集中連載:「調教のすべて」第14回
次に、全体時計についてはどうだろうか。全体時計の速さは、その調教自体のレベルの高さや厳しさを表すのだろうか?全体時計が速い追い切りを行ってきた馬は、体調も万全で、仕上がりも良好だと判断してよいのだろうか?
美浦の調教横綱と呼ばれていたダイワメジャー(父サンデーサイレンス母スカーレットブーケ)を例にとって考察してみたい。ダイワメジャーの現役最後の年(2007年)、秋シーズンのレース結果及びそのレースに臨むにあたっての最終追い切りの全体時計は以下のとおりである。
毎日王冠
2007/10/03(水) 南W 良 助手 64.0-49.9-36.2-11.9 3 G強
天皇賞秋
2007/10/24(水) 南W 良 助手 66.7-50.8-37.2-11.9 2 強め
マイルCS
2007/11/14(水) 南W 良 助手 61.6-48.8-36.5-12.4 2 仕掛
有馬記念
2007/12/19(水) 南W 良 助手 62.6-49.4-36.3-12.5 2 馬也
休み明けの毎日王冠は、あくまでも叩き台として、ゆったりと仕上げてきた様子が窺われる。最終追い切りもゴール前で強めに追っただけで全体時計(5ハロン)が64秒0という、全体的には8分通りの余裕を持たせた仕上がりであった。レースではハイペースに巻き込まれる形で3着に敗れてしまったが、それでも最後まで渋太く伸びており、次走天皇賞秋の連覇に期待を抱かせる内容であった。
しかし、休み明けをひと叩きした天皇賞秋では、ガラッと変わってくるのかと思いきや、最終追い切りも全体時計(5ハロン)が66秒7という軽めの調整に終始した。おそらくこの時点で、この秋シーズンは4戦することを決めていたのかもしれない。天皇賞秋ではなく、次走のマイルチャンピオンシップをピークに持って来て、余力が残っていれば有馬記念を走って引退というシナリオだったのであろう。また、毎日王冠から200mの距離延長ということを考えて、ダイワメジャーの精神面にゆとりを持たせるために、ビッシリと仕上げなかったという意味もあったに違いない。ご存知のとおり、レースでは最後の直線の勝負どころで致命的な不利を受けてまともに走られなかったが、結果としては9着と惨敗してしまった。
続くマイルチャンピオンシップは、ダイワメジャーにとって適距離であり、負けられない一戦であった。最終追い切りではビシッと追われ、全体時計(5ハロン)が61秒6という猛時計。まさに横綱という迫力満点の追い切りであった。レースでは、前年の走りをトレースするようなレース振りで、スーパーホーネットやスズカフェニックスの追撃を受けて立つ形で快勝した。これでダイワメジャーはマイルCS連覇、そして安田記念を挟んでマイルG1を3連覇となり、あのニホンピロウイナー、タイキシャトルと肩を並べることになった。
マイルチャンピオンシップの余勢を駆って出走した、引退レース有馬記念の最終追い切りでは、全体時計(5ハロン)62秒6を出した。前走のマイルチャンピオンシップには及ばないが、なかなかの好時計である。上り目こそないものの平行線という、勝ち負けになるだけの体調にあったのだろう。レースでは、デムーロ騎手の好騎乗にも助けられつつ、2500mという距離を克服して3着と好走した。これで引退するのが惜しいと思わせるだけの、ダイワメジャーらしい迫力満点の走りを披露した。
以上のように、ダイワメジャーの現役最後の年(2007年)、秋シーズンだけを取ってみれば、いかにも最終追い切りの全体時計の速い・遅いがレースでの結果に直結しているように見える。最終追い切りの全体時計が速い時はレースでも好走して、最終追い切りの全体時計が遅ければレースでは凡走してしまう。ダイワメジャーの体調の良さが、最終追い切りの全体時計に反映されているということである。
しかし、実は、最終追い切りの全体時計がレースでの結果に直結しなかったケースもまた多い。
(次回へ続く→)
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それでは、最後に⑦のプールについて。プールでの調教は時計が出ないため、媒体によっては表示されないこともある。中間の追い切りが数本しかないように見えて、実はプールで調教をしていたということもあるので注意したい。



by Ichiro Usuda





これは余談になるが、馬を歩かせることを常歩(なみあし)というが、常歩は意識して歩くことなので、馬はこれが好きではない。しかし、人に引かれて歩くときは必ずそうするのだと教えておくと、馬は勝手な行動をしなくなり、人間の指示に素直に従うようになる。それによって、人も馬もより安全になるだけではなく、レースに行ってもジョッキーの合図にきちんと応えて走られる馬になる。
by sashiko
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by shinji
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