3頭の人気馬が後ろで牽制し合ったときなどは、どの騎手も最後まで自ら動けないという金縛り状態に陥ってしまうこともある。

4はオマケであるが、何らかの理由があって、逃げることが出来なかった(自分の型に持ち込めなかった)にもかかわらず、最後は差してきた逃げ馬は評価すべきである。そういうレースが出来た逃げ馬は、調子が良く、精神的にも成長している。もし次のレースで逃げることが出来た(自分の型に持ち込めた)場合は、かなりの確率で好走が見込まれる。

上に挙げた条件のうち、ひとつでも当てはまるものがあれば、その逃げ馬は実力以上に好走する可能性は高い。もちろん、2つ3つと条件が重なることがあれば、その馬が逃げ切る条件は揃ったといってもよいだろう。にもかかわらず、私たちは意外とそのことに気付かないことが多い。なぜなら、その馬は人気がなく、マークされていないからである。

今年の秋華賞は、果たしてどの馬が逃げ切るのだろうか。


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斤量がこたえるぜ

Kinryou_1 by Photostud

万国共通のモノサシとして、芝のマイル戦では1kgの斤量(負担重量)増は1馬身のロスになるとされる。たとえば、マイル戦で56kgを背負った馬と59kgの馬が同着したとすると、本来であれば、この2頭の馬の間には3馬身の力差があるということになる。もちろん、各馬の個体差があるので一律には扱えない部分はあるが、あくまでも一般的な統計として、芝のマイル戦では1kgの斤量増=1馬身のロスということである。

実を言うと、この斤量についての考え方には応用編がある。たとえ同じ1kgの斤量増でも、条件の違いによって、馬にとっての斤量増に対するこたえ方が違ってくるのだ。条件の違いとは以下の4つである。

(1)背負う斤量が重ければ重いほどこたえる。
(2)距離が長ければ長いほどこたえる。
(3)芝よりもダートの方がこたえる。
(4)斤量が馬体重の12%を超えるとこたえる。

(1)は50kgからの1kg増と、60kgからの1kg増では意味合いが違うということである。前者はほとんど影響がないが、後者はかなりの影響がある。たとえば私たちでも、軽いものを持っている場合には少々重くなろうと大して感じないが、重いものを持っている場合は少し重くなっただけでも苦痛に感じる。

(2)は一瞬にして決着が付いてしまう短距離とそうでない長距離の1kg増では、後者の方が影響は大きいということである。たとえば私たちでも、短い距離・時間であれば我慢できても、距離・時間が長くなればなるほど、ジワジワと感じる重さは増していく。

(3)は芝よりもダートの方が斤量増の影響は大きいということである。これは、力の要る馬場の方が斤量増の影響は大きいということを意味する。たとえば私たちが、重いものを持って、砂浜を走ることを想像してみてほしい。

(4)は斤量泣きする馬、しない馬がいるので、一概に全ての馬に当てはまるわけではないのだが、12%という数字はあくまでも目安として考えてほしい。たとえば、500kgの馬であれば60kgまでならば、ギリギリ我慢できる斤量だということである。それ以上の斤量を背負うと、1馬身どころか、途端に走れなくなるのだ。

これまで、ディープインパクトの背負ってきた最高重量は58kgである。馬体重の12%を目安とすると、ディープインパクトにとっては54kgが分岐点である。国内では圧倒的な能力を誇るためほとんど無視されてきたが、ディープインパクトにとって58kgはすでに酷量であった。そこからさらに1.5kgの上乗せは、馬体重の軽いディープインパクトには相当に厳しい条件となる。

さらに、高低差10mもあるアップダウンの激しいロンシャン競馬場の2400mは、日本の競馬場の2400m以上の距離感を強いられるだろう。そして、ダメ押しのように、ヨーロッパの芝は深くて重い。阪神大章典や雨が降った宝塚記念とは比較にならないほど重いのだ。

斤量については、まるで絶望的な条件が揃ってしまった感がある。ヨーロッパの馬場や斤量に慣れた他の有力馬たちと比べ、ディープインパクトにとっては、これまでのレースとはあまりにも条件が違いすぎる斤量増がこたえる条件の全てが、この凱旋門賞で揃ってしまうからだ。もしかすると、ディープインパクトにとっての最大の敵は、ハリケーンランでもなくシロッコでもなく、59.5kgという酷量なのかもしれない。


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一完歩を10cm長く走らせる

Ikkannpo by M.H

サラブレッドのスピードは、「一完歩の長さ(ストライド)×頻度(ピッチ)」で決まる。もちろん、疲労してバタバタになった馬は脚が伸びないように、同じ馬でも状況によって一完歩の長さは変わるが、走る頻度(ピッチ)が同じであれば、当然、一完歩(ストライド)を長く走った馬の方が先にゴール出来る。

一完歩の長さ(ストライド)は馬の持って生まれた肉体的特徴によるところが大きいのだが、数センチ位の長さであれば、実は騎手の技量によって補うことが出来るのだ。ゴール前1ハロンの完歩数は平均27完歩であり、もし一完歩が10cm長くなったとすると、27完歩×10cm=270cmで2.7m。つまり、ゴール前1ハロンだけで、なんと1馬身の差が生じることになる。このことからも、一完歩を少しでも長く走らせることが、一流騎手の仕事だといっても過言ではないだろう

日本のジョッキーでは、やはり武豊騎手が、この一完歩を少しでも長く走らせる技術に長けている。たとえば、ロジックを勝利に導いた今年のNHKマイルCのラスト1ハロンには、武豊騎手の馬を伸ばす技術が凝縮されているといってよい。あれだけの接戦の中で、ほとんど鞭を使うことなく、馬の走るリズムに合わせて、ストライドを少しでも長く走らせることに集中している。そのストライドのわずかな差が、ゴール前のクビの差に結果的につながっているのである。もし他の騎手であったら、負けていても不思議ではなかったレースである。

日本では馬を「追う」というが、海外では「押す(PUSH)」という。馬を「追う」とは、ムチでビシバシ馬を叩くことではなく、手綱を通して馬を「押す」ことである。もう少し具体的に描写すると、馬が着地する時に、もう何センチか先につかせることによって、一完歩を長く走らせるのである。そのためには、馬の走りのリズムに合わせて手綱を引きつけ、タイミング良く解き放つことによって、馬体を最大限に収縮させなければならない。馬のリズムを崩さないように、少しずつ重心を下げて、ストライドを長く伸ばして走らせるのである。武豊騎手は追えないという筋違いの評価があるが、全くの誤解である。あえて言うならば、武豊騎手は「押せる」騎手なのである。

ちょっと余談
このCMシリーズはJRAの最高傑作だと思う。全力で追っていないため、馬を「押す(PUSH)」感覚は伝わってこないと思うが、武豊騎手の長身を馬の背に折畳んだ美しいフォームや、華麗な鞭捌きを堪能して欲しい。小田和正の歌声も最高!


やっぱり1位になりたい↓

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苛酷なハンデはジョッキーにとってもハンデ

Hadicap01コスモバルクが62kgの負担重量を背負って、今週の札幌日経オープンに出走する。まさに酷量であるが、この苛酷なハンディキャップは、サラブレッドにとってだけではなく、実は騎手にとっても大きなハンデとなる。

コスモバルクに騎乗する五十嵐騎手の体重は、過去の騎乗歴から推測すると、おそらく40kg後半を維持しているのでは思われる。もちろん、食事制限や汗取りなどの苛酷な減量をして、ようやく維持している体重であろう。

そこで、たとえば五十嵐騎手が47kgの体重だとして、コスモバルクに62kgで騎乗するとすれば、なんと単純計算で15kg分の大きくて重い鞍をつけ、ナマリを背負って乗らなければならない。鞍に全てのナマリを入れてしまうと、直接に馬への負担が大きくなってしまうので、ジョッキー自身も普段より数kgほど重いナマリを装着することになる。

たとえば、3kgのナマリを体に装着することを想像してみてほしい。相当に動きは鈍くなるだろうし、体が重く感じるだろう(実際に重い)。私たち以上に、減量で疲労残りのジョッキーの体には数kgの重さはこたえる。そんな状態で、道中では行きたがるコスモバルクを御し、直線では最後までバテさせないように追い続けなければならないのである。

さらに、馬の負担を最小限にするため、少しでも軽く乗らなければならないという心理面でのプレッシャーも相当なものである。ジョッキーがナマリを背負うのは、自分のバランスの取り方いかんで、もしくは関節をサスペンションのようにして重さを逃がすことによって、馬が感じる重さを少しでも軽くすることが出来るからである。馬の体感重量を少しでも軽くすることも、上手い騎手の技のひとつである。

このように、苛酷なハンデは、肉体的にも精神的にも、ジョッキーにとっても大きなプレッシャーになってしまうのである。ハンデは馬だけに課せられたものではないのだ。

それに加え、今回は札幌競馬場でレースが行われることもあって、当日は多くのコスモバルクファンが競馬場に詰め掛けることになるだろう。道営の人気者だけに、出走する以上は勝ちが求められるのは当然である。そんな三重苦ともいえるプレッシャーの中で、コスモバルク五十嵐冬樹のコンビは、どんな走りを見せてくれるだろうか。国際G1馬とその主戦ジョッキーの意地をぜひ見せてほしいものだ。

Photo by M.H

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踏み込みの深さが意味するものは?

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メルマガ「馬券のヒント」にて、“踏み込みの深さで分かるのは距離適性”という仮説を立てたが、誤解があると困るので、もう少し詳しく補足しておきたい。

まず前提としてあるのは、パドックでよく言われる、「後肢(トモ)の踏み込みがいいから、この馬は調子がいいですね~」という馬の見方である。踏み込みの深い馬=調子の良い馬という等式は、かなり昔から、まるで定説のように信じられてきた。

しかし、私はこの定説に少し疑問がある。なぜなら、パドックでは馬はみな興奮しているので、普段よりも脚は大きく出るものだからだ。踏み込みのときに、いかにも力が入っているように見える馬は、興奮しているだけで、かえって良くないのではないかと思う。G1レースに出てくるような馬を見てもらっても、それほど力強くは映らないのではないだろうか。また、飛節の角度が大きい馬は自然と踏み込みも深くなるので、踏み込みが深い馬がいいとは一概に言い切れない

それよりも、後肢の踏み込みの深さは、距離適性と密接な関係にある

スプリンターは前肢よりも後肢が発達しているので、後肢を深く踏み込み、一完歩一完歩に力を使いながら歩く。これで全力疾走すれば、短距離はなんとかもっても、距離が長くなってしまうとスタミナが続かないということになる。それに対して、ステイヤーの踏み込みは、後肢が深くなくても、リズミカルに踏み出され、返しもスムーズで無理がない歩き方をする。このように、スプリンターとステイヤーでは、踏み込みの深さや力強さが違うのである。

つまり、踏み込みの深さから分かるのは、調子の良さではなく、短距離適性なのである。もし短距離戦のパドックで踏み込みが深く力強い馬を見つけたら、スプリンターの資質が表れているということで狙ってみても面白いだろう。しかし逆に、もし長距離戦のパドックでそういう馬が歩いていたら、道中で引っ掛かってしまう、もしくは最後の直線でスタミナ切れを引き起こしてしまうのではないかという心配をしたほうがいい。

さらに、補足の補足で、パドックで馬の動きのどこを見るかと問われれば、後肢の踏み込みよりも、前肢の出ではないかと私は思う。パドックで馬の調子を見極めるのは非常に難しいので、私は多くは語れないが、前肢が綺麗に(スムーズに)出ているように見える馬は好走する率が高いと思う。騎手にとっても、後肢よりも前肢の出が気になるという。乗馬経験のある方ならよく分かるのだが、前が窮屈だったり、硬かったりする馬は、乗っていても気持ち悪いものである。

もっとも、前肢の出が綺麗か(スムーズか)どうかということを見極めるのも、また難しいのであるが…。

Photo by fake Place

追記
私がリスペクトするこちらのブログで、先日のエントリー「インサイダー情報の罠」を紹介していただきました。「インサイダー情報」について、私とはまた別の切り口で大胆に述べられていますので、まだ読まれていない方は必読のエントリーです。「競馬がくれるいろいろな楽しみ」をできるだけ多くの人に伝えていきたいというblandfordさんの願いは、私のそれと同じです。秘密馬券クラブも、もうすぐオープンされるようで、非常に楽しみにしています。

「秘密馬券クラブ」について、まだ知らないという方はこちらから。
→【秘密馬券クラブ】
→【秘密馬券クラブ続報】

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ディープインパクトは真面目すぎる

前走の天皇賞春の次元の違う勝ちっぷりを見せられては、どう考えてもディープインパクトが負ける理由が見当たらないというのが大方の見解だろう。力でディープインパクトをねじ伏せられる馬など、それこそ世界中を探してもいるかどうか分からない。それぐらいディープインパクトの力は傑出している。

それでも、今回の宝塚記念で、ディープインパクトは飛ばない(負ける)だろう。その理由は、天皇賞春を境にしてディープインパクトが調教で動かなくなったことからの伏線で、今のディープインパクトはいつガタっと疲れが出てもおかしくない状態にあるからだ。

【ディープインパクトは飛ぶことができるのか?】にて、競走馬が調教で動かなくなることには、大きく2つの理由があると述べたひとつは「体調が悪い」からで、もうひとつは「走る気力が失せている」からである。ディープインパクトは後者の理由が強く、精神的な疲労が抜け切っていないまま天皇賞春を迎えていた。

しかし、並の一流馬ならあっさりと凡走してしまうところを、ディープインパクトは最後の力を振り絞って圧勝してしまった。このように、疲労のサインを発しながらも、レースに行くと走ってしまう馬は、真面目すぎる性格であることが多い。おそらく、ディープインパクトは、私たちが思うにもまして真面目すぎる性格の馬なのだろう。ディープインパクトのように真面目すぎる馬は、人間が気付いてあげないと、限界を超えて走ってしまうのである。

真面目すぎる馬で思い出すのが、3冠馬ナリタブライアンの兄ビワハヤヒデである。頭が大きく、愛嬌のあるルックスからは想像もつかないが、この馬も真面目すぎるほど真面目な馬であった。実はビワハヤヒデも、4歳秋の産経賞オールカマーの頃から、調教で動かなくなった。今から思うと、春の天皇賞→宝塚記念レコード勝利という連戦が堪えたのだろう。夏を越してめっきりと調教で動かなくなってしまったのだが、そんな心配をよそに、産経賞オールカマーはダービー馬ウイニングチケット以下を寄せ付けずに圧勝した。

しかし、本番の天皇賞秋も圧倒的な人気に推されたものの、いつもの手応えはなく、5着に凡走してしまった。レース後には、左前足屈腱炎が判明して、引退が発表されることになった。ビワハヤヒデは真面目すぎるがゆえに、産経賞オールカマーで万全の体調でなかったにもかかわらず、限界まで力を出し切って走ってしまったのだ。もし産経賞オールカマーで頑張らずに凡走していれば、次走の天皇賞秋で引退に追い込まれることもなかったかもしれない。

ビワハヤヒデと同じように、ディープインパクトも最後の力を振り絞って、天皇賞春を走ってしまった。さらに、レコード決着というおまけ付きである。これで反動が出ないほうがおかしく、一度は我慢できても、二度目は我慢することは難しい。今回、ディープインパクトはあっと驚く凡走をすることになるだろう。そして、あっさりと凡走すればまだいいのだが、己の限界を超えて頑張ってしまい、怪我をしてしまうことだけはあってはならない。とにかく無事に負けてくれることを祈る。


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◎アドマイヤムーンが勝つその理由とは

皐月賞では本来の<体調>になかったアドマイヤムーンが、ダービーに臨むにあたって復調している。その根拠とは、集中連載:「馬体重は語る」の【第8回】【第9回】を読んでくれた方はお分かりだろうが、「馬体重が大幅に減った前のレースの数字に戻った時、次のレースからは<体調>が戻ったと判断する」という馬体重の原則があるからである。

アドマイヤムーンは、弥生賞で-6kgという100%の状態に仕上がってしまった反動が出て、皐月賞は4着と凡走してしまった。武豊騎手の、「これまで3回乗ったけど、皐月賞の時だけ走らなかった。あれっ何だろうという感じでしたね。」というコメントからも分かるように、道中の位置取りやコース取りという些細な理由ではなく、アドマイヤムーン自身が走れる<体調>になかったことは明らかである。

しかし、アドマイヤムーンはそのままでは終わらなかった。何と皐月賞の時には、弥生賞で大幅に馬体重を減らす前の馬体重(共同通信杯時の478kg)に戻っていたのだ。何度も言うが、「当日の馬体重の増減が馬の<体調>に影響を及ぼすのは、その日のレースにおいてではなく、レースの後になる」という馬体重の原則に基づくと、この6kgのプラス体重は、皐月賞後の<体調>に影響を及ぼすことになる。皐月賞で馬体重を戻していたからこそ、この中間はビシビシと調教を課すことができたのだ。アドマイヤムーンの<体調>が回復していることは間違いない。

アドマイヤムーンは見た目も血統も決して派手ではないが、共同通信杯や弥生賞で見せた豪脚は一流馬のそれであり、<体調>さえ戻れば必ずや勝ち負けになるはずである。最も問題とされる距離適性についても、2000mまでの距離をこなせる馬であれば、この時期は完成度の方がモノを言うことが多い。実際に、タニノギムレットやキングカメハメハは、2400mの距離をスケールと完成度で押し切ってしまった。そして、パワータイプのこの馬にとっては、重馬場もさほど苦にならないだろう。アドマイヤメインやフサイチジャンクなどの、跳びの綺麗な馬たちにとってマイナスに働く分、アドマイヤムーンにとっては有利になるかもしれない。今年のダービーは、アドマイヤムーンと武豊騎手が勝つと信じている。


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ラインクラフトの口元に注目

ラインクラフトは今年に入ってからの2戦(高松宮記念と阪神牝馬S)、ノーズバンドを外してレースに臨んでいる。ノーズバンド(鼻革)とは、馬の口が開きすぎないように、口の周りをグルっと巻いて締め、口が開かないようにする細い革のバンドのことである。ラインクラフトのように、舌を出したり、口を開きながら走るため、手綱の操作がうまく伝わりにくい馬に効果がある。

舌を出して走ることによるメリットはない。手綱から舌の上にあるハミを通して、騎手は競走馬に意志を伝える。舌を出してしまうということは、ハミを通して騎手の微妙な意志が伝わりにくいということである。そうなると、折り合いが付けにくいだけではなく、勝負所で最後まできちんと追うことが難しくなる。ハミがきちんと掛かっていない馬は、踏ん張らなければならない場面において、集中力を欠き、遊んでしまうからだ。

Noseband
(3歳のNHKマイルカップ~昨年の阪神牝馬Sまで、ノーズバンドを使用した)

そのノーズバンドを外したということは、効果が期待できなかったということもあるのだろうが、それ以上に、今のラインクラフトにはもう必要がなくなったということではないか。事実、前走の阪神牝馬Sでは、道中でほとんど引っ掛かることもなく、最後までシッカリとハミを噛み、集中力を切らすことなく伸び切っていた。ノーズバンドを使わずとも、舌を出したりして折り合いを欠く心配はないだろう、という陣営の判断は正しかったことになる。

しかし、先週と今週の追い切りを見て、ラインクラフトが舌を左側に出して走っていたことが、とても気になった。集中力を欠き、ほとんど真面目に走っていない印象を受けた。レースと年齢を重ねる毎に、この傾向は強くなってきている。追い切りで舌を出して走るのはこの馬のクセではあるが、あまりにも露骨に表れていたので、本番のレースではきちんと走ることが出来るのかと不安になったのだ。レースに行ってきちんと走れば問題ないが、果たしてどこまで調教とレースの切り替えが出来るのだろうか。

舌を出すことなく、しっかりとハミを受けて走ることが出来れば、課題である折り合いも心配ない。折り合いさえキチンと付けば、たとえマイルの距離でも、最後まで押し切ってしまうだろう。さらに、明日のヴィクトリアマイルは馬場の悪化が予想される。馬はハミを頼ることによって、悪い馬場をノメらずに走ることが出来る。舌を出してハミ受けが悪いということは、道悪では不利になってしまうのだ。つまり、ラインクラフトの口元の問題は、この記念すべき第1回のヴィクトリアマイルの勝敗の行方すら決めてしまうと言っても過言ではないのだ。


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ディープインパクトは飛ぶことが出来るのか?

天皇賞春に向けた今週の最終追い切りにおいて、私は見たくないものを見てしまった。それは、ディープインパクトが耳を絞って、走ることを拒否していた姿である。まるでディープインパクトが、「もう走りたくないよ」と言っているように、私には感じられた。

調教パートナーである池江調教助手を背にしたディープインパクトは、DWコースで、6ハロンで3馬身先行したオリエントチャーム(4歳1600万下)を追走する。直線に入り、いざ追い出されると、そのゴーサインに全くもって反応しない。手綱を激しく動かし、肩ムチを入れるものの、本来の伸びはなく、結局、1馬身遅れてゴールインした。

「古馬になってズブくなってきたから」
「調教とレースは違うから」
「変に動きすぎる方が心配」
「相手を見ながら走っている」

ディープインパクトが調教で動かなくなっていることについて、上のような発言で、関係者は問題がないことを強調し、マスコミもそれに追従する。

しかし、<調教で元々動かない>ことと、<調教で動かなくなる>ことは違う。

確かに、<調教で元々動かない>が、レースに行くと素晴らしい走りを見せる馬はいる。このタイプはステイヤーに多く、ステイヤーは総じて調教ではビックリするような時計は出さない。ストライドが大きい走法のためスピードに乗るのに時間が掛かり、気性的にも追い切りのような短い距離(6ハロン程度)をガンガン行くようなことはない。だからこそ、ステイヤーに限っては、たとえ調教で動かなくても、さほど心配することはない。

<調教で動かなくなる>ことには、以下の2つの理由が考えられる。
1、体調が悪い
2、走る気力が失せている

1は、当たり前のことだが、体調が悪ければ調教でも動けない。反対に、調子の良い馬は、自然と調教でも速い時計が出てしまう。調教での動きの良し悪しが、競走馬の調子のバロメーターとなるのは周知の事実である。

2は、精神的に燃え尽きてしまった馬によく見られる現象である。競走馬が一旦燃え尽きてしまうと、まるで別馬のように凡走を繰り返すこともあるし、また、あと一歩の踏ん張りが利かなくなることもある。前者は牝馬に多いケースで、後者は牡馬に多い。

高いレベルの戦いになればなるほど、レースを勝ち切るためには、肉体と精神の限界を超えた戦いを繰り返さなければならない。そんな中で、精神的に燃え尽きてしまっていることは致命傷になる。いくら走る能力がある馬でも、他馬よりも一歩でも先に出るという気持ちが失われていては、ゴールを先頭で走り抜けることは難しい。

ディープインパクトが、<調教で動かなくなってきている>のは事実である。そして、これだけゆったりとしたローテーションで調整している以上、体調が悪いということはあり得ない。そうなると、ディープインパクトの気持ちが問題となる。

デビューからあれだけの注目を集めながら、レースでは常に結果を出し続けてきた。撮影ラッシュは凄まじいものがあるだろうし、関係者たちの極度の緊張も伝わるだろう。牧場に帰ってノンビリすることもなく、1年以上戦い続けてきた。さすがの英雄ディープインパクトであっても、「もう走りたくない」という気持ちが芽生えてきてもおかしくはないのではないか。

私が心配しているのは、今回の天皇賞春の走りではない。気持ちが萎えていても、このメンバーならばあっさり勝ってしまうかもしれないし、もしかすると負けるかもしれないとも考えている。しかし、そうではなく、私が最も心配しているのは、ディープインパクトがこのまま燃え尽きてしまうことである。彼には、この後にするべき大きな仕事が待っているのだ。肉体的にも精神的にも最高の状態でないと、決して成し遂げられることのない前人未到の大勝負である。

私の心配が杞憂に終わることを祈る。


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アドマイヤムーンが負けるその理由とは

アドマイヤムーンの末脚は不発に終わる可能性が高い。もっとはっきり言ってしまえば、アドマイヤムーンは皐月賞で負ける。いや、負けるというよりも、もしかしたら連対すら外してしまうかもしれない。

なぜここまで断言するかと言うと、アドマイヤムーンの体調は下降線を辿っていることが、馬体重から読み取れるからだ。【集中連載:馬体重は語る-第5回-】を読んでくれた方はピンと来るだろうが、馬体重の推移を見れば、弥生賞以降、アドマイヤムーンの<体調>は下がっていくことが予測される。

アドマイヤムーンの共同通信杯での鮮やかな勝ち方を見る限り、当時の478kgという馬体重は太め残りではなく、成長分も含めたベストの馬体重であったことが分かる。そのベストの馬体重からさらに絞って、弥生賞は-6kgという、ほぼ100%に近い、キッチリ仕上げられての出走であった。

馬体重の基本原則をもう一度述べると、

「当日の馬体重の増減が馬の<体調>に影響を及ぼすのは、その日のレースにおいてではなく、レースの後になる」

ということである。

馬体重の増減はその場、その時の馬の<体調>には影響は持たず、レース後の<体調>に影響を与える。つまり、もしレース当日の馬の<体調>を見極めたいとすれば、当日の馬体重の増減ではなく、前のレースまでの馬体重の推移を手がかりとしなければならない。

この基本原則に照らし合わせると、アドマイヤムーンの弥生賞での-6kgというマイナス体重は、弥生賞当日の<体調>には影響を持たない。影響を持つとすれば、レース後の<体調>、つまり今回の皐月賞に臨むに当たっての<体調>ということになる。

どういう影響かというと、【集中連載:馬体重は語る-第6回-】にて、レース後に<体調>が悪くなるパターンとして挙げた、「100%の状態に仕上げられた反動」である。アドマイヤムーンは弥生賞で100%の状態に仕上げられたため、そのレース後に<体調>が悪くなってしまうということになる。反動とはコインの裏であって、たとえ良い結果が出た場合でも、そこに至る過程に少しでも無理があると、ツケがレース後に回ってくるのである。

アドマイヤムーンほどの一流馬になると、私たちの目に見える形では、<体調>の悪さをなかなか表さない。たとえ<体調>が少々悪かろうと、馬体はよく見せ、調教でも良い動きをしてしまう。私たちの目に見える形で表れてきた時は、すでに赤信号が灯っている状態である。しかし、私たちは馬体重を読み解くことによって、黄色信号の状態を見極めることができる。口が利けない馬の代わりに、馬体重は雄弁に語っている。それに気付くか気付かないかは私たち次第である。


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どのように勝つかも問われる

武豊騎手を背に、松田博厩舎がアドマイヤキッスを桜花賞に送り出す。このコンビで桜花賞とくれば、桜花賞とオークスの2冠を制した名馬であり、アドマイヤベガ、アドマイヤドンなどを輩出した名牝でもあるベガを思い出さないわけにはいかない。当時、2文字の馬名は珍しく、チューリップ賞を勝ってまさに彗星のごとく現れたのだが、特に桜花賞での絶妙な走りは強烈に記憶に残っている。武豊騎手も、自身のベスト騎乗に挙げるほどのレースである。

ベガが勝った桜花賞のどこが素晴らしいかというと、その勝ち方である。ベガは一本の線の上を走っているようなブレのない走法で、長い距離を安定して走ることに長けた馬であった。そのため、2400mのオークスでは絶対の自信を持って臨むことができるが、スピード勝負になる桜花賞では、厳しい戦いを強いられることが予想された。

その桜花賞で、武豊騎手はベガの走りのリズムを少しも崩すことなく、桜花賞を勝ってしまった。ゴール前ではユキノビジンに追い詰められての辛勝であったが、ベガは長い距離を走るリズムで、短い距離の桜花賞を勝ってしまったのだ。その後のオークスでも、ベガは本来のリズムで走り、当然のことながら圧勝した。ベガの能力が高かったことは言うまでもないが、桜花賞において、ベガ本来の走りのリズムを崩すことなく、しかも勝つことが出来たということが大きなポイントであった。

これと対照的なのは、昨年の桜花賞を勝ったラインクラフトである。桜花賞では絶対的に不利とされる大外枠を克服して、ラインクラフトは勝利をもぎ取った。外から切れ込むように先手を奪い、馬のスピードに任せて押し切った、福永騎手の立ち回りは見事であった。のちの日米オークスを制したシーザリオを封じ込めての勝利だけに、その価値は高い。その後、牡馬相手に挑戦したNHKマイルカップも楽勝している。しかし、この桜花賞以降、ラインクラフトはスタートから行きたがる悪い癖がついてしまった。

桜花賞より前のレースを見れば分かるが、元々、ラインクラフトはあれほど行きたがる気性の馬ではなかった。スピードに長けた馬ではあるが、騎手の指示に従い、素直に折り合いのつく馬であった。そのラインクラフトが、桜花賞以降はまるで別馬のように、スタートから騎手の制止を振り切ってでも突っ走ってしまうようになってしまった。ラインクラフトのリズムは、桜花賞を勝つことによって崩されてしまったのだ。

もちろん福永騎手を責めているわけではなく、若駒(特に若くて敏感な牝馬)にとって、ひとつひとつのレースが非常に大きな影響を持つということである特にG1レースのような極限の状況で体験したことを、馬は決して忘れない馬によって違いはあるのだが、一度体に刷り込まれたリズムを修正するのは至難の業である。だからこそ、目先の勝利を得ながらも、馬の将来を考えてレースを教えていかなければならない。勝つことと教えることのバランスは、騎手にとっても永遠の課題だろう。ただ勝つだけではなく、どのように勝つかも問われるのだ。

アドマイヤキッスは、フットワークが大きく綺麗で、騎手の指示に忠実に反応することのできる気性の馬である。桜花賞を勝つことだけを考えれば、それなりのレースが出来て、このメンバーならば楽に勝つことができるかもしれない。しかし、武豊騎手はそうは考えないだろう。だからこそ、いつまでもナンバーワンの座を維持することができる。アドマイヤキッスのリズムを崩すことなく、オークスやその先にある将来を見据えながら桜花賞を勝つこと。これが武豊騎手とアドマイヤキッスに与えられた今回の命題である。


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ディープインパクトは間に合ったのか

あまり触れられていないが、ズバリ言っておきたいことがある。それは、ディープインパクトが走ってきたこれまでの7戦と比べても、最も仕上がりが遅れているのが今回の有馬記念であるということ。それは、1週間前のパドック写真を見れば明らかである。

■弥生賞■
yayoi
まだ若さを感じさせる馬体、表情だが、全体的なバランスは良い

■皐月賞■
satuki
肉体的にも精神的にも最も良い仕上がりであったのが皐月賞

■ダービー■
derby
皐月賞時の好調を維持して、非の打ち所のない仕上がり

■神戸新聞杯■
kobe
若干緩さを感じさせる造りだが、休み明けのため当然といえば当然か

■菊花賞■
kikka
しっかりとした筋肉が付いて、好仕上がり

■有馬記念■
arima
季節的に毛艶が良くないのは仕方ないとして、各パーツに緩みが見られる。立ち姿全体のバランスも、これまでと比較すると良くない。

このように、立ち姿(写真)を時系列的に見ると、今回の有馬記念に臨むディープインパクトの仕上がりの悪さは、誰の目にも明らかである。おそらく、菊花賞を勝った後に、かなり楽をさせたのだろう。もしかすると、菊花賞の疲労が抜けるのに時間が掛かったのかもしれない。いずれにせよ、立ち姿(写真)から1週間前時点での状態(体調)を推し測る限り、これまでのどのレースよりも仕上がりが遅れているのは事実である。

もちろん、仕上がりが悪くても能力が違えば勝つこともあるし、急ピッチの調整で間に合うかもしれない。トータルの勝ち負けを考えれば、ディープインパクトが勝つ可能性が高いのはオッズが示す通りである。しかし、この立ち姿(写真)だけを見ると、ディープインパクトにもわずかな隙があることが分かるのではないか。果たして、ディープインパクトは間に合ったのだろうか。

Photo by 競馬ブック

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若駒の馬体減は必ずしもマイナス材料とはならない

開業2年目の若手トレーナーと、19歳のジョッキーというフレッシュコンビで、アイスドールは阪神ジュべナイルFに臨む。前走の赤松賞でも馬群を捌いて抜け出したように、牝馬らしからぬ末脚はG1レースの舞台でも大きな武器となるだろう。とはいえ、やはり気になるのは、その馬体重である。

新馬戦  446kg
未勝利戦 436kg
赤松賞  430kg

デビューからわずか3戦で、なんと16kgも馬体重を減らしている。新潟→阪神→東京という転戦であったとしても、これだけの減少があれば、馬体の細化を不安視する声が上がるのも当然といえば当然である。

しかし、今年の桜花賞でも述べたことだが、若駒(特に牝馬)のベスト体重を想定するのはとても難しい。なぜなら、若駒は体も出来上がっておらず、輸送等の外的な条件の変化に大きく影響を受けてしまうため、陣営も手探りで仕上げていることが多いからだ。特に、キャリアの浅い馬の大幅な馬体重の増減は、必ずしも悪いとは言えない。

たとえば、平成8年の桜花賞馬ファイトガリバーの新馬戦からの体重を見てみたい。

新馬戦   494kg 1着
紅梅S   486kg 2着
桃花賞   482kg 1着
アネモネS 476kg 3着
桜花賞   470kg 1着

なんと、新馬戦から桜花賞までの間に24kgも体重が減っていることが分かる。結果的に見ると、新馬戦の馬体が明らかに太かったのであって、桜花賞の470kgがこの馬にとってはギリギリの仕上げであったと考えられる。

この時期の牝馬は敏感で仕上げが難しいため、大幅な馬体減や馬体増の意味をきちんと見極めなくてはならない。歯替わりやフケの影響かもしれないし、調教やレースでの疲労から体が痩せてきているのかもしれない。また、それまでが余裕を持たせたつくりで、今は少しずつ絞れてきているのかもしれない。

アイスドールの馬体重の減少をどのように解釈するかは難しいが、馬体を見る限りにおいてはギリギリという感じはしない。むしろバランスが良く、付くべきところに筋肉が付いている。前走後はグリーンウッドに放牧に出されており、最終追い切りもビッシリと乗り込まれた。カイ食いや馬体減を心配しているのであれば、これだけの調教はできないだろう。

これらのことから判断して、アイスドールの現時点でのベスト体重は、結果を出している430kg前後ではないだろうか。新馬戦がかなりの太め残りで出走し、3戦目にしてようやく競走馬として走れる体つきになってきたということになる。つまり、アイスドールにとっての大幅な馬体減は、マイナス材料ではなくプラス材料なのである。


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エアメサイヤはなぜ負けるか

今年の秋華賞は、ラインクラフトとエアメサイヤの2頭の争いとされている。桜花賞とNHKマイルカップの2冠を制したラインクラフトと、オークスではあのシーザリオを苦しめ、前哨戦のローズSで目の覚めるような末脚で快勝したエアメサイヤの一騎打ち、というのが大方の見解だろう。

ラインクラフトを管理するのは、現在全国リーディングトップを走る瀬戸口調教師で、対するエアメサイヤは驚異の連対率(0,329)を誇る伊藤雄二調教師。レースで手綱を取るのも、今年のG1レースを既に4勝している未来のエース福永祐一騎手と、日本の不動のトップジョッキー武豊騎手である。

どちらの馬も甲乙付け難く、どちらが勝ってもおかしくない。実績を取るならラインクラフトだが、勢いや成長度はエアメサイヤに分があるようにも見える。どちらを本命にするか、大変迷うところである。

が、果たして本当にそうだろうか。

結論から述べると、エアメサイヤが秋華賞を勝つ可能性は極めて低い。ともすると、連対すら外してしまうことも十分考えられる。いや、エアメサイヤは負ける。

【1・2・0・49】

この数字は、サンデーサイレンス産駒の秋華賞における成績である。過去9回行われた秋華賞に52頭のサンデーサイレンス産駒が出走して、勝った馬は平成15年のスティルインラブで、2着と好走したのも同年のアドマイヤグルーヴと平成13年のローズバドのみ。その他の馬は、どの馬も4着以下に沈んでいる。1番人気に推されたトゥザビクトリーやダンスインザムードというビッグネームすらも惨敗しているのが、この秋華賞である。

また、サンデーサイレンス産駒の秋華賞での連対率は、【.057】という極めて低い数値である。他のG1レースと比較してみても、1割を切るのはNHKマイルカップの【.091】で、それ以外のG1レースではほとんど2割以上の連対率となる。たとえば、同じ牝馬限定G1レースであるエリザベス女王杯の【.324】と比べると、サンデーサイレンス産駒の秋華賞での凡走ぶりは明らかになる。

なぜサンデーサイレンス産駒が秋華賞を苦手とするかというと、スピードの持続が極限まで求められるからである。ゆっくり行って終いを伸ばすレースには滅法強いのだが、京都2000m内回りのような、スタートからゴールまで速いラップを刻み続けなければならないレースを苦手とする。また、小回りでゴチャつくことが多いのもマイナスの要因となる。もちろん、全てのサンデーサイレンス産駒がそうではないのだが、そういう傾向が強いことは確かである。

エアメサイヤも例に漏れず、スローペースからの瞬発力勝負に強い馬である。道中ゆったりと走ってこそ、ラスト3ハロンで強烈な末脚を発揮できる。逆に、スタートからひたすら速いラップを刻まなければならないようなレースでは、最後に思ったような脚を使うことができない。このようなタイプの馬は、京都の内回りで行われる秋華賞では苦しいレースを強いられることになる。

このように、エアメサイヤが来ないという結論は、【1・2・0・49】という数字(データ)から導かれたものである。サンデーサイレンス産駒が秋華賞を苦手としているという数字(データ)に意味付けができなければ、前哨戦のローズSを完勝しているエアメサイヤを消すのは至難の業であろう。きちんとした根拠がない限り、伊藤雄二が育て、武豊が手綱を取るサンデーサイレンス産駒を、どうして勝負にならないと斬ることができようか。

もちろん、数字(データ)はあくまでも現実のあとに生まれるものであり、現実や本質は数字(データ)に先行する。数字(データ)は現実の後付けに過ぎない。つまり、いくら数字(データ)を追っても、現実はいつまでも掴むことはできないのだ。

しかし、時として、人間が2つの目で見ても分からなかったことを、数字(データ)は気付かせてくれることがある。数字(データ)が物事の本質を見事に突くこともあるのだ。そして、数字(データ)の持つ意味に気付くことができるかどうかは、予想という行為において大きな位置を占める。今年の秋華賞の予想は、エアメサイヤが負けるであろうことに気付けるかどうかが全てなのである。


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カミソリとナタと

カミソリやナタなどと物騒なタイトルたが、何てことはない、競走馬の末脚の切れ味のことである。「コダマはカミソリ、シンザンはナタの切れ味」という武田文吾調教師のコメントが由来だが、競馬界では日常的に使われている表現のひとつである。同業者ながらも(?)、よく拝見させていただいている【そのまま、そのままっ!!】の記事に触発され、私なりにカミソリとナタとについて考えてみた。

まず、カミソリとナタとはどちらも切れるのだが、その切れ方が違う。カミソリはスパッと切れるのに対し、ナタはザクッと切れる。つまり、カミソリの方がナタよりも鋭く切れる。かといって、カミソリの方が切れ味が良いかというと、そうとは限らない。たとえば大きな木をカミソリで切っても切れないように、切る対象物によっては、カミソリよりもナタの方が切れる。カミソリが鋭く、ナタが鈍いということではなく、あくまでも切れ方が違うのである。

これをそのまま競馬に当てはめてしまうと、カミソリの切れ味とは、一瞬で鋭く切れる末脚のことで、対するナタの切れ味とは、良い脚を長く使える末脚ということになる。確かに間違ってはいないのだが、これだけではあまりにも抽象的で分かりにくい。もう少し具体的に、かつ厳密に述べると、以下のようになる。

カミソリとナタとの違いは、“スピードがスタミナに裏打ちされているかどうか”である。分子がスピードで、分母がスタミナとすると分かりやすい。その馬のスピードに対してのスタミナの比重が軽ければ、末脚はカミソリの切れ味となり、スピードを支えているスタミナが豊富であれば、末脚はナタの切れ味となる。

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G1を勝つには隙のないレースをしなければならない

岡部幸雄(元)騎手が、現役時代から週間GALLOPに連載している「馬優先主義」というコーナーがある。今週で515回目を数えるという息の長さであるが、私自身、このコーナーを通じて岡部幸雄から学んだことは多い。数々の修羅場をくぐってきた岡部幸雄にしか語りえない示唆に富んだ内容には、時折ハッとさせられる瞬間がある。

sweeptousyou by M.H

今週号の連載で、宝塚記念を制した池添騎手&スイープトウショウのレース振りを評して、「G1を勝つには隙のない競馬をしなければならない”という言葉を体言した完璧な競馬だった」とする。“G1を勝つには隙のない競馬をしなければならない”とは、当たり前のようではあるが、改めて言葉にされると、G1を勝つことの厳しさ、そしてG1を予想することの難しさに突き当たる。

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最高の出来にあれば、不利や悪条件は克服してしまう

前走の金鯱賞で、同一重賞3連覇という偉業を成し遂げたタップダンスシチーが、今年の宝塚記念では、史上初のサマーグランプリ連覇に挑む。

タップダンスシチーが制したもうひとつのG1は、平成15年のジャパンカップである。このレースは上がりが37秒4も掛かる不良に近い重馬場で行われた。なんと9馬身もの差をつけての圧勝劇であったが、陣営も認めるように、実はタップダンスシチーはこういった馬場を苦手とするのだ。

タップダンスシチーのような跳びの大きな馬は、よほど爪の形が良くない限り、下が滑る馬場では本来の走りが出来ずに能力を削がれてしまう。ジャパンカップ以外の重馬場での成績を見ると、500万下のレースで4着、目黒記念で5着と凡走している。もちろん本格化する前のレースなので単純比較はできないが、本質的に重馬場を苦手とすることは間違いない。

では、なぜジャパンカップを圧勝できたかというと、馬が最高の状態にあったからだ。ジャパンカップでのタップダンスシチーは、生涯最高の状態で、まさに唸るような出来栄えを誇っていた。肉体的にも精神的にもピークに仕上がった馬は、多少の不利や悪条件は跳ね返してしまう。

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休養への入り方が、休み明けの成績に影響を及ぼす

今年の宝塚記念は、昨年度の年度代表馬であるゼンノロブロイと、昨年の宝塚記念の覇者であるタップダンスシチーとの一騎打ちムードが高まっている。東の横綱であるゼンノロブロイの、有馬記念後に休養→宝塚記念というローテーションは、一昨年に休み明けで凡走した同厩馬シンボリクリスエスと臨戦過程が酷似している。

平成14年宝塚記念でのシンボリクリスエスの敗因は、けいこが足りなかったのでも、逆にやり過ぎたのでもなく、前年度に全く余力が残っていない状態で休養に入ったということにある。おつりを残した状態で休養に入ることができれば、その分回復も早いのだが、100%以上の力を出し切ってしまった状態で休養に入ると、その反動により、立て直すのにかなりの時間を要することになる。つまり、休養への入り方は、休み明けの成績に大きな影響を及ぼすのである。

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距離適性は変化する

「以前は薄手の体形でしたが、成長するに連れて筋肉が付いてガッシリとした短距離向きの体に変わってきました」とは、アドマイヤマックスを管理する橋田満調教師の弁である。

アドマイヤマックスの戦歴を振り返ると、まず1600mの新馬戦を勝ち上がり、2戦目にして1800mの東京スポーツ杯2歳Sを快勝した。続いて2000mのラジオたんぱ杯2歳Sで惜敗した後、骨折が発覚して3歳の春を全休した。秋は2200mのセントライト記念で復帰し、3000mの菊花賞にも出走して2番人気に支持されたこともある。

3歳までの戦績だけを見れば中長距離馬の使われ方であるが、4歳になってからは1600mの安田記念を皮切りに、マイル以下の距離を使われ、6歳にして1200mの高松宮記念で念願のG1タイトルを手に入れた。

このように、成長するにつれアドマイヤマックス自身の距離適性が変化していることが分かる。短距離向きの筋肉が付いてきたことにより、持久力が必要とされる中長距離のレースには向かなくなってしまったのである。2、3歳時のアドマイヤマックスと古馬になってからのアドマイヤマックスでは、同じ馬でも違う馬なのである。

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大幅な馬体減の後は反動が出る

今年のダービーはディープインパクトが断然で、ファンの馬券的な焦点は2着争いに絞られている。その筆頭として、前哨戦である青葉賞の勝ち馬ダンツキッチョウと京都新聞杯を勝ったインティライミが挙げられる。

少々唐突だが、この2頭の共通点は、前走で馬体重を大幅に減らしているということである。ダンツキッチョウが-10kg、インティライミが-6kgでの出走であった。これは、ダービーへの出走権を確実にするために、キッチリと仕上げて前哨戦に臨んできた結果とみてよい。

「当日の馬体重の増減が馬の<体調>に影響を及ぼすのは、その日のレースに
おいてではなく、レースの後になる」

という、馬体重を読み解く上での大原則がある。
(*詳しくは「馬体重は語る」をご覧ください)

この大原則に沿うと、ダンツキッチョウとインティライミの前走でのマイナス体重は、本番であるダービーでの<体調>に影響を及ぼすことになる。

結論を述べると、インティライミは本番のダービーでは凡走する可能性が高い。なぜなら、前走で仕上げ過ぎたことによる反動が出てしまうからだ。それに対してダンツキッチョウは、反動を心配することはなく、さらなる上積みが期待できる。

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33秒台の脚で勝った後のレースは凡走する

今年のオークスは、シーザリオが人気を集めそうだが、同じ角居厩舎のディアデラノビアも虎視眈々と女王の座を狙っている。前走のフローラSでは、大外枠の発走から後方2番手を追走し、直線ではメンバー最速の33秒台の脚を使って見事に全馬を差し切った。角居調教師が「ゴムまりのようなバネのある馬」と形容するくらい、ディアデラノビアには瞬発力が溢れている。

しかし、今回のレースに限っては、ディアデラノビアの末脚は不発に終わる可能性が高い。

なぜなら、ラスト3ハロンを33秒台の脚を使って勝った次のレースは凡走する、からである。

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派手な追い込み勝ち後は凡走する

競馬のレースにおいて最もインパクトの強い勝ち方は、派手な追い込み勝ちだろう。どう見ても届かない位置から、直線だけで他馬をゴボウ抜きにするシーンは、見ているだけでも爽快である。今や伝説となっているマティリアルのスプリングS、マヤノトップガンの天皇賞春、ダンスインザダークの菊花賞、最近ではデュランダルのスプリンターズSやマイルCSなどが思い浮かぶ。

派手な追い込み勝ちをすると、いかにも強いという印象を与えるが、その反面、次のレースでは凡走することがほとんどである。なぜかというと、以下の2つの理由がある。

1)豪脚を使ったことによる肉体的な負担が大きく、次のレースに反動が出るため
2)派手に見えても実は展開に恵まれたもので、次のレースではそのような展開にならないため

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ステイヤーのピークは長い

最も有力なステップレースとされる阪神大賞典での着順と、天皇賞春でのそれを比較してみたい。

    阪神大賞典→天皇賞春
平成 7年 
1着 ナリタブライアン → 不出走
2着 ハギノリアルキング→3着
平成 8年 
1着 ナリタブライアン → 2着
2着 マヤノトップガン → 5着
平成 9年 
1着 マヤノトップガン →  1着
2着 ビックシンボル  → 6着
平成10年 
1着 メジロブライト  →  1着       
2着 シルクジャスティス→ 4着
平成11年 
1着 スペシャルウィーク→ 1着       
2着 メジロブライト  →  2着
平成12年 
1着 テイエムオペラオ-→1着       
2着 ラスカルスズカ  → 2着
平成13年 
1着 ナリタトップロード→ 3着
2着 エリモブライアン → 9着
平成14年 
1着 ナリタトップロード→ 3着
2着 ジャングルポケット→2着
平成15年 
1着 ダイタクバートラム→ 3着
2着 コイントス    → 不出走
平成16年 
1着 リンカーン    → 13着
2着 ザッツザプレンティ→16着

平成12年までは、以下の2点の現象が明らかである。
1)阪神大賞典での勝ち馬は、本番である天皇賞春の勝ち馬と結びつきが非常に強い
2)阪神大賞典における着順は、本番の天皇賞春でも逆転することはない

なぜこのような現象が起こったかいうと、「ステイヤーのピークは長い」からである。

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弥生賞馬と皐月賞の微妙な関係

ディープインパクト報道の異常なまでの過熱ぶりは、競馬界の話題作りのためのスターに祭り上げているのではないかと勘ぐってしまうほどである。しかし、改めて新馬戦→若駒S→弥生賞という3連勝の内容を目の当たりにすると、この馬のサラブレッドとしての圧倒的な身体能力の高さを感じざるを得ない。

そんな完全無欠のディープインパクトでも、無敗で皐月賞を制するためには、ひとつだけクリアしなくてはならないジンクスがある。

「弥生賞の勝ち馬は、皐月賞では勝てない」

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若駒(特に牝馬)のベスト体重は見極めが難しい

シャダイカグラ、マックスビューティ、ダイイチルビー、エアグルーヴ、ファインモーションなど、多くの名牝を育て上げてきた伊藤雄二調教師が、久しぶりに管理馬エアメサイアを桜花賞に送り込む。そして、昨年のファインモーションの一件で師に借りがあるであろう、桜花賞5勝ジョッキー武豊がいかにしてエアメサイアを勝利に導くのだろうか。

牝馬クラッシク第一弾の桜花賞だが、この時期の若駒(特に牝馬)のベスト体重を想定するのはとても難しい。体も出来上がっておらず、輸送等の外的な条件の変化に大きく影響を受けてしまうため、陣営も手探りで仕上げていることが多いからだ。特にキャリアの浅い馬の大幅な馬体重の増減は、必ずしも悪いとは言えない。

たとえば、平成8年の桜花賞馬ファイトガリバーの新馬戦からの体重を見てみたい。
新馬戦   494kg 1着
紅梅S   486kg 2着
桃花賞   482kg 1着
アネモネS 476kg 3着
桜花賞   470kg 1着

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耳を立てている馬は余力あり

今年の高松宮記念の1番人気は、1200mの重賞を連勝した上がり馬のプレシャスカフェが推されている。フェブラリーSをレコード勝ちしたメイショウボーラーや、昨年のスプリンターズSを勝ったカルストンライトオを押しのけての支持ということになる。

プレシャスカフェはスピード、スタミナ共に豊富で、レース振りも安定している。前走のシルクロードSも見た目以上の楽勝で、前記2頭の実績を考慮に入れても、このレースを勝つ可能性が高いことは間違いない。

ここで、「前走は見た目以上の楽勝」と書いたが、これには明確な理由がある。決して主観的な見解を述べている訳ではない。

シルクロードSの2枚のレース写真(ゴール直後の写真)を見て欲しい。

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1200→1400→マイルG1は勝てない

今年のフェブラリーSで1番人気が確実視されるのは、前走の根岸Sを7馬身差で圧勝したメイショウボーラーである。芝のG1クラスの馬たちと互角に渡り合った実績からも、競走馬としての能力が上位であることは間違いない。ダートにも適性があることが分かり、体調も申し分ないとくれば、翳りの見えるアドマイヤドンやムラ駆けのタイムパラドックスよりも人気するのは当然のことだろう。

フェブラリーSについての個人的な見解は[G1トーク]に譲るとして、ここではメイショウボーラーの取捨を選択する際にカギになるであろう、ひとつの定石を紹介してみたい。

定石:
「1200m→1400m→マイルのG1」というローテーションの馬は勝てない

距離を少しずつ伸ばしながら、マイルのG1に臨んできたというローテーション。
ホップ・ステップ・ジャンプと段階を踏んできたかに見える、このローテーションのどこがマズイのか?

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